説明

ヌクレオシド化合物の製造方法

本発明は、式[I]で表される2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物を、アルカリ金属水酸化物を、モル比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.01〜0.5倍量用いた脱アシル化に付すことを特徴とする、式[II]で表されるヌクレオシド化合物の製造方法に関し、本発明によると、副生物の生成を抑制した式[II]のヌクレオシド化合物の製造方法および当該方法を利用したヌクレオシド誘導体の製造方法を提供することができる。また、本発明は、式(1)で表されるヌクレオシド化合物を、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ触媒、および次亜塩素酸塩もしくは次亜臭素酸塩の存在下に、pHを5〜9の範囲に調整しながら酸化すること、更に、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出し、さらに該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、該アルカリ水溶液に酸を加えて該カルボン酸ヌクレオシド化合物を中和晶析することに関し、工業的生産に適した方法で純度の高い特定のカルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩を製造することができる。


(式中の各記号は明細書と同義である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、特定のヌクレオシド化合物およびその誘導体の製造方法に関する。
また、本発明は、カルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩の製造方法、更に詳しくはヌクレオシド化合物を特定の条件下で酸化し、カルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩を製造する方法、および特定の条件下でカルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩を晶析し、該化合物またはその塩の結晶を製造する方法などに関する。
【背景技術】
式[II]:

(式中、Rは、

(式中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す。)で表される基を示す。)
で表されるヌクレオシド化合物は、医薬品の合成中間体として有用である。該ヌクレオシド化合物の製造方法は種々知られている。例えば、リボース骨格の3つのヒドロキシル基を保護した糖化合物を核酸塩基とのカップリング反応に付したり、あるいはヌクレオシド類糖部分の3つのヒドロキシル基を保護した後、種々の反応に付して核酸塩基を修飾することにより、下式:

(式中、Rは前記と同義であり、P、PおよびPは、同一または異なって、独立してヒドロキシル保護基を示す。)
で表されるヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物(以下、保護化合物と略す場合もある。)を得、これを脱保護する方法が一般的である。
例えば、核酸塩基がプリン塩基である保護化合物およびその類似化合物の脱保護反応の具体例として、以下のスキームのような方法が挙げられる。

方法1:氷浴中、乾燥メタノールに溶解した保護化合物に金属ナトリウムを1時間おきに3回加え、撹拌する方法(例えば、ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry)、(米国)、1985年、第28巻、第11号、p.1642)。
方法2:保護化合物をメタノール性アンモニアと室温で反応させる方法(例えば、バーラット ケイ トリベディ(Bharat K Trivedi)等著、「スタディーズ トゥワード シンセシス オブ C2−サブスティチューテッド アデノシンズ:アン エフィシャント シンセシス オブ 2−(フェニルアミノ)アデノシン(STUDIES TOWARD SYNTHESIS OF C2−SUBSTITUTED ADENOSINES:AN EFFICIENT SYNTHESIS OF 2−(PHENYLAMINO)ADENOSINE)」、ヌクレオシドズ アンド ヌクレオチドズ(NUCLEOSIDES & NUCLEOTIDES)、(米国)、マルセル デッカー インコーポレイテッド(Marcel Dekker Inc.)、1988年、第7巻、第3号、p.393−402)。
方法1は、6位塩素原子がメトキシ基で置換された副生物(6位メトキシ体)が生成するという問題があり、方法2においても、アンモニア(NH)が塩素原子の位置で反応して副生物(6位アミノ体)が生成するという問題があった。
一方、保護化合物のプリン環の6位がクロロ基ではなくオキソ基である保護化合物の脱保護反応についても種々報告があり、例えば、メタノール水溶液中、水酸化カリウム水溶液等を、ヒドロキシル基の保護基(例えば、アセチル基など)に対して、当量以上用いた方法(例えば、ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、(米国)、1988年、第53巻、第3号、p.505)などが挙げられる。しかしながら、当該方法を、6−クロロ−2’,3’,5’−ヒドロキシル保護−ヌクレオシド化合物に適応させると、6位(クロロ位)の加水分解反応が起こり、副生物(6位ヒドロキシル体)が生成する。また、上記方法では、水含有機溶媒を用いているため、保護化合物をアルカリ金属水酸化物による脱アセチル化反応に付した場合、脱離した保護基が酸(保護基がアセチル基の場合は酢酸)となり、さらに脱アセチル化に用いるアルカリ金属水酸化物によって中和され、結果として塩が保護化合物に対してほぼ化学量論量副生する。したがって、上記方法では、副生した塩を抽出や洗浄などによって取り除く工程が必要であった。
このため、副反応(例えば、核酸塩基がプリン塩基の場合は6位、ピリミジン塩基の場合は4位のクロロ基における反応など)や塩の生成を抑制し、結果として副生物の生成を抑制することができるヌクレオシド化合物の製造方法の開発が望まれている。
また、下式(6)

