説明

ノイズ除去フィルタを備える電気モータ

自動車にて使用するための電気モータ(110)は、給電線(130)とコンデンサ(140)とを含む。コンデンサは、電気モータのケーシングの貫通部に収容されていて、給電線(130)とケーシング(120)とに接続されている。貫通部にはさらに別の1つのコンデンサが収容されており、これらのコンデンサは互いに電気的に並列に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行技術
電気モータが動作中に高周波のノイズを放出する傾向にあり、このノイズがワイヤレスにも電気モータの給電線に沿っても伝播し、他の機器の機能を阻害し得るということは公知である。例えば自動車ではファンモータが動作中に高周波のノイズを放出することがあり、このノイズは自動車のラジオのスピーカを通して可聴となるか、または自動車のビデオ装置のディスプレイにて可視となる。
【0002】
放出されるノイズ信号は通常は広帯域であり、このノイズを抑制するには有利には電気モータの近くに配置されているフィルタが必要である。従来技術から、電気モータのノイズを除去するための種々異なるフィルタが公知である。
【0003】
本発明の課題は、自動車にて使用するためのノイズ除去フィルタを備える電気モータを改善することである。
【0004】
発明の概要
本発明の課題は、請求項1に記載の特徴を備えた電気モータによって解決される。従属請求項は、有利な実施形態を表している。
【0005】
本発明によれば、自動車にて使用するための電気モータは給電線と貫通コンデンサとを含む。貫通コンデンサは電気モータのケーシングの貫通部の領域に収容されており、種々異なる周波数のノイズ信号をフィルタリングするために少なくとも2つのコンデンサを含み、これら2つのコンデンサは互いに電気的に並列に接続されており、給電線とケーシングとに接続されている。
【0006】
各コンデンサは、電気モータの給電線に発生する、所定の帯域幅にある所定の周波数のノイズ信号をフィルタリングすることができる。電気的に並列なコンデンサを相応に容量設定することにより、複数の個々のコンデンサの制限されたフィルタ作用を、1つの貫通コンデンサ全体の1つの広帯域のフィルタ作用に統合することができる。さらに個々のコンデンサのフィルタ作用は、電気モータのノイズ信号の既知のスペクトルに依存して容量設定することができ、例えば固定的に設定された回転数が選択可能に複数ある場合には、これらの回転数ないしこれらの回転数の高調波に相当する周波数に依存して容量設定することができる。これによって、自動車の電気モータで使用するために扱いやすいノイズ除去フィルタが得られる。
【0007】
貫通部は、ケーシングにてワイヤレスに伝播するノイズ信号を抑制するよう構成することができ、このようしてコンデンサにおいてノイズ信号が通過しないようになる。このために貫通部は例えば管形に構成することができる。
【0008】
コンデンサは給電線に沿って順次貫通部の中に配置することができ、これらのコンデンサの少なくとも1つは給電線を放射方向に取り囲んでいる。このようにして、機械的には直列に接続されていて電気的には並列に接続されている複数のコンデンサを備える、1つの貫通コンデンサが形成される。このような貫通コンデンサは簡単に取り付けることが可能であり、電気モータの収容能力に良好に適合させることができる。
【0009】
1つの実施形態においては、複数のコンデンサが共通の1つのコンデンサケーシングの中に収容されている。この場合コンデンサケーシングは貫通部の中に収容されている。これによって電気モータの取り付け時にコンデンサを個々に貫通部に挿入する必要がなくなり、一体的なモジュールとして使用することができるので、製品コストを節約することが可能となる。
【0010】
電気モータのケーシングは、貫通部の領域にて、ケーシングと電気的に接続された保持エレメントを有することができ、保持エレメントの中にはコンデンサが導電性に収容されている。このようにして、貫通コンデンサとして構成されていない低コストなコンデンサを使用することができる。
【0011】
保持エレメントは管またはバネを含み、有利には電気モータの軸方向の端部に配置することができる。
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、電気モータの概略図である。
【図2】図2は、図1の貫通コンデンサの電気接続図である。
【図3】図3は、図2のコンデンサの減衰の推移を示す図である。
