説明

ノズル基板、ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】製造工程を簡単化でき、高精度にノズル孔を形成することが可能な構造を有するノズル基板等を提供する。
【解決手段】液滴を吐出するノズル孔11が形成されたノズル基板1であって、複数の基板を積層し接合した構成を有し、各基板1a,1bには、それぞれ基板毎に異なる内径のノズル部11a,11bが略垂直方向に貫通形成されており、ノズル部の内径が徐々に大きくなるように複数の基板1a,1bが積層され、断面階段形状のノズル孔11が形成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するためのノズル孔を有するノズル基板、ノズル基板の製造方法、ノズル基板を備えた液滴吐出ヘッド及びその液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する圧力室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により圧力室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が一段と強まり、そのため高密度化並びに吐出性能の向上が強く要求されている。このような背景から、インクジェットヘッドのノズル部に関して、従来より様々な工夫、提案がなされている。
【0003】
インク吐出特性を改善するためには、ノズル孔での流路抵抗を調整し、ノズル長さが最適な長さになるように基板の厚みを調整することが望ましい。また、ノズル形状を、全体として円筒状のノズル孔とするのではなく、径が異なる複数の孔を同一軸上に有する形状(例えば、径を異ならせた第1ノズル部と第2ノズル部とからなる2段ノズル形状)とし、ノズル孔に加わるインク圧力の方向をノズル軸線方向に揃えることで吐出特性を改善する方法もある。
【0004】
このように、ノズル形状を2段ノズル形状としたり、ノズル長の調整を図るようにしたノズル基板の製造方法として、シリコン基板の一方の面側からICP放電を用いた異方性ドライエッチングを行い、内径の異なる第1ノズル部と第2ノズル部とを形成してノズル孔を2段に形成した後、前記一方の面とは反対側の面より、第1ノズル部の先端が開口するまで研削加工するようにした方法(例えば、特許文献1参照)がある。
【特許文献1】特開2007−253390号公報(図5〜図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通常、吐出口を有する第1ノズル部に対しては厳しい精度が要求されているが、第2ノズル部に対してはさほど精度が要求されていない。しかしながら、特許文献1の技術では、2回のエッチングで深掘りして第1ノズル部を形成しているため、第1ノズル部の径精度が十分に得られないという問題があった。また、第1ノズル部が基板面に対して垂直に形成されなかった場合、インク吐出の飛行曲がりを招く可能性があった。さらに、研削加工により削られた面が吐出面となることから、エッチング精度に加えて研削加工精度も必要であり、仕上がりのノズル孔精度の向上が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、製造工程を簡単化でき、高精度にノズル孔を形成することが可能な構造を有するノズル基板、その製造方法、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、ノズル基板の製造に要する製造工程簡単化が可能で、加工精度の高いノズル孔を形成することが可能なノズル基板、ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るノズル基板は、液滴を吐出するノズル孔が形成されたノズル基板であって、複数の基板を積層し接合した構成を有し、各基板には、それぞれ基板毎に異なる内径のノズル部が略垂直方向に貫通形成されており、ノズル部の内径が吐出方向後端側に向かって徐々に大きくなるように複数の基板が積層され、断面階段形状のノズル孔が形成されているものである。
このように、多段構造を有するノズル孔の各段部分毎に、基板を分けたノズル基板構造としたので、各段の基板には、それぞれ直線状の貫通孔を形成すればよい。したがって、1枚の基板に対し、ノズル孔を多段に形成する場合のエッチングの深掘りが不要となり、ノズル孔、特に吐出口を有するノズル部のノズル径精度を向上することが可能となる。すなわち、吐出方向の内周面の真円度を高めることができ、ノズル孔精度の向上が可能である。その結果、吐出時の飛行曲がりを低減することが可能なノズル基板を得ることができる。
【0009】
また、本発明に係るノズル基板は、吐出方向の先端となる1層目の基板に、シリコン基板を用いたものである。
これにより、吐出口を有するノズル部を、フォトリソグラフィを用いて垂直に貫通形成できるため、吐出方向の内周面の真円度を高めることができ、精度向上に寄与する。
【0010】
また、本発明に係るノズル基板は、1層目以外の層にSUS基板を用いたものである。
これにより、プレス加工を用いてノズル部の形成が可能となり、多層構造のノズル基板を容易に作製することが可能である。
