説明

ハニカム構造体およびその製造方法

【課題】開気孔率と機械的強度とをともに十分な高さで備えるハニカム構造体を提供する。
【解決手段】コージェライトを主成分とする多孔質の隔壁3と、隔壁3により区画形成されて一方の端部7aから他方の端部7bまで通じる複数のセル5とを有し、隔壁3の開気孔率が58〜70%かつ隔壁3の平均細孔径が15μm以上であるとともに、隔壁3の断面像においては、島状に散在する骨格の断面像についての輪郭の長さをLとし、骨格の断面像と外接する円の円周の長さCとするときに、骨格の断面像の輪郭の長さLの平均値が140〜300μmかつL/Cの平均値が2.5〜3.0を満たすハニカム構造体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用のフィルタとして使用できるハニカム構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関などから排出される排ガスには、粒子状物質が含まれている。この粒子状物質を除去して排ガスを浄化する際には、セラミックスを主成分とする多孔質のフィルタを使用することにより、排ガスから粒子状物質を濾し取ることが一般的になっている。このセラミックスを主成分とするフィルタは、粒子状物質を濾し取る部分の面積を増やすために、多数の細孔を有する隔壁によって蜂の巣構造(ハニカム構造)になっている。そして、排ガスが細孔内を通って隔壁を通り抜けていく過程では、粒子状物質が隔壁を通り抜けることができずに捕捉されていく。このようにして、ハニカム構造体のフィルタは、排ガスから粒子状物質を取り除くことができる。
【0003】
この排ガス浄化用のハニカム構造体においては、低い熱膨張率であるために耐熱衝撃性が高いという理由から、コージェライトを材料として用いていることが多い(例えば、特許文献1)。また、コージェライトを材料とするハニカム構造体においては、隔壁の開気孔率を高めることにより、より多くの排ガスを隔壁に通り抜けられるようにし、その結果、排ガスを浄化する時の性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−536603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、コージェライトを材料として用いるハニカム構造体においては、隔壁の開気孔率を高めると、ハニカム構造体の強度が低くなってしまうという問題が生じる。
【0006】
上記の問題に鑑みて、本発明の目的は、開気孔率と機械的強度とをともに十分な高さで備えるハニカム構造体、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するものである。具体的には、以下に示すハニカム構造体およびその製造方法が提供される。
【0008】
[1] コージェライトを主成分とする多孔質の隔壁と、前記隔壁により区画形成されて一方の端部から他方の端部まで通じる複数のセルとを有し、前記隔壁の開気孔率が58〜70%かつ前記隔壁の平均細孔径が15μm以上であるとともに、前記隔壁の断面像において、島状に散在する骨格の断面像についての輪郭の長さをLとし、該骨格の該断面像と同じ面積を有する円の円周の長さCとするときに、前記隔壁の前記断面像における前記骨格の前記断面像の輪郭の長さLの平均値が140〜300μmかつL/Cの平均値が2.5〜3.0を満たすハニカム構造体。
【0009】
[2] 前記隔壁は、前記コージェライトの成分全量を基準として非晶質のコージェライトを0質量%超かつ12質量%未満含む前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0010】
[3] 前記隔壁は、コージェライトを88質量%以上含む前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体。
【0011】
[4] 前記隔壁においては、コージェライトの(1 1 0)面の回折ピークの強度I(110)および(0 0 2)面の回折ピークの強度I(002)がI(110)/[I(110)+I(002)]≧0.85を満たす前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0012】
[5] A軸圧縮強度が4.0MPa以上である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0013】
[6] 40〜800℃での熱膨張係数が1.1×10−6/℃以下である前記[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0014】
