ハニカム体及びその製造方法
【課題】軽量及び低圧損でありながら、優れた強度を発揮することができるハニカム体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁11と、このセル壁11に区画された多数のセル12とを有するハニカム体基材10のセル壁11に、アルミナを主成分とするコート材15を被覆してなるハニカム体1及びその製造方法である。ハニカム体基材10の気孔率は45%以上かつ70%未満であり、セル壁11の厚みは90μm以下である。ハニカム体1が単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.02cm3/g以下である。ハニカム体の製造にあたっては、ハニカム体基材10との接触角が50°以下のコート材スラリーを用いる。
【解決手段】コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁11と、このセル壁11に区画された多数のセル12とを有するハニカム体基材10のセル壁11に、アルミナを主成分とするコート材15を被覆してなるハニカム体1及びその製造方法である。ハニカム体基材10の気孔率は45%以上かつ70%未満であり、セル壁11の厚みは90μm以下である。ハニカム体1が単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.02cm3/g以下である。ハニカム体の製造にあたっては、ハニカム体基材10との接触角が50°以下のコート材スラリーを用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関から排出されるガスを浄化する排ガス浄化触媒装置に用いられるハニカム体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの排ガス浄化触媒を担持するための触媒担体として、コージェライトハニカム体基材が広く使用されている。ハニカム体基材は、通常、タルク、カオリン、アルミナ等を出発原料とし、これらコージェライト化原料を所望のコージェライト組成となるように調合し、所望のハニカム形状に成形した後、焼成することにより製造される。そして、ハニカム体基材に、γアルミナ等からなるコート材や排ガス浄化触媒を担持させたハニカム体が排ガスの浄化に用いられる。
【0003】
ハニカム体には、浄化性能の向上、軽量化、及び低圧損化が要求されており、これに伴い、近年、ハニカム体基材のセル壁の薄肉化及び高気孔率化が進んでいる(特許文献1及び2参照)。
ところが、セル壁を薄くしたり、気孔率を高くしたりすると、ハニカム体の強度が低下するという問題がある。そのため、この強度低下を防止する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−52750号公報
【特許文献2】特許第4393199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法による高強度化は十分ではなく、さらに有効な別の解決方法が模索されていた。
上記ハニカム体は、排ガスの浄化に用いられる際には、ハニカム体1の外周に例えばアルミナ繊維等からなるセラミック繊維マット21を巻き付け、ステンレス等からなる筒状ケース22に圧入して用いられる(図13参照)が、このとき、ハニカム体1には全方位から外力がかかるため、その強度が不十分な場合には、破壊が起るおそれがある。特に、高気孔率でかつセル壁厚さの小さいハニカム体においては、強度が不十分になりやすく破壊が起りやすい。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、軽量及び低圧損でありながら、優れた強度を発揮することができるハニカム体及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0007】
第1の発明は、コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム体基材の上記セル壁に、アルミナを主成分とするコート材を被覆してなるハニカム体において、
上記ハニカム体基材の気孔率は45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みは90μm以下であり、
上記ハニカム体が単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.02cm3/g以下であることを特徴とするハニカム体にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、第1の発明のハニカム体を製造する方法であって、
コージェライト化原料を準備する原料準備工程と、
上記コージェライト化原料を押出成形してハニカム成形体を得る押出成形工程と、
上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム体基材を得る焼成工程と、
上記ハニカム体基材の上記セル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させて上記セル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることにより上記ハニカム体を得る被覆工程とを有し、
該被覆工程においては、上記コート材スラリーとして、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用し、乾燥後の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることを特徴とするハニカム体の製造方法にある(請求項5)。
【発明の効果】
【0009】
本発明のハニカム体においては、気孔率が45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みが90μm以下の上記ハニカム体基材が採用されており、軽量化及び低圧損化を図ることができる。かかるハニカム体基材においては、一般にセル壁の強度が問題となるが、本発明のハニカム体においては、上記ハニカム体基材アルミナを主成分とするコート材を被覆してなり、上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にしてある。そのため、十分に優れた強度を示すことができる。したがって、上記ハニカム体を例えばステンレス等からなる筒状ケースに圧入しても、上記ハニカム体に破壊が起ることを防止することができる。
【0010】
即ち、本願発明者らは、ハニカム体の圧入時における破壊に着目したところ、破壊は細孔径が大きな細孔を起点にして発生する点に着目し、気孔率を大きくし、セル壁厚みを小さくしても、細孔径の大きな細孔が少なければ強度が向上し、圧入時の破壊を防止できることを見出した。
本発明のハニカム体においては、細孔径40μm以上の粗大な細孔の細孔量(粗大細孔量)を0.02cm3/g以下にしてあるため、気孔率45%以上かつ70%未満、セル壁厚み90μm以下という軽量化に対応したハニカム体基材を採用しても、強度が十分に向上し、例えば筒状ケースへの圧入時の破壊の発生を防止することができる。特に、ハニカム体の横断面に平行でかつセル壁に対して垂直な方向に荷重を負荷したときの破壊強度であるB軸強度を向上させることができる。
【0011】
このように、上記第1の発明によれば、軽量及び低圧損でありながら、優れた強度を発揮することができるハニカム体を提供することができる。
【0012】
第2の発明においては、上記原料準備工程と上記押出成形工程と上記乾燥工程と上記焼成工程と上記被覆工程とを行うことにより上記ハニカム体を製造する。
上記第2の発明の製造方法において最も注目すべ点は、上記被覆工程において、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有し、上記セル壁との接触角が50°以下の上記コート材スラリーを採用する点にある。
【0013】
そのため、上記被覆工程において、上記コート材スラリーを上記ハニカム体基材の上記セル壁に接触させると、該セル壁の細孔内に上記コート材スラリーが侵入し易くなり、上記コート材スラリーを上記セル壁の細孔内に含浸させることができる。それ故、乾燥後に、粗大な細孔がアルミナで塞がれ、細孔径40μm以上の粗大な細孔量の量を減らすことができる。
【0014】
その結果、ハニカム体基材の気孔率を45%以上かつ70%未満とし、上記セル壁厚みを90μm以下としても、粗大細孔量が0.02cm3/g以下であるハニカム体を製造することができる。即ち、軽量及び低圧損でありながら、優れた強度を発揮できるハニカム体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例における、ハニカム体の全体構造を示す説明図。
【図2】実施例における、ハニカム体の端面を拡大して示した説明図。
