説明

ノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体及びその製造方法

【課題】 本発明は、適度な見掛け密度を有するため断熱性及び可撓性に優れ、燃焼時にハロゲンガスを発生しない高度の難燃性を有する樹脂発泡体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)を含有する樹脂成分(A)100質量部に対して、(B)金属水和物として水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウムを151〜300質量部、(C)赤燐2〜25質量部、(D)酸化チタン5〜100質量部及び(E)熱分解型発泡剤10〜40質量部を含有し、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計が前記樹脂成分(A)中14〜50質量%である樹脂組成物を用いて架橋及び発泡させてなるノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度な見掛け密度を有するため断熱性及び可撓性に優れ、燃焼時にハロゲンガスを発生しない高度の難燃性を有する樹脂発泡体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリオレフィン系樹脂発泡体は、軽量性、断熱性、衝撃吸収性、耐水性、耐薬品性及び機械特性に優れていることから、建材、電化製品、自動車、エネルギー機器などに使用されている。ポリオレフィンは易燃性であるため、難燃性が必要とされる分野では、難燃性樹脂発泡体が使用されている。
通常、難燃性樹脂発泡体は、難燃剤を配合した樹脂組成物を発泡させることにより製造されている。難燃剤のうち、ハロゲン系難燃剤は少ない配合量で高い難燃性を付与することができる。しかしハロゲン系難燃剤を使用した難燃性樹脂発泡体は、燃焼時に有害なハロゲンガスを発生する。このため、ハロゲン系難燃剤を使用せずに、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムのような無機物を配合した樹脂組成物を用いて発泡体を製造する方法(特許文献1参照)や、水酸化マグネシウムにホウ酸亜鉛や三酸化アンチモンを併用する方法(特許文献2参照)が提案されている。また、特定の樹脂に水酸化マグネシウムなどを配合した樹脂組成物を用いる方法(特許文献3参照)も提案されている。
【0003】
ところで、近年、発泡体には、さらに高い難燃性が求められている。その規格として、UL94垂直難燃試験がある。この試験において、垂直下方から接炎された場合に、2回目接炎後60秒以内に残じんが消火しなければならないV−1又はV−2レベルの難燃性に合格することが、難燃性樹脂発泡体に求められることが多くなっている。さらに2回目接炎後30秒以内に残じんが消火しなければならないV−0レベルが求められることもある。
前記の特許文献1〜3に記載の難燃性樹脂発泡体により、酸素指数の向上を図ることができ、ある程度の難燃性を確保することができる。しかし、これらの難燃性樹脂発泡体では、自己消火性が不十分なために、UL94垂直難燃試験において、V−0レベルに合格することは困難である。難燃性を向上させるために、難燃剤をさらに多く配合した樹脂組成物を用いて発泡体を製造すると、所望の見掛け密度の発泡体を確保することが困難な場合がある。
そこで、UL垂直難燃試験において、V−1又はV−2レベル、さらにはV−0レベルの難燃性を有するとともに、適度な見掛け密度を有するノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60−26500号公報
【特許文献2】特開平2−296841号公報
【特許文献3】特許第3580556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、適度な見掛け密度を有するため断熱性及び可撓性に優れ、燃焼時にハロゲンガスを発生しない高度の難燃性を有する樹脂発泡体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来、難燃性樹脂発泡体として、金属水和物などの難燃剤を高充填することにより、難燃性の一般的な基準である、酸素指数が高い発泡体を得ることはできる。しかしその場合、発泡倍率が低下することから、ハロゲン系の難燃剤を配合することが行われることが多いため、ノンハロゲンで高発泡の難燃性樹脂発泡体を得ることは困難である。さらに、後述の通り、UL94垂直難燃試験は、垂直下方から接炎した場合に自己消火性が高くなければ、V−1又はV−2レベル、さらに好ましくはV−0レベルの難燃性を有することはできない。従来、ノンハロゲンで高発泡であり、かつUL94垂直難燃試験において、V−1、V−2レベル、又はV−0レベルの難燃性を有する発泡体を提供することは困難であった。
そこで本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、特定のエチレン系共重合体に対し、金属水和物、赤燐、酸化チタン、熱安定剤及び熱分解型発泡剤を特定量含有する難燃性樹脂組成物を用いて架橋・発泡させると、高発泡倍率のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体を得ることができ、この発泡体は適度な見掛け密度と高度の垂直難燃性を有することを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
