説明

ネットワーク機器および通信モジュール

【課題】ネットワーク機器に含まれるパルストランスに進入するノイズを低コストで効果的に抑制可能にするための構成を提供する。
【解決手段】パルストランス12Aは、信号を伝送するための回路基板20において、回路基板20の信号を伝送するための経路に設けられる。シールド部材15は、ノイズ用配線パターン16を通るノイズ電流によって生じたノイズがパルストランス12Aに進入することを防止するために、回路基板20に実装される。シールド部材15は、ノイズ電流の流れる方向に沿う軸Aを中心軸とする同心円30と交わる、少なくとも1つのパルストランスの部分(上面26および側面27)の表面部分を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネットワーク機器に関し、特に、ネットワーク機器および通信モジュールに用いられるパルストランスのノイズ対策のための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
LAN(Local Area Network)に代表されるネットワークシステムは、ハブ(HUB)などの各種のネットワーク機器によって構築される。このようなネットワーク機器においては、通信の信頼性のためにノイズ対策が要求される。
【0003】
たとえば特許文献1(特開平9−116510号公報)は、形状の小型化およびクロストークの低減を目的としたインターフェイスモジュールを開示する。このインターフェイスモジュールは、受信部および送信部を備える。受信部および送信部の各々は、ローパスフィルタと、パルストランスと、チョークトランスとで構成される。ローパスフィルタは高調波成分(ノーマルモードのノイズ)を除去するためのものであり、チョークトランスはコモンモードノイズを除去するためのものである。さらに、受信部および送信部の間にはシールド板が配置される。
【0004】
上記のネットワーク機器は、一般にパルストランスを内蔵している。たとえば特許文献2(特開昭61−129806号公報)は、パルストランスでは抑制できない輻射ノイズをシールドによって抑制することを目的としたパルストランスの構造を開示する。このパルストランスは、所定の間隔で電気的に絶縁されて互いに対向するように設けられた第1および第2のシールド板と、該シールド板の所定位置にこれを貫通するように配された所定形状のコア部材と、該コア部材の対向する部分に上記第1および第2のシールド板側にそれぞれ位置するように巻回された複数個の巻線と、上記第2のシールド板の部分を包囲するように設けられたシールド部材とを備える。上記第1のシールド板は、機器のケースに接続され、上記第2のシールド板は、上記巻線の一方に内部導体が接続された伝送ケーブルの外部導体に、上記シールド部材を介して接続される。信号源にはノイズが含まれているので、パルストランスをシールドすることによってケーブルからのノイズ輻射が抑制される。
【0005】
また、たとえば特許文献3(特開2002−270430号公報)は、パルストランスの構造を開示する。特許文献3によれば、円環状の鉄心の中心に直線状導体を貫いて一次巻線を構成する。その直線状導体の周囲に複数の静電遮蔽導体が配置される。複数の静電遮蔽導体を2つの群に分けるとともに、一方の群から接地への引き出し配線を、他方の群から接地への引き出し配線とは逆向きに配置する。なお、特許文献3に開示されたパルストランスは、高電圧パルス発生器等に用いられる直流高圧スイッチのゲートを駆動するための用途に用いられる。
【0006】
また、ノイズ対策の別の例として、たとえば特許文献4(特開2004−356070号公報)は、放電灯のノイズ対策のための構造を開示する。具体的には、放電灯ソケットの一部がシールドカバーによって覆われる。
【0007】
また、たとえば特許文献5(特開昭63−250199号公報)は、トランスが実装された回路基板におけるノイズ対策の方式を開示する。具体的には、ノイズ源となるトランスの周辺部に対応する基板表面の領域に、1回転以上の短絡又は低抵抗系ループを描くパターンが形成される。これによりリーケージインダクタンスがダンピングされるので、ノイズを軽減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−116510号公報
【特許文献2】特開昭61−129806号公報
【特許文献3】特開2002−270430号公報
【特許文献4】特開2004−356070号公報
