説明

ネビボロールまたはネビボロール類似体を含む医薬組成物

開示される経口投与用医薬組成物は、有効成分としてのネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその酸付加塩と、湿潤剤とからなる。有効成分に対する湿潤剤の比率は0.025未満である。本明細書はまた、これらの組成物を調整する方法、およびヒトにおける冠血管障害を治療するために前記組成物を使用する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物分野およびその調製方法に関し、より詳しくは有効薬用成分としてのネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその塩と湿潤剤とを含む医薬組成物、およびその調製方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年1月22日に出願され、係属中のカナダ特許出願第2,575,527号明細書の優先権を主張する。当該明細書の内容全体は本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
ネビボロールは((±))−(R(S(S−(S))))−(α),(α)’−(イミノビス(メチレン)ビス−(6−フルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−メタノール)の一般名である。ネビボロール塩酸塩の一般構造を式(a)に示す。
【化1】

【0004】
ネビボロールは、酸化窒素(NO)が仲介する追加的な(additional)血管拡張効果によって、その薬物クラスのその他のメンバーと区別される、β1−アドレナリン受容体ブロッカーまたはβ−ブロッカーである。したがってネビボロールは、心臓および脈管構造中でβ1−アドレナリン受容体をブロックすることによって血圧を効果的に下げるだけでなく、動脈コンプライアンスを改善し末梢血管の抵抗性を低下させることにより、高血圧に付随する血管合併症のいくつかを遅らせたり、予防することもある。ネビボロールは、等量の2つの鏡像異性体(SRRR−およびRSSS−立体配置)の混合物として知られている。SRRR−立体配置は、in vitroおよびin vivoの双方で、強力かつ選択的なβ1−アドレナリンアンタゴニストである。ネビボロールは、自然発症高血圧ラットにおいて急性的に血圧を低下させ、麻酔したイヌにおいて総末梢血管抵抗を減少させて一回拍出量を増大させることから、その他のβ−アドレナリンアンタゴニストと区別できる。これらの血流力学的効果は、ネビボロールのRSSS−立体配置に大きく起因している。また、RSSS−ネビボロールが、アテノロール、プロパノロール、プラゾシン、ヒドララジンなどの一連の抗高血圧薬、そして興味深いことには、それ自身の鏡像異性体、すなわちSRRR−立体配置に対しても増強物質であることも発見された。いくつかの臨床試験もまた、β1−選択的β−ブロッカーおよび抗高血圧薬としてのネビボロールの治療的な可能性を実証した。
【0005】
ネビボロールの塩酸塩は錠剤剤形で入手でき、ヒトにおける軽度から中等度の本態性高血圧治療のためのネビレット(Nebilet)(登録商標)として英国で市販される。
【0006】
ネビボロールおよび薬学的に許容可能な塩を調製する方法は、参照によって本明細書に援用される欧州特許第0145067号明細書で概説され、欧州特許第0334429号明細書でより詳細に述べられている。
【0007】
欧州特許出願公開第0145067号明細書は、冠血管系障害の治療および/または予防に有用な2,2’−イミノビスエタノール誘導体について概説する。
【0008】
欧州特許第0334429号明細書は、ネビボロールおよび薬学的に許容可能な塩をはじめとする(イミノビスメチレン)ビス(3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−メタノール)誘導体について述べている。
【0009】
ネビボロールは塩基性特性を有するので、適切な酸による処置によって、薬学的に許容可能な酸付加塩の形態に変換されてもよい。適切な酸は、例えば塩酸または臭化水素酸などの無機酸である。
【0010】
参照によって本明細書に援用されるユージン(Eugeen)らによる欧州特許出願公開第0744946B1号明細書は、とりわけネビボロールと薬学的に許容可能な塩とを含む、抗高血圧薬として使用することに適した固体および半固体医薬組成物を開示する。剤形としては、粉末、丸薬、カプセル、錠剤、坐薬、クリーム、ゲル、軟膏が挙げられる。錠剤は固体経口剤形として特に好ましい。この明細書は、ネビボロール塩酸塩が「通常の」結晶形態では、溶解性に乏しいため、ネビボロール塩酸塩の経口投与は妨げられたと述べている。
【0011】
