説明

ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法

【課題】プロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させるノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法を提供する。
【解決手段】反応器2において周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含む触媒の存在下、プロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させて(A工程)得られた反応生成物流から分離機(第1の蒸留塔)5によりノルマルブチルアルデヒド等を含む塔頂留出液とイソブタノール等を含有する側流液とを抜き出し(B工程)、塔頂留出液を分離機(第2の蒸留塔)10によりノルマルブチルアルデヒドとイソブチルアルデヒドとに分留し、側流液を分離機(第3の蒸留塔)14によりイソブタノールとノルマルブタノールとに分留して抜き出す(C工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法に関し、より詳しくは、プロピレンを原料とするノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周期表の第8族〜第10族に属する遷移金属と有機リン配位子からなる触媒の存在下に、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒド類を製造する方法は、ヒドロホルミル化反応として広く知られている。一般的に、得られるアルデヒド類のうち、より直鎖性の高いアルデヒドが有用であり、その直鎖選択性を高めるために様々な有機リン配位子が開発されている。
そのようにして得られた直鎖性の高いアルデヒドは、通常、水素化反応によりアルコールにするか、縮合反応によって分子量の大きなアルデヒドに変換した後に水素化反応を行い、より分子量の大きなアルコールに変換することで、可塑剤の原料、接着剤や塗料の原料等に用いられている。
【0003】
縮合工程の必要のないアルコールの製造に注目するならば、オレフィン性化合物から一段階の反応工程で直接アルコールが得ることができれば、別途、水素化反応工程や水素化反応用の触媒を持つ必要がなくなり、経済的に有利なプロセスとなりうる。
そのようなオレフィン性化合物から一段階の反応工程でアルコールを得る触媒系としては、古くはトリアルキルホスフィンを配位子として持つコバルト系の触媒が知られている。一方、コバルト系の触媒を用いる場合では、通常、反応温度として160℃〜200℃、反応圧力として5MPa〜30MPaといった厳しい反応条件が必要であるため、近年、より穏和な条件で反応が進行するロジウム触媒に注目が集まっている。
ロジウム−有機リン系化合物からなる触媒系による一段階反応でのアルコール類の製造に関する例としては、アルコール溶媒中で、ロジウムとトリアルキルホスフィンからなる触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させる方法が知られている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0420510号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ザ・ケミカルソサイティ・ケミカル・コミュニケイションズ(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.)、1990年、第165頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ザ・ケミカルソサイティ・ダルトン・トランスアクションズ(J.Chem.Soc.,Dalton Trans.)、1996年、第1161頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のロジウム−有機リン系化合物からなる触媒を用いる反応の場合、目的とする直鎖型のアルコールの選択性は低く、副生成物である分岐型アルコールに対する直鎖型アルコールの生成比は、反応を押し切った状態で2.5程度(直鎖性=71%)と低い値である。従って、残り29%の副生成物は分岐型アルコールとなるが、この分岐型アルコールの製品としての価値は著しく低いという問題がある。
特に、プロピレンを原料として製造されるノルマルブタノールは、需要量が大きく、そのため安価に効率よく製造する技術の要求が高い。このノルマルブタノール製造時に副生するイソブタノールは、市場価格が非常に安い。しかしながら一方で、従来のオキソ法で生成するイソブチルアルデヒドは、需要量が大きく市場価格も高い。
【0006】
このように、ロジウム−トリアルキルホスフィン触媒を用いれば、一段階の反応工程で原料のオレフィン性化合物からアルコールを製造することは可能であるが、目的とする直鎖型アルコールの選択性が低く、副生物のほとんどが分岐型アルコールであることが大きな問題として残っている。
即ち、プロピレンを原料としてノルマルブタノールを製造する場合においては、副生するイソブタノールは極めて価値の低いものである。そのため、反応工程は同じく一段階であり、生成する副生物がより有価な形で製造できる新たな方法が提示されれば、経済的に有利な有効な方法の一つとなり、非常に重要性が高いと言える。
【0007】
特にイソブタノールの類似化合物であるイソブチルアルデヒドは、イソブタノールに比べ極めて価値の高い製品である。イソブタノールからイソブチルアルデヒドを得るためには、脱水素反応工程が必要となり、従ってその分製造コストが余分にかかる。
一方、従来のヒドロホルミル化法によりプロピレンからブチルアルデヒドを製造する方法はあるが、この方法ではイソブチルアルデヒドが一段階で得られるものの、ノルマルブタノールを得るためには、プロピレンのヒドロホルミル化で生成するノルマルブチルアルデヒドとイソブチルアルデヒドを分離し、ノルマルブチルアルデヒドのみを水素化する必要があり、上記に述べたようにこの方法では製造コストが高い。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、触媒の存在下、プロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させて、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドを併産できる新規かつシンプルな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物及び有機リン化合物の存在下、プロトン溶媒中、プロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドを共に収率10%以上で製造する方法を見出し、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は下記(1)〜(11)に存する。
【0010】
(1) 周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する触媒の存在下、プロトン溶媒中でプロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドを共に収率10%以上で生成することを特徴とするノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【0011】
(2) 周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する触媒の存在下、プロトン溶媒中でプロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドを併産するにあたり、反応系へのプロピレンの供給速度FPPY(mol/hr)とイソブチルアルデヒドの生成速度FIBD(mol/hr)が下記式(I)を満足するノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
1.1≦FPPY/FIBD≦10.0・・・(I)
(3) 反応系へのプロピレンの供給速度FPPY(mol/hr)とノルマルブタノールの生成速度FNBA(mol/hr)が下記式(II)を満足する(1)又は(2)に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
1.1≦FPPY/FNBA≦10.0・・・(II)
(4) イソブチルアルデヒドの生成速度FIBD(mol/hr)、イソブタノールの生成速度FIBA(mol/hr)、ノルマルブチルアルデヒドの生成速度FNBD(mol/hr)、及びノルマルブタノールの生成速度FNBA(mol/hr)が下記式(III)〜(V)を満足することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
NBA/FNBD≧0.5・・・(III)
NBA/FIBA≧0.5・・・(IV)
IBD/FIBA≧0.5・・・(V)
【0012】
(5) (A工程):反応器中、周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する前記触媒の存在下、プロトン溶媒中でプロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、第8族〜第10族に属する金属元素の前記化合物、有機リン化合物、プロトン溶媒、ノルマルブタノール、イソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する反応生成物流を得る工程と、
(B工程):前記A工程で得られた前記反応生成物流を第1の蒸留塔に流入させ、当該第1の蒸留塔の塔頂よりノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する塔頂留出液を抜き出し、ノルマルブタノール及びイソブタノールを含有する液を側流液として抜き出し、第8族〜第10族に属する金属元素の化合物及び有機リン化合物を含有する塔底液を前記反応器に循環させる工程と、
(C工程):前記B工程で得られた前記塔頂留出液を第2の蒸留塔に流入させ、当該第2の蒸留塔の塔頂より低沸点化合物を留出液として抜き出し、イソブチルアルデヒドを側流液として抜き出し、ノルマルブチルアルデヒドを塔底液として抜き出す工程と、
(D工程):前記B工程で得られた前記側流液を第3の蒸留塔に流入させ、当該第3の蒸留塔の塔頂よりイソブタノールを留出液として抜き出し、ノルマルブタノールを塔底液として抜き出す工程と、を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
(6) 前記C工程で得られた塔底液を前記反応器に循環させることを特徴とする(5)に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【0013】
(7) (A工程):反応器中、周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する前記触媒の存在下、プロトン溶媒中でプロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、第8族〜第10族に属する金属元素の前記化合物、有機リン化合物、プロトン溶媒、ノルマルブタノール、イソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する反応生成物流を得る工程と、
(B’工程):前記A工程で得られた前記反応生成物流を第1の蒸留塔に流入させ、当該第1の蒸留塔の塔頂よりイソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、及び低沸点化合物を含有する塔頂留出液を抜き出し、ノルマルブタノールを側流液として抜き出し、第8族〜第10族に属する金属の化合物及び有機リン化合物を含有する塔底液を前記反応器に循環させる工程と、
(C’工程):前記B’工程で得られた前記塔頂留出液を第2の蒸留塔に流入させ、当該第2の蒸留塔の塔頂より低沸点化合物を留出液として抜き出し、イソブチルアルデヒドを側流として抜き出し、イソブタノール及びノルマルブチルアルデヒドを塔底液として抜き出す工程と、を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【0014】
(8) 前記C’工程で得られた塔底液を前記反応器に循環させることを特徴とする(7)に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
(9) 周期表の第8族〜第10族に属する前記金属元素が、ロジウムであることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
(10) 周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する前記触媒が、配位子として有機リン化合物を含有することを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
(11) 前記有機リン化合物が、アルキルホスフィンであることを特徴とする(10)に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドとを共に収率10%以上で同時に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態におけるノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法は、周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物(以下、単に「金属化合物」又は「第8族〜第10族金属化合物」と記すことがある。)及び有機リン化合物の存在下、プロトン溶媒中、プロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、反応系へのプロピレンの供給速度FPPY(mol/hr)とイソブチルアルデヒドの生成速度FIBD(mol/hr)が下記式(I)を満足することを特徴とする。
1.1≦FPPY/FIBD≦10.0・・・(I)
本実施の形態において、「周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物及び有機リン化合物」が本実施の形態で使用される触媒である。
【0017】
初めに、本実施の形態が適用されるノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法で使用される触媒について説明する。
本実施の形態で使用する金属化合物は、周期表の第8族〜第10族(IUPAC無機化学命名法改訂版(1998)による)に属する金属元素からなる群より選ばれる遷移金属の化合物が挙げられる。かかる金属化合物としては、一以上の遷移金属を含む化合物が使用される。
【0018】
このような金属化合物の具体例として、例えば、鉄化合物、ルテニウム化合物、オスミウム化合物、コバルト化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物等が挙げられる。これらの中でも、ルテニウム化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物が好ましく、特に、ロジウム化合物が好ましい。
これらの金属化合物の種類は任意であるが、具体例としては、上記遷移金属の酢酸塩、アセチルアセトネイト化合物、ハライド、硫酸塩、硝酸塩、有機塩、無機塩、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられる。
【0019】
以下、金属化合物の具体例を列記する。鉄化合物としては、Fe(OAc)、Fe(acac)、FeCl、Fe(NO等が挙げられる。ルテニウム化合物としては、RuCl、Ru(OAc)、Ru(acac)、RuCl(PPh等が挙げられる。オスミウム化合物としては、OsCl、Os(OAc)等が挙げられる。
【0020】
コバルト化合物としては、Co(OAc)、Co(acac)、CoBr、Co(NO等が挙げられる。ロジウム化合物としては、RhCl、RhI、Rh(NO、Rh(OAc)、RhCl(CO)(PPh、RhH(CO)(PPh、RhCl(PPh、Rh(acac)、Rh(acac)(CO)、Rh(acac)(cod)、[Rh(OAc)、[Rh(OAc)(cod)]、[RhCl(CO)]、[RhCl(cod)]、Rh(CO)12等が挙げられる。
【0021】
イリジウム化合物としては、IrCl、Ir(OAc)、[IrCl(cod)]が挙げられる。ニッケル化合物としては、NiCl、NiBr、Ni(NO、NiSO、Ni(cod)、NiCl(PPh等が挙げられる。パラジウム化合物としては、PdCl、PdCl(cod)、PdCl(PPh、Pd(PPh、Pd(dba)、KPdCl、PdCl(CHCN)、Pd(NO、Pd(OAc)、PdSO、Pd(acac)等が挙げられる。
【0022】
白金化合物としては、Pt(acac)、PtCl(cod)、PtCl(CHCN)、PtCl(PhCN)、Pt(PPh、KPtCl、NaPtCl、HPtClが挙げられる。
尚、以上の例示において、codは1,5−シクロオクタジエンであり、dbaはジベンジリデンアセトンであり、acacはアセチルアセトネイトであり、Acはアセチル基であり、Ph基はフェニル基をそれぞれ表す。
【0023】
金属化合物の種類は特に制限されず、活性な金属錯体種であれば、単量体、二量体及び/又は多量体の何れも使用することができる。
金属化合物の使用量は特に制限はないが、触媒活性と経済性の観点から、通常、反応媒体中の金属化合物濃度として、通常0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上であり、通常10,000ppm以下、好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。
【0024】
続いて、有機リン化合物について説明する。
本実施の形態で使用する有機リン化合物は、単座配位子又は多座配位子としての能力を有するホスフィン又はホスファイト等が挙げられる。
本実施の形態で使用する単座配位子としての能力を有する有機ホスフィン化合物(以下、「単座ホスフィン」と記すことがある。)は、下記一般式で表される。特に、当該有機ホスフィン化合物は、触媒活性を十分に発揮させるためにも、反応条件下で溶解しているものが好ましく、その分子量は、通常1,500以下、好ましくは1,000以下、より好ましくは800以下である。
【0025】
【化1】

