説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】排気性能を維持しつつ、燃料消費量の増加抑制とランニングコストの向上を図ること。
【解決手段】排気系に排気ガスを浄化する触媒15を有し、燃料タンク14からの燃料供給により駆動するエンジン1と、バッテリ4からの電力供給により駆動輪6,6を駆動する駆動モータ3と、車両統合コントローラ24と、を備える。このハイブリッド車両の制御装置において、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、現在地から目的地までに必要なエネルギー量Edriveから、目的地までに消費される電気エネルギー量Ebatを除いた差によるエンジン仕事量Eengineと、現在地から目的地に到達するまで浄化処理能力を維持できる触媒温度に保つのに触媒15へ投入する必要がある熱エネルギー量Ecatと、に基づいてエンジン1を運転制御するエンジン運転制御手段(図2)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系に排気ガスを浄化する触媒を有するエンジンと、少なくともバッテリからの電力供給により駆動輪を駆動するモータと、を搭載したハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した自動車として、従来の内燃機関であるエンジンに加え、駆動モータ、そして外部から充電可能な蓄電装置(バッテリ)を備えたプラグインハイブリッド車両が検討されている。
【0003】
このプラグインハイブリッド車両においては、電池容量(以下、「バッテリSOC」)が多い状態(以下、「CDモード」)のときは、エンジンを停止、もしくは、エンジンの駆動率を低くしモータ走行(以下、「EV走行」)をメインに行う。そして、あるところまでバッテリSOCが下がった後の状態(以下、「CSモード」)、エンジンを始動し、エンジン運転もしくはエンジン駆動率を上げることで、バッテリSOCを保つといった動作を行うことが一般である。
【0004】
ちなみに、初回エンジン始動時は、エンジン及び触媒が十分暖機されていないため、排気浄化処理能力が低い。この時、エンジンは排気性能を確保するため、エンジン点火時期をリタードするなどして暖機促進することが一般的である。この暖機運転中は、暖機優先運転により、エンジンの運転効率は悪化する。つまり、通常運転より多くの燃料を消費する。
【0005】
EV走行がメインのCDモードにおいて、何かしらの要件でエンジン始動した際や触媒冷機時の初回エンジン始動した際は、排気性能を保つためには触媒暖機運転を行うことが好ましい。しかしながら、触媒暖機運転の終了後に、再びEV走行をメインとするCDモードに復帰することで、エンジン作動時間の不足や触媒へのエンジン排気熱の投入エネルギー不足により、再度、触媒温度が低下することが考えられる。
【0006】
そこで、エンジンの間欠停止時における浄化触媒の状態を判断し、その判断に応じ、間欠停止状態のエンジンの作動を再開し、触媒暖機運転を行うことで、適正な浄化処理能力を維持させるようにしたハイブリッド車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−83232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のハイブリッド車両の制御装置にあっては、触媒暖機運転の終了後でも、エンジン間欠停止状態によりエンジンや触媒温度が低下すると、触媒の浄化処理能力が低下する前に再度エンジンを始動させて暖機制御運転を行う。このため、複数回にわたって触媒暖機運転を繰り返すことになり、エンジン運転効率悪化により燃料を多く消費してしまう、という問題があった。
【0009】
プラグインハイブリッド車両の場合、本来は、目的地への到達時に極力電気エネルギーを使い切って、不足分をガソリン燃料とすることでランニングコストを下げたい。これに対し、繰り返される触媒暖機運転によりバッテリに充電されるケースの場合、目的地に到着したときにバッテリSOCが使い切れなくて残ってしまい、ランニングコストが悪化することが懸念される、という問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、排気性能を維持しつつ、燃料消費量の増加抑制とランニングコストの向上を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、エンジン仕事量演算手段と、熱エネルギー量演算手段と、エンジン運転制御手段と、を備える手段とした。
前記エンジンは、排気系に排気ガスを浄化する触媒を有し、燃料タンクからの燃料供給により駆動する。
前記モータは、少なくともバッテリからの電力供給により駆動輪を駆動する。
前記エンジン仕事量演算手段は、現在地から目的地までに必要なエネルギー量から、目的地までに消費される電気エネルギー量を除いた差により、現在地から目的地までの走行に必要なエンジン仕事量を推定演算する。
前記熱エネルギー量演算手段は、現在地から目的地に到達するまで浄化処理能力を維持できる触媒温度に保つのに前記触媒へ投入する必要がある熱エネルギー量を推定演算する。
前記エンジン運転制御手段は、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、推定演算された前記エンジン仕事量と前記熱エネルギー量に基づいて前記エンジンを運転制御する。
【発明の効果】
【0012】
よって、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、エンジン仕事量と熱エネルギー量に基づくエネルギーマネージメントによりエンジン運転制御が行われる。したがって、例えば、1回の触媒暖機運転によりエンジン仕事量と熱エネルギー量を満足させると、触媒暖機要求によるエンジン始動がない限り、目的地に到着するまでエンジンの再始動を行わなくてもよい。このように、触媒暖機回数を、1回、もしくは、最小限の回数にすることで、繰り返し暖機制御運転による燃料消費量の増加が抑制される。
また、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、目的地までに必要なエネルギー量から目的地までに消費される電気エネルギー量を差し引いたエンジン仕事量に基づいてエンジンの運転制御が行われる。すなわち、現在地から目的地に到着するまでのエンジン総仕事量が、演算されたエンジン仕事量になるようにエンジンの運転制御が行われる。したがって、目的地で残しておく必要がある最小限の電気エネルギー量を目標エネルギー量とした場合、目的地に到着したとき、電気エネルギー量を目標エネルギー量まで使い切ることができる。
さらに、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、現在地から目的地に到達するまで浄化処理能力を維持できる触媒温度に保つのに触媒へ投入する必要がある熱エネルギー量に基づいてエンジンの運転制御が行われる。すなわち、現在地から目的地に到着するまでの熱エネルギー総量が、演算された熱エネルギー量になるようにエンジンの運転制御が行われる。したがって、現在地から目的地に到着するまでの間、浄化処理能力を維持できる触媒温度に保たれ、排気性能が維持される。