【特許文献5】特開昭63−250199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来の技術によれば、ノイズを遮蔽するための方法としては、たとえば回路基板全体をシールド板により覆う方法、あるいは、コモンモードチョークコイル、トランスあるいはコンデンサなどといった電子部品による方法などがある。しかし、回路全体をシールド板で覆う方法の場合は、大面積のシールド板が必要となる。このためにシールド板のコストが高くなる。さらに、シールド板で回路基板全体を覆う方法は、回路基板の内部にノイズ源が存在する場合、あるいは、回路にノイズが一旦進入した場合などにおいては、ノイズ防止の効果を発揮することができない。一方、シールド板を用いずにコモンモードチョークコイル、トランスあるいはコンデンサなどの電子部品のみによってノイズ対策を行なった場合には、ノイズ耐量を大きくすることが難しい。
【0010】
また、パルストランスの製造上の理由によって、パルストランスごとにノイズ特性がばらつく可能性がある。たとえばコアに導線を巻く際に生じる巻線の形状の違い、あるいはケース(パッケージ)にパルストランスを収納する際に生じるコアの向きの違いなどによって、ノイズ特性が相違する可能性がある。上記の特許文献には、このようなノイズ特性の違いが生じる可能性は何ら開示されていない。
【0011】
さらに、近年では、スイッチングハブなどといったLANケーブルに接続されるネットワーク機器は、当該機器に接続されたLANケーブルが、ストレートケーブルおよびクロスケーブルのいずれであるかを自動的に認識する機能(AutoMDI/MDI−Xと呼ばれる)を有している。このタイプの機器では、接続されるLANケーブルによって、送信回路と受信回路とが相互に入れ替わる。このように機器に接続されたLANケーブルの種類によって送信回路と受信回路とが相互に入れ替わる構成では、信号の伝送方向も入れ替わる。電子部品のみによるノイズ対策は、多くの場合、信号の伝送方向が固定されていることを前提としているので、ノイズ対策が不十分となる可能性がある。
【0012】
このように、従来の技術によれば、ネットワーク機器または通信モジュールに用いられるパルストランスに進入するノイズを低コストで、かつ効果的に抑制することが難しいという課題がある。
【0013】
本発明の目的は、ネットワーク機器に含まれるパルストランスに進入するノイズを低コストで効果的に抑制可能にするための構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ある局面では、通信ネットワーク上に設けられるとともに通信ケーブルを介して信号を伝送するネットワーク機器であって、信号を伝送するための回路基板と、回路基板の信号を伝送するための経路に設けられた、少なくとも1つのパルストランスと、ノイズ電流によって生じたノイズが少なくとも1つのパルストランスに進入することを防止するために、少なくとも1つのパルストランスに対応して設けられたシールド部材とを備える。シールド部材は、ノイズ電流の流れる方向に沿う軸を中心軸とする同心円と交わる、少なくとも1つのパルストランスの表面部分を覆う。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つのパルストランスは、通信ケーブルを介してネットワーク機器により受信された信号を通過させるための第1のパルストランスと、ネットワーク機器から通信ケーブルへ送信される信号を通過させるための第2のパルストランスとを含む。
【0016】
好ましくは、回路基板は、ネットワーク機器に進入したノイズ電流を通すための配線パターンを有する。第1および第2のパルストランスは、回路基板に実装されたパッケージの内部に収容される。シールド部材は、パッケージの上面と、配線パターンに対向するパッケージの側面とを覆う。
【0017】
好ましくは、シールド部材は、固定された電位を有するノードに電気的に接続される。
好ましくは、シールド部材は、電気的に浮遊された状態で回路基板に実装される。
【0018】
本発明は、他の局面では、通信ケーブルを介して信号を伝送する通信モジュールであって、信号を伝送するための回路基板と、回路基板に実装されるとともに信号を伝送するための経路に設けられた、少なくとも1つのパルストランスと、ノイズ電流によって生じたノイズが少なくとも1つのパルストランスに進入することを防止するために、少なくとも1つのパルストランスに対応して設けられたシールド部材とを備える。シールド部材は、ノイズ電流の流れる方向に沿う軸を中心軸とする同心円と交わる、少なくとも1つのパルストランスの表面部分を覆う。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、パルストランスに進入するノイズを低コストで効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るネットワーク機器を含むネットワークシステムの1つの構成例を示した図である。
