ハニカム構造体成形口金用電極
【課題】放電加工によって狭い(細い)スリットを備えた口金を得ることが出来、その放電加工中において口金に破損や変形が生じ難い、電極を提供すること。
【解決手段】放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体122を備え、その電極基体122の2つの主面のうちの一の面127のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が設けられており、その一の面127において電極セル142の形状が、ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であるハニカム電極(ハニカム構造体成形口金用電極)120の提供による。
【解決手段】放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体122を備え、その電極基体122の2つの主面のうちの一の面127のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が設けられており、その一の面127において電極セル142の形状が、ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であるハニカム電極(ハニカム構造体成形口金用電極)120の提供による。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口金の加工に使用される電極に関する。この電極で加工される口金は、ハニカム構造体を成形するために用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
ハニカム構造体は、一般に、外形が円柱形又は角柱形を呈する、セラミック製品である。このハニカム構造体は、多数の細孔を有するセラミックの多孔質体からなる隔壁によって区画された、複数のセルを有する(ハニカム構造を呈する)ものである。このようなハニカム構造体は、上記セルがガスの流路となって、フィルタや触媒担体として多用されている。
【0003】
ハニカム構造体は、専用のハニカム構造体成形口金(単に口金ともいう)を備えた押出成形機を用いて、押出成形によって製造することが出来る。この口金は、純金属や合金等からなる口金基体に、成形原料(坏土ともいう)を導入する裏孔(導入孔ともいう)と、その裏孔に連通するスリットと、が形成されてなるものである。スリットは、セルの断面形状に合わせた形状をなし、ハニカム構造体の隔壁の厚さに対応する幅を有している。裏孔は、スリットの幅より大きく、スリットが交差する位置に対応して設けられる。このような口金を用いた押出成形によれば、裏孔から導入された成形原料は、幅の狭いスリットへと移り、スリットの開口から押し出され、ハニカム構造の成形体(ハニカム成形体ともいう)として排出される。
【0004】
そして、上記口金は、電極を用いた放電加工(EDM加工)、切削加工、研削加工、電解加工等によって、スリット及び裏孔の形成されていない口金基体に、上記スリット及び裏孔を形成して、得られる。
【0005】
例えば、特許文献1、特許文献2では、断面形状が六角形のセルを有するハニカム構造体を得るための、口金を製造する過程が示されている。そこでは、スリットに合わせた薄い平板状の突起(リブともいう)を多数備えた、櫛歯状の電極(リブ電極ともいう)が使用されている。そして、スリットは、その電極における薄い平板状の突起からの放電によって、加工されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第1784822号公報
【特許文献2】特開2005−254345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年のハニカム構造体においては、(流通)セルの密度を高め、(多孔質)隔壁を薄くすることが求められている。例えば、断面形状が六角形の(流通)セルを有するハニカム構造体では、1平方インチ当りの(流通)セルの数は400〜900個、(流通セルの)六角形の対向する2辺間の距離(対辺長ともいう)は0.50〜2.00mm、(流通)セルを形成する(多孔質)隔壁の厚さは1.5〜6ミル(1ミルは約0.0254mm)であることが求められる。
【0008】
(多孔質)隔壁が薄くなれば、口金のスリットを狭く(細く)しなければならない。そのため、その口金の放電加工に用いる櫛歯状電極(リブ電極)においても、平板状突起(リブ)を薄くする必要がある。そうなると、櫛歯状電極の破損が生じ易くなる。そして、例えば放電加工時に櫛歯状電極の平板状突起が折れれば、得られる口金の形状は異常になる。形状が異常な口金を用いて成形すれば、得られるハニカム構造体の(流通)セルの形状も異常となり、セラミック製品としての歩留まりが低下する。
【0009】
このような問題意識の下で、対策が検討された結果、櫛歯状電極(リブ電極)ではなく、電極の形状を、口金の(全体の又は一部の)相補形状とすれば、櫛歯状電極よりも、放電加工時に電極が折れ難くなるのではないか、との考えに至った。電極はスリットを放電加工するものであるから、厳密には、電極を、口金におけるスリット形成部分の、全体又は一部の、相補形状とすればよい。
【0010】
しかしながら、(多孔質)隔壁の薄いハニカム構造体を得るためには、口金のスリットを狭く(細く)しなければならないことに、変わりはない。そうすると、電極の形状を、櫛歯状ではなく、口金の相補形状としたところで、スリットに対応する部分は薄くする必要があるから、放電加工時に、電極が、仮に折れないとしても、変形することがある。そうなれば、最終的に得られるハニカム構造体(セラミック製品)の歩留まりの低下は避けられない。よって、更なる改善が求められることとなった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。放電加工によって狭い(細い)スリットを備えた口金を得ることが出来、その放電加工中において(口金に)破損や変形が生じ難い、電極を提供することを課題とする。研究が重ねられた結果、以下の手段によって、この課題が解決されることが見出され、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明によれば、周面と二の端面とを有する柱状を呈し多孔質隔壁によって区画された複数の流通セルを有するハニカム構造体を成形する口金の作製に用いられる電極であって、放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を備え、その電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが設けられており、その一の面において電極セルの形状が、ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であるハニカム構造体成形口金用電極が提供される。
【0013】
ハニカム構造体成形口金用電極における電極セルの形状がハニカム構造体の流通セルの形状と相似であるとは、1つの電極セルの形状が1つの流通セルの断面形状(あるいは端面形状)と相似であるということである。ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁と電極セルが表す形態が、ハニカム構造体における多孔質隔壁と流通セルが表す形態と、厳密に相似である、というわけではない。但し、ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁は、ハニカム構造体の多孔質隔壁とは、厚さが異なるだけであり、ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁及び電極セルが表す形態は、ハニカム構造体の端面又は軸方向に垂直な断面に表れる形態の一部又は全部と、略似ている(概ね相似である)ということが出来る。そこで、本明細書において、ハニカム構造体成形口金用電極を、ハニカム電極とも表現する。
【0014】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、ハニカム構造体を成形するために用いられる、(ハニカム構造体成形)口金の加工に使用される電極である。ハニカム構造体を成形するハニカム構造体成形口金用電極は、口金の加工に使用されるものであり、口金を製造するために用いられる。そして、その口金は、ハニカム構造体を成形するために用いられるものである。より厳密には、焼成前の、セラミックを主材料としてなる成形原料(坏土)を通して、ハニカム形状の成形体(ハニカム成形体)を得るために使用される。成形用口金であるが、ハニカム構造体成形用口金用電極という表現は冗長なので、本明細書において、成形口金と称することとする。又、ハニカム電極においても、隔壁(電極隔壁)、セル(電極セル)の語を用いるので、本明細書では、ハニカム構造体においては、多孔質隔壁、流通セルと表現している。
【0015】
ハニカム構造体の断面形状に対応した形状が、口金の形状に表れ、口金の形状に対応した形状が、(ハニカム構造体成形口金用)電極の形状に表れる。具体的には、口金のスリット(凹部)の形状は、ハニカム構造体の多孔質隔壁(凸部)の形状に対して、相補形状になる。又、(ハニカム構造体成形口金用)電極の電極隔壁(凸部)の形状は、口金のスリット(凹部)の形状に対して、相補形状になる。相補形状は、相互に補う形状である。相補形状とは、例えば、凹部と凸部のように、嵌め込んで(噛み込んで)一体になる形状をいう。但し、本明細書における相補形状は、必ずしも寸分の隙間なく噛み合うものに、限定されない。(放電)加工には、通常、加工代が必要となるので、その加工代分の隙間、ズレは許容される。
【0016】
電極基体には、(ハニカム構造体の)多孔質隔壁に対応する形状の電極隔壁が形成され、その電極隔壁によって区画された複数の電極セルが、電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに表れるので、(ハニカム構造体の)多孔質隔壁によって区画された複数の流通セルを有するハニカム構造体に準じて、電極隔壁によって区画された複数の電極セルを有するハニカム電極と表現している。
【0017】
電極基体の2つの主面のうちの一の面とは、2つの面を有する厚板状(直方体)の電極基体の、何れかの面である。厚板状(直方体)であるから、厚さ方向にも面が存在し得るが、2つの主面とは、厚さ方向ではない2つの面(表面と裏面)を指す。一の面のみに電極セルが設けられている、とは、一の面のみに電極セルが開口している、ことを指す。電極隔壁によって区画された複数の電極セルが設けられている、とは、ハニカム構造体の断面形状(又は端面形状)に対応した形状の全部又は一部が表れている、という意味である。電極セルは、電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに開口しているのであるから、他の面には、電極セルとして開口していない。即ち、他の面に電極セルは設けられていない。但し、他の面に、電極セルではない孔が開口している態様を、取り得る。
【0018】
ハニカム構造体の断面形状とは、一般に外形が円柱体又は角柱体を呈するハニカム構造体の軸方向に垂直な断面の形状である。電極には、ハニカム構造体の断面形状に対応した形状(略似た形状)の、全部が表れていてもよいが、一部が表れていてもよい。ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁及び電極セルが表す形態は、ハニカム構造体の端面又は軸方向に垂直な断面に表れる形態の一部又は全部と、略似ている、とはそういう意味である。同様に、口金には、ハニカム構造体の断面形状に対応した形状(相補形状)の、全部が表れていてもよいが、一部が表れていてもよい。ハニカム構造体の断面形状に対応した形状の全部が少なくとも何れかの面に表れているハニカム電極(耳部を有するフルサイズのハニカム電極(後述する))を使用して、放電加工を行い、一度で、口金を完成させることは、可能である。又、ハニカム構造体の断面形状に対応した形状の一部が少なくとも何れかの面に表れているハニカム電極(耳部を有しない一部分サイズのハニカム電極(後述する))を、繰り返し使用して、放電加工を行い、口金を完成させることも、可能である。
【0019】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極基体の一の面のみに設けられた電極セルの底部に、更に、電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔を有することが好ましい。
【0020】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、孔を有する場合には、電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔が、他の面に開口していることが好ましい。この場合、一の面に開口した電極セルから、他の面に開口した孔を通じた、貫通孔が形成されていることになる。但し、一の面に表れる電極セルの形状と他の面に表れる孔の形状とは異なっている。電極セルの好ましい形状は後述するが、孔の形状は、電極セルの形状と異なっていればよく、例えば、四角形等の多角形であってもよいが、好ましくは円形である。この場合、孔は、円孔となり、この円孔と電極セルとは連通していることになる。
【0021】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、孔を有する場合には、孔が、電極セルと、対で設けられることが好ましい。又は、孔が、複数の電極セル毎に、設けられることが好ましい。孔が電極セルと対で設けられるとは、孔が電極セルと1対1で設けられることを意味する。孔が複数の電極セル毎に設けられるとは、孔が電極セルと1対n(複数)で設けられることを意味する。
【0022】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、孔を有する場合には、孔の中心軸と、電極セルの中心軸とが、同一線上に位置しない(位置させない)ことが好ましい。孔も電極セルも空間であり、これらの中心軸とは、空間を柱状体に見立てたときの中心軸である。限定されるわけではないが、特に、孔が電極セルと1対nで設けられる場合には、孔の中心軸と電極セルの中心軸とが同一線上に位置しないことが好ましい。
【0023】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極隔壁の厚さが、0.01mm以上、0.3mm未満であることが好ましい。電極隔壁の厚さとは、隣接する電極セル間の最短距離である。
【0024】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極セルの形状が、六角形であることが好ましい。これは、換言すれば、このようなハニカム構造体成形口金用電極は、流通セルの形状が六角形であるハニカム構造体を得るための口金を作製するために好適に使用される、ということである。
【0025】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極セルの形状が、八角形及び四角形であることが好ましい。これは、換言すれば、このようなハニカム構造体成形口金用電極は、流通セルの形状が八角形及び四角形であるハニカム構造体を得るための口金を作製するために好適に使用される、ということである。
【0026】