[7] アルミナ源とシリカ源とを含むコージェライト化原料から坏土を作製し、前記坏土をハニカム形状に成形し、次いで乾燥、さらに焼成してハニカム構造体を作製するとともに、前記アルミナ源がαアルミナを含み、かつ前記シリカ源が非晶質シリカおよび/またはシリカゲルを含んで、前記αアルミナのメジアン径が5.5〜12.5μm、前記非晶質シリカおよび/または前記シリカゲルのメジアン径が12.5〜50.0μmであり、さらに、前記非晶質シリカおよび/または前記シリカゲルの前記メジアン径の前記αアルミナの前記メジアン径に対する比が2.0〜9.0であるハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハニカム構造体は、開気孔率と機械的強度とをともに十分な高さで備える。また、本発明のハニカム構造体の製造方法は、開気孔率と機械的強度とをともに十分な高さで備えるハニカム構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態のハニカム構造体の斜視図である。
【図2】図1中のA−A’断面図である。
【図3】図2中の枠α内の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
1.ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体は、コージェライトを主成分とする多孔質の隔壁と、隔壁により区画形成されて一方の端部から他方の端部まで通じる複数のセルとを有し、隔壁の開気孔率が58〜70%かつ隔壁の平均細孔径が15μm以上であるとともに、隔壁の断面像において、島状に散在する骨格の断面像についての輪郭の長さをLとし、骨格の断面像と同じ面積を有する円の円周の長さCとするときに、隔壁の断面像における骨格の断面像の輪郭の長さLの平均値が140〜300μmかつL/Cの平均値が2.5〜3.0を満たすものである。
【0019】
コージェライトを主成分とする多孔質の隔壁では、三次元網目状に骨格同士が繋がった微細構造が作られている。一般に、このような構造では、各部分の骨格が、その周囲の骨格と数多く繋がっている場合に機械的強度が強くなる。そして、隔壁を断面像にて観察すると、ある部分の骨格がその周囲の部分の骨格と数多く繋がっているほど、その部分の骨格の断面像の輪郭がより複雑で凹凸の多い形状になる。ここで、骨格の断面像の輪郭の形状の複雑さについては、骨格の断面像の輪郭の長さLと、当該骨格の断面像と同じ面積を有する円の円周の長さCとを用いた比(L/C)の大きさに反映されてくる。L/Cの値が1に近いほど、その骨格の断面像の輪郭の形状が単純になり、このような断面像を示す骨格は周囲の骨格との繋がりに乏しい。また、L/Cの値が大きいほど、その骨格の断面像の輪郭の形状がより複雑になり、このような断面像を示す骨格は周囲の骨格と数多く繋がっている。
【0020】
本発明のハニカム構造体のように、隔壁の断面像におけるLの平均値が140〜300μmかつL/Cの平均値が2.5〜3.0を満たす場合には、隔壁の微細構造を観ると、適度な太さの骨格が周囲の骨格と数多く繋がった状態になっており、そして、このような微細構造を有するので隔壁の機械的強度が高い。また、本発明のハニカム構造体のように、L/Cが3.0以下の場合には、隔壁の気孔率が高まって開気孔率58%以上になり、その結果として、圧力損失が増大しにくくなり、また、排ガス浄化用のフィルタとしての機能を十分に果たすことが可能になる。
【0021】
また、本発明のハニカム構造体のように、隔壁の開気孔率が58〜70%かつ平均細孔径15μm以上である場合には、隔壁を適度な量の排ガスが通過するようになるので、圧力損失が増大しにくく、また、排ガス浄化用のフィルタとしての機能を十分に果たすことが可能になる。本発明のハニカム構造体では、粒子状物質などを捕集する能力を高める観点からは、隔壁の平均細孔径が15μm〜32.5μmであることが好まく、さらに隔壁の平均細孔径が17μm〜25μmであることがより好ましい。
【0022】
本明細書にいうコージェライトを主成分とするとは、コージェライトを50質量%以上含むことをいう。
【0023】
また、本発明のハニカム構造体では、骨格同士の結合を強めて機械的強度を高めることができる観点からは、隔壁はコージェライトの成分全量を基準として非晶質のコージェライトを0質量%超かつ12質量%未満含むことが好ましい。
【0024】
本発明のハニカム構造体では、耐熱衝撃性を高める観点からは、隔壁はコージェライトを88質量%以上含むことが好ましい。
【0025】
本発明のハニカム構造体では、コージェライトの配向性を高めることにより熱膨張を低く抑えることができる観点からは、隔壁においては、コージェライトの(1 1 0)面の回折ピークの強度I(110)および(0 0 2)面の回折ピークの強度I(002)がI(110)/[I(110)+I(002)]≧0.85を満たすことが好ましい。I(110)/[I(110)+I(002)]≧0.85を満たす場合には、コージェライトの配向性が高くなっており、その結果として、熱膨張を十分に低く抑えることができる。