【図2】図1に示したネットワーク機器の主要部の機能ブロック図である。
【図3】図2に示したパルストランス12A,12Bを説明するための回路図である。
【図4】パルストランスおよびシールド部材が実装された回路基板の模式図である。
【図5】図4に示したパルストランス12Aの内部のコアの配置の一例を説明した図である。
【図6】シールド部材の配置を説明するための模式図である。
【図7】シールド部材の配置の他の形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係るネットワーク機器を含むネットワークシステムの1つの構成例を示した図である。図1を参照して、ネットワークシステム100は、工場において図示しない各種の機械装置を駆動および制御するためのシステムとして用いられる。
【0023】
この実施の形態では、ネットワークシステム100は、産業用のEthernet(登録商標)プロトコルに準拠したシステムとして構築される。ネットワークシステム100は、コントローラ1と、ネットワーク機器2.1,2.2と、入出力機器3.1〜3.nと、サーボドライバ4.1,4.2と、サーボモータ5とを備える。
【0024】
ネットワーク機器2.1,2.2の各々は、たとえばリモートI/Oである。ネットワーク機器2.1,2.2の各々には、コントローラ1によって制御される入出力機器(たとえば、センサ、アクチュエータなど)が接続される。たとえばネットワーク機器2.1には、入出力機器3.1,3.2,・・・,3.nが接続される。なお、ネットワーク機器2.1,2.2の各々に接続される入出力機器の台数は特に限定されるものではない。また、サーボドライバ4.1,4.2の各々には、サーボモータ5が接続される。
【0025】
コントローラ1、ネットワーク機器2.1,2.2およびサーボドライバ4.1,4.2は、通信ケーブルによってデイジーチェーン接続される。このシステムにおいて、コントローラ1はマスターであり、他の機器はスレーブである。マスターとスレーブ間の伝送効率向上のため、上記プロトコルでは、一筆書きの様にデータフレームを流す送受信方式を採用している。すなわち、コントローラ1から送信されたデータフレームは、ネットワーク機器2.1,2.2およびサーボドライバ4.1,4.2をこの順に流れるとともに、サーボドライバ4.2からサーボドライバ4.1、ネットワーク機器2.2,2.1の順に流れてコントローラ1に戻る。
【0026】
スレーブであるネットワーク機器2.1,2.2およびサーボドライバ4.1,4.2の各々は、フレームの通過時に自分宛のデータを読み込んだりあるいはデータを書き込んだりして、次のスレーブにフレームデータを転送する。これにより、高速にフレームを通過させる仕組みを構築できる。高速にデータを循環することによって遅延を最小限とすることができる。さらに、上記スレーブ(ネットワーク機器2.1,2.2およびサーボドライバ4.1,4.2)の各々は、センサ等の入出力機器およびサーボドライバに対するデータ、指令などの入出力タイミングを同期させるための機能を有する。これにより複数のサーボモータを同期運転させることが可能となる。
【0027】
このような形態のネットワークにおいて、各種の理由により、通信ケーブルを伝送する信号がノイズの影響を受ける可能性がある。フレームデータはその信号を介して伝送される。したがって、あるネットワーク機器に、ノイズの影響を受けた信号が入力した場合、そのネットワーク機器では、自分宛の正常なデータを受信できないなどといった、データ受信が失敗する現象が生じる可能性がある。
【0028】
しかしながら、本発明の実施の形態に係るネットワークでは、高速にデータを循環する仕組みを採用している。したがって、データ受信に失敗したスレーブが、当該データの再送をマスターに要求した場合、伝送の大幅な遅延が発生する可能性がある。このような場合には、センサ等の入出力機器およびサーボドライバの動作のタイミングを揃えることが難しくなる。
【0029】
スレーブが自己宛のデータの受信に失敗した場合の他の対策として、次に送られたフレームから自己宛のデータを受信するといった方法も考えられる。しかし、フレームに含まれるデータは入出力機器あるいはサーボドライバの制御に関するデータであるので、一旦データが破棄されると、入出力機器およびサーボドライバの動作のタイミングを揃えることが難しくなる。
