説明

ハンドオーバ補償装置及び移動体無線通信システム

【課題】地上側と移動体側とで複数の無線通信系統にて無線によるデータ通信を行う構成の移動体無線通信システムにおいて、システム全体として、ハンドオーバによるデータ通信の安定性への影響を抑制しつつ、効率的且つ安定したデータ通信を行えるようにする。
【解決手段】地上側ハンドオーバ補償装置15及び車上側ハンドオーバ補償装置25は各々、ルータから各系統宛に分散送出されたパケットをそのままその宛先の系統へ送出すると共に、何れかの系統がハンドオーバ状態であると判断した場合には、対向のハンドオーバ補償装置へハンドオーバモード移行命令を送信する。対向のハンドオーバ補償装置からハンドオーバモード移行命令を受信したハンドオーバ補償装置は、ルータからのパケットのうち、ハンドオーバ状態の系統が宛先となっているものについては、少なくともそのハンドオーバ状態の系統とは異なる他の系統へそのパケットを送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上における所定の移動経路を移動する移動体がその移動中に地上側と無線によりデータ通信を行えるよう構成された移動体無線通信システム、及びその移動体無線通信システムに用いられるハンドオーバ補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば鉄道車両や自動車などの移動体の移動中に、移動体内部の例えばパーソナルコンピュータ(以下「PC」と称す)などの情報処理端末から、例えばインターネット等の地上側のネットワークに接続して、移動体の移動中であっても相互にデータ通信を行えるようにした移動体無線通信システムが、種々提案されている。
【0003】
この移動体無線通信システムのより具体的な例を挙げると、移動体としての例えば鉄道車両(列車)においては、地上側と無線によりデータの送受信を行う無線機(以下「車上無線部」ともいう)や、この車上無線部と車両内の情報処理端末との間のデータ中継を行うルータなどからなる、車上通信システムが構築され、地上側においては、列車の移動経路に沿って所定間隔で配置された複数の無線機(以下「地上無線部」ともいう)や、これら地上無線部とインターネット等との間のデータ中継を行うルータなどからなる、地上通信システムが構築される。そして、車上無線部と地上無線部との間で相互に無線によるデータ送受信が行われることで、列車内の情報処理端末が地上側のインターネット等に接続して相互にデータ通信することが可能となる。尚、このデータ通信のプロトコルとしては、周知のTCP/IPが一般的である。
【0004】
地上通信システムにおける各地上無線部の通信範囲は、基本的には地上無線部毎に個別に設定されているが、その通信範囲における、列車の移動経路方向の端部領域は、隣接する他の地上無線部の通信範囲の端部領域と一部重複している。そして、車上無線部が無線通信する地上無線部は、列車の移動に伴い、周知のハンドオーバによって順次切り替わっていく。尚、本明細書における「ハンドオーバ」とは、車上無線部が無線によるデータ送受信(電波の送受)を行う地上無線部の物理的切り替えを意味し、換言すれば、ネットワークプロトコルにおけるデータリンク層以下における無線機切り替え処理を意味する。
【0005】
つまり、ある地上無線部の通信範囲内にいる車上無線部が、列車の移動に伴ってその通信範囲の端部領域(即ち、車上無線部の位置が現在無線通信中の地上無線部の通信範囲と、移動方向に隣接する次の地上無線部の通信範囲との境界部(重複部)近傍)に近づくにつれて、地上無線部からの電波が弱くなっていく。そこで、その境界部(重複部)近傍に到達したら、現在通信中の地上無線部からの電波強度に応じて(或いは、更に隣接する次の地上無線部からの電波強度にも応じて)、ハンドオーバ処理を行うことにより、車上無線部の無線通信相手の地上無線部を、移動方向に隣接する次の地上無線部に切り替える。
【0006】
このように構成された従来の移動体無線通信システムにおいては、列車の移動中、上記ハンドオーバが行われる度に、車上通信システムと地上通信システムとの間のデータ通信、即ち列車内の情報処理端末と地上側のインターネット等との間のデータ通信が、一定時間途切れる。しかも、このデータ通信が途切れる時間は、ハンドオーバに要する時間よりも長くなる。なぜなら、無線部相互間のハンドオーバが終了して無線部相互間の無線通信自体は可能となっても、その後、上位プロトコルにおける所定の制御処理(例えばTCPにおけるタイムアウト処理など)が完了するまではデータ通信は再開されないからである。
【0007】