経口投与後の有効成分の生体利用効率に影響する非常に重要な要素は、特に胃液中における、有効成分または原薬の溶解性あるいはより具体的には溶解速度である。当該技術分野では、例えば米国薬局方XXIIなどの当業者に公知の公式薬局方で述べられている試験手順に従った測定で、固体剤形、特に錠剤の溶解性は、37℃の温度、0.1Mの塩酸中において、45分内に少なくとも75%に達しなくてはならないことが認識されている。
【0012】
ネビボロール塩酸塩の溶解性および生体利用効率の改善に向けた研究は、粒子サイズを小さくしたネビボロール塩酸塩を使用して調製される組成物をもたらした(欧州特許第0744946号明細書)。しかし発明者らは、「通常の」結晶性材料と「微粉化」されたネビボロール塩酸塩の溶解度を比較する比較溶出試験の実施によって、微粉化された材料の溶解が通常の結晶形態にある材料よりもさらに劣ることを見いだした。欧州特許第0744946号明細書は、微粉化材料の比面積が少なくとも約23×10cm/g(2.3×10/kg)であり、好ましくは25×10cm/g(2.5×10/kg)を超え、より好ましくは28×10cm/g(2.8×10/kg)を超え、最も好ましくは31×10cm/g(3.1×10/kg)を超えることを教示する。代案としては微粉化された材料は、次のように述べられる。最大限で50%の粒子が10μmよりも大きい直径を有してもよく、すなわちDL50は10μmの最大値を有する。好ましくはDL50は8μm未満に達するべきである。最大で10%の粒子が20μmよりも大きい直径を有してもよく、すなわちDL10は20μmの最大値を有する。好ましくはDL10は18μm未満に達するべきである。
【0013】
研究に続いて、有効成分に対する湿潤剤の比率(w/w)が0.025〜0.5の範囲になるように、微粉化材料に湿潤剤を配合することで、経口剤形のネビボロール塩酸塩の溶解特徴が明らかに改善された。
【0014】
したがって要約すると、欧州特許第0744946号明細書で開示されている発明は、要求される薬局方溶解性(pharmacopoeial dissolution)を達成するために、ネビボロール塩酸塩は、微粉化されかつ十分に湿潤でなくてはならないことを強調する。湿潤化は、上述された比率の範囲内の湿潤剤を含有させることで達成された。この比率は重要な要素であると言われている。湿潤剤の割合(percentage level)は、一方で所望の溶解性を得るために十分高くなくてはならないが、商業規模での生産に悪影響をあたえるような錠剤硬度になりやすい。湿潤剤の割合(level)が高すぎる場合、得られる錠剤は適切な硬度を有さない。さらに当該技術分野では、医薬製剤中に高濃度の湿潤剤が含まれると、ヒトにおける望ましくない作用をもたらすことが知られており、例えば透過度増強および局部損傷は、界面活性剤と腸管壁との相互作用が密接にかかわる後遺症である(Swenson ES et al; Pharm Res 1994 Aug 11(8) p1132−42)。摂取された湿潤剤は、潜在的に毒性である化合物の浸透に影響する恐れがある(Liebermann H.A. et al Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, 2nd Ed, Vol 1, page 261)。
【0015】
ここで「微粉化」とは、機械的手段によって特定の原薬の平均粒子サイズを小さくし、生体液に接触する粒子の表面積を増大する方法の総称である。微粉化は、ミリングまたは適切な篩を用いた篩掛けなどの既知の技術によって実施できる(Pharmaceutical Dosage Forms: Vol 2, 1990; HA Lieberman, page 107参照)。しかしこれらの技術は、厳格な内部および外部品質管理要件に準拠した工業規模で、ネビボロール塩酸塩を含む医薬剤形を調製しようとする場合、時間がかかり不経済である。
【0016】
さらに既知の微粉化方法は、熱不安定性のまたは物理的に不安定な原薬に適さず、研究中の材料の望ましくない分解をもたらすおそれがある。微粉粒子はまた、操作者が安全な取り扱いのために呼吸マスクを着用することを要する、潜在的に危険な粉塵条件を作り出す(Lachman & Liebrman, Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Vol 2, second edition, 1990, page 35.)。
【0017】
本明細書に援用されるSheth Rらの国際公開第2006/025070号パンフレットは、とりわけ、例えば湿潤剤を使用しない錠剤およびカプセルなどのネビボロール塩酸塩を含む医薬組成物を開示する。
【0018】
