説明

ハイブリッドプラズマ溶接方法,ハイブリッドプラズマトーチおよびハイブリッド溶接装置

【課題】 比較的に低パワーのレーザ投射によっても、表面が滑らかな溶接ビードが得られる高速溶接を可能にする。
【解決手段】 トーチ先端側でトーチ中心軸CLに近づくように傾斜して該トーチ中心軸に関して溶接方向yの上流側と下流側に配置した複数のプラズマ放電電極8a,8bのそれぞれと溶接対象材12との間のプラズマアークで溶接対象材をプラズマアーク溶接するとともに、中心軸CLを中心としトーチ先端に向けて収束するレーザビーム13を、溶接方向で上流側のプラズマ放電電極8bのプラズマアークによる溶融プールに投射して裏方向への溶込みを深くし、該レーザビーム投射による溶接部の表方向の盛上りを、下流側のプラズマ放電電極8aによるプラズマアーク溶接で平滑化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ溶接とレーザ溶接の組合せであるハイブリッドプラズマ溶接方法,それに用いるハイブリッドプラズマ溶接トーチおよびハイブリッドプラズマ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザを用いる、2.0mm厚以下の薄板突合せ溶接では、溶接に伴って図8に示すように、溶接の前方で溶接対象材12に、突合せを引き離す方向の力が発生する。突合せギャップが0.2〜0.3mm以上であると突合せ溶接部に融合不良が発生する。したがって油圧クランプで溶接対象材12を強力に抑える必要があり、設備および作業量が増える。突合せ端部をレーザ溶接に先立って仮付けすることも行われるが、この場合はタクトタイムが長くなる。
【0003】
図9の(a)に示すように、レーザ溶接のレーザ照射点に溶接ワイヤを送給する態様では、ワイヤの溶滴により突合せギャップが埋められるが、レーザのビーム径に対しワイヤが太く、僅かなワイヤずれでワイヤが溶けなくなるので融合不良が発生する。また、図9の(b)に示すように、重ね溶接で上下溶接対象材間のギャップが大きいと、図9の(c)に示すように、溶接が進行するが、ワイヤを溶かすのに多くのレーザエネルギーが消費されて溶込みが浅くなり、上下ギャップに溶融プールが沈むので、図9の(d)に示すように、凹ビードになって咽厚が薄くなり、強度が低下する。これを防ぐためにワイヤ供給量を多くすると、レーザの貫通力が低下するので、溶接不良となる。逆に、上下ギャップがゼロになると、図9の(e)に示すような凸ビードとなる。
【0004】
特許文献1には、溶接トーチにより突合せ部を溶融するとともに溶融プールにレーザを照射するハイブリッド溶接、ならびに、レーザ光路の汚染を防ぐエアーカーテンの形成が記載されている。しかしハイブリッド溶接では、溶接トーチにより図7の(b)に示すように突合せ表面部を溶接しその溶融プールの中央にレーザを照射するので、高速溶接の溶接ビードは、図7の(c)に示すように、中央部で突出し縁部にはアンダーカットを生ずるものとなる。溶接速度を低くすると、あるいは、レーザパワーを高くすると、中央部の突出が低くアンダーカットのない滑らかな溶接ビードが得られるが、溶接作業能率が低下する。あるいは、高価な高パワーレーザ装置を用いなければならなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−512965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比較的に低パワーのレーザ投射によっても、表面が滑らかな溶接ビードが得られる高速溶接を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)トーチ先端側でトーチ中心軸(CL)に近づくように傾斜して該トーチ中心軸に関して溶接方向(y)の上流側と下流側に配置した複数のプラズマ放電電極(8a,8b)のそれぞれと溶接対象材(12)との間のプラズマアークで溶接対象材(12)をプラズマアーク溶接するとともに、前記トーチ中心軸(CL)を中心としトーチ先端に向けて収束するレーザビーム(13)を、溶接方向(y)で上流側のプラズマ放電電極(8b)のプラズマアークによる溶融プールに投射して裏方向への溶込みを深くし、該レーザビーム投射による溶接部の表方向の盛上りを、下流側のプラズマ放電電極(8a)によるプラズマアーク溶接で平滑化する、ハイブリッドプラズマ溶接方法。
【0008】