【0030】
本発明の実施の形態によれば、上記のように、データの再送が許されず、したがって機器へのノイズ進入および機器内部でのノイズの発生を防止することが要求される環境にも好適に使用可能なネットワーク機器を実現できる。本発明の実施の形態に係るネットワーク機器について、以下詳細に説明する。
【0031】
図2は、図1に示したネットワーク機器の主要部の機能ブロック図である。図2を参照して、ネットワーク機器2は、図1に示したネットワーク機器2.1〜2.3の各々に対応する。ネットワーク機器2は、コネクタ11A,11Bと、パルストランス12A,12Bと、PHYデバイス13A,13Bと、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)14とを備える。
【0032】
コネクタ11A,11Bには、ケーブルC1およびC2がそれぞれ接続される。上記のように、本発明の実施の形態に係るシステムでは、マスター(コントローラ1)および複数のスレーブ(ネットワーク機器2.1,2.2およびサーボドライバ4.1,4.2)の間でデータが循環される。このため、コネクタ11A,11Bの各々では受信データの入力および送信データの出力が行なわれる。すなわち、パルストランス12A,12Bの各々では、受信時および送信時において、データ(信号)の伝送方向が切り換わる。
【0033】
図3は、図2に示したパルストランス12A,12Bを説明するための回路図である。図3を参照して、ネットワーク機器2は、筐体10および筐体10の内部に収容された通信モジュールMを備える。通信モジュールMは、回路基板20を備えるとともに、その回路基板20に実装されるコネクタ11A,11Bと、パルストランス12A,12Bと、PHYデバイス13A,13Bと、ASIC14と(図2参照)を備える。ただし、図3では、上記の通信モジュールMの構成要素のうちのパルストランス12Aを示す。
【0034】
パルストランス12Aは、複数のトランスをモジュールとして一体化したものである。具体的には、パルストランス12Aは、トランス21,22およびコモンモードチョークコイル23,24を備える。トランス21,22およびコモンモードチョークコイル23,24の各々は、磁性体のコアおよび当該コアに巻回される2つの巻線を備える。なお、パルストランス12A,12Bの構成は互いに同じである。このためパルストランス12Bの構成に関する詳細な説明は以後繰り返さない。
【0035】
トランス21,22はパルストランスとして機能する。トランス21およびコモンモードチョークコイル23は、ネットワーク機器2がケーブルを介して信号を受信するための受信経路に設けられる。トランス22およびコモンモードチョークコイル24は、ネットワーク機器2から信号をケーブルへと送信するための送信経路に設けられる。ただし、本発明の実施の形態に係るネットワーク機器においては、上記のように受信経路および送信経路が固定されるものと限定されず、たとえば、AutoMDI/MDI−X機能を備えていてもよい。すなわち、ネットワーク機器2は接続されるLANケーブルの種類によって、送信経路と受信経路とが相互に入れ替わる構成を有していてもよい。
【0036】
回路基板20には、上記の構成要素に加えて各種の配線パターンが形成される。具体的には、ケーブルを通じてネットワーク機器2の内部に進入したノイズ電流を通すためのノイズ用配線パターン16が回路基板20に形成される。このノイズ用配線パターン16は、コネクタ11A(11B)と接続されるとともに、たとえば図示しないコンデンサを介して回路基板20のグランドパターンに接続される。また、たとえば、ノイズ用配線パターン16は、コネクタ11A(11B)と接続されるとともにフレームグランドパターンに接続されてもよい。
【0037】
さらに、電位が固定されたラインとして0Vライン17および電源ライン18が回路基板20に形成される。上記PHYデバイスおよびASIC等の半導体集積回路は電源ライン18から供給される電源電圧によって動作する。
【0038】
電源電圧は特に限定されるものではない。電源電圧が異なる複数のデバイスが回路基板20に実装される場合には、各デバイスに応じた電源電圧を提供するための回路(たとえばDC/DCコンバータなど)が回路基板20に実装されてもよい。
【0039】