この結果、排気性能を維持しつつ、燃料消費量の増加抑制とランニングコストの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の制御装置が適用されたシリーズ方式のプラグインハイブリッド車両を示す全体システム構成図である。
【図2】実施例1の車両統合コントローラにおいて実行される触媒暖機以外の要求によるエンジン運転制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】実施例1の車両統合コントローラにて演算されるエンジン仕事量の求め方を示すグラフ説明図である。
【図4】実施例1の車両統合コントローラにて演算される熱エネルギー量を目的地までの走行時間と外気温度により求める演算例を示す熱エネルギー量特性図である。
【図5】実施例1の車両統合コントローラにて熱エネルギー投入スケジュールを決定する際にエンジン停止状態であるときの触媒温度低下勾配が外気温と車速に影響されることを示す触媒温度特性図である。
【図6】実施例1の車両統合コントローラにてエンジン停止状態とエンジン運転状態での触媒温度変化勾配に基づく触媒への熱エネルギー投入スケジュールの決定に基づいてエンジン運転スケジュールを決定する例を示す触媒温度特性図である。
【図7】比較例1における現在地から目的地までのバッテリSOC特性とエンジン運転/停止特性を示すタイムチャートある。
【図8】比較例2における現在地から目的地までのバッテリSOC特性とエンジン運転/停止特性を示すタイムチャートある。
【図9】実施例1において熱エネルギー量がエンジン仕事量より大きいときのエンジンの運転制御作用の一例を示す作用説明図であり、(a)はエネルギー関係グラフを示し、(b)は現在地から目的地までのバッテリSOC特性とエンジン運転/停止特性のタイムチャートを示す。
【図10】実施例1においてエンジン仕事量が熱エネルギー量より大きいときのエンジンの運転制御作用の一例を示す作用説明図であり、(a)はエネルギー関係グラフを示し、(b)は現在地から目的地までのバッテリSOC特性とエンジン運転/停止特性のタイムチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
まず、構成を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置の構成を、「全体システム構成」、「触媒暖機以外の要求によるエンジン運転制御構成」に分けて説明する。
【0016】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の制御装置が適用されたシリーズ方式のプラグインハイブリッド車両の全体システム構成を示す。以下、図1に基づき、全体システム構成を説明する。
【0017】
シリーズ方式のプラグインハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、発電モータ2と、駆動モータ3(モータ)と、バッテリ4と、減速差動機構5と、駆動輪6と、発電モータ用インバータ7と、駆動モータ用インバータ8と、充電変換器9と、切替器10と、充電ポート11と、燃料タンク14と、を備えている。
【0018】
このプラグインハイブリッド車両は、走行モードとして、電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEV走行モード」という。)を有する。「EV走行モード」とは、バッテリ4に蓄えられた電力で駆動モータ3を駆動し、駆動モータ3のみを駆動源として走行しつつ、エンジン1は運転停止のモードである。一方、「HEV走行モード」とは、駆動モータ3を駆動源として走行しつつも、充電等のためにエンジン1により発電モータ2を駆動するモードである。
【0019】
前記エンジン1は、発電要求時、発電モータ2により始動され、完爆後、発電モータ2を駆動して発電する。そして、発電要求有りから発電要求無しに移行すると、エンジン1と発電モータ2は停止する。このエンジン1の排気系には、排気ガスを浄化する触媒15を有する。この触媒15としては、例えば、三元触媒が用いられ、三元触媒により、排ガス中に含まれる有害物質である炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等を同時に除去する。この三元触媒は、常温において還元能力が低い。このため、三元触媒を適切に作動させるには、例えば、エンジン始動直後に排気ガス熱により温度を早期に上げ、その後、所定温度以上の温度を保つというように、温度管理が必要である。
【0020】
前記発電モータ2は、エンジン1に連結され、スタータモータ機能と発電機能を発揮するモータジェネレータである。スタータモータ機能は、エンジン1が停止状態で発電要求があったとき、バッテリ4の電力を消費し、エンジン1のクランキングに続いて点火させることによってエンジン1を始動するときに発揮される。発電機能は、エンジン1が駆動運転状態の場合、エンジン1から回転駆動パワーを受け、これを三相交流の電力に変換し、発電電力をバッテリ4に充電するときに発揮される。
【0021】
前記駆動モータ3は、減速差動機構5を介して車両の駆動輪6に繋がれ、モータ機能と発電機能を発揮するモータジェネレータである。モータ機能は、発進加速時や定速走行時や中間加速時、バッテリ4の電力を消費し、車両を駆動するときに発揮される。発電機能は、減速時や制動時等において、駆動輪6から回転駆動パワーを受け、これを三相交流の電力に変換し、発電電力をバッテリ4に充電する回生発電を行うときに発揮される。
【0022】
前記バッテリ4は、リチウムイオン二次電池や高容量キャパシタ等が用いられ、発電モータ2で発電された電力や駆動モータ3で回生発電された電力を蓄えると共に、駆動モータ3や発電モータ2に蓄えた電力を供給する。
【0023】
前記発電モータ用インバータ7は、発電モータ2とバッテリ4との間に配置され、三相交流と直流を相互に変換する。三相交流は、発電モータ2の駆動・発電に用いられ、直流は、バッテリ4の充放電に用いられる。
【0024】
前記駆動モータ用インバータ8は、駆動モータ3とバッテリ4との間に配置され、三相交流と直流を相互に変換する。三相交流は、駆動モータ3の駆動・発電に用いられ、直流は、バッテリ4の充放電に用いられる。
【0025】
前記充電変換器9は、バッテリ4と充電ポート11との間に配置され、プラグイン充電中、充電ポート11から供給される交流の外部電力を、バッテリ4に充電可能な直流の電力に変換する。
【0026】
前記切替器10は、発電モータ2と発電モータ用インバータ7と充電ポート11の間に配置され、発電経路・給電経路を切り替える。発電経路は、充電ポート11を切り離し、発電モータ2と発電モータ用インバータ7を接続するパターンとする。給電経路は、下記の3パターンの何れかを切り替え選択する。
