説明

ハマナスの花から得られた糖質分解酵素阻害物質含有食品組成物及びその製造方法

【課題】合併症の進展や根治が難しい糖尿病は、治療ではなく予防を第一に考えるべきであるので、安全性の高い食品に着目し、食後高血糖の是正をもたらすと考えられる食品素材を提供することにより、糖尿病の予防を図ることが課題であった。
【解決手段】ハマナスの花から水または水溶液により抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼの阻害物質を含有してなる食品組成物が糖尿病の予防に有効であって、ハマナスの花から水または水溶液によって抽出するα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼの阻害物質の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハマナス(Rosa rugosa)の花から抽出された糖質分解酵素阻害物質を含有してなる食品組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全世界において糖尿病が爆発的に増加しているが、糖尿病では高血糖が続くことによって血管が徐々に障害を受け、さまざまな臓器に異常が生じる。糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症が三大合併症として以前から知られているが、近年では動脈硬化症発症のリスクが高くなることも知られている。また、高血糖そのものによる糖尿病性昏睡(ケトアシドーシス、高浸透圧性昏睡、乳酸アシドーシス)もあり、死に至ることもある。
【0003】
糖尿病には二つのグループが存在し、I型糖尿病とII型糖尿病に分類される。
【0004】
I型糖尿病は「膵β細胞の破壊によってインスリンの欠乏が生じて起こる糖尿病」と定義されている(例えば、非特許文献1、2、3など参照)。その成因としてはヘルパーT細胞の異常による「自己免疫性」と原因不明の「特発性」の二つが存在し、幼児期に発症が多いということが特徴である。
【0005】
一方、II型糖尿病はインスリン非依存型糖尿病といわれていたように、インスリンの絶対的な欠乏は無いが、β細胞の機能異常による「インスリン分泌能低下」と肝、筋、脂肪組織などの標的臓器における「インスリン感受性低下」が併発することによって発症すると考えられている。
【0006】
昨今激増している糖尿病はII型に由来するものであり、糖尿病の90〜95%を占めていると考えられている。II型糖尿病は「生活習慣病」といわれているように、ストレス、肥満、運動不足による基礎代謝能低下の上での高カロリー食摂取など、現代型社会生活によって引き起こされている。糖尿病による合併症は慢性的な高血糖が原因であり、その後の人生に破壊的な影響をもたらすことを考えると、食生活や運動不足の是正が治療及び予防に必須と考えられる。
【0007】
血糖のコントロールはインスリンによって行われ、空腹時の基礎分泌と食事後の血糖上昇に対応する即時追加分泌により一定のレベルに保たれる。II型糖尿病において、基礎分泌が不全になることは少ない。しかし、追加分泌が十分になされないため、血糖値が正常になるまでに次の食事の血糖上昇が起こり、常に高値となる。さらに感受性低下も助長し、慢性的な高血糖に至る。高脂血症と共に高血糖は膵β細胞やインスリン標的器官に毒性作用をもち、さらに高血糖を招くといった悪循環に至る。
【0008】
合併症の予防を主目的とするII型糖尿病の治療は、時にインスリン療法(速攻型、超速攻型)を必要とするが、ほとんどは経口薬療法によるもので、インスリン分泌改善、抵抗性改善及び食後高血糖改善である。
【0009】
スルホニルウレア(sulfonylurea)薬は膵β細胞に存在するスルフォニルウレアレセプター(Sulfonylurea Receptor:SUR受容体)タンパク質に結合し、脱分極が生じた結果、電位依存性カルシウムチャネルが開いてインスリン分泌を促進する。1956年にトルブタマイド(tolbutamide)が臨床導入されており、経口薬の中では最も歴史が古い。また、最近では分泌促進作用の強いグリベンクラミド(glibenclamide)も開発されている。副作用としてはインスリン分泌が過剰になったときには低血糖が生じる。また、他の副作用も多数報告されており、肝臓からの酵素流出の上昇、顆粒球減少症、血小板減少症などの造血器障害、消化器症状などがある。また、グリベンクラミドは腎臓の合併症がある場合には原則として禁止されている。
【0010】