で表される2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸に代表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物は、医薬品等の合成中間体として有用な化合物であることが知られている。このようなカルボン酸ヌクレオシド化合物の製造方法としては、例えば、対応するヌクレオシド化合物の5’−ヒドロキシル基を酸化し、5’−カルボキシル基へ誘導する方法が知られている。例えば、特開2000−514801号公報の実施例1では、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシドを4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシベンゾエートの存在下に亜臭素酸ナトリウムを用いて酸化し、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸を得る方法が開示されている。また得られた反応溶液から、抽出、濃縮、減圧乾燥の操作により、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸を固体として単離している。
上記公知方法で用いられている、亜臭素酸ナトリウムは、反応性の高い試薬であり、反応の制御、安全性の観点から工業的に用いるのには必ずしも適当でない。そこで本発明者らは、より穏やかな酸化剤である次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を用いることを考え、検討を行った。
しかしながら、酸化剤として次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を用いた場合、反応溶液のpH値が高くなる傾向にある。本発明者らの検討の結果、反応溶液のpH値が高い状態で酸化反応を行った場合、ヌクレオシド化合物のクロロ基が加水分解され、ヒドロキシル基化される傾向にあることが見出された。特に、市販されているこれら酸化剤は、水溶液の状態でpH12以上の高い塩基性を示し、加水分解の傾向が顕著である。このように酸化反応の間に加水分解されて生じる不純物(ヒドロキシル誘導体)は後の工程で淘汰が困難であり、品質に大きな問題を生じる。
更に、上記特許文献では反応溶液からカルボン酸ヌクレオシド化合物を有機溶媒中に抽出し、これを濃縮乾固してカルボン酸ヌクレオシド化合物の固体を得ている。本発明者らは、より精製効率を上げるべく、このような有機溶媒からカルボン酸ヌクレオシド化合物を晶析することを試みたが、オイル状の目的物が得られるなど該化合物の結晶性が悪く、また上記の加水分解によって生じる不純物の精製効果についてもよい結果が得られないことを見出した。
【発明の開示】
本発明の目的は、(1)副生物の生成を抑制したヌクレオシド化合物の製造方法の提供である。さらに、本発明の目的は、(2)当該ヌクレオシド化合物の製造方法を利用したヌクレオシド誘導体の製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、(3)工業的生産に適した方法でカルボン酸ヌクレオシド化合物又はその塩を製造する方法を提供すること、すなわち、ヌクレオシド化合物の5’−ヒドロキシル基を酸化し、5’−カルボキシル基誘導体であるカルボン酸ヌクレオシド化合物又はその塩を製造するプロセスにおいて、酸化剤として安全性が高く、反応の制御も容易な次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を用いた系で、酸化反応の副反応である加水分解反応を抑制し、効率的にカルボン酸ヌクレオシド化合物を製造する方法の提供、である。また、さらに、本発明の目的は、(4)酸化反応の間に生じた加水分解物を効率的に淘汰することが可能な、カルボン酸ヌクレオシド化合物の結晶の製造方法を提供することである。
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、後記式[I]で表される2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物を、アルカリ金属水酸化物を、モル比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.01〜0.5倍量用いた脱アシル化に付すことにより、副生物の生成を抑制しながらヌクレオシド化合物を製造できることを見出した。
また、本発明者らは、カルボン酸ヌクレオシド化合物の酸化反応を、酸化反応時のpH値を特定の範囲内に調整しながら行うことで、加水分解物の生成が著しく抑制されることを見出した。また本発明者らは更に、反応溶液中のカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、該アルカリ水溶液に酸を添加して中和晶析することにより、酸化反応の間に加水分解で生じる不純物が著しく淘汰された純度の高いカルボン酸ヌクレオシド化合物の結晶が得られることを見出した。
本発明者らはこれらの知見のもと本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下の内容を含むものである。
[1] 式[I]:

(式中、R、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアシル基を示し、Rは、

(式中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す。)で表される基を示す。)
で表される2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物(以下、単に2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物と略す場合もある。)を、アルカリ金属水酸化物を、モル比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.01〜0.5倍量用いた脱アシル化に付すことを特徴とする、式[II]:

(式中、Rは前記と同義である。)
で表されるヌクレオシド化合物(以下、単にヌクレオシド化合物[II]と略す場合もある。)の製造方法。
[2] メタノール、またはメタノールと有機溶媒との混合溶媒中で脱アシル化する、上記[1]の製造方法。
[3] アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである、上記[1]または[2]の製造方法。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法により、式[II]で表されるヌクレオシド化合物を得る工程を含むことを特徴とする、式[III]:

(式中、Rは上記[1]と同義であり、RおよびRは同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアルキル基を示す。)
で表される2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物(以下、単に2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物と略す場合もある。)の製造方法。
[5] 上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法により、式[II]で表されるヌクレオシド化合物を得る工程を含むことを特徴とする、式[IV]:

(式中、Rは上記[1]と同義であり、RおよびRは同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアルキル基を示す。)
で表されるカルボン酸化合物(以下、単にカルボン酸化合物と略す場合もある。)の製造方法。
[6] 式[II]のヌクレオシド化合物を式[III]の2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物に変換後、これを酸化して式[IV]のカルボン酸化合物を得る、上記[5]の製造方法。
[7] 式(1)で表されるヌクレオシド化合物(以下、単にヌクレオシド化合物(1)と略す場合もある。)を、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ触媒、および次亜塩素酸塩もしくは次亜臭素酸塩の存在下に、pHを5〜9の範囲に調整しながら酸化することを特徴とする、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物(以下、単にカルボン酸ヌクレオシド化合物と略す場合もある。)またはその塩の製造方法。

[式中、Rは下式(3)または(4)で表される基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アシルオキシ基、アルキルオキシ基、アラルキルオキシ基もしくはtert−ブチルジメチルシリルオキシ基を表すか、またはRおよびRは一体となって、下式(5)の基を表す。]

[式中、X’は水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を表し、Y’は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアラルキル基を表す。]

[式中、R10およびR11はそれぞれ独立してアルキル基を表す。]
[8] 酸化反応終了後、反応溶液に残留する酸化剤を亜硫酸水素塩で分解する工程を含む上記[7]の製造方法。
[9] 反応溶液中の式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、該アルカリ水溶液に酸を加えて中和晶析し、該カルボン酸ヌクレオシド化合物の結晶を製造する工程を含む上記[7]の製造方法。
[10] 反応溶液中の式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出して中和するか、または該有機溶媒から水中に逆抽出してアルカリ水溶液で中和した後、晶析し、該カルボン酸ヌクレオシド化合物の塩の結晶を製造する工程を含む上記[7]の製造方法。
[11] 式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出し、さらに該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、該アルカリ水溶液に酸を加えて該カルボン酸ヌクレオシド化合物を中和晶析することを特徴とする、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物結晶の製造方法。

[式中、Rは下式(3)または(4)で表される基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アシルオキシ基、アルキルオキシ基、アラルキルオキシ基もしくはtert−ブチルジメチルシリルオキシ基を表すか、またはRおよびRは一体となって、下式(5)で表される基を表す。]

[式中、X’は水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を表し、Y’は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアラルキル基を表す。]

[式中、R10およびR11はそれぞれ独立してアルキル基を表す。]
[12] 式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物が下式(6)で表される2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸である上記[7]〜[11]のいずれかの製造方法。