この背景情報は、出願人が本発明と関連があるかもしれないと考える情報を明らかにする目的で提供される。前述の情報のいずれかが本発明に対する先行技術を構成すると承認することは必ずしも意図されず、そのように解釈すべきでもない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、ネビボロールまたはネビボロール類似体を含む医薬組成物を提供することである。したがって本発明の第1の態様に従って、有効成分と湿潤剤とを含む経口投与のための医薬組成物が提供される。有効成分はネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその塩であり、湿潤剤はコロイド状二酸化ケイ素以外であり、湿潤剤の有効成分に対する比率(w/w)は0.025未満である。
【0020】
好ましい実施態様では、医薬組成物は、ネビボロールの薬学的に許容可能な塩が塩酸塩であることを特徴とする。
【0021】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は、ネビボロール塩酸塩が微粉化されていないことを特徴とする。
【0022】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は、湿潤剤がポリソルベートからなることを特徴とする。
【0023】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は、ポリソルベートがポリソルベート80であることを特徴とする。
【0024】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は、薬学的に許容可能なキャリアが、増量剤、バインダー、崩壊剤、潤滑剤、および流動促進剤またはそれらの混合物から選択されることを特徴とする。
【0025】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は、ネビボロールの薬学的に許容可能な塩が塩酸塩であり、湿潤剤がポリソルベート80であり、増量剤が微結晶性セルロースと乳糖および/または乳糖一水和物との噴霧乾燥混合物であり、バインダーがヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、崩壊剤がコーンスターチおよび/またはクロスカルメロースナトリウムであり、潤滑剤がステアリン酸マグネシウムであり、流動促進剤がコロイド状二酸化ケイ素であることを特徴とする。
【0026】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は、約0.5重量%〜約10重量%のネビボロールまたは薬学的に許容可能な塩、約0.01重量%〜約0.04重量%の湿潤剤、約20重量%〜約80重量%の増量剤、約1重量%〜約4重量%のバインダー、約2重量%〜約30重量%の崩壊剤、約0.25重量%〜約2重量%の潤滑剤、および約0.1重量%〜約2重量%の流動促進剤を含む。
【0027】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は錠剤の形態である。
【0028】
別の好ましい実施態様では、医薬組成物は45分後に少なくとも75%の溶解性を示す錠剤の形態である。
【0029】
本発明の第2の態様に従って、有効成分と湿潤剤とを含む経口投与のための医薬組成物を調製する方法が提供され、有効成分はネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその塩であり、湿潤剤はコロイド状二酸化ケイ素以外であり、湿潤剤の有効成分に対する比率(w/w)は0.025未満である。好ましい実施態様では、本方法は(a)均質混合物中の有効成分と1つ以上の薬学的に許容可能なキャリアとを組み合わせるステップと、(b)任意に(a)からの混合物を圧縮して錠剤を形成するステップを含む。
【0030】
別の好ましい実施態様では、本方法のステップ(a)は、湿式造粒プロセスを含む。
【0031】
本発明の第3の態様に従って、ヒトにおける冠血管障害を治療するためのネビボロールを含む医薬組成物、または有効成分と湿潤剤とを含む経口投与のための医薬組成物の使用が提供され、有効成分はネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその塩であり、湿潤剤はコロイド状二酸化ケイ素以外であり、湿潤剤の有効成分に対する比率(w/w)は0.025未満である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ネビボロール塩酸塩を含む医薬組成物を開発する当業者は、生物学的媒体中で許容可能なネビボロールの溶解性を保持しつつ、同時に組成物が工業規模で容易に生産されることを確実にし、かつ厳格な内部および外部品質管理要件を満たすという二重の問題に直面する。
【0033】
驚くべきことに本発明者らは、欧州特許第0744946号明細書で用いられているよりも有効成分に対して低い比率の湿潤剤を使用することで、これらの目的を満たして、今までに知られているネビボロール塩酸塩の溶解性の欠点を解決する組成物を開発した。さらに驚くべきことに、有効成分に対してより低い比率の湿潤剤の使用の結果として、有効成分を微粉化する必要がなくなり、それによって組成物および製造方法をより経済的にできることが分かった。
