説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】電気式差動部(差動機構)の冷間時に合った適切な動作点にてエンジンを運転して、車両の燃費を向上させる。
【解決手段】変速部(動力分配機構)の冷間時には、エンジン動作点を、動力分配機構の暖機後におけるエンジン動作点PEGBとする場合よりも、機械経路の伝達効率が向上する側のエンジン動作点PEGCとするので、変速部の冷間時における総合効率の低下は機械経路の伝達効率の低下が占める割合が大きいことに対して、冷間時には、動力分配機構の暖機後におけるエンジン動作点PEGBとするよりも、エンジン効率を低下させたとしても機械経路の伝達効率を向上させることで、総合効率が向上するエンジン動作点とすることができる。例えば、冷間時に総合効率が可及的に大きくなるエンジン動作点PEGCとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力分配式の電気式差動部を備えるハイブリッド車両の制御装置に係り、特に、車両の燃費を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンからの動力を差動用電動機及び出力回転部材へ分配する差動機構と駆動輪に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを有し、その差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備えるハイブリッド車両が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両(ハイブリッド自動車)がそれである。
【0003】
ここで、この特許文献1には、動力分配統合機構(上記差動機構に相当)の潤滑油の温度(潤滑油温)が閾値未満となる冷間時には、エンジンの目標パワー(目標エンジンパワー)が得られる一定曲線上(等パワー線上)で、エンジン最適動作線(例えば公知のエンジン最適燃費線)との交点となるエンジンの動作点(エンジン動作点、運転ポイント)よりもエンジントルクが小さくなる運転ポイントをエンジンの目標動作点(目標エンジン回転速度及び目標エンジントルク)として設定する。そして、目標エンジントルクを小さく設定する分、その目標エンジントルクを用いて計算するモータMG2(上記走行用電動機に相当)のトルク指令を大きな値に設定することにより、モータMG2の発熱量を大きくして動力分配統合機構の暖機を促進することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−97310号公報
【特許文献2】特開平10−84665号公報
【特許文献3】特開2000−236601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載された技術では、冷間時に伝達効率が低下してしまう動力分配統合機構の暖機を迅速に完了させ、その動力分配統合機構及び装置全体の伝達効率(総合効率、システム効率に相当)を向上させることができるものの、モータMG2のトルクを増大させるようにエンジン動作点が決定される為、冷間時においては、必ずしも装置全体の伝達効率が最適となるエンジン動作点とされておらず、燃費が低下する可能性がある。尚、上述したような課題は未公知であり、冷間時の差動機構における伝達効率低下による損失分を考慮して、つまり冷間時においてエンジンからの動力が伝達されるときの伝達効率の悪化は差動機構における伝達損失の増大(換言すれば差動機構における機械的な伝達効率の低下)が支配的であることに着目して、差動機構の冷間時に適切な動作点でエンジンを運転することについて未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、差動機構の冷間時に合った適切な動作点にてエンジンを運転して、車両の燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する為の第1の発明の要旨とするところは、(a) エンジンからの動力を差動用電動機及び出力回転部材へ分配する差動機構と駆動輪に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを有し、その差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、(b) 前記差動機構の冷間時には、前記エンジンの動作点を、その差動機構の暖機後におけるそのエンジンの動作点とする場合よりも、その差動機構を介して機械的に動力が伝達されるときの伝達効率が向上する側のそのエンジンの動作点とすることにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、差動機構の冷間時における全体の伝達効率(総合効率)の低下は差動機構を介して機械的に動力が伝達されるときの伝達効率(差動機構の機械的な伝達効率)の低下が占める割合が大きいことに対して、冷間時には、差動機構の暖機後におけるエンジンの動作点とするよりも、エンジン効率を低下させたとしても差動機構の機械的な伝達効率を向上させることで、総合効率が向上するエンジン動作点とすることができる。例えば、冷間時に総合効率が可及的に大きくなるエンジン動作点とすることができる。よって、差動機構の冷間時に合った適切な動作点にてエンジンを運転して、車両の燃費を向上させることができる。
【0009】
ここで、第2の発明は、前記第1の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジンの動作点は、そのエンジンの目標パワーが得られる等パワー線上の運転点である。このようにすれば、エンジンの目標パワーが得られつつ、差動機構の暖機後におけるエンジンの動作点とするよりも総合効率が向上するエンジン動作点とすることができる。
【0010】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記差動機構の潤滑油温が低い程、その差動機構の機械的な伝達効率がより向上する側の前記エンジンの動作点とすることにある。このようにすれば、差動機構の暖機後におけるエンジンの動作点とするよりも総合効率が一層向上するエンジン動作点とすることができる。
【0011】