・充電ポート11を切り離し、発電モータ2と発電モータ用インバータ7を接続することで、バッテリ4の電力を使用するパターン。
・発電モータ2と発電モータ用インバータ7と充電ポート11を接続することで、充電ポート11とバッテリ4の双方の電力を使用するパターン。
・発電モータ用インバータ7を切り離し、発電モータ2と充電ポート11を接続することで、充電ポート11の電力を使用するパターン。
【0027】
前記充電ポート11は、車体の外周のいずれかの位置に設定され、外部充電設備12の設定位置に車両を停車した状態でリッド等を開けて外部充電器12の給電プラグ13を差し込んで接続すると、充電変換器9を介してバッテリ4に充電(プラグイン充電)する。ここで、外部充電設備12とは、自宅で深夜電力を用いて低速充電するための家庭用充電設備や、自宅から離れた出先において急速充電が可能な急速充電スタンド、等をいう。
【0028】
前記燃料タンク14は、エンジン1に供給されるガソリンや軽油等の燃料を蓄えるための容器である。燃料タンク14に蓄えられた燃料は、図外の燃料供給通路や燃料噴射装置を介してエンジン1の燃焼室に供給される。
【0029】
実施例1のプラグインハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ(ECM)20と、ジェネレータコントローラ(GC)21と、モータコントローラ(MC)22と、バッテリコントローラ(LBC)23と、車両統合コントローラ(VCM)24と、ナビゲーションコントローラ(NAVI/C)25と、を備えている。
なお、各コントローラ20、21、22、23、24は、各種データを共有化できるように、情報交換が可能なCAN通信線30により接続されている。また、各コントローラ20、21、22、23、24は、プログラムを実行するプロセッサと、プロセッサによって実行されるプログラムを格納するメモリと、プロセッサに接続されたインターフェースと、を備える。
【0030】
前記エンジンコントローラ20は、車両統合コントローラ24からの制御指令にしたがって、エンジン1の吸入空気量・点火時期・燃料噴射量を操作することで出力トルクを制御する。
【0031】
前記ジェネレータコントローラ21は、車両統合コントローラ24からの制御指令にしたがって、発電モータ2の入出力トルクを制御するために発電モータ用インバータ7に操作指令を出力する。
【0032】
前記モータコントローラ22は、車両統合コントローラ24からの制御指令にしたがって、駆動モータ3の入出力トルクを制御するために駆動モータ用インバータ8に操作指令を出力する。
【0033】
前記バッテリコントローラ23は、バッテリ4の充電容量(残容量)や入出力可能パワー等の内部状態量を推定すると共に、バッテリ4の保護制御を行う。以下、バッテリ4の充電容量(残容量)を、バッテリSOC(SOCは「State Of Charge」の略)という。
【0034】
前記車両統合コントローラ24は、共有化した各種データに基づき、複数のコントローラ20、21、22、23を協調させながら、運転者の要求に沿ってモータ駆動出力を制御する。また、運転性と燃費(経済性)の両方を考慮しながら発電出力を制御する。この車両統合コントローラ24は、ナビゲーションコントローラ25、イグニッションキースイッチ(IGN-SW)26、燃料タンクセンサ27、触媒温度センサ31、外気温センサ32、車速センサ33、他のセンサ類28からの情報を入力する。そして、運転者を含む乗員に通知すべき情報を、ナビゲーションコントローラ25およびスピーカー29に出力する。
【0035】
前記ナビゲーションコントローラ25は、衛星からのGPS信号を用いて自車位置を検出すると共に、DVD等に記憶された地図データに基づいて、目的地までの経路探索や誘導を行うナビゲーションシステムの制御機能を担う。ナビゲーションコントローラ25により得られた地図上での自車位置情報は、自宅位置情報や充電スタンド位置情報と共に、車両統合コントローラ24に対して供給される。このナビゲーションコントローラ25は、乗員が各種情報を入力するための入力装置(入力手段)を備えている。乗員は、入力装置を用いて目的地や予定走行距離を入力することができる。
【0036】
前記イグニッションキースイッチ26は、エンジン1の点火装置のスイッチである。このイグニッションキースイッチ26は、スターターモーター(セルモーター)のスイッチも兼ねている。前記燃料タンクセンサ27は、燃料タンク14に蓄えられた燃料の残容量を検知するセンサであり、例えば、燃料レベルゲージ等が用いられる。
【0037】
[触媒暖機以外の要求によるエンジン運転制御構成]
図2は、実施例1の車両統合コントローラ24において触媒暖機以外の要求によるエンジン運転制御処理の流れを示す(エンジン運転制御手段)。以下、触媒暖機以外の要求によるエンジン運転制御構成をあらわす図2の各ステップについて説明する。
【0038】
ステップS1では、バッテリSOCが多いCDモード中に触媒暖機以外の要件にてエンジン1が始動したか否かを判断する。YES(暖機以外の要件でエンジン始動)の場合はステップS2へ進み、NO(暖機要件でエンジン始動、又は、エンジン停止)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
ここで、「触媒暖機以外の要件」とは、例えば、駆動力要求が高い場合、バッテリ出力が温度や電圧制限で出力できない場合、エンジン始動を必要とする診断が行われた場合、エンジン始動スイッチ等があるときにその操作が行われた場合、等をいう。
【0039】
ステップS2では、ステップS1での暖機以外の要件でエンジン始動であるとの判断に続き、エンジン1と触媒15は、本来の排気浄化処理能力が確保できているか否かを判断する。YES(排気浄化処理能力が確保できている)の場合はエンドへ進み、NO(排気浄化処理能力が確保できていない)の場合はステップS3へ進む。
ここで、排気浄化処理能力が確保できていないという判断は、エンジン1や触媒15の温度が低いときに行われる。つまり、エンジン1や触媒15の温度が、設定温度より低い場合には、触媒暖機を行う必要があるため、ステップS3以降のフローへ進む。
【0040】
ステップS3では、ステップS2での排気浄化処理能力が確保できていないとの判断に続き、目的地情報(目的地までの経路や勾配情報)、もしくは、目的地までの距離が想定できるか否かを判断する。YES(目的地情報や目的地までの距離が想定できる)の場合はステップS4へ進み、NO(目的地情報や目的地までの距離が想定できない)の場合はエンドへ進む。
ここで、目的地情報や目的地までの距離が想定できる場合としては、例えば、ナビゲーションシステムに対し目的地がセットされた場合や、通勤パターンなどでドライバーの走行パターンが推測できる場合、等をいう。
【0041】
ステップS4では、ステップS3での目的地情報や目的地までの距離が想定できるとの判断に続き、エネルギー量Edriveと、電気エネルギー量Ebatと、エンジン仕事量Eengine(=Edrive−Ebat)と、熱エネルギー量Ecatと、を推定演算し、ステップS5へ進む。