<1>エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)を含有する樹脂成分(A)100質量部に対して、(B)金属水和物として水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウムを151〜300質量部、(C)赤燐2〜25質量部、(D)酸化チタン5〜100質量部及び(E)熱分解型発泡剤10〜40質量部を含有し、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計が前記樹脂成分(A)中14〜50質量%である樹脂組成物を用いて架橋及び発泡させてなることを特徴とするノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体、
<2>前記樹脂成分(A)100質量部に対する金属水和物の配合量を(a)質量部、酸化チタンの配合量を(b)質量部としたときに、a/bが1.5〜60であり、かつ(a+b)が180以上であることを特徴とする<1>記載のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体、及び
<3>厚さが2〜20mm、見掛け密度が35〜150kg/mであることを特徴とする<1>又は<2>記載のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体、及び
<4>エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)を含有する樹脂成分(A)100質量部に対して、(B)金属水和物として水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウムを151〜300質量部、(C)赤燐2〜25質量部、(D)酸化チタン5〜100質量部及び(E)熱分解型発泡剤10〜40質量部を含有し、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計が前記樹脂成分(A)中14〜50質量%である樹脂組成物を用いて架橋及び発泡することを特徴とするノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体の製造方法、を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、適度な見掛け密度を有するため断熱性及び可撓性に優れ、燃焼時にハロゲンガスを発生しない高度の難燃性を有する樹脂発泡体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体を含有する樹脂成分(A)に対して、(B)金属水和物として水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウム、(C)赤燐、(D)酸化チタン及び(E)熱分解型発泡剤を特定量含有し、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計が前記樹脂成分(A)中、特定の範囲内である樹脂組成物を用いて架橋及び発泡させてなる。
【0010】
(A)樹脂成分
本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体を構成する樹脂成分(A)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体を含有する。エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計は前記樹脂成分(A)中14〜50質量%である。
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、樹脂成分(A)中の酢酸ビニル含有量が14〜50%となるように配合される。エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(以下、単にMFRともいう。)は0.5〜10g/10minであることが好ましい。本発明においては、メルトフローレートはJIS K 7210により測定された値(条件:荷重2.16kg、温度190℃)をいう。MFRをこの範囲内とすることにより、樹脂に金属水和物を均一に混合することができ、発泡時の成形性が良好であるため、優れた発泡体が得られる。
エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)は、樹脂成分(A)中のエチルアクリレート含有量が14〜50%となるように配合される。エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)のMFRは0.5〜10g/10minであることが好ましい。MFRが好ましい範囲にある場合には、樹脂に難燃剤を均一に混合することが容易で、発泡時の成形性が良好であるため、優れた発泡体が得られる。