スルホニルウレア薬は作用発現時間が遅く、食後高血糖の是正には不十分であった。そこでスルホニルウレア薬のグリベンクラミドを改変することによって、ナテグリニド(nateglinide)、レパグリニド(repaglinide)、ミチグリニド(mitiglinide)などの速攻型インスリン分泌促進薬としてメグリチニド(meglitinide)系薬剤が開発された。現在、日本で用いられているナテグリニドはスルホニルウレア薬同様、受容体に結合後、細胞膜脱分極によって、細胞内カルシウムイオン濃度が上昇し、インスリン分泌を促進する。この薬剤は、SURへの結合が弱く解離が早い上、消化管からの吸収が早く、肝臓で速やかに不活性化されるという特徴をもつ。このように作用時間が早く持続時間が短いため、食後高血糖に有効であり、実際ナテグリニドを用いたII型糖尿病患者に対する臨床試験では食後血糖値のみならず、食後血中インスリン値、糖化ヘモグロビン値、空腹時血糖値に効果を発揮した報告がある(例えば、非特許文献4参照)。食後高血糖は心血管疾病の危険因子として示唆されており(例えば、非特許文献5、6など参照)、合併症の発症抑制及び進展抑制には空腹時血糖だけでなく食後高血糖が重要視されてきている。その意味で、速攻型インスリン分泌促進薬の効果には期待度が高い。しかしながら、副作用としては低血糖や急性肝障害などがあるほか、腎不全患者には適用できないなどの制約がある。
【0011】
以上の薬剤はインスリン分泌を誘導するものであり、インスリン感受性低下を補償するものではない。感受性低下改善薬として知られているものがビグアナイド(biguanide)薬とチアゾリジン(thiazolidine)誘導体である。
【0012】
ビグアナイド薬は詳細な作用機序は分かっていないが、インスリン感受性の増加が認められている。また、血糖降下作用は肝からのブドウ糖放出抑制と肝糖新生抑制によって主にもたらされる。ビグアナイド薬は1950年後半にフェンホルミン(phenformin)、ブホルミン(buformin)、メトホルミン(metformin)が販売された。しかし、フェンホルミンは1970年代に乳酸アシドーシス発症への関連から、使用が中止になった。そのため、腎障害患者、低酸素血症、代謝性アシドーシスなどの乳酸アシドーシス発症の危険性がある場合には厳禁である。この他の副作用としては、腹痛、下痢、嘔吐などの胃腸障害、肝機能障害、ビタミンB12吸収阻害がある。
【0013】
チアゾリジン誘導体も同様に抵抗性改善のメカニズムは分かっていないが、チアゾリジン誘導体薬剤は筋肉、脂肪組織に作用し、ブドウ糖の取り込みを促進することによって血糖降下作用を示す。副作用としては肝障害、心不全の悪化のほか、現在販売されているチアゾリジン誘導体では報告例は無いものの、最初に販売されたトログリタゾン(troglitazone)で見られた劇症肝炎などがある。
【0014】
これまでに述べてきた薬剤はすべて、II型糖尿病において見られるインスリン分泌不全及び抵抗性改善に作用するものである。軽症の糖尿病患者ではインスリン分泌は緩慢であるが、食後の遅延過大分泌を示すことが多い。そのため、インスリンの分泌時相を食後高血糖にあわせることで、血糖コントロールが可能となる。これには食後高血糖をできるだけ遅延させればよい。食後高血糖は糖質分解酵素(主にα-アミラーゼとα-グルコシダーゼ)が炭水化物をブドウ糖に分解することによってもたらされるため、競合的阻害剤が血糖上昇を遅延させることができる。現在、α-グルコシダーゼ阻害剤としてアカルボース(Acarbose)とボグリボース(Voglibose)が使用されており、II型糖尿病発症が有意に抑制される報告例(例えば、非特許文献7、8など参照)がある。また、この薬剤の長所として、血中インスリン濃度に影響を与えないため、他の血糖降下薬よりも低血糖症への危険性が極めて低いことにある。しかしながら、この薬剤の特徴的な副作用として、放屁増加、腹部膨満感、下痢などがある。また、腸閉塞や肝機能障害も報告されており、使用上の注意は必要である。
【0015】
以上、糖尿病治療に用いられる経口血糖降下薬の作用と副作用について述べてきたが、このほかにインスリン分泌促進薬には肥満度上昇が知られている。肥満はインスリン抵抗性を悪化させるため、II型糖尿病が進展する可能性がある。さらに、肥満は心筋梗塞などの動脈硬化症の危険因子であるため、糖尿病治療をしているにもかかわらず、血管障害へのリスクが向上するといった状況をまねきかねない。
【0016】
総括すると、経口血糖降下薬は時に昏睡状態に陥る低血糖症をはじめ、肝・腎障害、消化器症状といった様々な副作用がある。また、薬剤のほとんどが、臓器障害が認められるときには使用が禁止される。糖尿病は一度発症すると完治することが難しく、インスリン療法も含め対症療法を余儀なくされる。このことは食事の際、常に投薬が義務付けられることになる。それに呼応し、経済的な面においても患者の負担は重い。さらに、今後ますます高齢化社会が進むにつれて、医療費問題は深刻になることが予想されるため、糖尿病をいかにして予防するかが重要である。
【0017】
II型糖尿病は遺伝因子と環境因子(運動、食事、ストレスなど)によって発症する。しかし、特に環境因子が強く、治療においても適正な運動と食事があって、初めて経口血糖降下薬の意味があるとされている。しかしながら、時間的な制約の上、糖尿病自体にほとんど自覚症状が無いことから、現代人が糖尿病になる前に運動・食事に注意を払うことは難しい。また、薬剤による予防は医師の処方なしで購入できないため不可能である。
