説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、難燃性絶縁電線及び自動車用ワイヤーハーネス

【課題】耐熱性及び耐摩耗性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物、難燃性絶縁電線及び自動車用ワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用いるノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、難燃性絶縁電線及び自動車用ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ワイヤーハーネスに用いられる絶縁樹脂としては、塩化ビニル樹脂が最も一般的である。塩化ビニル樹脂は、難燃性、耐油性、耐水性、絶縁性等優れた特性を有し、また、可塑剤や充填材を適宜調整することで、様々な使用目的に対応できるためである。
【0003】
しかしながら、塩化ビニル樹脂はハロゲンを含有することから、焼却時に有毒ガスが発生するため、塩化ビニル樹脂の代替品が検討されている。
【0004】
高耐熱品についても同様に、過酸化物や電子線等で架橋したポリ塩化ビニルやポリエチレン(主としてハロゲン系難燃剤を使用することが多くハロゲンフリーではない場合が多い)が使用されている場合が多い(特許文献1参照)。例えば、耐熱125℃グレードの自動車用ワイヤーハーネスならば、耐熱性に優れたポリ塩化ビニルやポリエチレンをベースにしたものが使用されている。このため、高耐熱性ハロゲンフリー電線に対する要求は高まっている。
【0005】
そこで、有害なハロゲンガス化水素ガスを発生しないポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレンをベース樹脂として用いる技術が開示されている(特許文献2参照)。ポリプロピレンは、結晶性が高く、耐摩耗性に優れている。
【特許文献1】特開2005−171172号公報
【特許文献2】特開2005−15760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ポリ塩化ビニル電線は、燃焼時に有害ガスが発生するという課題がある。
【0007】
また、架橋ポリエチレン電線は、耐熱性には優れるが、ハロゲン系難燃剤を使用したものが多い上に、耐摩耗性に劣るという課題がある。近年の自動車の高性能・高機能化に伴い、ワイヤーハーネスは肥大化する傾向にあり、配線スペースの増大、重量及びコストの増加が課題となっている。そのため、絶縁体の薄肉化等が検討されているが、架橋ポリエチレン電線では、絶縁特性や耐摩耗性が不足する等の課題がある。
【0008】
更に、ポリプロピレン電線は、有害ガスが発生しない上に、結晶性が高く、耐摩耗性に優れている。しかし、過酸化物や電子線等のラジカル型の架橋反応においては、分子鎖の分解反応のほうが架橋反応よりも有利であるため、高耐熱化が困難であった。
【0009】
本発明の目的は、耐熱性及び耐摩耗性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物、難燃性絶縁電線及び自動車用ワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の特徴は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用いるノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であることを要旨とする。
【0011】
また、第1の特徴に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、ベース樹脂100質量部に対して、シラングラフトポリプロピレンを20〜60質量部含有することが好ましい。
【0012】
また、第1の特徴に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、ベース樹脂100質量部に対して、シラングラフトポリプロピレン及びポリプロピレンの総量を50〜75質量部、その他のポリオレフィン系樹脂を25〜50質量部、金属水和物を80〜160質量部含有することが好ましい。
【0013】
本発明の第2の特徴は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用い、ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物が、導体上に被覆された難燃性絶縁電線であることを要旨とする。
【0014】
本発明の第3の特徴は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用い、ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物を導体上に被覆した難燃性絶縁電線を使用して組み立てられた自動車用ワイヤーハーネスであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
上記第1の特徴に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物によれば、ポリプロピレンの特長を生かし、耐摩耗性に優れるとともに、シラン架橋にのり耐熱性も向上させることができる。
【0016】
第2の特徴に係る難燃性絶縁電線によれば、ポリプロピレンの特長を生かし、耐摩耗性に優れるとともに、シラン架橋にのり耐熱性も向上させることができる。
【0017】
第3の特徴に係る自動車用ワイヤーハーネスによれば、ポリプロピレンの特長を生かし、耐摩耗性に優れるとともに、シラン架橋にのり耐熱性も向上させることができる。
【0018】