このような、ハンドオーバによって生じる一時的なデータ通信の途切れは、移動体無線通信システムにおける車上−地上相互間のデータ通信の安定性を低下させる要因となる。特に、新幹線電車などの高速移動体においては、地上無線部の配置間隔や通信範囲等にもよるが、移動速度が高速であるが故にハンドオーバも比較的頻繁に生じる傾向にあるため、ハンドオーバの度に生じるデータ通信の途切れは、たとえ短時間であったとしても、トータルとして通信の安定性に与える影響は大きくなる。
【0008】
この問題を解決するための一方法として、列車と地上間の通信系統を複数設け、各系統で同じデータを送受信する方法が考えられる。そして、このように通信系統を複数設けた構成の通信システムの一例が、特許文献1に開示されている。
【0009】
特許文献1には、無線通信システムではないものの、第1のLANと第2のLANとの間でインターネットを介してパケットを送受信するシステムにおいて、第1のLANと第2のLANとの間で中継先の異なる複数の伝送経路を備え、送信側においては同じパケットを複数の伝送経路それぞれに送信し、受信側においては、複数の伝送経路からのパケットのうち最先に受信したパケットを選択する技術が開示されている。
【0010】
そこで、上述した移動体無線通信システムに対し、この特許文献1に記載されている技術思想を適用して、地上−車上間の無線通信系統を複数設けるようにすれば、何れか1つの系統でハンドオーバが起こっても、その間、他の系統によってデータ通信を継続させるようにすることは可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−261478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記のように無線通信系統を複数にする方法は、ハンドオーバによる通信の安定性への影響は抑制できるものの、ハンドオーバが発生していない通常時、即ち1つの無線通信系統があればデータ通信可能な時も、複数の系統で同じデータ(パケット)が送受信されることになるため、非効率的である。
【0013】
一方、複数の通信系統を用いた無線通信システムとして、複数系統それぞれに同じパケットを送信するのではなく、送信すべきデータ(パケット)を各系統に分散送信する無線通信システムも、従来知られている。パケットをどのように振り分けるかという分散方式は適宜考えられ、例えば、送信すべきパケットを複数系統に順番に振り分けていく方法が考えられる。具体的には、例えば通信系統が2系統ある場合、奇数番目のパケットは一方の系統に送信し、偶数番目のパケットは他方の系統に送信する、という具合である。
【0014】
このように分散送信を行うよう構成された無線通信システムによれば、特許文献1に記載のように同じパケットを複数の系統に送信する方法に比べて、複数系統を有効利用して通信速度を高速化することができるため、効率的なデータ通信を行えるという点ではメリットがある。
【0015】
しかし、このような分散送信を行う無線通信システムでは、データ通信の効率化が可能となる反面、何れかの系統でハンドオーバが生じると、他の系統でハンドオーバが生じていなくても、結局全体としてデータ通信が中断されてしまう。例えばTCPにおいては、例えば一方の系統からは奇数番目のパケットが正常に受信されているにもかかわらず他方の系統からは偶数番目のパケットが正常に受信されないような状態が継続すると、そのデータ通信を止めてしまう。つまり、分散送信方法において、データ通信を正常に行うためには、あくまでも、パケットが分散送信される各系統全てが正常にデータ送受信できる状態であることが前提であり、何れかの系統でハンドオーバが生じると全体としてデータ通信は途切れてしまうのである。
【0016】
このように、無線通信系統を複数備えた無線通信システムにおいては、特許文献1に記載されている方法を採用するとハンドオーバによる影響は抑制できるものの非効率であり、一方、上述した分散送信方法を採用すると無線通信系統の効率的な利用は図れるもののハンドオーバによる通信の不安定化という問題は残されるため、いずれも有効な方法とは言えない。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、地上側と移動体側とで複数の無線通信系統を用いて無線によるデータ通信を行うよう構成された移動体無線通信システムにおいて、当該システム全体として、ハンドオーバ発生によるデータ通信の安定性への影響を抑制しつつ、効率的且つ安定したデータ通信を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、所定の移動経路を移動する移動体に設けられた移動体側通信システムと、その移動経路に沿って設けられた地上通信システムとの間で、複数の系統にて、無線によるデータ通信が可能に構成された移動体無線通信システムにおいて、この移動体無線通信システムに設けられるハンドオーバ補償装置である。