また、第4の発明は、前記第1の発明乃至第3の発明の何れか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記差動用電動機が電力を消費すると共に前記走行用電動機が発電する動力循環状態を生じさせるときには、前記差動機構の暖機後における前記エンジンの動作点と比較して、そのエンジンの回転速度を高回転速度側とすることで、その差動機構の機械的な伝達効率が向上する側のそのエンジンの動作点とすることにある。このようにすれば、動力循環状態を生じさせるときに、差動機構の暖機後におけるエンジンの動作点とするよりも総合効率が向上するエンジン動作点とすることができる。
【0012】
また、第5の発明は、前記第1の発明乃至第4の発明の何れか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記差動用電動機と前記走行用電動機との間での電力授受による電気的な動力伝達と前記差動機構を介した機械的な動力伝達とにおいて前記エンジンからの動力が伝達されるときの伝達効率と、そのエンジンの動作点におけるエンジン効率との積で表される総合効率が可及的に大きくなるそのエンジンの動作点とすることにある。このようにすれば、冷間時に総合効率が可及的に大きくなるエンジン動作点とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド車両の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図3】エンジンの最適燃費線の一例を示す図であると共に、冷間時と暖機後とで異なるエンジン動作点を用いることを説明する為の図である。
【図4】動力分配機構において各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図であって、その共線図にて冷間時と暖機後とで異なるエンジン動作点を用いることを説明する為の図である。
【図5】電子制御装置の制御作動の要部すなわち変速部(動力分配機構)の冷間時に合った適切な動作点にてエンジンを運転して車両の燃費を向上させる為の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、好適には、前記出力回転部材と駆動輪とは、動力伝達可能に連結され、前記走行用電動機は、直接的に或いは歯車機構を介して間接的に前記差動機構の出力回転部材に動力伝達可能に連結される。また、上記歯車機構は、例えば2軸間を動力伝達可能に連結するギヤ対、遊星歯車やかさ歯車等の差動歯車装置にて構成された単段の減速機や増速機、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進2段、前進3段、更にはそれ以上の変速段を有する種々の遊星歯車式多段変速機などにより構成される。
【0015】
また、好適には、前記遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合作動させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源であるエンジンにより駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、エンジンとは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。
【0016】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記出力回転部材に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。
【0017】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。
【0018】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置の車両に対する搭載姿勢は、駆動装置の軸線が車両の幅方向となるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型でも、駆動装置の軸線が車両の前後方向となるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両などの縦置き型でも良い。
【0019】
また、好適には、前記エンジンと前記差動機構とは作動的に連結されればよく、例えばエンジンと差動機構との間には、脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)、直結クラッチ、ダンパー付直結クラッチ、或いは流体伝動装置などが介在させられるものであっても良いが、エンジンと差動機構とが常時連結されたものであっても良い。
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両10(以下、車両10という)の概略構成を説明する図であると共に、車両10の各部を制御する為に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源としてのエンジン12から出力される動力を第1電動機MG1及び出力歯車14へ分配する動力分配機構16と、出力歯車14に連結される歯車機構18と、出力歯車14に歯車機構18を介して動力伝達可能に連結された第2電動機MG2とを有する変速部20を備えて構成されている。この変速部20は、例えば車両10において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、変速部20(動力分配機構16)の出力回転部材としての出力歯車14とカウンタドリブンギヤ22とで構成されるカウンタギヤ対24、ファイナルギヤ対26、差動歯車装置(終減速機)28、エンジン12に作動的に連結されるダンパー30、そのダンパー30に作動的に連結される入力軸32等とで、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース34内においてトランスアクスル(T/A)としての動力伝達装置36の一部を構成している。このように構成された動力伝達装置36では、ダンパー30及び入力軸32を介して入力されるエンジン12の動力や第2電動機MG2の動力が出力歯車14へ伝達され、その出力歯車14からカウンタギヤ対24、ファイナルギヤ対26、差動歯車装置28、一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達される。
