説明

ハイブリッド車両用駆動装置の制御装置

【課題】トルクリミッタの耐久性を向上させることができるハイブリッド車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン2、第1モータジェネレータ3、及び出力軸に連結され、エンジン2の動力を第1モータジェネレータ3及び出力軸に分配するプラネタリギヤ4と、第1モータジェネレータ3とプラネタリギヤ4との間に連結されたトルクリミッタ5と、を有するハイブリッド車両用駆動装置1を制御するための制御装置10であって、この制御装置10が、第1モータジェネレータ3の力行駆動時に、トルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出した時、第1モータジェネレータ3の回転数を低減させるよう第1モータジェネレータ3を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリーズパラレル方式のハイブリッド車両の駆動装置において、エンジンの動力を発電機及び出力軸に分配するためのプラネタリギヤにトルクリミッタを連結させ、過負荷時にトルクリミッタで滑りを発生させることにより、過大なトルク伝達を防止することができる構成が知られている。このような構成において、例えば特許文献1には、トルクリミッタに滑りが発生した場合に、エンジン出力トルクを低下させることで、トルクリミッタの滑りを抑制させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−042701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ハイブリッド車両用駆動装置では、例えばエンジン始動時やエンジンブレーキ制動時など、エンジンを自由に制御することができない状況が考えられる。このような状況では、特許文献1に記載される技術によりトルクリミッタの滑りを抑制させることは困難であるので、トルクリミッタの磨耗が促進されてしまい、耐久性が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、トルクリミッタを有するハイブリッド車両用駆動装置において、トルクリミッタの耐久性を向上させることができるハイブリッド車両用駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、エンジン、電動機、及び出力軸に連結され、前記エンジンの動力を前記電動機及び前記出力軸に分配するプラネタリギヤと、前記電動機と前記プラネタリギヤとの間に連結されたトルクリミッタと、を有するハイブリッド車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、前記電動機の力行駆動時に、前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出した時、前記電動機の回転数を低減させるよう前記電動機を制御することを特徴とする。
【0007】
また、上記のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置において、前記プラネタリギヤは、エンジンに連結されるキャリアと、前記電動機に連結されるサンギヤと、前記出力軸に連結されるリングギヤとを有し、当該制御装置は、前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出した時、前記電動機の回転数が前記プラネタリギヤの前記サンギヤの回転数となるよう、前記電動機の回転数を低減させることが好ましい。
【0008】
また、上記のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置において、当該制御装置は、前記エンジンの始動時に、前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出した時、前記電動機の回転数を低減させるよう前記電動機を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置によれば、電動機の力行駆動時にトルクリミッタに滑りが発生し、プラネタリギヤが電動機からの駆動力を伝達されなくなって電動機と比べて回転数が低下している状態において、トルクリミッタの滑り発生の検出に応じて、電動機の回転数を低減させ、プラネタリギヤ(サンギヤ)の回転数の遷移方向へ遷移させることができる。これにより、電動機とプラネタリギヤ(サンギヤ)との回転数差が抑制されるので、トルクリミッタの滑りが抑制され、トルクリミッタの再係合が促進できる。この結果、本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置は、トルクリミッタの滑り発生から迅速に回復させることが可能となり、ハイブリッド車両のドライバビリティを向上できると共に、トルクリミッタの滑りによる磨耗を抑制し、耐久性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態の制御装置によるトルクリミッタの滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の一実施形態の制御装置により図2の滑り抑制処理が実施されたときのハイブリッド車両用駆動装置の第1モータジェネレータ及びプラネタリギヤの各ギヤの回転数の関係を示す共線図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態の変形例に係る制御装置によるトルクリミッタの滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0012】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1の制御装置10の概略構成を示す図である。