【0011】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計を前記樹脂成分(A)中14〜50質量%とすることにより、後述の金属水和物を高充填することが可能になるだけでなく、後述の酸化チタンを十分に配合することが可能となる。これにより従来は困難であった、UL垂直難燃試験において高レベルの難燃性を有し、しかも適度の見掛け密度を有するノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体を提供することができる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計は、前記樹脂成分(A)中好ましくは15〜46質量%である。
エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計が前記樹脂成分(A)中14〜50質量%の範囲内で、エチレン−酢酸ビニル共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体以外の樹脂を配合してもよい。
エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量は、好ましくは、前記樹脂成分(A)中15〜46質量%である。
【0012】
(B)金属水和物
金属水和物としては、金属水和物として水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウムが使用される。水酸化マグネシウム及び/又は表面処理された水酸化アルミニウムの配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して151〜300質量部である。この量が少なすぎると難燃性が不十分となり、逆に多すぎると、樹脂成分に水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウムを均一に混練することが
困難になるばかりか発泡倍率が著しく低下する。
【0013】
水酸化マグネシウムとしては、表面が処理されているものでも、表面が処理されていないものでも適宜使用することができる。本発明で用いることができる水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(「キスマ5」(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「キスマ5A」(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたもの(「キスマ5J」(商品名、協和化学社製)など)、ビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤により表面処理されたもの(「キスマ5L」(商品名、協和化学社製)など)を使用することができる。本発明においては、シランカップリング剤による表面処理がされていることがさらに好ましい。
【0014】
水酸化アルミニウムは、結晶水の脱離温度が低いため、表面処理されていない水酸化アルミニウムは、樹脂組成物を加熱し発泡させる際に、脱水反応を起しやすく、高倍率の発泡体が得られないことがある。そこで、水酸化アルミニウムとしては、表面処理されたものを使用することが必要である。本発明で用いることができる水酸化アルミニウムとしては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「ハイジライトH42S」(商品名、昭和電工社製)など)を使用することができる。
【0015】
後述の化学架橋発泡法により、本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体を製造する場合には、金属水和物として、水酸化マグネシウムを使用することが好ましい。さらに表面処理された水酸化アルミニウムを併用することができる。この場合、水酸化マグネシウムと表面処理された水酸化アルミニウムの合計量は、樹脂成分(A)100質量部に対して300質量部以下で、表面処理された水酸化アルミニウムは、樹脂成分(A)100質量部に対して75質量部未満とし、水酸化マグネシウムの配合量より少なくすることが好ましい。
後述の、樹脂組成物シートの片面又は両面に電子線などの電離性放射線を照射した後に架橋発泡させる方法で、本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体を製造することにより、圧縮復元性及び難燃性の低下を最小限に抑制することができる。この場合、表面処理された水酸化アルミニウムを、樹脂成分(A)100質量部に対して、75質量部以上配合した樹脂組成物を使用することができる。
【0016】
(C)赤燐
本発明における赤燐(C)は、安定性の点から、表面処理されているものが好ましい。赤燐の配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して2〜25重量部である。赤燐の配合量が少なすぎると十分な難燃性が得られない。赤燐の配合量が多すぎると、難燃性向上にはほとんど寄与しないばかりか、発泡性を阻害することがある。赤燐の好ましい配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して5〜15質量部である。