本明細書において、電極セルの形状とは、厚板状のハニカム電極において一の面に表れた電極セルの形状を指すものとする。電極セルは空間であるが、この空間を柱形状に見立てることが出来、電極セルの形状が(例えば)六角形というとき、電極セルは、空間として六角柱形をなす。これは、電極隔壁を含む実体部分が、電極セルの形状が(例えば)六角形になるように形成されている、ということである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極(ハニカム電極)は、ハニカム構造体を成形するための口金を作製するための電極であるので、電極基体の2つの主面のうちの少なくとも一の面に、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが表れ、電極セルの形状が、ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であることが必要である。そして、ハニカム電極における電極隔壁及び電極セルが表す形態は、ハニカム構造体の端面又は軸方向に垂直な断面に表れる形態の一部又は全部と、略似ている。本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極(ハニカム電極)では、電極隔壁によって区画された複数の電極セルは、何れか一の面のみに表れている。これは、換言すれば、電極セルは、ハニカム電極(電極基体)の2つの主面間を貫通していない、ということである。電極セルが表れていない他の面においては、開口がなくてもよく、又は、電極セルに通じた孔(例えば円孔)が開口していてもよいが、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、電極セルが2つの主面間を貫通することはない。
【0028】
このような態様の本発明に係るハニカム電極は、電極セルが貫通したハニカム電極に比して、強度が高くなる。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極(ハニカム電極)は、電極セルが表れない方の面には、当然に、薄い電極隔壁が形成されないので、強度が高いのである。例えば、電極基体の体積の概ね半分程度あるいはそれ以上を、強度向上に寄与させることが可能であり、全体として強度が高い電極になる。従って、電極セルが表れる側において、所望の形状を維持しつつ、当然に表れる電極隔壁を、個々に独立している櫛歯状電極の場合に比して、より薄く(より細く)することが可能である。
【0029】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、より多孔質隔壁の薄いハニカム構造体を得るための、より狭い(より細い)スリットを備えた口金を得るために用いる電極として、好適である。本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁の厚さは、0.01mmを実現する。従来の櫛歯状電極(特許文献2を参照)では、使用可能な平板状突起(リブ)の厚さは0.03mmが限界であった。電極を用いて加工される口金のスリットの幅で比較すれば、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、加工された口金のスリットの幅を、0.03mmとすることが出来る。これに対し、従来の櫛歯状電極(特許文献2を参照)で加工された口金のスリットの幅は、0.05mmが限界であった。口金におけるスリットの幅とは、そのスリットを挟んで隣接する口金の実体部分(口金基体)間の最短距離である。
【0030】
例えば、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、電極隔壁の厚さを0.15mmとし、これを型彫放電加工機(電圧5〜300V、電流0.1〜30A)に取り付けて放電加工すると、得られる口金のスリットの幅のばらつきは、0.20±0.01mmに収まる。これに対し、従来の櫛歯状電極(特許文献2を参照)では、同じように、厚さを0.15mmとして、放電加工すると、得られる口金のスリットの幅のばらつきは、0.20±0.05mmになってしまう。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、口金のスリットの幅のばらつき量は、従来に比して、概ね1/5程度になる。この差は、そのまま、電極の変形量として評価出来る。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、使用中に(口金を作製中に)、電極の変形が起こり難いので、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、寸法誤差の少ない概ね設計通りの形状の口金が得られ、ひいては寸法誤差の少ない概ね設計通りの形状のハニカム構造体を得ることが可能なのである。
【0031】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を用いれば、口金を作製中に、(電極の)破損や変形が起こり難くなる。更に、製造(加工)対象である口金の変形も生じ難くなり、ひいては、その口金で成形されるハニカム構造体の変形も起こり難い。尚、ここでいう変形とは、設計値からのずれを意味する。口金を作製中に、電極の変形が起こると、製造(加工)された口金も変形され(例えば歪んで)、設計通りの形状にならず、その変形(歪み)はハニカム構造体にも転写され、設計通りの形状ではないハニカム構造体(不良品)が作製(成形)されてしまうおそれがあり、歩留まり低下を招来する。本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、このような問題を回避することが出来る。
【0032】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、既述の通り、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが、電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに表れているものである。よって、電極基体の体積の概ね半分程度あるいはそれ以上においては、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが表れるような加工をしなくてもよいから、自らの製造中において、破損し難く変形し難いものである。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、作製し易いものである。
【0033】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、その好ましい態様において、電極基体の一の面のみに設けられた電極セルの底部に、更に、電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔を有するので、(これが他の面に開口していないとしても、)放電加工時に発生するガスを貯める空間(体積)が大きくなる。よって、この孔を有しない態様に比して、相対的に、加工不良が起こり難い。
【0034】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、その好ましい態様において、電極セルの底部に他の面に向けて形成された孔が、他の面に開口しているので、口金の放電加工の際に、放電加工によって生じるスラッジ及びガスを、その孔から加工液等を流すことによって排出させることが出来る。又、その孔からスラッジを吸引することも可能である。よって、加工不良が起こり難い。電極セルの底部に他の面に向けて形成された孔が他の面に開口していないと、口金の放電加工の際に放電加工によって生じるスラッジは、放電加工が行われるハニカム構造体成形口金用電極と、加工対象である口金基体と、の間を通過することとなる。そうすると、放電が不安定になり、加工不良が生じるおそれがあるが、この好ましい態様によれば、このような問題を確実に回避することが出来る。尚、電極の強度を最も優先させるのであれば、電極セルの底部に他の面に向けて形成された孔は存在させない方が望ましく、次いで、この孔を存在させたとしても他の面に開口させないことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ハニカム構造体の一例を、模式的に示す斜視図である。
【図2A】ハニカム構造体成形口金の一例を、模式的に示す断面図である。
【図2B】ハニカム構造体成形口金の一例を、模式的に示す一部拡大斜視図である。
【図2C】ハニカム構造体成形口金の一例を、模式的に示す平面図である。
【図3A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図3B】図3Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極の断面を表した斜視図である。
【図4A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図4B】図4Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極の断面を表した斜視図である。
【図5A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、一の面側から内部を透視して表した斜視図である。
【図5B】図5Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極を、他の面側から内部を透視して表した斜視図である。
【図6A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、一の面を表した平面図(上面図)である。
【図6B】図6Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極における他の面を模式的に表した平面図(裏面図)である。
【図7A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の一の実施形態を模式的に表す図であり、電極基体に複数の円孔を開けた様子を、電極基体の内部を透視して表した斜視図である。
【図7B】図7Aに示される複数の円孔を開けた電極基体を、内部を透視せずに表した斜視図である。
【図8】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の一の実施形態を模式的に表す図であり、複数の円孔に加工用電極を挿入しようとする様子を表した斜視図である。
【図9】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の他の実施形態を模式的に表す図であり、順を追って過程を示した平面図である。
【図10】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の更に他の実施形態を模式的に表す図であり、順を追って過程を示した平面図である。
【図11A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、一の面を表した平面図(上面図)である。
【図11B】図11Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極における他の面を模式的に表した平面図(裏面図)である。
【図12】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、内部を透視して表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0037】
以下の説明に用いる図は、模式図であり、構成要素(例えば電極セルや電極隔壁)の数は、各図において必ずしも一致しておらず、又、実用上の数より、少なくなっている。これは、各図が、発明概念ないし処理過程を理解し易いように描かれた図だからである。例えば、ハニカム電極に関係する電極セル等の数は、図3A、図3B、図4A、及び図4Bにおいては20個、図5A、図5B、図7A、図7B、及び図8においては12個、図6A及び図11Aにおいては22個、図9においては7個、図10においては16個、として描かれているが、実用上の電極セル等の数は、得ようとするハニカム構造体成形口金(例えば図2A〜図2Cに示される口金1)の仕様、更にはハニカム構造体(例えば図1に示されるハニカム構造体40)の仕様に合わせて、必要な数となることは、当然に理解されるべきである。
【0038】
本発明は、ハニカム構造体成形口金の加工に使用される電極であり、そのハニカム構造体成形口金は、ハニカム構造体を成形するために用いられるものであるから、ハニカム構造体成形口金用電極について説明する前に、先ず、ハニカム構造体、ハニカム構造体成形口金について、説明する。
【0039】
[ハニカム構造体]図1に例示されるハニカム構造体40は、外形が、2つの端面と周面とを有する円柱形を呈するセラミック製品である。ハニカム構造体40は、その内部に、多数の細孔を有するセラミックの多孔質隔壁41によって区画された、ガスの流路となる複数の流通セル42を有する。ハニカム構造体40では、軸方向に垂直な流通セル42の断面形状は、六角形になっている。
【0040】
流通セル42の断面形状とは、図1に示される端面に現れる形状、又は、円柱形の中心軸に垂直な断面に現れる形状を指す。流通セル42は空間であるが、この空間を柱形状に見立てることが出来、流通セル42の形状が(例えば)六角形というとき、流通セルは、空間として細長い六角柱形をなす。これは、換言すれば、実体部分である多孔質隔壁41が、流通セル41の形状が六角形になるように形成されている、ということである。ハニカム構造体40の成形原料の主たるもの(骨材粒子)は、例えば、アルミナ、カオリン、タルク等のコージェライト化原料や、炭化珪素である。
【0041】
[ハニカム構造体成形口金]上記のようなハニカム構造体40を一例とするハニカム構造体は、ハニカム構造体成形口金を備えた押出成形機を用いて、押出成形によって得られる。図2A〜図2Cに例示される口金1(ハニカム構造体成形口金)は、厚板状(直方体)を呈し一の面7及び他の面8を有する口金基体2で構成される。他の面8には、成形原料を導入する導入孔4が形成され、一の面7には、その導入孔4に連通するスリット5が形成されている。スリット5は、(例えば)ハニカム構造体40の流通セル42の形状に合わせて六角形であり、その幅は、(例えば)ハニカム構造体40の多孔質隔壁41の厚さに対応する幅となっている。図2Bは、断面が露わになるように、口金1の一部を切り取って、斜視図として描かれた図である。
【0042】
口金1において、スリット5が一の面7に表す形状は、上記ハニカム構造体40の多孔質隔壁41の形状に合わせて、(例えば)六角形である。又、スリット5によって一の面7に表れる実体部分(口金基体2)の形状は、上記ハニカム構造体40の流通セル42の断面形状に合わせて、(例えば)六角形である。そして、スリット5の幅は、ハニカム構造体40の多孔質隔壁41の厚さに対応する幅となっている。このように、口金1の形状は、ハニカム構造体40の端面形状(あるいは断面形状)に対する相補形状になる。導入孔4の径はスリット5の幅より大きく、導入孔4はスリット5が交差する位置に設けられている。口金1(口金基体2)を構成する材料は、金属又は合金であり、例えば、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の金属や、これら金属を含む合金(SUS630等のステンレス合金等)、あるいは、炭化タングステン基超硬合金を挙げることが出来る。
【0043】