発明の詳細な説明
以下の反応スキームを参照しながら本発明を詳細に説明する。

式中の各記号は以下に定義する通りである。
本発明におけるR、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアシル基を示す。ここでいうアシル基とは、炭素数が、通常1〜20、好ましくは2〜8のアシル基であり、例えば、アセチル、プロピオニル、ベンゾイルなどが挙げられ、好ましくはアセチルである。
本発明におけるXは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す。
ここでいうハロゲン原子とは、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、中でも塩素原子が好ましい。
ここでいうアルキル基とは、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、好ましい炭素数は1〜10であり、より好ましくは1〜3である。例えば、メチル、エチル、プロピルなどが挙げられ、中でもメチルが好ましい。
ここでいうアラルキル基とは、アルキル部が直鎖状または分岐鎖状であり、好ましい炭素数が1〜5、より好ましくは1であり、アリール部が好ましい炭素数が6〜10、より好ましくは6〜8であるアラルキル基である。好ましい例としては、ベンジルなどが挙げられる。
ここでいうアリール基とは、好ましい炭素数が6〜10、より好ましくは6〜8のアリール基である。好ましい例としてはフェニル基などが挙げられる。
置換されたアミノ基とは、下記置換基などによりモノ置換またはジ置換されたアミノ基のことである。ジ置換アミノ基は、その置換基が同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アシル基(上記と同義であり、炭素数1〜7が好ましく、例えば、アセチル、プロピオニル、ベンゾイルなどが挙げられ、特にアセチルが好ましい。)、アルキル基(上記と同義であり、特にメチル、エチルが好ましい。)、アリール基(上記と同義であり、特にフェニルが好ましい。)、アラルキル基(上記と同義であり、特にベンジルが好ましい。)などが挙げられる。置換されたアミノ基の例示としては、アセチルアミノ、メチルアミノ、エチルアミノ、フェニルアミノ、ベンジルアミノなどが挙げられ、中でもアセチルアミノ、ベンジルアミノが好ましい。
本発明におけるRおよびRは、同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアルキル基を示す。ここでいうアルキル基とは、XおよびYにおけるアルキル基と同一である。
ヌクレオシド化合物[II]の製造方法
本発明におけるヌクレオシド化合物[II]の製造方法は、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物を、アルカリ金属水酸化物を、モル比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.01〜0.5倍量用いた脱アシル化に付すことを特徴とする。具体的には、例えば、溶媒中、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物およびアルカリ金属水酸化物(2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.01〜0.5倍モル)を添加し、撹拌する。
ヌクレオシド化合物[II]の製造に用いる溶媒としては、メタノール含有溶媒(例えば、メタノール、またはメタノールと有機溶媒との混合溶媒など)が挙げられる。ここで、メタノール含有溶媒としては、メタノールが、体積比で、通常10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上含まれる溶媒を用いることができる。メタノール以外に含まれる溶媒としては、有機溶媒であれば特に限定はなく、例えばテトラヒドロフラン、アセトニトリルなどが挙げられる。ヌクレオシド化合物[II]の製造に用いる溶媒としては、特にメタノール単独溶媒が好ましい。メタノール含有溶媒中、相当量の水が含まれる場合、副生物が生成する傾向にあるため、収率の向上などの観点からは水を用いないほうが好ましい。但し、メタノール含有溶媒中、反応に実質的に影響を及ぼさない程度の量であれば水が含まれていてもよい。溶媒の総使用量は、重量比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物1に対して、通常2〜20、好ましくは5〜15である。
アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられ、中でも水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量はモル比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.01〜0.5倍であることが本発明において必須である。アルカリ金属水酸化物の使用量がこの範囲より多くなると副生物(核酸塩基がプリン塩基の場合は6位メトキシ体、ピリミジン塩基の場合は4位メトキシ体)の生成が増大し、少なくなると反応が完結しないこととなる。好ましい使用量は、モル比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.03〜0.4倍である。
ヌクレオシド化合物[II]の製造における温度は、通常−20〜50℃、好ましくは0〜20℃である。
反応終了後、ヌクレオシド化合物[II]の単離精製は常法で行うことができる。例えば、反応終了後、酸(例えば、酢酸など)と有機溶媒(例えば、酢酸エチルなど)とを添加して撹拌し、沈殿物を濾取し、これを乾燥することにより、ヌクレオシド化合物[II]を得ることができる。
2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物の製造方法
本発明における2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物は、本発明におけるヌクレオシド化合物[II]から当業者に公知の方法に従って容易に製造することができる。2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物としては、下記式(V):

(Rは前記と同じ定義を意味する。)
で表されるイソプロピリデン化合物が特に好ましい。例えば、本発明の方法によって得たヌクレオシド化合物[II]を式[V]のイソプロピリデン化合物へ変換するには、常法、例えば、(A)非プロトン性有機溶媒中、酸触媒の存在下、ヌクレオシド化合物[II]を2,2−ジメトキシプロパンと反応させるか、あるいは(B)酸触媒の存在下、アセトンを溶媒および反応試薬として用い、これとヌクレオシド化合物[II]を反応させることにより行うことができる。
上記(A)及び(B)の方法にて用いる酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸など(これらの水和物も含む。)の有機酸が挙げられる。酸触媒の使用量は、ヌクレオシド化合物[II]に対して、モル比で通常0.01〜1倍、好ましくは0.01〜0.5倍である。上記(A)の方法にて用いる非プロトン性有機溶媒としては、例えば、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンなどが挙げられ、その使用量は、重量比で、ヌクレオシド化合物[II]1に対して、通常5〜50、好ましくは8〜20である。
上記(A)の方法にて用いる2,2−ジメトキシプロパンの使用量は、モル比で、ヌクレオシド化合物[II]1に対して、通常1〜5、好ましくは1〜3である。
上記(B)の方法にて用いるアセトンの使用量は、重量比で、ヌクレオシド化合物[II]1に対して、通常5〜50、好ましくは8〜20である。
上記(A)および(B)において、ヌクレオシド化合物[II]のイソプロピリデン化合物への変換は、反応温度が通常0℃〜50℃、好ましくは0℃〜室温で行い、反応は通常0.5〜24時間、好ましくは1〜5時間で終了する。
イソプロピリデン化合物以外の2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物についても、上記イソプロピリデン化合物の製造方法と同様の方法またはそれに準じた方法にて製造することができる。
2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物の単離精製は常法で行えばよく、例えば、アルカリ(例えば、炭酸水素ナトリウム等)水溶液中に反応液を添加後、これを減圧濃縮し、析出物をろ過して水で洗浄後、乾燥する。
カルボン酸化合物の製造方法
本発明におけるカルボン酸化合物は、本発明におけるヌクレオシド化合物[II]から、例えば、本発明における2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物を経て製造することができる。2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物としては、前記式[V]で表されるイソプロピリデン化合物が特に好ましく、カルボン酸化合物としては下記式[VI]:

(Rは前記と同じ定義を意味する。)
で表されるイソプロピリデンカルボン酸化合物が特に好ましい。
2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物からカルボン酸化合物への変換は、2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物を酸化することにより行うことができる。このような方法としては、従来公知の方法、例えば、特表2000−524801、Tetrahedron Letters,vol.37,No.10,1567−1570などに記載の方法、またはそれらに準じた方法などが挙げられる。
これら従来公知の方法よりも純度の高いカルボン酸化合物を製造することができる方法として、2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物を、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ触媒(TEMPO触媒)、および次亜塩素酸塩もしくは次亜臭素酸塩の存在下に、pH5〜9の範囲に調整しながら酸化する方法が挙げられる。
上記反応を行う際に用いることができる反応溶媒としては、水と有機溶媒の混合溶媒、または水層と有機溶媒層が層分離する2層系溶媒を用いるのが好ましい。有機溶媒としては、酸化反応の影響を受けないものであればよく、例えば、水との混合溶媒に用いる場合は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトンなど、2層系溶媒に用いる場合は、クロロホルム、ジクロロメタン、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチルなどを挙げることができる。反応溶媒の使用量は、重量比で、2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物1に対して、通常3〜50であり、好ましくは5〜20である。反応溶媒として、水と有機溶媒との混合溶媒、または2層系溶媒を使用する場合、溶媒の総使用量がこの範囲内に包含されていればよい。
TEMPO触媒としては、TEMPO以外に、TEMPOと同様な酸化触媒機能を発揮するTEMPO類似化合物が挙げられる。TEMPO類似化合物としては、例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシベンゾエートなどを挙げることができる。
TEMPO触媒の使用量は、モル比で、2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物1に対して、通常0.0001〜0.3であり、好ましくは0.005〜0.02である。
次亜塩素酸塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムなどが挙げられる。次亜臭素酸塩としては、例えば、次亜臭素酸ナトリウムなどが挙げられる。次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸ナトリウムは、通常、水溶液の形態で市販されており、次亜塩素酸カルシウムは通常固体状で市販されている。
次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩の使用量は、モル比で、2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物1に対して、通常1.9〜3.0、好ましくは2.0〜2.3である。使用量が少なすぎると反応が不十分となり、原料が不純物として残留する傾向にある。使用量が多すぎる場合、経済的に好ましくなく、また加水分解による不純物が増大する傾向にある。
酸化反応を行う際のpHは5〜9、好ましくは6.5〜8の範囲に調整される。pHが高くなると2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物が分解する傾向にあり、pHが低すぎると酸化反応の反応速度が低下する傾向がある。
酸化反応は、例えば、2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物およびTEMPO触媒が存在する溶媒中に次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を添加して行うことができる。2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物は必ずしも全て溶媒中に溶解している必要はなく、目的物であるカルボン酸化合物が溶媒中に溶解する系であれば、懸濁状態で反応させてもよい。次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩は水溶液として添加するのが好ましいが、例えば、次亜塩素酸カルシウムのように固体で市販されているものは固体のまま添加することもできる。次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を添加するとpHが上昇する傾向にあり、短時間で添加すると反応溶液のpH値が高くなりすぎて加水分解が進行するため、pHを5〜9、好ましくは6.5〜8の範囲に調整しながら、徐々に分割添加するのが好ましい。添加は、通常30分〜5時間、好ましくは2〜4時間の範囲で行うことができる。pHの調整が容易なように、反応溶液に炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウムなどの緩衝剤を溶解させて反応を行ってもよい。このような緩衝剤は最初から反応溶液中に溶解させておいてもよいが、緩衝剤によっては反応の初期段階でpH値が高くなる傾向にあるので、必要により酸などを添加し、pHをできるだけ上記至適範囲内に調整し、加水分解反応の進行をできるだけ抑制するのがよい。尚、目的物であるカルボン酸化合物の生成は反応溶液のpHを下げる方向に働くため、反応初期段階のpH値が若干高い場合でも、次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩の添加を少量ずつ分割して行うことにより、比較的短時間で至適pH内に調整することが可能である。pH調整は、上記のように次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩の添加速度や緩衝剤を調整して添加することによって行う他に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基や、リン酸、塩酸、硫酸などの酸を適宜添加することにより行うことができる。尚、pHを調整しながら酸化を行った場合、加水分解反応を完全に防ぐのは困難である。しかしながら、以下に説明する本発明における晶析方法に従って、目的物の結晶を得ることで、加水分解によって生じた不純物を効率的に除去することができる。
反応終了後、反応溶液中に残留する酸化剤(添加した次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩に由来する酸化能を有する化合物)を、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩を添加して分解するのが好ましい。酸化剤が目的物中に混入すると、該目的物を用いて更に誘導体化合物を製造する際、反応に悪影響を及ぼすなどの問題が生じる可能性がある。亜硫酸水素塩は固体状で添加してもよく、水溶液の状態で添加してもよい。添加量は特に制限はなく、過酸化物試験紙(例えば、メルク社製、メルコクァント(Merckoquant:メルク社商標名))等により酸化剤の分解の進行を確認し、全ての酸化剤が分解されるまで添加するのが好ましい。なお、亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩は塩基性を示すために加水分解反応を引き起こす傾向にあるため、用いることは好ましくない。
反応溶液からカルボン酸化合物を固体として単離する方法として、有機溶媒に抽出後、濃縮乾固による公知方法が挙げられるが、この方法では精製効率が悪く、純度の高い目的物を得ることは困難である。また、有機溶媒を用いて晶析を行う方法ではオイル状の物質が得られるなど、結晶が得られにくく、また加水分解で生じる不純物も十分に淘汰されない。しかしながら、目的物であるカルボン酸化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、得られたアルカリ水溶液に酸を加えて該カルボン酸化合物を中和晶析することにより、安定に結晶を得ることができ、また不純物が著しく淘汰された純度の高いカルボン酸化合物を得ることができる。
原料として用いる2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物は、例えば、Nucleic Acid Chem.(1991),264−268に記載の方法によって製造することができる。例えば、原料の1つである2’,3’,5’−トリアセチル−6−クロロプリンリボシドは、溶媒中、2’,3’,5’−トリアセチルイノシンに塩化チオニルを滴下し、還流撹拌後、常法にて後処理することにより製造することができる。
本発明のカルボン酸化合物は、例えば、特開2000−514801号公報などに記載の方法に従って、または準じることにより、医薬品として有用なアデノシンA1アゴニスト等の化合物に誘導することができる。
また、上記酸化反応は、5’位のみを酸化するため、ヌクレオシド化合物のリボース部分の2’位および3’位のヒドロキシル基が保護されていることが好ましい。以下の反応スキームに示すように、式(1)で表される以下に定義されるヌクレオシド化合物の酸化に上記酸化反応を適用すると、効率よく式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を製造することができ、また、酸化反応の間に生じ得る加水分解反応も抑制することができる。

式中の各記号は以下に定義する通りである。
式(1)で表されるヌクレオシド化合物、および式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物において、Rは下式(3)または(4)の基を表す。