ノイズ用配線パターン16にノイズ電流が流れることによって、パルストランス12A,12Bに直接的にノイズ電流が入力することを防ぐことができる。ただし、パルストランス12A,12Bを伝送する信号は、そのノイズ電流により生じるノイズ(電磁ノイズ)の影響を受ける可能性がある。特に、ネットワーク機器の小型化の観点から、回路基板20の面積を縮小した場合、ノイズ用配線パターン16とパルストランス12A(12)との間の距離が短くなることが起こりうる。
【0040】
このため本発明の実施の形態ではパルストランス12A(12B)をノイズから保護するためのシールド部材15を設ける。上記のように、本発明の実施の形態では、パルストランス12A(12B)を通過する信号の伝送方向が切り換わる。電子部品のみによるノイズ対策は、多くの場合、信号の伝送方向が固定されていることを前提としているので、ノイズ対策が不十分となる可能性がある。シールド部材15を設けることにより、このような信号の伝送方向が切り換わる構成においても、パルストランス12A(12B)へのノイズの進入を効果的に抑制することができる。
【0041】
1つの形態としてシールド部材15は、固定電位を有する配線パターン(ライン)に接続される。図3では、シールド部材15が0Vライン17に接続された形態を示す。ただしシールド部材15は電源ライン18に接続されてもよい。また、シールド部材15は筐体10に接続されてもよい。すなわち、シールド部材15は、フレームグランド(FG)に接続されてもよい。
【0042】
また、シールド部材15は、上記の0Vライン17、電源ライン18および筐体10のいずれにも電気的に接続されていなくともよい。すなわちシールド部材15は電気的に浮遊した状態であってもよい。
【0043】
図4は、パルストランスおよびシールド部材が実装された回路基板の模式図である。図4(A)は、パルストランスおよびシールド部材が実装された状態を示した図である。図4(B)は、シールド部材を取り外した状態を示した図である。図4(A)および図4(B)を参照して、回路基板20の表面に、コネクタ11A,パルストランス12A、およびPHYデバイス13A等が実装される。なお、パルストランスとシールド部材との間の配置の関係を判りやすく示すために、図4(A)および図4(B)では、コネクタ11B,パルストランス12Bは示されていない。ただしパルストランス12Bのシールド構造は以下に説明する構造と同じである。したがって、パルストランス12Bのシールド構造については以後の詳細な説明を繰り返さない。
【0044】
回路基板20の表面には、ノイズ電流を流すためのノイズ用配線パターン16が形成される。ノイズ用配線パターン16は、パルストランス12Aの実装面と同じ面に形成される。ただし、パルストランス12Aが実装された面と反対側の回路基板20の表面に、ノイズ用配線パターンを形成してもよい。この配線パターンは、ノイズ用配線パターン16に代わり形成されてもよいし、ノイズ用配線パターン16に追加して形成されてもよい。
【0045】
シールド部材15は、パルストランス12Aの上面および2つの側面を覆うように設けられる。パルストランス12Aの2つの側面とは互いに反対側に位置する側面である。2つの側面の一方は、ノイズ用配線パターン16と対向する。
【0046】
本発明の実施の形態によれば、回路基板20全体ではなく、回路基板20に実装された部品(通信モジュールの構成要素)であるパルストランス12Aをシールド部材15で覆う。これによって、シールド部材の面積を小さくすることができるので、シールド部材のコストを低減できる。シールド部材のコストを低減することにより、通信モジュールのコストを低減できるので、結果としてネットワーク機器のコストを低減できる。
【0047】
シールド部材15は、パルストランス12Aの少なくとも一部を覆うように設けられていればよく、図4に示されるように上面および2つの側面を覆うように限定されるものではない。本発明の実施の形態では、ノイズを効果的に遮蔽する位置にシールド部材15を設けることによって、シールド部材15の面積を小さくすることができる。これにより、シールド部材のコストの上昇を抑制しつつ効果的にパルストランスへのノイズの進入を効果的に抑制することができる。シールド部材15の好適な配置については後に詳細に説明する。
【0048】