【図3】実施例における、コート材がセル壁に担持されたハニカム体(試料X6)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(a)、コート材がセル壁に担持されたハニカム体(試料X3)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(b)。
【図4】実施例における、水銀ポロシメータによる細孔容積の測定原理を示す説明図。
【図5】実施例における、接触角を示す説明図。
【図6】実施例における、ハニカム体(試料X1〜試料X9)について、粗大細孔量とB軸強度との関係を示す説明図。
【図7】実施例における、ハニカム体(試料X10〜試料X18)について、粗大細孔量とB軸強度との関係を示す説明図
【図8】実施例における、ハニカム体(試料X19〜試料X27)について、粗大細孔量とB軸強度との関係を示す説明図
【図9】実施例における、断面六角形状のセルにおけるB軸方向を示す説明図(a)、断面四角形状のセルにおけるB軸方向を示す説明図(b)。
【図10】断面四角形状のセルを有する従来の一般的なハニカム体の全体構造を示す説明図。
【図11】ハニカム体の端面風食を示す説明図。
【図12】断面四角形状のセルを示す説明図。
【図13】実施例にかかる、セラミック繊維マットを巻き付けたハニカム体を筒状ケースに圧入する様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記ハニカム体は、コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム体基材の上記セル壁に、アルミナを主成分とするコート材を被覆してなる。
上記ハニカム体基材は、気孔率が45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みが90μm以下である。上記セル壁の気孔率は水銀圧入法により測定することができる。また、上記セル壁の厚みは光学顕微鏡を用いて測定することができる。
【0017】
気孔率が45%未満の場合には、上記ハニカム体の軽量化が困難になったり、浄化性能が悪化したりするおそれがある。一方、気孔率が70%以上の場合には、上記セル壁の強度を保つことが困難になるおそれがある。気孔率は60%以下が好ましい。
また、上記セル壁の厚みが90μmを超える場合には、上記ハニカム体の軽量化が困難になるおそれがある。また、上記セル壁の強度を保つという観点から、上記セル壁の厚みは50μm以上がよい。
【0018】
また、上記ハニカム体は、上記粗大細孔量が0.02cm3/g以下である。粗大細孔量は、ハニカム体の単位重量あたりに存在する細孔のうち、細孔径40μm以上の粗大な細孔の容積の合計量であり、水銀圧入法により測定することができる。
粗大細孔量が0.02cm3/gを超える場合には、上記セル壁の強度が不十分になるおそれがある。好ましくは粗大細孔量は0.008cm3/g以下がよい。
【0019】
また、上記ハニカム体基材においては、上記セルのピッチ幅が1.11mm以下であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記ハニカム体内におけるセル数が増大し、上記ハニカム体の表面積を大きくすることができると共に、セル壁が多くなり上記ハニカム体の強度を向上させることができる。ピッチ幅が1.11mmを超える場合には、上述の効果が得られなくなるおそれがある。
【0020】
また、一般に、ハニカム体9を排ガス流路に配置した場合には、排気管表面の溶接付着物等が排ガスによって飛散して飛散物99となり、該飛散物99がハニカム体9の端面90に衝突し、端面90を破壊する端面風食という現象が起こるおそれがある(図10及び図11参照)。端面風食は、セル壁91の薄肉化及び高気孔率化によって顕著になってしまう。特に気孔率を例えば45%以上に高くすると端面風食が発生し易くなる。
この端面風食を抑制するという観点からも、本発明のように、粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることが重要である。
さらに、上記ハニカム体において、上記セル壁は六角形格子状に配されていることが好ましい(請求項3)。
この場合には、四角形格子状に配した場合に比べてセル1辺の長さが短く(0.62倍)なるため、上述の端面風食で発生するストレスをより小さくすることができる。それ故、端面風食の発生をより抑制することができる。
【0021】
具体的には、セル壁11の交点が支持点になると仮定すると、セル壁11が六角形格子状に配されてなる六角形状のセル12は、セル壁11が四角格子状に配されてなる四角形状のセル125に比べて1辺の長さaが短くなるため、支点からの曲げモーメントが小さくなる(図2及び図12参照)。したがって、飛来物等によって起る端面風食の発生を抑制することができる。
表1に、セル数600〜1200個のハニカム体について、六角形状セル12と四角形状セル125について、ピッチ幅Aとセル1辺の長さaをそれぞれ示す。
なお、表1に示すピッチ幅A及びセル1辺の長さaについては、セル壁11の厚みを二等分する位置を基点にしてある。
【0022】
【表1】
【0023】
次に、上記ハニカム体においては、平均細孔径が2〜13μmであることが好ましい(請求項4)。
平均細孔径が2μm未満の場合には、上記コート材の被覆時に上記コート材が上記ハニカム体基材の細孔内部に染み込み難くなるため、アンカー効果が低くなり上記コート材が剥離するおそれがある。一方、13μmを超える場合には、上記ハニカム体基材を粒子径の大きな粗大な原料粉末を使用して作製する必要があり、90μm以下という小さな厚みの上記セル壁を形成することが困難になるおそれがある。粗大な原料粉末から厚みの小さなセル壁を形成しようとすると、金型スリットへの原料粉末の詰りなどが発生し経済的な製造ができなくなるおそれがある。
【0024】
次に、本発明の製造方法においては、上記のごとく、上記原料準備工程と上記押出成形工程と上記乾燥工程と上記焼成工程と上記被覆工程とを行う。
上記原料準備工程においては、コージェライト化原料を準備する。
上記コージェライト化原料は、例えばタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム等を混合することにより得ることができる。
上記ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、及び粗大細孔量は、コージェライト原料の平均粒子径や、必要に応じて添加する有機発泡剤の添加量により制御することができる。また、後述の焼成工程における温度1250〜1400℃の昇温速度を調整することにより制御することができる。
【0025】
また、上記押出成形工程においては、上記コージェライト化原料を所望の多角形格子状に押出成形してハニカム成形体を得る。また、押出成形後に切断を行うことにより、容易に所望の寸法のハニカム成形体を得ることができる。押出成形を行うことにより、連続成形が可能であると共に、コージェライト結晶を配向させやすくすることができる。
【0026】
上記乾燥工程においては、上記ハニカム成形体を乾燥させる。
上記乾燥工程は、上記ハニカム成形体中の水分等を蒸発させるために行われる。上記乾燥工程は、例えば熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等により実施することができる。これらの中でも、全体を迅速かつ均一に乾燥できるという観点から、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせて乾燥工程を実施することが好ましい。
また、上記乾燥工程は、例えば温度80℃〜120℃で加熱することにより行うことができる。加熱時間はハニカム成形体の大きさなどに合わせて適宜調整することができる。
【0027】
また、上記焼成工程においては、上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム体基材を得る。
焼成温度及び時間は、コージェライトの組成及びハニカム成形体の大きさなどによって適宜変更することができる。例えば焼成温度1380〜1425℃で4〜10時間の焼成を行うことができる。
好ましくは焼成温度は1350℃以上がよく、より好ましくは1400℃以上がよい。1350℃未満の場合には、コージェライトの生成が十分に進行し難くなるおそれがある。
【0028】
次に、上記被覆工程においては、上記ハニカム体基材の上記セル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させて上記セル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることにより上記ハニカム体を得る。
上記ハニカム体基材の上記セル壁と上記コート材スラリーとの接触は、具体的には例えば上記コート材スラリー中に上記ハニカム体基材を浸漬することにより実現することができる。
また、上記コート材スラリーは、水等の分散媒にアルミナ粉末、及び分散剤等を混合して作製することができる。
【0029】
上記アルミナ粉末としては、平均粒子径1〜8μmの粉末を採用する。