したがって、本発明によれば、耐熱性及び耐摩耗性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物、難燃性絶縁電線及び自動車用ワイヤーハーネスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係わるノンハロゲン難燃性樹脂組成物、難燃性絶縁電線及び自動車用ワイヤーハーネスの実施形態について説明する。
【0020】
本実施形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用い、ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有する。シラングラフトポリプロピレンは、ポリプロピレン成分を置換、もしくは混合して用いることによって、ベース樹脂中に含有される。このような組成にすることで、従来のポリプロピレンベースのノンハロゲン難燃性樹脂組成物の特長を生かしつつ、シラン架橋により、耐熱性を向上させることができる。
【0021】
上記ような組成物は、例えば、シラングラフトポリプロピレン以外の材料を予めバンバリーを用いて混練しておき、押出し加工時に、1)上記混練により得られたコンパウンド、2)シラングラフトポリプロピレン、3)触媒マスターバッチをドライブレンドすることにより製造することができる。また、架橋には、湯に漬ける等の方法を用いることもあるが、押出し加工後は特に手を加えなくても架橋は進行する。
【0022】
また、ベース樹脂100質量部に対して、シラングラフトポリプロピレンを20〜60質量部含有することが好ましい。シラングラフトポリプロピレンが15質量部以下では、耐熱性向上効果が小さく、65質量部以上では、押出加工性に問題を生じることから、20〜60質量部で使用することが好ましい。
【0023】
また、ここで、ポリプロピレンとは、ホモポリマー(アイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックを含む)、またはエチレンとのランダム、ブロック共重合体を含み、これらの混合物でもよい。
【0024】
また、本実施形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂100質量部に対して、シラングラフトポリプロピレン及びポリプロピレンの総量を50〜75質量部、その他のポリオレフィン系樹脂を25〜50質量部、金属水和物を80〜160質量部含有することが好ましい。このような組成にすることで、従来のポリプロピレンベースのノンハロゲン難燃性樹脂組成物と比較して、柔軟性、難燃性、耐摩耗性を損なうことなく、耐熱性の改善ができ、ISO 6722 ClassC(125℃グレード)に必要な諸特性を満たすことができる。
【0025】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、EVA、EEA、EMMMA等の樹脂単体(ポリプロピレンは除き、酸変性樹脂等は含む)、あるいはこれらの混合物でもよい。このうち、ポリエチレンは、HDPE、MDPE、LDPE、LLDPEのいずれかが用いられ、またこれらの混合物でもよい。金属水和物の分散性、樹脂との接着力が強化されるため、酸変性ポリオレフィンを5質量部程度混合しておくことが好ましい。
【0026】
また、金属水和物系難燃剤は、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを、更に好ましくは、100〜120質量部配合することで、難燃性を確保することができる。このような組成にすることで、例えば、JASO D611−10水平燃焼試験、もしくはISO6722 45°傾斜燃焼試験に合格することができる。
【0027】
また、本実施形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、加工助剤、着色顔料、カーボンブラックなどを適宜添加してもよい。
【0028】
また、上述したノンハロゲン難燃性樹脂組成物を、押出成形により、導体上に適宜絶縁被膜として押し出せば、耐熱性及び耐磨耗性などの種々の特性に優れた、難燃性絶縁電線を得ることができる。更に、上述したノンハロゲン難燃性樹脂組成物を導体上に被覆した難燃性絶縁電線を使用して組み立てることにより、耐熱性及び耐磨耗性などの種々の特性に優れた、自動車用ワイヤーハーネスを得ることができる。
【0029】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態により理解されるものであるが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0030】
例えば、上記の実施形態において、金属水和物系難燃剤として、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムを挙げたが、その他塩基性炭酸マグネシウム、水酸化カルシウムなども使用することができる。
【0031】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0032】
以下、本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物について、実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明は、下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができるものである。
【0033】
(実施例及び比較例)