【0026】
本発明のハニカム構造体では、十分な強さの機械的強度を確保する観点からは、A軸圧縮強度が4.0MPa以上であることが好ましい。
【0027】
本発明のハニカム構造体では、耐熱衝撃性を高める観点からは、40〜800℃での熱膨張係数が1.1×10−6/℃以下であることが好ましい。
【0028】
以下、本発明のハニカム構造体の実施形態を参照しつつ、その内容を詳しく説明する。
【0029】
図1は、本発明のハニカム構造体の一実施形態の斜視図である。図示されるように、本ハニカム構造体1では、コージェライトを主成分とする円筒形状の外周壁9を有し、この外周壁9に囲まれた内部が直交する隔壁3によって方眼紙のます目のように区画されている。また、隔壁3は、多数の細孔を有する多孔質のものであり、コージェライトを主成分としている。そして、隔壁3は、細孔を通じて一方の面からもう一方の面まで排ガスを通過させることができる。
【0030】
図2は、図1中のA−A’断面の模式図である。図示されるように、外周壁9に囲まれた内部には、隔壁3によって区画されることにより、複数のセル5が形成されている。これらのセル5は、一方の端部7aから他方の端部7bまで通じている。
【0031】
図3は、図2中の枠α内を拡大した図である。図示されるように、隔壁3の断面では、骨格11の断面が、細孔13に囲まれて島のように散在している。図3に示した枠α内の断面図では、多数の骨格の断面像を観察することができるが、これらの骨格11の断面像の中でも枠αの境界(図3中では二点鎖線により示す)によって途中で断ち切られることなく、骨格11の断面像全体が現れているものとしては、骨格11a〜11fの断面像を認めることができる。そこで、図3に示した隔壁3の断面像の場合には、骨格11a〜11fの断面像のそれぞれについての輪郭の長さLおよび面積を測定する。そして、この隔壁3の断面像における骨格11の断面の輪郭の長さLの平均値については、骨格11a〜11fの断面像についての輪郭の長さLを算術平均して求める。同じように、この隔壁3の断面像におけるL/Cの平均値については、骨格11a〜11fの断面像についてのL/Cを算術平均して求める。骨格11a〜11fの断面像については、輪郭の形状が凹凸が多くて複雑になっており、これらの輪郭の形状からも、骨格11a〜11fが周囲の骨格と数多く繋がっていることを見て取ることができる。
【0032】
2.ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体の製造方法は、アルミナ源とシリカ源とを含むコージェライト化原料から坏土を作製し、坏土をハニカム形状に成形し、次いで乾燥、さらに焼成してハニカム構造体を作製するとともに、アルミナ源がαアルミナを含み、かつシリカ源が非晶質シリカおよび/またはシリカゲルを含んで、αアルミナのメジアン径が5.5〜12.5μm、非晶質シリカおよび/またはシリカゲルのメジアン径が12.5〜50.0μmであり、さらに、非晶質シリカおよび/またはシリカゲルのメジアン径のαアルミナのメジアン径に対する比が2.0〜9.0である。
【0033】
本発明のハニカム構造体の製造方法のように、コージェライト化原料に含まれるαアルミナのメジアン径が5.5〜12.5μm、非晶質シリカおよび/またはシリカゲルのメジアン径が12.5〜50μmであり、さらに、非晶質シリカおよび/またはシリカゲルのメジアン径のαアルミナのメジアン径に対する比が2.0〜9.0である場合には、この製造方法によって作られた隔壁の微細構造中では、骨格が適度な太さとなり、さらに各部分での骨格がその周囲の骨格と数多く繋がった状態になる。そのため、このような場合には、十分な開気孔率を有しつつも隔壁の機械的強度が高いハニカム構造体を製造することが可能になる。
【0034】
本明細書にいうメジアン径とは、光散乱法を測定原理とするレーザー回折/散乱式粒度測定装置により測定した50%粒子径の値のことである。なお、粒度測定は、原料を水に完全に分散させた状態で実施するものとする。
【0035】
本発明では、シリカ源としてシリカゲルを使用する場合には、シリカゲルのメジアン径が10〜50μmであり、かつシリカゲルの累積粒度分布d10、d50、d90から算出される(d90−d10)/d50の値が0.8〜2.5であることが好ましい。このような粒度についての条件をシリカゲルが満たす場合には、粗大気孔の形成が抑制され、強度低下の要因となる局所的な網目構造の欠落を抑制することができる。そのため、三次元網目状の骨格が全体に均質に拡がったハニカム構造体を製造することが可能になる。
