説明

ハンダゴテのクリーニング装置

【課題】ハンダゴテのコテ先表面に残留する溶融状態の過剰なハンダを良好に除去できるハンダゴテクリーニング装置を提供する。
【解決手段】ハンダゴテのコテ先3Bの少なくとも一部が挿入可能な吸気孔14Aを有するクリーニングヘッド14と、その吸気孔14A内に吸引気体流を発生させる吸気流発生手段17を備える。吸気流発生手段17は、圧縮空気を噴出するノズル19の周囲に負圧室21が形成される空気エジェクタ18と、ノズル19に圧縮空気を供給するための一次流路と、負圧室21と吸気孔14Aとを連通する二次流路とを具備して成る。そして、吸気孔14Aに加熱されたハンダゴテのコテ先3Bを差し向け、その状態でコテ先3Bを吸気孔14Aに近接もしくは挿入する。これによって、コテ先3Bの表面に残留する溶融状態のハンダが吸引除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンダゴテのコテ先表面に残留する溶融状態のハンダを容易かつ良好に除去することのできるハンダゴテのクリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子部品を回路基板に実装したり電子部品に電線を接続するなどに際し、ハンダゴテを用いて所定の部位をハンダ付けするが、ハンダゴテのコテ先に溶融状態のハンダが過剰に残留していると、これがコテ先から不用意に滴下してしまったり、ハンダの塗布量が部位毎にばらつくなどしてハンダ付け不良を惹起する。
【0003】
このため、ハンダ付けを行うに際し、図6のようにハンダゴテのコテ先pを金属繊維fに擦り付けて余剰のハンダを拭い去った後、次のポイントにハンダ付けすることが一般に広く行われている。
【0004】
しかし、コテ先を金属繊維などに擦り付ける方法では、余剰のハンダを確実に除去することはできないし、ハンダ付けの自動化に不向きであり、しかもコテ先に傷が付いてその寿命を短縮してしまうという欠点があった。
【0005】
そこで、図7のように、ハンダゴテのコテ先pに対してノズルnから圧縮空気を吹き付け、その圧縮空気によりコテ先pの表面に残留する過剰な溶融ハンダを吹き飛ばし、吹き飛ばされたハンダ屑を回収容器b内に回収する方法が知られる(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−216931号公報(発明の実施の形態、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
然しながら、特許文献1に記載されるような方法では、ハンダゴテのコテ先に圧縮空気を吹き付けることから、ハンダ付けの自動化工程に適用することはできても、係る圧縮空気はコテ先と直交する方向から吹き付けられることから、コテ先の表面には図8のように圧縮空気が吹き付けられる面とは逆側の面にハンダsがボール状に残留する。このため、ハンダゴテの移動中にボール状のハンダがコテ先から滴下して作業者に火傷を負わせたり電気回路を短絡させてしまうことがあり、その滴下を免れた場合でもハンダの塗布量がばらついてハンダ付け不良を惹起するという問題がある。
【0008】
又、圧縮空気を吹き付けられた面ではコテ先の酸化腐食が進行し、その寿命が短縮してしまうという問題ある。
【0009】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的はハンダゴテのコテ先から過剰なハンダを良好に除去することのできる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、ハンダゴテ1のコテ先3B表面に残留する溶融状態のハンダを吸引除去するハンダゴテのクリーニング装置であって、ハンダゴテ1のコテ先3Bの少なくとも一部が挿入可能な吸気孔14Aを有するクリーニングヘッド14と、その吸気孔14A内に吸引気体流を発生させる吸気流発生手段17とを備えることを特徴とする。
【0011】
又、吸気孔14Aは、吸引気体流の出口側の開口部に、漸次径が大きくなるテーパ部Tを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハンダ付けの手作業、自動化工程の双方に適用し、加熱されたハンダゴテのコテ先を吸気孔に差し向けた状態で、これを吸気孔に近接もしくは挿入することにより、吸気孔内に吸い込まれる層流状の吸引気体流をコテ先の軸方向に沿ってその基端部から先端部側に作用させ、これによってコテ先の表面に残留する溶融状態の過剰なハンダを良好に吸引除去することができる。
【0013】
よって、ハンダゴテの移動中に残留ハンダが不適当な箇所に滴下してしまう事がなく、ハンダ付け箇所に対しては必要量をばらつき無く塗布することができ、しかも圧縮空気の吹き付けのように空気圧の局部的な集中によるコテ先の酸化が発生せず、逆にコテ先の全面にハンダの被膜を残してコテ先の寿命を延ばすことができる。
【0014】