【0011】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、上記の何れかのノズル基板の製造方法であって、各基板のそれぞれに、対応のノズル部を貫通形成した後、ノズル部の内径が吐出方向後端側に向かって徐々に大きくなるように各基板を積層して接合するものである。
このように、各層の基板に、それぞれ段差の無い貫通孔を形成するので、1枚の基板に対してノズル孔を多段に形成する場合に比べて、ノズル孔の径精度を向上することができる。その結果、吐出時の飛行曲がりを低減することが可能なノズル基板を製造することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、各基板のうち、シリコン基板で形成された基板に対しては、接合する前に耐液滴性を有する保護膜を形成するものである。
これにより、保護膜を最適な条件で形成することができる。すなわち、基板を接合する前の単独の基板に対し保護膜を形成するため、保護膜形成時の成膜条件等が他の基板に与える影響を考慮することなく、最適な条件を選択して保護膜を形成することができる。
【0013】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、保護膜は酸化膜であるものである。
保護膜として酸化膜を用いることが可能である。
【0014】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、上記の何れかのノズル基板の製造方法であって、吐出方向の先端となる1層目以外の基板に、対応のノズル部を貫通形成した後、1層目の基板に接合し、その後、1層目の基板に、対応のノズル部を形成するものである。
これにより、1層目の基板を、2層目以降の基板で支持した状態で一層目のノズル部を形成することができるため、ハンドリングが容易となる。したがって、各基板にそれぞれ単独で対応のノズル部を形成してから接合する場合に比べて、歩留まり向上が期待できる。
【0015】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、各基板のうち、シリコン基板で形成された基板に対しては、接合する前に耐液滴性を有する保護膜を形成するものである。
これにより、保護膜を最適な条件で形成することができる。すなわち、基板を接合する前の単独の基板に対し保護膜を形成するため、保護膜形成時の成膜条件等が他の基板に与える影響を考慮することなく、最適な条件を選択して保護膜を形成することができる。
【0016】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、保護膜が酸化膜であるものである。
保護膜として酸化膜を用いることが可能である。
【0017】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、上記の何れかのノズル基板の製造方法であって、複数の基板が、互いに接合し合う基板に応じた接合方法で接合されているものである。
これにより、多層構造のノズル基板を容易に形成することができる。
【0018】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、上記の何れかのノズル基板の製造方法であって、1層目の基板はシリコン基板であり、フォトリソグラフィー法を用いて所定部分をエッチング除去して対応のノズル部を形成するものである。
このようにフォトリソグラフィー法及びエッチングを用いることにより、吐出方向の内周面の真円度が高く、精度の高いノズル孔を形成することができる。
【0019】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記の何れかのノズル基板と、ノズル基板の複数のノズルそれぞれに連通して液滴を収容する複数の圧力室を有するキャビティ基板と、圧力室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有するものである。
これにより、安定した液滴吐出特性を有する液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0020】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドが搭載されているものである。
これにより、安定した液滴吐出特性を有する液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のノズル基板の製造方法で製造されたノズル基板を備える液滴吐出ヘッドの実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、静電駆動式のインクジェットヘッドについて図1及び図2を参照して説明する。なお、アクチュエータ(圧力発生手段)は静電駆動方式に限られたものではなく、その他の圧電素子や発熱素子等を利用する方式であってもよい。
【0022】
図1は、本実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は、図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図である。なお、図1及び図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0023】