[ハニカム構造体成形口金用電極]そして、上記の口金1を一例とする口金は、導入孔及びスリットが形成されていない口金基体に、それら導入孔及びスリットを形成することによって、得られる。このとき、その導入孔及びスリットが形成されていない口金基体に六角形のスリットを形成するために使用されるのが、ハニカム構造体成形口金用電極である。
【0044】
図3A及び図3Bに示されるハニカム電極100(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面107と他の面108とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体102を備える。図3Bには、図3Aにおける切断線301による切断断面が示されている。このハニカム電極100では、電極基体102の一の面107のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が備わって(開口して)おり、他の面108には、電極セル142は備わっていない(開口していない)。ハニカム電極100の一の面107を見ると、図3Aに示されるように、電極セル142は、(例えば)ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、ハニカム構造体40の端面形状(図1を参照、軸方向に垂直な面の断面形状も同じ)に対応した形状が表れていることが、確認出来る。このハニカム電極100では、複数の電極セル142を区画する部分のみが、(換言すれば、電極セル142と電極セル142との間のみが、)電極隔壁141で構成される。一の電極セル142において、他の電極セル142に隣接しない部分は、電極隔壁141になっておらず、電極基体102そのものである。この外周側の、電極基体の未加工部分を、本明細書において、耳部ということがある。
【0045】
ハニカム電極100では、電極隔壁141及び電極セル142が表れない他の面108には、薄い電極隔壁141が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分は、電極基体102の実体部分で構成されるので、ハニカム電極100全体として、強度は高い。従って、電極セル142を形成する電極隔壁141は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100の電極隔壁141の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁141を含むハニカム電極100が、破損したり、変形したりすることはない。尚、電極隔壁141の厚さとは、隣接する電極セル142間の最短距離である。
【0046】
図4A及び図4Bに示されるハニカム電極110(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面117と他の面118とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体112を備える。図4Bには、図4Aにおける切断線401による切断断面が示されている。このハニカム電極110では、ハニカム電極100と同様に、電極基体112の一の面117のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が備わって(開口して)おり、他の面118には、電極セル142は備わっていない(開口していない)。但し、ハニカム電極110は、電極基体112の一の面117のみに設けられた電極セル142の底部に、更に、電極基体112の他の面118に向けて形成された円孔149(孔)を有する。この円孔149は、一の面117から見て、電極セル142の底部に掘られた孔(穴)ということが出来、他の面118に開口していない。ハニカム電極100と同様に、ハニカム電極110の一の面117を見ると、図4Aに示されるように、電極セル142は、(例えば)ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、ハニカム構造体40の端面形状(図1を参照、軸方向に垂直な面の断面形状も同じ)に対応した形状が表れているものである。このハニカム電極110は、上記ハニカム電極100と同様に、耳部を有するものである。
【0047】
ハニカム電極110では、電極隔壁141及び電極セル142が表れない他の面108には、薄い電極隔壁141が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分には、電極セル142の底部に、それぞれ円孔149が形成されるだけである。複数の円孔149は他の面108に開口しておらず、それらの間は薄い壁ではないので、ハニカム電極100全体として、強度は高い。従って、電極隔壁141は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100と同様に、ハニカム電極110の電極隔壁141の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁141を含むハニカム電極110が、破損したり、変形したりすることはない。
【0048】
図5A及び図5Bに示されるハニカム電極120(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面127と他の面128とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体122を備える。そして、このハニカム電極120では、ハニカム電極100,110と同様に、電極基体122の一の面127のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が備わって(開口して)おり、他の面128には、電極セル142は備わっていない(開口していない)。但し、ハニカム電極120は、電極基体122の一の面127のみに設けられた電極セル142の底部に、更に、電極基体122の他の面128に向けて形成された円孔145(孔)を有する。ハニカム電極110とは異なり、この円孔145は、他の面128に開口している。従って、ハニカム電極120の電極基体122では、一の面127と他の面128とが、電極セル142及び円孔145によって連通している。ハニカム電極120における開口の形状を見ると、2つの主面のうちの一の面127に表れる形状と他の面128に表れる形状とが異なっている。ハニカム電極120の一の面127を見ると、図5Aに示されるように、電極セル142は、ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、その一の面127には、ハニカム構造体40の端面形状に、略似た形状の一部が表れていることがわかる。このハニカム電極120は、上記ハニカム電極100,110と同様に、耳部を有するものである。ハニカム電極120では、複数の電極セル142を区画する部分のみが、(換言すれば、電極セル142と電極セル142との間のみが、)電極隔壁141で構成される。一の電極セル142において、他の電極セル142に隣接しない部分は、電極隔壁141になっておらず、電極基体122そのものである。
【0049】
ハニカム電極120では、電極隔壁141及び電極セル142が表れない他の面128には、薄い電極隔壁141が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分には、複数の円孔145が形成されるだけである。この複数の円孔145は、他の面128に開口しているが、これら円孔145の間は、薄い壁ではないので、ハニカム電極120全体として、強度は高い。従って、電極隔壁141は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100,110と同様に、ハニカム電極120の電極隔壁141の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁141を含むハニカム電極120が、破損したり、変形したりすることはない。
【0050】
図12に示されるハニカム電極410(ハニカム構造体成形口金用電極)は、ハニカム電極120と同様に、一の面のみにおいて、複数の電極セル142が表れるものである。但し、ハニカム電極410は、耳部を有しない。このハニカム電極410は、電極セル142が形成される体積の概ね半分程度を占める部分においては、複数の電極セル142を区画する部分のみならず、一の電極セル142が他の電極セル142に隣接しない部分も、電極隔壁141で構成されている。換言すれば、ハニカム電極410は、体積の概ね半分程度を占める部分においては、複数の電極セル142を区画する電極隔壁141のみで、構成されるものであり、それ以外の、電極基体に相当する部分は、ハニカム電極410に、存在しない。但し、ハニカム電極410は、ハニカム電極120と同様に、電極セル142が表れない他の面には、薄い電極隔壁141が形成されていない。体積の概ね半分程度を占める部分には、複数の円孔145が形成されるだけであるので、ハニカム電極410全体として、強度は高い。
【0051】
図6A及び図6Bに示されるハニカム電極300(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面307と他の面308とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体302を備える。そして、このハニカム電極300では、電極基体302の一の面307のみに、電極隔壁341によって区画された複数の電極セル342が備わって(開口して)おり、他の面308には、電極セル342は備わっていない(開口していない)。但し、ハニカム電極300は、電極基体302の一の面307のみに設けられた電極セル342の底部に、更に、電極基体302の他の面308に向けて形成された円孔345(孔)を有する。この円孔345は、他の面308に開口している。従って、ハニカム電極300の電極基体302では、一の面307と他の面308とが、電極セル342及び円孔345によって連通している。ハニカム電極300における開口の形状を見ると、2つの主面のうちの一の面307に表れる形状と他の面308に表れる形状とが異なっている。ハニカム電極300の一の面307を見ると、図6Aに示されるように、電極セル342は、ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、その一の面307には、ハニカム構造体40の端面形状に、略似た形状の一部が表れていることがわかる。このハニカム電極300は、上記ハニカム電極100,110,120と同様に、耳部を有するものである。
【0052】
既述のハニカム電極110では、円孔149が電極セル142と1対1で設けられており、同様に、既述のハニカム電極120では、円孔145が電極セル142と1対1で設けられている。これに対し、ハニカム電極300では、円孔345が、3つの電極セル342毎に、設けられている。円孔345は、電極セル342と、1対1で設けられていない。そして、円孔345の中心軸は、3つの電極セル342を形成する電極隔壁341の交点に重なるように位置しており、円孔345の中心軸と、電極セル342の中心軸とは、同一線上に位置していない。これは、換言すれば、空間である電極セル342と円孔345とを、それぞれ柱形状に見立てたときに、それぞれの中心軸が同軸ではない、ということである。ハニカム電極300は、これらの点で、ハニカム電極110,120とは、異なる。
【0053】
ハニカム電極300では、ハニカム電極120と同様に、電極隔壁341及び電極セル342が表れない他の面308には、薄い電極隔壁341が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分には、複数の円孔345が形成されるだけである。この複数の円孔345は、他の面308に開口しているが、これら円孔345の間は、薄い壁ではないので、ハニカム電極300全体として、強度は高い。従って、電極隔壁341は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100,110,120と同様に、ハニカム電極300の電極隔壁341の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁341を含むハニカム電極300が、破損したり、変形したりすることはない。
【0054】
電極基体102,112,122,302として用いられる放電性材料としては、例えば、銅タングステン合金、銀タングステン合金、銅、カーボングラファイト等を用いることが出来る。より具体的には、Cu;50、W;50からなる銅タングステン合金(単位は質量%)であれば、ドリル等による穿孔加工が可能で、高導電率や高融点という特性から耐腐食性、耐摩耗性に優れており、放電特性が良く加工精度が高いという利点がある。
【0055】
次に、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法、ハニカム構造体成形口金を製造する方法、及びハニカム構造体を製造する方法について説明する。
【0056】
[ハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法]本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法について、最初に、既述の、図5A及び図5Bに示されるハニカム電極120を製造する場合を例にとって、図7A、図7B、図8、及び図9を参照しながら、説明する。
【0057】
先ず、放電性材料からなり、2つの主面を有する、孔加工のされていない、厚板状の電極基体を用意する。この電極基体は、加工されて、のちに電極基体122となるものであり、市販されている板状材料を、所望のサイズに切断して得ることが出来る。
【0058】
次に、その電極基体に、一の面127Bと他の面128Bを貫通する複数の円孔145Bを開けて、電極基体122Bを得る(図7A、図7B、及び図9の(1)を参照)。この円孔145Bは、電極基体122Bに対し、例えばドリルによる穿孔加工を施して、開けることが出来る。尚、図7Aには内部を透視した様子が描かれ、図7Bでは内部を透視していない。既述の図5A、図5Bにおいても、(透視しなければ)外見上は、図7Bに示された態様に準じたものとなる。
【0059】
電極基体122Bにおいて、複数の円孔145Bは、(例えば)ハニカム構造体40の流通セル42に対応する位置に、開けられる(図1を参照)。即ち、複数の円孔145Bを設けるべき位置は、最終的に得ようとするハニカム構造体の設計(流通セルのサイズ、流通セルのピッチ等)に基づく。円孔とは、電極基体の主面に表れた形状が円形である孔を意味する。この円孔は、空間として円柱に見立てることが出来、そうした場合に、複数の円孔145Bの中心軸どうしの間隔を0.80〜2.50mm程度とすることが出来る。又、中心軸に垂直な円の半径を0.40〜1.20mm程度とすることが出来る。
【0060】
そして、複数の円孔145Bのそれぞれにおいて、例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、好ましくはカーボングラファイトからなる加工用電極161を挿入する(図8を参照)。例えば、個々の加工用電極161は、角柱形を呈するものであり、複数の加工用電極161は、支持部162を通して一体化していて、全体としては櫛歯状の電極(櫛歯状電極160)になっている。そして、円孔145Bの内側から電極基体122Bの孔側面103に向けて放電して、その電極基体122Bの孔側面103を加工する(図9の(2)を参照)。孔側面103に対する放電加工は、円孔145Bの深さ方向の概ね半分程度を、六角形の電極セル142(図5Aを参照)に変えようとするものである。この放電加工に際しては、加工用電極161を、図9の(2)中の矢印で示される方向に、平行移動させることが好ましい。図9の(4)、(6)においても同様である。この平行移動によって、加工用電極161が、対向する孔側面103に近づき、それぞれを平面に加工する。この最初の放電加工の後に、孔側面103のうち、対向する一部分が平面104になる(図9の(3)を参照)。