【0034】
綿密な研究および試行を通じて、本発明者らは、有効成分に対する比率(w/w)が0.025未満である湿潤剤を使用することで、当業者に既知の薬局方基準に準拠した優れた溶解性を示す、ネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその塩を含む経口剤形が調製できることを見いだした。これは特に、有効成分としてネビボロール塩酸塩を含む医薬組成物を使用することで実証される。
【0035】
本発明者らは、用量あたりの湿潤剤の重量%が、本発明に重要であることを見いだした。この側面は、特に、当該技術分野で知られている組成物から本発明を区別する。
【0036】
有効成分
本発明の組成物の有効成分は、ネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその塩である。本明細書では、「ネビボロール類似体」という用語は、ネビボロールと構造的に類似し、同様の薬学的活性を示す化合物を意味する。好ましくはネビボロール類似体はβ受容体アンタゴニストである。本発明の組成物への配合(incorporation)に適したネビボロール類似体の例としては、メチプラノロール、ナドロール、オクスプレノロール、ペンブオロール、ピンドロール、プロパノロール、テルタトロール、チモロール、ソタロール、アテノロール、アセブトロール、セリプロロール、ベタキソロール、ビソプロロール、エスモロール、およびメトプロロールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明は、特にネビボロール塩酸塩を参照しながら説明されているが、当業者は、本発明がネビボロール塩酸塩を含有する組成物に限定されるものではないことを容易に理解するであろう。
【0037】
ここで「薬学的に許容可能な塩」という用語は、例えば塩酸や臭化水素酸などのハロゲン化水素酸、および硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;または例えば酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−オキソプロパン酸、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、(Z)−2−ブテン二酸、(E)−2−ブテン二酸、2−ヒドロキシブタン二酸、2,3−ジヒドロキシブタン二酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、2−ヒドロキシ安息香酸、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸などの有機酸のような適切な酸との塩を含む。本発明の範囲内の好ましい塩は塩酸付加塩である。
【0038】
例えばネビボロールまたは薬学的に許容可能なその塩などの有効成分は、典型的に組成物の約0.5重量%〜約10重量%の濃度で組成物中に存在する。有効成分の最終濃度は、有効成分の所要投薬量に基づいて選択される。
【0039】
本発明の組成物中で使用される有効成分は、微粉化されていなくてもよい。ここで「微粉化されていない」有効成分とは、約23×10cm/g(2.3×10/kg)未満の比表面積を有するネビボロールまたは薬学的に許容可能な塩(好ましくは塩酸塩)の固体粒子を指す。
【0040】
本発明の組成物では、有効成分を微粉化する必要はないが、本発明の組成物への配合に先だって有効成分を微粉化してもよい。
【0041】
湿潤剤
上述のように、本発明の組成物は湿潤剤を含む。ここで「湿潤剤」という用語は、固体粒子と液体との間の親和性(intimate contact)の獲得を促進するために使用される化合物を意味する。
【0042】
有用な湿潤剤としては、一例としてゼラチン、カゼイン、レシチン(リン脂質)、アカシアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、カルシウムステアリン酸、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ろう、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばセトマクロゴール1000などのマクロゴールエーテル)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはポリソルベート(例えばツィーン(TWEEN)(登録商標)、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンステアリン酸、リン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ポロキサマー、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシルプロピルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、非結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドン(またはPVP)が挙げられるが、これらに制限されない。チロキサポール(アルキルアリールポリエーテルアルコールタイプの非イオン性液体ポリマー、またスペリノンまたはトリトンとしても知られている)、それらの組み合わせおよび当業者に知られている他のこのような材料は別の有用な湿潤剤である。