「エネルギー量Edrive」とは、現在地から目的地までの走行に必要なエネルギー量をいい、目的地までの経路情報やエアコンや補機の電装負荷使用状況等により算出される。
「電気エネルギー量Ebat」とは、目的地で狙いとする目標バッテリSOCとなるように現在地から目的地までの間において消費したい電気エネルギーの量をいい、現在のバッテリSOCと目標バッテリSOCとの差により算出される。
「エンジン仕事量Eengine」とは、現在地から目的地まで走行するのに最低限必要なエンジン1で仕事すべき量をいい、図3に示すように、エネルギー量Edriveから電気エネルギー量Ebatを差し引いた差分により算出される(エンジン仕事量演算手段)。
「熱エネルギー量Ecat」とは、現在地から目的地に到達するまでの間、浄化処理能力が確保できる最低触媒温度を維持するため、触媒15へ投入すべきに必要な熱エネルギー量をいい、図4に示すように、目的地までの走行時間と外気温度により算出される(熱エネルギー量演算手段)。
【0042】
ステップS5では、ステップS4での各エネルギー量の推定演算に続き、エンジン1による触媒暖機制御を所定時間実施し、ステップS6へ進む。
ここで、触媒暖機制御とは、エンジン点火時期をリタードするなどにより、エンジン1の暖機を促進させる制御をいう。
【0043】
ステップS6では、エンジン1による触媒暖機制御の実施に続き、エンジン始動時における触媒暖機に必要な所定時間を経過したことで、エンジン1による触媒暖機制御を終了し、ステップS7へ進む。
すなわち、ステップS6での触媒暖機制御が終了した後、実施例1でのエンジン運転制御(ステップS7〜ステップS13)へ切り替えるようにしている。
【0044】
ステップS7では、ステップS6での触媒暖機制御の終了に続き、ステップS4にて推定演算したエンジン仕事量Eengineが、熱エネルギー量Ecatより大きいか否かを判断し、YES(Eengine>Ecat)の場合はステップS8へ進み、NO(Eengine≦Ecat)の場合はステップS12へ進む。
【0045】
ステップS8では、ステップS7でのEengine>Ecatであるとの判断に続き、触媒15への熱エネルギー投入スケジュール及びエンジン運転スケジュールを決定し、ステップS9へ進む。
ここで、熱エネルギー投入スケジュールを決定する際には、図5に示すように、エンジン停止状態であるときの触媒温度低下勾配が外気温と車速に影響されることを考慮し、現在の触媒温度から触媒の浄化機能が保たれる最低温度までに低下する時間t1あるいは時間t2を決める。そして、エンジン停止状態(下降勾配)とエンジン運転状態(上昇勾配)での触媒温度変化勾配により、図6に示すように、触媒への熱エネルギー投入スケジュールを決定する。この熱エネルギー投入スケジュールに基づいて、触媒への熱エネルギー投入域をエンジン運転域とし、触媒への熱エネルギー投入を要さないEV走行可能領域をエンジン停止領域とするエンジン運転スケジュールを決定する。
【0046】
ステップS9では、ステップS8でのエンジン運転スケジュールの決定、あるいは、ステップS11での目的地に到着していないとの判断に続き、決定あるいは補正されたエンジン運転スケジュールでのエンジン運転域とエンジン停止領域を切り替える切り替え制御に応じ、エンジン運転制御を行い、ステップS10へ進む。
【0047】
ステップS10では、ステップS9での切り替え制御に応じたエンジン運転制御に続き、中間目標と現在実績とのギャップを演算し、ギャップに応じてエンジン運転スケジュールの補正を実施し、ステップS11へ進む。
ここで、中間目標と現在実績とのギャップが演算された場合には、ギャップをなくすように、あるいは、ギャップを小さくするように、エンジン始動タイミングを変えたり、エンジン運転時のエンジン駆動負荷を変えたりする補正が実施される。
【0048】
ステップS11では、ステップS10でのギャップに応じたエンジン運転スケジュールの補正実施に続き、目的地に到着したか否かを判断する。YES(目的地に到着した)の場合はエンドへ進み、NO(目的地に到着していない)の場合はステップS9へ戻る。
【0049】
ステップS12では、ステップS7でのEengine≦Ecatであるとの判断に続き、触媒暖機制御の終了に引き続き、エンジン1の仕事量が、演算された最低必要とされるエンジン仕事量Eengineになるまでエンジン発電運転を継続して行い、ステップS13へ進む。
【0050】
ステップS13では、ステップS12でのエンジン発電運転の継続運転の終了に続き、エンジン1を停止し、エンドへ進む。
【0051】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の課題」の説明を行う。続いて、実施例1のプラグインハイブリッド車両の制御装置における作用を、「各エネルギー量の推定演算作用」、「エネルギーマネージメントによるエンジン運転制御作用」、「Eengine≦Ecatのときのエンジン運転制御作用」、「Eengine>Ecatのときのエンジン運転制御作用」に分けて説明する。
【0052】
[比較例の課題]
プラグインハイブリッド車両においては、バッテリSOCが多いCDモードのときは、エンジンを停止もしくはエンジンの駆動率を低くしEV走行をメインに行う。そして、あるところまでバッテリSOCが下がった後のCSモードになると、エンジンを始動し、エンジン運転もしくはエンジン駆動率を上げることで、バッテリSOCを保つといった動作を行うことが一般である。
【0053】
ちなみに、初回エンジン始動時は、エンジン及び触媒が十分暖機されていないため、排気浄化処理能力が低い。この時、エンジンは排気性能を確保するため、エンジン点火時期をリタードするなどして暖機促進することが一般的である。この暖機運転中は、暖機優先運転により、エンジンの運転効率は悪化する。つまり、通常運転より多くの燃料を消費する。
【0054】
EV走行がメインのCDモードにおいて、何かしらの要件でエンジンや触媒冷機時の初回エンジン始動した際は、排気性能を保つためには触媒暖機を行うことが好ましい。しかしながら、触媒暖機運転の終了後に、再びEV走行をメインとするCDモードに復帰することで、エンジン間欠時間や触媒へのエンジン排気熱の投入エネルギー不足により、再度、触媒温度が低下することが考えられる。
【0055】
そこで、エンジンの間欠停止時における浄化触媒の状態を判断し、その判断に応じ、間欠停止状態のエンジンの作動を再開し、触媒暖機をさせることで、適正な浄化処理能力を維持させるようにしたものを比較例1(特開2010-83232号公報等)とする。
【0056】
この比較例1では、図7に示すように、触媒暖機運転終了後でも、エンジン間欠状態によりエンジンや触媒温度が低下し、触媒の浄化処理能力が低下する前に再度エンジンを始動させて暖機制御運転を行う。すなわち、触媒温度の低下に応じ、触媒暖機を繰り返す制御が行われることで、暖機運転に伴うエンジン運転効率悪化により燃料を多く消費してしまう(課題1)。
【0057】
