説明

ハニカム構造体及びその製造方法

【課題】通電を行って繰り返し使用する際の電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性を確保することができるハニカム構造体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ハニカム構造体1は、基材としてのハニカム体2に対して一対の電極11としての導電セラミックス層4及び中間層3を形成してなる。ハニカム体2は、SiCを主成分とする多孔質セラミックスによって、セル形成部21とセル形成部21の周囲を覆う外皮部22とを形成してなる。導電セラミックス層4は、SiC、Si及びCを含有し、外皮部22における互いに対向する表面に一対に設けられている。中間層3は、SiC、Si及びCを含有し、一対の導電セラミックス層4に対面する位置において外皮部22自体に形成されている。ハニカム構造体1は、中間層3の厚みをt、外皮部22の厚みをTとしたとき、0.5≦t/T≦1の関係を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックスからなるハニカム体の表面に対の電極を設けてなるハニカム構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の排ガス管内には、排ガス浄化を行うための触媒コンバータが用いられる。この触媒コンバータとしては、例えばPt、Pd、Rh等の触媒が担持されたハニカム体が用いられる。
ところで、触媒の活性化には例えば温度400℃程度の加熱が必要になる。そのため、ハニカム体の表面に一対の電極を形成し、一対の電極に通電を行ってハニカム体を加熱する電気加熱式触媒コンバータ(EHC)が開発されている。
【0003】
この電気加熱式触媒コンバータに用いるハニカム構造体としては、金属層による一対の電極を形成したもの、珪素の複合材による一対の電極を形成したもの等がある。
特に、後者のものとしては、例えば、特許文献1に開示された炭化珪素発熱体がある。この炭化珪素発熱体の接合部は、炭化珪素から発熱部を形成すると共に炭化珪素と珪素の複合材から端部を形成してなる。また、例えば、特許文献2のSiC多孔体とSiC−Si複合体の接合方法においては、SiC多孔体と、SiC基材にSiが含浸されたSiC−Si複合体とを接着層によって接合する際に、熱処理を行って、SiC−Si複合体中のSiを接着層に浸透させることが開示されている。これにより、接着層を緻密化させて、接合体の機械的強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−327478号公報
【特許文献2】特開2008−105927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電気加熱式触媒コンバータにおいては、ハニカム体を、触媒活性を発現する温度になるまで迅速かつ均一に昇温する必要がある。そのため、一対の電極には、耐熱性及び耐酸化性が要求されるのみならず、使用時にハニカム構造体の抵抗値が変動し難い等の性質としての電気的接合信頼性、及び使用時に電極の剥離、破損等を生じ難い性質としての機械的接合信頼性が要求される。
かかる要求を満たすためには、上記特許文献1、2に開示された技術では不十分であり、更なる工夫が必要とされる。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされてものであり、通電を行って繰り返し使用する際の電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性を確保することができるハニカム構造体及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、SiCを主成分とする気孔率30〜50%の多孔質セラミックスによって、セル形成部と該セル形成部の周囲を覆う外皮部とを形成してなるハニカム体と、
SiC及びSiを含有し、上記外皮部の表面に対に設けられた少なくとも一対以上の導電セラミックス層と、
SiC及びSiを含有し、上記導電セラミックス層に対面する位置において上記外皮部自体に形成された中間層とを備え、
該中間層の厚みをt、上記外皮部の厚みをTとしたとき、0.5≦t/T≦1の関係を有することを特徴とするハニカム構造体にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、上記ハニカム体の上記外皮部の表面に、SiCとCとを含有してなるペースト状の接着剤を介して、SiC、Si及びCを含有する固形状又はペースト状の複合材を配置又は塗布する第1工程と、該接着剤及び該複合材を加熱・焼成する第2工程とを有し、
上記第1工程において、上記複合材におけるSiと上記接着剤におけるCとの比率Si/Cを調整することにより、上記第2工程において、上記複合材におけるSiと上記接着剤におけるCとを上記外皮部へ浸透させて、上記中間層の厚みtと上記外皮部の厚みTとの関係を0.5≦t/T≦1に調整して、上記導電セラミックス層と上記中間層とを形成することを特徴とするハニカム構造体の製造方法にある(請求項8)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明のハニカム構造体は、ハニカム体の外皮部の表面に、SiC(炭化珪素)及びSi(珪素)を含有する複合材からなる一対の導電セラミックス層を設け、導電セラミックス層に対面する位置において、ハニカム体の外皮部自体によってSiC(炭化珪素)及びSi(珪素)を含有する中間層を設けてなる。
そして、本発明のハニカム構造体は、中間層の厚みをt、外皮部の厚みをTとしたとき、0.5≦t/T≦1の関係を有している。中間層の厚みtが外皮部の厚みTの半分以上であることにより、一対の導電セラミックス層及び中間層を一対の電極として、一対の電極間に通電を行って繰り返し使用する際に、一対の電極の抵抗値が変動し難くすることができ、かつ、一対の導電セラミックス層に剥離、破損等が生じ難くすることができる。
【0010】
また、中間層の厚みtを外皮部の厚みT以下とすることにより、中間層がセル形成部にまで形成されてしまうことを防止し、セル形成部の電気抵抗値が下がって、ハニカム構造体の昇温性の悪化を防止することができる。