【0043】
コロイド状二酸化ケイ素は、本発明の組成物中で使用すると湿潤剤特性を示すこともあるが、コロイド状二酸化ケイ素は湿潤剤としてではなく、流動促進剤(下記考察参照)として作用する。
【0044】
特に好ましい実施態様では、湿潤剤はポリソルベート、より好ましくはポリソルベート80である。ポリソルベートの好ましい重量範囲は約0.01重量%〜約0.04重量%であり、約0.03重量%が特に好ましい。有効成分に対する湿潤剤の比率(w/w)は、常に0.025未満でなくてはならない。
【0045】
追加的構成要素/賦形剤
本発明の組成物はまた、1つ以上の薬学的に許容可能なアジュバントまたは賦形剤を含有してもよい。本発明の組成物中で使用される薬学的に許容可能な賦形剤としては、経口固体剤形を調製するために当該技術分野で典型的に使用される、増量剤、流動促進剤、潤滑剤、希釈剤、バインダー、崩壊剤、キャリア、着色剤、コーティングなど、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
ここで「希釈剤(diluent)」または「増量剤」という用語は、増量剤として使用され、錠剤およびカプセルの調製品中に所望の容積、流動特性、および圧縮特性を作り出す、不活性物質を意味する。有用な増量剤または希釈剤は、不活性増量剤でもよく、水溶性または水不溶性のいずれでもよい。また、有用な増量剤または希釈剤は、経口固体剤形のための製薬技術において典型的に使用されるものから選択される。適切な増量剤としては、限定されるものではないが、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、微結晶性セルロース、単糖類、二糖類、多価アルコール、スクロース、デキストロース、乳糖、マンニトール、ソルビトールなど、またはそれらの混合物が挙げられる。本発明の範囲内の特に好ましい増量剤は、乳糖であり、より好ましくは乳糖一水和物、および例えば商品名ミクロセラック(Microcelac)(登録商標)として市販される微結晶性セルロースと乳糖との噴霧乾燥混合物である。これらの増量剤は、単独でまたは組み合わせて使用できる。本発明の範囲内の増量剤(単独または組み合わせ)の好ましい重量百分率は、約20重量%〜約80重量%である。
【0047】
ここで「潤滑剤」という用語は、錠剤製剤において使用され、打錠成型中の摩擦を低下させる物質を意味する。有用な潤滑剤としては、一例としてステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、それらの組み合わせ、および当業者に既知のその他の材料が制限なしに挙げられる。好ましい潤滑剤はステアリン酸マグネシウムである。ステアリン酸マグネシウムの好ましい重量範囲は約0.25重量%〜約2重量%であり、約0.5重量%であることが特に好ましい。
【0048】
ここで「崩壊剤」という用語は、固体剤形において使用され、固体塊から、より容易に分散または溶解するより小さな粒子への破壊を促進する、物質を意味する。有用な崩壊剤としては、一例としてコーンスターチ、ジャガイモデンプン、その予備ゼラチン化および加工デンプンなどのデンプン;甘味料;ベントナイトなどの粘土;微結晶性セルロース(例えばアビセル(Avicel)(登録商標));クロスポビドン;カルシウム(例えばアンバーライト(Amberlite));アルギン酸塩;デンプングリコール酸ナトリウム;寒天、グアー、ローカストビーン、カラヤ、ペクチン、トラガカントなどのガム(gum);これらの組み合わせ;および当業者に知られているその他のこのような材料が挙げられるが、これらに制限されない。好ましい崩壊剤は、クロスカルメロースナトリウムおよび/またはコーンスターチである。これらの崩壊剤の単独での好ましい重量範囲は約2%〜約30%である。コーンスターチは組成物の約20重量%、クロスカルメロースナトリウムは約2重量%〜約3重量%の範囲内で、崩壊剤として最適に使用される。
【0049】