【0026】
(上記式中、R、R、R’’は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数1〜炭素数30のアルキル基、アリール基を表す。置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ホルミル基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アミド基、アシル基又はアシロキシ基の中から選ばれるものである。)
【0027】
有機ホスフィン化合物の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、1−ナフチルジフェニルホスフィン、4−メトキシフェニルジフェニルホスフィン、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジフェニルフェニル)ホスフィン、4−ジメチルアミノフェニルジ−2−ナフチルホスフィン等のトリアリール型の単座ホスフィン;ジフェニル−n−プロピルホスフィン、n−オクタデシルジフェニルホスフィン、ジ(3−t−ブチル−2−ナフチル)メチルホスフィン、イソプロピル−2−ナフチル−p−トリルホスフィン、2−エチルヘキシルジ(4−フルオロフェニル)ホスフィン等のジアリールモノアルキル型の単座ホスフィン;ジメチルフェニルホスフィン、ジエチル−4−メトキシフェニルホスフィン、ジ−n−オクチルフェニルホスフィン、t−ブチル−n−オクチル−3,5−ジメチルフェニルホスフィン、ジイソプロピル−2−ナフチルホスフィン、イソブチル−n−ペンチル−4−アセチルフェニルホスフィン等のモノアリールジアルキル型の単座ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、トリ−n−オクタデシルホスフィン、n−オクタデシルジメチルホスフィン、ジエチル−n−オクチルホスフィン、エチルメチル−n−プロピルホスフィン、トリ−2−エトキシエチルホスフィン、イソブチルネオペンチル−n−ヘキシルホスフィン、トリ−2−エチルヘキシルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリネオペンチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリ−2−ブチルホスフィン、ジ−n−ヘキシル−1,1−ジメチルプロピルホスフィン、3−フェニルプロピルジ−t−ブチルホスフィン、2−ブチル−n−プロピル−3,3−ジメトキシプロピルホスフィン等のトリアルキル型の単座ホスフィンが挙げられる。
【0028】
これらの中でも、R、R、R’’の置換基の内、少なくとも一つの置換基がアルキル基であるようなジアリールモノアルキル型の単座ホスフィン、モノアリールジアルキル型の単座ホスフィン、若しくはトリアルキル型の単座ホスフィンが好ましく、R、R、R’’のすべての置換基がアルキル基であるようなトリアルキル型の単座ホスフィンがより好ましい。
トリアルキル型の単座ホスフィンの中でも、R、R、R’’のすべての置換基が第一級アルキル基、即ち、P原子に結合する炭素原子がCH基であるアルキル基であるようなトリ(第一級アルキル)型の単座ホスフィンが一層好ましい。特にR、R、R’’のすべての置換基が無置換の直鎖型のアルキル基であるものがもっとも好ましい。
【0029】
上記の具体例の内、最も好ましい単座ホスフィンとしては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、トリ−n−オクタデシルホスフィン、n−オクタデシルジメチルホスフィン、ジエチル−n−オクチルホスフィン、エチルメチル−n−プロピルホスフィンを挙げることができる。
尚、ホスフィン化合物として二座配位子又は多座配位子としての能力を有するホスフィンも使用することができる。
【0030】
また、単座配位子としての能力を有するホスファイトの例としては、下記の式(2)〜式(5)で示されるホスファイト化合物が挙げられる。
【0031】
【化2】

