説明

ノックセンサ

【課題】ノックセンサ1の検出素子に発生する電圧に関して、ノックセンサ1から電圧を入力されるECUが、ノッキングによる発生電圧のみを把握できるようにする
【解決手段】ノックセンサ1は、ノッキングによる振動の方向と略一致する方向に分極する第1ピエゾ素子2と、第1ピエゾ素子2と別体に設けられ、第1ピエゾ素子2が分極する方向と略直交する方向に分極する第2ピエゾ素子3とを備える。これにより、第2ピエゾ素子3の分極方向は、ノックセンサ1の首振り振動の原因となっている吸排気弁の着座等による振動方向と略一致する。このため、ノックセンサ1は、第2ピエゾ素子3により、吸排気弁の着座等による首振り振動を高感度に検出することができる。したがって、ECUは、第1、第2ピエゾ素子2、3から出力される電圧V1、V2を個別に得ることで、ノッキングによる発生電圧のみを正確に把握できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのノッキングを検出するノックセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノックセンサ100は、図5に示すように、ノッキングによる振動方向(すなわち、シリンダボディ101に略垂直な方向)と、検出素子としてのピエゾ素子102の分極方向とを略一致させて、高感度にノッキングを検出できるようにシリンダボディ101の側面に取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。そして、電子制御装置(ECU:図示せず)は、ノックセンサ100から出力される電圧に基づいて、エンジン103における燃料の燃焼状態を把握する。
【0003】
エンジン103は、燃焼室104への吸排気を行うための吸排気弁105を備えるが、吸排気弁105の着座等に伴う振動は、ノックセンサ100を振り子のように振動させる(図5(b)参照:以下、吸排気弁105の着座等に伴いノックセンサ100が振り子のように振動することを「首振り振動」と呼ぶ)。これにより、ピエゾ素子102には、ノッキングによる振動方向と略一致する方向に捩り力が作用する(図5(c)参照)。
【0004】
このため、ピエゾ素子102は、ノッキングによる発生電圧に首振り振動による発生電圧を重ねて発生するので、ノックセンサ100は、ノッキングによる発生電圧のみを出力することができない。この結果、ECUは、エンジン103における燃料の燃焼状態を正確に把握することができない。
【特許文献1】特開2004−251676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ノックセンサのピエゾ素子に発生する電圧に関して、ノックセンサから電圧を入力されるECUが、ノッキングによる発生電圧のみを把握できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載のノックセンサは、エンジンの外面に装着されてノッキングを検出するものであり、ノッキングによる振動の方向と略一致する方向に分極する第1ピエゾ素子と、第1ピエゾ素子と別体に設けられ、第1ピエゾ素子が分極する方向と略直交する方向に分極する第2ピエゾ素子とを備える。
これにより、第2ピエゾ素子の分極方向は、首振り振動の原因となっている吸排気弁の着座等による振動方向と略一致する。このため、ノックセンサは、第2ピエゾ素子により、吸排気弁の着座等による首振り振動を高感度に検出することができる。したがって、ECUは、第1、第2ピエゾ素子から出力される電圧を個別に得たり、第1ピエゾ素子と第2ピエゾ素子との検出差分に基づく電圧を得たりすることで、ノッキングによる発生電圧のみを正確に把握できる。
【0007】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載のノックセンサによれば、第1ピエゾ素子が第2ピエゾ素子の内周側に、または第2ピエゾ素子が第1ピエゾ素子の内周側に同軸的に配されている。
これにより、第1、第2ピエゾ素子は、ノッキングによる振動と首振り振動とをシリンダボディ外面の同一位置において検出することができる。このため、ECUは、より正確にノッキングによる発生電圧を把握できる。
【0008】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載のノックセンサによれば、エンジンの吸気弁および排気弁は、可変バルブタイミング機構により駆動される。
吸気弁および排気弁が可変バルブタイミング機構により駆動される場合、吸気弁および排気弁の着座周期が燃料の爆発燃焼周期に対して進んだり遅れたりするので、ノッキングによる発生電圧と首振り振動による発生電圧との比率が常に変動する。このため、吸気弁および排気弁が可変バルブタイミング機構により駆動される場合、請求項1、2の手段による効果を顕著に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
