説明

ハイアスペクト導体デバイスの製造方法

【課題】 薄い基板の表面及び裏面に導体パターンを形成する際に、基板のそり等の発生を抑制できるハイアスペクト導体デバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】 この製造方法は、絶縁板31を準備する工程と、絶縁板31の表面及び裏面の双方に同時に下地層60を形成する工程と、下地層60に重ねてレジスト層61を電着成膜する工程と、レジスト層61を露光することでパターン形成し、下地層60を当該形成したパターンに応じて露出させる工程と、レジスト層61を現像する工程と、露出している下地層60に対してコイル導体用めっき層62を形成する工程と、レジスト層61を取り除く工程と、当該レジスト層を取り除いた結果表面及び裏面において露出している下地層60を取り除く工程と、表面及び裏面に形成されているコイル導体用めっき層62に対して電気銅めっきを施して成長させ、コイル導体34を形成する工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイアスペクト導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に所望のコイルパターンめっきを施して薄膜コイルを製造する方法が下記特許文献1に開示されている。下記特許文献1の記載によれば、水晶で形成された絶縁基板の一方の面に、所望のパターンに薄膜を露出させ、その露出させたパターンに電気めっきを施すことで所望のコイルパターンめっきを行って薄膜コイルを製造している。
【特許文献1】特開昭58−12315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載の製造方法では、絶縁基板の一方の面にコイルパターンを形成する片面でのプロセスを採用している。しかしながら、60μm程度の薄い基板の表面及び裏面の両面にコイルパターンの形成を行う場合に片面でのプロセスを採用し、一方の面にコイルパターンを形成した後に他方の面にコイルパターンを形成すると基板内部に生じる応力が不均一な状態になる。従って、基板のそり、うねり、凹凸が発生する場合がある。特に、可撓性を有する薄い基板に、ハイアスペクト導体と呼ばれる、幅が狭く高さ方向の厚みがある導体でパターンを形成する場合には、基板のそり、うねり、凹凸が発生する可能性が高くなる。
【0004】
そこで本発明では、薄い基板の表面及び裏面に導体パターンを形成する際に、基板のそり等の発生を抑制できるハイアスペクト導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のハイアスペクト導体デバイスの製造方法は、可撓性を有し、穴が形成されている基板を準備する工程と、基板の表面及び裏面の双方に同時に下地層を形成する工程と、表面及び裏面のそれぞれに形成された下地層に重ねてそれぞれ同時にレジスト層を電着成膜する工程と、表面及び裏面のそれぞれに形成されているレジスト層を露光することで、穴を囲んで渦巻状にパターン形成し、下地層を当該形成したパターンに応じて露出させる工程と、表面及び裏面のそれぞれにパターン形成されているレジスト層をそれぞれ同時に現像する工程と、表面及び裏面それぞれにおいて露出している下地層に対してそれぞれ同時に電解銅めっきを施して、第一電気めっき層を形成する工程と、表面及び裏面それぞれに形成されたレジスト層をそれぞれ同時に取り除く工程と、当該レジスト層を取り除いた結果表面及び裏面それぞれにおいて露出している下地層をそれぞれ同時に取り除く工程と、表面及び裏面それぞれに形成されている第一電気めっき層に対してそれぞれ同時に電気銅めっきを施して成長させ、第二電気めっき層を形成する工程と、を備えている。
【0006】
本発明のハイアスペクト導体デバイスの製造方法によれば、ハイアスペクト導体デバイスを製造する各工程において基板の表裏両面に同時に下地層、レジスト層、及び各めっき層といった層状要素を形成することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、薄くて可撓性のある基板の表面及び裏面に導体パターンとしての電気めっき層を形成する際に表裏同時に形成するので、基板内における応力バランスを取ることができ、基板のそり等の発生を抑制してハイアスペクト導体デバイスを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の知見は、例示のみのために示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解することができる。引き続いて、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0009】