【0032】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、置換されていてもよい1価の炭化水素基を示す。)
【0033】
式(2)中、置換されていてもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられる。
式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、n−ブチルジエチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト、トリ−n−プロピルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリ−n−オクチルホスファイト、トリ−n−ドデシルホスファイト等のトリアルキルホスファイト;トリフェニルホスファイト、トリナフチルホスファイト等のトリアリールホスファイト;ジメチルフェニルホスファイト、ジエチルフェニルホスファイト、エチルジフェニルホスファイト等のアルキルアリールホスファイト等が挙げられる。
【0034】
これらのホスファイトのアリール基には置換基が存在していてもよい。また、例えば、特開平6−122642号公報に記載されているビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)フェニルホスファイト、ビス(3,6,8−トリ−t−ブチル−2−ナフチル)(4−ビフェニル)ホスファイト等を用いてもよい。これらの中で最も好ましいものはトリフェニルホスファイトである。
【0035】
【化3】

【0036】
(式(3)中、Rは置換されていてもよい2価の炭化水素基を示し、Rは置換されていてもよい1価の炭化水素基を示す。)
【0037】
式(3)中、Rで示される置換されていてもよい2価の炭化水素基としては、炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子等を含んでいてもよいアルキレン基;炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子等を含んでいてもよいシクロアルキレン基;フェニレン、ナフチレン等の2価の芳香族基;2価の芳香環が直接又は中間にアルキレン基、酸素、窒素、硫黄等の原子を介して結合した2価の芳香族基;2価の芳香族基とアルキレン基とが直接又は中間に酸素、窒素、硫黄等の原子を介して結合したもの等が挙げられる。
で示される置換されていてもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられる。
【0038】
式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、エチレン(2,4,6−トリ−t−ブチル−フェニル)ホスファイト、1,2−ブチレン(2,6−ジ−t−ブチル−フェニル)ホスファイト等の米国特許第3415906号明細書に記載されている化合物等が挙げられる。
【0039】
【化4】

【0040】
(式(4)中、R10は、式(3)におけるRと同義であり、Ar及びArは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアリーレン基を示し、x及びyは、それぞれ独立して、0又は1を示し、Qは、−CR1112−,−O−,−S−,−NR13−,−SiR1415−及び−CO−よりなる群から選ばれる架橋基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜炭素数12のアルキル基、フェニル基、トリル基又はアニシル基を示し、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を示し、nは0又は1を示す。)
【0041】
式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば、1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト等の米国特許第4,599,206号明細書に記載されている化合物、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル−(2−t−ブチル−4−メトキシフェニル)ホスファイト等の米国特許第4,717,775号明細書に記載されている化合物等が挙げられる。
【0042】
【化5】

【0043】
(式(5)中、Rは環状又は非環状の置換されていてもよい3価の炭化水素基を示す。)
【0044】
式(5)で表される化合物の具体例としては、例えば、4−エチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ−[2,2,2]−オクタン等の米国特許第4567306号明細書に記載されている化合物等が挙げられる。
【0045】
また、多座ホスファイトの例としては、式(6)〜式(11)で示されるホスファイト化合物が挙げられる。
【0046】
【化6】

【0047】
(式(6)中、Rは、式(3)におけるRと同義であり、R及びRはそれぞれ独立して置換されていてもよい炭化水素基を示し、a及びbはそれぞれ0〜6の整数を示し、aとbの和は2〜6であり、Xは(a+b)価の炭化水素基を示す。)
【0048】
式(6)で表される化合物のうち好ましいものとしては、例えば、6,6’−[[3,3’,5,5’−テトラキス(1,1’−ジメチルエチル)−[1,1’−ビフェニル]−2,2’−ジイル]ビス(オキシ)]ビス−ベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサホスフェビン等の特開平2−231497号公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0049】
【化7】

【0050】
(式(7)中、Xはアルキレン、アリーレン及び−Ar−(CH)x−Qn−(CH)y−Ar−よりなる群から選ばれた2価の基を示し、R16及びR17は、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭化水素基を示す。Ar、Ar、Q、x、y、nは式(4)と同義である。)
【0051】
式(7)で表される化合物の具体例としては、例えば、特開昭62−116535号公報及び特開昭62−116587号公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0052】
【化8】

【0053】
(式(8)中、X、Ar、Ar、Q、x、y、nは、式(7)と同義であり、R18は、式(3)におけるRと同義である。)
【0054】
【化9】

【0055】
(式(9)中、R19及びR20はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基を示し、かつ少なくとも一方の芳香族炭化水素基は、酸素原子が結合する炭素原子に隣接する炭素原子に炭化水素基を有しており、mは2〜4の整数を示し、各−O−P(OR19)(OR20)基は互いに異なっていてもよく、Xは置換されていてもよいm価の炭化水素基を示す。)
【0056】
式(9)で表される化合物の中では、例えば、特開平5−178779号公報に記載されている化合物や2,2’−ビス(ジ−1−ナフチルホスファイト)−3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル等の特開平10−45776号公報に記載されている化合物等が好ましい。
【0057】
【化10】