【0036】
ここでいう累積粒度分布は、通常用いられている意味と同じであり、光散乱法を測定原理として体積基準で測定された粒度分布において、測定された粒径を最小の粒径を起点に粒径が大きくなる順に積算していった分布で表したものである。例えば、d50が50μmの場合は、粒子径50μm以下の粒子の体積の合計が対象となる全ての粒子の体積の合計の50%を占めることを意味する。
【0037】
本発明に使用するコージェライト化原料は、少なくともアルミナ源とシリカ源とを含むものであり、焼成後の組成がコージェライトの理論組成(2MgO・2Al・5SiO)となるように、複数種の無機粉体を混ぜ合わせたものである。
【0038】
本発明に使用できるアルミナ源としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、活性化アルミナ、ベーマイト(Al・HO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、ムライト(3Al・2SiO)などを挙げることができる。
【0039】
本発明に使用できるシリカ源としては、シリカ(SiO)やシリカを含む複合酸化物、または焼成によりシリカに変換される物質などを挙げることができる。このようなシリカ源としては、タルク(3MgO・4SiO・HO)、石英、カオリン(Al・2SiO・2HO)、仮焼カオリン、およびムライト(3Al・2SiO)など使用することができる。
【0040】
また、カオリン(Al・2SiO・2HO)やムライト(3Al・2SiO)は、アルミナ源としての役割と、シリカ源としての役割とを果たすことが可能である。本発明のハニカム構造体の製造方法では、コージェライト化原料がカオリンを含む場合には、コージェライト化原料全量を基準(コージェライト化原料全量を100質量%)としたときのカオリンの含有量が10質量%以下であることが好ましい。このようにカオリンの含有量が0質量%超かつ10質量%以下である場合には、隔壁の平均細孔径が十分な大きさをもつハニカム構造体を製造することができ、また、コージェライトの異方性に起因した微小亀裂(マイクロクラック)を発生しにくいハニカム構造体を製造することができる。
【0041】
また、本発明のハニカム構造体の製造方法では、上述したコージェライト化原料に、分散媒を混ぜ合わせ、混練することにより坏土を作製する。本発明に使用できる分散媒としては、水や、水と有機溶媒との混合溶媒などを挙げることができる。また、コージェライト化原料と分散媒とを混ぜ合わせて混練する際には、他にも、造孔材、有機バインダ、分散剤などを適宜に加えてもよい。
【0042】
本発明の使用できる造孔剤としては、例えば、グラファイト等のカーボン、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどを挙げることができる。これらの中でも、アクリル樹脂などの有機樹脂からなるマイクロカプセルを特に好適に用いることができる。
【0043】
本発明に使用できる有機バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0044】
また、本発明に使用できる分散剤としては、界面活性効果を有する物質、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0045】
本発明のハニカム構造体の製造方法では、コージェライト化原料と分散媒との混合や混練は、公知の方法により行えばよい。そして、上述した原料を混合・混練することにより、坏土を作製することができる。
【0046】
続いて、本発明のハニカム構造体の製造方法では、坏土を成形することにより、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム成形体を作製する。ここで、本発明に使用でできる成形方法としては、押出成形、射出成型、プレス成形などを挙げることができる。これらの中でも、押出成形を用いた場合には、コージェライトの配向する方向を、隔壁が一方の端部から他方の端部へと延びていく方向に対して平行にさせやすくなる。その結果、熱膨張を低く抑えたハニカム構造体を製造することが可能になる。
【0047】
次に、本発明では、ハニカム成形体を乾燥し、さらに焼成する。その結果、ハニカム構造体を製造することができる。焼成条件(温度や時間)については、使用する原料の内容により異なってくるので、原料の内容に応じて適当に設定すればよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(1)ハニカム構造体の製造
(実施例1)