すなわち、式(1)で表されるヌクレオシド化合物は、以下の(1−a)または(1−b)で表されるいずれかの化合物を表し、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物は、以下の(2−a)または(2−b)で表されるいずれかの化合物を表す。

本発明における式中、X’は水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、置換(すなわち、保護)されたアミノ基またはヒドロキシル基を表す。
ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられる。
置換(すなわち、保護)されたアミノ基としては、例えば、炭素数1〜7のアシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、炭素数1〜6のアルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基等)、炭素数7〜11のアラルキルアミノ基(例えば、ベンジルアミノ基)等が挙げられる。
本発明における式中、Y’は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアラルキル基を表す。
ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基等の炭素数1〜6のアルキル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基等の炭素数7〜11のアラルキル基等が挙げられる。
本発明における式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アシルオキシ基、アルキルオキシ基、アラルキルオキシ基またはtert−ブチルジメチルシリルオキシ基を表すか、またはRおよびRは一体となって、下式(5)で表される基を表す。

式(5)中、R10およびR11は、それぞれ独立して、アルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基等の炭素数1〜6のアルキル基等が挙げられる。
アシルオキシ基としては、例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素数1〜7のアシル基が挙げられる。
アルキルオキシ基としては、例えば、メチルオキシ基等の炭素数1〜6のアルキルオキシ基が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基等の炭素数7〜11のアラルキルオキシ基が挙げられる。
10またはR11で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
本発明における式(1)で表されるヌクレオシド化合物は、例えば、ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、1987年、52巻、1344〜1347頁に記載の方法、コレクション オブ チェコスロバック ケミカル コミュニケーションズ(Collection of Czechoslovak Chemical Communications)、2002年、67巻、325〜335頁に記載の方法等、公知の方法に従って製造することができる。
本発明においては、式(1)で表されるヌクレオシド化合物を、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ触媒(TEMPO触媒)、および次亜塩素酸塩もしくは次亜臭素酸塩の存在下に、pHを5〜9の範囲に調整しながら酸化(TEMPO触媒酸化)することにより、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩を得ることができる。
反応溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒、または水層と有機溶媒層が層分離する2層系溶媒を用いるのが好ましい。有機溶媒としては、酸化反応の影響を受けないものであればよく、例えば、水との混合溶媒に用いる場合は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン等の有機溶媒、2層系溶媒に用いる場合は、クロロホルム、ジクロロメタン、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル等)等の有機溶媒を挙げることができる。反応溶媒の使用量は、重量比でヌクレオシド化合物(1)1に対して、通常3〜50であり、好ましくは5〜20である。上記、水と有機溶媒との混合溶媒、または2層系溶媒を使用する場合は、溶媒全体がこの範囲内に包含されていればよい。
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ触媒(TEMPO触媒)としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ(TEMPO)およびTEMPOと同様の酸化触媒機能を発揮するTEMPOの類似化合物が挙げられる。TEMPOの類似化合物としては、例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシベンゾエート等を挙げることができる。
TEMPO触媒の使用量は、モル比でヌクレオシド化合物(1)1に対して、通常0.0001〜0.3であり、好ましくは0.005〜0.02である。
次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。次亜臭素酸塩としては、次亜臭素酸ナトリウム等が挙げられる。次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸ナトリウムは、通常、水溶液の形態で市販されており、次亜塩素酸カルシウムは通常固体状で市販されている。
次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩の使用量は、モル比でヌクレオシド化合物(1)1に対して、通常、1.9〜3.0であり、好ましくは2.0〜2.5、より好ましくは2.0〜2.3である。使用量が少なすぎると反応が不十分となり原料が不純物として残留する傾向にある。使用量が多すぎる場合、経済的に好ましくなく、また加水分解不純物が増大する傾向にある。
酸化反応を行う際のpHは5〜9、好ましくは6.5〜8の範囲に調整される。pHが高くなるとヌクレオシド化合物(1)が分解する傾向にあり、pHが低すぎると酸化反応の反応速度が低下する傾向にある。
酸化反応は、例えば、ヌクレオシド化合物(1)およびTEMPO触媒が存在する溶媒中に次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を添加して行うことができる。ヌクレオシド化合物(1)は必ずしも全て溶媒中に溶解している必要はなく、目的物であるカルボン酸ヌクレオシド化合物が溶媒中に溶解する系であれば、懸濁状態で反応させてもよい。次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩は水溶液として添加するのが好ましいが、例えば、次亜塩素酸カルシウムのように固体で市販されているものは固体のまま添加することもできる。次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を添加するとpHが上昇する傾向にあり、短時間で添加すると反応溶液のpH値が高くなりすぎて加水分解が進行することとなるため、pHを5〜9、好ましくは6.5〜8の範囲に調整しながら、徐々に分割添加するのが好ましい。添加は、通常30分〜5時間、好ましくは2〜4時間の範囲で行うことができる。pHの調整が容易なように、反応溶液に炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム等の緩衝剤を溶解させて反応を行ってもよい。このような緩衝剤は最初から反応溶液中に溶解させておいてもよいが、緩衝剤によっては反応の初期段階でpH値が高くなる傾向にあるので、必要により酸等を添加し、pHをできるだけ上記至適範囲内に調整し、加水分解反応の進行をできるだけ抑制するのがよい。なお、目的物であるカルボン酸ヌクレオシド化合物の生成は反応溶液のpHを下げる方向に働くため、反応初期段階のpH値が若干高い場合でも、次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩の添加を少量ずつ分割添加することにより、比較的短時間で至適pH内に調整することが可能である。pH調整は、上記のように次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩の添加速度や緩衝剤の調整によって行う他に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基や、リン酸、塩酸、硫酸等の酸を適宜添加することによっても行うことができる。なお、pHを調整しながら酸化を行った場合でも、加水分解反応を完全に防ぐのは困難である。しかしながら、以下に説明する本発明における晶析方法に従って目的物の結晶を得ることで、酸化の間に加水分解によって生じた不純物を効率的に除去することができる。
酸化反応終了後は、反応溶液中に残留する酸化剤(添加した次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩に由来する酸化能を有する化合物)を、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩を添加して分解するのが好ましい。酸化剤が目的物中に混入すると、該目的物を用いて更に誘導体化合物を製造する際、反応に悪影響を及ぼす等の問題が生じる可能性がある。亜硫酸水素塩は固体状で添加してもよく、水溶液の状態で添加してもよい。添加量は特に制限はなく、過酸化物試験紙(例えば、メルク社製 メルコクァント(Merckoquant:メルク社商標名))等により酸化剤の分解の進行を確認し、すべての酸化剤が分解されるまで添加するのが好ましい。なお、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩が塩基性を示すために加水分解反応を引き起こす傾向にあるため、用いることは好ましくない。
反応溶液からカルボン酸ヌクレオシド化合物を固体として単離する方法としては、上記の公知方法のように、有機溶媒に抽出後、濃縮乾固により固体を得る方法によることもできるが、精製効率が悪く、純度の高い目的物を得ることは困難である。上述したように、有機溶媒を用いて晶析を行った場合でも、オイル状の物質が得られるなど、結晶が得られ難く、また加水分解で生じる不純物も十分に淘汰されない。しかしながら、目的物であるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、得られたアルカリ水溶液に酸を加えて該カルボン酸ヌクレオシド化合物を中和晶析することにより、安定にカルボン酸ヌクレオシド化合物の結晶を得ることができ、また不純物が著しく淘汰された純度の高いカルボン酸ヌクレオシド化合物を得ることができる。なおここで、例えば、目的物であるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出して中和するか、または該有機溶媒から水中に逆抽出してアルカリ水溶液で中和して、晶析を行うことにより、カルボン酸ヌクレオシド化合物の塩の結晶を得ることも可能である。カルボン酸ヌクレオシド化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等を挙げることができる。
カルボン酸ヌクレオシド化合物の晶析を酸化反応に引き続き行う場合を例にとり説明する。不純物を含むカルボン酸ヌクレオシド化合物の固体を精製のため再結晶する場合にも、これに準じて行うことができる。
まず反応溶液中に存在するカルボン酸クロロリボシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出する。反応溶液にリン酸、塩酸、硫酸等の酸を添加し、pHを1.5〜3.5、好ましくは2.0〜3.0の範囲に調整し、酸性とする。水と有機溶媒とが分層する2層系溶媒で行った場合、水層側に酸を添加し、上記のpHの範囲に調整する。抽出に用いる有機溶媒としては、酢酸エチル、クロロホルム、tert−ブチルメチルエーテル等が挙げられ、特に酢酸エチルが好ましい。水溶性の高い有機溶媒を反応溶液に用いていた場合、上記の有機溶媒を反応溶液に添加して抽出操作を行うのが好ましい。その場合、有機溶媒の添加はpH調整の後でも前でもよい。pH調整後、常法に従って抽出操作を行い、目的物が抽出された有機層を分離する。抽出する際の温度は特に制限はないが、通常10〜40℃の範囲で行うことができる。抽出に用いる有機溶媒の量は、重量比で目的物1に対し、通常5〜50、好ましくは8〜20である。抽出は必要により複数回行ってもよい。
次に、目的物が抽出された有機溶媒からアルカリ水溶液中に目的物を逆抽出する。水に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩基を添加し、pHを5〜12、好ましくは6〜8の範囲に調整してアルカリ水溶液とする。上記有機溶媒と該アルカリ水溶液により常法に従って抽出操作を行い、目的物を水層(アルカリ水溶液層)に逆抽出後、目的物が抽出された水層を分離する。抽出する際の温度は特に制限はないが、通常0〜40℃の範囲で行うことができる。抽出に用いる水の量は、重量比で目的物1に対し5〜50、好ましくは8〜20である。抽出は必要により複数回行ってもよい。
次に、目的物を抽出したアルカリ水溶液に酸を添加し、中和晶析を行う。なおアルカリ水溶液中にメタノール、エタノール、アセトン等の水と混和する有機溶媒を適宜加えて中和晶析を行ってもよい。この場合、有機溶媒の添加量は体積比でアルカリ水溶液1に対して通常1〜50の範囲とすることができる。中和晶析に用いる酸としては、リン酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。中和晶析を行うpHは通常1.5〜3.5、好ましくは2.0〜3.0とすることができる。晶析温度は通常0〜80℃、好ましくは10〜40℃とすることができる。晶析は通常攪拌下に行われる。晶析により得られたスラリーは、濾過、遠心分離等の常法に従って固液分離し、結晶を単離することができる。必要により、水、アルコール等で結晶を洗浄してもよく、常法に従って乾燥工程を導入することもできる。このようにして、得られた結晶は純度の高い結晶となり、本発明の方法により淘汰が困難である加水分解物も効率的に除去することができる。
式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物のうち、アデノシン受容体アゴニストの合成中間体としての有用性および脱保護の容易さを考慮すると、下式(6)で表される2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸が好ましい。