【0018】
上述したように、合併症の進展や一度発症すると根治が難しい糖尿病は、治療ではなく予防を第一に考えるべきである。薬剤によるII型糖尿病発症抑制効果が報告されているが(例えば、非特許文献9、10、11など参照)、予防で薬剤を使うことは、数多くの副作用のため不適切であり事実上不可能である。そこで、我々は食品に注目した。食品は生活に欠かすことができないものであり、それゆえに摂取する機会が多い。さらに、食品であるために安全性は高い。つまり予防に際して、食品こそが優れた素材であると考えられる。
【0019】
食後高血糖改善の手段は、薬剤に見られるように、インスリン分泌促進、インスリン抵抗性改善、糖質分解酵素阻害による消化吸収遅延があるが、予防に関しては糖質分解酵素阻害が最も適切だと思われる。その理由として、総合的に副作用が少ないことが糖質分解酵素阻害剤についていえることにある。経口糖尿病薬剤で最も懸念すべき低血糖症の危険性は、この薬剤では特に低い。また、他の副作用として放屁増加や下痢などが投与初期に見られるが、慢性的ではなく消失する。そしてインスリン分泌促進剤や抵抗性改善薬は対症療法であって、体質改善にはまるで効果はない。しかしながら、糖質分解酵素阻害によって食後高血糖改善が見られれば、人が本来持つインスリン分泌能や感受能につながる可能性が高い。
【0020】
【非特許文献1】The expert committee on the diagnosis and classification of diabetes mellitus(1997): Diabetes Care 20,p.1183
【非特許文献2】Alberti KG, Zimmet PZ for the WHO consultation(1998):Diabet Med 15,p.539
【非特許文献3】葛谷 健ほか:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(1999)、糖尿病42、p.385
【非特許文献4】小坂樹徳ほか:1997、薬理と臨床7、p.669
【非特許文献5】DECODE Study Group:2001,Arch Intern Med 161,p.397-405
【非特許文献6】Tominaga M et al.:1999,Diabetes Care 22,p.920-924
【非特許文献7】Chiasson JL et al.:1998,Diabetes Care 21,p.1720-1725
【非特許文献8】Chiasson JL et al.:2002,Lancet 359,p.2072-2077
【非特許文献9】Johansen K:1999,Diabetes Care 22,p.33-37
【非特許文献10】Chiasson JL et al.:1998,Diabetes Care 21,p.1720-1725
【非特許文献11】Chiasson JL et al.:2002,Lancet 359,p.2072-2077
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
合併症の進展や根治が難しい糖尿病は、治療ではなく予防を第一に考えるべきであるが、予防で薬剤を使うことは数多くの副作用のため不適切であり事実上不可能であった。そこで、我々は食品に注目した。食品は生活に欠かすことができないものであり、それ故に摂取する機会が多く、さらに食品であるため、安全性は高い。つまり予防に際して、食品こそが優れた素材であると考えられる。食後高血糖状態を繰り返すことによって、耐糖能異常になり、ひいてはII型糖尿病に進展する。よって、食後高血糖を是正することが、糖尿病の予防に大きな意味を持つので、このような食品素材を提供することこそが糖尿病予防の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
我々は、鋭意検討を重ねた結果、食用素材を水溶性画分と有機溶媒画分に分け、それぞれについて、in vitroでの系を用いて、α-グルコシダーゼ阻害成分の検索を行った。その結果、メイクイ茶として飲まれてきたハマナス(バラ科、学名:Rosa rugosa)の花の水溶性画分に高い阻害活性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
すなわち、ハマナスの花から水または水溶液により抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質を含有してなることを特徴とする食品組成物であって、上記ハマナスの花がメイクイ茶であることが好ましい。
【0024】
本発明の第二は、ハマナスの花から水または水溶液によって抽出したことを特徴とするα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質の製造方法である。