最良の形態のノックセンサは、エンジンの外面に装着されてノッキングを検出するものであり、ノッキングによる振動の方向と略一致する方向に分極する第1ピエゾ素子と、第1ピエゾ素子と別体に設けられ、第1ピエゾ素子が分極する方向と略直交する方向に分極する第2ピエゾ素子とを備える。
また、第2ピエゾ素子が第1ピエゾ素子の内周側に同軸的に配されている。さらに、エンジンの吸気弁および排気弁は、可変バルブタイミング機構により駆動される。
【実施例1】
【0010】
〔実施例1の構成〕
実施例1のノックセンサ1の構成を、図1ないし図4を用いて説明する。
ノックセンサ1は、エンジン(図示せず)のシリンダボディ(図示せず)に取り付けられてエンジンのノッキングを検出するものであり、図1および図2に示すように、検出素子として、互いに同軸的に配される2つの環状の第1、第2ピエゾ素子2、3を備える。そして、第2ピエゾ素子3は第1ピエゾ素子2の内周側に同軸的に配されている。
【0011】
なお、ノックセンサ1が取り付けられるエンジンは、可変バルブタイミング機構(図示せず)により吸気弁および排気弁(図示せず:以下、吸排気弁と略す)が駆動されるものである。
【0012】
第1、第2ピエゾ素子2、3は、円筒状のスリーブ5に外嵌めされた状態で、各々、軸方向、径方向に圧縮固定されている。ここで、スリーブ5は、第1、第2ピエゾ素子2、3の外嵌めを受ける円筒部6と、円筒部6の軸方向左側に設けられるフランジ部7を有し、円筒部6にはナット8の雌ネジが螺合する雄ネジが設けられている。
【0013】
そして、ナット8は、円筒部6に螺合して軸方向左側に変位することで、第1ピエゾ素子2をフランジ部7と挟み込んで軸方向に圧縮するとともに、第2ピエゾ素子3を円筒部6と第1ピエゾ素子2とにより挟み込ませて径方向に圧縮する。この結果、第1ピエゾ素子2は軸方向に圧縮固定され、第2ピエゾ素子3は径方向に圧縮固定される。
ここで、第1、第2ピエゾ素子2、3は、各々、圧縮される方向と分極する方向とが略一致する。このため、第2ピエゾ素子3は、第1ピエゾ素子2が分極する方向と略直交する方向に分極する。
【0014】
なお、第1ピエゾ素子2は、軸方向の左右両側に電極板11、12が配され、さらに電極板11、12の左右両側に絶縁フィルム13、14が配された状態で軸方向に圧縮固定されている。また、第2ピエゾ素子3は、第1ピエゾ素子2の内周側で、径方向の内外両側に電極板15、16が配され、さらに電極板15、16の内外両側に絶縁フィルム17、18が配された状態で径方向に圧縮固定されている。
【0015】
そして、図3および図4に示すように、第1ピエゾ素子2の軸方向両端に生じる電圧V1、および第2ピエゾ素子3の径方向両端に生じる電圧V2は、各々、個別に取り出されて所定の電子制御装置(ECU:図示せず)に出力される。そして、ECUは、この2つの電圧V1、V2に基づいてエンジンにおける燃料の燃焼状態を把握する。
【0016】
また、スリーブ5、第1、第2ピエゾ素子2、3およびナット8の外周側は、図1に示すように樹脂モールドされている。なお、スリーブ5の軸方向両端の外周面(つまり、フランジ部7の外周面および円筒部6の右端の外周面)は迷路状に設けられている。そして、この迷路状の外周面に樹脂をモールドすることで、第1、第2ピエゾ素子2、3が存在するノックセンサ1の内部に、外気の水分等が浸入するのを防止している。
【0017】
そして、ノックセンサ1は、第1ピエゾ素子2の分極方向とノッキングによる振動方向(すなわち、シリンダボディに略垂直な方向)とを略一致させて、第1ピエゾ素子2により高感度にノッキングを検出できるように、シリンダボディの側面に取り付けられている。
【0018】
〔実施例1の効果〕
実施例1のノックセンサ1は、ノッキングによる振動の方向と略一致する方向に分極する第1ピエゾ素子2と、第1ピエゾ素子2と別体に設けられ、第1ピエゾ素子2が分極する方向と略直交する方向に分極する第2ピエゾ素子3とを備える。
これにより、第2ピエゾ素子3の分極方向は、ノックセンサ1の首振り振動の原因となっている吸排気弁の着座等による振動方向と略一致する。このため、ノックセンサ1は、第2ピエゾ素子3により、吸排気弁の着座等による首振り振動を高感度に検出することができる。したがって、ECUは、第1、第2ピエゾ素子2、3から出力される電圧V1、V2を個別に得ることで、ノッキングによる発生電圧のみを正確に把握できる。
【0019】
第2ピエゾ素子3は第1ピエゾ素子2の内周側に同軸的に配されている。