【0013】
本実施形態に係る制御装置10の制御対象であるハイブリッド車両用駆動装置1(以下「駆動装置」ともいう)は、シリーズパラレル方式のハイブリッド車両に搭載される駆動装置であり、図1に示すように、エンジン2と、第1モータジェネレータ(電動機)3(MG1とも表す)と、エンジン2の出力を第1モータジェネレータ3と出力軸側に分割して伝達する動力分割機構として機能するプラネタリギヤ4と、第1モータジェネレータ3とプラネタリギヤ4との間で過度のトルク伝達を防止するためのトルクリミッタ5とを同軸上に配置する構成をとるものである。
【0014】
また、この駆動装置1は、第2モータジェネレータ(図示せず)を別軸上にさらに備え、この第2モータジェネレータの出力と、上記のプラネタリギヤ4により分割されたエンジン2の出力とが、車輪に連結された出力軸(図示せず)に伝達される構成をとる。
【0015】
なお、第1モータジェネレータ3及び第2モータジェネレータは、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能と、電力を発生させる発電機(ジェネレータ)としての機能とを選択的に作動させることができ、両者の機能はハイブリッド車両の運転状態によって適宜切り替えられるものであるが、主に第1モータジェネレータ3が発電機として機能し、第2モータジェネレータが電動機として機能する。
【0016】
プラネタリギヤ4は、サンギヤS、キャリアC、リングギヤRを備えるシングルピニオン式の遊星歯車機構であり、径方向内側に配置されるサンギヤSと、径方向外側にサンギヤSと同心円状に配置されるリングギヤRとの間にピニオンギヤPが噛合されて配置され、このピニオンギヤPをキャリアCが自転かつ公転自在に連結支持されて構成されている。この駆動装置1では、サンギヤSはトルクリミッタ5を介して第1モータジェネレータ3と連結されている。キャリアCは、エンジン出力軸2aと連結されており、エンジン出力軸2aを介してエンジン2と連結されている。リングギヤRは、カウンタギヤ6等を介して図示しない出力軸と連結されている。
【0017】
トルクリミッタ5は、プラネタリギヤ4と第1モータジェネレータ3との動力伝達経路上に連結され、プラネタリギヤ4と第1モータジェネレータ3との間に配設されている。トルクリミッタ5は、ハブ部材5aと、このハブ部材5aの径方向外側に配置されるドラム部材5bと、ハブ部材5a及びドラム部材5bとを連結する摩擦係合部5cとを備えて構成されている。ハブ部材5aは、プラネタリギヤ4のサンギヤSと連結されており、ドラム部材5bは、第1モータジェネレータ3のロータ軸3aと連結されている。そして、ハブ部材5aとドラム部材5bとが、摩擦係合部5cを介して動力伝達可能に連結されている。
【0018】
トルクリミッタ5の摩擦係合部5cは、ハブ部材5a及びドラム部材5bにそれぞれ複数枚を連結された摩擦板5dを交互に重ねて配置し、皿バネ5e等の押圧手段によって押圧することで、摩擦力によって動力伝達を行うと共に、摩擦係合部5cのトルク容量(限界トルク)を超える所定以上のトルクが伝達されたときに、摩擦板5dの摩擦力に抗ってハブ部材5aとドラム部材5bとを空転(相対回転)させることで、所定以上の過大なトルク伝達を防止するものである。
【0019】
このようなハイブリッド車両用駆動装置1を制御するための制御装置10は、図1に示すように、第1モータジェネレータ3の回転数Nを検出するための回転数センサ7と、エンジン2の回転数Nを検出するためのクランク角センサ8と、第2モータジェネレータの回転数を検出するための回転数センサ9と、第1モータジェネレータ3とに接続されている。そして、回転数センサ7及びクランク角センサ8からの入力に基づきトルクリミッタ5の滑りが発生したことを検出したときに、この滑りを抑制すべく第1モータジェネレータ3へ制御指令を出力するよう構成される。具体的には、制御装置10は、以下に説明するサンギヤ回転数算出部11、滑り検出部12、第1モータジェネレータ制御部13(MG1制御部とも表す)の各機能を実現するよう構成されている。
【0020】
サンギヤ回転数算出部11は、プラネタリギヤ4のサンギヤSの回転数Nを算出する。より詳細には、サンギヤ回転数算出部11は、クランク角センサ8から取得されたエンジン2の回転数N、出力軸の回転数(回転数センサ9から取得された第2モータジェネレータの回転数)、プラネタリギヤ4の各ギヤのギヤ比、プラネタリギヤ4の共線図などの情報に基づいて、サンギヤSの回転数Nを算出し、この回転数Nの情報を滑り検出部12に送信する。
【0021】