図5は、図4に示したパルストランス12Aの内部のコアの配置の一例を説明した図である。図5(A)は、正面方向からパルストランス12Aの内部を透視した図である。図5(B)は、上面方向からパルストランス12Aの内部を透視した図である。図5(C)は、側面方向からパルストランス12Aの内部を透視した図である。ただしコアの配置を説明するため図5(A)〜図5(C)ではコアのみが示されている(以後に説明する図においても同様)。図5(A)〜図5(C)を参照して、コア21A,22A,23A,24Aは、それぞれ、トランス(パルストランス)21,22、コモンモードチョークコイル23,24のコアに対応する。コア21A,22A,23A,24A(トランス21,22、コモンモードチョークコイル23,24)はパッケージ25の内部に収容される。
【0049】
コア21A,22A,23A,24Aの形状は円環状である。中心軸A1,A2は、それぞれコア21A,22Aの中心軸を示す。中心軸A3は、コア23A,24Aの中心軸を示す。コア21A,22A,23A,24Aを平面視した場合に中心軸A1,A2が中心軸A3と交わるようにコア21A,22A,23A,24Aが配置される。
【0050】
なお、図5はコアの配置の例を示すものであるので、図5に示したようにコアが配置されるものと限定されない。たとえばコア23A,24Aは同軸上に配置されると限定される必要はない。また、パルストランスのコアおよびコモンモードチョークコイルのコアの配置は図5に示すように限定されるものではない。たとえばコア21A,22A,23A,24Aの中心軸が同じ方向を向くように、コア21A,22A,23A,24Aを配置してもよい。また、パルストランス12A内部の構成(回路)も図3に示した回路に限定されるものではない。
【0051】
図6は、シールド部材の配置を説明するための模式図である。図6(A)は、回路基板20の主表面を示した模式図である。図6(B)は、ノイズ用配線パターン16に沿った方向からパルストランス12Aおよびシールド部材15を見た図である。図6(A)および図6(B)を参照して、ノイズ用配線パターン16は、ある方向(Y方向とする)に沿った直線状に形成される。本発明の実施の形態では、ノイズ電流の流れる方向(すなわちY方向)に沿う軸Aを中心軸とする同心円30と交わるパルストランス12Aの表面部分を覆うように、シールド部材15が配置される。したがって、シールド部材15は、少なくとも、ノイズ用配線パターン16と対向するパルストランス12Aの側面27、および、パルストランス12Aの上面26を覆うように配置される。なお、本明細書では、「同心円30と交わる」とは、同心円30によって定義される平面、およびその平面に平行な平面がパルストランス12Aの表面部分と接する場合を除くものとする。
【0052】
パルストランス12Aの上面26は、複数のトランスが収容されたパッケージ25(図5参照)の上面に対応する。同じくパルストランス12Aの側面27は、上記パッケージ25の側面に対応する。シールド部材15がパルストランス12Aの側面27を覆うとは、ノイズ用配線パターン16とパルストランス12Aとの間にシールド部材15を設けることに対応する。
【0053】
ノイズ用配線パターンにノイズ電流が流れることにより、右ネジの法則に従って同心円状に磁界が発生する。図6(A)、図6(B)に示した向きにノイズ電流が流れる場合、磁界の向きは、図6(B)の同心円30の円周上に矢印で示した向きに磁界が生じる。同心円30と交わるパルストランス12Aの表面部分を覆うように、シールド部材15が配置されるので、ノイズ電流により生じた磁界、すなわちノイズ電流による電磁ノイズがパルストランス12Aに進入することを防ぐことができる。
【0054】
なお、ノイズ電流により生じた電磁ノイズとしては、磁界によるノイズだけでなく電界によるノイズも考えられる。ただし磁界の向きと電界の向きとは直交する。図6(B)を用いて説明すると、磁界が同心円の円周に沿った方向である場合、電界は、その円周の接線に直交する方向となる。すなわち、磁界および電界の方向は、同一平面上で互いに直交する2方向となる。したがって、上述のように、同心円30と交わるパルストランス12Aの表面部分を覆うようにシールド部材15が配置されることで、磁界によるノイズだけでなく、電界によるノイズの影響も低減することができる。
【0055】
なお、同心円30は、側面27と直交するパルストランス12Aの2つの側面(図5に示す側面28,29)とは異なる平面上にあるので、同心円30はこれらの側面とは交わらない。一方、パルストランス12Aの側面28,29は、同心円30によって定義される仮想上の平面またはその平面と平行な平面と接することになる。上記のように、本発明の実施の形態では、このような場合は「同心円30と交わる」場合に含まれない。したがって、パルストランス12Aの側面28,29に対してはシールド部材15が設けられていない。もちろんパルストランス12A全体を覆うようにシールド部材15が設けられてもよいが、ノイズに対してより効果的な部分であるパルストランス12Aの上面26および側面27をシールド部材15で覆うことによって、シールド部材15のコストを低減しつつノイズを効果的に抑制できる。