【0058】
(式(10)中、R21〜R24は、置換されていてもよい炭化水素基を示し、これらは互いに独立したものであっても、R21とR22、R23とR24が互いに結合して環を形成していてもよく、Wは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示し、Lは置換基を有していてもよい飽和又は不飽和の2価の脂肪族炭化水素基を示す。)
【0059】
式(10)で表される化合物としては、例えば、特開平8−259578号公報に記載のものが用いられる。
【0060】
【化11】

【0061】
(式(11)中、R25〜R28は、置換されていてもよい1価の炭化水素基を示し、R25とR26、R27とR28は互いに結合して環を形成していてもよく、W及びBはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示し、nは0又は1の整数を示す。)
【0062】
またこれらの有機リン化合物を複数組み合わせて使用することもできる。
以上説明した第8族〜第10族の金属化合物及び有機リン系化合物を用いることによって、本実施の形態が適用されるノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法に使用する触媒系が形成される。
【0063】
かかる触媒系に用いる有機リン化合物の量は特に制限されるものではないが、反応成績、触媒活性及び触媒安定性等に対して望ましい結果が得られるように任意に設定される。有機リン化合物は、金属化合物1モル当たり通常0.1モル以上、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上であり、通常1,000モル以下、好ましくは500モル以下、より好ましくは100モル以下である。
【0064】
続いて触媒の調製方法について述べる。
本実施の形態で使用する触媒は、別途設けた触媒調製ゾーンで予め調製してから当該触媒を反応ゾーンに加えても良いし、それぞれを個別に反応ゾーンに添加して反応ゾーン内で触媒調製を行っても良い。
触媒の調製方法の好ましい実施の態様としては、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産反応後、生成物系と触媒系とを分離し、その触媒を再び反応ゾーンにリサイクルする方法があるが、この場合、触媒の劣化や消失の度合いに応じて、適宜金属化合物、有機リン化合物を追加して補うことが望ましい。
【0065】
具体的な触媒の調製方法においては、金属化合物、有機リン化合物のそれぞれをそのまま混合して触媒調製を行っても良いし、予めそれぞれを有機溶媒等で溶解させたものを混合しても良い。これらの調製方法において、反応ゾーンで速やかに触媒反応を開始させるようにするためにも、触媒は溶解した状態で反応ゾーンに導かれることが好ましい。また、場合によっては、触媒を調製して反応ゾーンに導入する前に、加熱処理や触媒活性種への変換に必要なガス処理、例えば水素や一酸化炭素等のガスとの加圧接触を予め行ってから触媒を反応ゾーンに導入しても良い。
【0066】
本実施の形態が適用されるノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法は、プロトン性溶媒中で実施する。ここで、プロトン性溶媒とは、解離して容易にプロトン(H)を放出することが可能な溶媒である。
【0067】
プロトン性溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、ネオペンチルアルコール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール等のアルコール;フェノール、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、4−フルオロフェノール、4−トリフルオロメチルフェノール、2−ニトロフェノール等のフェノール;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、シクロヘキサンカルボン酸等のカルボン酸;ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、プロピオンアミド等のように窒素原子上に少なくとも一つの水素原子を有するアミド;メチルチオール、エチルチオール、n−プロピルチオール、イソプロピルチオール等のチオール;ベンゼンチオール、p−トルエンチオール等のチオフェノルマロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、ニトロエタン、マロノニトリル等のように活性メチレン基を有する化合物;水を挙げることができる。
これらの中で、特にアルコールが好ましいプロトン性溶媒である。精製工程の負荷低減という観点からすると、製品として製造するアルコールをプロトン性溶媒として用いるのが好ましい。
【0068】
本実施の形態で使用するプロトン性溶媒の量は、反応媒体の総重量に対して通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、通常95重量%以下であり、好ましくは90重量%以下である。溶媒は、単一の化合物で形成されていても複数の化合物の混合物で形成されていても良いが、溶媒の全重量において、少なくとも1重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上のプロトン性溶媒を含有していることが必要である。
【0069】
溶媒がプロトン性溶媒以外の成分を含有している場合、用いることのできるその他の溶媒については、触媒及び原料化合物とを溶解するものであって、触媒活性に悪影響を及ぼさないものであれば、任意の溶媒を使用可能であり、その種類には特に限定はない。
その他の溶媒として、例えば、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリールエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル;N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のように窒素原子上に水素原子を持たないアミド;アセトン、メチルエチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、g−ブチロラクトン、ジ−n−オクチルフタレイト、ジ−2−エチルヘキシルテレフタレイト等のエステル;ベンゼン、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0070】
その他、原料のオレフィン性化合物の過剰量をその他の溶媒として使用することも可能であり、また、本実施の形態における反応系中で生成するアルデヒド類やアルコール類に基づいた縮合二量体や縮合三量体、アセタール化生成物等の高沸点化合物を使用することも可能である。本発明においては、特に、原料のオレフィン性化合物から生成されるアルコールを、そのままプロトン性溶媒として用いると、経済的に有利なプロセスとなり得る。具体的には、プロトン性溶媒としてn−ブタノールやイソブタノールを用いることが好ましい。
【0071】
次に、本実施の形態が適用されるノルマルブタノール及びイソブチルアルデヒドの併産反応を行うための反応条件について説明する。
水素分圧、一酸化炭素分圧、原料、生成物、溶媒等の蒸気圧の総和で形成される反応圧力は、通常0.01MPa以上、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上であり、通常30MPa以下、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。反応圧力が過度に低いと、金属化合物が失活してメタル化してしまう懸念がある他、触媒活性自体十分に発現せず、アルコール収率が低下することが予想される。また、反応圧力が過度に高いと、得られるアルコールの直鎖選択性が低下する傾向が見られる。
【0072】