【0022】
入力軸32は、一端がダンパー30を介してエンジン12に連結されることでエンジン12により回転駆動させられる。また、他端には潤滑油供給装置としてのオイルポンプ40が連結されており入力軸32が回転駆動されることによりオイルポンプ40が回転駆動させられて、動力伝達装置36の各部例えば動力分配機構16、歯車機構18、不図示のボールベアリング等に潤滑油が供給される。
【0023】
動力分配機構16は、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、その第1ピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(回転部材)として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されており、差動作用を生じる差動機構として機能する。この動力分配機構16においては、第1回転要素RE1としての第1キャリヤCA1は入力軸32すなわちエンジン12に連結され、第2回転要素RE2としての第1サンギヤS1は第1電動機MG1に連結され、第3回転要素RE3としての第1リングギヤR1は出力歯車14に連結されている。これより、第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1は、それぞれ相互に相対回転可能となることから、エンジン12の出力が第1電動機MG1及び出力歯車14に分配されると共に、第1電動機MG1に分配されたエンジン12の出力で第1電動機MG1が発電され、その発電された電気エネルギがインバータ50を介して蓄電装置52に蓄電されたりその電気エネルギで第2電動機MG2が回転駆動されるので、変速部20は例えば無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、変速比γ0(=エンジン回転速度N/出力回転速度NOUT)が連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。つまり、変速部20は、差動用電動機として機能する第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式差動部(電気式無段変速機)として機能する。これにより、変速部20は、例えば燃費が最も良くなるようなエンジン12の動作点(例えばエンジン回転速度NとエンジントルクTとで定められるエンジン12の動作状態を示す運転点、以下、エンジン動作点という)である燃費最適点にてエンジン12を作動させることができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式或いはスプリットタイプと称される。
【0024】
歯車機構18は、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、その第2ピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2ピニオンギヤP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を回転要素として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。この歯車機構18においては、第2キャリヤCA2は非回転部材であるケース34に連結されることで回転が阻止され、第2サンギヤS2は第2電動機MG2に連結され、第2リングギヤR2は出力歯車14に連結されている。そして、この歯車機構18は、例えば減速機として機能するように遊星歯車装置自体のギヤ比(歯車比=サンギヤS2の歯数/リングギヤR2の歯数)が構成されており、第2電動機MG2からトルク(駆動力)を出力する力行時には第2電動機MG2の回転が減速させられて出力歯車14に伝達され、そのトルクが増大させられて出力歯車14へ伝達される。尚、この出力歯車14は、動力分配機構16のリングギヤR1及び歯車機構18のリングギヤR2としての機能、及びカウンタドリブンギヤ22と噛み合ってカウンタギヤ対24を構成するカウンタドライブギヤとしての機能が1つのギヤに一体化された複合歯車となっている。
【0025】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能のうち少なくとも一方を備えた例えば同期電動機であって、好適には、発動機又は発電機として選択的に作動させられるモータジェネレータである。例えば、第1電動機MG1はエンジン12の反力を受け持つ為のジェネレータ(発電)機能及び運転停止中のエンジン12を回転駆動するモータ(電動機)機能を備え、第2電動機MG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能する為の電動機機能及び駆動輪38側からの逆駆動力から回生により電気エネルギを発生させる発電機能を備える。
【0026】
また、車両10には、例えば変速部20などの車両10の各部を制御する車両10の制御装置としての電子制御装置80が備えられている。この電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12、第1電動機MG1、第2電動機MG2などに関するハイブリッド駆動制御等の車両制御を実行するようになっており、必要に応じてエンジン12の出力制御用や電動機MG1,MG2の出力制御用等に分けて構成される。また、電子制御装置80には、車両10に設けられた各センサ(例えばクランクポジションセンサ60、出力回転速度センサ62、レゾルバ等の第1電動機回転速度センサ64、レゾルバ等の第2電動機回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、油温センサ70、バッテリセンサ72など)により検出された各種入力信号(例えばエンジン回転速度N、車速Vに対応する出力歯車14の回転速度である出力回転速度NOUT、第1電動機回転速度NM1、第2電動機回転速度NM2、アクセル開度Acc、潤滑油の油温(潤滑油温)THOIL、蓄電装置52のバッテリ温度THBATやバッテリ充放電電流IBATやバッテリ電圧VBATなど)が供給される。また、電子制御装置80からは、車両10に設けられた各装置(例えばエンジン12、インバータ50など)に各種出力信号(例えばエンジン制御指令信号や電動機制御指令信号(変速制御指令信号)等のハイブリッド制御指令信号SHVなど)が供給される。尚、電子制御装置80は、例えば上記バッテリ温度THBAT、バッテリ充放電電流IBAT、及びバッテリ電圧VBATなどに基づいて蓄電装置52の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。