【0061】
その後、図9の(2)の状態から、角度を例えば左回転方向に60°変えて、同様に加工用電極161を挿入し、電極基体122Bの孔側面103に向けて放電して加工し(図9の(4)を参照)、角度を更に左回転方向に60°(最初の位置から左回転方向に120°(又は−60°))変えて、同様に、加工用電極161を挿入し、電極基体122Bの孔側面103に向けて放電して加工をすれば(図9の(6)を参照)、その都度、孔側面103は平面104に変わる(図9の(5)、(7)を参照)。そして、最終的に、円孔145Bの深さ方向の概ね半分程度(具体的には1〜10mm程度)は六角形の電極セル142になり、ハニカム電極120が得られる(図9の(7)、図5Aを参照)。尚、円孔145Bの深さ方向の残り部分は、そのまま円孔145となるが(図5Bを参照)、図9においては、そのまま円孔145となる部分は描かれていない(省略している)。
【0062】
複数の円孔145Bの配置(ひいてはハニカム構造体の流通セルのサイズ、流通セルのピッチ等)によっては、同じ櫛歯状電極160を使用して、角度を変えることが出来るが、別の櫛歯状電極が必要になる場合もある。
【0063】
尚、既述のように、各図は模式図であり、図9においては、図5A、図5B、及び図8とは異なり、過程が理解し易いように、電極セルは、7個のみが表されている。図5A、図5B、及び図8においては、電極セルは、12個表されている。何れの数も、実用上、必ずしも適切な数ではない。ハニカム電極120の如く耳部を有するハニカム電極は、一度で、ハニカム構造体成形口金を作製しようとするもの(フルサイズのハニカム電極)であるから、電極セルの数は、実際には、得ようとするハニカム構造体成形口金の仕様(更にはハニカム構造体の仕様)に基づいて、決定される。一方、ハニカム電極410の如く耳部を有しないハニカム電極も、得ようとするハニカム構造体成形口金の仕様(更にはハニカム構造体の仕様)に基づいて、電極セルの数が決められるが、電極セルの数は、少なくてよい。耳部を有しないハニカム電極は、複数回に分けて、ハニカム構造体成形口金を作製し得るもの(一部分サイズのハニカム電極)だからである。
【0064】
次に、図6A及び図6Bに示されるハニカム電極300を製造する場合を例にとって、図11A及び図11Bを参照しながら、説明する。
【0065】
先ず、ハニカム電極120の場合と同様にして、放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を用意する。この電極基体は、のちに電極基体302となるものであり、市販されている板状材料を、所望のサイズに切断して得ることが出来る。
【0066】
次に、その電極基体に、一の面307B側から他の面308Bへ向けて、貫通しない複数の円孔344Bを、一の面307Bから例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、開ける。そして、反対に、他の面308B側から一の面307Bへ向けて、貫通しない複数の円孔345Bを、他の面308Bから例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、開ける。このようにして、3つの円孔344Bと、1つの円孔345Bとが、貫通した電極基体302Bを得る(図11A及び図11Bを参照)。このとき、円孔345Bの中心軸が、3つの円孔344Bの中心軸を結ぶ三角形の中心に重なるようにすると、各円孔344Bが、円孔345Bと、同じ開口面積で連通する。円孔344B,345Bは、例えばドリルによる穿孔加工によって開けることが出来る。電極基体302Bにおいて、複数の円孔344Bは、ハニカム電極120の場合と同様に、(例えば)ハニカム構造体40の流通セル42に対応する位置に、開けられる。即ち、複数の円孔344Bを設けるべき位置は、最終的に得ようとするハニカム構造体の設計(流通セルのサイズ、流通セルのピッチ等)に基づいて、定まる。
【0067】
そして、ハニカム電極120の場合と同様にして、複数の円孔344Bに、加工用電極161を挿入して、放電加工を行い、円孔344Bを六角形の電極セル342に加工すればよい。円孔345Bは、そのまま円孔345となる。以降の工程は、ハニカム電極120の場合に準じたものであるから、説明を省略する。
【0068】
以上、ハニカム電極120,300を製造する場合を例にして、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法について説明したが、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、電極セルの形状が、六角形ではなく、八角形及び四角形であってもよい。以下、ハニカム電極の電極セルの形状が、大きな八角形と小さな四角形である場合について、図10を参照しながら、説明する。この図10が、過程が理解し易いように描かれた模式図であり、図10において表された電極セルの数が、実用上、必ずしも適切な数ではないことは、いうまでもない。
【0069】
先ず、ハニカム電極120の場合と同様に、放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を用意する。次に、その電極基体に、貫通孔である大きな円孔245Bと小さな円孔246Bを開けて、電極基体202Bを得る(図10の(1)を参照)。
【0070】
そして、複数の円孔245Bのそれぞれにおいて、例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、角柱形の加工用電極261を挿入する。同様に、複数の円孔246Bのそれぞれにおいて、例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、角柱形の加工用電極262を挿入する。複数の加工用電極261と複数の加工用電極262とが、支持部を通して一体化した櫛歯状電極を用いれば、これらの動作を一度に行うことが可能である。あるいは、別々の櫛歯状電極を用いて、順を追って加工を行ってもよい。次いで、挿入した加工用電極261によって、円孔245Bの内側から、電極基体202Bの孔側面203に向けて放電して、その電極基体202Bの孔側面203を加工する。同様に、挿入した加工用電極262によって、円孔246Bの内側から、電極基体202Bの孔側面205に向けて放電して、その電極基体202Bの孔側面205を加工する(図10の(2)を参照)。これらの放電加工に際しては、加工用電極261,262を、図10の(2)中の矢印で示される方向に、平行移動させることが好ましい。図10の(4)、(6)においても同様である。この平行移動によって、加工用電極261,262が、対向する孔側面203,205に近づき、それぞれを平面に加工する。そして、この最初の放電加工の後に、孔側面203,205のうち、対向する一部分が平面204,206になる(図10の(3)を参照)。
【0071】
そして、図10の(2)の状態から角度を90°変えて、同様に、加工用電極261,262を挿入し、電極基体202Bの孔側面203,205に向けて放電して加工する(図10の(4)を参照)。この2番目の放電加工の後に、円孔245Bの孔側面203及び円孔246Bの孔側面205のそれぞれにおいて、四隅を除く面が平面204,206になって、円孔245B,246Bのそれぞれにおいて、深さ方向の概ね半分程度(具体的には1〜10mm程度)は、深さ方向に垂直な断面が四角形に近い形状となる(図10の(5)を参照)。
【0072】
次いで、(厳密には加工によって既に円孔ではなくなっているが、元の)大きな複数の円孔(円孔245B)のみに、概ね半分程度の深さまで(具体的には1〜10mm程度)、(加工用電極261,262に比して、)小さな加工用電極263を挿入し、上記四角形の四隅(角部分)に向けて、放電する(図10の(6)を参照)。この放電加工によって、その四角形の四隅(角部分)に平面が出来て、最終的に、円孔245Bの深さ方向の概ね半分程度が八角形の電極セル242になり、円孔246Bの深さ方向の概ね半分程度が、四角形の電極セル243になる。こうして、電極基体202からなるハニカム電極200が得られる(図10の(7)を参照)。尚、円孔245B,246Bの深さ方向の残り部分は、そのまま円孔となるが、図10においては、そのまま円孔となる部分は描かれていない(省略している)。
【0073】
既述のように、ハニカム電極における電極セルが表れた側の面には、ハニカム構造体の端面形状に対応した形状(の全部又は一部)が表れるのであるから、このようなハニカム電極200は、断面形状が大きな八角形の流通セルと断面形状が小さな四角形の流通セルとを有するハニカム構造体を得るに際し、成形口金を作製するために使用される。
【0074】
[ハニカム構造体成形口金を製造する方法]既述のハニカム電極120を一例とするハニカム電極を用い、口金1(図2A〜図2C)を製造する場合を例にとって、説明する。先ず、例えば、市販されているステンレス合金(SUS630)製の、導入孔及びスリットが設けられていない、2つの主面を有する厚板状の口金基体を用意する。この口金基体は、導入孔4及びスリット5を設けることによって、口金基体2となるものである。
【0075】
次に、その口金基体に、例えば、電解加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等の公知の手段によって、厚さ方向に開口する導入孔4を形成する。この導入孔4は、のちに形成される六角形をなすスリット5における交差部と連通するような位置に形成される(図2Cを参照)。こうして得られる口金1によれば、押出成形を行う際に、導入孔4に導入した成形原料を、スリット5全体に均一に広げることが出来、優れた成形性が実現される。
【0076】
そして、ハニカム電極120を使用して、口金基体の導入孔4を形成した面とは反対の面から放電加工を行い、スリット5を形成する。こうして、ハニカム電極120とは相補形状の、口金1が得られる(図9の(7)、(8)を参照)。この放電加工は、一般的なNC放電加工機、放電加工油を用いて、口金基体の導入孔4を形成した面とは反対の面にハニカム電極120を押し当てながら、行うことが出来る。
【0077】
尚、例えばハニカム電極120は耳部を有するものであるから、実際には、その電極セル及び電極隔壁の形態及び数等は、得ようとする口金1の仕様(スリットの形態及び数等)に基づいて、決定されることは、既述の通りである。
【0078】
[ハニカム構造体を製造する方法]先ず、例えば、アルミナ、カオリン、及びタルクを混合したコージェライト化原料を用い、バインダ(メチルセルロース等)、分散媒(水等)を、例えば、コージェライト化原料100質量部に対して、バインダ5質量部、分散媒20質量部を混合し、混練して坏土を得る。
【0079】
そして、得られた坏土を、口金1を取り付けた押出成形機によって押出成形すれば、導入孔4から導入された坏土(成形原料)が、スリット5へと移り、導入孔4とは反対側のスリット5の開口から押し出されて、ハニカム成形体が得られる。そして、そのハニカム成形体を焼成すれば、ハニカム構造体40を一例とするハニカム構造体を得ることが出来る。
【0080】
尚、ハニカム電極と口金との関係と同様に、一度で、ハニカム構造体(ハニカム成形体)を作製しようとする口金においては、スリットの形態及び数等は、得ようとするハニカム構造体(ハニカム成形体)の仕様(多孔質隔壁及び流通セルの形態及び数等)に基づいて、決定される。又、例えば、図2Cに示される形態の口金1を使用して、略角柱形の、複数のハニカム成形体(セグメント)を得て、それらを接合した後に、外形を円柱形に加工することによって、図1に示されるハニカム構造体40を得ることは、可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、フィルタや触媒担体として多用されるハニカム構造体を成形するために用いられる、口金の加工に、好適に利用される。
【符号の説明】
【0082】
1:口金(ハニカム構造体成形口金)
2:口金基体
4:導入孔
5:スリット
7:(口金基体の)一の面
8:(口金基体の)他の面
40:ハニカム構造体
41:多孔質隔壁
42:流通セル
100,110,120,200,300,410:ハニカム電極(ハニカム構造体成形口金用電極)
102,112,122,202,302:電極基体
103,203,205:孔側面
104,204,206:平面
107,117,127,307:(電極基体の)一の面
108,118,128,308:(電極基体の)他の面
122B,202B,302B:(作製過程における)電極基体
127B,307B:(作製過程における電極基体の)一の面
128B,308B:(作製過程における電極基体の)他の面
141,341:電極隔壁
142,242,243、342:電極セル
145,345:(電極基体に形成された(開口している))円孔
145B、245B、246B:(作製過程における(貫通している))円孔
149:(電極基体に形成された(開口していない))円孔
160:(複数の加工用電極を有する)櫛歯状電極
161,261,262,263:加工用電極
162:(複数の加工用電極を一体化する櫛歯状電極の)支持部
344B,345B:(作製過程における(貫通していない))円孔
301,401:切断線
【技術分野】
【0001】
本発明は、口金の加工に使用される電極に関する。この電極で加工される口金は、ハニカム構造体を成形するために用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
ハニカム構造体は、一般に、外形が円柱形又は角柱形を呈する、セラミック製品である。このハニカム構造体は、多数の細孔を有するセラミックの多孔質体からなる隔壁によって区画された、複数のセルを有する(ハニカム構造を呈する)ものである。このようなハニカム構造体は、上記セルがガスの流路となって、フィルタや触媒担体として多用されている。
【0003】
ハニカム構造体は、専用のハニカム構造体成形口金(単に口金ともいう)を備えた押出成形機を用いて、押出成形によって製造することが出来る。この口金は、純金属や合金等からなる口金基体に、成形原料(坏土ともいう)を導入する裏孔(導入孔ともいう)と、その裏孔に連通するスリットと、が形成されてなるものである。スリットは、セルの断面形状に合わせた形状をなし、ハニカム構造体の隔壁の厚さに対応する幅を有している。裏孔は、スリットの幅より大きく、スリットが交差する位置に対応して設けられる。このような口金を用いた押出成形によれば、裏孔から導入された成形原料は、幅の狭いスリットへと移り、スリットの開口から押し出され、ハニカム構造の成形体(ハニカム成形体ともいう)として排出される。
【0004】
そして、上記口金は、電極を用いた放電加工(EDM加工)、切削加工、研削加工、電解加工等によって、スリット及び裏孔の形成されていない口金基体に、上記スリット及び裏孔を形成して、得られる。
【0005】
例えば、特許文献1、特許文献2では、断面形状が六角形のセルを有するハニカム構造体を得るための、口金を製造する過程が示されている。そこでは、スリットに合わせた薄い平板状の突起(リブともいう)を多数備えた、櫛歯状の電極(リブ電極ともいう)が使用されている。そして、スリットは、その電極における薄い平板状の突起からの放電によって、加工されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第1784822号公報