上記アルミナ粉末の平均粒子径が8μmを超える場合には、上記セル壁の細孔内にアルミナ粒子が侵入し難くなるおそれがある。その結果、0.02cm3/g以下にまで粗大細孔量を小さくすることが困難になるおそれがある。好ましくは、上記アルミナ粉末の平均粒子径は5μm以下がよく、より好ましくは3μm以下がよい。
また、製造コストという観点から、上記アルミナ粉末の平均粒子径は1μm以上がよい。
上記アルミナ粉末としては、γアルミナ及び/又はθアルミナを採用することができる。
【0030】
また、上記コート材スラリーとしては、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用する。
接触角が50°を超える場合には、上記ハニカム体基材の上記セル壁に上記コート材スラリーを接触させたときに、該コート材スラリーが上記セル壁の細孔内に侵入し難くなる。その結果、粗大な細孔を十分に上記コート材で埋めることができなくなり、上記ハニカム体の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることが困難になるおそれがある。好ましくは、接触角は40°以下がよく、より好ましくは30°以下がよい。
【0031】
上記コート材スラリーと上記セル壁との接触角は、アルミナ粉末の平均粒子径、配合量、分散剤の種類、及び分散剤の配合量等を調整することにより制御することができる。接触角は、コート材スラリー300を、ハニカム体基材10に滴下したときの接触角θである(図5参照)。
【0032】
また、上記被覆工程においては、上記アルミナ粉末の他に、貴金属粉末等からなる排ガス浄化触媒を上記コート材スラリーに混合することができる。
この場合には、アルミナだけでなく排ガスに対する浄化性能を示す触媒を担持した上記ハニカム体を製造することができる。
【0033】
上記ハニカム体は、ステンレス等からなる筒状体に圧入して用いられ、自動車等の排ガス管の途中に配置し、排ガスの浄化用に用いることができる。特に、上記ハニカム体は、上記セルがハニカム体基材の両端において開口し、Pt、Pd、Rh等を含有する三元触媒が上記コート材と共に担持された状態で用いられることが好ましい。この場合には、ガソリンエンジンの排ガス浄化に好適である。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
次に、本発明のハニカム体の実施例及び比較例につき図を用いて説明する。
図1、図2、及び図3(a)に示すごとく、本例のハニカム体1は、コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁11と、セル壁11に区画された多数のセル12とを有するハニカム体基材10のセル壁11に、アルミナを主成分とするコート材15を被覆してなる。
【0035】
本例においては、セル壁11は、正六角形格子状に配設されており、セル12は円柱状のハニカム体1の軸方向と垂直な断面又はハニカム体1の端面100において正六角形状となる。また、セルピッチ(図2における幅A)は1.11mmであり、ハニカム体1は全体として円柱形状を有する。また、ハニカム体1は、多孔質体であり多数の細孔110を有している(図3(a)参照)。
【0036】
ハニカム体基材10においては、気孔率は45%以上で、セル壁11の厚みは90μm以下である。
また、実施例にかかるハニカム体1においては、単位重量あたりにハニカム体1が有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の量(粗大細孔量)が0.02cm3/g以下である。
【0037】
ハニカム体1は、原料準備工程と押出成形工程と乾燥工程と焼成工程と被覆工程とを行うことにより製造する。
原料準備工程においては、コージェライト化原料を準備する。
押出成形工程においは、コージェライト化原料を多角形格子状(本例においては六角形格子状)に押出成形してハニカム成形体を得る。
乾燥工程においては、ハニカム成形体を乾燥させる。
【0038】
焼成工程においては、ハニカム成形体を焼成してハニカム体基材を得る。
被覆工程においては、ハニカム体基材のセル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させてセル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることによりハニカム体を得る。
本発明の実施例にかかるハニカム体の製造にあたっては、上記被覆工程において、上記コート材スラリーとして、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用し、乾燥後の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にする。
【0039】
本例においては、本発明の実施例及び比較例にかかる27種類のハニカム体(試料X1〜試料X27)を作製する。
代表例として試料X6の製造方法について具体的に説明する。
【0040】
即ち、まず、平均粒子径14μmのタルク35.7質量部、溶融シリカ19.1質量部、及び水酸化アルミニウム45.2質量部を混合し、この混合粉100質量部に対して水を28質量部、有機バインダー5.5質量部、潤滑剤3.0質量部を添加した。そして、ニーダーで混練した後、目開き150μmのスクリュー式混練機にて、混練・濾過を行い、コージェライト化原料を得た(原料準備工程)。
【0041】
次に、縦型プランジャー押出機を用いて、コージェライト化原料(坏土)を成形し、直径100mm、長さ100mm、セル壁厚さ90μm、セルピッチ1.11mm、セル形状六角形のハニカム成形体を得た(押出成形工程)。なお、上述の成形体の長さは、後述の乾燥工程後に両端を切断した後の寸法である。
【0042】
次に、ハニカム成形体の水分を十分に除去するまで乾燥した(乾燥工程)。
次いで、ハニカム成形体を焼成温度1420℃で20時間焼成し、ハニカム体基材を得た(焼成工程)。焼成工程においては、室温から焼成温度(最高温度)1420℃まで昇温させる際に、温度1250〜1400℃における昇温速度を45℃/hに設定した。
【0043】
次に、得られたハニカム体基材の気孔率及び平均細孔径を、銀圧入法の原理を利用した水銀ポロシメータを用いて測定した。
水銀ポロシメータは固体中の細孔の大きさ(細孔径)や、その容積を測定することによって、その固体の物理的形状の情報を得ようとするものである。その原理は、ほとんどの物質と反応せず、漏れもない水銀を固体の細孔中へ圧入し、そのときに加えた圧力と、押し込まれた(侵入した)水銀容積の関係を測定することに基づく。もちろんその前に固体細孔中の空気などの気体は、完全に脱気されている必要がある。
加えられた圧力と、その圧力で水銀が侵入可能な細孔径の関係は、下記の式(1)に示すWashburnの式で導かれる。
D=−4γcosθ/P・・・(1)
【0044】
式(1)において、Pは加える圧力、Dは細孔径、γは水銀の表面張力(480dyne cm-1)、θは水銀と細孔壁面の接触角で通常140°である。γ、θは定数であるから、Washburnの式から、加えた圧力Pと細孔径Dの関係が求められ、その時の侵入容積を測定することにより、細孔径とその容積分布が導かれる。
【0045】
そして、図4に示すように、水銀5を充填した試料セル6を高圧容器7内でP0<P1<P2<P3の順に加圧すると、水銀5はハニカム体1の大きな細孔から小さな細孔へと順に侵入していく。
このように、水銀圧入法においては、水銀がハニカム体の気孔に進入する際の圧力から細孔径を求め、また細孔に入った水銀の容積から細孔容積を求めることができる。
【0046】
本例においては、上述の水銀圧入法の原理に基づいた水銀ポロシメータとして、(株)島津製作所製のオートポアIV9500を採用した。測定にあたっては、ハニカム体の細孔への水銀の圧入時における接触角を140°、表面張力を480dynes/cm、圧力を0.0045〜420MPaに設定した。また、測定ステップ(μm)を、200、150、70、40、20、10、5.0、2.0、1.0、0.5、0.1、0.05、0.03に設定した。なお、この測定ステップは、細孔径のことである。
このようにして、ハニカム体基材について細孔径とその容積分布が得られる。
気孔率は、全細孔容積÷(全細孔容積+1/2.52)×100という式に基づいて算出した。その結果を表2に示す。
【0047】
次に、平均粒子径1.5μmのγアルミナ粉末150gと、分散剤(サンノプコ(株)製の「SNディスパーサント5468」)0.15gとを純水に添加し、ハニカム体基材に対する接触角が50°以下のコート材スラリーを作製した。接触角は、水分量、分散剤の量及び種類を変えて微調整した。接触角は、図5に示すごとく、コート材スラリー300をハニカム体基材10に滴下し、接触角θを測定することにより計測できる。
分散剤としては、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸重合体、ポリアクリル酸アンモニウム、及びポリアクリル酸ソーダなどから選ばれる1種以上等を用いることもできる。