【0027】
図2は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図2において、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部82は、例えば第2電動機MG2のみを走行用の駆動源として走行するモータ走行を実行する為のモータ走行モード、エンジン12の動力に対する反力を第1電動機MG1の発電により受け持つことで出力歯車14(駆動輪22)にエンジン直達トルクを伝達すると共に第1電動機MG1の発電電力により第2電動機MG2を駆動することで出力歯車14にトルクを伝達して少なくともエンジン12を走行用の駆動源として走行するエンジン走行を実行する為のエンジン走行モード(定常走行モード)、このエンジン走行モードにおいて蓄電装置52からの電力を用いた第2電動機MG2の駆動力を更に付加して走行するアシスト走行モード(加速走行モード)等を、走行状態に応じて選択的に成立させる。
【0028】
上記エンジン走行モードにおける制御を一例としてより具体的に説明すると、ハイブリッド制御部82は、エンジン12を効率の良い作動域で作動させる一方で、エンジン12と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を最適になるように変化させて変速部20の変速比γ0を制御する。例えば、ハイブリッド制御部82は、アクセル開度Accや車速Vから車両10の目標出力(要求出力)を算出し、その目標出力と充電要求値(充電要求パワー)とから必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機MG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジンパワーPを算出する。そして、ハイブリッド制御部82は、その目標エンジンパワーPが得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン12を制御すると共に第1電動機MG1の発電量を制御する。
【0029】
つまり、ハイブリッド制御部82は、動力性能や燃費向上などの為にエンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2の制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン12を効率のよい作動域で作動させる為に定まるエンジン回転速度Nと車速V等で定まる出力回転速度NOUTとを整合させる為に、変速部20が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御部82は、例えばエンジン回転速度NとエンジントルクTとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性(動力性能)と燃費性(燃費性能)とを両立するように予め実験的に求められた例えば図3の破線に示すような良く知られたエンジン12の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、最適燃費線)Lを予め記憶している。そして、ハイブリッド制御部82は、例えば図3に示すような最適燃費線L上であって且つ目標エンジンパワーPが得られる等パワー線L上の燃費最適点(エンジン効率最適点)となるエンジン12の動作点(エンジン動作点)PEGAにてエンジン12が作動させられるように、目標エンジンパワーPを発生する為のエンジントルクTとエンジン回転速度Nとの各目標値を定める。ハイブリッド制御部82は、例えばスロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御させる他、燃料噴射制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量や噴射時期を制御し、点火時期制御の為に点火装置による点火時期を制御するエンジン制御指令信号を出力し、目標エンジンパワーPを発生する為のエンジントルクTの目標値が得られるようにエンジン12の出力制御を実行する。また、ハイブリッド制御部82は、第1電動機MG1による発電を制御する電動機制御指令信号をインバータ50に出力して、目標エンジンパワーPを発生する為のエンジン回転装度Nの目標値が得られるように第1電動機回転速度NM1を制御する。尚、上記エンジン動作点PEGとは、例えばエンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで表されるエンジン12の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン12の動作状態を示す動作点(運転点)である。また、本実施例では、燃費とは、例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0030】
このように、エンジン走行モードにおける制御において、ハイブリッド制御部82は、例えば第1電動機MG1により発電された電気エネルギをインバータ50を通して蓄電装置52や第2電動機MG2へ供給するので、エンジン12の動力の主要部はエンジン直達トルクT(=T/(1+ρ);ρは動力分配機構16の歯車比(=サンギヤS1の歯数/リングギヤR1の歯数))として機械的に出力歯車14へ伝達されるが、エンジン12の動力の一部は第1電動機MG1の発電の為に消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ50を通してその電気エネルギが第2電動機MG2へ供給され、電気エネルギにより第2電動機MG2が駆動されてその第2電動機MG2から出力される駆動力が出力歯車14へ伝達される。つまり、変速部20においては、動力分配機構16を介して機械的に動力が伝達される機械経路(機械パス)が構成されると共に、上記発電に係る第1電動機MG1による電気エネルギの発生から駆動に係る第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン12の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気経路(電気パス)が構成される。すなわち、エンジン走行モードでは、変速部20において、第1電動機MG1と第2電動機MG2との間での電力授受による電気経路を介した電気的な動力伝達と、機械経路としての動力分配機構16を介した機械的な動力伝達とでエンジン12からの動力が出力歯車14へ伝達される。