また、特に、水素分圧は好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上であり、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。水素分圧が過度に低いと、反応活性の低下が懸念され、高すぎると原料オレフィン性化合物の水素化反応の進行に伴う浪費が予想される。一酸化炭素分圧は好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上であり、好ましくは15MPa以下、より好ましくは8MPa以下である。一酸化炭素分圧が低すぎると反応活性の低下、特に金属化合物のメタル化が懸念され、水素分圧が過度に高いと、得られるアルコールの直鎖選択性の低下が予想される。
水素と一酸化炭素のモル比は、1:10〜10:1であり、より好ましくは1:2〜8:1であり、更に好ましくは1:1〜5:1である。
【0073】
また、反応温度は、通常、25℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。反応温度が過度に低いと、反応活性自体が十分に得られないことが予想され、反応温度が過度に高いと、得られるアルコールの直鎖選択性の低下や配位子の熱分解による消失等が予想される。
【0074】
本実施の形態における反応方式としては、撹拌槽型反応槽、又は気泡塔型反応槽中で、連続式、半連続式、又はバッチ式操作のいずれでも容易に実施し得る。
また、本実施の形態においては、ノルマルブタノール及びイソブチルアルデヒドの収率がともに10%以上であることが好ましい。
【0075】
また、本実施の形態において、イソブチルアルデヒドの生成速度FIBD(mol/hr)、イソブタノールの生成速度FIBA(mol/hr)、ノルマルブチルアルデヒドの生成速度FNBD(mol/hr)、及びノルマルブタノールの生成速度FNBA(mol/hr)が下記式(III)〜(V)を満足するように反応器スケール、触媒の濃度、原料フィード量、反応温度、反応圧力等の反応諸条件を選択することにある。
NBA/FNBD≧0.5・・・(III)
NBA/FIBA≧0.5・・・(IV)
IBD/FIBA≧0.5・・・(V)
【0076】
ここで生成速度について説明する。
本実施の態様として、ノルマルブタノールやイソブチルアルデヒドを併産するプロセスは、そのコスト面での優位性から、多くの場合、流通反応プロセスをとることが多い。この場合、反応系には原料のプロピレンがFPPY(mol/hr)の供給速度で供給される。
一方、反応系中で、ヒドロホルミル化反応及びそれに続く水添反応により、イソブチルアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブタノール、ノルマルブタノールがそれぞれ生成し、反応系から各成分がそれぞれFIBD(mol/hr)、FNBD(mol/hr)、FIBA(mol/hr)、FNBA(mol/hr)の流量で流出する。
【0077】
一般に、流通系における生成速度は、{反応系から流出する量(mol/hr)−反応系に流入する量(mol/hr)}により算出される。また、イソブチルアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブタノール、ノルマルブタノール等の目的生成物を供給しない場合には、反応系から流出するそれぞれの成分の量、すなわちFIBD、FNBD、FIBA、FNBA(mol/hr)がそれぞれの成分の生成速度となる。
一方、回分反応プロセスにおいては、それぞれの成分に関して、単位時間当たりの増加分(mol/hr)が生成速度となる。
【0078】
NBA/FNBDの値を制御する方法としては、反応器の大きさ、反応に使用する触媒の選定及びその触媒の濃度、原料フィード量、反応温度、反応圧力等の反応諸条件を操作することによって、その値を制御することができる。また、イソブチルアルデヒドとノルマルブタノールを併産する際のプロセスに応じて、これらの反応条件から最適な条件を選定すれば、式(III)の条件を満足させることが可能となる。
【0079】
反応条件の選定の指針としては、先ず、アルデヒドに対して水素添加能力のある触媒系を採用することが好ましい。また、この水素添加能力にやや乏しい触媒系の場合でも、反応器における滞留時間を延ばし、且つ、その触媒濃度を上げることが好ましい。更に、反応器から流出する反応生成物からノルマルブチルアルデヒドを分離し、反応器にリサイクルすることが好ましい。FNBA/FNBDの値は、通常、0.5以上であり、好ましくは、0.7以上、更に好ましくは1.0以上である。
【0080】
NBA/FIBAの値を制御する方法としては、反応器の大きさ、反応に使用する触媒の選定及びその触媒の濃度、原料フィード量、反応温度、反応圧力等の反応諸条件を操作することによって、その値を制御することができる。また、イソブチルアルデヒドとノルマルブタノールを併産する際のプロセスに応じて、これらの反応条件から最適な条件を選定すれば、式(IV)の条件を満足させることが可能となる。
【0081】
反応条件の選定の指針としては、先ず、イソ体に対してノルマル体の選択性が高い触媒系を採用することが好ましい。また、イソブタノールは、プロピレンからイソブチルアルデヒドを経由して逐次的に生成するため、反応器における滞留時間を短くすることが好ましく、触媒濃度を下げることも好ましい。更に、反応器から流出する反応生成物からノルマルブチルアルデヒドを分離し、反応器にリサイクルすることが好ましい。FNBA/FIBAの値は、通常、0.5以上であり、好ましくは、0.7以上、更に好ましくは1.0以上である。
【0082】
IBD/FIBAの値を制御する方法としては、反応器の大きさ、反応に使用する触媒の選定及びその触媒の濃度、原料フィード量、反応温度、及び反応圧力等の反応諸条件を操作することによって、その値を制御することができる。また、イソブチルアルデヒドとノルマルブタノールを併産する際のプロセスに応じて、これらの反応条件から最適な条件を選定すれば、式(V)の条件を満足させることが可能となる。
【0083】
反応条件の選定の指針としては、イソブタノールはプロピレンからイソブチルアルデヒドを経由して逐次的に生成するため、反応器における滞留時間を短くすることが好ましく、触媒濃度を下げることが好ましい。更に、反応器から流出する反応生成物からノルマルブチルアルデヒドを分離し、反応器にリサイクルすることが好ましい。FIBD/FIBAの値は、通常、0.5以上であり、好ましくは、0.7以上、更に好ましくは1.0以上である。
【0084】
以上のことから、式(III)から式(V)を同時に満足させるためには、まず適切な触媒系の選択し、かつ選択した触媒系において滞留時間と触媒の濃度を調整することが好ましい。また、ノルマルブチルアルデヒドの循環量、原料フィード量、反応温度、及び反応圧力を調整することで式(III)〜式(V)を同時に満足させることも可能である。
【0085】
次に、本実施の形態における反応フローについて説明する。
図1は、本実施の形態における反応フローを説明する図である。図1には、反応器2、分離機(第1の蒸留塔)5、分離機(第2の蒸留塔)10、分離機(第3の蒸留塔)14が示されている。
先ず、原料のプロピレン、水素及び一酸化炭素は、ライン1により反応器2に供給される。これらの原料は、反応器2に一括供給してもよいし、また別々に供給してもよい。触媒液は、その殆どは循環触媒としてライン8から反応器2に供給してもよいし、また必要に応じてライン9から供給してもよい。供給された原料は触媒存在下、反応器2内で反応し、ノルマルブタノール及びイソブタノールを含む反応液が得られる。
【0086】
次に、未反応原料を含む反応液は、反応器2の側部に設けたライン4により反応器2から抜き出され、分離機(第1の蒸留塔)5に供給される。その際、ガス成分もライン4を用いて分離機(第1の蒸留塔)5に供給してもよいし、反応器2の上部に設けたライン3を用いて反応器2にリサイクルしてもよいし、またその全量あるいは一部を系外にパージしてもよい。
【0087】
また、反応器2では、通常、溢流方式をとるので、触媒液も反応液と共にライン4を通じて分離機(第1の蒸留塔)5に供給される。尚、ストリッピング方式をとる場合は、触媒は反応器2中に残り、触媒以外の成分が反応器2から流出する。
好ましくは、第8族〜第10族金属化合物、有機リン化合物、プロトン性溶媒、ノルマルブタノール、イソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する反応生成物が、反応器2の側部に設けたライン4を通じて分離機(第1の蒸留塔)5に供給される。
【0088】