【0017】
(D)酸化チタン
本発明における酸化チタン(D)としては、アタターゼ型、ルチル型のどちらも使用することができる。酸化チタンには、表面処理が施されていても、表面処理されていなくてもよい。酸化チタンを配合することにより、発泡時の気泡の破壊を抑制して、独立気泡を増加させることができるので、圧縮復元性に優れた発泡体を得ることができる。
酸化チタンの配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して5〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。酸化チタンの配合量が少なすぎると、難燃性が不足する。酸化チタンの配合量が多すぎると、発泡倍率が低下するのに加え、酸化チタンの密度が大きいため、発泡体の利点である軽量性が失われる。
【0018】
(E)熱分解型発泡剤
本発明の樹脂組成物に含有されるその他の成分として、熱分解型発泡剤(E1)が配合される。熱分解型発泡剤は、加熱により分解してガスを発生する発泡剤である。例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。これらの発泡剤は1種または2種以上用いることができる。熱分解型発泡剤の配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して、10〜40質量部配合される。
【0019】
(F)その他の成分
本発明における樹脂組成物には、熱安定剤を配合することができる。熱安定剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、金属不活性化剤などを使用することができる。これらの熱安定剤は、1種又は2種以上を用いることができる。熱安定剤を配合する場合、樹脂成分(A)100質量部に対して0.1〜5重量部とすることが好ましい。さらに好ましくは、熱安定剤の配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して0.2〜2重量部である。熱安定剤を配合する必要がある場合に、熱安定剤の配合量が少なすぎると、熱安定化の効果が得られず、発泡時の加熱によって樹脂が熱劣化したり、発泡成形性が劣り、機械的強度の小さい発泡体となる場合がある。一方、熱安定剤の配合量が多すぎると、熱劣化を防止する効果の向上が見られず、樹脂組成物の架橋が阻害され、良好な発泡体を得ることができないことがある。
さらに本発明における樹脂組成物には上記の成分の他に、必要に応じて、架橋剤、架橋助剤、充填剤、顔料、光安定剤、滑剤などを添加してもよい。
【0020】
本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体は、上記の(A)〜(E)成分を少なくとも含んだものを溶融混練して樹脂組成物とし、この樹脂組成物を架橋・発泡させることにより、製造することができる。本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体は、UL94垂直難燃試験において、V−1又はV−2レベル、さらに好ましくはV−0レベルの難燃性を有するとともに、高発泡倍率の発泡体である。
ここでUL94垂直難燃試験について説明する。試験片を垂直に支持し、試験片の下端にバーナーの炎を当てて10秒間保ち(第1回接炎)、その後バーナー炎を試験片から離す。その後炎が消えれば直ちにバーナー炎を更に10秒間当てて(第2回接炎)バーナー炎を離す。
(i)5本の試験片の第1回及び第2回の接炎の有炎燃焼時間の合計(総燃焼時間(t))が、50秒以内であって、第2回目接炎後の有炎燃焼時間と、無炎燃焼時間の合計(残じん時間(t))が30秒以内のものをV−0とする。
(ii)5本の試験片の第1回及び第2回の接炎の有炎燃焼時間の合計(総燃焼時間(t))が、250秒以内であって、第2回目接炎後の有炎燃焼時間と、無炎燃焼時間の合計(残じん時間(t))が60秒以内のものをV−1又はV−2とし、さらに燃焼物のドリップが生じないものをV−1、ドリップが生じるものをV−2とする。
【0021】
本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体に用いられる樹脂組成物においては、樹脂成分(A)100質量部に対する金属水和物の配合量を(a)質量部、酸化チタンの配合量を(b)質量部としたときに、a/bが1.5〜60であり、かつ(a+b)が180以上であることが好ましい。a/bが小さすぎると、上記UL94垂直難燃試験において、残じん時間(t)が長くなる。また、a/bが大きすぎると、発泡倍率が低下する。また、a+bが小さすぎると難燃性が低下する。さらにa/bが5〜40であることがより好ましい。また、比率a/bが1.5〜60、a+bが180以上であっても、樹脂成分(A)に対する(B)〜(E)成分が上記の範囲内でないと、所望の難燃性や発泡倍率が得られない。
【0022】