【0048】
次に、コート材スラリー中に、上述のようにして作製したハニカム体基材を繰り返し浸漬し、コート材スラリー中に含まれる全量(150g)のγアルミナ粉末(コート材)をハニカム体基材に付着させた。その後、乾燥させて十分に水分を除去し、ハニカム体基材にコート材を被覆させたハニカム体(試料X6)を得た。
このハニカム体のセル壁の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)を図3(a)に示す。
【0049】
次に、このハニカム体について、粗大細孔量を測定した。
粗大細孔量(cm3/g)は、上述の水銀ポロシメータ((株)島津製作所製のオートポアIV9500)を用いた気孔率の測定方法と同様にして、細孔径とその容積分布を測定し、細孔径40μm以上の粗大な細孔の細孔容積(単位重量あたり)の合計から求めた。その結果を表2に示す。
【0050】
また、本例においては、上述の試料X6の製造条件とは、ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、アルミナ粉末の平均粒子径、コート材スラリーの接触角、粗大細孔量等を変えて、さらに8種類のハニカム体(試料X1〜試料X5、及び試料X7〜試料X9)を作製した(表2参照)。これらの試料は、後述の表2に示す変更点を除いては、上記試料X6と同様にして作製した。
【0051】
上記試料X1〜試料X9は、気孔率を約45%に設定したハニカム体基材を用いて作製したハニカム体である(表2参照)。次いで、本例においては、気孔率を約50%に設定したハニカム体基材を用いてさらに9種類のハニカム体(試料X10〜試料X18)を作製した。さらに、気孔率を約60%に設定したハニカム体基材を用いてさらに9種類のハニカム体(試料X19〜試料X27)を作製した。
ハニカム体基材の気孔率は、コージェライト原料の平均粒子径や、有機発泡剤の添加量、及び焼成時の温度1250〜1400℃における昇温速度を制御することにより調整した。
【0052】
試料X10〜試料X18について、ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、アルミナ粉末の平均粒子径、コート材スラリーの接触角、及び粗大細孔量を後述の表3に示す。
また、試料X19〜試料X27について、ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、アルミナ粉末の平均粒子径、コート材スラリーの接触角、及び粗大細孔量を後述の表4に示す。
【0053】
次に、本例において作製した27種類のハニカム体(試料X1〜試料X27)について、そのB軸強度を測定した。B軸強度は、ハニカム体の横断面に平行でかつセル壁に対して垂直な方向に荷重を負荷したときの破壊強度である。
本例においては、上述のように、断面六角形状のセル12を有するハニカム体1(図1及び図2参照)を作製した。したがって、B軸強度の測定にあたっては、図9に示すごとく、ハニカム体におけるセル12の伸長方向(図9における紙面と垂直方向)に垂直で、かつ断面六角形状のセル12の対向する一対の辺(セル壁11)に対して垂直な方向(B軸方向19)にかかる圧縮荷重に対する強度(B軸強度)を測定した(図9(a)参照)。なお、断面四角形状のセルの場合においても同様で、セル12の伸長方向(図9における紙面と垂直方向)に垂直で、かつセル12の対向する一対の辺(セル壁11)に対して垂直な方向がB軸方向19となる(図9(b)参照)。
【0054】
具体的には、オートグラム((株)島津製作所製の「AG−IS」)を用い、ハニカム体のB軸方向に圧縮荷重を徐々に大きくしながら加え、ハニカム体が破壊するまでの最大荷重を求めた。そして、B軸強度(MPa)は、最大荷重をセル面積で除することにより得られる。試料X1〜試料X8のB軸強度の結果を表2に示し、試料X9〜試料X18のB軸強度の結果を表3に示し、試料X19〜試料X27のB軸強度の結果を表4に示す。
また、B軸強度と粗大細孔量との関係を、試料X1〜試料X8については図6に、試料X9〜試料X18については図7に、試料X19〜試料X27については図8に示す。図6〜図8において、横軸はハニカム体の粗大細孔量(cm3/g)を示し、縦軸はハニカム体のB軸強度(MPa)を示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
表2〜表4及び図6〜図8より知られるごとく、気孔率45%以上、セル壁の厚み90μm以下という軽量及び低圧損化に対応したハニカム体基材を用いた場合において、アルミナを担持させた後のハニカム体の粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることにより、ハニカム体のB軸強度を向上できることがわかる(試料X4〜7、試料X9、試料X13〜試料X16、試料X18、試料X22〜試料X25、及び試料X27参照)。そのため、図13に示すごとく、ハニカム体1(試料X4〜7、試料X9、試料X13〜試料X16、試料X18、試料X22〜試料X25、及び試料X27参照)の外周にアルミナ繊維等からなるセラミック繊維マット21を巻き付け、これをステンレス等からなる筒状ケース22に圧入しても、ハニカム体1に破壊が起ることを防止することができる。
これに対し、粗大細孔量0.02cm3/gを超えるハニカム体(試料X1〜試料X3、試料X8、試料X10〜試料X12、試料X17、試料X19〜試料X21、及び試料X26)は、B軸強度が不十分であった。
【0059】
また、図6〜図8より知られるごとく、粗大細孔量を小さくすることにより、B軸強度をより向上できることがわかるが、特に0.02cm3/g以下にすることにより、B軸強度が顕著に向上することがわかる。
表2〜4より知られるごとく、粗大細孔量0.02cm3/g以下のハニカム体は、被覆工程において、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有し、接触角50°以下のコート材スラリーを採用することにより作製することができる。
【0060】
また、図3(a)に試料X6のハニカム体におけるセル壁11のSEM写真を示したが、図3(b)に、試料X3のハニカム体におけるセル壁11のSEM写真(倍率1000倍)を示す。
図3(a)及び(b)を比較すると試料X6においては、試料X3よりも、コート材15が小さな厚みでハニカム体基材10に被覆していることがわかる。これは、試料X6においては、試料X3よりも十分に接触角の小さなコート材スラリーを採用したため、ハニカム体基材10の細孔110内にアルミナ粉末が入り込み易くなったためであると考えられる。被覆工程において平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有し、接触角50°以下のコート材スラリーを採用することにより、例えば厚み10〜20μmという小さな厚みでコート材を被覆させることが可能になる。
【0061】
以上のように、気孔率45%以上かつ70%未満で、セル壁の厚み90μm以下でのハニカム体基材にコート材を被覆したハニカム体においては、その単位重量あたりの細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることにより、強度を顕著に向上できることがわかる。
【符号の説明】
【0062】
1 ハニカム体
10 ハニカム体基材
11 セル壁
12 セル
15 コート材
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関から排出されるガスを浄化する排ガス浄化触媒装置に用いられるハニカム体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの排ガス浄化触媒を担持するための触媒担体として、コージェライトハニカム体基材が広く使用されている。ハニカム体基材は、通常、タルク、カオリン、アルミナ等を出発原料とし、これらコージェライト化原料を所望のコージェライト組成となるように調合し、所望のハニカム形状に成形した後、焼成することにより製造される。そして、ハニカム体基材に、γアルミナ等からなるコート材や排ガス浄化触媒を担持させたハニカム体が排ガスの浄化に用いられる。
【0003】
ハニカム体には、浄化性能の向上、軽量化、及び低圧損化が要求されており、これに伴い、近年、ハニカム体基材のセル壁の薄肉化及び高気孔率化が進んでいる(特許文献1及び2参照)。
ところが、セル壁を薄くしたり、気孔率を高くしたりすると、ハニカム体の強度が低下するという問題がある。そのため、この強度低下を防止する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−52750号公報
【特許文献2】特許第4393199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法による高強度化は十分ではなく、さらに有効な別の解決方法が模索されていた。