また、ハニカム体の気孔率が30%未満の場合には、ハニカム体の質量が増大し、通電加熱を行う際に多量の電力及び時間を要することになる。一方、ハニカム体の気孔率が50%超過の場合には、ハニカム体の強度が低下し、ハニカム体2が破損しやすくなる。
以上、第1の発明のハニカム構造体によれば、通電を行って繰り返し使用する際の電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性を確保することができる。
【0011】
第2の発明のハニカム構造体の製造方法においては、第1工程において、複合材におけるSiと接着剤におけるCとの比率Si/Cを調整して、ハニカム体の外皮部の表面に、接着剤を介して複合材を配置又は塗布する。次いで、第2工程において、この接着剤及び複合材を加熱・焼成する。このとき、複合材におけるSiと接着剤におけるCとを外皮部へ浸透させて、中間層の厚みtと外皮部の厚みTとの関係を0.5≦t/T≦1に調整して、導電セラミックス層と中間層とを形成する。
以上、第2の発明のハニカム構造体の製造方法によれば、通電を行って繰り返し使用する際の電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性を確保できるハニカム構造体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例にかかる、ハニカム構造体における電極の形成部分の断面を示す説明図。
【図2】実施例にかかる、外周における互いに対向する位置に一対の電極を形成したハニカム構造体を示す斜視図。
【図3】実施例にかかる、軸方向に離れた位置の全周に一対の電極を形成したハニカム構造体を示す斜視図。
【図4】実施例にかかる、ハニカム体の外皮部の表面に対して接着剤を介してSiC−Siの複合材を配置した状態を断面で示す説明図。
【図5】実施例にかかる、導電セラミックス層及び中間層を形成したハニカム構造体を断面で示す説明図。
【図6】実施例にかかる、ハニカム体の外皮部の表面に対して接着剤を介してSiC−Siの複合材を配置した状態を、拡大した断面で示す説明図。
【図7】実施例にかかる、導電セラミックス層及び中間層を形成したハニカム構造体を、拡大した断面で示す説明図。
【図8】実施例にかかる、ハニカム構造体の各部の断面を電子顕微鏡によって拡大して観察した状態を示す図で、(a)導電セラミックス層の断面を200倍の倍率で拡大して示し、(b)外皮部の中間層を含む接合部の断面を50倍の倍率で拡大して示し、(c)(b)の一部を200倍の倍率で拡大して示す説明図。
【図9】実施例にかかる、ハニカム構造体に電圧を印加して電流を流すときの電気回路モデルを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述した第1、第2の発明のハニカム構造体及びその製造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記中間層の厚みは、導電セラミックス層及び中間層の形成部分においてハニカム体を切断し、この切断を行った断面を観察することによって測定することができる。より具体的には、導電セラミックス層及び中間層を形成した範囲を、SEM(走査型電子顕微鏡)、デジタルマイクロスコープ等を用いて、等間隔に10点を計測し、計測した中間層の厚みの平均値を中間層の厚みとした。
【0014】
また、導電セラミックス層は、Al(アルミニウム)の含有量が0.1%質量以下であることが好ましい。
SiC及びSiが良好な導電性を発揮するためには、導電セラミックス層は、不純物を添加して半導体化させることが一般的である。導電セラミックス層におけるAlの含有量が多い場合には、中間層を形成する熱処理温度1410〜1800℃において、SiCを主成分として構成されるハニカム体にAlが分散してしまう。この場合には、Alの分散が、所望の抵抗値に調整されているハニカム体の抵抗値を変動させるため好ましくない。従って、導電セラミックス層におけるAlの含有量は、半導体化に必要な少量とすることが好ましく、0.1質量%以下であることが好ましい。このAlの含有量は、0.01〜0.1質量%とすることができる。
【0015】
導電セラミックス層及び中間層を構成するSiCにおいては、4H型と3C型との少なくとも一方の結晶系が30%以上存在することが好ましい。
SiCには結晶多形が存在し、結晶系によって電子移動度が異なる。SiCの中でも比較的低温で生成される4H型、3C型は、主として高温で生成される6H型に比べて電子移動度が大きく、導電性が良い。
低温型SiCは1410〜2200℃で生成される。これより、導電セラミックス層及び中間層を形成する際の熱処理温度(接合処理温度)は、1410〜1800℃とすることが好ましい。これにより、ハニカム体の外皮部における中間層に新たに生成するSiCを、より確実に低温型とすることができる。
【0016】
また、上記導電セラミックス層及び上記中間層は、上記SiC及びSi以外にも、Cを含有していることが好ましい(請求項2)。
この場合には、導電セラミックス層及び中間層から構成する電極の抵抗値を低減し、その導電性を向上させることができる。
【0017】
また、上記導電セラミックス層及び上記中間層は、SiCを70〜94質量%、Siを5〜20質量%、Cを1〜10質量%含有することが好ましい(請求項3)。
この場合には、導電セラミックス層及び中間層において、骨材として強度に寄与するSiC、溶融拡散し接合に寄与するSi、導電材として抵抗値に寄与するCの含有量が適切であり、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性に優れたハニカム構造体を容易に形成することができる。
また、導電セラミックス層の組成は、JIS R 6124に示される化学分析法を用いて測定することができる。
【0018】
また、上記導電セラミックス層の厚みは、0.5〜2mmであることが好ましい(請求項4)。
この場合には、導電セラミックス層の厚みが適切であり、ハニカム構造体を製造する際に、適切な厚みの中間層を容易に形成することができる。
【0019】