導体(19/0.12)上に、厚さ0.25mmの被覆層を形成し、外径1.04mmの電線を作製した。ここで、被覆層は、表1及び表2に示す組成のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。この際用いたベース樹脂のポリオレフィン系樹脂としては、EEA〔MFR0.5(測定条件: 190℃、荷重2.16Kg)、EA含有量15%、密度0.93、三井デュポンポリケミカル社製〕とEVA〔MFR2.5(測定条件: 190℃、荷重2.16Kg)、VA含有量20%、密度0.94、三井デュポンポリケミカル社製〕を用いた。また、酸変性ポリオレフィンとしては、日本ポリオレフィン社製アドテックスL6100Mを用いた。更に、ポリプロピレンとしては、プライムポリマー社製E−111Gを用い、シラングラフトPPとしては、三菱化学社製リンクロンを用いた。また、水酸化マグネシウムとしては、キスマ5A(脂肪酸処理済みの水酸化マグネシウム、協和化学社製)を用い、酸化防止剤としては、アデカ社製AO−80を用いた。
【表1】

【表2】

【0034】
(評価)
実施例1〜6及び比較例1〜6に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物(電線)について、以下の試験を行った。
【0035】
<耐磨耗性>
上記各電線について、ISO6722により耐磨耗性試験を行った。具体的には、φ0.45mmのニードルを荷重7Nで絶縁被覆層上を往復磨耗する。このとき、導体にニードルが接触するまでの回数を測定した。本実施例では、30回以上を合格として、「○」で表示した。なお、試験は、偏肉の影響をなくすため、90°ずつ回転させて12回試行した平均値とした。
【0036】
<引張強度>
上記各サンプル電線について、JIS規格C3005により破断試験を行った。そして、強度が10MPa以上のものは合格として、「○」で表示した。なお、引張速度は200mm/min、標線間は20mmとした。
【0037】
<引張伸び>
上記各サンプル電線について、JIS規格C3005により引っ張り試験を行った。そして、強度が150%以上のものは合格として、「○」で表示した。なお、引張速度は200mm/min、標線間は20mmとした。
【0038】
<難燃性>
上記各サンプル電線について、ISO6722の45度傾斜燃焼試験を行った。70秒以内に消化し、500mm中の上部50mmが残っているものを合格として、「○」で表示した。
【0039】
<耐熱性>
125℃のオーブン中に上記各サンプル電線を設置し、所定の荷重で、4時間エッジを押し当てた。エッジを当てた部分を6mmφマンドレルに巻き付けた後に耐電圧試験を行い、絶縁破壊が生じなければ合格として、「○」で表示した。
【0040】
(結果)
上記各試験の結果を表1及び表2に示す。
【0041】
実施例1〜6においては、耐磨耗性、引張強度、引張伸び、難燃性、耐熱性のすべてが合格であった。このため、ベース樹脂100質量部に対して、シラングラフトポリプロピレンを20〜60質量部、シラングラフトポリプロピレン及びポリプロピレンの総量を50〜75質量部、その他のポリオレフィン系樹脂を25〜50質量部、金属水和物を80〜160質量部含有することにより、耐磨耗性、引張強度、引張伸び、難燃性、耐熱性の特性に優れることが実証された。
【0042】
一方、比較例1では、引張伸びが不合格であった。これは、シラングラフトPPが70質量部を超えると押出加工性が不良となり、それに伴って外観不良を生じたため、引張伸びが大幅に減少したと考えられる。
【0043】
また、比較例2では、引張伸びが不合格であった。これは、POの量が25質量部よりも少ないため、フィラーの分散性が低下したためと考えられる。
【0044】
また、比較例3では、耐熱性が不合格であった。これは、シラングラフとPPが15質量部と小さいため、耐熱性の向上効果が少なかったと考えられる。
【0045】
また、比較例4では、耐磨耗性が不合格であった。これは、PPとシラングラフトPPの総量が50質量部を下回っているため、磨耗性が低下したと考えられる。
【0046】
また、比較例5では、難燃性が不合格であった。これは金属水和物(水酸化マグネシウム)が80部以下では、難燃性が不足するためと考えられる。
【0047】
また、比較例6では、耐摩耗性、引張強度、引張伸びが不合格であった。これは、金属水和物170部以上では、機械特性が低下するためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用いるノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、
前記ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有することを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ベース樹脂100質量部に対して、前記シラングラフトポリプロピレンを20〜60質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ベース樹脂100質量部に対して、前記シラングラフトポリプロピレン及びポリプロピレンの総量を50〜75質量部、その他のポリオレフィン系樹脂を25〜50質量部、金属水和物を80〜160質量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用い、前記ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物が、導体上に被覆されたことを特徴とする難燃性絶縁電線。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用い、前記ベース樹脂中に、シラングラフトポリプロピレンを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物を導体上に被覆した難燃性絶縁電線を使用して組み立てられたことを特徴とする自動車用ワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2008−222800(P2008−222800A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61056(P2007−61056)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】