一方、触媒暖機時は、空燃比を一定、つまりエンジンの出力を極力一定にさせる運転にて、より排気成分の浄化性能を安定させるといった制御方法が既知である。しかしこの場合は、ドライバーの要求駆動力に対し、エンジン出力の余過剰分はそのままバッテリへ充電もしくは、バッテリからの持ち出しとなる。
例えば、負荷の低い走行を繰り返す渋滞走行のようなケースでは、繰り返されるエンジンの触媒暖機運転によって、バッテリへ余剰電力を充電することが想定される。
このケースが続くと、図7に示すように、触媒暖機を繰り返すことで、多く発電してしまい、電気エネルギーが使い切りたいバッテリSOCまで使え切れない可能性がある。
すなわち、目的地への到達時に、本来は極力電気エネルギーを使って、不足分をガソリン燃料とすることでランニングコストを下げたいのに対し、ガソリン駆動率が高くなることで、ランニングコストを上げてしまうことが懸念される(課題2)。
【0058】
上記課題2に対し、目的地において狙いのバッテリ残量まで電力を効率的に使えるようにバッテリSOCの推移をモニターし、モータとエンジンの駆動比率を調整することで実現させるものを比較例2(例えば、特開平9-163506号公報等)とする。
【0059】
しかし、この比較例2では、エンジン駆動率に、触媒温度推移の関係が考慮されていないため、実際の走行シーンによっては、触媒温度低下により触媒暖機を行うために、エンジンを始動しなければならないシーンが発生する(課題3)。
【0060】
すなわち、図8に示すように、エンジン分担率0でも、実際は排気性能により、エンジン始動や触媒暖機を実施するシーンが有る。この場合、目的地でバッテリSOCを使い切るには、モータとエンジンの駆動比率の再調整を要するし、再調整しない場合には、エンジン始動や触媒暖機の実施により、多く発電してしまい、目的地で狙いのバッテリSOCまで使え切れない可能性がある。
【0061】
[各エネルギー量の推定演算作用]
図2のステップS4では、実施例1のエネルギーマネージメントによるエンジン運転制御を実行していくのに必要な各エネルギー量が推定演算される。この演算では、適切にエネルギーマネージメントするために各エネルギー量の推定精度を高めておく必要がある。以下、これを反映する各エネルギー量の推定演算作用を説明する。
【0062】
(1) 目的地までの走行に必要なエネルギー量(Edrive)
目的地までの走行距離や、推定車速プロフィール、勾配情報より走行するのに必要な理論エネルギー量を算出する。この値に、時間関数であるエアコンや補機消費の電装消費の必要エネルギーを加え、更に実際にはその車両固有にあるギア損失や、モータ・インバータ損失、ブレーキによる損失など発生しうる損失を加えて、目的地に到達するまでにトータルで必要なエネルギー量を算出する。
【0063】
(2) 目的地までに使用したいバッテリ4からの電気エネルギー量(Ebat)
燃料代と電機代では、電気代のほうが安いため、目的地に着いた時は、狙いの目標バッテリSOCまで使い切れることがランニングコストの観点より好ましい。そのため、目的地までに使用したい電気エネルギー量Ebat(=バッテリエネルギー量)を、
(現在バッテリSOC−目的地での目標バッテリSOC)×電池容量
の式にて算出する。
【0064】
(3) エンジン1の最低必要なエンジン仕事量(Eengine)
目的地までの走行に必要なエネルギー量Edriveから、目的地までに使用したい電気エネルギー量Ebat(=バッテリエネルギー量)を差し引いた残りは、エンジン1が仕事しなければならない最低の仕事量であり、この値を算出する。
【0065】
(4) 触媒15へ投入が必要な熱エネルギー量(Ecat)
1回の触媒暖機に必要な触媒15への投入エネルギーは、予めその車両や触媒15に応じて、触媒浄化性能が確保するために必要なエネルギーを実験等で求めておけば良い。
実際には触媒暖機が終了した後に、エンジン停止によって触媒温度が低下していく。この触媒温度低下は、経過時間・車速・外気温等の主要パラメータで予測し、再度、触媒15へ投入すべきタイミングと投入エネルギー量を算出する(図5)。このことを繰り返すことで、目的地までに、触媒15へ投入すべきトータルエネルギー量を算出する(図6)。
更に好ましくは、停車時や低車速時は、エンジン1を極力停止したり低負荷にしたりしてEV感を演出したいこと、本来、CDモード相当でも同様に極力EV感を出したいこと、高速や交通量が多い暗騒音では、エンジン1を積極的に運転しても構わない。これらの要求や環境条件などを考慮して、触媒15へのエネルギー投入プロフィールを複数パターン作ることが好ましい。
【0066】
[エネルギーマネージメントによるエンジン運転制御作用]
上記のように、ハイブリッド車両において、排気性能維持を優先するエンジン運転制御を行うと燃料消費増加やランニングコストを上げることになり、ランニングコスト向上を優先するエンジン運転制御を行うと排気性能が維持できない。つまり、トレードオフの関係にある排気性能維持とランニングコストの向上を両立させる工夫が必要である。以下、これを反映するエネルギーマネージメントによるエンジン運転制御作用を説明する。
【0067】
CDモード中、触媒暖機以外の要件でエンジン始動という条件と、エンジン1と触媒15が本来の浄化処理能力が確保できていないという条件と、目的地までの必要情報が想定できるという条件と、が全て成立しているとする。この3つの開始条件が成立すると、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7以降へと進む。つまり、ステップS4において、各エネルギー量が算出され、ステップS5及びステップS6において、触媒暖機制御が実施される。そして、ステップS7以降において、エンジン1の熱エネルギーを触媒15へ分配投入させるように、エンジン仕事量Eengineと熱エネルギー量Ecatに基づき、エンジン始動タイミングやエンジン1の駆動負荷が設定され、エンジン1が運転制御される。
【0068】
すなわち、触媒暖機を含めたエネルギーマネージメントによるエンジン運転制御は、下記の3点を特徴とする。
(a) エンジン運転制御が、CDモード中に触媒暖機以外の要件でエンジン始動したとき、触媒暖機制御が終了した後、エネルギーマネージメントにより行われる。
(b) エンジン運転制御が、エネルギー量Edriveから電気エネルギー量Ebatを差し引いたエンジン仕事量Eengineに基づいて行われる。
(c) エンジン運転制御が、熱エネルギー量Ecatに基づいて行われる。
【0069】
(a)について
まず、CDモード中は極力EV走行を行わせることを狙いとしているハイブリッド車両やプラグインハイブリッド車両においては、基本、エンジン暖機や触媒暖機により、車両起動後即エンジンを始動させることは行わない。
しかしながら、駆動力要求が高い場合、バッテリ出力が温度や電圧制限で出力できない場合、エンジン始動を必要とする診断が行われた場合、もしくは、エンジン始動スイッチ等があるときにその操作が行われた場合、等においては、エンジン始動がCDモードでも行われる。
このように暖機要件以外でエンジンが始動した際には、排気性能を保つため、触媒暖機制御等を実施し、触媒温度を上昇させる。その後、アイドルストップを行うと、エンジン停止にともない、触媒温度が低下し、触媒の浄化処理能力が悪化するため、比較例1,2の課題で述べたように、エンジンを再度始動させて触媒暖機を繰り返していた。