導電セラミックス層が0.5mm未満の場合には、ハニカム体の外皮部の凹凸による影響が大きく、電極を安定して形成することが困難である。
一方、導電セラミックス層の厚みが2mm超過の場合には、電極自体の質量が大きくなり、ハニカム体を所望の温度まで通電加熱するための投入電力量が増加してしまう。この場合には、投入電力量が同じときには、通電加熱を行う時間が長くなってしまう。さらにこの場合には、ハニカム構造体を排気管に封入して車両に搭載する際に、ハニカム構造体の円筒形状が歪み、封入時もしくは使用環境下においてハニカム体が破損するおそれがある。
【0020】
また、上記外皮部の厚みは、0.1〜1mmであることが好ましい(請求項5)。
この場合には、外皮部の厚みが適切であり、外皮部に対して適切な厚みの割合の中間層を容易に形成することができる。
外皮部の厚みを0.1mm未満とすることは製造上困難である。外皮部の厚みを1mm超過とすると、形成される中間層の厚みのばらつきが大きくなり、所望する中間層の厚みが得られないおそれがある。
【0021】
また、上記導電セラミックス層と上記中間層とを接合して一対の電極を形成してなるとともに、該一対の電極自体の電気抵抗値は、該一対の電極間の電気抵抗値の10%以下であることが好ましい(請求項6)。
この場合には、導電セラミックス層及び中間層による電極の電気抵抗値を低く維持することができ、電極において発熱により電力が消費されてしまうことを抑制することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明のハニカム構造体及びその製造方法に係る実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のハニカム構造体1は、図1に示すごとく、基材としてのハニカム体2に対して一対の電極11としての導電セラミックス層4及び中間層3を形成してなる。ハニカム体2は、SiC(炭化珪素)を主成分(不可避的不純物を含むことがある。)とする気孔率30〜50%の多孔質セラミックスによって、セル形成部21とセル形成部21の周囲を覆う外皮部22とを形成してなる。導電セラミックス層4は、SiC(炭化珪素)、Si(珪素)及びC(炭素)を含有し、外皮部22の表面に一対に設けられている。中間層3は、SiC(炭化珪素)、Si(珪素)及びC(炭素)を含有し、導電セラミックス層4に対面する位置において外皮部22自体に形成されている。
ハニカム構造体1は、中間層3の厚みをt、外皮部22の厚みをTとしたとき、0.5≦t/T≦1の関係を有している。
【0023】
以下に、本例のハニカム構造体1及びその製造方法につき、図1〜図9を参照して詳説する。
図1、図2に示すごとく、本例のハニカム体2は、円柱形状に形成されており、セル形成部(格子部)21の隔壁211に対して、円柱形状の軸方向に開口するセル(孔)212を形成し、円柱形状の外周を外皮部22によって覆って形成されている。
図2に示すごとく、本例のハニカム構造体1は、導電セラミックス層4と中間層3とによる一対の電極11に対して電力を供給し、ハニカム体2を触媒活性を発現する温度に加熱して、排ガスの浄化を行う電気加熱式触媒コンバータ(EHC)として用いる。
一対の導電セラミックス層4には、SiC−Siの複合材から構成した端子部42がそれぞれ形成してある。そして、一対の端子部42に電源6を接続して、ハニカム構造体1に対して通電を行う。
【0024】
一対の導電セラミックス層4及び中間層3は、図2に示すごとく、円柱形状のハニカム体2の外皮部22の表面に互いに対向する周方向部位に一対に設けることができる。
なお、導電セラミックス層4は、対に設けてあればよく、少なくとも一対以上設けてあれば、複数対にして設けることもできる。また、対に設けられた導電セラミックス層4は、互いに対向して配置される場合、一部対向して配置される場合、対向して配置されない場合を含み、導電セラミックス層4と中間層3とにより形成される対の電極11に対して電力を供給する作用をなせば何れの配置構造をとることもできる。ただし、この中でも、特に、導電セラミックス層4と中間層3とによる一対の電極11を互いに対向するように配置することが好ましい。
【0025】
図4〜図7に示すごとく、本例の中間層3は、ハニカム体2の外皮部22を構成する多孔質セラミックスにおける隙間(複数の微細孔)102を、Si、C等によって閉塞することによって形成されている。中間層3は、導電セラミックス層4及びこれをハニカム体2の外皮部22に接着する接着剤5から、Si(珪素)及びC(炭素)をハニカム体2の外皮部22に浸透させて、外皮部22においてSiCの形成反応を行った部分によって形成されている。
【0026】
本例の導電セラミックス層4及び中間層3は、導電セラミックス層4となるSiC−Siの複合材41とハニカム体2の外皮部22とを接合する接着剤5に含まれるC(炭素)が浸透して、SiC、Si及びCを含有する層として形成される。
また、外皮部22における中間層3の気孔率pは、Si及びCが浸透したことにより、外皮部22における基材層(Si、C等が浸透していない部分)221の気孔率Pに対し、p≦1/2Pの関係にあることが好ましい。
【0027】
図4〜図7には、導電セラミックス層4、中間層3及び外皮部22の断面における各成分の配置状態を模式的に示す図である。
図4、図6は、ハニカム体2の外皮部22の表面に対して接着剤5を介して導電セラミックス層4を構成するSiC−Siの複合材41を配置した状態を示す。図6において、外皮部22には、多数のSiCの粒子101が結合する隙間として多数の微細孔102が形成されている。一方、SiC−Siの複合材41には、多数のSiCの粒子101の間にSi(遊離珪素)103が存在する状態にある。また、接着剤5にはC(遊離炭素)104が含有されている。
【0028】
図5、図7は、ハニカム体2の外皮部22の表面に接着剤5を介してSiC−Siの複合材41を配置したものを、所定の温度で加熱・焼成して、ハニカム体2の外皮部22の表面に導電セラミックス層4を形成すると共に外皮部22の表面側に中間層3を形成した状態を示す。図7において、ハニカム体2の外皮部22の表面側においては、SiCの粒子101の間の隙間(多数の微細孔)102に、SiC−Siの複合材41におけるSi(遊離珪素)103及び接着剤5におけるC(遊離炭素)104が溶融拡散して浸透して、中間層3を形成している。また、中間層3におけるSiCの粒子101の間の隙間(多数の微細孔)102には、浸透したSi(遊離珪素)103の一部とC(遊離炭素)104の一部とが化学反応して、新たにSiC(炭化珪素の生成物)105が形成されている。