【0025】
本発明の第三は、ハマナスの花から60℃〜100℃の水または水溶液によって5分〜15分間抽出することを特徴とするα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質の製造方法である。
【0026】
本発明の第四は、ハマナスの花から水または水溶液によって抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質を含有することを特徴とする飲料の製造方法である。
【0027】
本発明の第五は、ハマナスの花から水または水溶液によって抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質を食品素材に添加することを特徴とする食品組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
上述したように、糖尿病は予防を第一に考えるべきであり、薬剤ではなく食品が格好の素材であると考えられる。本発明のハマナスの花由来の糖質分解酵素阻害物質は安全性が高く、食後高血糖状態の改善に有効である。そして、日常的に食後高血糖改善が果たされれば、二次的な効果としてインスリン分泌能やインスリン抵抗性も改善されていくことになる。
【0029】
本発明に至ったハマナスについての報告例には抗炎症作用(たとえば非特許文献12参照)、抗酸化性による脂質酸化抑制作用(例えば、非特許文献13参照)、抗がん作用(例えば、非特許文献14参照)、分化誘導能(例えば、非特許文献15参照)などがあるが、糖質分解酵素阻害効果があるといった報告は今まで無かった。最近、プテロカルプス(Pterocarpus marsupium)、クワ(Morus alba)、クミスクチン(Orthosiphon aristatus)、オピオホゴン ジャポニカス(Opiophogon japonicus)、ハマナス(Rosa rugosa)、ツユクサ(Commelina communis)、キカラスウリ(Trichosanthis kirilowii)及びハナスゲ(Anemarrhena asphodeloides)の抽出物が糖尿病の治療及び予防に有効であるという発明(例えば、特許文献1参照)がある。この発明では糖質分解酵素阻害効果について述べているが、これは抽出物を組み合わせた混合物であり、ハマナスの花からの抽出液によるものではなかった。
【0030】
現在、食品ではグァバ茶や難消化デキストリンが血糖値降下作用をもっている商品として流通している。しかし、本発明のハマナスの花からの水または水溶液による抽出液は、マルターゼ活性阻害効果及びスクラーゼ活性阻害効果がグァバ茶よりも強かった。従って、本発明のハマナスの花からの水または水溶液による抽出液は同様な作用機序をもつグァバ茶よりも食後高血糖改善効果に有効であることが示唆される。
【0031】
一方、難消化デキストリンによる血糖値上昇抑制効果の詳細は現在も不明である。しかし、難消化デキストリンによってスクロース、マルトース、マルトデキストリン投与後の血糖上昇が抑制されるという報告(例えば、非特許文献16参照)があり、それは二糖類分解酵素特異的輸送体に作用していると考えられている(例えば、非特許文献17参照)。
それ故、本発明のα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼの阻害物質とは、その作用機序が異なり、血糖値降下作用についての有効性を論ずることはできない。しかしながら、難消化デキストリンは一般の方法(例えば、非特許文献18)では収率が低く、温度、反応時間などの製造条件を厳密に管理する必要がある。また、難消化デキストリンは一般にデンプンを高温(100℃〜220℃)で、長時間(3時間〜20時間)分解処理することよって得られる。しかし、この方法によって得られる難消化デキストリンの収率はわずか30%であり、また収率向上のために加熱条件を変更すると60%程度まで増加するが、着色物質や刺激臭も発生するため、精製過程が必要となる。その改良方法として、デンプンを塩酸で加熱処理し、ついでα-アミラーゼ及びグルコアミラーゼによる酵素処理を行うことによって難消化部分の収率向上を果たした製造方法がある(例えば、特許文献2、3など参照)。しかし、この製造方法は酸条件下では酵素が働かないため、中和作用を必要とする。そして、酵素反応後は活性炭による脱色、濾過、イオン交換樹脂による脱塩、脱色を行い、さらに消化性のグルコースなどを除去するために、イオン交換クロマトグラフィーによる精製を行う。このように、難消化デキストリンの製造には、数多くの工程が必要で、かつ温度制御管理も考えると、産業レベルでの安定供給や品質保持は非常に難しいといえる。
【0032】