これに対し、実施例1では、CDモード中に触媒暖機要件以外の要件でエンジン始動したとき、触媒暖機制御が終了した後、エンジン仕事量Eengineと熱エネルギー量Ecatに基づくエネルギーマネージメントによりエンジン運転制御が行われる。
したがって、例えば、1回の触媒暖機運転によりエンジン仕事量Eengineと熱エネルギー量Ecatを満足させると、触媒暖機要求によるエンジン始動がない限り、目的地に到着するまでエンジンの再始動を行わなくてもよい。
このように、触媒暖機回数を、1回、もしくは、最小限の回数にすることで、繰り返し暖機制御運転による燃料消費量の増加が抑制される。
【0070】
(b)について
例えば、負荷の低い走行を繰り返す渋滞走行のようなケースでは、繰り返されるエンジンの触媒暖機運転によって、バッテリへ余剰電力を充電する。この場合、目的地への到達時に、電気エネルギーが使い切りたいバッテリSOCまで使え切れないで残ってしまい、ランニングコストを上げてしまう。
これに対し、実施例1では、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、目的地までに必要なエネルギー量Edriveから目的地までに消費される電気エネルギー量Ebatを差し引いたエンジン仕事量Eengineに基づいてエンジン1の運転制御が行われる。
すなわち、現在地から目的地に到着するまでのエンジン総仕事量が、演算されたエンジン仕事量Eengineになるようにエンジン1の運転制御が行われる。
したがって、目的地で残しておく必要がある最小限の電気エネルギー量を目標エネルギー量とした場合、目的地に到着したとき、電気エネルギー量を目標エネルギー量まで使い切ることができる。
【0071】
(c)について
例えば、目的地において狙いのバッテリ残量まで電力を効率的に使えるようにバッテリSOCの推移をモニターし、モータとエンジンの駆動比率を調整する場合、エンジン駆動率に、触媒温度推移の関係が考慮されていないため、実際の走行シーンによっては、触媒温度が低下し、排気性能が損なわれる。
これに対し、実施例1では、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、現在地から目的地に到達するまで浄化処理能力を維持できる触媒温度に保つのに触媒15へ投入する必要がある熱エネルギー量Ecatに基づいてエンジン1の運転制御が行われる。
すなわち、現在地から目的地に到着するまでの熱エネルギー総量が、演算された熱エネルギー量Ecatになるようにエンジン1の運転制御が行われる。
したがって、現在地から目的地に到着するまでの間、浄化処理能力を維持できる触媒温度に保たれ、排気性能が維持される。
【0072】
[Eengine≦Ecatのときのエンジン運転制御作用]
実施例1では、エンジン運転制御を、Eengine≦EcatのときとEengine>Ecatのときとで切り分けている。以下、図2と図9に基づいて、触媒15へ投入するエネルギー量が最低必要なエンジン仕事量以上であるEengine≦Ecatのときのエンジン運転制御作用を説明する。
【0073】
図2のフローチャートにおいて、ステップS6にてエンジン1による触媒暖機制御が終了し、ステップS7にて、Eengine≦Ecatであると判断されると、ステップS7からステップS12→ステップS13→エンドへと進む。ステップS12では、触媒暖機制御の終了に引き続き、エンジン1の仕事量が、演算された最低必要とされるエンジン仕事量Eengineになるまでエンジン発電運転を継続して行い、ステップS13でエンジン1を停止する。
すなわち、図9(a)に示すようにEengine≦Ecatの場合、目的地まで不足するエネルギー量をまとめてエンジン発電運転により得るようにしている。この狙いは、触媒暖機終了後にエンジンを停止させることで、再度、触媒温度低下によるエンジン始動によるエネルギーロスや、煩わしさを極力抑えることにある。
【0074】
したがって、図9(b)のタイムチャートにおいて、時刻t1にて開始された触媒暖機制御が時刻t2にて終了すると、エンジン1を停止させることなくエンジン発電運転に入る。そして、エンジン1の総仕事量が、最低必要とされるエンジン仕事量Eengineになる時刻t3までエンジン発電運転を継続し、時刻t3から目的地に到着する時刻t4までエンジン1の停止を維持する。つまり、図9(b)の矢印Aに示すように、CDモード中、暖機以外の要件でエンジン始動し、暖機モードに突入した際、エンジン停止させるまでの間に、先の目的地までに不足するエネルギー量をまとめて発電するようにしている。
【0075】
このように、目的地に到達するまでの間は、バッテリ4からの持ち出しエネルギー量で基本全て賄えるため、その後、エンジン停止により触媒温度が低下してきても、暖機要件でエンジン始動される場合を除き、エンジン1を始動させることが無い。このため、暖機要件以外によるエンジン再始動は行なわなくても良いというように、触媒暖機回数を、1回限りとすることができる。そして、時刻t1〜時刻t3の間に行われるエンジン1の総仕事量が、最低必要とされるエンジン仕事量Eengineと一致することで、図9(b)の矢印Bに示すように、目的地に到着したときのバッテリSOCが、目標バッテリSOCまで使い切れていることになる。
【0076】
上記のように、最低必要なエンジン仕事量Eengineを1回のエンジン運転にまとめることで、その後、EV走行区間を確保することができる。例えば、高速道路や交通量が多く暗騒音の多い場所やEV以外立ち入り禁止区域手前で、1回のエンジン運転にまとめることで、その後、暗騒音が低くなった住宅街域やEV専用立ち入り区域等でEV走行することができる。
【0077】
[Eengine>Ecatのときのエンジン運転制御作用]
実施例1では、エンジン運転制御を、Eengine≦EcatのときとEengine>Ecatのときとで切り分けている。以下、図2と図10に基づいて、触媒15へ投入するエネルギー量より最低必要なエンジン仕事量が大きいEengine>Ecatのときのエンジン運転制御作用を説明する。
【0078】
図2のフローチャートにおいて、ステップS6にてエンジン1による触媒暖機制御が終了し、ステップS7にて、Eengine>Ecatであると判断されると、ステップS7からステップS8→ステップS9→ステップS10→ステップS11へと進む。そして、ステップS11にて目的地に到着していないと判断される間は、ステップS9→ステップS10→ステップS11へと進む流れが繰り返され、ステップS11にて目的地に到着していないと判断されると、ステップS11からエンドへと進む。ステップS8では、触媒15への熱エネルギー投入スケジュール及びエンジン運転スケジュールが決定される。ステップS9では、切り替え制御に応じ、エンジン運転制御が行われる。ステップS10では、中間目標と現在実績とのギャップが演算され、ギャップに応じてエンジン運転スケジュールの補正が実施される。