【0029】
一方、導電セラミックス層4における中間層3側の表面部分においても、SiC−Siの複合材41が元々含有するSi(遊離珪素)103の一部と接着剤5から浸透したC(遊離炭素)104の一部とが化学反応して、新たにSiC(炭化珪素の生成物)105が形成されている。そして、導電セラミックス層4と外皮部22の中間層3とは、一体化されている。導電セラミックス層4と中間層3とは、いずれもSiC、Si、Cを含有する層として形成されている。
また、導電セラミックス層4を形成するために、ペースト状のSiC−Siの複合材41を用いる場合には、この複合材41に対してC(炭素)を含有させておくことができる。
【0030】
図8には、本例の導電セラミックス層4、及び外皮部22の中間層3の断面を電子顕微鏡(SEM)によって観察した反射電子像を示す。図8(a)は、導電セラミックス層4の断面を200倍の倍率で拡大して示し、図8(b)は、外皮部22の中間層3を含む接合部の断面を50倍の倍率で拡大して示し、図8(c)は、図8(b)の一部E(破線によって四角に囲んで示す。)を200倍の倍率で拡大して示す。同図においては、気孔を符号αによって示す。
【0031】
図8(a)において、Siは白色で確認することができ、SiC粒子を繋ぐようにSiC粒子周辺に存在している。そして、導電セラミックス層4は、Siの存在により、SiCに比べて低い電気抵抗値を示し、導電性を有することができる。また、図8(b)、(C)からわかるように、中間層3は、導電セラミックス層4から溶融拡散したSiが、外皮部22における表層部の気孔αを閉塞するように浸透することによって形成されている。そして、中間層3は、ハニカム体2と導電セラミックス層4との接合を行っている。中間層3には、新たに生成したSiC、未反応のSi(写真白色部)、Cが含有される。
【0032】
図8(b)においては、接着剤5を起源とする部分(熱処理前に接着剤5があった部分)を符号50によって示す。この接着剤5を起源とする部分50は、熱処理後には、導電セラミックス層4の一部となっている。
また、図8には記載されていないが、基材層221には、SiCの粒子の間の気孔(隙間)αが形成されている。そして、基材層221は、導電セラミックス層4及び中間層3に比べて9倍以上高い電気抵抗値を示し、弱い導電性を有している。
【0033】
本例の導電セラミックス層4は、SiCを70〜94質量%、Siを5〜20質量%、Cを1〜10質量%含有するものであり、その厚みは、0.5〜2mmの範囲内で略均一な厚みに設定されている。また、本例のハニカム体2の外皮部22の厚みは、0.1〜1mmの範囲内で略均一な厚みに設定されている。
本例の中間層3は、SiCを70〜94質量%、Siを5〜20質量%、Cを1〜10質量%含有するものであり、その厚みは、ハニカム体2の外皮の厚みに対して0.5〜1倍であり、0.05〜1mmの範囲内で略均一な厚みに設定されている。
【0034】
本例の導電セラミックス層4及び中間層3を構成するSiCにおいては、4H型と3C型との少なくとも一方の結晶系が30%以上存在する。より具体的には、本例の導電セラミックス層4は、6H型の結晶系を49.0%、4H型の結晶系を22.3%、3C型の結晶系を28.7%含有している。この結晶系の種類は、X線回折装置((株)リガク;RNT−2000型)にて測定したX線回折図から結晶多形の割合を計算して求めることができる。
【0035】
図9には、一対の導電セラミックス層4に電源6を接続し、ハニカム構造体1をジュール熱によって加熱する際の電気回路モデルを示す。
電気回路モデルの中心部には、基材としてのハニカム体2の抵抗(セル形成部21及び外皮部22における基材層221の抵抗)r1があり、ハニカム体2の抵抗r1の外側には、中間層3の抵抗r2、r2’があり、中間層3の抵抗r2、r2’の外側には、導電セラミックス層4の抵抗r3、r3’がある。ハニカム構造体1の電気回路モデルは、各抵抗r1、r2、r2’、r3、r3’が直列に接続された関係にある。
中間層3の抵抗r2及び導電セラミックス層4の抵抗r3は、一方の電極11の抵抗R1を構成し、R1=r2+r3である。中間層3の抵抗r2’及び導電セラミックス層4の抵抗r3’は、他方の電極11の抵抗R1’を構成し、R1’=r2’+r3’である。そして、一対の電極11の電気抵抗値R1+R1’は、一対の電極11間(ハニカム構造体1全体)の電気抵抗値Rの10%以下である。
【0036】
本例のハニカム構造体1は、次のようにして製造することができる。
まず、成形工程として、SiCの材料から、複数のセル212を形成してなるセル形成部21と、セル形成部21の周囲を覆う外皮部22とからなるハニカム体2を成形する。また、導電セラミックス層4となるSiC−Siの複合材41の焼成体又はシートを成形する。
次いで、複合材配置・塗布工程(第1工程)として、ハニカム体2の外皮部22の表面に、SiCとCとを含有してなるペースト状の接着剤5を塗布する。次いで、ハニカム体2の外皮部22の表面であって接着剤5を塗布した表面に、SiC、Si及びCを含有する固形状又はペースト状の複合材41を配置又は塗布する(図4参照)。また、複合材仮接合工程においては、複合材41におけるSiと接着剤5におけるCとの比率Si/Cを適切に調整する。このSi/Cは、2.6〜3.3とした。
【0037】
次いで、加熱・焼成工程(第2工程)において、ハニカム体2の外皮部22の表面に接着剤5を介して複合材41を配置又は塗布してなる中間体を、所定の熱処理温度(約1600℃)に加熱する。このとき、複合材41に含まれるSiが溶融し、接着剤5におけるCがSiと共にハニカム体2の外皮部22及び複合材41へと拡散浸透する。ここで、中間体を加熱・焼成する温度は、Siの融点よりも高い温度とすることができ、例えば、1410〜1800℃とすることが好ましい。また、加熱・焼成時の雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気とするか、真空雰囲気とする。