本実施の形態のインクジェットヘッド10は、図1及び図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0024】
以下、各基板の構成を更に詳しく説明する。
ノズル基板1は、後述する製造方法により製造された多層構造を有し、例えば厚さが280μmから60μm程度を有している。ノズル基板1を構成する複数の基板のそれぞれには、基板毎にそれぞれ異なる内径のノズル部が基板面に対して垂直方向に貫通形成されている。そして、各基板を、ノズル部の内径が吐出方向後端側に向かって徐々に大きくなるように積層することによりノズル孔11が形成されている。ここでは、第1層基板1aと第2層基板1bとの2層構造を有し、第1層基板1aに、吐出方向の先端側となる円筒状の第1ノズル部11aが形成されている。また、第2層基板1bに、第1ノズル部11aよりも大きい内径を有し、吐出方向の後端側となる円筒状の第2ノズル部11bが形成されている。したがって、ノズル孔11は、吐出方向の先端側から後端側に向けて開口断面が段階的に大きくなる2段の多段構造に形成されている。このように、ノズル孔11を多段構造(ここでは2段構造)とすることにより、インク滴を吐出する際の直進性を向上させることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることが可能となる。
【0025】
ここで、第1層基板1aは、シリコン基板から作製されている。これは、上述したように、第1ノズル部11aには厳しい寸法精度が要求されることから、半導体製造プロセス(具体的にはフォトリソグラフィ法を用いたエッチングプロセス)を用いた加工を可能とするためである。また、第1ノズル部11a以外のノズル部には、さほど精度が要求されないことから、第2層以降の基板には、シリコン基板に限られず任意の基板を選択可能であり、例えばSUS、Ni、ホウ珪酸ガラス、ドライフィルム、樹脂基板などが選択される。ここでは、第2層基板1bをSUS基板で構成するものとして以下の説明を行う。
【0026】
また、ノズル基板1の第1層基板1aの表面には、例えばSiO2 膜が耐インク膜(保護膜)104として熱酸化により形成されている。また、第2層基板1bは、ここではSUS基板を用いているため保護膜は不要であるが、第2層基板1bに用いられる基板に応じて適宜の保護膜が形成される。
【0027】
キャビティ基板2は、シリコン基板から作製されている。このシリコン基板にウェットエッチングを施すことにより、インク流路の圧力室21となる凹部25、オリフィス23となる凹部26、及びリザーバ24となる凹部27が形成される。凹部25は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部25は圧力室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、圧力室21(凹部25)の底壁が振動板22となっている。
【0028】
凹部26は、細溝状のオリフィス23を構成し、この凹部26を介して凹部25(圧力室21)と凹部27(リザーバ24)とが連通している。
凹部27は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各圧力室21に共通のリザーバ(共通インク室)24を構成する。そして、リザーバ24(凹部27)はそれぞれオリフィス23を介して全ての圧力室21に連通している。なお、オリフィス23(凹部26)は前記ノズル基板1の裏面(キャビティ基板2との接合側の面)に設けることもできる。また、リザーバ24の底部には後述する電極基板3を貫通する孔が設けられ、この孔のインク供給孔34を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0029】
また、キャビティ基板2の全面には熱酸化やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によりSiO2 やTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)膜等からなる絶縁膜28が膜厚0.1μmで施されている。この絶縁膜28は、インクジェットヘッド10を駆動させた時の絶縁破壊や短絡を防止する目的で設けられる。
【0030】
電極基板3は、例えば厚さ約1mmのガラス基板から作製される。中でも、キャビティ基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティ基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2を強固に接合することができるからである。なお、前記ノズル基板1も同様の理由から硼珪酸系のガラス基板を用いることができる。
【0031】
電極基板3には、キャビティ基板2の各振動板22に対向する面の位置にそれぞれ凹部32が設けられている。凹部32は、エッチングにより深さ約0.3μmで形成されている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成される。したがって、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)は、この凹部32の深さ、個別電極31及び振動板22を覆う絶縁膜28の厚さにより決まることになる。このギャップはインクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響するため、高精度に形成される。