【0019】
移動体無線通信システムを構成する上記各通信システムのうち、移動体側通信システムには、系統毎に移動体側無線送受信手段が設けられると共に、地上通信システムには、移動経路に沿って所定間隔で配置された複数の地上側無線送受信手段が伝送路を介して接続されてなる一群の地上側ネットワークが系統毎に個別に設けられている。そして、同じ系統の移動体側無線送受信手段と地上側無線送受信手段との間でそれぞれ無線によるデータの送受信が行われ、該無線によるデータの送受信は、所定の形式のパケット単位で行われると共に、系統毎に、移動体側無線送受信手段とデータの送受信を行う地上側無線送受信手段が移動体の移動に伴って順次切り替わっていくハンドオーバが行われるよう構成されている。
【0020】
また、移動体側通信システムには、各移動体側無線送受信手段と移動体内の通信機器との間のデータ伝送を中継する装置であって、通信機器から入力された地上通信システム側への送信データを、パケット毎に、各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の移動体側無線送受信手段へ送出するよう構成された移動体側データ中継装置が設けられ、地上通信システムには、各地上側ネットワークと外部ネットワークとの間のデータ伝送を中継する装置であって、外部ネットワークから入力された移動体側への送信データを、パケット毎に、各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の地上側無線送受信手段へ送出するよう構成された地上側データ中継装置が設けられている。
【0021】
そして、本発明(請求項1)のハンドオーバ補償装置は、移動体側通信システム及び地上通信システムのそれぞれにおいてデータ中継装置と無線送受信手段との間に、即ち、移動体側通信システムにおいては移動体側データ中継装置と各移動体側無線送受信手段との間、地上通信システムにおいては地上側データ中継装置と各地上側ネットワークとの間に、それぞれデータ伝送を中継するために設けられている。
【0022】
このハンドオーバ補償装置は、ハンドオーバ判断手段、ハンドオーバ情報送出手段、及び送信データ制御手段を備えている。
このうちハンドオーバ判断手段は、系統毎に、ハンドオーバが開始されたか、又は移動体側無線送受信手段と地上側無線送受信手段との間の無線によるデータ送受信の状態がハンドオーバ開始直前の所定の開始直前状態となったかの何れかである、ハンドオーバ状態になったか否かを判断する。
【0023】
また、ハンドオーバ情報送出手段は、ハンドオーバ判断手段により各系統の何れかがハンドオーバ状態と判断された場合に、移動体側通信システム及び地上通信システムのうち当該ハンドオーバ補償装置が設けられている側のシステムである自システムにおける、そのハンドオーバ状態と判断された系統であるハンドオーバ判断系統以外の系統の無線送受信手段へ、該ハンドオーバ判断系統がハンドオーバ状態であることを示すハンドオーバ情報を送出することによって、該ハンドオーバ情報を自システムに対する通信相手側のシステムである相手側システムへ無線送信させる。
【0024】
そして、送信データ制御手段は、相手側システムからハンドオーバ情報が受信されていない通常時は、自システムにおけるデータ中継装置からの送信データを、パケット毎に、正規送出系統の無線送受信手段へ送出する、ノーマルモードにて動作し、相手側システムからハンドオーバ情報が受信された場合には、少なくともそのハンドオーバ情報に対応したハンドオーバが終了するまでは、自システムにおけるデータ中継装置からの送信データを構成するパケットのうち、正規送出系統が相手側システムにおいてハンドオーバ状態と判断されたハンドオーバ判断系統であるハンドオーバ系統側パケットについては、正規送出系統に代えて又は正規送出系統に加えて、正規送出系統とは異なる系統の無線送受信手段へ送出する、ハンドオーバモードにて動作する。
【0025】
このように構成された請求項1に記載のハンドオーバ補償装置では、何れかの系統がハンドオーバ状態であることを判断したならば、そのハンドオーバ状態と判断した系統以外の系統(即ちハンドオーバ状態ではない系統)を用いて、相手側システムへハンドオーバ情報を無線送信させる。
【0026】
そして、自システムのデータ中継装置から無線送受信手段側への送信データ(パケット)の送出(中継)は、相手側システムからハンドオーバ情報が受信されていない通常時(即ちノーマルモード時)には、自システムのデータ中継装置からのパケットをそのまま中継して送出する。即ち、自システムのデータ中継装置にて選択された正規送出系統へそのまま送出する。そのため、ノーマルモード時には、各パケットを、データ中継装置にて選択された正規送出系統へ分散送信させることができるため、複数の系統を効率的に利用したデータ通信が可能となる。