一方、本発明は、ハマナスの花から水または水溶液により抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質は、水または水溶液で抽出するという、いうなれば一段階工程の製造方法である。このことは産業レベルに発展させても、社会的に求められる安定供給や品質保証に応じることが可能である。
【0033】
【特許文献1】特表2005-500263号公報
【特許文献2】特開平5-178902号公報
【特許文献3】特開平5-148301号公報
【非特許文献12】Hyu-Ju Jung et al.:2005,Biol.Pharm.Bull 28(1),p.101-104
【非特許文献13】Cho EJ et al:2003,Am J Chin Med 31(6),p.907-917
【非特許文献14】Yoshizawa Y et al.:2000,Anticancer Res.Nov-Dec 20(6B),p.4285-4289
【非特許文献15】Yoshizawa Y et al.:2000, J Agric Food Chem Aug 48(8),p.3177-3182
【非特許文献16】Wakabayashi et al.:1995, J Endocrinol. Mar 144(3),p.533-538
【非特許文献17】Wakabayashi S.:1992, Nippon Naibunpi Gakkai Zasshi Jun 20(68),p.623-635
【非特許文献18】Tomasik,K.&Wiejak,P.:1990, Advance in Carbohydrate Chemistry (47),p.279-343
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明にいうハマナスとは、バラ科植物であり、学名をRosa rugosa という。また、花とは、被子植物において萼片の集まった萼、花弁の集まった花冠、おしべとめしべがついている花托であるが、本発明にいう花には、上記のものに花柄を含んでいても差し支えなく、乾燥状態または未乾燥状態とを問わない。従って、中国におけるメイクイ茶(メイグイファー)と呼ばれるものは、ハマナスの花を乾燥したものであるので本発明のハマナスの花に含まれる。
【0035】
本発明の水または水溶液とは、水道水、蒸留水、イオン交換水または水系緩衝液をいい、これらをハマナスの花に加え、静置もしくは撹拌し、得られた抽出液をハマナスの花と分別するためにガーゼなどで濾過することによってα−グルコシダーゼ及びα−アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質を得ることができる。抽出条件としては、水または水溶液の温度が60℃〜100℃、抽出時間が5分〜15分が抽出効率が高く好ましい。また、ハマナスの花はミキサーなどで粉砕したほうが該阻害物質の抽出効率は高くなり、特に好ましい。
【0036】
本発明にいうα-グルコシダーゼ活性の阻害効果の程度は、抽出エキス添加及び非添加の条件でのα-グルコシダーゼ(マルターゼ及びスクラーゼ)によるマルトース及びスクラーゼ分解活性を測定することによって得られる。生成するグルコース量をグルコースオキシダーゼ法によって定量することで阻害効果を評価する方法が一般的である。しかし、グルコースオキシダーゼ法では、グルコースを酸化させてグルコン酸と過酸化水素を発生させ、その過酸化水素が発色基質を還元することによって発色させるため、抗酸化性が高い試料には不適切である。そのため、本発明においては示差屈折計にて、生成したグルコースを検出することにより、阻害効果を評価した。
【0037】
本発明にいうα-アミラーゼ活性の阻害効果の程度は、抽出エキス添加及び非添加の条件でのα-アミラーゼによるデンプン分解活性を測定することによって得られる。活性測定はヨウ素デンプン反応により発色させ、反応溶液中に残存するデンプンの量を吸光度で測定する。ただし、試料によってはヨウ素デンプン反応の発色を著しく阻害するため、希釈する必要がある。
【0038】
本発明にいう食品素材とは、食品の原材料のことをいい、食品組成物とは、各種食品素材からなっており、そのまま或いは加工して食品として食することができるものをいう。従って、飲料も本発明にいう食品組成物に含まれる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の主旨はこれらによって制限されるものではない。
【0040】
(実施例1)
本実施例でもちいたハマナスの花の抽出液(以下、ハマナス抽出液という。)及びグァバの葉の抽出液(以下、グァバ抽出液という。)は10gの乾燥粉砕試料に対し、200mlの蒸留水で抽出を行った。抽出条件は100℃、10分であった。抽出液はガーゼによって分離し、さらに抽出液を15,000×g、5分間の遠心処理によって得られた上清を用いて各々の抽出液とした。
【0041】
(試験例1)