【特許文献2】特開2005−254345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年のハニカム構造体においては、(流通)セルの密度を高め、(多孔質)隔壁を薄くすることが求められている。例えば、断面形状が六角形の(流通)セルを有するハニカム構造体では、1平方インチ当りの(流通)セルの数は400〜900個、(流通セルの)六角形の対向する2辺間の距離(対辺長ともいう)は0.50〜2.00mm、(流通)セルを形成する(多孔質)隔壁の厚さは1.5〜6ミル(1ミルは約0.0254mm)であることが求められる。
【0008】
(多孔質)隔壁が薄くなれば、口金のスリットを狭く(細く)しなければならない。そのため、その口金の放電加工に用いる櫛歯状電極(リブ電極)においても、平板状突起(リブ)を薄くする必要がある。そうなると、櫛歯状電極の破損が生じ易くなる。そして、例えば放電加工時に櫛歯状電極の平板状突起が折れれば、得られる口金の形状は異常になる。形状が異常な口金を用いて成形すれば、得られるハニカム構造体の(流通)セルの形状も異常となり、セラミック製品としての歩留まりが低下する。
【0009】
このような問題意識の下で、対策が検討された結果、櫛歯状電極(リブ電極)ではなく、電極の形状を、口金の(全体の又は一部の)相補形状とすれば、櫛歯状電極よりも、放電加工時に電極が折れ難くなるのではないか、との考えに至った。電極はスリットを放電加工するものであるから、厳密には、電極を、口金におけるスリット形成部分の、全体又は一部の、相補形状とすればよい。
【0010】
しかしながら、(多孔質)隔壁の薄いハニカム構造体を得るためには、口金のスリットを狭く(細く)しなければならないことに、変わりはない。そうすると、電極の形状を、櫛歯状ではなく、口金の相補形状としたところで、スリットに対応する部分は薄くする必要があるから、放電加工時に、電極が、仮に折れないとしても、変形することがある。そうなれば、最終的に得られるハニカム構造体(セラミック製品)の歩留まりの低下は避けられない。よって、更なる改善が求められることとなった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。放電加工によって狭い(細い)スリットを備えた口金を得ることが出来、その放電加工中において(口金に)破損や変形が生じ難い、電極を提供することを課題とする。研究が重ねられた結果、以下の手段によって、この課題が解決されることが見出され、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明によれば、周面と二の端面とを有する柱状を呈し多孔質隔壁によって区画された複数の流通セルを有するハニカム構造体を成形する口金の作製に用いられる電極であって、放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を備え、その電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが設けられており、その一の面において電極セルの形状が、ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であるハニカム構造体成形口金用電極が提供される。
【0013】
ハニカム構造体成形口金用電極における電極セルの形状がハニカム構造体の流通セルの形状と相似であるとは、1つの電極セルの形状が1つの流通セルの断面形状(あるいは端面形状)と相似であるということである。ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁と電極セルが表す形態が、ハニカム構造体における多孔質隔壁と流通セルが表す形態と、厳密に相似である、というわけではない。但し、ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁は、ハニカム構造体の多孔質隔壁とは、厚さが異なるだけであり、ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁及び電極セルが表す形態は、ハニカム構造体の端面又は軸方向に垂直な断面に表れる形態の一部又は全部と、略似ている(概ね相似である)ということが出来る。そこで、本明細書において、ハニカム構造体成形口金用電極を、ハニカム電極とも表現する。
【0014】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、ハニカム構造体を成形するために用いられる、(ハニカム構造体成形)口金の加工に使用される電極である。ハニカム構造体を成形するハニカム構造体成形口金用電極は、口金の加工に使用されるものであり、口金を製造するために用いられる。そして、その口金は、ハニカム構造体を成形するために用いられるものである。より厳密には、焼成前の、セラミックを主材料としてなる成形原料(坏土)を通して、ハニカム形状の成形体(ハニカム成形体)を得るために使用される。成形用口金であるが、ハニカム構造体成形用口金用電極という表現は冗長なので、本明細書において、成形口金と称することとする。又、ハニカム電極においても、隔壁(電極隔壁)、セル(電極セル)の語を用いるので、本明細書では、ハニカム構造体においては、多孔質隔壁、流通セルと表現している。
【0015】
ハニカム構造体の断面形状に対応した形状が、口金の形状に表れ、口金の形状に対応した形状が、(ハニカム構造体成形口金用)電極の形状に表れる。具体的には、口金のスリット(凹部)の形状は、ハニカム構造体の多孔質隔壁(凸部)の形状に対して、相補形状になる。又、(ハニカム構造体成形口金用)電極の電極隔壁(凸部)の形状は、口金のスリット(凹部)の形状に対して、相補形状になる。相補形状は、相互に補う形状である。相補形状とは、例えば、凹部と凸部のように、嵌め込んで(噛み込んで)一体になる形状をいう。但し、本明細書における相補形状は、必ずしも寸分の隙間なく噛み合うものに、限定されない。(放電)加工には、通常、加工代が必要となるので、その加工代分の隙間、ズレは許容される。
【0016】
電極基体には、(ハニカム構造体の)多孔質隔壁に対応する形状の電極隔壁が形成され、その電極隔壁によって区画された複数の電極セルが、電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに表れるので、(ハニカム構造体の)多孔質隔壁によって区画された複数の流通セルを有するハニカム構造体に準じて、電極隔壁によって区画された複数の電極セルを有するハニカム電極と表現している。
【0017】
電極基体の2つの主面のうちの一の面とは、2つの面を有する厚板状(直方体)の電極基体の、何れかの面である。厚板状(直方体)であるから、厚さ方向にも面が存在し得るが、2つの主面とは、厚さ方向ではない2つの面(表面と裏面)を指す。一の面のみに電極セルが設けられている、とは、一の面のみに電極セルが開口している、ことを指す。電極隔壁によって区画された複数の電極セルが設けられている、とは、ハニカム構造体の断面形状(又は端面形状)に対応した形状の全部又は一部が表れている、という意味である。電極セルは、電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに開口しているのであるから、他の面には、電極セルとして開口していない。即ち、他の面に電極セルは設けられていない。但し、他の面に、電極セルではない孔が開口している態様を、取り得る。
【0018】
ハニカム構造体の断面形状とは、一般に外形が円柱体又は角柱体を呈するハニカム構造体の軸方向に垂直な断面の形状である。電極には、ハニカム構造体の断面形状に対応した形状(略似た形状)の、全部が表れていてもよいが、一部が表れていてもよい。ハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁及び電極セルが表す形態は、ハニカム構造体の端面又は軸方向に垂直な断面に表れる形態の一部又は全部と、略似ている、とはそういう意味である。同様に、口金には、ハニカム構造体の断面形状に対応した形状(相補形状)の、全部が表れていてもよいが、一部が表れていてもよい。ハニカム構造体の断面形状に対応した形状の全部が少なくとも何れかの面に表れているハニカム電極(耳部を有するフルサイズのハニカム電極(後述する))を使用して、放電加工を行い、一度で、口金を完成させることは、可能である。又、ハニカム構造体の断面形状に対応した形状の一部が少なくとも何れかの面に表れているハニカム電極(耳部を有しない一部分サイズのハニカム電極(後述する))を、繰り返し使用して、放電加工を行い、口金を完成させることも、可能である。
【0019】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極基体の一の面のみに設けられた電極セルの底部に、更に、電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔を有することが好ましい。
【0020】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、孔を有する場合には、電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔が、他の面に開口していることが好ましい。この場合、一の面に開口した電極セルから、他の面に開口した孔を通じた、貫通孔が形成されていることになる。但し、一の面に表れる電極セルの形状と他の面に表れる孔の形状とは異なっている。電極セルの好ましい形状は後述するが、孔の形状は、電極セルの形状と異なっていればよく、例えば、四角形等の多角形であってもよいが、好ましくは円形である。この場合、孔は、円孔となり、この円孔と電極セルとは連通していることになる。
【0021】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、孔を有する場合には、孔が、電極セルと、対で設けられることが好ましい。又は、孔が、複数の電極セル毎に、設けられることが好ましい。孔が電極セルと対で設けられるとは、孔が電極セルと1対1で設けられることを意味する。孔が複数の電極セル毎に設けられるとは、孔が電極セルと1対n(複数)で設けられることを意味する。
【0022】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、孔を有する場合には、孔の中心軸と、電極セルの中心軸とが、同一線上に位置しない(位置させない)ことが好ましい。孔も電極セルも空間であり、これらの中心軸とは、空間を柱状体に見立てたときの中心軸である。限定されるわけではないが、特に、孔が電極セルと1対nで設けられる場合には、孔の中心軸と電極セルの中心軸とが同一線上に位置しないことが好ましい。
【0023】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極隔壁の厚さが、0.01mm以上、0.3mm未満であることが好ましい。電極隔壁の厚さとは、隣接する電極セル間の最短距離である。
【0024】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極セルの形状が、六角形であることが好ましい。これは、換言すれば、このようなハニカム構造体成形口金用電極は、流通セルの形状が六角形であるハニカム構造体を得るための口金を作製するために好適に使用される、ということである。
【0025】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極においては、電極セルの形状が、八角形及び四角形であることが好ましい。これは、換言すれば、このようなハニカム構造体成形口金用電極は、流通セルの形状が八角形及び四角形であるハニカム構造体を得るための口金を作製するために好適に使用される、ということである。
【0026】
本明細書において、電極セルの形状とは、厚板状のハニカム電極において一の面に表れた電極セルの形状を指すものとする。電極セルは空間であるが、この空間を柱形状に見立てることが出来、電極セルの形状が(例えば)六角形というとき、電極セルは、空間として六角柱形をなす。これは、電極隔壁を含む実体部分が、電極セルの形状が(例えば)六角形になるように形成されている、ということである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極(ハニカム電極)は、ハニカム構造体を成形するための口金を作製するための電極であるので、電極基体の2つの主面のうちの少なくとも一の面に、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが表れ、電極セルの形状が、ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であることが必要である。そして、ハニカム電極における電極隔壁及び電極セルが表す形態は、ハニカム構造体の端面又は軸方向に垂直な断面に表れる形態の一部又は全部と、略似ている。本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極(ハニカム電極)では、電極隔壁によって区画された複数の電極セルは、何れか一の面のみに表れている。これは、換言すれば、電極セルは、ハニカム電極(電極基体)の2つの主面間を貫通していない、ということである。電極セルが表れていない他の面においては、開口がなくてもよく、又は、電極セルに通じた孔(例えば円孔)が開口していてもよいが、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、電極セルが2つの主面間を貫通することはない。
【0028】
このような態様の本発明に係るハニカム電極は、電極セルが貫通したハニカム電極に比して、強度が高くなる。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極(ハニカム電極)は、電極セルが表れない方の面には、当然に、薄い電極隔壁が形成されないので、強度が高いのである。例えば、電極基体の体積の概ね半分程度あるいはそれ以上を、強度向上に寄与させることが可能であり、全体として強度が高い電極になる。従って、電極セルが表れる側において、所望の形状を維持しつつ、当然に表れる電極隔壁を、個々に独立している櫛歯状電極の場合に比して、より薄く(より細く)することが可能である。
【0029】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、より多孔質隔壁の薄いハニカム構造体を得るための、より狭い(より細い)スリットを備えた口金を得るために用いる電極として、好適である。本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極における電極隔壁の厚さは、0.01mmを実現する。従来の櫛歯状電極(特許文献2を参照)では、使用可能な平板状突起(リブ)の厚さは0.03mmが限界であった。電極を用いて加工される口金のスリットの幅で比較すれば、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、加工された口金のスリットの幅を、0.03mmとすることが出来る。これに対し、従来の櫛歯状電極(特許文献2を参照)で加工された口金のスリットの幅は、0.05mmが限界であった。口金におけるスリットの幅とは、そのスリットを挟んで隣接する口金の実体部分(口金基体)間の最短距離である。