こうして、中間体の焼成を行ったときには、ハニカム体2の外皮部22に中間層3を形成すると共に、導電セラミックス層4を形成して、ハニカム構造体1を製造することができる。また、中間層3の厚みtと外皮部22の厚みTとの関係を0.5≦t/T≦1に調整して、導電セラミックス層4と中間層3とを形成する。
【0038】
ハニカム構造体1の導電セラミックス層4及び中間層3は、SiCを生成する反応に使われるCと、未反応のまま残留するCとが存在することによって、電気抵抗を低減し、導電性を向上させることができる。
導電セラミックス層4及び中間層3において、未反応のCの量を調整する方法として、接着剤5におけるカーボンの粒子径を調整する方法がある。そして、カーボンの粒子径を大きくしたときには、粒子の表面部においてはSiCを生成する一方、粒子の内部においてはCを残留させることができる。一方、カーボンの粒子径を小さくしたときには、粒子の略全体をSiCの生成に供することができる。
【0039】
そのため、接着剤5におけるカーボンの粒子径を大小混在させることにより、SiCの生成に供されずに残留させるCの量を調整することができる。本例の接着剤5におけるカーボンは、粒子径が20μm未満のCを主原料とし、この主原料に、粒子径が20〜50μmであるCを3〜30質量%含有させたものとしている。
また、カーボンの粒子径は、ハニカム体2の外皮部22における気孔内(粒子間の隙間)に浸透させるために、ハニカム体2の外皮部22における気孔の穴径よりも小さくすることが好ましい。
【0040】
本例のハニカム構造体1は、上記のごとく、中間層3の厚みをt、外皮部22の厚みをTとしたとき、0.5≦t/T≦1の関係を有している。中間層3の厚みtが外皮部22の厚みTの半分以上であることにより、一対の導電セラミックス層4及び中間層3を一対の電極11として、一対の電極11間に通電を行って繰り返し使用する際に、一対の電極11の抵抗値が変動し難くすることができ、かつ、一対の導電セラミックス層4に剥離、破損等が生じ難くすることができる。
【0041】
また、中間層3の厚みtを外皮部22の厚みT以下とすることにより、中間層3がセル形成部21にまで形成されてしまうことを防止し、セル形成部21の電気抵抗値が下がって、ハニカム構造体1の昇温性の悪化を防止することができる。
それ故、本例のハニカム構造体1によれば、通電を行って繰り返し使用する際の電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性を確保することができる。また、複合材41におけるSiと接着剤5におけるCとの比率Si/Cを、2.6〜3.3に適切に調整したことにより、0.5≦t/T≦1の関係を有する適切な厚みtの中間層3を容易に形成することができる。
【0042】
(確認試験1)
本確認試験においては、外皮部22の厚みTに対して、外皮部22自体の表面部に形成する中間層3の厚みtを変化させて、所定温度に繰り返し加熱した後の電気抵抗値(電気的接合信頼性)、及び剥離又は亀裂の有無(機械的接合信頼性)について測定した。本確認試験においては、導電セラミックス層4は、SiCを約83%、Siを約15%、Cを約2%含有する層として形成した。
また、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性の測定は、ハニカム構造体1の試料をエンジン排気管に設置し、ハニカム体2の中心部が900℃になるまで約100秒間加熱し、次いで、この加熱後の状態に約200秒間保持し、次いで、ハニカム体2の中心部が200℃になるまで約300秒間冷却する冷熱サイクル(1サイクル/600秒)を500サイクル繰り返した後に実施した。
なお、外皮部22の厚み及び中間層3の厚みは、ハニカム構造体1を電極11の形成部分において切断し、この切断を行った断面において、走査型電子顕微鏡を用いて等間隔に10点計測した厚みの平均値として求めた。
【0043】
試験に用いるハニカム構造体1の試料X1〜X25におけるハニカム体2は、SiCを主成分(95%以上含有)とし、直径93mmであり、長さが20mmであり、外皮部22の厚みが0.3mmであるものとした。ハニカム構造体1の試料X1〜X25においては、アルゴンガスの雰囲気において1600℃に加熱し、ハニカム体2に、導電セラミックス層4及び中間層3による電極11を形成した。また、電極11は、ハニカム体2の断面中心の回りの周方向両端の間の角度θが78°になるように形成した(図1参照)。
ここで、外皮部22の厚みを0.1mm未満とすると、ハニカム体2の強度が著しく低下するため、外皮部22の厚みは0.1mm以上とした。一方、外皮部22の厚みを1mm超過とすると、ハニカム体2の熱容量が増加し、昇温性が悪化するため、外皮部22の厚みは1mm以下とした。
【0044】
ハニカム構造体1の試料X1〜X25においては、ハニカム体2の気孔率を変化させ、中間層3の厚みtと外皮部22の厚みTの比率t/Tについて評価した。
ハニカム構造体1の試料X1〜X25としては、接着材5におけるCの含有量、導電セラミックス層4におけるSiの含有量、及び熱処理時間を調整し、中間層3の厚みtの異なるものを複数準備した。
ハニカム構造体1におけるハニカム体2の気孔率は、水銀圧入式のポロシメータ((株)島津製作所:オートポア)を用いた水銀圧入法により測定した(測定範囲:0.5〜10000psia)。
【0045】
電気的接合信頼性の評価については、加熱冷却サイクルを行う前と行った後の試料の電気抵抗値を測定し、加熱冷却サイクルを行う前と行った後との電気抵抗値の変化率(増加率)が5%以下である場合を○、100%以上である場合を×、両者の中間である場合を△とした。
一方、機械的接合信頼性の評価については、加熱冷却サイクルを行う前と行った後の試料における導電セラミックス層4の剥離又は亀裂の有無を観察し、導電セラミックス層4の剥離又は亀裂が認められなかった場合を○、導電セラミックス層4が略完全に剥離又は亀裂していた場合を×、どれだけか剥離又は亀裂を生じていた場合を△とした。