【0079】
すなわち、図10(a)に示すようにEengine>Ecatである場合、CDモードで一度エンジン始動したことをトリガーに、目的地までのエンジン総仕事量が、最低必要なエンジン仕事量Eengineとなるようエンジン1の運転と停止を繰り返す制御を行うようにしている。この狙いは、CDモード=EV走行、CSモード=HEV走行という基本制御から、CDモード=CSモード=HEV走行とする一貫した制御へと切り替え、触媒温度の低下を未然に抑えることにある。
【0080】
したがって、図10(b)のタイムチャートにおいて、時刻t1にて開始された触媒暖機制御が時刻t2にて終了すると、時刻t2〜t3までエンジン1を停止させる。その後、時刻t3〜t4でエンジン運転し、時刻t4〜t5でエンジン停止するというように、目的地に到着する時刻t19までの間、エンジン運転とエンジン停止を繰り返す。つまり、図10(b)の矢印Cに示すように、CDモード中、暖機以外の要件でエンジン始動し、暖機モードに突入した際、目的地に到達するまでの間、エンジン運転とエンジン停止を繰り返す。このとき、エンジン1のトータルの運転時間は、最低必要なエンジン仕事量Eengineになるように決め、かつ、エンジン運転の開始タイミングは、触媒温度が浄化機能を保つ最低温度に低下する前のタイミングとなるようにする。
【0081】
このように、繰り返し触媒暖機を行う前の暖機以外の要件でエンジン始動により触媒暖機制御を実施しているため、早期に触媒15の浄化処理能力が維持できる触媒温度まで高めることができる。そして、目的地に到着するまでに、最低仕事しなければならないエンジン仕事量Eengineを、どういったタイミングで分配して仕事をするかのエンジン運転スケジュールを、熱エネルギー投入スケジュールに基づき決めている。このため、排気性能は確保しつつ、触媒暖機を繰り返すことでの燃料悪化を抑制することが可能となる。そして、時刻t1〜時刻t19の間に行われるエンジン1の総仕事量が、最低必要とされるエンジン仕事量Eengineと一致することで、図10(b)の矢印Dに示すように、目的地に到着したときのバッテリSOCが、目標バッテリSOCまで使い切れていることになる。
【0082】
さらに、実施例1では、触媒暖機以外の要求によりエンジン始動した際、各エネルギー量の演算を行うようにしているが、エンジン運転制御が開始されても常時、各エネルギー量の演算し、現在状況をモニターしておくようにしている。そして、中間目標と現時点のギャップを把握し、そのギャップ内容に基づいて、エンジン運転スケジュール及び触媒15への熱エネルギー投入スケジュールを補正するようにしている(ステップS10)。
したがって、常時、目標と現在のずれを把握し、エンジン始動タイミングやエンジン駆動負荷に対し補正をかけることになる。このため、刻々と変化する実際の交通環境下において、排気性能を維持しつつ、燃料消費量の増加抑制とランニングコストを向上するという狙いの効果を、より精度高く発揮することが可能となる。
【0083】
次に、効果を説明する。
実施例1のプラグインハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0084】
(1) 排気系に排気ガスを浄化する触媒15を有し、燃料タンク14からの燃料供給により駆動するエンジン1と、
少なくともバッテリ4からの電力供給により駆動輪6,6を駆動する駆動モータ3(モータ)と、
現在地から目的地までに必要なエネルギー量Edriveから、目的地までに消費される電気エネルギー量Ebatを除いた差により、現在地から目的地までの走行に必要なエンジン仕事量Eengineを推定演算するエンジン仕事量演算手段(ステップS4)と、
現在地から目的地に到達するまで浄化処理能力を維持できる触媒温度に保つのに前記触媒15へ投入する必要がある熱エネルギー量Ecatを推定演算する熱エネルギー量演算手段(ステップS4)と、
触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、推定演算された前記エンジン仕事量Eengineと前記熱エネルギー量Ecatに基づいて前記エンジン1を運転制御するエンジン運転制御手段(図2)と、
を備える。
このため、排気性能を維持しつつ、燃料消費量の増加抑制とランニングコストの向上を図ることができる。
【0085】
(2) 前記エンジン運転制御手段(図2)は、前記熱エネルギー量Ecatが前記エンジン仕事量Eengine以上であるとき(ステップS7でNO)、触媒暖機以外の要求により前記エンジン1が始動すると、触媒暖機のために前記エンジン1の運転を継続する(ステップS12)。
このため、上記(1)の効果に加え、熱エネルギー量Ecatがエンジン仕事量Eengine以上であるとき、触媒暖機にためにエンジン始動が頻繁に繰り返されることを防止することができる。
【0086】
(3) 前記エンジン運転制御手段(図2)は、触媒暖機制御が終了しても前記エンジン1を停止させることなく、エンジン総仕事量が前記エンジン仕事量推定演算手段(ステップS4)により演算された前記エンジン仕事量Eengineに達するまで前記エンジン1の運転を継続する(ステップS12、ステップS13)。
このため、上記(2)の効果に加え、触媒暖機を含む最低必要なエンジン仕事量Eengineを1回のエンジン運転にまとめることで、その後、EV走行区間を確保することができる。
【0087】
(4) 前記エンジン運転制御手段(図2)は、前記エンジン仕事量Eengineが前記熱エネルギー量Ecatより大きいとき、触媒暖機以外の要求により前記エンジン1が始動したことをトリガーとし、前記エンジン1の運転と停止を繰り返すエンジンオンオフ制御を行う。
このため、上記(2),(3)の効果に加え、エンジン仕事量Eengineが熱エネルギー量Ecatより大きいとき、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動後、一貫したエンジンオンオフ制御へと切り替えることで、触媒温度の低下を未然に抑えることができる。
【0088】
(5) 前記エンジン運転制御手段(図2)は、触媒温度として前記触媒15の浄化機能が保たれる最低温度を維持しながら、目的地までのエンジン総仕事量が、前記エンジン仕事量推定演算手段(ステップS4)により演算された前記エンジン仕事量Eengineになるように、前記触媒15への熱エネルギー投入スケジュールを決定し、前記触媒15への熱エネルギー投入スケジュールに基づいて前記エンジン1の運転と停止を繰り返すエンジン運転スケジュールを決定する。
このため、上記(4)の効果に加え、エンジンオンオフ制御が、触媒浄化機能と最低必要なエンジン仕事量に基づいて決定されたエンジン運転スケジュールにより行われることで、高い排気性能の確保と、ランニングコストの向上と、の両立を図ることができる。
【0089】
(6) 前記エンジン運転制御手段(図2)は、エンジン停止時の触媒温度の低下を、エンジン停止してからの経過時間に外気温情報と車速情報を加えて予測し(図5)、前記熱エネルギー投入スケジュールを決定する。