滑り検出部12は、トルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出する。具体的には、滑り検出部12は、サンギヤ回転数算出部11により算出されたサンギヤ回転数Nと、回転数センサ7から取得された第1モータジェネレータ3の回転数Nとを比較して、両者が非同一か否かを判別する。滑り検出部12は、サンギヤSの回転数N及び第1モータジェネレータ3の回転数Nが非同一であると判別した場合に、サンギヤSに連結されるハブ部材5aと、第1モータジェネレータ3に連結されるドラム部材5bとが同期しないで回転しており、ハブ部材5aとドラム部材5bとの間に滑りが発生しているものと判断し、トルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出する。滑り検出部12は、トルクリミッタ5の滑り発生を検出した場合には、滑り検出の旨の情報を第1モータジェネレータ制御部13に送信する。
【0022】
なお、回転数センサ7及びクランク角センサ8は、第1モータジェネレータ3の回転数Nとエンジン2の回転数Nを検出する要素の一例であって、他の要素を用いてもよい。
【0023】
第1モータジェネレータ制御部13は、滑り検出部12によるトルクリミッタ5の滑り発生の検出に応じて、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させるよう第1モータジェネレータ3を制御する。より詳細には、第1モータジェネレータ制御部13は、エンジン2の始動時に第1モータジェネレータ3が力行駆動し、エンジン2を始動させるためのスタータとして機能している状態において、トルクリミッタ5の滑り検出に応じて、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させる旨の制御指令を第1モータジェネレータ3に送信するよう構成される。
【0024】
ここで、制御装置10は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などを有する電子制御ユニット(Electronic Control Unit:ECU)である。図1に示す制御装置10の各部の機能は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、CPUの制御のもとで車両内の各種装置を動作させるとともに、RAMやROMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。なお、制御装置10は、上記の各部の機能に限定されず、車両のECUとして用いるその他の各種機能を備えている。また、上記のECUとは、ハイブリッドシステム制御用のハイブリッドECU、エンジン制御用のエンジンECU、モータジェネレータ制御用のモータECUなどの複数のECUを備える構成であってもよい。
【0025】
次に、図2,3を参照して、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1の制御装置10の動作について説明する。
【0026】
図2は、本実施形態の制御装置10によるトルクリミッタ5の滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。図2に示す処理は、制御装置10が、回転数センサ7及びクランク角センサ8などのセンサ類から供給される情報に基づいて、サンギヤ回転数算出部11、滑り検出部12、第1モータジェネレータ制御部13の各機能を実現することにより、実行することができる。また、図2に示す処理は、エンジン始動時に実施され、より詳細には、第1モータジェネレータ3がエンジン2のスタータとして機能して力行駆動し、第1モータジェネレータ3からプラネタリギヤ4のサンギヤSへ動力が付与されて、エンジン2が始動される時点から開始され、例えばエンジン2の回転数Nが所定値に到達するまで、所定間隔ごとに繰り返し実施される。
【0027】
まず、サンギヤ回転数算出部11により、クランク角センサ8から取得されたエンジン2の回転数N、出力軸の回転数(回転数センサ9から取得された第2モータジェネレータの回転数)、プラネタリギヤ4の各ギヤのギヤ比、プラネタリギヤ4の共線図などの情報に基づいて、サンギヤSの回転数Nが算出される(S101)。サンギヤ回転数算出部11は、算出したサンギヤSの回転数Nの情報を滑り検出部12に送信する。なお、サンギヤSに回転数センサなどを設け、サンギヤSの回転数Nを直接検出する構成としてもよい。
【0028】
次に、滑り検出部12により、サンギヤ回転数算出部11で算出されたサンギヤSの回転数Nと、回転数センサ7から取得された第1モータジェネレータ3の回転数Nとが比較され、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが非同一か否かが判定される(S102)。第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが非同一と判定された場合(S102のYES)、サンギヤSに連結されるトルクリミッタ5のハブ部材5aと、第1モータジェネレータ3に連結されるトルクリミッタ5のドラム部材5bとが同期せず回転しており、ハブ部材5aとドラム部材5bとの間に滑りが発生していると判断できる。そこで、この場合、滑り検出部12は、トルクリミッタ5に滑りが発生しているものと判断し、滑り発生を検出した旨の情報を第1モータジェネレータ制御部13に送信して、ステップS103に移行する。