本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体の厚さは2〜20mm、見掛け密度は200kg/m以下のものが好ましい。本発明において、発泡体の見掛け密度は、所定の大きさ(例えば、10cm×10cm)に切り出した試験片の発泡体の質量を体積で除して測定した値である。見掛け密度はさらに好ましくは、35〜150kg/mである。この範囲内の厚さと見掛け密度を有する発泡体は、断熱性及び可撓性に優れている。
発泡体の厚さが薄すぎると断熱性に劣り、厚さが厚すぎると、架橋発泡時に発泡体自身の重みにより発泡炉内で、発泡体が切れやすくなる。また見掛け密度が小さすぎると、気泡膜が薄膜化するため、輻射熱の透過が著しくなり、断熱性が低下する場合がある。発泡体の見掛け密度が大きすぎると、発泡倍率が小さいために、断熱性が低下する。
【0023】
本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体を製造する方法としては、樹脂組成物の架橋と発泡をほぼ同時に行う方法と、樹脂組成物を架橋させた後に発泡させる方法とに分けられる。
(1)架橋と発泡をほぼ同時に行う方法
上述した樹脂成分(A)と、難燃剤などの(B)〜(E)成分と、必要により、(F)成分中の熱安定剤や架橋剤などを配合したものを、加圧式ニーダーや2本ロールなどの混練機で、架橋剤や発泡剤が分解しない温度(100〜130℃程度)で混練して、樹脂組成物のペレットを作製する。得られたペレットを押出機に供給し、樹脂温度100〜130℃程度で押出成形して、所望の厚さと幅を有する未発泡シートを形成する。この未発泡シートを約180〜230℃に調整した加熱発泡炉に投入して本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体のシートを作製する。この方法では、架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシクメン、4,4’−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレリック酸n−ブチルエステル、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどの有機過酸化物を使用することが好ましい。架橋剤の配合量は、前記樹脂成分(A)100質量部に対して0.3〜2.0質量部が好ましい。
【0024】
樹脂組成物を架橋させた後に発泡させる方法としては、樹脂成分にシラン化合物をグラフトさせ、その後グラフトされた官能基同士を反応させることにより、樹脂組成物を架橋させた後に加熱し、発泡させる方法(下記(2a))がある。また、樹脂組成物に電離性放射線を照射して架橋させた後に、加熱し、発泡する方法(下記(2b))がある。(2a)の方法を、以下、「シラン架橋後に加熱し、発泡させる方法」ともいう。(2b)の方法を、以下、「電離性放射線照射架橋後に加熱し、発泡させる方法」ともいう。
【0025】
(2a)シラン架橋後に加熱し、発泡させる方法
上述した樹脂成分(A)及び難燃剤などの(B)〜(E)成分のほか、ビニルトリメトキシシランなどのシラン化合物及びラジカル重合開始剤と、さらに必要により、(F)成分中の熱安定剤などを配合したものを混練して樹脂組成物のペレットを作製する。得られたペレットをジブチルスズジラウレートなどのシラノール縮合触媒とともに押出機に供給し、押出成形して未発泡シートを形成し、この未発泡シート中でラジカル重合開始剤の作用によりシラン化合物を樹脂成分にグラフトさせる。次いで、グラフト化した樹脂成分を水の存在下で縮合反応により架橋させる。このシートを加熱炉に投入して、本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体のシートを作製する。この場合、ラジカル重合開始剤としては、上記(1)の発泡とほぼ同時に樹脂組成物架橋させる方法で使用した有機過酸化物を同様に使用することができる。ラジカル重合開始剤の配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して0.003〜2質量部が好ましい。シラノール縮合触媒の配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して0.03〜5質量部が好ましい。
【0026】
(2b)電離性放射線照射架橋後に加熱し、発泡させる方法
上述した樹脂成分(A)及び難燃剤などの(B)〜(E)成分のほか、必要により、(F)成分中の熱安定剤などを配合したものを混練して樹脂組成物のペレットを作製する。得られた樹脂組成物のペレットを押出機に供給し、押出成形して未発泡シートを作製する。得られた未発泡シートに、α、β、γ線、電子線、中性子線などの電離性放射線を照射して架橋させる。このシートを加熱炉に投入して本発明のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体のシートを作製する。