なお、理解を容易にするために括弧内には、図面に示し後述する実施例の対応要素の符号を、参考までに付記した。以下も同様である。
【発明の効果】
【0009】
例えば図6に示すように、1対のプラズマ放電電極8a,8bのそれぞれと溶接対象材12の間にプラズマアークを形成し、電極8a,8bの中間にプラズマビーム13を投射し、溶接方向を図に示すy方向とすると、すなわち電極8bを先行電極、電極8aを後行電極とすると、従来は先行電極(1個のみ)のプラズマアークであるところ、本発明では、先行電極8bおよび後行電極8aのプラズマアークが溶接対象材12に入熱するので熱量が多く、高速溶接が可能である。高速溶接では、先行電極8bによるプラズマアーク溶接により、図6上に矢印で示す方向の、開先合せ面を密着させる力が溶接対象材12に作用する。これは、先行電極8bによるアーク熱源(プラズマアーク)が溶接対象材12の熱伝導速度よりも速く(先行して)移動すると、アーク熱源より後方の鋼材の伸びが前方の伸びよりも大きくなるからである。これによって突合せ面のギャップが狭くなる。
【0010】
先行電極8bのプラズマアークが溶接対象材12の表面を溶かすので、図7の(a)に示すような突合せギャップを、図7の(b)に示すように橋渡しする溶融プールができる。この溶融プールをレーザビームが垂直に貫通し効率よく入熱する。この入熱は高密度であるが領域は狭くピンポイントであるので、これによる溶接ビードは図7の(c)に示すように、レーザ入射部が突出しアンダーカットを生じやすい。レーザビームを強力にしてビーム径を広げることにより突出を平坦化しアンダーカットをなくすことは可能であるが、そのようなレーザ装置はかなり高価になる。
【0011】
しかし本発明によれば、レーザ投射した溶接部に更に後行電極8aのプラズマアークが入熱するので、ビード表面が平滑化しアンダーカットを生じない。すなわち、溶接ビードは図7の(d)に示すように平滑化したものとなる。このように本発明によれば、比較的に低パワーのレーザ投射によっても、表面が滑らかな溶接ビードが得られる高速溶接が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のハイブリッドプラズマ溶接装置の一実施例を示し、レーザヘッド1およびプラズマトーチ3は、縦断面を示す。
【図2】図1に示すプラズマトーチ3の、II−II線で見下ろした横断面図である。
【図3】図1に示すプラズマトーチ3の、図2に示すIII−III線での縦断面図である。
【図4】図1に示すプラズマトーチ3の、図2に示すIV−IV線での縦断面図である。
【図5】図1に示すプラズマトーチ3の下端部分の拡大図である。
【図6】図1示すプラズマトーチ3を用いるハイブリッドプラズマ溶接時の、溶接対象材12の平面図である。
【図7】図6に示すハイブリッドプラズマ溶接時の、溶接方向の各位置での、溶接対象材の横断面拡大図である。
【図8】従来の、レーザ投射による突合せ溶接時の溶接対象材の突合せギャップの拡大を示す平面図である。
【図9】(a)は、従来の、溶接ワイヤを送給する重合せレーザ溶接時の溶接対象材の平面図、(b)は側面図、(c)溶接ビードの縦断面図、(d)および(e)は溶接ビードの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(2)溶接対象材(12)と各プラズマ放電電極(8a,8b)との間に、溶接対象材側が正で電極側が負の電流を通電して、前記複数のプラズマ放電電極(8a,8b)のそれぞれと溶接対象材との間にプラズマアークを生成する、上記(1)に記載のハイブリッドプラズマ溶接方法。
【0014】
(3)溶接方向(y)で上流となるプラズマ放電電極(8b)の先端直下に溶接ワイヤ(18)を送給する、上記(1)又は(2)に記載のハイブリッドプラズマ溶接方法。
【0015】
(4)溶接対象材(12)と前記溶接ワイヤ(18)との間に、溶接対象材側が正で溶接ワイヤ側が負の電流を通電して前記溶接ワイヤ(18)を加熱する、上記(3)に記載のハイブリッドプラズマ溶接方法。
【0016】
(5)トーチ先端側でトーチ中心軸(CL)に近づくように傾斜して該トーチ中心軸に関して溶接方向の上流側と下流側に配置された複数のプラズマ放電電極(8a,8b);および、
前記トーチ中心軸(CL)を軸心としてトーチ後端から先端に貫通したレーザ透過孔(24):を備えるハイブリッドプラズマトーチ(3)。
【0017】
(6)前記複数のプラズマ放電電極(8a,8b)は、前記トーチ中心軸(CL)に関して対称な姿勢である、上記(5)に記載のハイブリッドプラズマトーチ(3)。