シリカゲル(メジアン径21.5μm)24.0質量%、αアルミナ(メジアン径5.6μm)21.6質量%、ベーマイト(メジアン径0.1μm)13.6質量%、タルク(メジアン径11.1μm)40.8質量%を混ぜ合わせた無機原料を用意し、この無機原料100質量部に対し、吸水性樹脂3.0質量部、メチルセルロース4.5質量部およびヒドロキシプロピルメチルセルロース1.5質量部を加えた後、ニーダーを用いて10分間混ぜ、次いで、ラウリン酸カリウム0.1質量部、水90質量部%を加え(なお、ここでいう質量部は吸水性樹脂などを混ぜる前の無機原料100質量部を基準とする)、さらにニーダーを用いて45分間混練して、可塑性の坏土を作製した。この坏土を、真空土練機を使用して柱状に成形し、この柱状にした坏土を押出成形機に投入してハニカム状に成形することにより、成形体を作製した。ハニカム構造体については、円筒状の外周壁(厚さ約0.6mm)の内部を隔壁が格子状に区画したものであり、外径φ40mm、隔壁の厚さが12ミル(約0.3mm)、セル密度が300cpsi(46.5セル/cm)となるよう成形した。この成形体をマイクロ波乾燥、次いで熱風乾燥(80℃×12時間)し、成形体の長さが60mmになるように両端部を切断した。続いて、成形体を大気中、1425℃にて焼成することにより、ハニカム構造体を製造した。上述した無機原料については、シリカゲルのメジアン径(表1中では「S」と表記)、αアルミナのメジアン径(表1中では「A」と表記)、シリカゲルのメジアン径のαアルミナのメジアン径に対する比(S/A)を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例2〜6、比較例1〜5)
シリカゲルのメジアン径およびαアルミナのメジアン径を表1に示すものとなるように無機原料を変更した以外は、実施例1と同じ方法によってハニカム構造体を製造した。
【0052】
(2)密度および開気孔率の測定
ハニカム構造体の隔壁から切り出した20×20×0.3mmの板状試験片について、純水を媒体にしたアルキメデス法を用いて密度および開気孔率を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
(3)平均細孔径の測定
水銀ポロシメーター(QUANTACHROME社製PoreMaster−60GT)を用いて水銀圧入法により測定した。
【0054】
(4)画像解析
ハニカム構造体から切り出した縦3セル×横3セル×長さ7mmの角型試験片を樹脂に埋め込んだ後、この試験片を鏡面研磨した。この試験片について走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して反射電子像を得た。得られた画像については、面積1.0×10−6の1つの領域を任意に選択し、画像解析ソフトImage−Pro0.5Jを使用して、骨格の断面像と細孔の断面像とを区別するために二値化した。この二値により、個々の骨格の断面像の輪郭を決定し、各骨格の断面像の輪郭の長さLおよび各骨格の断面像の面積Sを測定した。さらに、各骨格の断面像については、骨格の断面像の面積Sから、面積Sを有する円の円周の長さCを算出した。そして、骨格の断面像についてのLおよびL/Cを集計し、領域内の骨格の断面像についてのLの平均値およびL/Cの平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0055】
(5)A軸圧縮強度の測定
JASO M 505−87に準拠してハニカム構造体から径25.4×高さ25.4mmの試験片を切り出し、オートグラフを用いてA軸方向に平行方向への圧縮試験によりA軸圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
(6)構成相の同定および定量
X線回折装置(回転対陰極型X線回折装置(理学電機製RINT),CuKα線源,50kV,300mA,2θ=5〜70°)を使用し、ハニカム構造体から得られたX線回折パターンから結晶相を同定した。ハニカム構造体についてはメノウ乳鉢を用いて10μm以下の粒子になるように粉砕し、これを測定試料とした。結晶量の定量は、標準物質を用いて行った。標準物質における結晶相と量比[百分率(%)]は、コージェライト93%、サフィリン0.5%、ムライト2.4%、スピネル0.7%である。そして、測定試料の結晶量の定量では、測定試料の各X線回折ピークの標準物質に対するピーク強度比から、測定試料中の結晶量比[百分率(%)]を算出した。非晶質量は、以下の結晶量の和を全体(100%)から差し引いた分とした。構成相の同定ピークは以下の通り。コージェライト(1 1 0)面の回折ピークの面積とコージェライト(0 0 2)面の回折ピークの面積との和、サフィリン(0 −2 2)回折ピーク高さ、ムライト(1 2 1)回折ピーク高さ、スピネル(4 2 2)回折ピーク高さ。
【0057】