以上の、(1)、(2a)及び(2b)の方法は単独で使用してもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。いずれの方法でも、必要に応じてトリメチロールプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼンなどの架橋助剤を、樹脂成分(A)100質量部に対して0.05〜3質量部配合してもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例18、19及び比較例8、10以外は、表1〜3に示す割合で各成分を配合し、120℃で溶融および混練して樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを押出機に供給し、押出成形して未発泡シートを作製した。その後、これらの未発泡シートを220℃に調整した熱風炉に導入して、架橋と発泡をほぼ同時に行い、難燃性樹脂発泡体を作製した。
実施例18、19及び比較例8、10では、表1〜3に示す割合で各成分を配合し、120℃で溶融および混練して樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを押出機に供給し、押出成形して未発泡シートを作製した。その後、未発泡シートの両面に加速電圧500Vで照射線量12Mradの電子線を照射して架橋させた後、このシートを220℃に調整した熱風炉に導入して発泡させて、難燃性樹脂発泡体を作製した。
【0029】
表1〜3で用いた樹脂組成物の各成分の詳細は以下に示す通りである。
<樹脂成分(A)>
EVA1(エチレン−酢酸ビニル共重合体)
酢酸ビニル含有量25%、MFR 2g/10min
商品名:エバフレックスEV360、三井デュポンポリケミカル(株)製
EVA2(エチレン−酢酸ビニル共重合体)
酢酸ビニル含有量41%、MFR 2g/10min
商品名:エバフレックスEV40LX、三井デュポンポリケミカル(株)製
EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)
エチルアクリレート含有量25%、MFR0.5g/10min
商品名:エバフレックスA714、三井デュポンポリケミカル(株)製
LLDPE(エチレン−α−オレフィン共重合体)
MFR 0.5g/10min
商品名:ENGAGE8180、ザ・ダウ・デュポン・エラストマー(株)製
【0030】
<金属水和物(B)>
水酸化マグネシウム
商品名:キスマ5B、協和化学(株)製(表面処理されていない)
水酸化アルミニウム1
商品名:ハイジライトH42S、昭和電工(株)製(脂肪酸により表面処理)
水酸化アルミニウム2
商品名:ハイジライトH42M、昭和電工(株)製(表面処理されていない)
【0031】
<金属水和物以外の難燃剤、難燃助剤>
ハロゲン系難燃剤:デカブロモジフェニルエーテル
商品名 SAYTEX 102E、アルベマール社製
三酸化アンチモン
商品名 三酸化アンチモン、TWINKLING STAR社製
【0032】
<赤燐(C)>
商品名 ノーバレッド120、燐化学工業(株)製
【0033】
<酸化チタン(D)>
商品名 Ti−Pure R−103、古河ケミカルズ(株)製
【0034】
<熱分解型発泡剤(E)>
発泡剤:アゾジカルボンアミド
商品名 AC#1L、永和化成(株)製
【0035】
<熱安定剤>
酸化防止剤1:フェノール系安定剤
商品名 イルガノックス1010、チバスペシャルティケミカルズ(株)製
酸化防止剤2:ホスファイト系安定剤
商品名 アデカスタブPEP−8、旭電化工業(株)製
【0036】
架橋剤:ジクミルパーオキサイド
商品名 パークミルD、日本油脂(株)製
架橋助剤:トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)
商品名 オグモントT200、新中村化学社製
【0037】
以上の樹脂のメルトフローレート(MFR)は以下のようにして測定した(JISK7210)。樹脂を190℃で溶融し、2.16kgfの荷重をかけてオリフィスより押し出し、10分間で押し出された樹脂の重量を測定した。
【0038】
得られたノンハロゲン系難燃樹脂発泡体について、以下の方法に従って特性を測定、評価した。なお、表1〜3には、配合した材料から明らかな通り、得られた発泡体にハロゲンや三酸化アンチモンを含有するかについても記載した。また、表1〜3には、樹脂成分中のエチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計も記載した。表には、「VA及びEA含有量」と略記した。
1.発泡体の厚さ
デジタルノギスにより、測定した。
2.発泡体の見掛け密度
得られた発泡体から10cm×10cmの大きさの試験片を切り出し、質量を体積で除して見掛け密度を算出した。見掛け密度が200kg/m以下のものを合格、それ以上のものを不合格とした。
【0039】
3.発泡体の垂直難燃性
UL94垂直難燃試験方法に準拠して、発泡体の垂直難燃性の試験を行った。各発泡体を、長さ125±5mm、幅13.0±0.5mmの大きさに切り出し、各実施例及び比較例につき、5本の試験片を用意した。各試験片を垂直に支持し、試験片の下端にバーナーの炎を当てて10秒間保ち(第1回接炎)、その後バーナー炎を試験片から離した。その後炎が消えれば直ちにバーナー炎を更に10秒間当てて(第2回接炎)バーナー炎を離した。
(i)5本の試験片の第1回及び第2回の接炎の有炎燃焼時間の合計(総燃焼時間(t))が、50秒以内であって、第2回目接炎後の有炎燃焼時間と、無炎燃焼時間の合計(残じん時間(t))が30秒以内のものをV−0とした。