【0029】
一方、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが同一と判定された場合(S102のNO)、トルクリミッタ5のハブ部材5aとドラム部材5bが一体となって同期回転しており、トルクリミッタ5に滑りが発生していないものと判断し、この回の処理を終了する。
【0030】
そして、ステップS102において第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが非同一と判定された場合には、第1モータジェネレータ制御部13により、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させるよう第1モータジェネレータ3が制御される(S103)。なお、第1モータジェネレータ制御部13は、エンジン2の始動時に第1モータジェネレータ3が力行駆動し、エンジン2を始動するためのスタータとして機能している状態であることを条件として、この条件を満たすときに本ステップの処理を行う。
【0031】
図3は、本実施形態の制御装置10により図2の滑り抑制処理が実施されたときのハイブリッド車両用駆動装置1の第1モータジェネレータ3及びプラネタリギヤ4の各ギヤの回転数の関係を示す共線図である。図3に示す各共線図(a)〜(c)では、縦軸は、左から順に第1モータジェネレータ3、プラネタリギヤ4のサンギヤS、キャリアC、リングギヤRの回転数を示しており、横軸よりも上方が正回転、下方が負回転となる。サンギヤS、キャリアC、リングギヤRの回転数は、各共線図(a)〜(c)で、常に直線上に並ぶように連動しながら変化する。
【0032】
また、上述のように、第1モータジェネレータ3とサンギヤSとはトルクリミッタ5を介して連結されているので、トルクリミッタ5が係合している場合には、第1モータジェネレータ3とサンギヤSは一体となって同期回転する。この場合、第1モータジェネレータ3の回転数N及びサンギヤSの回転数Nは同一となり、共線図においては第1モータジェネレータ3とサンギヤSとを結ぶ直線は横軸と平行となる。また、キャリアCはエンジン2と一体となって同期回転するので、キャリアCの回転数はエンジン2の回転数Nと同一である。リングギヤRは出力軸と連動して回転するので、リングギヤRの回転数は出力軸のものと比例関係にある。
【0033】
各共線図(a)〜(c)では、それぞれ破線及び実線の2直線が描画されており、破線、実線の順で時系列の変化を表している。また、共線図(a)→(b)→(c)の順でも時系列の変化を表している。さらに、共線図(a)の実線22及び共線図(b)の破線22、共線図(b)の実線23及び共線図(c)の破線23はそれぞれ同時点の状態を表している。すなわち、図3では、共線図(a)の破線21→共線図(a)の実線22(共線図(b)の破線22)→共線図(b)の実線23(共線図(c)の破線23)→共線図(c)の実線24の順で時系列の変化を表している。
【0034】
なお、図3に示す各共線図(a)〜(c)は、ハイブリッド車両の発進時における、第1モータジェネレータ3及びプラネタリギヤ4の各ギヤの回転数の関係の時系列変化を例示したものであり、リングギヤRは正回転しており、サンギヤS及び第1モータジェネレータ3は負回転している。
【0035】
まず共線図(a)の破線21に示すように、ハイブリッド車両の発進時には、第2モータジェネレータのみが力行駆動し(すなわちリングギヤRが正回転し)、エンジン2は停止している(すなわちキャリアCの回転数は0となる)ので、サンギヤS及び第1モータジェネレータ3は一体となって負回転されている。
【0036】
次に、ハイブリッド車両がある程度の速度で走行しはじめると、共線図(a)の実線22(共線図(b)の破線22)に示すように、第1モータジェネレータ3がエンジン2のスタータとして機能し、第1モータジェネレータ3が力行駆動され、第1モータジェネレータ3の回転数N及びサンギヤSの回転数Nが正回転方向に一体で遷移される。このとき車両の速度は変わらないので、出力軸に連結されるリングギヤRの回転数は一定である。これにより、キャリアCは正回転しはじめ、連結されるエンジン2に駆動力を伝達して、エンジン2が始動される。
【0037】
ここで、エンジン2が始動する際には、エンジン2の回転数Nが共振回転数域を通過することなどにより、エンジン2から過大なトルクが出力される場合がある。この場合、エンジン2からキャリアCを介してサンギヤSに過大なトルクが伝達され、トルクリミッタ5の摩擦係合部5cに滑りが発生して、トルクリミッタ5の係合が解除され、サンギヤSと第1モータジェネレータ3との間の連結が解除される。このとき、サンギヤSには既に第1モータジェネレータ3により正回転方向へ遷移する駆動力が与えられていたので、共線図(b)の実線23(共線図(c)の破線23)に示すように、サンギヤSの回転数Nは、第1モータジェネレータ3との連結解除後もそのまま正回転方向にさらに遷移する。すなわち、サンギヤSの回転数Nは低下する。一方、第1モータジェネレータ3の回転数Nは、トルクリミッタ5の滑り発生前後で変わらない。したがって、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nが相違することとなる。本実施形態の制御装置10の滑り検出部12は、このときにトルクリミッタ5の滑り発生を検出する。