上記ハニカム体は、排ガスの浄化に用いられる際には、ハニカム体1の外周に例えばアルミナ繊維等からなるセラミック繊維マット21を巻き付け、ステンレス等からなる筒状ケース22に圧入して用いられる(図13参照)が、このとき、ハニカム体1には全方位から外力がかかるため、その強度が不十分な場合には、破壊が起るおそれがある。特に、高気孔率でかつセル壁厚さの小さいハニカム体においては、強度が不十分になりやすく破壊が起りやすい。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、軽量及び低圧損でありながら、優れた強度を発揮することができるハニカム体及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0007】
第1の発明は、コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム体基材の上記セル壁に、アルミナを主成分とするコート材を被覆してなるハニカム体において、
上記ハニカム体基材の気孔率は45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みは90μm以下であり、
上記ハニカム体が単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.02cm3/g以下であることを特徴とするハニカム体にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、第1の発明のハニカム体を製造する方法であって、
コージェライト化原料を準備する原料準備工程と、
上記コージェライト化原料を押出成形してハニカム成形体を得る押出成形工程と、
上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム体基材を得る焼成工程と、
上記ハニカム体基材の上記セル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させて上記セル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることにより上記ハニカム体を得る被覆工程とを有し、
該被覆工程においては、上記コート材スラリーとして、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用し、乾燥後の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることを特徴とするハニカム体の製造方法にある(請求項5)。
【発明の効果】
【0009】
本発明のハニカム体においては、気孔率が45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みが90μm以下の上記ハニカム体基材が採用されており、軽量化及び低圧損化を図ることができる。かかるハニカム体基材においては、一般にセル壁の強度が問題となるが、本発明のハニカム体においては、上記ハニカム体基材アルミナを主成分とするコート材を被覆してなり、上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にしてある。そのため、十分に優れた強度を示すことができる。したがって、上記ハニカム体を例えばステンレス等からなる筒状ケースに圧入しても、上記ハニカム体に破壊が起ることを防止することができる。
【0010】
即ち、本願発明者らは、ハニカム体の圧入時における破壊に着目したところ、破壊は細孔径が大きな細孔を起点にして発生する点に着目し、気孔率を大きくし、セル壁厚みを小さくしても、細孔径の大きな細孔が少なければ強度が向上し、圧入時の破壊を防止できることを見出した。
本発明のハニカム体においては、細孔径40μm以上の粗大な細孔の細孔量(粗大細孔量)を0.02cm3/g以下にしてあるため、気孔率45%以上かつ70%未満、セル壁厚み90μm以下という軽量化に対応したハニカム体基材を採用しても、強度が十分に向上し、例えば筒状ケースへの圧入時の破壊の発生を防止することができる。特に、ハニカム体の横断面に平行でかつセル壁に対して垂直な方向に荷重を負荷したときの破壊強度であるB軸強度を向上させることができる。
【0011】
このように、上記第1の発明によれば、軽量及び低圧損でありながら、優れた強度を発揮することができるハニカム体を提供することができる。
【0012】
第2の発明においては、上記原料準備工程と上記押出成形工程と上記乾燥工程と上記焼成工程と上記被覆工程とを行うことにより上記ハニカム体を製造する。
上記第2の発明の製造方法において最も注目すべ点は、上記被覆工程において、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有し、上記セル壁との接触角が50°以下の上記コート材スラリーを採用する点にある。
【0013】
そのため、上記被覆工程において、上記コート材スラリーを上記ハニカム体基材の上記セル壁に接触させると、該セル壁の細孔内に上記コート材スラリーが侵入し易くなり、上記コート材スラリーを上記セル壁の細孔内に含浸させることができる。それ故、乾燥後に、粗大な細孔がアルミナで塞がれ、細孔径40μm以上の粗大な細孔量の量を減らすことができる。
【0014】
その結果、ハニカム体基材の気孔率を45%以上かつ70%未満とし、上記セル壁厚みを90μm以下としても、粗大細孔量が0.02cm3/g以下であるハニカム体を製造することができる。即ち、軽量及び低圧損でありながら、優れた強度を発揮できるハニカム体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例における、ハニカム体の全体構造を示す説明図。
【図2】実施例における、ハニカム体の端面を拡大して示した説明図。
【図3】実施例における、コート材がセル壁に担持されたハニカム体(試料X6)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(a)、コート材がセル壁に担持されたハニカム体(試料X3)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(b)。
【図4】実施例における、水銀ポロシメータによる細孔容積の測定原理を示す説明図。
【図5】実施例における、接触角を示す説明図。
【図6】実施例における、ハニカム体(試料X1〜試料X9)について、粗大細孔量とB軸強度との関係を示す説明図。
【図7】実施例における、ハニカム体(試料X10〜試料X18)について、粗大細孔量とB軸強度との関係を示す説明図
【図8】実施例における、ハニカム体(試料X19〜試料X27)について、粗大細孔量とB軸強度との関係を示す説明図
【図9】実施例における、断面六角形状のセルにおけるB軸方向を示す説明図(a)、断面四角形状のセルにおけるB軸方向を示す説明図(b)。
【図10】断面四角形状のセルを有する従来の一般的なハニカム体の全体構造を示す説明図。
【図11】ハニカム体の端面風食を示す説明図。
【図12】断面四角形状のセルを示す説明図。
【図13】実施例にかかる、セラミック繊維マットを巻き付けたハニカム体を筒状ケースに圧入する様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記ハニカム体は、コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム体基材の上記セル壁に、アルミナを主成分とするコート材を被覆してなる。
上記ハニカム体基材は、気孔率が45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みが90μm以下である。上記セル壁の気孔率は水銀圧入法により測定することができる。また、上記セル壁の厚みは光学顕微鏡を用いて測定することができる。
【0017】
気孔率が45%未満の場合には、上記ハニカム体の軽量化が困難になったり、浄化性能が悪化したりするおそれがある。一方、気孔率が70%以上の場合には、上記セル壁の強度を保つことが困難になるおそれがある。気孔率は60%以下が好ましい。
また、上記セル壁の厚みが90μmを超える場合には、上記ハニカム体の軽量化が困難になるおそれがある。また、上記セル壁の強度を保つという観点から、上記セル壁の厚みは50μm以上がよい。
【0018】
また、上記ハニカム体は、上記粗大細孔量が0.02cm3/g以下である。粗大細孔量は、ハニカム体の単位重量あたりに存在する細孔のうち、細孔径40μm以上の粗大な細孔の容積の合計量であり、水銀圧入法により測定することができる。
粗大細孔量が0.02cm3/gを超える場合には、上記セル壁の強度が不十分になるおそれがある。好ましくは粗大細孔量は0.008cm3/g以下がよい。
【0019】
また、上記ハニカム体基材においては、上記セルのピッチ幅が1.11mm以下であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記ハニカム体内におけるセル数が増大し、上記ハニカム体の表面積を大きくすることができると共に、セル壁が多くなり上記ハニカム体の強度を向上させることができる。ピッチ幅が1.11mmを超える場合には、上述の効果が得られなくなるおそれがある。