α-グルコシダーゼの調製と酵素単位の定義は以下のとおりである。ラット小腸アセトン粉末(シグマ社製)を250mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、5000×g、10分間の遠心処理後、上清を取得した。さらに、その上清を15,000×g、15分間の遠心処理を行い、上清を取得し、これをα-グルコシダーゼ粗酵素液とした。マルターゼ活性は37℃、60分間に1.44μmolのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義し、スクラーゼ活性は同条件下にて、0.94μmolのスクロースを分解する酵素量を1Uと定義した。なお、酵素単位の定義はグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業社製)を用いて行った。
【0042】
(試験例2)
α-グルコシダーゼの一つ、マルターゼに対する活性阻害実験は以下の方法に従った。250mMマレイン酸緩衝液30μl、マレイン酸緩衝液もしくはハマナス抽出液20μl、希釈した粗酵素液(4U)50μlを加え撹拌後、37℃、5分予備加温した。酵素反応開始は250mMマレイン酸緩衝液に溶かした基質、200mMマルトースを100μl添加することによって行った。37℃、30分間反応後、100℃、10分加温することによって反応を停止させた。対照区はあらかじめ100℃、10分予備加熱することによって失活させた粗酵素液を用いて同様に行った。
【0043】
(試験例3)
グルコース生成量はカプセルパックNH2 UG80(資生堂社製)カラム及び示差屈折計(日本分光社製;RI930インテリジェントRIディテクター)を連結した高速液体クロマトグラフィー(日本分光社製、ガリバーシリーズ)によって、グルコースの保持時間で検出されるピークの面積で表した。分析条件は移動相に超純水で希釈した75%アセトニトリルを用い、試料注入量を25μlとし、カラム温度35℃、流速lml/分にて行った。
【0044】
阻害率の計算は、ハマナス抽出液を含んでいない場合の活性を100とし、ハマナス抽出液を添加した場合の活性を100から差し引いた分を阻害率(%)とした。その結果、マルターゼ活性に対するハマナス抽出液の阻害率は図1に示したように93.7%であった。
【0045】
(比較例1)
同様にグァバ抽出液についても活性阻害実験を行った。その結果、マルターゼ活性に対するグァバ抽出液の阻害率は図1に示したように73.2%であった。
【0046】
(比較例2)
α−グルコシダーゼ阻害剤としてアカルボース(Acarbose:Toronto Research Chemicals社製)を0.1μg/mlとなるように添加し、マルターゼ活性阻害実験を行った。その結果、マルターゼ活性に対するアカルボースの阻害率は図1に示したように56.8%であった。
【0047】
(試験例4)
α-グルコシダーゼの一つ、スクラーゼに対する活性阻害実験は、マルターゼ活性阻害実験とほぼ同様にして行った。ただし基質は250mMマレイン酸緩衝液に溶解させた1Mスクロースを用いた。その結果、スクラーゼ活性に対するハマナス抽出液の阻害率は図2に示したように72.6%であった。
【0048】
(比較例3)
同様にグァバ抽出液についても活性阻害実験を行った。その結果、スクラーゼ活性に対するグァバ抽出液の阻害率は図2に示したように53.7%であった。
【0049】
(比較例4)
α−グルコシダーゼ阻害剤としてアカルボース(Acarbose:Toronto Research Chemicals社製)を10μg/mlとなるように添加し、スクラーゼ活性阻害実験を行った。その結果、スクラーゼ活性に対するアカルボースの阻害率は図2に示したように61.0%であった。
【0050】
(試験例5)
α-アミラーゼの調製及び酵素単位の定義は以下のとおりである。ブタ膵臓由来のα-アミラーゼ(シグマ社製)10mgに対し、5mMの塩化カルシウムを含む200mMトリス-マレイン酸緩衝液(pH7.0)10mlを加え、撹拌して溶解させた。不溶性の沈殿物は15,000×g、5分間遠心処理することにより除去した。α-アミラーゼ活性は37℃、60分間で4.4mgのデンプンを分解する酵素量を1Uとした。なお、酵素単位の定義は0、0.5、1、2%デンプンに対し、以下に記したヨウ素デンプン反応によって発色させ、吸光度計(バイオラッド社製;スマートスペックTMプラス)により655nmにおける吸光度を測定し、得られた検量線から決定した。
【0051】
(試験例6)
α-アミラーゼ活性阻害実験は以下の方法に従った。200mMトリス-マレイン酸緩衝液(pH7.0)30μl、トリス-マレイン酸緩衝液もしくはハマナス抽出液20μl、希釈した粗酵素液(4U)50μlを加えて、撹拌した後、37℃、5分予備加温した。酵素反応開始は200mMトリス-マレイン酸緩衝液に溶かした基質、4%デンプン溶液を100μl添加することによって行った。37℃、30分間反応後、0.5N塩酸を250μl添加することによって反応を停止させた。対照区はあらかじめ100℃、30分予備加熱することによって失活させたα-アミラーゼ酵素溶液を用いて同様に行った。