【0032】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキャビティ基板2の末端部が開口された電極取り出し部30内に露出している。
【0033】
上述したように、ノズル基板1、キャビティ基板2及び電極基板3は、図2に示すように貼り合わせることによりインクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、キャビティ基板2と電極基板3は陽極接合により接合され、そのキャビティ基板2の上面(図2において上面)にノズル基板1が接着等により接合される。さらに、振動板22と個別電極31との間に形成される電極間ギャップの開放端部はエポキシ等の樹脂による封止材35で封止される。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップへ侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
【0034】
そして最後に、図2に簡略化して示すように、ドライバIC等の駆動制御回路5が各個別電極31の端子部31bとキャビティ基板2上に設けられた共通電極29とに前記フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続される。
以上により、インクジェットヘッド10が完成する。
【0035】
次に、以上のように構成されたインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路5は、個別電極31に電荷の供給及び停止を制御する発振回路である。この発振回路は例えば24kHzで発振し、個別電極31に例えば0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。発振回路が駆動し、個別電極31に電荷を供給して正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、個別電極31と振動板22間に静電気力(クーロン力)が発生する。したがって、この静電気力により振動板22は個別電極31に引き寄せられて撓む(変位する)。これによって圧力室21の容積が増大する。そして、個別電極31への電荷の供給を止めると振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、圧力室21の容積が急激に減少するため、そのときの圧力により圧力室21内のインクの一部がインク滴としてノズル孔11より吐出する。振動板22が次に同様に変位すると、インクがリザーバ24からオリフィス23を通じて圧力室21内に補給される。
【0036】
本実施の形態のインクジェットヘッド10は、前述したように、ノズル孔11がノズル基板1の表面(吐出面)に対して垂直な筒状の第1ノズル部11aと、この第1ノズル部11aと同軸上に設けられ第1ノズル部11aよりも径の大きい第2ノズル部11bとから構成されているため、インク滴をノズル孔11の中心軸方向に真っ直ぐに吐出させることができ、きわめて安定した吐出特性を有する。
【0037】
次に、このインクジェットヘッド10の製造方法を図3〜図6を参照して説明する。図3は、本発明の実施の形態に係るノズル基板を示す上面図、図4は、ノズル基板の製造工程を示す断面図(図3をA−A線で切断した断面図)である。
【0038】
(1)ノズル基板1の製造方法
以下、ノズル基板1の製造工程を、図4を用いて説明する。本例のノズル基板1の製造方法は、各ノズル部をそれぞれ別々の基板で形成し、これら各基板を接合することにより形成することに特徴を有するものであり、以下、具体的に説明する。
(A)まず、第1層基板1aとなるシリコン基板100を用意し、熱酸化装置にセットし、酸化温度1075℃、酸化時間4時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、シリコン基板100の両面100a、100bに、膜厚1μmのSiO2膜101a、101bを均一に成膜する。
(B)シリコン基板100の一方の面100aにレジスト102をコーティングし、フォトリソグラフィにより、そのレジスト102から第1ノズル部11aに対応する部分102aを除去し、レジストパターンを形成する。
(C)そして、そのレジストパターンをマスクとして、例えば、緩衝フッ酸水溶液(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でエッチングし、SiO2膜101aから第1ノズル部11aに対応する部分103を開口する。このとき、他方の面100bのSiO2膜101bもエッチングされ、完全に除去される。
【0039】
(D)レジストパターンを硫酸洗浄などにより剥離する。