【0027】
一方、相手側システムからハンドオーバ情報が受信された場合(即ちハンドオーバモード時)には、自システムのデータ中継装置からのパケットのうち、正規送出系統がハンドオーバ判断系統ではないパケットについてはそのまま中継して送出するが、正規送出系統がハンドオーバ判断系統となっているパケットについては、少なくともそのハンドオーバ判断系統とは異なる系統へ送出する。尚、本来送出すべき送出先であるハンドオーバ判断系統に対しても送出するかどうかについては、適宜決めればよく、特に限定されるものではない。
【0028】
そのため、ハンドオーバモード時においては、正規送出系統がハンドオーバ判断系統となっているパケットについては少なくとも他の(ハンドオーバ状態ではない)系統に送出されるため、その系統を介して相手側システムへ正常にパケットを無線送信でき、システム全体としてデータ通信を継続して行うことができる。
【0029】
従って、請求項1に記載のハンドオーバ補償装置によれば、移動体無線通信システム全体として、ハンドオーバ発生によるデータ通信の安定性への影響を抑制しつつ、効率的且つ安定したデータ通信を行えるようにすることが可能となる。
【0030】
ここで、ハンドオーバ判断手段が、具体的にどのような状態となったときにハンドオーバ状態と判断するようにするかについては、種々考えられ、例えば、実際にハンドオーバが開始されたことをもってハンドオーバ状態になったと判断することもできるが、より好ましくは、請求項2に記載のように、ハンドオーバが開始される前にハンドオーバ状態であることを判断できるように構成するとよい。
【0031】
即ち、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のハンドオーバ補償装置であって、ハンドオーバ判断手段は、移動体側無線送受信手段と地上側無線送受信手段との間の無線によるデータ送受信の状態が上記開始直前状態となったか否かを判断し、該開始直前状態となった場合に、ハンドオーバ状態になったと判断する。
【0032】
開始直前状態となったか否かを判断するということは、換言すれば、ハンドオーバの発生を事前に予測するということである。ハンドオーバが実際に開始されてからハンドオーバモードに移行するのではなく、ハンドオーバが開始される前にそれを予測して予めハンドオーバモードに移行するようにすることで、ハンドオーバによるデータ通信の途切れを確実に防ぐことができ、データ通信の安定性をより高めることができる。
【0033】
そして、ハンドオーバ判断手段がハンドオーバの開始直前状態になったか否かを判断する具体的方法は種々考えられ、例えば請求項3に記載のように相手側システムから受信されるパケットに基づいて判断してもよいし、例えば請求項4に記載のように無線通信における電波強度に基づいて判断してもよい。
【0034】
即ち、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のハンドオーバ補償装置であって、ハンドオーバ判断手段は、系統毎に、自システムにおける無線送受信手段による相手側システムからのパケットの受信状態を監視し、何れかの系統においてパケットの受信状態が、予め設定した、正常に受信されない状態であることを示す受信異常状態となった場合に、上記開始直前状態になったと判断する。
【0035】
どのような状態をもって受信異常状態とするかについては、例えばパケットの損失率がある一定レベル以上になった場合としたり、また例えば、RTT(Round Trip Time )が所定時間よりオーバーした場合とするなど、適宜決めることができる。
【0036】
一般に、移動体無線通信システムにおいて、ハンドオーバが起こったとき、或いはハンドオーバが起こる直前になると、パケットの受信状態は悪くなる。逆に言えば、パケットの受信状態が悪くなったならば、そのことをもって、高い確率で、間もなくハンドオーバが開始される状態であるものと推測できる。
【0037】
そのため、請求項3に記載のように、実際に送受信されるパケットの受信状態に基づいて受信異常状態か否かを判断するようにすれば、実際のデータ通信を阻害することなく、受信異常状態であること(即ちハンドオーバの開始直前状態であること)を精度良く判断することができる。
【0038】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のハンドオーバ補償装置であって、各無線送受信手段は、相手側システムにおけるデータ送受信対象の無線送受信手段からの受信電波の強度を検出する電波強度検出手段を備えている。そして、ハンドオーバ判断手段は、電波強度検出手段により検出された受信電波の強度が予め設定した電波強度閾値以下である場合に、上記開始直前状態になったと判断する。