【0052】
(試験例7)
残存するデンプンの量は、反応液50μlに対しイオン交換水950μl、ルゴール液(0.0016Nヨウ素溶液)500μlを添加することによって発色させた溶液を吸光度計にて、655nmにおける吸光度を測定することによって求めた。
【0053】
阻害率の計算は、ハマナス抽出液を含んでいない場合の活性を100とし、ハマナス抽出液を添加した場合の活性を100から差し引いた分を阻害率(%)とした。その結果、α-アミラーゼに対するハマナス抽出液の阻害率は図3に示したように83.7%であった。
【0054】
(比較例5)
α−グルコシダーゼ阻害剤としてアカルボース(Acarbose:Toronto Research Chemicals社製)を2μg/mlとなるように添加し、α−アミラーゼ活性阻害実験を行った。その結果、α−アミラーゼ活性に対するアカルボースの阻害率は図3に示したように49.3%であった。
【0055】
以上の実施例、試験例及び比較例から、ハマナス抽出液はマルターゼ阻害に関して93.7%、スクラーゼ阻害に関して72.6%と、いずれも同様に調製したグァバ抽出液よりも高い阻害率を示した。また、α-アミラーゼ阻害に関しても同希釈率で83.7%と、高い阻害率を示した。食後高血糖状態の引き金は、体内に存在する糖質分解酵素の中で最も消化に寄与するα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼによる炭水化物の分解である。これらに対し、本発明のハマナス抽出液が高い阻害を示すことは、この抽出液が糖尿病予防の可能性がある食品素材であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
抽出液は飲料の形態で、また乾燥することによって得られる抽出物は炭水化物の多い食品(ご飯など)に添加することによって、食後血糖値上昇を緩和することができる食品に応用することが可能である。また、スクラーゼ活性阻害も高いことからスクロースが主原料の飴などにも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】α-グルコシダーゼの一つ、マルターゼに対する阻害実験の結果である。Acarboseは糖質分解酵素阻害剤である。Acarboseのバーはこの実験が阻害実験であることを示すものである。阻害率は、ハマナス抽出液が93.7%、グァバ抽出液が73.2%、0.1μg/mlAcarboseが56.8%であった。
【図2】α-グルコシダーゼの一つ、スクラーゼに対する阻害実験の結果である。阻害率は、ハマナス抽出液が72.6%、グァバ抽出液が53.7%、10μg/mlAcarboseが61.0%であった。
【図3】α-アミラーゼ阻害実験の結果である。阻害率は、ハマナス抽出液が83.7%、2μg/mlAcarboseが49.3%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハマナスの花から水または水溶液により抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質を含有してなることを特徴とする食品組成物。
【請求項2】
上記ハマナスの花がメイクイ茶であることを特徴とする請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
ハマナスの花から水または水溶液によって抽出したことを特徴とするα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質の製造方法。
【請求項4】
ハマナスの花から60℃〜100℃の水または水溶液によって5分〜15分間抽出することを特徴とするα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質の製造方法。
【請求項5】
ハマナスの花から水または水溶液によって抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質を含有することを特徴とする飲料の製造方法。
【請求項6】
ハマナスの花から水または水溶液によって抽出して得られたα-グルコシダーゼ及びα-アミラーゼのいずれか1種または2種の阻害物質を食品素材に添加することを特徴とする食品組成物の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−241119(P2006−241119A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62360(P2005−62360)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】