【0018】
(7)上記(5)又は(6)に記載のハイブリッドプラズマトーチ(3);および、前記レーザ透過孔(24)にトーチ先端に向けて収束するレーザビームを投射するレーザヘッド(1);を備えるハイブリッドプラズマ溶接装置。
【0019】
(8)溶接対象材(12)と各プラズマ放電電極(8a,8b)との間に、溶接対象材側が正で電極側が負の電流を通電するプラズマ溶接電源(22a,22b);を備える上記(6)に記載のハイブリッドプラズマ溶接装置。
【0020】
(9)さらに、溶接方向(y)で上流となるプラズマ放電電極(8b)の先端直下に溶接ワイヤ(18)を案内するワイヤガイド(21);を備える上記(7)又は(8)に記載のハイブリッドプラズマ溶接装置;
(10)さらに、溶接対象材(12)と前記溶接ワイヤ(18)との間に、溶接対象材側が正で溶接ワイヤ側が負の電流を通電するホットワイヤ用電源(23);を備える上記(9)に記載のハイブリッドプラズマ溶接装置。
【0021】
本発明の他の目的および特徴は、図面を参照した以下の実施例の説明より明らかになろう。
【実施例】
【0022】
図1に、本発明の1実施例のハイブリッドプラズマ溶接装置の概要を示す。ハイブリッドプラズマトーチ3には、中心軸を軸心とするレーザ透過孔24があり、トーチ後端(レーザヘッド1側)からトーチ先端のインサートチップ7まで延びている。レーザ透過孔24は、トーチ後端の電極台4a,4bの間の絶縁空間であるが、絶縁台5では段付き筒状、そして絶縁台6およびインサートチップでは裁頭円錐形である。トーチ3の中心軸CLに関して対称に、プラズマ放電電極8a,8bが配置されており、電極8a,8bはトーチ後端側からインサートチップ7に向かうに連れて中心軸CLに近づくように、中心軸に対して傾斜している。電極8a,8bが通る空間に、プラズマガス供給口11a,11bから送り込まれるプラズマガスが流入し、インサートチップ7の先端のノズルから溶接対象材12に向けて噴出する。シールドガスは、図2および図3に示すシールドガス流路14に供給されて、シールドキャップ10の内部に流れて、シールドキャップ10の下開口から溶接対象材12に向けて噴出する。レーザシールドガスは、図2および図3に示すレーザシールドガス流路15に供給されて、絶縁台5の流路を経てレーザ透過孔24に出てインサートチップ7のレーザ投射口から流出する。トーチ後端側へのレーザシールドガスの流失は保護ガラス9で遮断される。レーザビーム13は保護ガラス9を透過する。冷却水は、図2および図4に示す各給水路16に流入して電極台4a,4bおよび絶縁台5,6を経てインサートチップ7に至り、そこで別流路に折り返して絶縁台5,6および電極台4a,4bを経て各排水路17から流出する。
【0023】
図1を再度参照する。ハイブリッドプラズマトーチ3は、連結部材2でレーザヘッドに連結されており、レーザヘッドがレーザ透過孔24にレーザビーム13を収束投射し、このレーザビーム13が溶接対象材12上に収束する。電極4a,4bには、プラズマ電源22a,22bが、溶接対象材12側が正で電極4a,4b側が負の電流を通電する。なお、これらの電源22a,22bによるプラズマアークを起動するパイロット電源もあるが、これらの図示は省略した。図1に示す実施例では、先行電極8bによる先行溶接の溶融金属を多くするために、先行電極8b直下にワイヤガイド21を通して溶接ワイヤ21を送給し、しかも、溶接入熱を大きくして溶接速度を高速にするために、溶接ワイヤ18には、ホットワイヤ用電源23が、溶接対象材12側が正で溶接ワイヤ18側が負の電流を通電する。
【0024】
図5に、図1に示すハイブリッドプラズマ溶接装置の、重ね溶接時のトーチ先端部を拡大して示す。各電極8a,8bと溶接対象材12の間に、電極側が負で溶接対象材側が正のプラズマアークが発生すると、プラズマアーク電流が各電極と溶接対象材5の間に流れて、1プール2アーク溶接が実現する。のインサートチップ7の中の各電極8a,8bと溶接対象材12との間を流れる各アーク電流には、それぞれが誘起する磁束の合成磁束との間に、フレミングの左手の法則で表されるピンチ力が作用し、各電極のプラズマアークがトーチの並び方向yに絞られて溶接対象材5に対する熱収束効果(エネルギー密度)が高く、しかも作用位置がふらつくことが無いプラズマの安定性が高い。
【0025】