【0030】
例えば、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極において、電極隔壁の厚さを0.15mmとし、これを型彫放電加工機(電圧5〜300V、電流0.1〜30A)に取り付けて放電加工すると、得られる口金のスリットの幅のばらつきは、0.20±0.01mmに収まる。これに対し、従来の櫛歯状電極(特許文献2を参照)では、同じように、厚さを0.15mmとして、放電加工すると、得られる口金のスリットの幅のばらつきは、0.20±0.05mmになってしまう。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、口金のスリットの幅のばらつき量は、従来に比して、概ね1/5程度になる。この差は、そのまま、電極の変形量として評価出来る。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、使用中に(口金を作製中に)、電極の変形が起こり難いので、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、寸法誤差の少ない概ね設計通りの形状の口金が得られ、ひいては寸法誤差の少ない概ね設計通りの形状のハニカム構造体を得ることが可能なのである。
【0031】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を用いれば、口金を作製中に、(電極の)破損や変形が起こり難くなる。更に、製造(加工)対象である口金の変形も生じ難くなり、ひいては、その口金で成形されるハニカム構造体の変形も起こり難い。尚、ここでいう変形とは、設計値からのずれを意味する。口金を作製中に、電極の変形が起こると、製造(加工)された口金も変形され(例えば歪んで)、設計通りの形状にならず、その変形(歪み)はハニカム構造体にも転写され、設計通りの形状ではないハニカム構造体(不良品)が作製(成形)されてしまうおそれがあり、歩留まり低下を招来する。本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極によれば、このような問題を回避することが出来る。
【0032】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、既述の通り、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが、電極基体の2つの主面のうちの一の面のみに表れているものである。よって、電極基体の体積の概ね半分程度あるいはそれ以上においては、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが表れるような加工をしなくてもよいから、自らの製造中において、破損し難く変形し難いものである。即ち、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、作製し易いものである。
【0033】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、その好ましい態様において、電極基体の一の面のみに設けられた電極セルの底部に、更に、電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔を有するので、(これが他の面に開口していないとしても、)放電加工時に発生するガスを貯める空間(体積)が大きくなる。よって、この孔を有しない態様に比して、相対的に、加工不良が起こり難い。
【0034】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、その好ましい態様において、電極セルの底部に他の面に向けて形成された孔が、他の面に開口しているので、口金の放電加工の際に、放電加工によって生じるスラッジ及びガスを、その孔から加工液等を流すことによって排出させることが出来る。又、その孔からスラッジを吸引することも可能である。よって、加工不良が起こり難い。電極セルの底部に他の面に向けて形成された孔が他の面に開口していないと、口金の放電加工の際に放電加工によって生じるスラッジは、放電加工が行われるハニカム構造体成形口金用電極と、加工対象である口金基体と、の間を通過することとなる。そうすると、放電が不安定になり、加工不良が生じるおそれがあるが、この好ましい態様によれば、このような問題を確実に回避することが出来る。尚、電極の強度を最も優先させるのであれば、電極セルの底部に他の面に向けて形成された孔は存在させない方が望ましく、次いで、この孔を存在させたとしても他の面に開口させないことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ハニカム構造体の一例を、模式的に示す斜視図である。
【図2A】ハニカム構造体成形口金の一例を、模式的に示す断面図である。
【図2B】ハニカム構造体成形口金の一例を、模式的に示す一部拡大斜視図である。
【図2C】ハニカム構造体成形口金の一例を、模式的に示す平面図である。
【図3A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図3B】図3Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極の断面を表した斜視図である。
【図4A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図4B】図4Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極の断面を表した斜視図である。
【図5A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、一の面側から内部を透視して表した斜視図である。
【図5B】図5Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極を、他の面側から内部を透視して表した斜視図である。
【図6A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、一の面を表した平面図(上面図)である。
【図6B】図6Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極における他の面を模式的に表した平面図(裏面図)である。
【図7A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の一の実施形態を模式的に表す図であり、電極基体に複数の円孔を開けた様子を、電極基体の内部を透視して表した斜視図である。
【図7B】図7Aに示される複数の円孔を開けた電極基体を、内部を透視せずに表した斜視図である。
【図8】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の一の実施形態を模式的に表す図であり、複数の円孔に加工用電極を挿入しようとする様子を表した斜視図である。
【図9】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の他の実施形態を模式的に表す図であり、順を追って過程を示した平面図である。
【図10】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の更に他の実施形態を模式的に表す図であり、順を追って過程を示した平面図である。
【図11A】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、一の面を表した平面図(上面図)である。
【図11B】図11Aに示されるハニカム構造体成形口金用電極における他の面を模式的に表した平面図(裏面図)である。
【図12】本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極の更に他の実施形態を模式的に示す図であり、内部を透視して表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0037】
以下の説明に用いる図は、模式図であり、構成要素(例えば電極セルや電極隔壁)の数は、各図において必ずしも一致しておらず、又、実用上の数より、少なくなっている。これは、各図が、発明概念ないし処理過程を理解し易いように描かれた図だからである。例えば、ハニカム電極に関係する電極セル等の数は、図3A、図3B、図4A、及び図4Bにおいては20個、図5A、図5B、図7A、図7B、及び図8においては12個、図6A及び図11Aにおいては22個、図9においては7個、図10においては16個、として描かれているが、実用上の電極セル等の数は、得ようとするハニカム構造体成形口金(例えば図2A〜図2Cに示される口金1)の仕様、更にはハニカム構造体(例えば図1に示されるハニカム構造体40)の仕様に合わせて、必要な数となることは、当然に理解されるべきである。
【0038】
本発明は、ハニカム構造体成形口金の加工に使用される電極であり、そのハニカム構造体成形口金は、ハニカム構造体を成形するために用いられるものであるから、ハニカム構造体成形口金用電極について説明する前に、先ず、ハニカム構造体、ハニカム構造体成形口金について、説明する。
【0039】
[ハニカム構造体]図1に例示されるハニカム構造体40は、外形が、2つの端面と周面とを有する円柱形を呈するセラミック製品である。ハニカム構造体40は、その内部に、多数の細孔を有するセラミックの多孔質隔壁41によって区画された、ガスの流路となる複数の流通セル42を有する。ハニカム構造体40では、軸方向に垂直な流通セル42の断面形状は、六角形になっている。
【0040】
流通セル42の断面形状とは、図1に示される端面に現れる形状、又は、円柱形の中心軸に垂直な断面に現れる形状を指す。流通セル42は空間であるが、この空間を柱形状に見立てることが出来、流通セル42の形状が(例えば)六角形というとき、流通セルは、空間として細長い六角柱形をなす。これは、換言すれば、実体部分である多孔質隔壁41が、流通セル41の形状が六角形になるように形成されている、ということである。ハニカム構造体40の成形原料の主たるもの(骨材粒子)は、例えば、アルミナ、カオリン、タルク等のコージェライト化原料や、炭化珪素である。
【0041】
[ハニカム構造体成形口金]上記のようなハニカム構造体40を一例とするハニカム構造体は、ハニカム構造体成形口金を備えた押出成形機を用いて、押出成形によって得られる。図2A〜図2Cに例示される口金1(ハニカム構造体成形口金)は、厚板状(直方体)を呈し一の面7及び他の面8を有する口金基体2で構成される。他の面8には、成形原料を導入する導入孔4が形成され、一の面7には、その導入孔4に連通するスリット5が形成されている。スリット5は、(例えば)ハニカム構造体40の流通セル42の形状に合わせて六角形であり、その幅は、(例えば)ハニカム構造体40の多孔質隔壁41の厚さに対応する幅となっている。図2Bは、断面が露わになるように、口金1の一部を切り取って、斜視図として描かれた図である。
【0042】
口金1において、スリット5が一の面7に表す形状は、上記ハニカム構造体40の多孔質隔壁41の形状に合わせて、(例えば)六角形である。又、スリット5によって一の面7に表れる実体部分(口金基体2)の形状は、上記ハニカム構造体40の流通セル42の断面形状に合わせて、(例えば)六角形である。そして、スリット5の幅は、ハニカム構造体40の多孔質隔壁41の厚さに対応する幅となっている。このように、口金1の形状は、ハニカム構造体40の端面形状(あるいは断面形状)に対する相補形状になる。導入孔4の径はスリット5の幅より大きく、導入孔4はスリット5が交差する位置に設けられている。口金1(口金基体2)を構成する材料は、金属又は合金であり、例えば、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の金属や、これら金属を含む合金(SUS630等のステンレス合金等)、あるいは、炭化タングステン基超硬合金を挙げることが出来る。
【0043】
[ハニカム構造体成形口金用電極]そして、上記の口金1を一例とする口金は、導入孔及びスリットが形成されていない口金基体に、それら導入孔及びスリットを形成することによって、得られる。このとき、その導入孔及びスリットが形成されていない口金基体に六角形のスリットを形成するために使用されるのが、ハニカム構造体成形口金用電極である。
【0044】
図3A及び図3Bに示されるハニカム電極100(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面107と他の面108とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体102を備える。図3Bには、図3Aにおける切断線301による切断断面が示されている。このハニカム電極100では、電極基体102の一の面107のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が備わって(開口して)おり、他の面108には、電極セル142は備わっていない(開口していない)。ハニカム電極100の一の面107を見ると、図3Aに示されるように、電極セル142は、(例えば)ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、ハニカム構造体40の端面形状(図1を参照、軸方向に垂直な面の断面形状も同じ)に対応した形状が表れていることが、確認出来る。このハニカム電極100では、複数の電極セル142を区画する部分のみが、(換言すれば、電極セル142と電極セル142との間のみが、)電極隔壁141で構成される。一の電極セル142において、他の電極セル142に隣接しない部分は、電極隔壁141になっておらず、電極基体102そのものである。この外周側の、電極基体の未加工部分を、本明細書において、耳部ということがある。
【0045】
ハニカム電極100では、電極隔壁141及び電極セル142が表れない他の面108には、薄い電極隔壁141が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分は、電極基体102の実体部分で構成されるので、ハニカム電極100全体として、強度は高い。従って、電極セル142を形成する電極隔壁141は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100の電極隔壁141の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁141を含むハニカム電極100が、破損したり、変形したりすることはない。尚、電極隔壁141の厚さとは、隣接する電極セル142間の最短距離である。
【0046】
図4A及び図4Bに示されるハニカム電極110(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面117と他の面118とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体112を備える。図4Bには、図4Aにおける切断線401による切断断面が示されている。このハニカム電極110では、ハニカム電極100と同様に、電極基体112の一の面117のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が備わって(開口して)おり、他の面118には、電極セル142は備わっていない(開口していない)。但し、ハニカム電極110は、電極基体112の一の面117のみに設けられた電極セル142の底部に、更に、電極基体112の他の面118に向けて形成された円孔149(孔)を有する。この円孔149は、一の面117から見て、電極セル142の底部に掘られた孔(穴)ということが出来、他の面118に開口していない。ハニカム電極100と同様に、ハニカム電極110の一の面117を見ると、図4Aに示されるように、電極セル142は、(例えば)ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、ハニカム構造体40の端面形状(図1を参照、軸方向に垂直な面の断面形状も同じ)に対応した形状が表れているものである。このハニカム電極110は、上記ハニカム電極100と同様に、耳部を有するものである。