【0039】
一般に、移動体無線通信システムにおいて、ハンドオーバが近づけば近づくほど、現在無線通信中の移動体側無線送受信手段と地上側無線送受信手段との間の電波強度は弱くなっていく。逆に言えば、電波強度が弱くなればなるほど、そのことをもって、高い確率で、間もなくハンドオーバが開始される状態であるものと推測できる。
【0040】
そのため、請求項4に記載のように、電波強度に基づいて受信異常状態か否かを判断する方法によっても、実際のデータ通信を阻害することなく、受信異常状態であること(即ちハンドオーバの開始直前状態であること)を精度良く判断することができる。
【0041】
次に、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のハンドオーバ補償装置であって、ハンドオーバ判断手段により各系統の何れかがハンドオーバ状態と判断された後、該判断されたハンドオーバ判断系統におけるハンドオーバが終了したか否かを判断する終了判断手段と、この終了判断手段にてハンドオーバが終了したと判断された場合に、自システムにおける一又は複数の系統の無線送受信手段へ、該ハンドオーバが終了したことを示す終了情報を送出することによって、該終了情報を相手側システムへ無線送信させる、終了情報送出手段とを備えている。そして、送信データ制御手段は、相手側システムからのハンドオーバ情報の受信によってハンドオーバモードでの動作を開始した後、該相手側システムから終了情報が受信された場合に、ノーマルモードでの動作に移行する。
【0042】
上述した請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の発明では、ハンドオーバモードへの移行は、基本的には、相手側システムからのハンドオーバ情報の受信をもって受動的に行われる。つまり、相手側システムでハンドオーバ状態と判断された場合は、自システムから送信したパケットが相手側システムにおいて正常に受信できなくなるおそれがあることから、相手側システムはハンドオーバ情報を自システムへ送信し、これにより自システムはハンドオーバモードに移行するわけである。
【0043】
そこで、ハンドオーバモードから再びノーマルモードに移行するタイミングについても、相手側システムにおける判断結果に従うようにする。つまり、相手側システムは、ハンドオーバ状態と判断してハンドオーバ情報を送出した場合、そのハンドオーバが終了したか否かを判断する。そして、そのハンドオーバが終了したと判断したならば、相手側システムは自システムへ終了情報を送信する。これを受けて、自システム側ではノーマルモードに移行するのである。
【0044】
従って、請求項5に記載のハンドオーバ補償装置によれば、相手側システムからの指示に従ってハンドオーバモードとノーマルモードの相互間の切り替えが行われるため、相手側システムからみた無線通信の状態に応じた適切なモード切り替えが可能となり、データ通信の効率をより高めることができる。
【0045】
ここで、終了判断手段が具体的にどのようにしてハンドオーバの終了を判断するかについても種々考えられるが、例えば請求項6に記載のように判断することができる。即ち、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のハンドオーバ補償装置であって、送信データ制御手段は、相手側システムからのハンドオーバ情報の受信によってハンドオーバモードでの動作を開始した後も、ハンドオーバ系統側パケットを正規送出系統にも送出するよう構成されている。そして、終了判断手段は、自システムのハンドオーバ情報送出手段がハンドオーバ情報を送出した後、ハンドオーバ判断系統における相手側システムからのデータの受信状態が、そのハンドオーバ情報に対応したハンドオーバが終了したことを示す所定のハンドオーバ終了状態となった場合に、そのハンドオーバが終了したものと判断する。
【0046】
このように構成されたハンドオーバ補償装置では、相手側システムからのハンドオーバ情報によってハンドオーバモードに移行した後も、ハンドオーバ系統側パケットを正規送出系統へも引き続き送出する。相手側システムにおいてハンドオーバ状態と判断されたハンドオーバ判断系統へパケットを送出しても、そのパケットは、ハンドオーバ実行中は相手側システムで正常に受信できないため、その点ではそのパケット送出は意味のあるものではないが、ハンドオーバが終了すると、やがてそのハンドオーバ判断系統へのパケットが相手側システムで再び受信可能となる。そのため、相手側システムでは、ハンドオーバ判断系統からのパケットが再び受信できるようになったことをもって、ハンドオーバが終了したものと判断することができる。