【図4】図4は、図1および図2の貫通コンデンサの機械構造を示す図である。
【図5】図5は、図1および図2の貫通コンデンサの機械構造の別の実施形態を示す図である。
【図6】図6は、図1の電気モータの貫通部における貫通コンデンサの機械構造の実施形態を示す図である。
【0014】
図1は、自動車105における電気モータ110の概略図を示す。電気モータ110はケーシング120と、給電線130と、ケーシング120を通って貫通部150に収容された貫通コンデンサ140とを含む。電気モータ110は、ブラシを備えた直流モータである。電気モータ110の第1接続端子は、ケーシング120と電気的に接続されている。電気モータ110の第2接続端子は、ケーシング120の内部にて給電線130を介して貫通コンデンサ140に接続されている。ケーシング120の外側では、給電線130が貫通コンデンサ140からさらに延びている。
【0015】
択一的実施形態においては、多極および/またはブラシレスの電気モータ110を使用することもできる。電気モータ110のブラシないし接続端子は必ずしもケーシング120に接続する必要はない。別の実施形態においては、電気モータ110の複数ないし全ての接続端子が、貫通コンデンサ140を用いて、または、専用の貫通コンデンサなしで、ケーシング120の外側へと導かれている。1つの実施形態においては、ケーシング120が、自動車105の車両アースおよび/または供給電圧の負極と接続されている。貫通部150は、ケーシング120を通る開口部と、有利には貫通コンデンサ140を耐高周波にケーシング120と接続する手段、例えば導電管とを含む。
【0016】
電気モータ110の導電性のケーシング120はファラデーケージとして機能し、とりわけ電磁両立性(EMC)の目的で電気モータ110の電磁波を封じ込めるために使用される。貫通コンデンサ140は、給電線130に関して典型的にはゼロまたはほぼゼロのオーム抵抗を有する。さらに貫通コンデンサ140は、給電線130とケーシング120の間で所定の容量を提供する。
【0017】
図2は、図1による貫通コンデンサ140の電気接続図である。第1コンデンサ210、第2コンデンサ220、第3コンデンサ230が、コンデンサケーシング240の中に収容されている。コンデンサケーシング240およびコンデンサ210〜230を通って水平に給電線130が延びている。図示した貫通コンデンサ140の電気接続図は、給電線130によって伝送される電流が、連続した給電線130に沿って障害なく貫通コンデンサ140を通過できる様子を明示している。コンデンサ210〜230の容量は、それぞれ給電線130の一部分と、コンデンサケーシング240に電気的に接続された対向電極との間に形成されている。別の機器においてノイズを引き起こし得る、給電線130とコンデンサケーシング240との間の高周波電圧は、コンデンサ210〜230を介して除去され、この際各コンデンサ210〜230の容量は、それぞれ比較的狭帯域の減衰された電圧周波数領域に割り当てられている。
【0018】
図3は、図2のコンデンサ210〜230の減衰曲線を示す図である。水平方向に周波数がプロットされており、垂直方向に減衰がプロットされている。高い減衰値は、相応の周波数を有する電圧の強い減衰ないし抑制に相当する。減衰曲線310,320,330は、図2のコンデンサ210,220,230に割り当てられている。各減衰曲線310〜330はそれぞれ比較的狭帯域であり、すなわち各コンデンサ210〜230が、それぞれ比較的狭い周波数領域内の信号のみを減衰できるということを意味している。コンデンサ210〜230を相応に容量設定することにより、水平方向における減衰曲線310〜330の相対位置に影響を与えることができる。本発明の1つの実施形態においては、コンデンサ210〜230は、減衰曲線310〜330が、これらの減衰曲線を合計して、1つの貫通コンデンサ140全体に相当するただ1つの比較的狭帯域の減衰曲線を形成するように設定されている。
【0019】
図4は、図1および図2の貫通コンデンサ140の機械構造を示す図である。コンデンサ210,220,230はそれぞれ実質的に円筒形に形成されており、給電線130に同軸に配置されている。給電線は、各コンデンサ210〜230の内部において続いているか、または、それぞれコンデンサ210〜230の導体部材と接続することができる。各コンデンサ210は導電性のスリーブを含むことができ、該導電性スリーブは、絶縁体を用いて給電線ないし導体部材の周囲に同軸に配置されている。このようなスリーブと給電線130の間の距離、スリーブないしスリーブの領域にある給電線130の表面積、ならびに絶縁体の誘電率が、コンデンサの容量を決定している。有利には貫通コンデンサ140の外径は約4mmから15mmの範囲にあり、殊に6mmから10mmの範囲にある。コンデンサ210〜230の通常の容量は、5nFから1200nFの範囲にある。