(E)ICPドライエッチング装置によりSiO2膜101aの開口103を介して、垂直に異方性ドライエッチングし、第1ノズル部11aを形成する。このように、シリコン基板100に対する1回のドライエッチング工程で第1ノズル部11aを形成するため、従来の複数回のドライエッチングによる深掘りで形成する場合に比べて、精度良く第1ノズル部11aを形成することができる。なお、この場合のエッチングガスとしては、例えば、C48、SF6を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで、C48は、凹部41cの側面方向にエッチングが進行しないように第1ノズル部11aの側面を保護するために使用し、SF6は、シリコン基板41の垂直方向のエッチングを促進させるために使用する。なお、ここでは、C48 を2秒、SF6 を3.5秒で交互にエッチングするようにしている。
【0040】
(F)シリコン基板100の表面に残るSiO2膜101aをフッ酸水溶液で除去する。
(G)そして、シリコン基板100を再度熱酸化装置にセットし、SiO2 膜を耐インク膜(保護膜)104として形成する。
以上により、第1層基板1aが完成する。
【0041】
(H)続いて、第2層基板1bとなるSUS基板110に、第2ノズル部11bを形成する。第2ノズル部11bは第1ノズル部11aに比べて精度要求が厳しくないことから、ここでは、プレス加工により第2ノズル部11bを形成する。
【0042】
(I)第1ノズル11aが形成された第1層基板1aと、第2ノズル部11bが形成された第2層基板1bとを接合する。接合方法は、接合される基板同士の接合に適した接合方法が選択されるものとする。ここでは、第1層基板1aがシリコン基板、第2層基板1bがSUS基板であることから、表面活性接合により接合する。第1層基板1aと第2層基板1bとを接合する際の位置合わせは、赤外線を用いた既存の位置合わせ方法や、ピンアライメント方法等により行う。
以上の工程を経ることにより、シリコン基板100とSUS基板110とからノズル基板1が作製される。
【0043】
なお、この例では、第2層基板1bをSUS基板としたため、SUS基板に対する保護膜の形成工程を省略したが、第1層基板1aと同様にシリコン基板で構成する場合には、第1層基板1aと接合する前に保護膜を形成するものとする。
【0044】
また、この例では、各層基板のそれぞれに対応のノズル部を形成した後に各層基板を接合するようにしたが、これに限られたものではなく、第2層基板1bに第2ノズル部11bを形成した後、第1ノズル部11aが未形成の第1層基板1aを接合し、その接合基板の第1層基板1aに、第1ノズル部形成及び保護膜形成を行うようにしてもよい。この場合、第1層基板1aを第2層基板1bで支持した状態で第1ノズル部11aを形成することができるため、ハンドリングが容易となる。したがって、各層基板にそれぞれ単独で対応のノズル部を形成してから接合する場合に比べて、歩留まり向上が期待できる。
【0045】
(2)キャビティ基板2および電極基板3の製造方法
ここでは、電極基板3にシリコン基板100を接合した後、そのシリコン基板100からキャビティ基板2を製造する方法について図5、図6を参照して簡単に説明する。
【0046】
電極基板3は以下のようにして製造される。
(A)まず、硼珪酸ガラス等からなる板厚約1mmのガラス基板300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔34となる孔部34aを形成することにより、電極基板3が作製される。
【0047】
(B)次に、厚さが例えば525μmのシリコン基板200の両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板200の片面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって厚さ0.1μmのSiO2 膜(絶縁膜)28を形成する。なお、シリコン基板200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0048】
(C)そして、このシリコン基板200と、図5(A)のように作製された電極基板3とを、例えば360℃に加熱し、シリコン基板200に陽極を、電極基板3に陰極を接続して800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する。
(D)シリコン基板200と電極基板3とを陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基板200をエッチングすることにより、シリコン基板200の厚さを例えば140μmになるまで薄板化する。
【0049】
(E)次に、シリコン基板200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面にプラズマCVDによって例えば厚さ1.5μmのTEOS膜を形成する。
そして、このTEOS膜に、圧力室21となる凹部25およびリザーバ24となる凹部27を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のTEOS膜をエッチング除去する。
その後、シリコン基板200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、圧力室21となる凹部25およびリザーバ24となる凹部27を形成する。このとき、配線のための電極取り出し部30となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、図6(E)のウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0050】