(7)X線回折ピーク強度比(I比)の測定
X線回折装置[回転対陰極型X線回折装置(理学電機製RINT),CuKα線源,50kV,300mA,2θ=5〜70°]を使用し、ハニカム構造体から得られたX線回折パターンから、コージェライト(1 1 0)面と(0 0 2)面に対応する回折線の積分強度をそれぞれI(110)、I(002)とし、I(110)/[I(110)+I(002)]で示されるI比を算出した。なお測定試料には、ハニカム構造体から15mm×15mm×2セルに切り出し隔壁の表面を平坦にした試験片を用いた。結果を表2に示す。
【0058】
(8)熱膨張係数の測定
ハニカム構造体から縦3セル×横3セル×長さ50mmの試験片を切り出し、40℃を基準温度とした800℃でのA軸方向の熱膨張係数を測定した。測定はJIS R1618に準拠し熱膨張計(BrukerAXS TD5000S)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0059】
実施例1〜6および比較例1〜5のハニカム構造体については、(ア)A軸圧縮強度が4.0MPa以上、(イ)開気孔率58%以上、(ウ)熱膨張係数1.1×10−6/℃以下、という3つの条件に着目して評価を行った。(ア)〜(ウ)のいずれの条件も満たすものを「優」、(ア)および(イ)の条件をともに満たして(ウ)の条件を満たさないものを「良」、(ア)の条件と(イ)の条件とを同時に満たさないものを「不可」と判定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、排ガス浄化用のフィルタとして使用可能なハニカム構造体およびその製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0062】
1:ハニカム構造体、3:隔壁、5:セル、7:端面、9:外周壁、11,11a〜11f:骨格、13:細孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライトを主成分とする多孔質の隔壁と、前記隔壁により区画形成されて一方の端部から他方の端部まで通じる複数のセルとを有し、
前記隔壁の開気孔率が58〜70%かつ前記隔壁の平均細孔径が15μm以上であるとともに、
前記隔壁の断面像において、島状に散在する骨格の断面像についての輪郭の長さをLとし、該骨格の該断面像と同じ面積を有する円の円周の長さをCとするときに、
前記隔壁の前記断面像における前記骨格の前記断面像の前記輪郭の長さLの平均値が140〜300μmかつL/Cの平均値が2.5〜3.0を満たすハニカム構造体。
【請求項2】
前記隔壁は、前記コージェライトの成分全量を基準として非晶質のコージェライトを0質量%超かつ12質量%未満含む請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記隔壁は、コージェライトを88質量%以上含む請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記隔壁においては、コージェライトの(1 1 0)面の回折ピークの強度I(110)および(0 0 2)面の回折ピークの強度I(002)がI(110)/[I(110)+I(002)]≧0.85を満たす請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
A軸圧縮強度が4.0MPa以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
40〜800℃での熱膨張係数が1.1×10−6/℃以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
アルミナ源とシリカ源とを含むコージェライト化原料から坏土を作製し、前記坏土をハニカム形状に成形し、次いで乾燥、さらに焼成してハニカム構造体を作製するとともに、
前記アルミナ源がαアルミナを含み、かつ前記シリカ源が非晶質シリカおよび/またはシリカゲルを含んで、
前記αアルミナのメジアン径が5.5〜12.5μm、前記非晶質シリカおよび/または前記シリカゲルのメジアン径が12.5〜50.0μmであり、さらに、前記非晶質シリカおよび/または前記シリカゲルの前記メジアン径の前記αアルミナの前記メジアン径に対する比が2.0〜9.0であるハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−197192(P2012−197192A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61058(P2011−61058)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】