【0056】
なお、ノイズ用配線パターン16が図6(A)に示した方向に対して90°回転した方向、すなわちX方向に沿って直線状に配置されている場合には、シールド部材15は、図6(A)に示した配置に対して90°回転させた向きに配置すればよい。すなわち、この場合には、少なくとも、パルストランス12Aの上面26と、ノイズ用配線パターン16と対向する側面(図5に示した側面28または29)とが覆われるようにシールド部材15を配置すればよい。
【0057】
また、上記のように、パルストランス12Aが実装された面と反対側の回路基板20の表面にノイズ用配線パターンが形成される場合も考えられる。図7は、シールド部材の配置の他の形態を説明するための模式図である。図7(A)は、回路基板20の主表面を示した模式図である。図7(B)は、ノイズ用配線パターン16に沿った方向からパルストランス12Aおよびシールド部材15を見た図である。
【0058】
図7(A)および図7(B)を参照して、回路基板20には、ノイズ用配線パターン16に加えてノイズ用配線パターン19が形成される。ノイズ用配線パターン19は、ノイズ用配線パターン16とは反対側の回路基板20の表面に位置するとともに、Y方向に沿って直線状に形成される。
【0059】
図7(A)および図7(B)に示されるように、1つの例では、回路基板20の上方から見た場合に、ノイズ用配線パターン19は、パルストランス12Aと重なるように配置される。シールド部材15Aは、ノイズ電流の流れる方向(すなわちY方向)に沿う軸Bを中心軸とする同心円31に交わるパルストランス12Aの表面部分、パルストランス12Aの下面を覆うように配置される。シールド部材15Aにより、ノイズ用配線パターン19を流れるノイズ電流によって生じる電磁ノイズ(磁界または電界によるノイズ)がパルストランス12Aに進入することを防ぐことができる。
【0060】
また、ノイズ用配線パターン19とパルストランス12Aとの間にシールド部材を設ければよいので、図7(B)に示すように回路基板20の内部にシールド部材15Bを配置してもよい。さらに、シールド部材15A,15Bのいずれか一方のみ設けてもよいし、両方を設けてもよい。
【0061】
なお、ノイズ用配線パターン19が図7(A)に示した配置から90°回転した配置である場合(すなわちX方向に沿ってノイズ用配線パターン19が形成されている場合)にも、上記シールド部材15Aおよび/またはシールド部材15Bによって、ノイズ用配線パターン19を流れるノイズ電流による電磁ノイズがパルストランス12Aに進入することを防ぐことができる。
【0062】
本発明の実施の形態によれば、ネットワーク機器の外部を流れるノイズ電流によって電磁ノイズが発生する場合にも、当該電磁ノイズがパルストランスに進入する可能性を小さくできる。ネットワーク機器の外部で発生するノイズとしては、たとえばネットワーク機器の周囲の金属板を流れるノイズ電流によるノイズ、あるいは、ネットワーク機器を取り付ける部材(たとえばDINレール)に流れるノイズ電流によるノイズなどが考えられる。このような場合にも、上記のようにノイズ電流の流れる方向に沿った軸を中心軸とする同心円と交わるパルストランスの表面部分を覆うようにシールド部材を配置することで、パルストランスへの電磁ノイズの進入の可能性を小さくできる。
【0063】
以上のように、本発明の実施の形態によれば、パルストランスにおいて特にノイズの影響を受けやすい部分をシールド部材で覆うことによって、パルストランスに進入するノイズを低コストで効果的に抑制することができる。
【0064】
なお、本発明の実施の形態では、ネットワーク機器2.1,2.2の各々のノイズ対策のための構成を示した。しかし、図3〜図7に示した構成を図1に示したサーボドライバに適用してもよい。
【0065】
また、本発明の実施の形態では、2つのトランス(すなわち受信経路に設けられたパルストランスと送信経路に設けられたパルストランス)および、それらに対応して設けられたシールド部材とを含む構成を示した。ただし、本発明に係るシールド構造は、受信経路に設けられたパルストランスのみの場合、あるいは送信経路に設けられたパルストランスのみの場合にも適用可能である。すなわち、本発明は、少なくとも1つのパルストランスを有する場合において適用可能であり、パルストランスの個数は特に限定されない。
【0066】