【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明する。もちろん本実施例は本発明を何ら限定するものではない。
調製例1
2’,3’,5’−トリアセチル−6−クロロプリンリボシド
2’,3’,5’−トリアセチルイノシン(20g)をクロロホルム(160ml)及びN,N−ジメチルホルムアミド(2.7g)中に加え、塩化チオニル(19.9g)を滴下し、還流下にて3時間撹拌した。氷浴で冷却しながら水(200ml)を加えて1時間撹拌した後、分液した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮乾固して、2’,3’,5’−トリアセチル−6−クロロプリンリボシド(24.4g)を油状物として得た。
H−NMR(CDCl,ppm)δ:2.10(3H,s),2.12(3H,s),2.17(3H,s),4.37−4.51(3H,m),5.64−5.67(1H,m),5.94−5.97(1H,m),6.24−6.25(1H,d,J=5.2Hz),8.30(1H,s),8.79(1H,s).
【実施例1】
6−クロロプリンリボシド
2’,3’,5’−トリアセチル−6−クロロプリンリボシド(油状物、6.0g)をメタノール(30ml)に溶解し、5℃に冷却し、1N水酸化ナトリウム−メタノール溶液(0.6ml)を添加し、5時間撹拌した。反応液に酢酸(0.04ml)と酢酸エチル(30ml)を加えて氷冷下で1時間撹拌した。析出物を濾取し、酢酸エチルで洗浄し、40℃で減圧乾燥することにより、標題化合物(3.08g)を得た。
H−NMR(DMSO−d,ppm)δ:3.59−3.74(2H,m),4.00−4.01(1H,s),4.19−4.21(1H,m),4.59−4.62(1H,m),5.10−5.12(1H,m),5.27(1H,d,J=5.1Hz),5.59(1H,d,J=5.8Hz),6.06(1H,d,J=5.3Hz),8.83(1H,s),9.06(1H,s).
【実施例2】
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド
6−クロロプリンリボシド(10.0g)をアセトン(70ml)中に懸濁させ、2,2−ジメトキシプロパン(7.3g)とp−トルエンスルホン酸一水和物(3.3g)を加えて10℃にて3時間撹拌した。この反応液を炭酸水素ナトリウム(1.8g)と水(70ml)の溶液中に添加した。その後、減圧濃縮し、20℃で3時間撹拌後、析出物を濾過して水で洗浄し、40℃で減圧下にて一晩乾燥させ、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド(9.7g)を得た。
H−NMR(DMSO−d,ppm)δ:1.34(3H,s),1.55(3H,s),3.50−3.58(2H,m),4.30−4.32(1H,m),4.97−4.99(1H,m),5.09−5.11(1H,s),5.41−5.43(1H,s),6.28(1H,d,J=2.4Hz),8.82(1H,s),8.87(1H,s).
【実施例3】
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド(605g,1.085mol)をアセトニトリル(3630ml)および水(1025ml)の混合溶媒中に加え、炭酸水素ナトリウム(106g)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ(TEMPO,5.8g)を添加した。5℃で撹拌しながら、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度11%,3034g)を3.4時間かけて滴下し、さらに、1時間撹拌した。反応開始直後のpHは9.5であったが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下後、10分以内にpH9以下に低下し、その後pH7〜8の間に調整され、反応中、このpH値が維持された。反応終了後、20%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(1650g)を加え、1時間撹拌した。この際、過酸化物試験紙(メルク社製、メルコクァント(メルク社商標名))により酸化剤が完全に分解されたのを確認した。HPLCで反応溶液中の不純物含量を確認したところ、3%であった。次に、反応溶液に酢酸エチル(4880ml)を加え、水層を6N塩酸でpH2.8に調整し、25℃で抽出操作を行った。有機溶媒層を分層後、残った水層に酢酸エチル(1120ml)を加え、再度抽出操作を行った。有機溶媒層を分層し、先に得られた有機溶媒層と合わせた後、該有機溶媒層に水(5064ml)を加え、水層を水酸化ナトリウム水溶液でpH6.7に調整した後、25℃で逆抽出操作を行った。目的物が抽出された水層を分層し、該水層に6N塩酸を加えてpH2.8に調整し、30℃で中和晶析を行った。約17時間撹拌しながら、晶析操作を行った後、スラリーを濾過し、分離された結晶を水で洗浄して、50℃減圧下にて一晩乾燥させ、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸の結晶(493g,1.45mol)を得た。
H−NMR(DMSO−d,ppm)δ:1.37(3H,s),1.53(3H,s),4.79(1H,d,J=1.6Hz),5.55(1H,dd,J=1.6,5.9Hz),5.61(1H,d,J=5.9Hz),6.50(1H,s),8.76(1H,s),8.83(1H,s).
参考例1
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド
6−クロロプリンリボシド640g(2.23mol)をアセトン(5120ml)中に懸濁させ、ジメトキシプロパン(494g)とp−トルエンスルホン酸一水和物(212g)を加えて17〜23℃にて5時間攪拌した。この反応溶液を炭酸水素ナトリウム(99g)と水(4480ml)の水溶液中に添加した。その後、該水溶液を減圧濃縮し、60℃で2時間攪拌し、更に室温で約17時間攪拌した。得られたスラリーを濾過し、分離された結晶を水で洗浄して2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシドの結晶612g(1.87mol)を得た。
【実施例4】
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド605g(1.85mol)をアセトニトリル(3630ml)および水(3025ml)の混合溶媒中に加え、炭酸水素ナトリウム(106g)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ(TEMPO)(5.8g、0.037mol)を添加した。5℃で攪拌しながら次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度11%)(3034g、4.25mol)を3.4時間かけて滴下し、更に1時間攪拌した。反応開始直後のpHは9.5であったが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を適下後、10分以内にpH9以下に低下し、その後pH7〜8の間に調整され、反応中このpH値が維持された。反応終了後、20%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(1650g)を加え、1時間攪拌した。この際、過酸化物試験紙(メルク社製 メルコクァント(メルク社商標名))により酸化剤が完全に分解されたのを確認した。HPLCで反応溶液中の不純物含量を確認したところ、3%であった(反応収率は95%)。次に、反応溶液に酢酸エチル(4880ml)を加え、水層を6N塩酸でpH2.8に調整し、25℃で抽出操作を行った。有機溶媒層を分層後、残った水層に酢酸エチルを1120ml加え、再度抽出操作を行った。有機溶媒層を分層し、先に得られた有機溶媒層と合わせた後、該有機溶媒層に水(5064ml)を加え、水層を水酸化ナトリウム水溶液でpH6.7に調整した後、25℃で逆抽出操作を行った。目的物が抽出された水層を分層し、該水層に6N塩酸を加えてpH2.8に調整し、30℃で中和晶析を行った。約17時間攪拌しながら晶析操作を行った後、スラリーを濾過し、分離された結晶を水で洗浄して、50℃減圧下にて一晩乾燥させ、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸の結晶を493g(1.45mol)で得た。HPLCで結晶中の不純物含量を確認したところ、0.1%であった。