【0031】
ここで、動力性能を維持しつつ車両10の更なる燃費向上を図るには、目標エンジンパワーPを確保しつつ、エンジン12自体を効率良く運転させることに加え、エンジン12と変速部20との全体で効率を向上させることが考えられる。例えば、ハイブリッド制御部82は、図3に示すような最適燃費線Lと等パワー線Lとの交点となるエンジン動作点PEGA(すなわち目標エンジンパワーPを確保しつつエンジン効率ηENGが最大となるエンジン動作点PEGA)にてエンジン12だけを効率良く作動させるのではなく、等パワー線L上において、前記電気経路と前記機械経路との両経路を介した動力伝達においてエンジン12からの動力が伝達されるときの変速部20における動力伝達効率(=出力された動力/入力された動力;明細書全体を通して単に伝達効率ともいう)としての変速部20の合成伝達効率ηTHSと、エンジン動作点PEGにおけるエンジン効率ηENGとの積で表される(得られる)総合効率(システム効率)ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBにてエンジン12を作動させる。この総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBは、例えばエンジン効率ηENGが最大となるエンジン動作点PEGAにおける総合効率ηTOTALが算出され、そこから等パワー線L上でエンジン動作点PEGを所定量ずらす毎にそのエンジン動作点PEGにおける総合効率ηTOTALが逐次算出されて、その総合効率ηTOTALが極大(好ましくは、最大)となったところのエンジン動作点PEGBとして決定される。或いは、上記エンジン動作点PEGBは、例えば図3に示すように、エンジン効率ηENGが最大となるエンジン動作点PEGAに対して等パワー線L上でシステム効率最適を求める為の予め実験的に求められた所定エンジン回転速度分(或いは所定エンジントルク分)だけずらしたエンジン動作点PEGBとして決定される。
【0032】
上記エンジン効率ηENGとは、エンジン12への供給燃料が完全に燃焼した場合の低位発熱量のうち仕事に変換される熱量の割合であり、総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBを求める際に必要であるならば、例えばエンジン動作点PEGとエンジン効率ηENGとの予め実験的に求められて定められた関係(エンジン効率マップ)からそのときのエンジン動作点PEGに基づいて算出される。また、上記合成伝達効率ηTHSは、そのときのエンジン動作点PEGにおける前記機械経路の伝達効率ηMC及び前記電気経路の伝達効率ηELと、前記電気経路及び前記機械経路のそれぞれにおいて伝達される動力の割合(伝達比率)とから求まる値であり、総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBを求める際に必要であるならば、例えばその都度算出されても良いし、所定の関係(マップ)から算出されても良い。
【0033】
尚、エンジン走行モードにおいては、上述したように第1電動機MG1が電力を発電すると共に第2電動機MG2が消費する動力分流状態となる場合以外に、第1電動機MG1が負回転且つ負トルクとされて電力を消費すると共に第2電動機MG2が発電する動力循環状態となる場合がある。このような動力循環状態では、第2電動機MG2から第1電動機MG1へ動力が電気的に伝達されることになり、動力分流状態と比較して、上記合成伝達効率ηTHSが著しく低下する可能性がある。これは、見方を換えれば、動力循環状態では、動力分流状態と比較して、エンジン動作点PEGをずらすことによる合成伝達効率ηTHSの向上幅(向上代)が大きくできるということである。その為、動力循環状態の場合には、動力分流状態の場合と比較して、エンジン動作点PEGをエンジン効率ηENGが最大となるエンジン動作点PEGAからずらしたときのエンジン効率ηENGの低下による総合効率ηTOTALの低下分より合成伝達効率ηTHSの向上による総合効率ηTOTALの向上分が上回り易い。従って、動力性能を維持しつつ車両10の更なる燃費向上を図る為に、エンジン動作点PEGとして、エンジン効率ηENGが最大となるエンジン動作点PEGAではなく総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBを用いることは、特に動力循環状態となる場合に有用である(効果が大きい)。
【0034】
ところで、変速部20の冷間時(暖機前)においては、暖機後と比較して、変速部20の合成伝達効率ηTHSが低下する。その為、変速部20の冷間時には、総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGB(或いはエンジン効率ηENGが最大となるエンジン動作点PEGA)からエンジン動作点PEGをずらしたときのエンジン効率ηENGの低下による総合効率ηTOTALの低下分よりも合成伝達効率ηTHSの向上による総合効率ηTOTALの向上分が上回るようなエンジン動作点PEGが存在する可能性がある。
【0035】
また、変速部20の冷間時における合成伝達効率ηTHSの低下は、変速部20の冷間時すなわち潤滑油温THOILの低温時には、変速部20の暖機後すなわち潤滑油温THOILの常温時と比較して、潤滑油の粘度が高くなり、例えば前記機械経路の伝達損失が増加する(すなわち前記機械経路の伝達効率ηMCが低下する)ことが大きな要因であると考えられる。つまり、変速部20の冷間時における合成伝達効率ηTHSの悪化は機械経路の伝達効率ηMCの低下が支配的であると考えられる。
【0036】