(F)シリコン基板200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングすることによりシリコン基板200の上面に形成されているTEOS膜を除去する。
(G)次に、シリコン基板200の圧力室21となる凹部25等が形成された面に、プラズマCVDによりSiO2 膜(絶縁膜28)を例えば厚さ0.1μmで形成する。
(H)その後、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部30を開放する。また、電極基板3のインク供給孔34となる孔部からレーザ加工を施してシリコン基板200のリザーバ24となる凹部27の底部を貫通させ、インク供給孔34を形成する。また、振動板22と個別電極31との間のギャップの開放端部をエポキシ樹脂等の封止材(図示せず)を充填することにより封止する。また、図1、図2に示すように共通電極29がスパッタによりシリコン基板200の上面(ノズル基板1との接合側の面)の端部に形成される。
【0051】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基板200からキャビティ基板2が作製される。
そして最後に、このキャビティ基板2に、前述のように作製されたノズル基板1を接着等により接合することにより、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0052】
このように、本実施の形態によれば、多段構造を有するノズル孔1の各段部分毎に、基板を分けたノズル基板構造としたので、各段の基板には、それぞれ直線状の貫通孔を形成すればよい。したがって、1枚の基板に対してノズル孔を多段に形成する場合と比べて、エッチングの深掘りが不要となり、ノズル孔、特に吐出口を有する第1ノズル部11aのノズル径精度を向上することが可能となる。すなわち、第1ノズル部11aは、フォトリソグラフィを用いて垂直に貫通形成されるため、吐出方向の内周面の真円度を高めることができ、高精度に形成できる。その結果、吐出時の飛行曲がりを低減することが可能なノズル基板1を提供することが可能となる。
【0053】
また、ノズル基板1を、厳しい精度が要求される第1ノズル部11aを有する第1層基板1aと、第2層以降の基板とを分けた構造としたことにより、第2層以降の基板に関しては、加工精度よりも生産性を優先し、量産に向いた加工方法を選択できる。これにより、ノズル基板1として必要とされる精度を満たしながらも、生産性向上を図ることが可能となる。
【0054】
また、第2層以降の基板にSUS基板を用いた場合には、プレス加工でノズル部を形成することが可能であるため、多層構造のノズル基板1を容易に作製することが可能である。
【0055】
また、吐出口を有する第1層基板1aはシリコン基板で構成されるが、その他の第2層以降の基板に対してはシリコン基板に限定されず、他の基板を選択しても良いため、安価な素材を使用することで、コスト削減を図ることが可能となる。
【0056】
また、各基板を接合する前に、必要に応じて基板に耐液滴性を有する保護膜を形成しているので、保護膜を最適な条件で形成することができる。すなわち、基板を接合する前の単独の基板に対し保護膜を形成するため、保護膜形成時の成膜条件等が他の基板に与える影響を考慮することなく、最適な条件を選択して保護膜を形成することができる。
【0057】
また、各層基板を接合する際には、基板同士の接合に適した接合方法を選択するようにしているので、表面活性接合や陽極接合など接着剤を用いない接合を行うことができ、多層構造のノズル基板を容易に形成することができる。
【0058】
また、本例のノズル基板1は、複数の基板を積層した構成とするとともに、第2層以降の基板の選択の幅が広がるため、ノズル基板1の厚さの自由度が増す。このため、例えば、仮にノズル基板1の厚さを厚くしたい場合、基板数を多くしたり、厚みが厚い基板を選択することにより対応することが可能である。一方、1枚の基板からノズル孔を形成する従来構造の場合、ノズル基板1の厚さが厚くなると、ノズル孔を深掘りする必要があり、精度面での問題が懸念されるが、本例のノズル基板構造の場合、このような不都合が生じない。
【0059】
このような利点を有するノズル基板1を備えたインクジェットヘッド10は、インク滴の飛翔方向のばらつきを抑え、インク滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮することができる。
【0060】
なお、本実施の形態では、ノズル基板1、キャビティ基板2及び電極基板3を備えた3層構造のインクジェットヘッドにおけるノズル基板の製造方法について説明したが、ノズル基板、リザーバ基板、キャビティ基板及び電極基板を備えた4層構造のインクジェットヘッド(例えば、特開平2007−50522号公報)におけるノズル基板の製造方法としても、本発明を適用できる。
【0061】