表1に、ハニカム体2の気孔率(%)と、ハニカム体2の外皮部22の厚みTに対する中間層3の厚みtの比率t/Tとを変化させたときのハニカム構造体1の試料X1〜X25の電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性について評価を行った結果を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
同表において、厚みの比率t/Tが0.13、0.2(試料X1、X2)の場合は、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性のいずれもが×となった。この場合、導電セラミックス層4と外皮部22との接合厚み(接合深さ)が不充分であり、加熱冷却サイクルにおいて導電セラミックス層4の剥離が生じ、ハニカム構造体1の電気抵抗値は測定不能となった。
厚みの比率t/Tが0.25、0.38(試料X3、X4)の場合は、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性のいずれもが△又は×となった。この場合、加熱冷却サイクルにおいて導電セラミックス層4の一部に亀裂が生じ、これに伴う接合面積の低下によりハニカム構造体1の電気抵抗値が増大した。
【0048】
これらに対し、厚みの比率t/Tが0.5、0.65、0.82、1.0(試料X5〜X8)の場合は、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性のいずれもが○となり、加熱冷却サイクルにおいて導電セラミックス層4に剥離又は亀裂が生じず、ハニカム構造体1の電気抵抗値も低い値に維持することができた。
一方、厚みの比率t/Tが1.2、1.5(試料X9、X10)の場合は、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性のいずれもが○である。しかし、この場合は、ハニカム体2のセル形成部21内にまで中間層3が形成された場合であり、ハニカム体2のセル形成部21が導電性を有することになり、セル形成部21が有効に昇温されず、ハニカム構造体1の触媒活性を低下させてしまうため好ましくない。
【0049】
また、気孔率が29.8%、50.4%、58.9%である試料X11〜X25についても、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性の評価を行った。この場合も、厚みの比率t/Tが小さいときには、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性のいずれもが×となった。この場合、導電セラミックス層4と外皮部22との接合厚み(接合深さ)が不充分であった理由による。
また、ハニカム体2の気孔率が50.4%、58.9%である場合、ハニカム体2の強度が低下してしまう。この場合、厚みの比率t/Tが0.5〜1の範囲内にあったとしても、使用に適さない。
一方、ハニカム体2の気孔率が29.8%である場合、ハニカム体2の質量が増大してしまい、通電加熱を行う際に多量の電力及び時間を要する。この場合、厚みの比率t/Tが0.5〜1の範囲内にあったとしても、使用に適さない。
【0050】
以上、試料X5〜X8の結果より、外皮部22の厚みTに対する中間層3の厚みtの比率t/Tは、1/2(0.5)〜1の範囲内であることが、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性の確保について好適であることがわかった。また、ハニカム体2の気孔率(%)は、30〜50%とすることが好ましい
【0051】
(確認試験2)
本確認試験においては、導電セラミックス層4と中間層3とからなる電極11の組成を異ならせ、所定温度に繰り返し加熱した後の電気抵抗値(電気的接合信頼性)、及び剥離又は亀裂の有無(機械的接合信頼性)について測定した。
本確認試験においては、導電セラミックス層4及び中間層3を、SiCとSiとを含有する2成分系の層と、SiCとSiとCとを含有する3成分系の層とから形成した。この2成分系及び3成分系の電極11を用いたハニカム構造体1の試料Y1〜Y11を表2に示す。同表において、SiC、Si、Cの前の数字は、組成全体における成分の割合(質量%)を示す。
なお、導電セラミックス層4及び中間層3の組成は、JIS R 6124に示される化学分析法を用いて測定した。
【0052】
【表2】

【0053】
本確認試験においては、ハニカム構造体1の試料Y1〜Y11における一対の導電セラミックス層4に電極11を接続して、この試料Y1〜Y11に1Aの電流を流しながら、所望のポイントの電位差をデジタルボルトメーターで測定する。この測定は、ハニカム体2の中間層3の抵抗r2及び導電セラミックス層4の抵抗r3を含む一方の電極11の抵抗R1と、ハニカム体2の中間層3の抵抗r2’及び導電セラミックス層4の抵抗r3’を含む他方の電極11の抵抗R1’と、ハニカム体2の抵抗(セル形成部21及び外皮部22における基材層221の抵抗)r1とを区別して行う。また、ハニカム構造体1全体の抵抗Rは、R=r1+R1+R1’から求める。デジタルボルトメーターで測定する部位は、具体的には電極11を形成するハニカム体2の外皮部22の隔壁211側とした(図1において符号Mで示す。)。
そして、ハニカム構造体1全体の抵抗Rに対する一対の電極11の抵抗(R1+R1’)の割合(百分率)を、(R1+R1’)/R×100(%)の式から求めた。
【0054】
こうして、電気的接合信頼性の評価として、2成分系及び3成分系の電極11を用いたハニカム構造体1の試料Y1〜Y11について、ハニカム構造体1全体の抵抗Rに対する一対の電極11の抵抗(R1+R1’)の割合を求め、電極11の抵抗の割合が、3%以下である場合は○、10%以上である場合は×、これらの間にある場合は△とした。
また、機械的接合信頼性の評価として、上記確認試験1と同様の加熱冷却サイクルを繰り返した後、導電セラミックス層4に剥離又は亀裂が生じなかったものを○、導電セラミックス層4の一部に剥離又は亀裂が生じたものを△とした。また、導電セラミックス層4とハニカム体2とを接合することができなかったものを×とした。
これらの各評価を表2に示す。
【0055】