そこで、本実施例の電子制御装置80は、動力分配機構16の冷間時(換言すれば変速部20の冷間時)には、エンジン動作点PEGを、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGB(或いはエンジン動作点PEGA)とする場合よりも、動力分配機構16を介して機械的に動力が伝達されるときの伝達効率(すなわち機械経路の伝達効率ηMC)が向上する側のエンジン動作点PEGCとする。従って、エンジン動作点PEGBは動力分配機構16の暖機後において総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGであり、エンジン動作点PEGCは動力分配機構16の冷間時において総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGでもある。
【0037】
以下において、上述したように冷間時に暖機後とは異なるエンジン動作点PEGを用いることができることについて、図3及び図4を用いて、動力循環状態となる場合を例示しつつ説明する。図3は、上述した最適燃費線L及び等パワー線Lの一例を示す図であると共に、冷間時と暖機後とで異なるエンジン動作点PEGを用いることを説明する為の図である。図4は、動力分配機構16において各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図であって、その共線図にて冷間時と暖機後とで異なるエンジン動作点PEGを用いることを説明する為の図である。また、図4における各エンジン動作点PEGA,PEGB,PEGCは、図3における各エンジン動作点PEGA,PEGB,PEGCにそれぞれ対応している。また、この図4の共線図は、動力分配機構16の歯車比(ギヤ比)ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X0が回転速度零を示している。また、動力分配機構16を構成する遊星歯車装置の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS1、第1回転要素RE1に対応するキャリヤCA1、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は歯車比ρに応じて定められている。
【0038】
図3及び図4において、変速部20の冷間時に各エンジン動作点PEGA,PEGB,PEGCを用いる場合を考える。機械経路の伝達損失は、リングギヤR1とサンギヤS1(第1電動機MG1)との回転速度差が大きい程大きくなり、且つ潤滑油温THOILが低い程大きくなるので、エンジン動作点PEGAを用いる場合が非常に大きくなり、次いでエンジン動作点PEGBを用いる場合が大きくなる(PEGA>>PEGB>PEGC)。また、電気経路の伝達損失は、第1電動機MG1のパワー(第1電動機トルクTM1×第1電動機回転速度NM1)に比例するので、エンジン動作点PEGAを用いる場合が最も大きくなり、次いでエンジン動作点PEGBを用いる場合が大きくなる(PEGA>PEGB>PEGC)。よって、変速部20の冷間時における合成伝達効率ηTHSは、エンジン動作点PEGCを用いる場合が大幅に良くなり、次いでエンジン動作点PEGBを用いる場合が良くなる(PEGC>>PEGB>PEGA)。一方で、エンジン効率ηENGは、最適燃費線Lに近い程良いので、エンジン動作点PEGAを用いる場合が最も良くなり、次いでエンジン動作点PEGBを用いる場合が良くなる(PEGA>PEGB>PEGC)。そして、前述したように変速部20の冷間時における合成伝達効率ηTHSの悪化は機械経路の伝達損失の増加が支配的であると考えられるので、変速部20の冷間時における総合効率ηTOTALは、エンジン効率ηENGが多少低下したとしても機械経路の伝達損失が改善(低減)される(すなわち機械経路の伝達効率ηMCが向上する)エンジン動作点PEGCを用いる場合が最も良くなる場合がある。つまり、変速部20の冷間時に第1電動機MG1が負回転且つ負トルクとなる動力循環状態のときに総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGとして、エンジン動作点PEGBよりもエンジン回転速度Nを高回転化して機械経路の伝達損失を低減したエンジン動作点PEGCが存在する場合がある。見方を換えれば、変速部20の冷間時には、暖機後に総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBと比較して、エンジン効率ηENGを低下させてでも機械経路の伝達効率ηMCを向上させて総合効率ηTOTALを向上させることができるエンジン動作点PEGCが存在する場合がある。
【0039】
そこで、本実施例の電子制御装置80は、変速部20の冷間時に動力循環状態を生じさせるときには、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBと比較して、エンジン回転速度Nを高回転速度側とすることで、機械経路の伝達効率ηMCが向上する側のエンジン動作点PEGCとする。
【0040】
上記変速部20の冷間時に総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGCは、例えば変速部20の暖機後に用いるエンジン動作点PEGBに対して等パワー線L上でエンジン動作点PEGを所定量高回転速度側にずらす毎にそのエンジン動作点PEGにおける総合効率ηTOTALが逐次算出されて、その総合効率ηTOTALが極大(好ましくは、最大)となったところのエンジン動作点PEGCとして決定される。或いは、上記エンジン動作点PEGCは、例えば図3に示すように、エンジン動作点PEGBに対して等パワー線L上で冷間時にシステム効率最適を求める為の予め実験的に求められた所定冷間時エンジン回転速度分(或いは所定冷間時エンジントルク分)だけエンジン高回転速度側にずらしたエンジン動作点PEGCとして決定される。
【0041】
より具体的には、図2に戻り、潤滑油温判定手段すなわち潤滑油温判定部84は、変速部20(動力分配機構16)が冷間状態であるか否かを、例えば潤滑油温THOILが所定油温THOIL’未満であるか否かに基づいて判定する。上記所定油温THOIL’は、変速部20の冷間時に総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGCを用いる必要がある程の低油温時(冷間時)であることを判定する為の予め実験的に求められた冷間時判定閾値である。