本発明の実施形態であるコイル素子について図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態におけるコイル素子1aの斜視図である。コイル素子1aは表面実装型のコイル素子である。コイル素子1aは、平板状のコア構造体10と、他の基板と電気的に接続される外部端子20とを備えている。コア構造体10は、ブリッジ型フェライトコア11及び突起型フェライトコア12から構成されており、ブリッジ型フェライトコア11と突起型フェライトコア12が組み合わされることで全体として平板状の形状をなしている。
【0010】
コイル構造体10の分解斜視図を図2に示す。ブリッジ型フェライトコア11は、矩形平板状の平板部111と、その平板部111に対して垂直に延びる脚部112とを有している。脚部112は一対設けられており、一方の脚部112は平板部111の一辺から、他方の脚部112はその一辺と平行な辺から、それぞれ同じ方向に延びている。従って、脚部112が突起型フェライトコア12に立脚するようにブリッジ型フェライトコア11を配置すると、ブリッジ型フェライトコア11の平板部111と突起型フェライトコア12との間に空隙部分が形成される。
【0011】
突起型フェライトコア12は、矩形平板状の平板部121と、その平板部121の中央部分から突出する突起部122を有している。突起部122は、角柱形状をなしている凸部である。突起型フェライトコア12の平板部121にブリッジ型フェライトコア11の脚部112の先端面を突き合わせてコア構造体10を構成すると、実質的に閉磁路となった外殻部が構成されると共に、外殻部の内側に突起部122が配されることになる。尚、ブリッジ型フェライトコア11及び突起型フェライトコア12の細部構造については以降適宜説明する。
【0012】
図1の状態から外部端子20を取り除いた状態の斜視図を図3に示す。図3に示すように、コア構造体10を構成するブリッジ型フェライトコア11と突起型フェライトコア12との間における空隙部分にコイル基板30(ハイアスペクト導体デバイス)が納められ、接着剤40で固定されている。コア構造体10の空隙部分が臨む端面からは、コイル基板30の一端面が露出している。この一端面においては、絶縁板31(基板)、導出端電極32、及び保護樹脂層33が露出している。絶縁板31はコイル基板30を構成する基幹部分となる基板である。導出端電極32は後述するコイル導体に電気的に接続されており、図1に示した外部端子20とも電気的に接続される部分である。保護樹脂層33はコイル基板30を保護するために設けられている樹脂層である。
【0013】
コイル基板30について図4を参照しながら説明する。図4はコイル基板30の平面図である。コイル基板30の中央部分には穴35が形成されている。穴35を囲むようにコイル導体34(第二電気めっき層)が形成されている。コイル導体34は、穴35に望む部分から外側に向かって、穴35を囲むように渦巻き状に形成されている。コイル導体34はコイル基板30の両面に形成されていて、それぞれ導出端電極32に電気的に接続されている。
【0014】
コイル基板30の一方の面に形成されているコイル導体34が接続されている導出端電極32と、他方の面に形成されているコイル導体34が接続されている導出端電極32とは、それぞれコイル基板30の対向する辺に設けられている。また、コイル基板30の両面に設けられているコイル導体34は、穴35の周縁部に形成された表裏コンタクト部36(コンタクトホール)によって互いに電気的に接続されている。従って、コイル基板30の一方の辺に設けられている導出端電極32と、他方の辺に設けられている導出端電極32との間に電圧を印加すると、コイル基板30の一方の面に形成されているコイル導体34から、他方の面に形成されているコイル導体34へと流れる電流が生じる。
【0015】
コイル基板30の穴35には突起型フェライトコア12の突起部122が挿入される。この様子を説明するために、図3における突起型フェライトコア12の突起部122近傍での断面図を図5に示す。図5に示すように、突起型フェライトコア12の突起部122はコイル基板30の穴35に挿入されている。ブリッジ型フェライトコア11の脚部112よりも、突起型フェライトコア12の突起部122は僅かに短く形成されている。従って、突起部122の先端とブリッジ型フェライトコア11との間には空隙が生じ、微小ギャップ41を形成できる。この微小ギャップ41は、コイル基板30のコイル導体34に流れる電流で、ブリッジ型フェライトコア11及び突起型フェライトコア12が磁気飽和するのを防止するために設けられている。コア構造体10は、その一辺が数mm以下の超小型形状をしていることから、微小ギャップ41の寸法(突起部122の先端とブリッジ型フェライトコア11との間の距離)は好ましくは0.1〜100μm、更に好ましくは0.1〜50μmに設定される。