分離機(第1の蒸留塔)5,分離機(第2の蒸留塔)10,分離機(第3の蒸留塔)14において、未反応原料オレフィン性化合物、生成物類、触媒等の分離が行われる。これら分離操作は、通常、単蒸留、精留、薄膜蒸留、水蒸気蒸留等の蒸留操作によって行われる。
蒸留条件は特に制限されるものではなく、生成物の揮発性、熱安定性、及び触媒成分の揮発性、熱安定性を考慮して望ましい結果が得られるように任意に設定されるが、通常、50℃〜300℃の温度、1MPa〜1.00mmHgの圧力条件から選ばれる。
【0089】
好ましくは、分離機(第1の蒸留塔)5において蒸留分離により、分離機(第1の蒸留塔)5の塔頂に設けたライン6よりノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する留出液(塔頂留出液)を抜き出し、分離機(第1の蒸留塔)5の塔側に設けたライン7によりノルマルブタノール及びイソブタノールを含有する液を側流液として抜き出す。
また、分離機(第1の蒸留塔)5の塔底に設けたライン8により、第8族〜第10族金属化合物、有機リン化合物及びプロトン溶媒を含有する塔底液を反応器2に循環させる。
【0090】
次に、分離機(第1の蒸留塔)5の塔頂からライン6により抜き出した留出液(塔頂留出液)を分離機(第2の蒸留塔)10に流入させる。分離機(第2の蒸留塔)10において、分離機(第2の蒸留塔)10の塔頂より低沸点化合物を留出液として抜き出し、分離機(第2の蒸留塔)10の塔側からイソブチルアルデヒドを側流液としてライン12より抜き出し、分離機(第2の蒸留塔)10の塔底からノルマルブチルアルデヒドを塔底液としてライン13より抜き出す。
この場合、分離機(第2の蒸留塔)10の塔頂より抜き出される低沸点化合物(留出液)に未反応原料が含まれている場合、必要に応じ反応器2に、全量もしくはその一部をリサイクルしてもよい。
【0091】
さらに、分離機(第1の蒸留塔)5の塔側からライン7により抜き出した側流液を分離機(第3の蒸留塔)14に流入させる。分離機(第3の蒸留塔)14において、分離機(第3の蒸留塔)14の塔頂に設けたライン15により、イソブタノールを留出液として抜き出し、分離機(第3の蒸留塔)14の塔底からノルマルブタノールを塔底液としてライン16から抜き出す。
【0092】
図2は、図1の反応フローにおける好ましい態様を示す図である。即ち、図2に示すように、分離機(第2の蒸留塔)10の塔底から塔底液として抜き出されるノルマルブチルアルデヒドのその全量または一部を、ライン13により反応器2にリサイクルしてもよい。
【0093】
図3は、本実施の形態における第2の反応フローを説明する図である。図3には、反応器2、分離機(第1の蒸留塔)5、分離機(第2の蒸留塔)10が示されている。
図3に示すように、反応器2において、第8族〜第10族金属化合物、有機リン化合物、プロトン溶媒、ノルマルブタノール、イソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する反応生成物流を得る。
【0094】
得られた反応生成物流は、反応器2からライン4を通じて分離機(第1の蒸留塔)5に流入させる。続いて、分離機(第1の蒸留塔)5の塔頂から、イソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する塔頂留出液をライン6により抜き出し、分離機(第1の蒸留塔)5の塔側から、ノルマルブタノールを側流液としてライン7から抜き出し、分離機(第1の蒸留塔)5の塔底から、第8族〜第10族金属化合物、有機リン化合物及びプロトン溶媒を含有する塔底液を抜き出し、これをライン8を通じて反応器2に循環させる。
【0095】
さらに、分離機(第1の蒸留塔)5の塔頂から抜き出した塔頂留出液をライン6により分離機(第2の蒸留塔)10に流入させる。続いて、分離機(第2の蒸留塔)10の塔頂より低沸点化合物を留出物としてライン11より抜き出し、分離機(第2の蒸留塔)10 の塔側からイソブチルアルデヒドを側流としてライン12より抜き出し、分離機(第2の蒸留塔)10の塔底から、イソブタノール及びノルマルブチルアルデヒドを塔底液としてライン13より抜き出す。
【0096】
この場合、分離機(第2の蒸留塔)10の塔頂より抜き出される低沸点化合物に未反応原料が含まれている場合、必要に応じ反応器2に、全量もしくはその一部をリサイクルしてもよい。
【0097】
図4は、図3の反応フローにおける好ましい態様を示す図である。即ち、図4に示すように、分離機(第2の蒸留塔)10の塔底から塔底液としてライン13より抜き出されるイソブタノール及びノルマルブチルアルデヒドは、その全量または一部を分離機(第3の蒸留塔)18に送られ、ノルマルブチルアルデヒドとイソブタノールとが分離される。分離されたノルマルブチルアルデヒドは、分離機(第3の蒸留塔)18の塔頂から抜き出され、その全量または一部が、ライン19を用いて反応器2にリサイクルされてもよい。
【0098】
上記のような金属化合物、有機リン化合物、プロトン性溶媒を用いて、上記のような反応条件で反応を行うことにより、ノルマルブタノール及びイソブチルアルデヒドが高収率で得られる。この得られた反応生成物は、以下のようにしてノルマルブタノール及びイソブチルアルデヒドのそれぞれの製品として得ることができる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
触媒調製用のガラス容器に、窒素雰囲気下でRh(acac)(CO)(11.2mg、0.0434mmol)、トリオクチルホスフィン(64.3mg、0.174mmol、Rh(acac)(CO)1モルに対して4モル)を仕込み、エタノール(11.4ml、反応媒体の総重量に対して83.6重量%)とガスクロマトグラフィー分析用の内部標準であるn−ヘプタン(0.8ml)を加えて溶解させ、当該溶液を別途用意した内容量50mlのステンレス鋼オートクレーブに窒素雰囲気下で仕込んだ。
更に、プロピレン(1.15g、27.33mmol)を圧入した後、オートクレーブを密閉した。当該オートクレーブを120度まで昇温した後、水素及び一酸化炭素の混合ガス(混合比:水素/一酸化炭素=1/1)を、系内圧力が2.0MPaになるように圧入して反応を開始した。
【0100】
尚、混合ガスはオートクレーブ内に取り付けられたフィード管を通して、反応液中にバブリングさせながら導入し、反応液の撹拌はオートクレーブ内に磁性撹拌機を予め入れておき、磁性撹拌機を用いて撹拌した。また、混合ガスは、反応器内でガスが消費され内圧が低下した場合には、蓄圧器から二次圧力調整器を通して自動供給されるようにし、系内圧力が常に2.0MPaに保てるようにした。
反応は、蓄圧器の内圧をモニタリングし、ガス消費に伴う蓄圧器の圧力低下がほぼ停止するまで継続した。
【0101】
反応終了後、オートクレーブを室温まで冷却し、反応液を取り出してガスクロマトグラフィーで分析し、生成物濃度を測定した。その結果、ノルマルブタノール収率は56.5%、イソブチルアルデヒド収率は16.4%であった。
尚、この他の物質の収率は、プロパン0.4%、ノルマルブチルアルデヒド9.7%、イソブタノール17.0%であった。生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=5.8、FNBA/FIBA=3.3、FIBD/FIBA=1.0であった。また、原料プロピレンのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれ、FPPY/FIBD=6.1、FPPY/FNBA=1.8であった。
【0102】
(実施例2)
実施例1において、トリオクチルホスフィンの添加量を160.9mg(0.434mmol、Rh(acac)(CO)1モルに対して10モル)とした以外は同様にして反応を実施し、分析を行った。尚、エタノールは反応媒体の総重量に対して82.8重量%であった。その結果、ノルマルブタノール収率は57.3%、イソブチルアルデヒド収率は12.8%であり、生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=8.1、FNBA/FIBA=3.0、FIBD/FIBA=0.7であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=7.8、FPPY/FNBA=1.7であった。
【0103】
(実施例3)