ここで「バインダー」という用語は、錠剤顆粒内において粉末粒子同士の接着をするために使用される物質を意味する。本発明の範囲内の有用なバインダーの非限定的な例には、例えばデンプン、ポリ(エチレングリコール)、グアーガム、多糖類、ベントナイト、糖、転化糖、ポロキサマー(プルロニック(PLURONIC)F68(登録商標)、プルロニック(PLURONIC)F127(登録商標))、コラーゲン、アルブミン、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースおよびそれらの組み合わせなどが含まれる。その他のバインダーとしては、例えばポリ(プロピレングリコール)、ポリオキシエチレン−ポリプロピレン共重合体、ポリエチレンエステル、ポリエチレンソルビタンエステル、ポリ(エチレンオキシド)、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、それらの組み合わせ、および当業者に知られているその他のこのような材料が挙げられる。本発明の範囲内の好ましいバインダーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの好ましい重量範囲は、組成物の約1重量%〜約4重量%である。
【0050】
ここで「流動促進剤」という用語は、錠剤およびカプセル調合製剤において使用され、打錠成型中に流動特性を改善し、固化防止効果をもたらす薬剤を意味する。有用な流動促進剤は、経口固体剤形のための製薬技術で典型的に使用される、あらゆる流動促進剤であってもよい。流動促進剤の例としては、コロイド状二酸化ケイ素が挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましい流動促進剤は、コロイド状二酸化ケイ素である。好ましい重量範囲は、組成物総重量を基準にして約0.1重量%〜約2.0重量%である。
【0051】
上述したほとんどの賦形剤については、Howard C. Ansel et al., Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, (7th Ed. 1999)と、Alfonso R and Gennaro et al., Remington: The Science and Practice of Pharmacy, (20th Ed. 2000)と、A; Kibbe, Handbook of Pharmaceutical Excipients, (3rd Ed. 2000)とにおいて詳述されている。これらの文献は、参照によって本明細書に援用される。
【0052】
製造工程
経口投与は、特に、患者にとって利便性がよく、許容される投与経路である。このため経口投与は、一般に本発明の範囲内の組成物の好ましい投与経路である。したがって本発明の好ましい実施態様は、本発明の組成物から調製される錠剤を提供する。
【0053】
本発明に従った錠剤は、あらゆる標準錠剤化技術(例えばラクマン(Lachman)およびリーバーマン(Lieberman)第2版で述べられているような、湿式造粒法、乾式造粒法または直接圧縮)によって製造されてもよい。例えば賦形剤添加または無添加で有効成分を顆粒化し、その後、その他の賦形剤を添加し、次に圧縮して錠剤を形成する。錠剤は好ましくは、当該技術分野で知られているように湿式造粒法によって製造される(Lachman & Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Vol 2, second edition, 1990, page 7)。この方法では、有効成分と1つ以上の薬学的に許容可能なアジュバントを混合し、顆粒化液体(granulation liquid)を添加して顆粒を形成し、場合により顆粒を乾燥させ、材料を圧縮し錠剤としてもよい。
【0054】
上述のように、本発明の好ましい実施態様は、ネビボロールまたは薬学的に許容可能なその塩を含む医薬組成物を提供する。一般にヒトにおける冠血管障害治療のための効果的な用量は、特に軽度から中等度の本態性高血圧治療に付随する条件において、約0.1〜約50mg、最も好ましくは約1〜約10mgの範囲内であり、例えば単位用量あたり約5mgの有効成分を1回で、または例えば一日に1〜4回に分けた分割量で投与することができる。本発明の組成物の安全で有効な量は、治療される患者の年齢および健康状態、病状の重篤性、治療継続期間、およびその他の要素次第で熟練した医師の権限内で変動する。
【0055】
本発明は、以下の非制限的実施例で説明できる。当業者は例示的調製品をどのように変化させて所望の結果を得るかを理解するであろう。さらに以下の実施例は、本発明を例示する目的で提供され、発明の範囲と精神をどのようにも制限するものではないと理解される。
【実施例】
【0056】
[実施例1]
【表1】

【0057】
製造方法
a)番号7と番号5とを混合し、そして透明な溶液が得られるまで番号7中に番号6を溶解する。得られた溶液は、バインダー溶液である。
b)番号1〜4を20メッシュ(20 mesh)で篩掛けする。流動層乾燥機内で2分間混合する。
c)バインダー溶液をステップb)で得られた混合物上にスプレーする。
d)ステップc)で得られた材料を乾燥させる。
e)ステップd)で得られた乾燥顆粒を20メッシュで篩掛けする。
f)ステップe)で得られた乾燥顆粒は、任意に039Rコミル(Comill)で製粉されてもよい。