(ii)5本の試験片の第1回及び第2回の接炎の有炎燃焼時間の合計(総燃焼時間(t))が、250秒以内であって、第2回目接炎後の有炎燃焼時間と、無炎燃焼時間の合計(残じん時間(t))が60秒以内のものをV−1又はV−2とし、さらに燃焼物のドリップが生じないものをV−1、ドリップが生じるものをV−2とした。
【0040】
4.ハロゲンガスの発生
発泡体を燃焼させて発生するガスをイオンクロマトグラフ法により分析し、ハロゲンガスが検出されるかどうか測定した。
【0041】
【表1】

【表2】

【表3】

実施例1〜19の発泡体は、適度な見掛け密度を有し、UL94垂直難燃試験のV−0又はV−1レベルである。また、実施例11、12、18及び19において、金属水和物として、水酸化マグネシウムと表面処理された水酸化アルミニウムが併用されている。実施例11及び12では、架橋と発泡をほぼ同時に行う方法で適度な見掛け密度を有し、難燃性に優れた発泡体が得られた。水酸化マグネシウムより水酸化アルミニウムの配合量を多くした場合には、電子線を照射して架橋させた後に加熱し、発泡させる方法により、適度な見掛け密度を有し、難燃性に優れた発泡体が得られている。
これに対して、比較例1では、水酸化マグネシウムの配合量が多すぎて、見掛け密度が大きい発泡体しか得られなかった。比較例2では、酸化チタンの配合量が多いため、同様に、見掛け密度が大きい発泡体しか得られなかった。比較例3では、酸化チタンの配合量が少なすぎて垂直難燃試験に合格しなかった。また比較例4では、赤燐を含まないため、垂直難燃試験に合格しなかった。比較例5〜7では、水酸化マグネシウムの配合量が少なすぎるため、垂直難燃試験に合格しなかった。比較例9は、ハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンを用いているため、水酸化マグネシウムの配合量が少なくてもV−0レベルの垂直難燃性を有するが、発泡体燃焼時にハロゲンガスを発生した。比較例10では、表面処理していない水酸化アルミニウムを用いているため、見掛け密度が大きい発泡体しか得られなかった。
以上説明したように、本発明のノンハロゲン系難燃樹脂発泡体は、燃焼時に有毒なハロゲンガスが全く発生せず、しかも無機物を高充填しているにもかかわらず高発泡倍率で適度な見掛け密度を有することがわかる。とりわけ、本発明のノンハロゲン系難燃樹脂発泡体は、従来の発泡体で困難であった、UL94垂直難燃試験においてV−1又はV−0レベルの高い難燃性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)を含有する樹脂成分(A)100質量部に対して、(B)金属水和物として水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウムを151〜300質量部、(C)赤燐2〜25質量部、(D)酸化チタン5〜100質量部及び(E)熱分解型発泡剤10〜40質量部を含有し、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計が前記樹脂成分(A)中14〜50質量%である樹脂組成物を用いて架橋及び発泡させてなることを特徴とするノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体。
【請求項2】
前記樹脂成分(A)100質量部に対する金属水和物の配合量を(a)質量部、酸化チタンの配合量を(b)質量部としたときに、a/bが1.5〜60であり、かつ(a+b)が180以上であることを特徴とする請求項1記載のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体。
【請求項3】
厚さが2〜20mm、見掛け密度が35〜150kg/mであることを特徴とする請求項1又は2記載のノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体。
【請求項4】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)を含有する樹脂成分(A)100質量部に対して、(B)金属水和物として水酸化マグネシウム及び/又は表面が処理された水酸化アルミニウムを151〜300質量部、(C)赤燐2〜25質量部、(D)酸化チタン5〜100質量部及び(E)熱分解型発泡剤10〜40質量部を含有し、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)及び/又はエチレン−エチルアクリレート共重合体(A2)の共重合体構成成分である酢酸ビニル及びエチルアクリレートの含有量の合計が前記樹脂成分(A)中14〜50質量%である樹脂組成物を用いて架橋及び発泡することを特徴とするノンハロゲン系難燃性樹脂発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2012−1572(P2012−1572A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135433(P2010−135433)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】