【0047】
ハニカム電極110では、電極隔壁141及び電極セル142が表れない他の面108には、薄い電極隔壁141が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分には、電極セル142の底部に、それぞれ円孔149が形成されるだけである。複数の円孔149は他の面108に開口しておらず、それらの間は薄い壁ではないので、ハニカム電極100全体として、強度は高い。従って、電極隔壁141は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100と同様に、ハニカム電極110の電極隔壁141の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁141を含むハニカム電極110が、破損したり、変形したりすることはない。
【0048】
図5A及び図5Bに示されるハニカム電極120(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面127と他の面128とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体122を備える。そして、このハニカム電極120では、ハニカム電極100,110と同様に、電極基体122の一の面127のみに、電極隔壁141によって区画された複数の電極セル142が備わって(開口して)おり、他の面128には、電極セル142は備わっていない(開口していない)。但し、ハニカム電極120は、電極基体122の一の面127のみに設けられた電極セル142の底部に、更に、電極基体122の他の面128に向けて形成された円孔145(孔)を有する。ハニカム電極110とは異なり、この円孔145は、他の面128に開口している。従って、ハニカム電極120の電極基体122では、一の面127と他の面128とが、電極セル142及び円孔145によって連通している。ハニカム電極120における開口の形状を見ると、2つの主面のうちの一の面127に表れる形状と他の面128に表れる形状とが異なっている。ハニカム電極120の一の面127を見ると、図5Aに示されるように、電極セル142は、ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、その一の面127には、ハニカム構造体40の端面形状に、略似た形状の一部が表れていることがわかる。このハニカム電極120は、上記ハニカム電極100,110と同様に、耳部を有するものである。ハニカム電極120では、複数の電極セル142を区画する部分のみが、(換言すれば、電極セル142と電極セル142との間のみが、)電極隔壁141で構成される。一の電極セル142において、他の電極セル142に隣接しない部分は、電極隔壁141になっておらず、電極基体122そのものである。
【0049】
ハニカム電極120では、電極隔壁141及び電極セル142が表れない他の面128には、薄い電極隔壁141が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分には、複数の円孔145が形成されるだけである。この複数の円孔145は、他の面128に開口しているが、これら円孔145の間は、薄い壁ではないので、ハニカム電極120全体として、強度は高い。従って、電極隔壁141は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100,110と同様に、ハニカム電極120の電極隔壁141の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁141を含むハニカム電極120が、破損したり、変形したりすることはない。
【0050】
図12に示されるハニカム電極410(ハニカム構造体成形口金用電極)は、ハニカム電極120と同様に、一の面のみにおいて、複数の電極セル142が表れるものである。但し、ハニカム電極410は、耳部を有しない。このハニカム電極410は、電極セル142が形成される体積の概ね半分程度を占める部分においては、複数の電極セル142を区画する部分のみならず、一の電極セル142が他の電極セル142に隣接しない部分も、電極隔壁141で構成されている。換言すれば、ハニカム電極410は、体積の概ね半分程度を占める部分においては、複数の電極セル142を区画する電極隔壁141のみで、構成されるものであり、それ以外の、電極基体に相当する部分は、ハニカム電極410に、存在しない。但し、ハニカム電極410は、ハニカム電極120と同様に、電極セル142が表れない他の面には、薄い電極隔壁141が形成されていない。体積の概ね半分程度を占める部分には、複数の円孔145が形成されるだけであるので、ハニカム電極410全体として、強度は高い。
【0051】
図6A及び図6Bに示されるハニカム電極300(本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極)は、放電性材料からなり、一の面307と他の面308とからなる2つの主面を有する厚板状(直方体)の電極基体302を備える。そして、このハニカム電極300では、電極基体302の一の面307のみに、電極隔壁341によって区画された複数の電極セル342が備わって(開口して)おり、他の面308には、電極セル342は備わっていない(開口していない)。但し、ハニカム電極300は、電極基体302の一の面307のみに設けられた電極セル342の底部に、更に、電極基体302の他の面308に向けて形成された円孔345(孔)を有する。この円孔345は、他の面308に開口している。従って、ハニカム電極300の電極基体302では、一の面307と他の面308とが、電極セル342及び円孔345によって連通している。ハニカム電極300における開口の形状を見ると、2つの主面のうちの一の面307に表れる形状と他の面308に表れる形状とが異なっている。ハニカム電極300の一の面307を見ると、図6Aに示されるように、電極セル342は、ハニカム構造体40の流通セルと相似しており、その一の面307には、ハニカム構造体40の端面形状に、略似た形状の一部が表れていることがわかる。このハニカム電極300は、上記ハニカム電極100,110,120と同様に、耳部を有するものである。
【0052】
既述のハニカム電極110では、円孔149が電極セル142と1対1で設けられており、同様に、既述のハニカム電極120では、円孔145が電極セル142と1対1で設けられている。これに対し、ハニカム電極300では、円孔345が、3つの電極セル342毎に、設けられている。円孔345は、電極セル342と、1対1で設けられていない。そして、円孔345の中心軸は、3つの電極セル342を形成する電極隔壁341の交点に重なるように位置しており、円孔345の中心軸と、電極セル342の中心軸とは、同一線上に位置していない。これは、換言すれば、空間である電極セル342と円孔345とを、それぞれ柱形状に見立てたときに、それぞれの中心軸が同軸ではない、ということである。ハニカム電極300は、これらの点で、ハニカム電極110,120とは、異なる。
【0053】
ハニカム電極300では、ハニカム電極120と同様に、電極隔壁341及び電極セル342が表れない他の面308には、薄い電極隔壁341が形成されず、体積の概ね半分程度を占める部分には、複数の円孔345が形成されるだけである。この複数の円孔345は、他の面308に開口しているが、これら円孔345の間は、薄い壁ではないので、ハニカム電極300全体として、強度は高い。従って、電極隔壁341は、薄いけれども、変形し難くなっている。ハニカム電極100,110,120と同様に、ハニカム電極300の電極隔壁341の厚さは、0.01mm以上、0.3mm未満である。このように薄くても、口金の加工中(製造中)に、その電極隔壁341を含むハニカム電極300が、破損したり、変形したりすることはない。
【0054】
電極基体102,112,122,302として用いられる放電性材料としては、例えば、銅タングステン合金、銀タングステン合金、銅、カーボングラファイト等を用いることが出来る。より具体的には、Cu;50、W;50からなる銅タングステン合金(単位は質量%)であれば、ドリル等による穿孔加工が可能で、高導電率や高融点という特性から耐腐食性、耐摩耗性に優れており、放電特性が良く加工精度が高いという利点がある。
【0055】
次に、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法、ハニカム構造体成形口金を製造する方法、及びハニカム構造体を製造する方法について説明する。
【0056】
[ハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法]本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法について、最初に、既述の、図5A及び図5Bに示されるハニカム電極120を製造する場合を例にとって、図7A、図7B、図8、及び図9を参照しながら、説明する。
【0057】
先ず、放電性材料からなり、2つの主面を有する、孔加工のされていない、厚板状の電極基体を用意する。この電極基体は、加工されて、のちに電極基体122となるものであり、市販されている板状材料を、所望のサイズに切断して得ることが出来る。
【0058】
次に、その電極基体に、一の面127Bと他の面128Bを貫通する複数の円孔145Bを開けて、電極基体122Bを得る(図7A、図7B、及び図9の(1)を参照)。この円孔145Bは、電極基体122Bに対し、例えばドリルによる穿孔加工を施して、開けることが出来る。尚、図7Aには内部を透視した様子が描かれ、図7Bでは内部を透視していない。既述の図5A、図5Bにおいても、(透視しなければ)外見上は、図7Bに示された態様に準じたものとなる。
【0059】
電極基体122Bにおいて、複数の円孔145Bは、(例えば)ハニカム構造体40の流通セル42に対応する位置に、開けられる(図1を参照)。即ち、複数の円孔145Bを設けるべき位置は、最終的に得ようとするハニカム構造体の設計(流通セルのサイズ、流通セルのピッチ等)に基づく。円孔とは、電極基体の主面に表れた形状が円形である孔を意味する。この円孔は、空間として円柱に見立てることが出来、そうした場合に、複数の円孔145Bの中心軸どうしの間隔を0.80〜2.50mm程度とすることが出来る。又、中心軸に垂直な円の半径を0.40〜1.20mm程度とすることが出来る。
【0060】
そして、複数の円孔145Bのそれぞれにおいて、例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、好ましくはカーボングラファイトからなる加工用電極161を挿入する(図8を参照)。例えば、個々の加工用電極161は、角柱形を呈するものであり、複数の加工用電極161は、支持部162を通して一体化していて、全体としては櫛歯状の電極(櫛歯状電極160)になっている。そして、円孔145Bの内側から電極基体122Bの孔側面103に向けて放電して、その電極基体122Bの孔側面103を加工する(図9の(2)を参照)。孔側面103に対する放電加工は、円孔145Bの深さ方向の概ね半分程度を、六角形の電極セル142(図5Aを参照)に変えようとするものである。この放電加工に際しては、加工用電極161を、図9の(2)中の矢印で示される方向に、平行移動させることが好ましい。図9の(4)、(6)においても同様である。この平行移動によって、加工用電極161が、対向する孔側面103に近づき、それぞれを平面に加工する。この最初の放電加工の後に、孔側面103のうち、対向する一部分が平面104になる(図9の(3)を参照)。
【0061】
その後、図9の(2)の状態から、角度を例えば左回転方向に60°変えて、同様に加工用電極161を挿入し、電極基体122Bの孔側面103に向けて放電して加工し(図9の(4)を参照)、角度を更に左回転方向に60°(最初の位置から左回転方向に120°(又は−60°))変えて、同様に、加工用電極161を挿入し、電極基体122Bの孔側面103に向けて放電して加工をすれば(図9の(6)を参照)、その都度、孔側面103は平面104に変わる(図9の(5)、(7)を参照)。そして、最終的に、円孔145Bの深さ方向の概ね半分程度(具体的には1〜10mm程度)は六角形の電極セル142になり、ハニカム電極120が得られる(図9の(7)、図5Aを参照)。尚、円孔145Bの深さ方向の残り部分は、そのまま円孔145となるが(図5Bを参照)、図9においては、そのまま円孔145となる部分は描かれていない(省略している)。
【0062】
複数の円孔145Bの配置(ひいてはハニカム構造体の流通セルのサイズ、流通セルのピッチ等)によっては、同じ櫛歯状電極160を使用して、角度を変えることが出来るが、別の櫛歯状電極が必要になる場合もある。
【0063】
尚、既述のように、各図は模式図であり、図9においては、図5A、図5B、及び図8とは異なり、過程が理解し易いように、電極セルは、7個のみが表されている。図5A、図5B、及び図8においては、電極セルは、12個表されている。何れの数も、実用上、必ずしも適切な数ではない。ハニカム電極120の如く耳部を有するハニカム電極は、一度で、ハニカム構造体成形口金を作製しようとするもの(フルサイズのハニカム電極)であるから、電極セルの数は、実際には、得ようとするハニカム構造体成形口金の仕様(更にはハニカム構造体の仕様)に基づいて、決定される。一方、ハニカム電極410の如く耳部を有しないハニカム電極も、得ようとするハニカム構造体成形口金の仕様(更にはハニカム構造体の仕様)に基づいて、電極セルの数が決められるが、電極セルの数は、少なくてよい。耳部を有しないハニカム電極は、複数回に分けて、ハニカム構造体成形口金を作製し得るもの(一部分サイズのハニカム電極)だからである。
【0064】
次に、図6A及び図6Bに示されるハニカム電極300を製造する場合を例にとって、図11A及び図11Bを参照しながら、説明する。
【0065】
先ず、ハニカム電極120の場合と同様にして、放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を用意する。この電極基体は、のちに電極基体302となるものであり、市販されている板状材料を、所望のサイズに切断して得ることが出来る。
【0066】