また、上記の実施の形態では、ノズル基板1の構造及びその製造方法、並びにインクジェットヘッド及びその製造方法について述べたが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、ノズル孔11より吐出される液状材料を変更することにより、図7に示すインクジェットプリンタ400のほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、プリント配線基板製造装置にて製造する配線基板の配線部分の形成、生体液滴の吐出(プロテインチップやDNAチップの製造)など、様々な用途の液滴吐出装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態のノズル基板を備えたインクジェットヘッドの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの概略縦断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係るノズル基板を示す上面図。
【図4】ノズル基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図5】図4に続くインクジェットヘッドの製造工程の断面図。
【図6】図5に続くインクジェットヘッドの製造工程の断面図。
【図7】本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッドを使用したインクジェットプリンタの斜視図。
【符号の説明】
【0063】
1 ノズル基板、1a 第1層基板、1b 第2層基板、2 キャビティ基板、3 電極基板、5 駆動制御回路、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、11a 第1ノズル部、11b 第2ノズル部、21 圧力室、22 振動板(圧力発生手段)、28 絶縁膜、29 共通電極、31 個別電極(圧力発生手段)、100 シリコン基板、110 SUS基板、400 インクジェットプリンタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズル孔が形成されたノズル基板であって、
複数の基板を積層し接合した構成を有し、前記各基板には、それぞれ基板毎に異なる内径のノズル部が略垂直方向に貫通形成されており、前記ノズル部の内径が吐出方向後端側に向かって徐々に大きくなるように前記複数の基板が積層され、断面階段形状のノズル孔が形成されていることを特徴とするノズル基板。
【請求項2】
吐出方向の先端となる1層目の基板に、シリコン基板を用いることを特徴とする請求項1記載のノズル基板。
【請求項3】
前記1層目以外の層にSUS基板を用いることを特徴とする請求項2記載のノズル基板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のノズル基板の製造方法であって、
前記各基板のそれぞれに、対応のノズル部を貫通形成した後、前記ノズル部の内径が吐出方向後端側に向かって徐々に大きくなるように前記各基板を積層して接合することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項5】
前記各基板のうち、シリコン基板で形成された基板に対しては、接合する前に耐液滴性を有する保護膜を形成することを特徴とする請求項4記載のノズル基板の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜は酸化膜であることを特徴とする請求項5記載のノズル基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のノズル基板の製造方法であって、
吐出方向の先端となる1層目以外の基板に、対応のノズル部を貫通形成した後、前記1層目の基板に接合し、その後、前記1層目の基板に、対応のノズル部を形成することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項8】
前記各基板のうち、シリコン基板で形成された基板に対しては、接合する前に耐液滴性を有する保護膜を形成することを特徴とする請求項7記載のノズル基板の製造方法。
【請求項9】
前記保護膜は酸化膜であることを特徴とする請求項8記載のノズル基板の製造方法。
【請求項10】
前記複数の基板は、互いに接合し合う基板に応じた接合方法で接合されていることを特徴とする請求項4乃至請求項9の何れかに記載のノズル基板の製造方法。
【請求項11】
前記1層目の基板はシリコン基板であり、フォトリソグラフィー法を用いて所定部分をエッチング除去して対応のノズル部を形成することを特徴とする請求項4乃至請求項10の何れかに記載のノズル基板の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のノズル基板と、該ノズル基板の前記複数のノズルそれぞれに連通して液滴を収容する複数の圧力室を有するキャビティ基板と、該圧力室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項12記載の液滴吐出ヘッドが搭載されていることを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−297941(P2009−297941A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152686(P2008−152686)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】