【0047】
従って、請求項6に記載のハンドオーバ補償装置によれば、相手側システムからのパケットの受信状態に基づいてハンドオーバが終了したことを適切かつ確実に判断することができ、これにより相手側システムに対してハンドオーバモードからノーマルモードへの移行を適切なタイミングで指示することができるため、データ通信の効率を更に高めることができる。
【0048】
次に、請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のハンドオーバ補償装置であって、送信データ制御手段は、自システムのハンドオーバ判断手段により各系統の何れかがハンドオーバ状態と判断された場合、少なくともそのハンドオーバ状態に対応したハンドオーバが終了するまでは、自身においても、該ハンドオーバ状態と判断された系統をハンドオーバ判断系統として、ハンドオーバモードにて動作する。
【0049】
つまり、ハンドオーバ状態を判断した場合、単に相手側システムへハンドオーバ情報を送出して相手側システムをハンドオーバモードに移行させるだけではなく、それに加えて、自身についても、ハンドオーバモードに移行するのである。このようにすることで、データ通信の安定性をより高めることができる。
【0050】
次に、請求項8に記載の発明は、所定の移動経路を移動する移動体に設けられた移動体側通信システムと、その移動経路に沿って設けられた地上通信システムとの間で、複数の系統にて、無線によるデータ通信が可能に構成された移動体無線通信システムである。
【0051】
この移動体無線通信システムを構成する上記各通信システムのうち、移動体側通信システムには、系統毎に移動体側無線送受信手段が設けられると共に、地上通信システムには、移動経路に沿って所定間隔で配置された複数の地上側無線送受信手段が伝送路を介して接続されてなる一群の地上側ネットワークが系統毎に個別に設けられている。そして、同じ系統の移動体側無線送受信手段と地上側無線送受信手段との間でそれぞれ無線によるデータの送受信が行われ、該無線によるデータの送受信は、所定の形式のパケット単位で行われると共に、系統毎に、移動体側無線送受信手段とデータの送受信を行う地上側無線送受信手段が移動体の移動に伴って順次切り替わっていくハンドオーバが行われるよう構成されている。
【0052】
また、移動体側通信システムには、各移動体側無線送受信手段と移動体内の通信機器との間のデータ伝送を中継する装置であって、通信機器から入力された地上通信システム側への送信データを、パケット毎に、各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の移動体側無線送受信手段へ送出するよう構成された移動体側データ中継装置が設けられ、地上通信システムには、各地上側ネットワークと外部ネットワークとの間のデータ伝送を中継する装置であって、外部ネットワークから入力された移動体側への送信データを、パケット毎に、各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の地上側無線送受信手段へ送出するよう構成された地上側データ中継装置が設けられている。
【0053】
そして、移動体側通信システムにおける移動体側データ中継装置と各移動体側無線送受信手段との間、及び地上通信システムにおける地上側データ中継装置と各地上側ネットワークとの間には、それぞれ、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のハンドオーバ補償装置が設けられている。
【0054】
従って、請求項8に記載の移動体無線通信システムによれば、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のハンドオーバ補償装置を備えていることで、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態の移動体無線通信システムの全体構成を表す構成図である。
【図2】移動体無線通信システムを構成する装置等の内部構成を表す構成図であり、(a)は第1車上無線部の内部構成図、(b)は車上側ハンドオーバ補償装置の内部構成図を表す。
【図3】パケットの概略構成を表す説明図である。
【図4】ハンドオーバモード時におけるハンドオーバ補償装置のパケット中継方法を説明するための説明図であり、(a)は第1系統のハンドオーバによってハンドオーバモードとなった場合における第1系統向けパケットの中継方法を説明するための説明図、(b)は第2系統のハンドオーバによってハンドオーバモードとなった場合における第2系統向けパケットの中継方法を説明するための説明図である。
【図5】移動体無線通信システムにおいて、各系統いずれもハンドオーバが行われていない状態(状態A:ノーマルモード)におけるパケット送受信状態を説明するための説明図である。