実施例1において、反応温度を140℃、反応圧力を5MPaとした以外は同様にして反応を実施し、分析を行った。尚、エタノールは反応媒体の総重量に対して83.6重量%であった。その結果、ノルマルブタノール収率は31.2%、イソブチルアルデヒド収率は27.3%であり、生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=1.0、FNBA/FIBA=3.6、FIBD/FIBA=3.1であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=3.7、FPPY/FNBA=3.2であった。
【0104】
(実施例4)
実施例1において、トリオクチルホスフィンの添加量を370.0mg(0.998mmol、Rh(acac)(CO)1モルに対して23モル)とし、反応温度を160℃、反応圧力を5MPaとした以外は同様にして反応を実施し、分析を行った。尚、エタノールは反応媒体の総重量に対して81.3重量%であった。その結果、ノルマルブタノール収率は34.8%、イソブチルアルデヒド収率は23.6%であり、生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=1.5、FNBA/FIBA=2.4、FIBD/FIBA=1.6であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=4.2、FPPY/FNBA=2.9であった。
【0105】
(実施例5)
実施例1において、トリオクチルホスフィンの代わりにトリエチルホスフィンを用い、その添加量を51.3mg(0.0434mmol、Rh(acac)(CO)1モルに対して10モル)とし、反応温度を140℃、反応圧力を5MPaとした以外は同様にして反応を実施し、分析を行った。尚、エタノールは反応媒体の総重量に対して83.7重量%であった。その結果、ノルマルブタノール収率は51.2%、イソブチルアルデヒド収率は18.4%であり、生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=3.9、FNBA/FIBA=3.3、FIBD/FIBA=1.2であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=5.4、FPPY/FNBA=2.0であった。
【0106】
(実施例6)
実施例5において、トリエチルホスフィンの添加量を20.5mg(0.174mmol、Rh(acac)(CO)1モルに対して4モル)とした以外は同様にして反応を実施し、分析を行った。尚、エタノールは反応媒体の総重量に対して83.9重量%であった。その結果、ノルマルブタノール収率は11.0%、イソブチルアルデヒド収率は30.8%であり、生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=0.2、FNBA/FIBA=3.1、FIBD/FIBA=8.7であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=3.3、FPPY/FNBA=9.1であった。
【0107】
(実施例7)
実施例5において、トリエチルホスフィンの添加量を30.8mg(0.260mmol、Rh(acac)(CO)1モルに対して6モル)とし、反応圧力を2.2MPaとした以外は同様にして反応を実施し、分析を行った。尚、エタノールは反応媒体の総重量に対して83.8重量%であった。その結果、ノルマルブタノール収率は18.6%、イソブチルアルデヒド収率は13.7%であり、生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=0.6、FNBA/FIBA=5.2、FIBD/FIBA=3.9であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=7.3、FPPY/FNBA=5.4であった。
【0108】
以下、実施例8〜実施例11においては、プロセスシミュレーション計算に基づく実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0109】
(実施例8)
図1のプロセスについてシミュレーションを行った。
図1において、プロピレンを10kmol/hr、水素を20kmol/hr、一酸化炭素を10kmol/hrでライン1から反応器2に供給する。そして、実施例1で調製した触媒で、溶媒としてエタノールのかわりにノルマルブタノールを用い、触媒液は、ライン8を通って2,000kg/hrで反応器2に循環する。
反応は、温度120℃、圧力2MPaで行い、プロピレンの転化率は100%、生成物の選択率は、実施例1の成績と同一とする。
分離機(第1の蒸留塔)5、分離機(第2の蒸留塔)10、分離機(第3の蒸留塔)14はいずれも蒸留塔とし、各条件を表1に示す。また、以上の条件下でシミュレーションを行った結果を表2に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
尚、表2中の略語は以下の通りである。尚、Stream.No.は図1に示されたプロセスのライン番号に対応する。
PPA:プロパン
IBD:イソブチルアルデヒド
NBD:ノルマルブチルアルデヒド
NBA:ノルマルブタノール
IBA:イソブチルアルコール
Total:PPA,IBD,NBD,NBA,IBAの合計
【0113】
この結果、ライン12からは、純度99.9wt%のイソブチルアルデヒドが、収率15.3%で得られ、ライン16から純度99.9wt%のノルマルブタノールが収率55.6%で得られることが分かる。この反応系において生成する各成分のトータルの値から算出した生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=5.9、FNBA/FIBA=3.3、FIBD/FIBA=1.0であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=6.1、FPPY/FNBA=1.8であった。
【0114】
(実施例9)
図2のプロセスについてシミュレーションを行った。
図2において、プロピレンを10kmol/hr、水素を20kmol/hr、一酸化炭素を10kmol/hrでライン1から反応器2に供給する。また実施例1の触媒で、溶媒としてエタノールのかわりにノルマルブタノールを用い、触媒液は、ライン8を通って2,000kg/hrで反応器2に循環させる。
反応は、温度120℃、圧力2MPaで行い、プロピレンの転化率は100%、生成物の選択率は、実施例1の成績と同一とする。
また、ライン13を通って反応器2にリサイクルされたノルマルブチルアルデヒドは、反応器2内で全てノルマルブタノールに転化すると仮定した。
分離機(第1の蒸留塔)5、分離機(第2の蒸留塔)10、分離機(第3の蒸留塔)14はいずれも蒸留塔とし、各条件を表3に示す。また、以上の条件下でシミュレーションを行った結果を表4に示す。
【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
この結果、ライン12からは、純度99.9wt%のイソブチルアルデヒドが、収率15.3%で得られ、ライン16から純度99.9wt%のノルマルブタノールが収率64.6%で得られることが分かる。この反応系において生成する各成分のトータルの値から算出した生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=102.4、FNBA/FIBA=3.8、FIBD/FIBA=1.0であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=6.2、FPPY/FNBA=1.5であった。
【0118】
(実施例10)
図3のプロセスについてシミュレーションを行った。
図3において、プロピレンを10kmol/hr、水素を20kmol/hr、一酸化炭素を10kmol/hrでライン1から反応器2に供給する。また実施例1の触媒において、溶媒としてエタノールのかわりにノルマルブタノールを用い、触媒液は、ライン8を通って2,000kg/hrで反応器2に循環させる。
反応は、温度120℃、圧力2MPaで行い、プロピレンの転化率は100%、生成物の選択率は、実施例1の成績と同一と仮定する。
分離機(第1の蒸留塔)5、分離機(第2の蒸留塔)10はいずれも蒸留塔とし、各条件を表5に示す。また、以上の条件下でシミュレーションを行った結果を表6に示す。
【0119】
【表5】