【0020】
明瞭化のためにコンデンサ210〜230および給電線130を管410から分解して図示している。管410は矢印で示すようにコンデンサ210〜230を収容している。組み立てられた状態においては、コンデンサ210〜230の外側表面が管410と導電性に接続されている。これにより全体として、図1および図2の完成した貫通コンデンサ140が形成される。別の1つの実施形態においては、管410の代わりに、例えば平坦な薄板バネ、渦巻きバネ、または導体からなるメッシュスリーブのような、別の保持体を使用することも可能である。
【0021】
図5は、図1および図2の貫通コンデンサ140の機械構造の別の実施形態を示す図である。この実施形態においては、コンデンサ210〜230はコンデンサケーシング240の中に配置されている。図4の実施形態に相応して、図2にも図示したように、それぞれ給電線230とコンデンサケーシング240との間にコンデンサ210〜230の容量が存在する。任意の構造および形状のコンデンサを使用することができ、例えばフィルムコンデンサ、MPコンデンサ、プラスチックコンデンサ、電解質コンデンサ等を使用することができる。したがって個々のコンデンサ210〜230の軸に沿った構造は維持する必要がなく、コンデンサ210〜230は任意の方法でコンデンサケーシング240の中に配置することができる。図5に図示した貫通コンデンサ140の機械構造は、機能的に図4に図示した構造の小型化およびカプセル化に相当し、例えば、内部で使用されているただ1つの容量値を備える貫通コンデンサから既知の寸法で製造することができる。コンデンサケーシング240には外側に縁部510を設けて、図1の貫通部150のような開口部における貫通コンデンサ140の軸方向の動きを制限することができる。図5の貫通コンデンサ140のコンデンサケーシング240に、例えばフランジ、クランプ、穿孔、曲縁部、はんだ付け縁部、クリップ収容部、リベットヘッド等のような別の固定エレメントを設けることも可能である。
【0022】
図6は、図1の電気モータ110の貫通部150における貫通コンデンサ140の機械構造の実施形態を示す図である。図1の電気モータ110のケーシング120の軸に沿った部分が垂直方向に伸長している。ケーシング120の上側の端面には、図5に図示した形状の第1貫通コンデンサ140が軸方向に嵌め込まれている。貫通部150は、ここではケーシング120に設けられたコンデンサケーシング240に適合する開口部から形成されている。図5に関連して上に説明したように、第1貫通コンデンサ140は任意の公知技術によってケーシング120と接続することができる。接続の際には、貫通コンデンサ140とケーシング120の間の電気コンタクトが良好になるよう考慮し、さらにその接続が電磁放射を通過させないようにすると有利である。最も有利な接続方法ははんだ付けを含む。
【0023】
図4に図示した形状の第2貫通コンデンサ140が、ケーシング120の外側において、ケーシング120の軸に沿った伸長方向に平行に延びている。貫通部150はここでは適合する開口部の他に、図4で図示した貫通コンデンサ140の管410も含む。この管410は下側端部に約90°の角度に屈曲された屈曲部を有し、この屈曲部の端部において管410は例えばはんだ付けまたは溶接によってケーシング420と接続されている。図示していない択一的な実施形態においては、第2貫通コンデンサ140をケーシング120の内側にも延在させることができる。管410の屈曲は必ずしも必要なわけではなく、主に構造スペースの節約のために実施されている。第3貫通コンデンサ140は、ケーシング120に対して放射方向に伸長している。この第3貫通コンデンサ140に対応する貫通部150は、ケーシング120に設けられた開口部の他にバネクリップ610も含む。実質的に円筒形のコンデンサ210,220はバネクリップ610によって収容され、このバネクリップ610は、例えばはんだ付けまたは溶接のような任意の方法によってケーシング120と接続されている。
【0024】