【図6】図5の状態Aから列車の走行が進んで第1系統のハンドオーバが行われている状態(状態B:ハンドオーバモード)におけるパケット送受信状態を説明するための説明図である。
【図7】図6の状態Bからさらに列車の走行が進んで第1系統のハンドオーバが終了した状態(状態C:ノーマルモード)におけるパケット送受信状態を説明するための説明図である。
【図8】ハンドオーバ補償装置において実行されるモード移行制御処理を表すフローチャートである。
【図9】ハンドオーバ補償装置において実行されるパケット送信制御処理を表すフローチャートである。
【図10】ハンドオーバ補償装置において実行されるハンドオーバ判断制御処理を表すフローチャートである。
【図11】ハンドオーバ補償装置の有効性を説明するための説明図である。
【図12】ハンドオーバ補償装置において実行されるハンドオーバ判断制御処理の別の実施例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明が適用された実施形態の移動体無線通信システム10は、所定の移動経路(本例では地上に敷設された鉄道線路(図示略))を走行する列車20に設けられた車上通信システム(本発明の移動体側通信システムに相当)と、列車20の移動経路に沿って(即ち線路に沿って)設けられた地上通信システムとの間で、第1系統及び第2系統の2つの通信系統にて無線によるデータ通信が可能に構成されたものである。
【0057】
本実施形態の列車20は、複数の車両が連結されて編成されたものであり、例えば最高時速300km程度で走行可能な高速列車である。尚、以下の説明では、列車20の走行方向について、説明の便宜上、各先頭車両方向のうち一方の走行方向(図1の右側方向)を上り方向と称し、他方の走行方向(図1の左側方向)を下り方向と称することとする。
【0058】
列車20における車上通信システムには、地上側と無線によるデータ送受(電波送受)行う無線機である第1車上無線部21及び第2車上無線部22が設けられている。このうち、第1車上無線部21は、第1系統によるデータ通信を担うものであり、アンテナ20aにて、地上側における同じ第1系統の第1系統地上無線部11と相互に無線によりデータの送受信を行う。また、第2車上無線部22は、第2系統によるデータ通信を担うものであり、アンテナ20bにて、地上側における同じ第2系統の第2系統地上無線部12と相互に無線によりデータの送受信を行う。
【0059】
ここで、各車上無線部21,22の構成を、図2(a)を用いて説明する。各車上無線部21,22はいずれも、データ送受信を担う系統や無線周波数は異なるものの、その構成及び機能は基本的には同じである。そのため、図2(a)には代表として第1車上無線部21を示している。
【0060】
図2(a)に示すように、第1車上無線部21は、主として、RF部31とベースバンド部32とからなるものである。RF部31は、アンテナ20aにて受信した電波を復調して、その復調された受信データをベースバンド部32へ出力すると共に、ベースバンド部32から入力された送信データを変調してアンテナ20aへ送出することによりアンテナ20aから電波にて無線送信させる。
【0061】
また、RF部31は、アンテナ20aにて受信された電波の強度を検出し、その電波強度を示す信号をベースバンド部32へ出力する。具体的には、電波強度として、周知のRSSI(Received Signal Strength Indication :受信信号強度)を検出し、その検出結果をRSSI信号としてベースバンド部32へ出力する。
【0062】
ベースバンド部32は、所定のプロトコルに基づくデータ処理を行うものである。本実施形態の移動体無線通信システムでは、一例として、周知のTCP/IP(Transmission Control Protocol / Internet Protocol )に基づくデータ通信が行われる。尚、TCP/IPについてはよく知られているため、その詳細説明についてはここでは省略する。
【0063】
そのため、列車20側の車上通信システム内におけるデータ伝送、地上側の地上通信システムにおけるデータ伝送、及びこれら各通信システム間の無線によるデータ送受信は、パケット(IPパケット)単位で行われる。
【0064】
但し、本実施形態では、2つの系統を用いてデータ通信を行うことから、本実施形態で伝送されるパケットは、図3に示すように、標準的なIPパケットにおけるヘッダ部分に、系統識別子が含まれている。即ち、図3は、本実施形態において伝送されるパケット(IPパケット)の概要を示すものであり、大きく分けてデータ部とヘッダ部とで構成され、ヘッダにはあて先アドレスや送信先アドレスなどの、IPプロトコルに基づく各種の情報が含まれている。そして更に、本実施形態では、ヘッダの中に系統識別子が含まれている。