電極11の抵抗値は10%以下に抑えることが好ましい。電極11の抵抗値が10%を超える場合、ハニカム構造体1を用いたハニカムヒータを数十秒で触媒活性温度まで加熱させる電力量を投入した際に、電極11が大きく発熱することになる。そして、電極11の破損及び電極11へ電力を供給する電気回路側の破損が生じるおそれがある。また、電極11の抵抗値は3%以下に抑えることが好ましい。
【0056】
同表において、2成分系の電極11について、Siが2質量%(試料Y1)、5質量%(試料Y2)の場合には、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性がいずれも×となった。この場合、導電セラミックス層4の接合に必要なSiの量が不充分であり、ハニカム体2の外皮との接合ができず、電気抵抗値は測定不能となった。
また、2成分系の電極11について、Siが10質量%(試料Y3)、20質量%(試料Y4)、30質量%(試料Y5)の場合には、電気的接合信頼性がいずれも△となり、機械的接合信頼性が○又は△となった。この場合、導電セラミックス層4の接合はできるものの、一対の電極11の抵抗を充分に低くすることができなかった。また、Siが30質量%の場合は、ハニカム体2の外皮へ溶融拡散するSiの量が多いため、導電セラミックス層4の強度が低下し、導電セラミックス層4に亀裂が生じた。
【0057】
3成分系の電極11について、Siが5質量%及びCが0.5質量%(試料Y6)の場合には、機械的接合信頼性が○となったものの、電気的接合信頼性が△となった。この場合、Cの量が少なくて、一対の電極11の抵抗を充分に低くすることができなかった。
また、3成分系の電極11について、Siが5質量%及びCが1質量%(試料Y7)、Siが5質量%及びCが5質量%(試料Y8)、Siが5質量%及びCが10質量%(試料Y9)の場合には、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性がいずれも○となった。この場合、未反応のC(中間層3におけるSiCの形成反応に使用されないC)が導電セラミックス層4及び中間層3に残留し、Cによる良好な導電性が発揮されるため、一対の電極11の抵抗を低く抑えることができた。また、適切なSiの量により、一対の電極11の強度を高く維持することができた。
【0058】
また、3成分系の電極11について、Siが5質量%及びCが15質量%(試料Y10)の場合には、電気的接合信頼性が○となったものの、機械的接合信頼性が△となった。この場合、導電セラミックス層4及び中間層3におけるCの量が多くてこれらの層が脆くなり、これらの層に亀裂や剥離が生じた。
また、3成分系の電極11について、Siが20質量%及びCが10質量%(試料Y11)の場合には、電気的接合信頼性及び機械的接合信頼性がいずれも○となった。この場合、Siを30質量%含有する2成分系の試料X15に比べて、Siの量が減った分、Cの量が増加したことにより、一対の電極11の抵抗を低く抑え、一対の電極11の強度を高く維持できるためであると考える。
【0059】
以上、試料Y7〜Y9、Y11の結果より、導電セラミックス層4及び中間層3の組成は、SiCを70〜94質量%含有すると共に、Siを5〜20質量%含有し、Cを1〜10質量%含有することが最も好適であることがわかった。
【0060】
なお、導電セラミックス層4及び中間層3において、SiCの含有量が70質量%未満の場合には、Si及びCの含有量が多くなって、機械的強度の維持が困難になる。一方、SiCの含有量が94質量%超過の場合には、Si及びCの含有量が少なくて、ハニカム体2の外皮における中間層3と導電セラミックス層4とを接合することが困難である。
Siが5質量%未満の場合には、ハニカム体2の外皮部22に対してSiが充分に浸透することができず、ハニカム体2の外皮における中間層3と導電セラミックス層4とを接合することが困難である。一方、Siが20質量%超過の場合には、ハニカム体2の外皮へ浸透するSiの量が多くて、導電セラミックス層4の強度が低下してしまうおそれがある。
Cが1質量%未満の場合には、一対の電極11の電気抵抗値を充分に低くすることができないおそれがある。一方、Cが10質量%超過の場合には、一対の電極11の強度が低下してしまうおそれがある。
【0061】
(確認試験3)
本確認試験においては、外皮部22の厚みTが異なるハニカム体2の試料Z1〜Z6に対して導電セラミックス層4を形成する際に、導電セラミックス層4と同時に形成される中間層3の厚みtのばらつきの大きさを確認した。中間層3は、厚みtが0.5T〜Tの範囲内になるように形成した。また、形成する中間層3の厚みtに生じるばらつきを評価するために、外皮部22の厚みTが同じである10個のサンプルに対して、同じ製造条件で導電セラミックス層4及び中間層3を形成した、そして、試料Z1〜Z6それぞれの10個ずつのサンプルについて、中間層3の厚みtを測定し、その測定値の標準偏差Dを求めた。評価は、外皮部22の厚みTに対する中間層3の厚みtのばらつきを見るために、D/Tによって行った。
【0062】
D/Tが大きいと、外皮層22の厚みTに対して、形成される中間層3のばらつきが大きいことを意味する。中間層3の厚みtを0.5T〜Tの範囲内にするには、中間層3の厚みtのばらつきが小さい方が好ましく、具体的には、D/Tは0.2以下となることが好ましい。本確認試験における評価は、D/Tが0.2以下であるものを○とし、D/Tが0.2を超えるものを×とした。
表3に、外皮部22の厚みTに対する、中間層3の厚みtのばらつきDの比率D/Tを測定した結果を示す。この評価結果より、外皮部22の厚みTが1.0mmよりも大きい場合、D/Tが0.2を超えることになり、所望する厚みtの中間層3が得られないおそれがある。また、厚みTが0.1mm未満である外皮部22を製造することは困難である。従って、外皮部22の厚みは、0.1〜1mmの範囲内にすることが好ましい。
【0063】
【表3】

【0064】
(確認試験4)
本確認試験においては、複合材41におけるSiと接着剤5におけるCとの比率Si/Cを変化させた試料W1〜W7について、形成される中間層3の厚みtを確認した。
本確認試験においても、ハニカム構造体1は確認試験1と同様に製造し、製造したハニカム体2の気孔率は42%であった。