次に、その電極基体に、一の面307B側から他の面308Bへ向けて、貫通しない複数の円孔344Bを、一の面307Bから例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、開ける。そして、反対に、他の面308B側から一の面307Bへ向けて、貫通しない複数の円孔345Bを、他の面308Bから例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、開ける。このようにして、3つの円孔344Bと、1つの円孔345Bとが、貫通した電極基体302Bを得る(図11A及び図11Bを参照)。このとき、円孔345Bの中心軸が、3つの円孔344Bの中心軸を結ぶ三角形の中心に重なるようにすると、各円孔344Bが、円孔345Bと、同じ開口面積で連通する。円孔344B,345Bは、例えばドリルによる穿孔加工によって開けることが出来る。電極基体302Bにおいて、複数の円孔344Bは、ハニカム電極120の場合と同様に、(例えば)ハニカム構造体40の流通セル42に対応する位置に、開けられる。即ち、複数の円孔344Bを設けるべき位置は、最終的に得ようとするハニカム構造体の設計(流通セルのサイズ、流通セルのピッチ等)に基づいて、定まる。
【0067】
そして、ハニカム電極120の場合と同様にして、複数の円孔344Bに、加工用電極161を挿入して、放電加工を行い、円孔344Bを六角形の電極セル342に加工すればよい。円孔345Bは、そのまま円孔345となる。以降の工程は、ハニカム電極120の場合に準じたものであるから、説明を省略する。
【0068】
以上、ハニカム電極120,300を製造する場合を例にして、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極を製造する方法について説明したが、本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、電極セルの形状が、六角形ではなく、八角形及び四角形であってもよい。以下、ハニカム電極の電極セルの形状が、大きな八角形と小さな四角形である場合について、図10を参照しながら、説明する。この図10が、過程が理解し易いように描かれた模式図であり、図10において表された電極セルの数が、実用上、必ずしも適切な数ではないことは、いうまでもない。
【0069】
先ず、ハニカム電極120の場合と同様に、放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を用意する。次に、その電極基体に、貫通孔である大きな円孔245Bと小さな円孔246Bを開けて、電極基体202Bを得る(図10の(1)を参照)。
【0070】
そして、複数の円孔245Bのそれぞれにおいて、例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、角柱形の加工用電極261を挿入する。同様に、複数の円孔246Bのそれぞれにおいて、例えば概ね半分程度の深さ(具体的には1〜10mm程度)まで、角柱形の加工用電極262を挿入する。複数の加工用電極261と複数の加工用電極262とが、支持部を通して一体化した櫛歯状電極を用いれば、これらの動作を一度に行うことが可能である。あるいは、別々の櫛歯状電極を用いて、順を追って加工を行ってもよい。次いで、挿入した加工用電極261によって、円孔245Bの内側から、電極基体202Bの孔側面203に向けて放電して、その電極基体202Bの孔側面203を加工する。同様に、挿入した加工用電極262によって、円孔246Bの内側から、電極基体202Bの孔側面205に向けて放電して、その電極基体202Bの孔側面205を加工する(図10の(2)を参照)。これらの放電加工に際しては、加工用電極261,262を、図10の(2)中の矢印で示される方向に、平行移動させることが好ましい。図10の(4)、(6)においても同様である。この平行移動によって、加工用電極261,262が、対向する孔側面203,205に近づき、それぞれを平面に加工する。そして、この最初の放電加工の後に、孔側面203,205のうち、対向する一部分が平面204,206になる(図10の(3)を参照)。
【0071】
そして、図10の(2)の状態から角度を90°変えて、同様に、加工用電極261,262を挿入し、電極基体202Bの孔側面203,205に向けて放電して加工する(図10の(4)を参照)。この2番目の放電加工の後に、円孔245Bの孔側面203及び円孔246Bの孔側面205のそれぞれにおいて、四隅を除く面が平面204,206になって、円孔245B,246Bのそれぞれにおいて、深さ方向の概ね半分程度(具体的には1〜10mm程度)は、深さ方向に垂直な断面が四角形に近い形状となる(図10の(5)を参照)。
【0072】
次いで、(厳密には加工によって既に円孔ではなくなっているが、元の)大きな複数の円孔(円孔245B)のみに、概ね半分程度の深さまで(具体的には1〜10mm程度)、(加工用電極261,262に比して、)小さな加工用電極263を挿入し、上記四角形の四隅(角部分)に向けて、放電する(図10の(6)を参照)。この放電加工によって、その四角形の四隅(角部分)に平面が出来て、最終的に、円孔245Bの深さ方向の概ね半分程度が八角形の電極セル242になり、円孔246Bの深さ方向の概ね半分程度が、四角形の電極セル243になる。こうして、電極基体202からなるハニカム電極200が得られる(図10の(7)を参照)。尚、円孔245B,246Bの深さ方向の残り部分は、そのまま円孔となるが、図10においては、そのまま円孔となる部分は描かれていない(省略している)。
【0073】
既述のように、ハニカム電極における電極セルが表れた側の面には、ハニカム構造体の端面形状に対応した形状(の全部又は一部)が表れるのであるから、このようなハニカム電極200は、断面形状が大きな八角形の流通セルと断面形状が小さな四角形の流通セルとを有するハニカム構造体を得るに際し、成形口金を作製するために使用される。
【0074】
[ハニカム構造体成形口金を製造する方法]既述のハニカム電極120を一例とするハニカム電極を用い、口金1(図2A〜図2C)を製造する場合を例にとって、説明する。先ず、例えば、市販されているステンレス合金(SUS630)製の、導入孔及びスリットが設けられていない、2つの主面を有する厚板状の口金基体を用意する。この口金基体は、導入孔4及びスリット5を設けることによって、口金基体2となるものである。
【0075】
次に、その口金基体に、例えば、電解加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等の公知の手段によって、厚さ方向に開口する導入孔4を形成する。この導入孔4は、のちに形成される六角形をなすスリット5における交差部と連通するような位置に形成される(図2Cを参照)。こうして得られる口金1によれば、押出成形を行う際に、導入孔4に導入した成形原料を、スリット5全体に均一に広げることが出来、優れた成形性が実現される。
【0076】
そして、ハニカム電極120を使用して、口金基体の導入孔4を形成した面とは反対の面から放電加工を行い、スリット5を形成する。こうして、ハニカム電極120とは相補形状の、口金1が得られる(図9の(7)、(8)を参照)。この放電加工は、一般的なNC放電加工機、放電加工油を用いて、口金基体の導入孔4を形成した面とは反対の面にハニカム電極120を押し当てながら、行うことが出来る。
【0077】
尚、例えばハニカム電極120は耳部を有するものであるから、実際には、その電極セル及び電極隔壁の形態及び数等は、得ようとする口金1の仕様(スリットの形態及び数等)に基づいて、決定されることは、既述の通りである。
【0078】
[ハニカム構造体を製造する方法]先ず、例えば、アルミナ、カオリン、及びタルクを混合したコージェライト化原料を用い、バインダ(メチルセルロース等)、分散媒(水等)を、例えば、コージェライト化原料100質量部に対して、バインダ5質量部、分散媒20質量部を混合し、混練して坏土を得る。
【0079】
そして、得られた坏土を、口金1を取り付けた押出成形機によって押出成形すれば、導入孔4から導入された坏土(成形原料)が、スリット5へと移り、導入孔4とは反対側のスリット5の開口から押し出されて、ハニカム成形体が得られる。そして、そのハニカム成形体を焼成すれば、ハニカム構造体40を一例とするハニカム構造体を得ることが出来る。
【0080】
尚、ハニカム電極と口金との関係と同様に、一度で、ハニカム構造体(ハニカム成形体)を作製しようとする口金においては、スリットの形態及び数等は、得ようとするハニカム構造体(ハニカム成形体)の仕様(多孔質隔壁及び流通セルの形態及び数等)に基づいて、決定される。又、例えば、図2Cに示される形態の口金1を使用して、略角柱形の、複数のハニカム成形体(セグメント)を得て、それらを接合した後に、外形を円柱形に加工することによって、図1に示されるハニカム構造体40を得ることは、可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るハニカム構造体成形口金用電極は、フィルタや触媒担体として多用されるハニカム構造体を成形するために用いられる、口金の加工に、好適に利用される。
【符号の説明】
【0082】
1:口金(ハニカム構造体成形口金)
2:口金基体
4:導入孔
5:スリット
7:(口金基体の)一の面
8:(口金基体の)他の面
40:ハニカム構造体
41:多孔質隔壁
42:流通セル
100,110,120,200,300,410:ハニカム電極(ハニカム構造体成形口金用電極)
102,112,122,202,302:電極基体
103,203,205:孔側面
104,204,206:平面
107,117,127,307:(電極基体の)一の面
108,118,128,308:(電極基体の)他の面
122B,202B,302B:(作製過程における)電極基体
127B,307B:(作製過程における電極基体の)一の面
128B,308B:(作製過程における電極基体の)他の面
141,341:電極隔壁
142,242,243、342:電極セル
145,345:(電極基体に形成された(開口している))円孔
145B、245B、246B:(作製過程における(貫通している))円孔
149:(電極基体に形成された(開口していない))円孔
160:(複数の加工用電極を有する)櫛歯状電極
161,261,262,263:加工用電極
162:(複数の加工用電極を一体化する櫛歯状電極の)支持部
344B,345B:(作製過程における(貫通していない))円孔
301,401:切断線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面と二の端面とを有する柱状を呈し多孔質隔壁によって区画された複数の流通セルを有するハニカム構造体を成形する口金の作製に用いられる電極であって、
放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を備え、その電極基体の前記2つの主面のうちの一の面のみに、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが設けられており、
その一の面において前記電極セルの形状が、前記ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であるハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項2】
前記電極基体の一の面のみに設けられた電極セルの底部に、更に、前記電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔を有する請求項1に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項3】
電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された前記孔が、前記他の面に開口している請求項2に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項4】
前記孔が、前記電極セルと、対で設けられる請求項2又は3に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項5】
前記孔が、複数の前記電極セル毎に、設けられる請求項2又は3に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項6】
前記孔の中心軸と、前記電極セルの中心軸とが、同一線上に位置しない請求項2〜5の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項7】
前記電極隔壁の厚さが、0.01mm以上、0.3mm未満である請求項1〜6の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項8】
前記電極セルの形状が、六角形である請求項1〜7の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項9】
前記電極セルの形状が、八角形及び四角形である請求項1〜7の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項1】
周面と二の端面とを有する柱状を呈し多孔質隔壁によって区画された複数の流通セルを有するハニカム構造体を成形する口金の作製に用いられる電極であって、
放電性材料からなり2つの主面を有する厚板状の電極基体を備え、その電極基体の前記2つの主面のうちの一の面のみに、電極隔壁によって区画された複数の電極セルが設けられており、
その一の面において前記電極セルの形状が、前記ハニカム構造体の流通セルの形状と、相似であるハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項2】
前記電極基体の一の面のみに設けられた電極セルの底部に、更に、前記電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された孔を有する請求項1に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項3】
電極基体の2つの主面のうちの他の面に向けて形成された前記孔が、前記他の面に開口している請求項2に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項4】
前記孔が、前記電極セルと、対で設けられる請求項2又は3に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項5】
前記孔が、複数の前記電極セル毎に、設けられる請求項2又は3に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項6】
前記孔の中心軸と、前記電極セルの中心軸とが、同一線上に位置しない請求項2〜5の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項7】
前記電極隔壁の厚さが、0.01mm以上、0.3mm未満である請求項1〜6の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項8】
前記電極セルの形状が、六角形である請求項1〜7の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【請求項9】
前記電極セルの形状が、八角形及び四角形である請求項1〜7の何れか一項に記載のハニカム構造体成形口金用電極。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【公開番号】特開2012−125882(P2012−125882A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279795(P2010−279795)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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