g)ステップf)で得られた篩掛けされた顆粒と番号9〜11とを混合し(賦形剤は20メッシュで予め篩掛けする)、v−ブレンダー(v-blender)内で混合する。
h)番号12を30メッシュで予め篩掛けし、適切なv−ブレンダー内で3分間混合する。
i)ステップh)で得られた配合物を圧縮する。
【0058】
[実施例2]
実施例1に従って調製された組成物の溶出試験を、5mgのネビレット(NEBILET)(登録商標)(A.メナリーニ・ファーマシューティカルズUK(A.Menarini Pharmaceuticals UK Ltd)によって市販される)の参照サンプルと比較した。
【0059】
溶出試験
試験方法およびパラメーターについては、下記表でより詳しく述べられている。試料採取の時点は、15分、30分、および45分とした。試験溶液として900mlの0.1M塩酸を使用した。紫外線検出器を装着した標準高速液体クロマトグラフィーカラムに、各時点で採取したネビボロールの一定分量を注入した。サンプル対標準ピーク応答(sample versus standard peak response)に基づいて、既知の濃度の標準を参照しサンプルを定量化した。要求される溶解規格(dissolution specification)は、45分後に少なくとも75%であった。
【0060】
【表2】

【0061】
標準調製
A.標準原液
2連で調製する。100mLメスフラスコに、約24mgのネビボロールHCl(22mgのネビボロールに相当)を正確に秤量する。約60mLの希釈溶剤を添加し、1分間または溶解するまで時々回旋させて超音波処理する。希釈溶剤で定容積に希釈し、よく混合する(ネビボロールの濃度:約220μg/mL)。
【0062】
B.標準使用液(5mg錠剤用)
5.0mLの標準原液をピペットで200mLメスフラスコに加える。溶解媒体で定容積に希釈し、よく混合する(ネビボロールの濃度:約5.5μg/mL)。
【0063】
サンプル調製
900mlの溶解媒体を6個の各溶解容器に入れて、媒体温度を37℃±0.5℃内で均一化する。パドル速度を50rpmに設定する。パドルを下げて溶解媒体中に入れる(パドルは回転させない)。6個の各容器に1個の錠剤を入れ、装置を始動させる前に沈ませる。45分後の時点で、容器壁から1cm以上離れた領域であって、溶解媒体表面と動翼上部との中間の領域から、プローブを使用して10mLのサンプルを各容器から抜き取る。溶液を即座に濾過する。
【0064】
クロマトグラフィー手順およびシステム適合性
ブランクを注入し、ベースラインが明確に安定していることを確認する。
【0065】
標準使用液1を5回注入する。相対標準偏差(RSD)、テーリング係数(T)、および理論段数(N)を計算する。RSDは2.0%以下、Tは1.5以下で、Nは10000以上である。
【0066】
標準使用液2、ブランク、およびサンプル使用液を各1回注入する。
【0067】
各6回のサンプル注入後に1回、稼働終了時に1回、標準使用液1を注入する。
【0068】
計算
【数1】

式中、
SPL=サンプル溶液中のネビボロールのピーク面積
STD=標準中のネビボロールの平均ピーク面積
STD=ネビボロールHClのmg重量(「そのままの」力価について補正済み)
DF=希釈係数
=標準希釈
サンプル希釈
LC=ラベルが表示する錠剤あたりのネビボロールmg
405.43=ネビボロールの分子量
441.89=ネビボロールHClの分子量
【0069】
結果
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
本明細書で言及される全ての公報、特許、および特許出願は、本発明に関係がある当業者の技術レベルの目安であり、それぞれの公報、特許、および特許出願は具体的に個々に援用されたかのように、その内容全体を参照によって本明細書に援用されるものとする。
【0072】
本発明はこのように記載されてきたが、本発明を多様に修正変動してもよいことは明らかである。このような多様性は本発明の精神と範囲からの逸脱とは見なされず、当業者には明らかであるように、このような全ての修正は以下の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネビボロール、ネビボロール類似体または薬学的に許容可能なその塩である有効成分と、コロイド状二酸化ケイ素以外の湿潤剤とを含み、前記有効成分に対する前記湿潤剤の比率(w/w)は、0.025未満である、経口投与のための医薬組成物。
【請求項2】
前記ネビボロールの薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記有効成分は、微粉化されていない、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記湿潤剤は、ポリソルベートからなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ポリソルベートは、ポリソルベート80である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