ハニカム構造体1の試料W1〜W7について、導電セラミックス層4は、SiCを83質量%、Siを15質量%、Cを2質量%含有するものとした。また、ハニカム体2の外皮部22の厚みTを0.3mmとし、Si/Cを適宜変更したときに形成された中間層3の厚みtを確認した。
【0065】
また、ハニカム体2と導電セラミックス層4との接合を行うときの熱処理条件は、アルゴン雰囲気で1600℃とし、反応を確実に完了させるために同じ熱処理温度で5時間保持した。
そして、本確認試験の評価においては、形成された中間層3の厚みtが0.15〜0.3mmとなって、中間層3の形成が認められたものを○とし、それ以外を×とした。
表4に、Si/Cと、形成された中間層3の厚みtとの関係について評価した結果を示す。
【0066】
【表4】

【0067】
同表において、Si/Cが1.8、2.3である場合(試料W1、W2)については、中間層3が十分形成されず、評価が×となった。この場合、接着剤5におけるCの含有量が多く、ハニカム体2の外皮部22の表層部及び接着剤5内でSiCの生成反応が終了してしまい、接合信頼性が高い中間層3を得ることができなかった。
一方、Si/Cが3.6、4.0である場合(試料W6、W7)については、形成された中間層3の厚みが0.3mmを超えて大きくなり、評価が×となった。この場合、複合材41における余剰のSiがSiCに変化することなく溶融拡散を繰り返し、ハニカム体2の外皮部22を大きく超えて、セル形成部(格子部)21の隔壁211まで拡散するため好ましくない。
【0068】
これらに対し、Si/Cが2.6、2.9、3.3である場合(試料W3〜W5)については、ハニカム体2の外皮部22へのSi及びCの浸透、及び外皮部22におけるSiCの生成反応が良好に生じ、所望の中間層3を形成することができた。
この結果より、Si/Cは、2.6〜3.3の範囲内に調整するのが最適であることがわかった。
ハニカム体2の外皮部22の厚みTに対する、複合材41におけるSi及び接着剤5におけるCの適正量については、ハニカム体2の外皮部22の厚みT、ハニカム体2の気孔率等を考慮して調整することができる。ハニカム体2の外皮部22の厚みTに対して、中間層3の厚みtが0.5≦t/T≦1の関係を満たすように、Si及びCの量を調整することができる。
【0069】
また、Si/Cの比率を調整することによって、導電セラミックス層4を形成する際の熱処理時間(加熱時間)に影響されることなく、所望の厚みtの中間層3を形成することができる。熱処理を行う際の温度は、低温型のSiCが形成される1410〜1800℃の温度範囲内とすることが好ましく、SiCの生成反応を確実に行うためには、上記温度範囲内において少なくとも30分以上保持することが好ましい。
【符号の説明】
【0070】
1 ハニカム構造体
11 電極
2 ハニカム体
21 セル形成部
22 外皮部
221 基材層
3 中間層
4 導電セラミックス層
41 複合材
5 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCを主成分とする気孔率30〜50%の多孔質セラミックスによって、セル形成部と該セル形成部の周囲を覆う外皮部とを形成してなるハニカム体と、
SiC及びSiを含有し、上記外皮部の表面に対に設けられた少なくとも一対以上の導電セラミックス層と、
SiC及びSiを含有し、上記導電セラミックス層に対面する位置において上記外皮部自体に形成された中間層とを備え、
該中間層の厚みをt、上記外皮部の厚みをTとしたとき、0.5≦t/T≦1の関係を有することを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のハニカム構造体において、上記導電セラミックス層及び上記中間層は、上記SiC及びSi以外にも、Cを含有していることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項3】
請求項2に記載のハニカム構造体において、上記導電セラミックス層及び上記中間層は、SiCを70〜94質量%、Siを5〜20質量%、Cを1〜10質量%含有することを特徴とするハニカム構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体において、上記導電セラミックス層の厚みは、0.5〜2mmであることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体において、上記外皮部の厚みは、0.1〜1mmであることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のハニカム構造体において、上記導電セラミックス層と上記中間層とを接合して一対の電極を形成してなるとともに、該一対の電極自体の電気抵抗値は、該一対の電極間の電気抵抗値の10%以下であることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のハニカム構造体を製造する方法において、上記ハニカム体の上記外皮部の表面に、SiCとCとを含有してなるペースト状の接着剤を介して、SiC、Si及びCを含有する固形状又はペースト状の複合材を配置又は塗布する第1工程と、該接着剤及び該複合材を加熱・焼成する第2工程とを有し、
上記第1工程において、上記複合材におけるSiと上記接着剤におけるCとの比率Si/Cを調整することにより、上記第2工程において、上記複合材におけるSiと上記接着剤におけるCとを上記外皮部へ浸透させて、上記中間層の厚みtと上記外皮部の厚みTとの関係を0.5≦t/T≦1に調整して、上記導電セラミックス層と上記中間層とを形成することを特徴とするハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−30215(P2012−30215A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106916(P2011−106916)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000219750)東海高熱工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】