【0038】
そして、共線図(c)の実線24に示すように、本実施形態の制御装置10の第1モータジェネレータ制御部13は、トルクリミッタ5の滑り発生の検出に応じて、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させるよう、すなわち、サンギヤSの回転数Nの遷移と同様に第1モータジェネレータ3の回転数Nを正回転方向に遷移させるよう、第1モータジェネレータ3を制御する。この結果、第1モータジェネレータ3の回転数NがサンギヤSの回転数Nに近づけられ、第1モータジェネレータ3の回転数N及びサンギヤSの回転数Nの差が縮小される。
【0039】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1の制御装置10の効果について説明する。
【0040】
本実施形態の制御装置10では、滑り検出部12が、第1モータジェネレータ3とプラネタリギヤ4との間に連結されたトルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出し、第1モータジェネレータ制御部13が、第1モータジェネレータ3の力行駆動時に、滑り検出部12によるトルクリミッタ5の滑り発生の検出に応じて、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させるよう第1モータジェネレータ3を制御する。
【0041】
この構成により、第1モータジェネレータ3の力行駆動時に滑りが発生し、プラネタリギヤ4が第1モータジェネレータ3からの駆動力を伝達されなくなって第1モータジェネレータ3と比べて回転数Nが低下している状態において、トルクリミッタ5の滑り発生の検出に応じて、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させ、プラネタリギヤ4の回転数(サンギヤSの回転数N)の遷移方向へ遷移させることができる。これにより、第1モータジェネレータ3とプラネタリギヤ4(サンギヤS)との回転数差が縮小されるので、トルクリミッタ5の摩擦係合部5cの滑りが抑制され、トルクリミッタ5の再係合が促進できる。この結果、トルクリミッタ5の滑り発生から迅速に回復させることが可能となり、ハイブリッド車両のドライバビリティを向上できると共に、トルクリミッタ5の滑りによる磨耗を抑制し、耐久性を向上させることができる。また、トルクリミッタ5の耐久性向上により、トルクリミッタ5の部品の小型化、低コスト化が可能となる。
【0042】
ここで、エンジン2の低回転数領域には共振を発生する共振回転数域が存在する。特にエンジン2の始動時には、エンジン回転数Nが低回転で推移するため、このような共振回転数域に滞留する可能性が高く、共振による過大トルクのためにトルクリミッタ5に滑りが発生する可能性が高い。本実施形態の制御装置10では、第1モータジェネレータ制御部13が、エンジン2の始動時に、滑り検出部12によるトルクリミッタ5の滑り発生の検出に応じて、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させるよう第1モータジェネレータ3を制御する。
【0043】
この構成により、トルクリミッタ5の滑りが発生する可能性の高いエンジン始動時に絞って、第1モータジェネレータ3の回転数制御を実行させることができるので、制御装置10の計算負荷を低減させることができる。また、特許文献1に開示される、トルクリミッタの滑り発生時にエンジンの出力トルクを低減させることで滑りを抑制させる従来技術では、エンジン始動時のようにエンジンを自由に制御することができない状況では滑りを抑制させることが困難であったが、本実施形態の制御装置10では、トルクリミッタ5の滑り発生時に、エンジン2ではなく第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させる制御を行うので、エンジン始動時でもトルクリミッタ5の滑りを好適に抑制させることが可能となる。
【0044】
次に、図4を参照して、本実施形態の変形例について説明する。上記実施形態では、第1モータジェネレータ制御部13は、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させるよう第1モータジェネレータ3を制御していたが、この代わりに、第1モータジェネレータ3の回転数Nが、プラネタリギヤ4のサンギヤSの回転数Nとなるよう、第1モータジェネレータ3の回転数Nを低減させるよう構成してもよい。
【0045】
この場合、上記実施形態で図2を参照して説明した、トルクリミッタ5の滑り発生時の滑り抑制処理は、図4に示すフローチャートに従って実施される。図4は、本実施形態の変形例に係る制御装置10によるトルクリミッタ5の滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。なお、図4に示すフローチャートのステップS101,S102は、図2に示したフローチャートのステップS101,102と同様であるので説明を省略する。
【0046】