【0016】
引き続いて、コイル基板30の製造方法について図6及び図7を参照しながら説明する。図6及び図7は、コイル基板30の製造方法を説明するための図であって、コイル基板30の一部分に相当する部分の断面を図示するものとする。まず、絶縁板31を準備する(図6の(A)参照)。この絶縁板31は板厚が60μmのものであって、ガラスクロスにBTレジンが含浸されており、既に穴35が形成されているものとする(図6においては示さない)。
【0017】
続いて、絶縁板31の表面及び裏面に下地層60を無電解めっきにてそれぞれ同時に形成する(図6の(B)参照)。この絶縁板31の表面及び裏面に同時に形成した下地層61それぞれの上にフォトレジスト層61(レジスト層)をそれぞれ同時に電着成膜する(図6の(C)参照)。この表面及び裏面に形成したフォトレジスト層61において、コイル導体(図4参照)を形成しようとするパターンに沿ってフォトリソグラフィ法で表面及び裏面の片面毎に露光を行い、その後表面及び裏面同時に現像し、除去部611を形成する(図6の(D)参照)。
【0018】
このようにパターン形成したフォトレジスト層61をめっきマスクとして、図6の(D)における除去部611に相当する部分に選択的に電解めっき法により、表面及び裏面の両面同時にコイル導体用めっき層62(第一電気めっき層)を形成する(図7の(A)参照)。このコイル導体用めっき層62を形成した後、めっきマスクとしてのフォトレジスト層61を表面及び裏面の両面同時に剥離除去する(図7の(B)参照)。
【0019】
図7の(B)に示した状態から、コイル導体用めっき層62が形成されている部分以外の下地層60をエッチングして除去し、下地部60aをコイル導体用メッキ層62と絶縁板31との間に残す(図7の(C)参照)。
【0020】
その後、選択めっきマスク無しで、電解めっき法によりコイル導体用めっき層62を電着により更に成長形成させる。これにより、コイル導体34としての十分な肉厚の導体部が得られる。隣り合うコイル導体間のギャップGが15μm以下になるまで高密度にコイル導体34を成長形成させることができる。これは、高さ方向には電気量に比例しめっき層が形成されていくのに対し、幅(ギャップ)方向にはギャップが狭くなるにつれてめっき層が形成されていく速度が遅くなることによる。
【0021】
コイル導体用めっき層62の形成完了によりコイル導体33を絶縁板31の両面に形成し終えた後、保護樹脂層33(ソルダーレジスト)を絶縁板31の両面に印刷し、保護樹脂層33でコイル導体34を被覆して保護することでコイル基板30が完成する。
【0022】
本実施形態の作用効果について説明する。コイル基板30は、隣合うコイル導体34間の隙間Gが15μm以下になるまで、高密度に電気めっき層62を成長させたコイル導体34を有する。また、コイル導体のアスペクト比(コイル導体34の高さ/幅)も0.2〜5程度に高く設定可能であるため、直流抵抗を0.01〜10オーム程度にまで低下させることができる。従って、コイル導体34に流れる電流の大きな電源用のコイル素子への適用が可能であって、ハイアスペクト導体デバイスとしてのコイル基板30を提供することが可能となる。
【実施例1】
【0023】
本実施形態を具体的に実施する場合の実施例について説明する。コンタクトホール及び突起部貫通用の穴が加工されており、厚みが60μmのBTレジン基板(ガラスクロスにビスマレイドトリアジンを含浸させた、可撓性のある柔らかな基板)を準備する。このBTレジン基板の表面及び裏面に厚さ0.5μmのCu膜を無電解めっきして下地層とした。
【0024】
次に、感光性電着レジストを電着法により両面同時に成膜した。続いて、フォトリソグラフィーによりコイル導体となる渦巻状のパターンをBTレジン基板の両面に形成した。パターン形成したBTレジン基板に電流密度15A/dm以下において約20分間の電解めっきを行った。図8に電解めっき膜を成膜する際に用いる成膜装置8の構成を示す。成膜装置8は液槽81を有しており、この液槽81にはめっき液が入れられている。液槽81内には、電解めっき膜を成膜するウエハ83を保持するためのめっき治具82が配置されている。めっき治具82には治具遮蔽板821が設けられていて、ウエハ83の外周部分を遮蔽している。めっき治具82を挟むように一対のアノード84が設けられている。めっき治具82と一対のアノード84との間には、それぞれ外遮蔽板85と攪拌格子86とが設けられている。めっき治具82と一対のアノード84との間に所定の電圧が印加されるので、めっき治具82に取り付けられているウエハ83の両面に同時にめっきが可能となる。
【0025】