増量剤、バインダー、崩壊剤、潤滑剤、流動促進剤またはそれら混合物をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ネビボロール塩酸塩を含み、
前記湿潤剤は、ポリソルベート80であり、
前記増量剤は、微結晶性セルロースと、乳糖および/または乳糖一水和物との噴霧乾燥混合物であり、
前記バインダーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、
前記崩壊剤は、コーンスターチおよび/またはクロスカルメロースナトリウムであり、
前記潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウムであり、
前記流動促進剤は、コロイド状二酸化ケイ素である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
約0.5重量%〜約10重量%の前記ネビボロールまたは薬学的に許容可能なその塩、
約0.01重量%〜約0.04重量%の前記湿潤剤、
約20重量%〜約80重量%の前記増量剤、
約1重量%〜約4重量%の前記バインダー、
約2重量%〜約30重量%の前記崩壊剤、
約0.25重量%〜約2重量%の前記潤滑剤、および
約0.1重量%〜約2重量%の前記流動促進剤を含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
約0.5重量%〜約10重量%の前記ネビボロール塩酸塩、
約0.01重量%〜約0.04重量%のポリソルベート80、
約20重量%〜約80重量%の微結晶性セルロースと、乳糖および/または乳糖一水和物との噴霧乾燥混合物、
約1重量%〜約4重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース、
約2重量%〜約30重量%のコーンスターチおよび/またはクロスカルメロースナトリウム、
約0.25重量%〜約2重量%のステアリン酸マグネシウム、および
約0.1重量%〜約2重量%のコロイド状二酸化ケイ素を含む、請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
約2.37重量%の前記ネビボロール塩酸塩、
約0.03重量%のポリソルベート80、
約26.36重量%の微結晶性セルロースと乳糖との噴霧乾燥混合物、
約43.48重量%の乳糖一水和物、
約2重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース、
約20重量%のコーンスターチ、
約5重量%のクロスカルメロースナトリウム、
約0.5重量%のステアリン酸マグネシウム、および
約0.26%重量のコロイド状二酸化ケイ素を含む、請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
錠剤の形態の請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記錠剤は、45分後に少なくとも75%以上の溶解性(dissolution)を示す、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
(a)均質混合物中の有効成分と1つ以上の薬学的に許容可能なキャリアとを混合させるステップと、
(b)任意に(a)で得られた混合物を圧縮して錠剤を形成するステップと
を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬組成物を調製する方法。
【請求項14】
ステップa)は、湿式造粒プロセスを含む請求項10に記載の方法。
【請求項15】
ヒトにおいて冠血管障害を治療するための請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項16】
前記冠血管障害は、高血圧である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記高血圧は、中等度から軽度の本態性高血圧である、請求項16に記載の使用。



【公表番号】特表2010−516712(P2010−516712A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546620(P2009−546620)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000119
【国際公開番号】WO2008/089549
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(507324773)ミラン ファーマシューティカルズ ユーエルシー (4)
【Fターム(参考)】