又、吸気孔には、吸引気体流の出口側の開口部に漸次径が大きくなるテーパ部が設けられることから、コテ先から除去されたハンダが吸気孔の出口部分の縁に付着してこれが徐々に堆積することによるブリッジ現象が発生せず、このため吸気孔が閉鎖されてしまうことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。図1は本発明に係るハンダゴテのクリーニング装置を示した斜視図、図2は同装置の部分断面図である。それらの図において、1はハンダゴテであり、このハンダゴテ1はグリップ部2とロッド部3から構成され、ロッド部3にはグリップ部2内を通じて電気コード4が接続される。又、ロッド部3は電気コード4から電力供給を受ける図示せぬヒータを内蔵した加熱軸部3Aと、その加熱軸部に連なるコテ先3B(ビット)から成り、そのコテ先3Bが加熱軸部3A内のヒータにより加熱される構成となっている。尚、コテ先3Bは先端が尖った先細りの形態であり、その表面ではハンダ付けなどに際してハンダの溶融が行われる。
【0016】
そして、本発明に係るクリーニング装置はコテ先3Bの表面に付着残留した過剰なハンダを除去するのに用いられる。
【0017】
10は係る装置を構成する座板であり、その上には台座11を介して固定板12が傾斜状に取り付けられる。固定板12には耐熱性のケーシング13が取り付けられ、ケーシング13の上面には断面円形の小径な吸気孔14Aを有するクリーニングヘッド14が固定される。クリーニングヘッド14は高融点金属やセラミックなどの耐熱材料から形成されるブロックで、これに穿設した吸気孔14Aはケーシング13の内外に開通している。
【0018】
又、固定板12には、ハンダゴテの加熱軸部3Aを通すU字形の溝をもった上下一対のブラケット15,16が取り付けられる。それらブラケット15,16は、コテ先3Bを吸気孔14Aに差し向けるガイドとされるもので、吸気孔14A寄りのブラケット15は固定板12に対して直角に固定され、他方のブラケット16は支点部を中心に所定の角度だけ揺動可能とされる。
【0019】
そして、それらブラケット15,16によれば、ハンダゴテの加熱軸部3Aをその軸方向に摺動自在に支持して吸気孔14Aにコテ先3Bを差し向けたまま、該コテ先3Bを吸気孔14Aに対して同心状態で近接もしくは挿入せしめることができる。
【0020】
一方、17は吸気孔14A内に吸引気体流を発生させるエジェクタ方式の吸気流発生手段であり、これは圧縮空気を駆動流体とする空気エジェクタ18を具備して構成される。
【0021】
図2から明らかなように、空気エジェクタ18は圧縮空気を噴出するノズル19と、そのノズルから噴出された高速の圧縮空気を外部排出するディフューザ20と、そのディフューザに連ねてノズルの周囲に形成される負圧室21とを有するもので、ノズル19から圧縮空気を高速噴射したときに負圧室21内の空気がディフューザ20内に誘引されて負圧室21内が減圧状態となる構成とされる。
【0022】
ノズル19には送気管22を介して図示せぬ給気源(エアコンプレッサ)が接続されるが、送気管22にはノズル19に対して圧縮空気の供給を遮断するバルブ23が介在される。そして、そのバルブ23と送気管22はノズル19に圧縮空気を供給する一次流路を構成し、バルブ23が押ボタン23Aの押圧操作により開放されたときノズル19に対する圧縮空気の供給が行われるようになっている。
【0023】
尚、ブラケット16にはバルブの押ボタン23Aを押圧するためのレバー24が取り付けられており、ハンダゴテのグリップ部2をその長手方向に沿ってコテ先3B側に押圧したとき、その押圧力によりブラケット16が揺動しながらレバー24で押ボタン23Aが押圧される構成としてある。
【0024】
一方、空気エジェクタの負圧室21とケーシング13は吸引管25により接続され、その吸引管25とケーシング13の内部により、負圧室21と吸気孔14Aとを連通する二次流路が構成されている。
【0025】
しかして、一次流路を通じて空気エジェクタのノズル19に圧縮空気を供給すると、ノズル19による圧縮空気の噴出により負圧室21に減圧状態(負圧)が生じ、これに連なる吸気孔14A内に空気(外気)が吸い込まれて吸引気体流が発生する。その吸引気体(空気)は吸気孔14Aに対して同心状態で近接もしくは挿入されるコテ先3Bの軸方向に沿ってその基端部(グリップ部2側)から先端部側に向かって流れるのであり、このためコテ先3Bの表面に残留付着する溶融状態の過剰なハンダを吸気孔14A内に吸い込まれる吸引気体流により吸引除去することができる。
【0026】
特に、吸引気体流はコテ先3Bの軸方向に作用するところ、圧縮空気を軸直角方向から吹き付ける従来例のようにコテ先3Bの酸化が進行することはなく、寧ろコテ先3Bの表面に僅かなハンダが薄膜状に残って酸化防止膜を形成するのでコテ先3Bの寿命を延ばすことができる。
【0027】
尚、コテ先3Bの表面から除去されたハンダは、吸気孔14Aを通じてケーシング13内に吸い取られるので、これが外部に飛散することを防止できるが、そのハンダが固化せぬまま吸引管25の先方まで吸い込まれて吸引気体の流路を閉鎖することがないように、二次流路を構成するケーシング13の内部と吸引管25の中途には、コテ先3Bから除去されたハンダを捕捉するための耐熱フィルタ26,27(金属繊維など)が配置される。
【0028】