さらに、上記実施の形態では、産業用の通信ネットワークに適用される機器が示される。ただし本発明は、パルストランスを含むネットワーク機器に広く適用可能である。したがって本発明の用途は、産業用の通信ネットワークを構築するネットワーク機器に特に限定されるものではない。
【0067】
また、本発明が適用可能なネットワーク機器の種類は限定されるものではない。たとえばスイッチングHUB、ルータ等に本発明を適用してもよい。さらに、本発明は、通信ネットワークに接続されるネットワーク機器であれば、たとえば有線LANアダプタ、有線LANカード、有線LANボードなどにも適用可能である。上述の有線LANアダプタ等の機器は、図3〜図7に示した通信モジュールMを含むように構成される。また、本発明は、上記ネットワーク機器であって、送信経路、受信経路が固定された機器、およびAutoMDI/MDI−X機能を備える機器のいずれにも適用できる。
【0068】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 コントローラ、2.1,2.2 ネットワーク機器、3.1〜3.n 入出力機器、4.1,4.2 サーボドライバ、5 サーボモータ、10 筐体、11A,11B コネクタ、12A,12B パルストランス、13A,13B PHYデバイス、15,15A,15B シールド部材、16,19 ノイズ用配線パターン、17 0Vライン、18 電源ライン、20 回路基板、21,22 トランス、21A,22A,23A,24A コア、23,24 コモンモードチョークコイル、25 パッケージ、26 上面、27,28,29 側面、30,31 同心円、100 ネットワークシステム、A,B 軸、A1,A2,A3 中心軸、C1,C2 ケーブル、M 通信モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信ネットワーク上に設けられるとともに通信ケーブルを介して信号を伝送するネットワーク機器であって、
信号を伝送するための回路基板と、
前記回路基板の信号を伝送するための経路に設けられた、少なくとも1つのパルストランスと、
ノイズ電流によって生じたノイズが前記少なくとも1つのパルストランスに進入することを防止するために、前記少なくとも1つのパルストランスに対応して設けられたシールド部材とを備え、
前記シールド部材は、前記ノイズ電流の流れる方向に沿う軸を中心軸とする同心円と交わる、前記少なくとも1つのパルストランスの表面部分を覆う、ネットワーク機器。
【請求項2】
前記少なくとも1つのパルストランスは、
前記通信ケーブルを介して前記ネットワーク機器により受信された信号を通過させるための第1のパルストランスと、
前記ネットワーク機器から前記通信ケーブルへ送信される信号を通過させるための第2のパルストランスとを含む、請求項1に記載のネットワーク機器。
【請求項3】
前記回路基板は、
前記ネットワーク機器に進入した前記ノイズ電流を通すための配線パターンを有し、
前記第1および第2のパルストランスは、前記回路基板に実装されたパッケージの内部に収容され、
前記シールド部材は、前記パッケージの上面と、前記配線パターンに対向する前記パッケージの側面とを覆う、請求項2に記載のネットワーク機器。
【請求項4】
前記シールド部材は、固定された電位を有するノードに電気的に接続される、請求項1に記載のネットワーク機器。
【請求項5】
前記シールド部材は、電気的に浮遊された状態で前記回路基板に実装される、請求項1に記載のネットワーク機器。
【請求項6】
通信ケーブルを介して信号を伝送する通信モジュールであって、
信号を伝送するための回路基板と、
前記回路基板に実装されるとともに信号を伝送するための経路に設けられた、少なくとも1つのパルストランスと、
ノイズ電流によって生じたノイズが前記少なくとも1つのパルストランスに進入することを防止するために、前記少なくとも1つのパルストランスに対応して設けられたシールド部材とを備え、
前記シールド部材は、前記ノイズ電流の流れる方向に沿う軸を中心軸とする同心円と交わる、前記少なくとも1つのパルストランスの表面部分を覆う、通信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−19031(P2012−19031A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154969(P2010−154969)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】