このため、上記(5)の効果に加え、触媒15の浄化処理能力を確保できる温度推移が精度良く見積もられることで、精度の高い熱エネルギー投入スケジュールを決定することができる。
【0090】
(7) 前記エンジン運転制御手段(図2)は、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動後、前記エンジン仕事量Eengineと前記熱エネルギー量Ecatの推定演算を繰り返し行うことにより現在状況をモニターしておき、中間目標と現時点のギャップを演算し、ギャップに応じてエンジン運転スケジュールの補正を実施する。
このため、上記(4)〜(6)の効果に加え、刻々と変化する実際の交通環境下において、排気性能を維持しつつ、燃料消費量の増加抑制とランニングコストを向上するという狙いの効果を、より精度高く発揮することができる。
【0091】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0092】
実施例1では、触媒暖機を含めたエネルギーマネージメントによるエンジン運転制御をCDモードにて開始する例を示した。しかし、触媒暖機を含めたエネルギーマネージメントによるエンジン運転制御を、CDモードからCSモードに移行するまで待って開始する例としても良い。さらに、車両の停止を含む低車速域条件とバッテリSOCが多いCDモード条件のうち、少なくとも一つに条件が成立するとき、これらの条件が成立しないときに比べ、エンジン運転制御でのエンジン負荷を低くするような例としても良い。
すなわち、基本は、触媒温度が、排気浄化処理能力を維持できる温度より下回らないようにし、エンジン総仕事量が、最低エンジン仕事量を上回らないように制御する。しかし、好ましくは、EV感を出したい停車時や低車速時、あるいは、本来、EV走行であるCDモード相当時は、極力、EV走行を維持したい。よって、このような場合には、エンジン停止、あるいは、エンジン低負荷にする制御を行う。そして、エンジン音を出しても目立たない暗騒音が大きい高速や交通量が多い暗騒音では、エンジンを極力運転できるように、エンジン始動タイミングやエンジン駆動負荷を制御することが良い。
【0093】
実施例1では、本発明の制御装置を発電モータと駆動モータ(2モータ)を備えたシリーズ方式のプラグインハイブリッド車両に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、2モータを備えたパラレル方式のプラグインハイブリッド車両や発電/駆動兼用のモータジェネレータ(1モータ)を備えたパラレル方式のプラグインハイブリッド車両等に対しても適用することができる。更に、プラグイン充電が不可能なハイブリット車両においても、例えば、プラグイン充電が不可能なパラレル方式のハイブリッド車両等のように、EV走行を多用することで触媒暖機対策が必要なハイブリット車両に対しても適用することができる。すなわち、シリーズ、パラレル、プラグイン等の全てのハイブリッド車両を対象とする。
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン
2 発電モータ
3 駆動モータ(モータ)
4 バッテリ
5 減速差動機構
6 駆動輪
7 発電モータ用インバータ
8 駆動モータ用インバータ
9 充電変換器
10 切替器
11 充電ポート
14 燃料タンク
15 触媒
20 エンジンコントローラ
21 ジェネレータコントローラ
22 モータコントローラ
23 バッテリコントローラ
24 車両統合コントローラ
25 ナビゲーションコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系に排気ガスを浄化する触媒を有し、燃料タンクからの燃料供給により駆動するエンジンと、
少なくともバッテリからの電力供給により駆動輪を駆動するモータと、
現在地から目的地までに必要なエネルギー量から、目的地までに消費される電気エネルギー量を除いた差により、現在地から目的地までの走行に必要なエンジン仕事量を推定演算するエンジン仕事量演算手段と、
現在地から目的地に到達するまで浄化処理能力を維持できる触媒温度に保つのに前記触媒へ投入する必要がある熱エネルギー量を推定演算する熱エネルギー量演算手段と、
触媒暖機以外の要求によるエンジン始動の際、推定演算された前記エンジン仕事量と前記熱エネルギー量に基づいて前記エンジンを運転制御するエンジン運転制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン運転制御手段は、前記熱エネルギー量が前記エンジン仕事量以上であるとき、触媒暖機以外の要求により前記エンジンが始動すると、触媒暖機のために前記エンジンの運転を継続する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン運転制御手段は、触媒暖機制御が終了しても前記エンジンを停止させることなく、エンジン総仕事量が前記エンジン仕事量推定演算手段により演算された前記エンジン仕事量に達するまで前記エンジンの運転を継続する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン運転制御手段は、前記エンジン仕事量が前記熱エネルギー量より大きいとき、触媒暖機以外の要求により前記エンジンが始動したことをトリガーとし、前記エンジンの運転と停止を繰り返すエンジンオンオフ制御を行う
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン運転制御手段は、触媒温度として前記触媒の浄化機能が保たれる最低温度を維持しながら、目的地までのエンジン総仕事量が、前記エンジン仕事量推定演算手段により演算された前記エンジン仕事量になるように、前記触媒への熱エネルギー投入スケジュールを決定し、前記触媒への熱エネルギー投入スケジュールに基づいて前記エンジンの運転と停止を繰り返すエンジン運転スケジュールを決定する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン運転制御手段は、エンジン停止時の触媒温度の低下を、エンジン停止してからの経過時間に外気温情報と車速情報を加えて予測し、前記熱エネルギー投入スケジュールを決定する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン運転制御手段は、触媒暖機以外の要求によるエンジン始動後、前記エンジン仕事量と前記熱エネルギー量の推定演算を繰り返し行うことにより現在状況をモニターしておき、中間目標と現時点のギャップを演算し、ギャップに応じてエンジン運転スケジュールの補正を実施する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−1214(P2013−1214A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133166(P2011−133166)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】