【0020】
また、一般に、ハニカム体9を排ガス流路に配置した場合には、排気管表面の溶接付着物等が排ガスによって飛散して飛散物99となり、該飛散物99がハニカム体9の端面90に衝突し、端面90を破壊する端面風食という現象が起こるおそれがある(図10及び図11参照)。端面風食は、セル壁91の薄肉化及び高気孔率化によって顕著になってしまう。特に気孔率を例えば45%以上に高くすると端面風食が発生し易くなる。
この端面風食を抑制するという観点からも、本発明のように、粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることが重要である。
さらに、上記ハニカム体において、上記セル壁は六角形格子状に配されていることが好ましい(請求項3)。
この場合には、四角形格子状に配した場合に比べてセル1辺の長さが短く(0.62倍)なるため、上述の端面風食で発生するストレスをより小さくすることができる。それ故、端面風食の発生をより抑制することができる。
【0021】
具体的には、セル壁11の交点が支持点になると仮定すると、セル壁11が六角形格子状に配されてなる六角形状のセル12は、セル壁11が四角格子状に配されてなる四角形状のセル125に比べて1辺の長さaが短くなるため、支点からの曲げモーメントが小さくなる(図2及び図12参照)。したがって、飛来物等によって起る端面風食の発生を抑制することができる。
表1に、セル数600〜1200個のハニカム体について、六角形状セル12と四角形状セル125について、ピッチ幅Aとセル1辺の長さaをそれぞれ示す。
なお、表1に示すピッチ幅A及びセル1辺の長さaについては、セル壁11の厚みを二等分する位置を基点にしてある。
【0022】
【表1】
【0023】
次に、上記ハニカム体においては、平均細孔径が2〜13μmであることが好ましい(請求項4)。
平均細孔径が2μm未満の場合には、上記コート材の被覆時に上記コート材が上記ハニカム体基材の細孔内部に染み込み難くなるため、アンカー効果が低くなり上記コート材が剥離するおそれがある。一方、13μmを超える場合には、上記ハニカム体基材を粒子径の大きな粗大な原料粉末を使用して作製する必要があり、90μm以下という小さな厚みの上記セル壁を形成することが困難になるおそれがある。粗大な原料粉末から厚みの小さなセル壁を形成しようとすると、金型スリットへの原料粉末の詰りなどが発生し経済的な製造ができなくなるおそれがある。
【0024】
次に、本発明の製造方法においては、上記のごとく、上記原料準備工程と上記押出成形工程と上記乾燥工程と上記焼成工程と上記被覆工程とを行う。
上記原料準備工程においては、コージェライト化原料を準備する。
上記コージェライト化原料は、例えばタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム等を混合することにより得ることができる。
上記ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、及び粗大細孔量は、コージェライト原料の平均粒子径や、必要に応じて添加する有機発泡剤の添加量により制御することができる。また、後述の焼成工程における温度1250〜1400℃の昇温速度を調整することにより制御することができる。
【0025】
また、上記押出成形工程においては、上記コージェライト化原料を所望の多角形格子状に押出成形してハニカム成形体を得る。また、押出成形後に切断を行うことにより、容易に所望の寸法のハニカム成形体を得ることができる。押出成形を行うことにより、連続成形が可能であると共に、コージェライト結晶を配向させやすくすることができる。
【0026】
上記乾燥工程においては、上記ハニカム成形体を乾燥させる。
上記乾燥工程は、上記ハニカム成形体中の水分等を蒸発させるために行われる。上記乾燥工程は、例えば熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等により実施することができる。これらの中でも、全体を迅速かつ均一に乾燥できるという観点から、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせて乾燥工程を実施することが好ましい。
また、上記乾燥工程は、例えば温度80℃〜120℃で加熱することにより行うことができる。加熱時間はハニカム成形体の大きさなどに合わせて適宜調整することができる。
【0027】
また、上記焼成工程においては、上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム体基材を得る。
焼成温度及び時間は、コージェライトの組成及びハニカム成形体の大きさなどによって適宜変更することができる。例えば焼成温度1380〜1425℃で4〜10時間の焼成を行うことができる。
好ましくは焼成温度は1350℃以上がよく、より好ましくは1400℃以上がよい。1350℃未満の場合には、コージェライトの生成が十分に進行し難くなるおそれがある。
【0028】
次に、上記被覆工程においては、上記ハニカム体基材の上記セル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させて上記セル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることにより上記ハニカム体を得る。
上記ハニカム体基材の上記セル壁と上記コート材スラリーとの接触は、具体的には例えば上記コート材スラリー中に上記ハニカム体基材を浸漬することにより実現することができる。
また、上記コート材スラリーは、水等の分散媒にアルミナ粉末、及び分散剤等を混合して作製することができる。
【0029】
上記アルミナ粉末としては、平均粒子径1〜8μmの粉末を採用する。
上記アルミナ粉末の平均粒子径が8μmを超える場合には、上記セル壁の細孔内にアルミナ粒子が侵入し難くなるおそれがある。その結果、0.02cm3/g以下にまで粗大細孔量を小さくすることが困難になるおそれがある。好ましくは、上記アルミナ粉末の平均粒子径は5μm以下がよく、より好ましくは3μm以下がよい。
また、製造コストという観点から、上記アルミナ粉末の平均粒子径は1μm以上がよい。
上記アルミナ粉末としては、γアルミナ及び/又はθアルミナを採用することができる。
【0030】
また、上記コート材スラリーとしては、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用する。
接触角が50°を超える場合には、上記ハニカム体基材の上記セル壁に上記コート材スラリーを接触させたときに、該コート材スラリーが上記セル壁の細孔内に侵入し難くなる。その結果、粗大な細孔を十分に上記コート材で埋めることができなくなり、上記ハニカム体の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることが困難になるおそれがある。好ましくは、接触角は40°以下がよく、より好ましくは30°以下がよい。
【0031】
上記コート材スラリーと上記セル壁との接触角は、アルミナ粉末の平均粒子径、配合量、分散剤の種類、及び分散剤の配合量等を調整することにより制御することができる。接触角は、コート材スラリー300を、ハニカム体基材10に滴下したときの接触角θである(図5参照)。
【0032】
また、上記被覆工程においては、上記アルミナ粉末の他に、貴金属粉末等からなる排ガス浄化触媒を上記コート材スラリーに混合することができる。
この場合には、アルミナだけでなく排ガスに対する浄化性能を示す触媒を担持した上記ハニカム体を製造することができる。
【0033】
上記ハニカム体は、ステンレス等からなる筒状体に圧入して用いられ、自動車等の排ガス管の途中に配置し、排ガスの浄化用に用いることができる。特に、上記ハニカム体は、上記セルがハニカム体基材の両端において開口し、Pt、Pd、Rh等を含有する三元触媒が上記コート材と共に担持された状態で用いられることが好ましい。この場合には、ガソリンエンジンの排ガス浄化に好適である。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
次に、本発明のハニカム体の実施例及び比較例につき図を用いて説明する。
図1、図2、及び図3(a)に示すごとく、本例のハニカム体1は、コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁11と、セル壁11に区画された多数のセル12とを有するハニカム体基材10のセル壁11に、アルミナを主成分とするコート材15を被覆してなる。
【0035】
本例においては、セル壁11は、正六角形格子状に配設されており、セル12は円柱状のハニカム体1の軸方向と垂直な断面又はハニカム体1の端面100において正六角形状となる。また、セルピッチ(図2における幅A)は1.11mmであり、ハニカム体1は全体として円柱形状を有する。また、ハニカム体1は、多孔質体であり多数の細孔110を有している(図3(a)参照)。