図6に図示した全ての貫通コンデンサ140の実施形態は、ケーシング120の内側と外側の間に延在しており、ケーシング120と電気的に接続されている。フィルタリング品質を良好にするために、貫通コンデンサ140とケーシングとの間の電気接続をできるだけ接続領域全体に設けることが重要である。例えばこれらの貫通コンデンサ140のうちの1つの貫通部150の領域にケーシング120の隙間が残っている場合には、この隙間を通って電磁干渉放射がケーシング120から脱出して、貫通コンデンサ140のフィルタリングをすり抜けることがある。
【0025】
本発明によれば、自動車における電気モータのノイズ除去を簡単化かつ小型化することができ、複数のコンデンサ210〜230を適切に容量設定することによって、電気モータ110のノイズ周波数における所与のスペクトルを所期のように克服することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電線(130)と貫通コンデンサ(140)とを備える、自動車(105)にて使用するための電気モータ(110)であって、
前記貫通コンデンサ(140)は、前記電気モータ(110)のケーシング(120)の貫通部(150)の領域に収容されていて、前記給電線(130)と前記ケーシング(120)とに接続されている、
電気モータ(110)において、
前記貫通コンデンサ(140)は、異なる周波数のノイズ信号をフィルタリングするために、互いに電気的に並列に接続された少なくとも2つのコンデンサ(210−230)を含む、
ことを特徴とする電気モータ(110)。
【請求項2】
前記コンデンサ(210−230)は、前記給電線(130)に沿って順次前記貫通部(150)の中に配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載の電気モータ(110)。
【請求項3】
少なくとも1つのコンデンサ(210−230)は、前記給電線(130)を放射方向に取り囲んでいる、
ことを特徴とする請求項1または2記載の電気モータ(110)。
【請求項4】
複数の前記コンデンサ(210−230)は、共通の1つのコンデンサケーシング(240)の中に配置されており、
前記コンデンサケーシング(240)は、前記貫通部(150)の中に収容されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の電気モータ(110)。
【請求項5】
前記ケーシング(120)は、前記貫通部(150)の領域にて、前記ケーシング(120)に電気的に接続された保持エレメント(410、610)を有し、
前記保持エレメント(410、610)の中に、前記コンデンサが導電性に収容されている、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の電気モータ(110)。
【請求項6】
前記保持エレメントは管(410)を含む、
ことを特徴とする請求項5記載の電気モータ(110)。
【請求項7】
前記保持エレメントは薄板バネ(610)を含む、
ことを特徴とする請求項5記載の電気モータ(110)。
【請求項8】
前記保持エレメント(410、610)は、前記電気モータ(110)の軸方向の端部に配置されている、
ことを特徴とする請求項5から8のいずれか一項記載の電気モータ(110)。
【請求項9】
前記保持エレメント(410、610)は、前記自動車(105)の車両アースに電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項5から8のいずれか一項記載の電気モータ(110)。
【請求項10】
前記電気モータ(110)の前記ケーシング(120)は、前記自動車(105)の車両アースに電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の電気モータ(110)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−514750(P2013−514750A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543544(P2012−543544)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065965
【国際公開番号】WO2011/072915
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】