【0042】
ハイブリッド制御部82は、エンジン走行モードにおけるエンジン動作点PEGの目標値を、潤滑油温判定部84による変速部20が冷間状態であるか否かの判定結果に基づいて設定するエンジン動作点設定手段すなわちエンジン動作点設定部86を機能的に備えている。
【0043】
エンジン動作点設定部86は、潤滑油温判定部84により変速部20が冷間状態でない(すなわち潤滑油温THOILが所定油温THOIL’以上の常温となって変速部20が暖機状態にある)と判定された場合には、エンジン動作点PEGとして、変速部20の暖機後において総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGB例えばエンジン効率ηENGが最大となるエンジン動作点PEGAに対して等パワー線L上で所定エンジン回転速度分だけずらしたエンジン動作点PEGBを設定する。一方で、エンジン動作点設定部86は、潤滑油温判定部84により変速部20が冷間状態である(すなわち潤滑油温THOILが所定油温THOIL’未満の低温となっている)と判定された場合には、エンジン動作点PEGとして、変速部20の冷間時において総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGC例えば上記エンジン動作点PEGBに対して等パワー線L上で所定冷間時エンジン回転速度分だけエンジン高回転速度側にずらしたエンジン動作点PEGCを設定する。
【0044】
尚、エンジン動作点PEGCの設定に際しては、エンジン動作点PEGB(或いはエンジン動作点PEGA)とするよりも一律に機械経路の伝達効率ηMCが向上する側のエンジン動作点PEGCとしても良いが、よりきめ細やかに燃費向上を図る為に、潤滑油温THOILが低い程、機械経路の伝達効率ηMCがより向上する側のエンジン動作点PEGCとしても良い。具体的には、変速部20が冷間状態であると判定された場合に、一律に所定冷間時エンジン回転速度分だけエンジン高回転速度側にずらしたエンジン動作点PEGCを設定するものでも良いが、潤滑油温THOILが低い程大きな値となるように、エンジン動作点PEGBに対して等パワー線L上で冷間時にシステム効率最適を求める為の予め実験的に求められた所定冷間時エンジン回転速度分だけエンジン高回転速度側にずらしたエンジン動作点PEGCを設定するものでも良い。
【0045】
図5は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち変速部20(動力分配機構16)の冷間時に合った適切な動作点にてエンジン12を運転して車両10の燃費を向上させる為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0046】
図5において、先ず、潤滑油温判定部84に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば変速部20(動力分配機構16)が冷間状態であるか否かが、潤滑油温THOILが所定油温THOIL’未満であるか否かに基づいて判定される。潤滑油温THOILが所定油温THOIL’以上である為に上記S10の判断が否定される場合はエンジン動作点設定部86に対応するS20において、例えば変速部20の暖機後において総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBがエンジン動作点PEGとして設定される。一方で、潤滑油温THOILが所定油温THOIL’未満である為に上記S10の判断が肯定される場合はエンジン動作点設定部86に対応するS30において、例えば変速部20の冷間時において総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGCがエンジン動作点PEGとして設定される。
【0047】
上述のように、本実施例によれば、変速部20(動力分配機構16)の冷間時には、エンジン動作点PEGを、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBとする場合よりも、機械経路の伝達効率ηMCが向上する側のエンジン動作点PEGCとするので、変速部20の冷間時における総合効率ηTOTALの低下は機械経路の伝達効率ηMCの低下が占める割合が大きいことに対して、冷間時には、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBとするよりも、エンジン効率ηENGを低下させたとしても機械経路の伝達効率ηMCを向上させることで、総合効率ηTOTALが向上するエンジン動作点PEGとすることができる。例えば、冷間時に総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGCとすることができる。よって、変速部20(動力分配機構16)の冷間時に合った適切なエンジン動作点PEGCにてエンジン12を運転して、車両10の燃費を向上させることができる。
【0048】
また、本実施例によれば、エンジン動作点PEGは、目標エンジンパワーPが得られる等パワー線L上の運転点であるので、目標エンジンパワーPが得られつつ、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBとするよりも総合効率ηTOTALが向上するエンジン動作点PEGとすることができる。
【0049】
また、本実施例によれば、潤滑油温THOILが低い程、機械経路の伝達効率ηMCがより向上する側のエンジン動作点PEGCとするので、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBとするよりも総合効率ηTOTALが一層向上するエンジン動作点PEGとすることができる。
【0050】
また、本実施例によれば、変速部20の冷間時に動力循環状態を生じさせるときには、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBと比較して、エンジン回転速度Nを高回転速度側とすることで、機械経路の伝達効率ηMCが向上する側のエンジン動作点PEGCとするので、動力循環状態を生じさせるときに、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBとするよりも総合効率ηTOTALが向上するエンジン動作点PEGとすることができる。