【0036】
ハニカム体基材10においては、気孔率は45%以上で、セル壁11の厚みは90μm以下である。
また、実施例にかかるハニカム体1においては、単位重量あたりにハニカム体1が有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の量(粗大細孔量)が0.02cm3/g以下である。
【0037】
ハニカム体1は、原料準備工程と押出成形工程と乾燥工程と焼成工程と被覆工程とを行うことにより製造する。
原料準備工程においては、コージェライト化原料を準備する。
押出成形工程においは、コージェライト化原料を多角形格子状(本例においては六角形格子状)に押出成形してハニカム成形体を得る。
乾燥工程においては、ハニカム成形体を乾燥させる。
【0038】
焼成工程においては、ハニカム成形体を焼成してハニカム体基材を得る。
被覆工程においては、ハニカム体基材のセル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させてセル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることによりハニカム体を得る。
本発明の実施例にかかるハニカム体の製造にあたっては、上記被覆工程において、上記コート材スラリーとして、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用し、乾燥後の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にする。
【0039】
本例においては、本発明の実施例及び比較例にかかる27種類のハニカム体(試料X1〜試料X27)を作製する。
代表例として試料X6の製造方法について具体的に説明する。
【0040】
即ち、まず、平均粒子径14μmのタルク35.7質量部、溶融シリカ19.1質量部、及び水酸化アルミニウム45.2質量部を混合し、この混合粉100質量部に対して水を28質量部、有機バインダー5.5質量部、潤滑剤3.0質量部を添加した。そして、ニーダーで混練した後、目開き150μmのスクリュー式混練機にて、混練・濾過を行い、コージェライト化原料を得た(原料準備工程)。
【0041】
次に、縦型プランジャー押出機を用いて、コージェライト化原料(坏土)を成形し、直径100mm、長さ100mm、セル壁厚さ90μm、セルピッチ1.11mm、セル形状六角形のハニカム成形体を得た(押出成形工程)。なお、上述の成形体の長さは、後述の乾燥工程後に両端を切断した後の寸法である。
【0042】
次に、ハニカム成形体の水分を十分に除去するまで乾燥した(乾燥工程)。
次いで、ハニカム成形体を焼成温度1420℃で20時間焼成し、ハニカム体基材を得た(焼成工程)。焼成工程においては、室温から焼成温度(最高温度)1420℃まで昇温させる際に、温度1250〜1400℃における昇温速度を45℃/hに設定した。
【0043】
次に、得られたハニカム体基材の気孔率及び平均細孔径を、銀圧入法の原理を利用した水銀ポロシメータを用いて測定した。
水銀ポロシメータは固体中の細孔の大きさ(細孔径)や、その容積を測定することによって、その固体の物理的形状の情報を得ようとするものである。その原理は、ほとんどの物質と反応せず、漏れもない水銀を固体の細孔中へ圧入し、そのときに加えた圧力と、押し込まれた(侵入した)水銀容積の関係を測定することに基づく。もちろんその前に固体細孔中の空気などの気体は、完全に脱気されている必要がある。
加えられた圧力と、その圧力で水銀が侵入可能な細孔径の関係は、下記の式(1)に示すWashburnの式で導かれる。
D=−4γcosθ/P・・・(1)
【0044】
式(1)において、Pは加える圧力、Dは細孔径、γは水銀の表面張力(480dyne cm-1)、θは水銀と細孔壁面の接触角で通常140°である。γ、θは定数であるから、Washburnの式から、加えた圧力Pと細孔径Dの関係が求められ、その時の侵入容積を測定することにより、細孔径とその容積分布が導かれる。
【0045】
そして、図4に示すように、水銀5を充填した試料セル6を高圧容器7内でP0<P1<P2<P3の順に加圧すると、水銀5はハニカム体1の大きな細孔から小さな細孔へと順に侵入していく。
このように、水銀圧入法においては、水銀がハニカム体の気孔に進入する際の圧力から細孔径を求め、また細孔に入った水銀の容積から細孔容積を求めることができる。
【0046】
本例においては、上述の水銀圧入法の原理に基づいた水銀ポロシメータとして、(株)島津製作所製のオートポアIV9500を採用した。測定にあたっては、ハニカム体の細孔への水銀の圧入時における接触角を140°、表面張力を480dynes/cm、圧力を0.0045〜420MPaに設定した。また、測定ステップ(μm)を、200、150、70、40、20、10、5.0、2.0、1.0、0.5、0.1、0.05、0.03に設定した。なお、この測定ステップは、細孔径のことである。
このようにして、ハニカム体基材について細孔径とその容積分布が得られる。
気孔率は、全細孔容積÷(全細孔容積+1/2.52)×100という式に基づいて算出した。その結果を表2に示す。
【0047】
次に、平均粒子径1.5μmのγアルミナ粉末150gと、分散剤(サンノプコ(株)製の「SNディスパーサント5468」)0.15gとを純水に添加し、ハニカム体基材に対する接触角が50°以下のコート材スラリーを作製した。接触角は、水分量、分散剤の量及び種類を変えて微調整した。接触角は、図5に示すごとく、コート材スラリー300をハニカム体基材10に滴下し、接触角θを測定することにより計測できる。
分散剤としては、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸重合体、ポリアクリル酸アンモニウム、及びポリアクリル酸ソーダなどから選ばれる1種以上等を用いることもできる。
【0048】
次に、コート材スラリー中に、上述のようにして作製したハニカム体基材を繰り返し浸漬し、コート材スラリー中に含まれる全量(150g)のγアルミナ粉末(コート材)をハニカム体基材に付着させた。その後、乾燥させて十分に水分を除去し、ハニカム体基材にコート材を被覆させたハニカム体(試料X6)を得た。
このハニカム体のセル壁の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)を図3(a)に示す。
【0049】
次に、このハニカム体について、粗大細孔量を測定した。
粗大細孔量(cm3/g)は、上述の水銀ポロシメータ((株)島津製作所製のオートポアIV9500)を用いた気孔率の測定方法と同様にして、細孔径とその容積分布を測定し、細孔径40μm以上の粗大な細孔の細孔容積(単位重量あたり)の合計から求めた。その結果を表2に示す。
【0050】
また、本例においては、上述の試料X6の製造条件とは、ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、アルミナ粉末の平均粒子径、コート材スラリーの接触角、粗大細孔量等を変えて、さらに8種類のハニカム体(試料X1〜試料X5、及び試料X7〜試料X9)を作製した(表2参照)。これらの試料は、後述の表2に示す変更点を除いては、上記試料X6と同様にして作製した。
【0051】
上記試料X1〜試料X9は、気孔率を約45%に設定したハニカム体基材を用いて作製したハニカム体である(表2参照)。次いで、本例においては、気孔率を約50%に設定したハニカム体基材を用いてさらに9種類のハニカム体(試料X10〜試料X18)を作製した。さらに、気孔率を約60%に設定したハニカム体基材を用いてさらに9種類のハニカム体(試料X19〜試料X27)を作製した。
ハニカム体基材の気孔率は、コージェライト原料の平均粒子径や、有機発泡剤の添加量、及び焼成時の温度1250〜1400℃における昇温速度を制御することにより調整した。
【0052】
試料X10〜試料X18について、ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、アルミナ粉末の平均粒子径、コート材スラリーの接触角、及び粗大細孔量を後述の表3に示す。
また、試料X19〜試料X27について、ハニカム体基材の気孔率、平均細孔径、アルミナ粉末の平均粒子径、コート材スラリーの接触角、及び粗大細孔量を後述の表4に示す。
【0053】
次に、本例において作製した27種類のハニカム体(試料X1〜試料X27)について、そのB軸強度を測定した。B軸強度は、ハニカム体の横断面に平行でかつセル壁に対して垂直な方向に荷重を負荷したときの破壊強度である。
本例においては、上述のように、断面六角形状のセル12を有するハニカム体1(図1及び図2参照)を作製した。したがって、B軸強度の測定にあたっては、図9に示すごとく、ハニカム体におけるセル12の伸長方向(図9における紙面と垂直方向)に垂直で、かつ断面六角形状のセル12の対向する一対の辺(セル壁11)に対して垂直な方向(B軸方向19)にかかる圧縮荷重に対する強度(B軸強度)を測定した(図9(a)参照)。なお、断面四角形状のセルの場合においても同様で、セル12の伸長方向(図9における紙面と垂直方向)に垂直で、かつセル12の対向する一対の辺(セル壁11)に対して垂直な方向がB軸方向19となる(図9(b)参照)。