このようにして、高さ20μm、幅70μm、ギャップ30μmのCu導体パターンを形成した。この「高さ」「幅」とはCu導体パターンの高さと幅であり、「ギャップ」とは隣合うCu導体パターン間の距離である。更に、選択めっき用マスクレジストを両面同時に剥離後、下地層も両面同時にエッチングする。その後、所定の電流プロファイルで図8に示した装置を用いて両面同時に2回目の電解めっきを行い、高さ80〜100μm、幅80μm、ギャップ15μmのCu導体パターンを両面同時に形成した。これは、高さ方向には電気量に比例しめっき層が形成されていくのに対し、幅(ギャップ)方向にはギャップが狭くなるにつれてめっき層が形成されていく速度が遅くなることによる。
【0026】
Cu導体パターンを形成した表面にCuの黒化処理を施し、その表面をソルダーインキレジストでコーティングし、スパイラルパターンのコイル導体が整列したウエハ(コイル基板の集合体)を作製した。更に、フェライト基板への組み込みにおいて不要となる部分を高精度スライサーを用いてスリット状に切り取った。
【0027】
次に、ダイヤモンドホイール砥石を用いて厚み0.77mmのフェライト基板に、一つには突起型フェライトコアとなる凸状パターンを、更にもう一つにはブリッジ型フェライトコアとなる凹状パターンを、高精度スライサーによりそれぞれ形成した。
【0028】
これらの加工された渦巻状パターンのコイル導体を有するコイル基板の集合体及び突起型フェライトコア及びブリッジ型フェライトコアの集合体をエポキシ系の接着剤を用いて150℃雰囲気の中で加圧しながら接着をした。接着された基板の突起型フェライトコアの背板部分を高精度スライサーにより0.77mmの厚みまで平坦に研削した後、ダイサーによりチップ化を行い各々の素子を作製した。
【0029】
その後、回路接続用のユーザ端子となる外部端子を形成するため、バレル研磨を行った後に、端子面のCu(導出端電極)をウェット処理とドライ処理の両方を利用して洗浄し、マスクスパッタ法によりCr及びCuを連続的に成膜した。これにCu、Ni、Snのバレルめっきを施し、製品サイズ縦3mm×横2.6mm×高さ0.8mmの表面実装型コイル素子を作製することができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態であるコイル素子の外観を示す図である。
【図2】図1のコア構造体を示す図である。
【図3】図1のコイル素子から外部端子を取った様子を示す図である。
【図4】図3のコイル基板の平面図である。
【図5】図1のコイル素子の中央付近における断面図である。
【図6】図4のコイル基板の製造方法を説明するための図である。
【図7】図4のコイル基板の製造方法を説明するための図である。
【図8】本実施形態の好適な実施例において用いられる成膜装置の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0031】
1a…コイル素子、10…コア構造体、11…ブリッジ型フェライトコア、12…突起型フェライトコア、20…外部端子、30…コイル基板、31…絶縁板、32…導出端電極、33…保護樹脂層、34…コイル導体、36…表裏コンタクト部、40接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有し、穴が形成されている基板を準備する工程と、
前記基板の表面及び裏面の双方に同時に下地層を形成する工程と、
前記表面及び前記裏面のそれぞれに形成された下地層に重ねてそれぞれ同時にレジスト層を電着成膜する工程と、
前記表面及び前記裏面のそれぞれに形成されているレジスト層を露光することで、前記穴を囲んで渦巻状にパターン形成し、前記下地層を当該形成したパターンに応じて露出させる工程と、
前記表面及び前記裏面のそれぞれにパターン形成されているレジスト層をそれぞれ同時に現像する工程と、
前記表面及び前記裏面それぞれにおいて露出している下地層に対してそれぞれ同時に電解銅めっきを施して、第一電気めっき層を形成する工程と、
前記表面及び前記裏面それぞれに形成されたレジスト層をそれぞれ同時に取り除く工程と、
当該レジスト層を取り除いた結果前記表面及び前記裏面それぞれにおいて露出している下地層をそれぞれ同時に取り除く工程と、
前記表面及び前記裏面それぞれに形成されている第一電気めっき層に対してそれぞれ同時に電気銅めっきを施して成長させ、第二電気めっき層を形成する工程と、
を備えるハイアスペクト導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−66830(P2006−66830A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250759(P2004−250759)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】