先行電極8b,溶接ワイヤ18および後行電極8aのプラズマアークが溶接対象材12に入熱するので熱量が多く、高速溶接が可能である。先行電極8bのプラズマアークが溶接ワイヤ18および溶接対象材12の表面を溶かすので、溶融金属が多くこれを、図5に示すように、レーザビーム13が垂直に貫通し効率よく入熱する。この入熱は高密度であるが領域は狭くピンポイントであるので、これによる溶接ビードは、レーザ入射部が突出しアンダーカットを生じやすい。しかし、レーザ投射した溶接部に更に後行電極8aのプラズマアークが入熱するので、ビード表面が平滑化しアンダーカットを生じない。すなわち、溶接ビードは表面が平滑化したものとなる。このように本実施例によれば、比較的に低パワーのレーザ投射によっても、表面が滑らかな溶接ビードが得られる高速溶接が可能になる。
【符号の説明】
【0026】
1:レーザ照射ヘッド
2:連結部材
3:ハイブリッドプラズマトーチ
4a,4b:電極台
5,6:絶縁台
7:インサートチップ
8a,8b:電極
9:保護ガラス
10:シールドキャップ
11a,11b:プラズマガス供給口
12:溶接対象材
13:レーザ
14:シールドガス流路
15:レーザシールドガス流路
16:給水路
17:排水路
18:溶接ワイヤ
19:先行プラズマアークによる溶融金属
20:後行プラズマアークによる溶融金属
21:ワイヤガイド
22a,22b:プラズマ電源
23:ホットワイヤ電源
24:レーザ透過孔
CL:中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチ先端側でトーチ中心軸に近づくように傾斜して該トーチ中心軸に関して溶接方向の上流側と下流側に配置した複数のプラズマ放電電極のそれぞれと溶接対象材との間のプラズマアークで溶接対象材をプラズマアーク溶接するとともに、前記トーチ中心軸を中心としトーチ先端に向けて収束するレーザビームを、溶接方向で上流側のプラズマ放電電極のプラズマアークによる溶融プールに投射して裏方向への溶込みを深くし、該レーザビーム投射による溶接部の表方向の盛上りを、下流側のプラズマ放電電極によるプラズマアーク溶接で平滑化する、ハイブリッドプラズマ溶接方法。
【請求項2】
溶接対象材と各プラズマ放電電極との間に、溶接対象材側が正で電極側が負の電流を通電して、前記複数のプラズマ放電電極のそれぞれと溶接対象材との間にプラズマアークを生成する、請求項1に記載のハイブリッドプラズマ溶接方法。
【請求項3】
溶接方向で上流となるプラズマ放電電極の先端直下に溶接ワイヤを送給する、請求項1又は2に記載のハイブリッドプラズマ溶接方法。
【請求項4】
溶接対象材と前記溶接ワイヤとの間に、溶接対象材側が正で溶接ワイヤ側が負の電流を通電して前記溶接ワイヤを加熱する、請求項3に記載のハイブリッドプラズマ溶接方法。
【請求項5】
トーチ先端側でトーチ中心軸に近づくように傾斜して該トーチ中心軸に関して溶接方向の上流側と下流側に配置された複数のプラズマ放電電極;および、
前記トーチ中心軸を軸心としてトーチ後端から先端に貫通したレーザ透過孔:を備えるハイブリッドプラズマトーチ。
【請求項6】
前記複数のプラズマ放電電極は、前記トーチ中心軸に関して対称な姿勢である、請求項5に記載のハイブリッドプラズマトーチ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のハイブリッドプラズマトーチ;および、前記レーザ透過孔にトーチ先端に向けて収束するレーザビームを投射するレーザヘッド;を備えるハイブリッドプラズマ溶接装置。
【請求項8】
溶接対象材と各プラズマ放電電極との間に、溶接対象材側が正で電極側が負の電流を通電するプラズマ溶接電源;を備える請求項6に記載のハイブリッドプラズマ溶接装置。
【請求項9】
さらに、溶接方向で上流となるプラズマ放電電極の先端直下に溶接ワイヤを案内するワイヤガイド;を備える請求項7又は8に記載のハイブリッドプラズマ溶接装置。
【請求項10】
さらに、溶接対象材と前記溶接ワイヤとの間に、溶接対象材側が正で溶接ワイヤ側が負の電流を通電するホットワイヤ用電源;を備える請求項9に記載のハイブリッドプラズマ溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−218395(P2011−218395A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89308(P2010−89308)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】