これにより、第1、第2ピエゾ素子2、3は、ノッキングによる振動と首振り振動とをシリンダボディの外面の同一位置において検出することができる。このため、ECUは、より正確にノッキングによる発生電圧を把握できる。
【0020】
また、エンジンの吸排気弁は、可変バルブタイミング機構により駆動される。
吸排気弁が可変バルブタイミング機構により駆動される場合、吸排気弁の着座周期が燃料の爆発燃焼周期に対して進んだり遅れたりするので、ノッキングによる発生電圧と首振り振動による発生電圧との比率が常に変動する。このため、吸排気弁が可変バルブタイミング機構により駆動される場合、ECUが電圧V1、V2を個別に得ることによる効果が顕著である。
【0021】
〔変形例〕
実施例1のノックセンサ1によれば、第1、第2ピエゾ素子2、3に生じる電圧V1、V2は、各々、個別に取り出されてECUに出力されたが、電圧V1と電圧V2との検出差分のみをECUに出力するようにしても、ECUは、首振り振動による発生電圧を除いてノッキングによる発生電圧のみを把握できる。なお、電圧V1と電圧V2との検出差分のみを出力する場合、捩り力により第1ピエゾ素子2に生じる電圧と、吸排気弁の着座等により第2ピエゾ素子3に生じる電圧(つまり、首振り振動により第2ピエゾ素子3に生じる電圧)とが等しくなるように、第1、第2ピエゾ素子2、3の形状、配置等を設定する必要がある。
【0022】
また、実施例1のノックセンサ1によれば、第2ピエゾ素子3は第1ピエゾ素子2の内周側に配されていたが、第1ピエゾ素子2を第2ピエゾ素子3の内周側に配してもよい。さらに、第1ピエゾ素子2と第2ピエゾ素子3とをシリンダボディの外面の異なる位置に配してもよい。
【0023】
また、実施例1のノックセンサ1によれば、第1、第2ピエゾ素子2、3の分極処理は、第1、第2ピエゾ素子2、3自体の製造時(以下、「ピエゾ製造時」とする)に行われるのか、ノックセンサ1の製造時(以下、「センサ製造時」とする)の圧縮固定により行われるのか明記していないが、ピエゾ製造時、センサ製造時のいずれの時に第1、第2ピエゾ素子2、3の分極処理を行ってもよい。
【0024】
また、第1ピエゾ素子2の分極処理をピエゾ製造時に行い第2ピエゾ素子3の分極処理をセンサ製造時に行うように、第1ピエゾ素子2と第2ピエゾ素子3とで異なる時に分極処理を行ってもよい。さらに、第1、第2ピエゾ素子2、3の一方または両方の分極処理をピエゾ製造時およびセンサ製造時の両方で行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ノックセンサの断面図である(実施例1)。
【図2】(a)は第1、第2ピエゾ素子の配置関係を示す平面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である(実施例1)。
【図3】ノックセンサの回路図である(実施例1)。
【図4】ノックセンサから出力される電圧のタイムチャートである(実施例1)。
【図5】(a)はノックセンサのエンジンへの取付状態を示す説明図であり、(b)はノックセンサの首振り振動を示す説明図であり、(c)はピエゾ素子に作用する捩り力およびノッキングによる振動方向を示す説明図である(従来例)。
【符号の説明】
【0026】
1 ノックセンサ
2 第1ピエゾ素子
3 第2ピエゾ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの外面に装着されてノッキングを検出するノックセンサにおいて、
ノッキングによる振動の方向と略一致する方向に分極する第1ピエゾ素子と、
この第1ピエゾ素子と別体に設けられ、前記第1ピエゾ素子が分極する方向と略直交する方向に分極する第2ピエゾ素子とを備えるノックセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のノックセンサにおいて、
前記第1ピエゾ素子が前記第2ピエゾ素子の内周側に、または前記第2ピエゾ素子が前記第1ピエゾ素子の内周側に同軸的に配されていることを特徴とするノックセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のノックセンサにおいて、
前記エンジンの吸気弁および排気弁は、可変バルブタイミング機構により駆動されることを特徴とするノックセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−19905(P2009−19905A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181018(P2007−181018)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】