【0054】
具体的には、オートグラム((株)島津製作所製の「AG−IS」)を用い、ハニカム体のB軸方向に圧縮荷重を徐々に大きくしながら加え、ハニカム体が破壊するまでの最大荷重を求めた。そして、B軸強度(MPa)は、最大荷重をセル面積で除することにより得られる。試料X1〜試料X8のB軸強度の結果を表2に示し、試料X9〜試料X18のB軸強度の結果を表3に示し、試料X19〜試料X27のB軸強度の結果を表4に示す。
また、B軸強度と粗大細孔量との関係を、試料X1〜試料X8については図6に、試料X9〜試料X18については図7に、試料X19〜試料X27については図8に示す。図6〜図8において、横軸はハニカム体の粗大細孔量(cm3/g)を示し、縦軸はハニカム体のB軸強度(MPa)を示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
表2〜表4及び図6〜図8より知られるごとく、気孔率45%以上、セル壁の厚み90μm以下という軽量及び低圧損化に対応したハニカム体基材を用いた場合において、アルミナを担持させた後のハニカム体の粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることにより、ハニカム体のB軸強度を向上できることがわかる(試料X4〜7、試料X9、試料X13〜試料X16、試料X18、試料X22〜試料X25、及び試料X27参照)。そのため、図13に示すごとく、ハニカム体1(試料X4〜7、試料X9、試料X13〜試料X16、試料X18、試料X22〜試料X25、及び試料X27参照)の外周にアルミナ繊維等からなるセラミック繊維マット21を巻き付け、これをステンレス等からなる筒状ケース22に圧入しても、ハニカム体1に破壊が起ることを防止することができる。
これに対し、粗大細孔量0.02cm3/gを超えるハニカム体(試料X1〜試料X3、試料X8、試料X10〜試料X12、試料X17、試料X19〜試料X21、及び試料X26)は、B軸強度が不十分であった。
【0059】
また、図6〜図8より知られるごとく、粗大細孔量を小さくすることにより、B軸強度をより向上できることがわかるが、特に0.02cm3/g以下にすることにより、B軸強度が顕著に向上することがわかる。
表2〜4より知られるごとく、粗大細孔量0.02cm3/g以下のハニカム体は、被覆工程において、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有し、接触角50°以下のコート材スラリーを採用することにより作製することができる。
【0060】
また、図3(a)に試料X6のハニカム体におけるセル壁11のSEM写真を示したが、図3(b)に、試料X3のハニカム体におけるセル壁11のSEM写真(倍率1000倍)を示す。
図3(a)及び(b)を比較すると試料X6においては、試料X3よりも、コート材15が小さな厚みでハニカム体基材10に被覆していることがわかる。これは、試料X6においては、試料X3よりも十分に接触角の小さなコート材スラリーを採用したため、ハニカム体基材10の細孔110内にアルミナ粉末が入り込み易くなったためであると考えられる。被覆工程において平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有し、接触角50°以下のコート材スラリーを採用することにより、例えば厚み10〜20μmという小さな厚みでコート材を被覆させることが可能になる。
【0061】
以上のように、気孔率45%以上かつ70%未満で、セル壁の厚み90μm以下でのハニカム体基材にコート材を被覆したハニカム体においては、その単位重量あたりの細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることにより、強度を顕著に向上できることがわかる。
【符号の説明】
【0062】
1 ハニカム体
10 ハニカム体基材
11 セル壁
12 セル
15 コート材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム体基材の上記セル壁に、アルミナを主成分とするコート材を被覆してなるハニカム体において、
上記ハニカム体基材の気孔率は45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みは90μm以下であり、
上記ハニカム体が単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.02cm3/g以下であることを特徴とするハニカム体。
【請求項2】
請求項1に記載のハニカム体において、上記セルのピッチ幅が1.11mm以下であることを特徴とするハニカム体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハニカム体において、上記セル壁は六角形格子状に配されていることを特徴とするハニカム体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム体において、平均細孔径が2〜13μmであることを特徴とするハニカム体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム体を製造する方法であって、
コージェライト化原料を準備する原料準備工程と、
上記コージェライト化原料を押出成形してハニカム成形体を得る押出成形工程と、
上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム体基材を得る焼成工程と、
上記ハニカム体基材の上記セル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させて上記セル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることにより上記ハニカム体を得る被覆工程とを有し、
該被覆工程においては、上記コート材スラリーとして、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用し、乾燥後の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることを特徴とするハニカム体の製造方法。
【請求項1】
コージェライトの多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム体基材の上記セル壁に、アルミナを主成分とするコート材を被覆してなるハニカム体において、
上記ハニカム体基材の気孔率は45%以上かつ70%未満であり、上記セル壁の厚みは90μm以下であり、
上記ハニカム体が単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.02cm3/g以下であることを特徴とするハニカム体。
【請求項2】
請求項1に記載のハニカム体において、上記セルのピッチ幅が1.11mm以下であることを特徴とするハニカム体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハニカム体において、上記セル壁は六角形格子状に配されていることを特徴とするハニカム体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム体において、平均細孔径が2〜13μmであることを特徴とするハニカム体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム体を製造する方法であって、
コージェライト化原料を準備する原料準備工程と、
上記コージェライト化原料を押出成形してハニカム成形体を得る押出成形工程と、
上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム体基材を得る焼成工程と、
上記ハニカム体基材の上記セル壁に、平均粒子径1〜8μmのアルミナ粉末を含有するコート材スラリーを接触させて上記セル壁の細孔内に含浸させ、次いで乾燥させることにより上記ハニカム体を得る被覆工程とを有し、
該被覆工程においては、上記コート材スラリーとして、上記セル壁との接触角が50°以下のものを採用し、乾燥後の上記粗大細孔量を0.02cm3/g以下にすることを特徴とするハニカム体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【公開番号】特開2011−230005(P2011−230005A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99578(P2010−99578)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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