【0120】
【表6】

【0121】
この結果、ライン12からは、純度99.9wt%のイソブチルアルデヒドが、収率15.3%で得られ、ライン16から純度99.9wt%のノルマルブタノールが収率56.0%で得られることが分かる。この反応系において生成する各成分のトータルの値から算出した生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=5.8、FNBA/FIBA=3.3、FIBD/FIBA=1.0であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=6.1、FPPY/FNBA=1.8であった。
【0122】
(実施例11)
図4のプロセスについてシミュレーションを行った。
図4において、プロピレンを10kmol/hr、水素を20kmol/hr、一酸化炭素を10kmol/hrでライン1から反応器2に供給する。また実施例1の触媒で、溶媒としてエタノールのかわりにノルマルブタノールを用い、触媒液は、ライン8を通って2,000kg/hrで反応器2に循環させる。
反応は、温度120℃、圧力2MPaで行い、プロピレンの転化率は100%、生成物の選択率は、実施例1の成績と同一と仮定する。
また、ライン19を通って反応器2にリサイクルされたノルマルブチルアルデヒドは、反応器2内で全てノルマルブタノールに転化すると仮定した。
分離機(第1の蒸留塔)5、分離機(第2の蒸留塔)10、分離機(第3の蒸留塔)18はいずれも蒸留塔とし、各条件を表7に示す。また、以上の条件下でシミュレーションを行った結果を表8に示す。
【0123】
【表7】

【0124】
【表8】

【0125】
この結果、ライン12からは、純度99.9wt%のイソブチルアルデヒドが、収率15.3%で得られ、ライン7から純度99.9wt%のノルマルブタノールが収率64.8%で得られることが分かる。この反応系において生成する各成分のトータルの値から算出した生成速度の比は、それぞれFNBA/FNBD=73.4、FNBA/FIBA=3.8、FIBD/FIBA=1.0であった。また、原料プロピレンの反応器へのフィード量に対する生成速度の比は、それぞれFPPY/FIBD=6.1、FPPY/FNBA=1.5であった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明によれば、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドとを併産することができる。よって、本発明の工業的価値は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本実施の形態における反応フローを説明する図である。
【図2】図1の反応フローにおける好ましい態様を示す図である。
【図3】本実施の形態における第2の反応フローを説明する図である。
【図4】図3の反応フローにおける好ましい態様を示す図である。
【符号の説明】
【0128】
1、3、4、6、7、8、9、11、12、13、15、16、17、19、20…ライン、2…反応器、5…分離機(第1の蒸留塔)、10…分離機(第2の蒸留塔)、14,18…分離機(第3の蒸留塔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する触媒の存在下、プロトン溶媒中でプロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドを共に収率10%以上で生成する
ことを特徴とするノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【請求項2】
周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する触媒の存在下、プロトン溶媒中でプロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、ノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドを併産するにあたり、反応系への当該プロピレンの供給速度FPPY(mol/hr)と当該イソブチルアルデヒドの生成速度FIBD(mol/hr)が下記式(I)を満足する
ことを特徴とするノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
1.1≦FPPY/FIBD≦10.0・・・(I)
【請求項3】
前記反応系への前記プロピレンの供給速度FPPY(mol/hr)と前記ノルマルブタノールの生成速度FNBA(mol/hr)が下記式(II)を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
1.1≦FPPY/FNBA≦10.0・・・(II)
【請求項4】
前記イソブチルアルデヒドの生成速度FIBD(mol/hr)、前記イソブタノールの生成速度FIBA(mol/hr)、ノルマルブチルアルデヒドの生成速度FNBD(mol/hr)、及び前記ノルマルブタノールの生成速度FNBA(mol/hr)が下記式(III)〜(V)を満足する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
NBA/FNBD≧0.5・・・(III)
NBA/FIBA≧0.5・・・(IV)
IBD/FIBA≧0.5・・・(V)
【請求項5】
(A工程):反応器中、周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する前記触媒の存在下、前記プロトン溶媒中で前記プロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、第8族〜第10族に属する当該金属元素の当該化合物、有機リン化合物、当該プロトン溶媒、前記ノルマルブタノール、前記イソブタノール、前記ノルマルブチルアルデヒド、前記イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する反応生成物流を得る工程と、
(B工程):前記A工程で得られた前記反応生成物流を第1の蒸留塔に流入させ、当該第1の蒸留塔の塔頂より前記ノルマルブチルアルデヒド、前記イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する塔頂留出液を抜き出し、前記ノルマルブタノール及び前記イソブタノールを含有する液を側流液として抜き出し、第8族〜第10族に属する前記金属元素の前記化合物及び前記有機リン化合物を含有する塔底液を前記反応器に循環させる工程と、
(C工程):前記B工程で得られた前記塔頂留出液を第2の蒸留塔に流入させ、当該第2の蒸留塔の塔頂より低沸点化合物を留出液として抜き出し、前記イソブチルアルデヒドを側流液として抜き出し、前記ノルマルブチルアルデヒドを塔底液として抜き出す工程と、
(D工程):前記B工程で得られた前記側流液を第3の蒸留塔に流入させ、当該第3の蒸留塔の塔頂より前記イソブタノールを留出液として抜き出し、前記ノルマルブタノールを塔底液として抜き出す工程と、を有する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【請求項6】
前記C工程で得られた前記塔底液を前記反応器に循環させることを特徴とする請求項5に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【請求項7】
(A工程):反応器中、周期表の第8族〜第10族に属する金属元素の化合物を含有する前記触媒の存在下、プロトン溶媒中でプロピレンを水素及び一酸化炭素と反応させ、第8族〜第10族に属する金属元素の前記化合物、有機リン化合物、プロトン溶媒、ノルマルブタノール、イソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド及び低沸点化合物を含有する反応生成物流を得る工程と、
(B’工程):前記A工程で得られた前記反応生成物流を第1の蒸留塔に流入させ、当該第1の蒸留塔の塔頂よりイソブタノール、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、及び低沸点化合物を含有する塔頂留出液を抜き出し、ノルマルブタノールを側流液として抜き出し、第8族〜第10族に属する金属の化合物及び有機リン化合物を含有する塔底液を前記反応器に循環させる工程と、
(C’工程):前記B’工程で得られた前記塔頂留出液を第2の蒸留塔に流入させ、当該第2の蒸留塔の塔頂より低沸点化合物を留出液として抜き出し、イソブチルアルデヒドを側流として抜き出し、イソブタノール及びノルマルブチルアルデヒドを塔底液として抜き出す工程と、を有する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【請求項8】
前記C’工程で得られた塔底液を前記反応器に循環させることを特徴とする請求項7に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【請求項9】
周期表の第8族〜第10族に属する前記金属元素が、ロジウムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【請求項10】
周期表の第8族〜第10族に属する前記金属元素の前記化合物を含有する前記触媒が、配位子として有機リン化合物を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。
【請求項11】
前記有機リン化合物が、アルキルホスフィンであることを特徴とする請求項10に記載のノルマルブタノールとイソブチルアルデヒドの併産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−137996(P2008−137996A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291921(P2007−291921)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】