【実施例5】
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド0.5g(1.53mmol)をアセトニトリル(3.5ml)および水(3ml)中に懸濁し、リン酸二水素ナトリウム(0.4g)を加え、pH7に調整した。2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ(TEMPO)(8mg、0.05mmol)を添加した。5℃で攪拌しながら次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度111%)(2.86g、3.87mmol)を60分かけて滴下し、更に1時間攪拌した。反応中、反応溶液のpHは7.0〜7.5に維持された。反応溶液をHPLCで分析したところ、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸が収率92%で生成し、不純物含量は2%であった。
【実施例6】
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド0.6g(1.8mmol)をアセトニトリル(3.5ml)および水(3ml)中に懸濁し、炭酸水素ナトリウム(0.2g)、テトラメチルピリジルオキシ(TEMPO)(8mg、0.05mmol)を加えた。5℃で攪拌しながら60%次亜塩素酸カルシウム(0.57g、4.39mmol)を1時間かけて4回に分けて分割添加し、更に1時間攪拌した。反応開始直後のpHは9.5であり、次亜塩素酸カルシウムを添加後約10分程度でpH7〜8の間に調整され、その後このpH値が維持された。
反応溶液をHPLCで分析したところ、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸が収率91%で生成し、不純物含量は3%であった。
【実施例7】
2’,3’−イソプロピリデン−5’−カルボン酸−6−クロロプリンリボシド−5’−酢酸ナトリウム塩
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド6.05g(18.5mmol)をアセトニトリル(36ml)および水(21ml)中に加え、炭酸水素ナトリウム(0.4g)、テトラメチルピリジルオキシ(TEMPO)(0.058g、0.37mmol)を添加し、5℃で攪拌させた。次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度11%)(30.4g、41.1mmol)を3時間かけて添加し、その間、20%炭酸水素ナトリウム水溶液を添加してpHを6.5〜7.5に保った。更に、終夜攪拌し、pHは6.5〜7.5の間に維持された。続いて20%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5.1g)を加え、1時間攪拌した。この際、過酸化物試験紙(メルク社製 メルコクァント(メルク社商標名))により酸化剤が完全に分解されたのを確認した。HPLCで反応溶液中の不純物含量を確認したところ、1.8%であった(反応収率97%)。反応溶液に酢酸エチル(49ml)を加え、6N塩酸にてpH2.7に調整した。分層後、水層に酢酸エチル(11ml)加え抽出し、合わせた有機層に水(30ml)を加えて水酸化ナトリウム水溶液でpH6.7に調整した後、分層し水層を濃縮してトルエン(30ml)を加えて一晩攪拌した。析出物を濾過し、トルエンで洗浄し、50℃、減圧下にて一晩乾燥させ、2’,3’−イソプロピリデン−5’−カルボン酸−6−クロロプリンリボシド−5’−酢酸ナトリウム塩を6.5g(15.7mmol)得た。HPLCで結晶中の不純物含量を確認したところ、1.4%であった。
H−NMR(DMSO−d)δ(ppm):1.32(3H,s),1.54(3H,s),4.43(1H,s),5.08(1H,d,J=5.9Hz),5.18(1H,d,J=5.9Hz),6.30(1H,s),8.77(1H,s),9.51(1H,s).
比較例1
2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド0.5g(1.5mmol)をアセトニトリル(3.5ml)および水(3ml)中に懸濁し、炭酸水素ナトリウム(0.35g)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ(TEMPO)(8mg、0.05mmol)を添加した。5℃で攪拌しながら次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度11%)(2.86g)を10分かけて滴下し、更に1時間攪拌した。反応中、反応溶液のpHは8.0から12.0の間であった。反応溶液をHPLCで分析したところ、2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸が収率85%で生成し、不純物含量は9%であった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、副生物の生成を抑制し、ヌクレオシド化合物[II]を製造することができる。したがって、当該ヌクレオシド化合物[II]を利用してヌクレオシド誘導体(2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物[III]、カルボン酸化合物[IV])を製造することもできる。
また、本発明によれば、工業的生産に適した方法で前記式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩を製造することができる。すなわち、本発明によれば、前記式(1)で表されるヌクレオシド化合物の5’−ヒドロキシル基を酸化し、5’−カルボキシル基誘導体である式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を製造するプロセスにおいて、酸化剤として安全性が高く、反応の制御も容易な次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩を用いることができ、更に、副反応である加水分解反応を著しく抑制することができる。また、生じた加水分解物についても効率的に淘汰することができ、純度の高い、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩の結晶を工業的生産に適した方法で製造することができる。
本願は日本で出願された特願2003−010373、特願2003−122614および特願2003−169534を基礎としており、その内容は本明細書中に全て包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]:

(式中、R、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアシル基を示し、Rは、

(式中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を示し、Yは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す。)で表される基を示す。)
で表される2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物を、アルカリ金属水酸化物を、モル比で、2’,3’,5’−トリアシルオキシヌクレオシド化合物の0.01〜0.5倍量用いた脱アシル化に付すことを特徴とする、
式[II]:

(式中、Rは前記と同義である。)
で表されるヌクレオシド化合物の製造方法。
【請求項2】
メタノール、またはメタノールと有機溶媒との混合溶媒中で脱アシル化する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により、式[II]で表されるヌクレオシド化合物を得る工程を含むことを特徴とする、式[III]:

(式中、Rは請求項1と同義であり、RおよびRは同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアルキル基を示す。)
で表される2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により、式[II]で表されるヌクレオシド化合物を得る工程を含むことを特徴とする、式[IV]:

(式中、Rは請求項1と同義であり、RおよびRは同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアルキル基を示す。)
で表されるカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項6】
式[II]のヌクレオシド化合物を式[III]の2’,3’−ヒドロキシル保護ヌクレオシド化合物に変換後、これを酸化して式[IV]のカルボン酸化合物を得る、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
式(1)で表されるヌクレオシド化合物を、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ触媒、および次亜塩素酸塩もしくは次亜臭素酸塩の存在下に、pHを5〜9の範囲に調整しながら酸化することを特徴とする、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物またはその塩の製造方法。

[式中、Rは下式(3)または(4)で表される基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アシルオキシ基、アルキルオキシ基、アラルキルオキシ基もしくはtert−ブチルジメチルシリルオキシ基を表すか、またはRおよびRは一体となって、下式(5)の基を表す。]

[式中、X’は水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を表し、Y’は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアラルキル基を表す。]

[式中、R10およびR11はそれぞれ独立してアルキル基を表す。]
【請求項8】
酸化反応終了後、反応溶液に残留する酸化剤を亜硫酸水素塩で分解する工程を含む請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
反応溶液中の式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、該アルカリ水溶液に酸を加えて中和晶析し、該カルボン酸ヌクレオシド化合物の結晶を製造する工程を含む請求項7記載の製造方法。
【請求項10】
反応溶液中の式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出した後、該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出して中和するか、または該有機溶媒から水中に逆抽出してアルカリ水溶液で中和した後、晶析し、該カルボン酸ヌクレオシド化合物の塩の結晶を製造する工程を含む請求項7記載の製造方法。
【請求項11】
式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物を酸性条件下で有機溶媒中に抽出し、さらに該有機溶媒からアルカリ水溶液中に逆抽出し、該アルカリ水溶液に酸を加えて該カルボン酸ヌクレオシド化合物を中和晶析することを特徴とする、式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物結晶の製造方法。

[式中、Rは下式(3)または(4)で表される基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アシルオキシ基、アルキルオキシ基、アラルキルオキシ基もしくはtert−ブチルジメチルシリルオキシ基を表すか、またはRおよびRは一体となって、下式(5)で表される基を表す。]

[式中、X’は水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、置換されたアミノ基またはヒドロキシル基を表し、Y’は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアラルキル基を表す。]

[式中、R10およびR11はそれぞれ独立してアルキル基を表す。]
【請求項12】
式(2)で表されるカルボン酸ヌクレオシド化合物が下式(6)で表される2’,3’−イソプロピリデン−6−クロロプリンリボシド−5’−カルボン酸である請求項7〜11のいずれかに記載の製造方法。


【国際公開番号】WO2004/065403
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508024(P2005−508024)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000048
【国際出願日】平成16年1月7日(2004.1.7)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】