ステップS102において第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが非同一と判定された場合には、第1モータジェネレータ制御部13により、第1モータジェネレータ3の回転数NがサンギヤSの回転数Nとなるよう、第1モータジェネレータ3が制御される(S203)。第1モータジェネレータ制御部13は、例えば、サンギヤSの回転数Nを目標値として、第1モータジェネレータ3の回転数Nをフィードバック制御することで、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nと一致させることができる。
【0047】
このような構成により、トルクリミッタ5の滑り発生に応じて、第1モータジェネレータ3の回転数NがサンギヤSの回転数Nとなるよう制御されるため、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとの差を速やかに低減させることが可能となる。この結果、トルクリミッタ5が再係合する際に、サンギヤSに連結されるハブ部材5aと、第1モータジェネレータ3に連結されるドラム部材5bとの間の回転数差がより一層低減され、トルクリミッタ5の再係合時のショック(イナーシャトルク)を低減させることができ、車室内へのショックを低減してハイブリッド車両のドライバビリティをより一層向上させることができる。
【0048】
ここで、第1モータジェネレータ3の回転数Nを必要以上に低減させてしまうと、第1モータジェネレータ3の発電電力が低下し、主に電動機として機能する第2モータジェネレータを駆動させる電力をまかなえなくなる場合がある。ハイブリッド車両用駆動装置1のバッテリ(図示せず)から電力を持ち出すことによる電気系効率の低下や、第2モータジェネレータの出力が制限されることによるドライバビリティの悪化が生じる虞がある。本実施形態の変形例の構成によれば、サンギヤSの回転数Nと一致させるよう制御することにより、第1モータジェネレータ3の回転数Nを必要以上に低減させることがないので、第1モータジェネレータ3の発電電力を確保でき、電気系効率低下やドライバビリティ悪化を防ぐことができる。
【0049】
以上、本発明について好適な実施形態を示して説明したが、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。上記実施形態では、第1モータジェネレータ制御部13は、エンジン2の始動時に第1モータジェネレータ3の回転数制御を実施していたが、上記実施形態の回転数制御は第1モータジェネレータ3の力行駆動時であれば実施可能である。例えば、ハイブリッド車両用駆動装置1による回生ブレーキ制動時には、第2モータジェネレータが回生駆動されて発電機として機能し、この第2モータジェネレータから提供される電力により第1モータジェネレータ3が力行駆動される場合があるが、このような場合でも上記実施形態の回転数制御を実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 ハイブリッド車両用駆動装置
2 エンジン
3 第1モータジェネレータ(電動機)
4 プラネタリギヤ
C キャリア
P ピニオンギヤ
R リングギヤ
S サンギヤ
5 トルクリミッタ
10 制御装置
12 滑り検出部
13 第1モータジェネレータ制御部
第1モータジェネレータの回転数(電動機の回転数)
サンギヤの回転数


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、電動機、及び出力軸に連結され、前記エンジンの動力を前記電動機及び前記出力軸に分配するプラネタリギヤと、前記電動機と前記プラネタリギヤとの間に連結されたトルクリミッタと、を有するハイブリッド車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、
前記電動機の力行駆動時に、前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出した時、前記電動機の回転数を低減させるよう前記電動機を制御する
ことを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記プラネタリギヤは、エンジンに連結されるキャリアと、前記電動機に連結されるサンギヤと、前記出力軸に連結されるリングギヤとを有し、
当該制御装置は、前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出した時、前記電動機の回転数が前記プラネタリギヤの前記サンギヤの回転数となるよう、前記電動機の回転数を低減させることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
当該制御装置は、前記エンジンの始動時に、前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出した時、前記電動機の回転数を低減させるよう前記電動機を制御することを特徴とする、請求項1または2に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−254733(P2012−254733A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129342(P2011−129342)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】