又、図3のように、吸気孔14Aは入口側がコテ先の少なくとも一部を挿入できるように該コテ先の外径よりも稍大きい程度の口径(直径数mm〜数cm)を有した筒状の小孔とされ、出口側の開口部は口径が漸次大きくなるテーパ状の孔(テーパ部T)される。これによれば、コテ先3Bから除去された未固化のハンダが吸気孔14Aの出口部分の縁に付着してこれが徐々に堆積することによるブリッジの形成によって吸気孔14Aが閉鎖されてしまうことを防止できる。
【0029】
ここで、以上のように構成される装置の作用と、これを用いたハンダゴテのクリーニング方法について説明すれば、ハンダ付け作業中において、ハンダゴテのコテ先3Bに過剰なハンダの残留付着が認められた場合、そのコテ先3Bを加熱状態のまま吸気孔14Aに同心状に差し向け、これをその状態のまま吸気孔14A内に吸い込まれる吸引気体の流れ方向に向けて吸気孔14Aに近接させていく。これには、ハンダゴテの加熱軸部3Aをブラケット15,16の溝に通し、グリップ部2の端面がブラケット16の上面に接触した状態で該ブリップ部2を吸気孔14A側に押し込めばよい。
【0030】
しかして、コテ先3Bが吸気孔14Aと同心状にして該吸気孔14Aに近接すると、ブラケット16に取り付けたレバー24によりバルブの押ボタン23Aが押圧されて空気エジェクタ18内に圧縮空気が吹き込まれ、これよって吸気孔14A内に吸引気体流が発生する。
【0031】
このとき、コテ先3Bは少なくとも先端が吸気孔14Aに挿入されていることが好ましいが、これを挿入せずして図3のように吸気孔14Aに近接させるだけで、吸気孔14Aに吸い込まれる吸引気体流がコテ先3Bの基端部から先端部に向かって作用し、これによってコテ先3Bの表面に付着残留する溶融状態の過剰なハンダは吸引気体流に乗って吸気孔14A内に吸い込まれて除去される。
【0032】
尚、除去されたハンダはケーシング13内の耐熱フィルタ26により捕捉されるので、吸引気体流の流路が閉鎖されてしまうことはない。
【0033】
以上、本発明について説明したが、ケーシング13内には耐熱フィルタ26に代えて図4のように吸気孔14Aの出口に対向する脚付きの平板状受皿27を配置し、その受皿27にハンダを衝突させるようにしてもよい。尚、ハンダは比重が大きく受皿27に付着したまま固化するので、これが吸引管25内に引き込まれてしまう虞は少なく、しかも受皿27の表面を緻密な平滑面とすれば、その上面に堆積したハンダSも冷却後に塊状のまま容易に剥離することができる。尚、図4のようにケーシング13の上面に吸気孔14Aを穿設して該上面をクリーニングヘッド14とすることもできる。
【0034】
又、上記例において、吸気孔14Aは出口側を末広がりのテーパ部としたが、これに加えて図5のように入口側を先細りのテーパ状としてもよく、この場合にはコテ先3Bの周囲における吸引気体の流速を上げてハンダの除去率を上げられるという効果が得られる。
【0035】
一方、上記例の装置は主として手作業によるハンダ付けに際して用いられるが、ハンダ付けの自動工程用として固定板12を鉛直に立ててもよく、この場合には例えばXYZの3軸直交方向に移動可能なテーブルにコテ先3Bを下向きにしてハンダゴテ1を鉛直に固定すると共に、上記テーブルの制御部に吸気孔14Aの位置座標を入力することにより、コテ先3Bを吸気孔14Aに差し向けて、その状態のまま係るコテ先3Bを吸気孔14Aに近接させたり挿入したりすることができる。
【0036】
更に、吸気流発生手段として、容積式、ターボ式、その他の真空ポンプを利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るハンダゴテのクリーニング装置を示す斜視図
【図2】同装置の部分断面図
【図3】吸気孔の拡大断面図
【図4】本発明に係る装置の他の実施態様を示す部分断面図
【図5】吸気孔の変形例を示す部分拡大断面図
【図6】従来例を示す説明図
【図7】従来例を示す説明図
【図8】従来例を示す説明図
【符号の説明】
【0038】
1 ハンダゴテ
3B コテ先
13 ケーシング
14 クリーニングヘッド
14A 吸気孔
17 吸気流発生手段
18 空気エジェクタ
19 ノズル
20 ディフューザ
21 負圧室
22 送気管
23 バルブ
25 吸引管
26 耐熱フィルタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンダゴテのコテ先表面に残留する溶融状態のハンダを吸引除去するハンダゴテのクリーニング装置であって、前記ハンダゴテのコテ先の少なくとも一部が挿入可能な吸気孔を有するクリーニングヘッドと、その吸気孔内に吸引気体流を発生させる吸気流発生手段とを備えることを特徴とするハンダゴテのクリーニング装置。
【請求項2】
前記吸気孔は、前記吸引気体流の出口側の開口部に、漸次径が大きくなるテーパ部を備えていることを特徴とする請求項1記載のハンダゴテのクリーニング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−150408(P2006−150408A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344633(P2004−344633)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】