【0051】
また、本実施例によれば、前記電気経路と前記機械経路との両経路を介した動力伝達においてエンジン12からの動力が伝達されるときの変速部20における合成伝達効率ηTHSと、エンジン動作点PEGにおけるエンジン効率ηENGとの積で表される総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGにてエンジン12を作動させるので、冷間時に総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGCとすることができる。
【0052】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0053】
例えば、前述の実施例では、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGを、暖機後に総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGBに設定する場合を例示したが、これに限らず、例えばエンジン効率ηENGが最適となるエンジン動作点PEGAに設定する場合であっても良い。このようにしても、本発明は適用され得る。
【0054】
また、前述の実施例では、特に動力循環状態を生じさせるときを例示して、変速部20の冷間時に設定するエンジン動作点PEGCを説明したが、飽くまでも一例であり、例えば動力分流状態となる場合であっても本発明は適用され得る。尚、動力分流状態となる場合には、上記変速部20の冷間時に総合効率ηTOTALが可及的に大きくなるエンジン動作点PEGCは、動力分配機構16の暖機後におけるエンジン動作点PEGBと比較して、必ずしもエンジン回転速度Nを高回転速度側とすることで設定されるものではなく、少なくとも機械経路の伝達効率ηMCが向上する側のエンジン動作点PEGCとして設定される。
【0055】
また、前述の実施例では、潤滑油温THOILは、油温センサ70により検出された信号値であったが、これに限らず、例えばエンジン水温に基づいて推定された推定値等であっても良い。このような場合には、例えば油温センサ70は備えられる必要はない。
【0056】
また、前述の実施例では、動力分配機構16は、シングルプラネタリの遊星歯車装置であるが、ダブルプラネタリの遊星歯車装置であっても良い。また、動力分配機構16は、例えばエンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機MG1及び出力歯車14に作動的に連結された差動歯車装置であっても良い。
【0057】
また、前述の実施例において、車両10はモータ走行を行うことが可能であるが、例えばエンジン走行モードのみを備えて車両走行は常にエンジン走行で為されても差し支えない。このようにしても、本発明は適用され得る。
【0058】
また、前述の実施例において、図1に示すように第2電動機MG2は、エンジン12が間接的に連結された駆動輪38に動力伝達可能に連結されているが、第2電動機MG2は駆動輪38とは別の車輪(駆動輪)に直接又は間接的に連結されていても差し支えない。要するに、エンジン12からの動力で駆動される駆動輪と第2電動機MG2からの動力で駆動される駆動輪とは、別個の車輪であっても差し支えないということである。
【0059】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
10:ハイブリッド車両
12:エンジン
14:出力歯車(出力回転部材)
16:動力分配機構(差動機構)
20:変速部(電気式差動部)
38:駆動輪
80:電子制御装置(制御装置)
MG1:第1電動機(差動用電動機)
MG2:第2電動機(走行用電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を差動用電動機及び出力回転部材へ分配する差動機構と駆動輪に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを有し、該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記差動機構の冷間時には、前記エンジンの動作点を、該差動機構の暖機後における該エンジンの動作点とする場合よりも、該差動機構を介して機械的に動力が伝達されるときの伝達効率が向上する側の該エンジンの動作点とすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの動作点は、該エンジンの目標パワーが得られる等パワー線上の運転点であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記差動機構の潤滑油温が低い程、該差動機構の機械的な伝達効率がより向上する側の前記エンジンの動作点とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記差動用電動機が電力を消費すると共に前記走行用電動機が発電する動力循環状態を生じさせるときには、前記差動機構の暖機後における前記エンジンの動作点と比較して、該エンジンの回転速度を高回転速度側とすることで、該差動機構の機械的な伝達効率が向上する側の該エンジンの動作点とすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記差動用電動機と前記走行用電動機との間での電力授受による電気的な動力伝達と前記差動機構を介した機械的な動力伝達とにおいて前記エンジンからの動力が伝達されるときの伝達効率と、該エンジンの動作点におけるエンジン効率との積で表される総合効率が可及的に大きくなる該エンジンの動作点とすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−67203(P2013−67203A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205398(P2011−205398)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】