【0065】
この系統識別子は、パケットがどの系統のものであるのかを示す情報であり、送信元のルータ(後述する車上ルータ23又は地上ルータ13の何れか)により付与されるものである。
【0066】
ベースバンド部32は、RF部31からの受信データについて、TCP/IPに基づく所定の処理を行った上で、車上ルータ23側へ(詳しくは後述する車上側ハンドオーバ補償装置25へ)送出する。また、ベースバンド部32は、RF部31から入力されたRSSI信号についても、所定の処理を行ってRSSIを示すデータ(RSSIデータ)として車上側ハンドオーバ補償装置25へ送出する。更に、ベースバンド部32は、車上ルータ23から送出された(詳しくは車上側ハンドオーバ補償装置25から送出された)送信データについても、TCP/IPに基づく所定の処理を行った上で、RF部31へ出力する。
【0067】
また、列車20の内部には、当該列車20の内部において乗客等がPC26等の情報通信端末を用いてインターネットに接続するための無線中継装置である、アクセスポイント(AP)24が設置されている。列車20内の車上通信システムには、PC26等がAP24と無線通信することによりインターネットに接続可能な、周知の無線LANが構築されている。AP24は、無線LANにおいて通常用いられることの多い周知の無線中継装置であるため、その詳細構成についての説明はここでは省略する。
【0068】
そして、車上通信システムにおいて、各車上無線部21,22とAP24との間(詳しくは車上側ハンドオーバ補償装置25とAP24との間)には、これら両者間のデータ伝送を中継するための車上ルータ23が接続されている。尚、AP24は、図1では1つのみ図示しているが、実際には、列車20を構成する複数の車両毎に1つ(或いは複数)ずつ設置されており、これら複数のAP24が車上ルータ23に接続されている。
【0069】
車上ルータ23は、OSI参照モデルにおけるネットワーク層のプロトコルに基づいてデータ(パケット)のルーティングを行う周知のデータ中継装置である。
そして、本実施形態の車上ルータ23は、更に、AP24からの送信データについて、パケット毎に、所定の分散方法にてその送信先の系統(送出系統)を選択・決定し、その選択した系統に従い、図3に例示したように、パケットのヘッダに系統識別子を付加する。そして、その系統識別子を付加したパケットを、車上側ハンドオーバ補償装置25へ送出する。そのため、例えば選択した送出系統が第1系統である場合には、第1系統を示す系統識別子をヘッダに付加した上で、そのパケットを車上側ハンドオーバ補償装置25へ送出することとなる。
【0070】
車上ルータ23における上記分散方式は種々考えられ、例えば、AP24からパケットが入力される度に、その入力順に交互に系統を振り分ける方法や、パケットのあて先アドレスに基づいて系統を振り分ける方法などが考えられる。もちろん、これらの方法はあくまでも一例に過ぎない。
【0071】
本実施形態では、一例として、前者の分散方法にてパケットを分散するものとして説明する。即ち、例えばパケットの入力順に、奇数番目(2n−1番目。nは自然数。)のパケットについては第1系統宛とし、偶数番目(2n番目)のパケットについては第2系統宛とする。
【0072】
このように、車上ルータ23は、AP24から入力された、地上側への送信データ(パケット)を、パケット毎に、上記分散方式にて選択した何れかの系統を送出系統として、その送出系統を示す系統識別子を付加して、車上側ハンドオーバ補償装置25へ送出する。
【0073】
一方、地上側における地上通信システムにおいては、系統毎に、列車20の移動経路に沿って複数の地上無線部が所定間隔で配置されている。即ち、第1系統については、複数の第1系統地上無線部11(11−1,11−2,11−3・・・)が所定間隔で配置されており、第2系統についても、複数の第2系統地上無線部12(12−1,12−2,12−3・・・)が所定間隔で配置されている。
【0074】
また、本実施形態では、第1系統地上無線部11及び第2系統地上無線部12は、個別にみれば両者は同じ位置に配置されている。つまり、同じ位置に1つの第1系統地上無線部と1つの第2系統地上無線部が配置されている。但し、その同じ位置に配置された第1系統地上無線部と第2系統地上無線部は、本実施形態では一例として、電波干渉を防ぐために、互いに異なる周波数(チャンネル)の電波にて無線送受信を行う。
【0075】
また、第1系統における各第1系統地上無線部11−1,11−2,11−3・・・が第1伝送路51を介して接続されることにより一群の地上ネットワークが構築され、第2系統についても各第2系統地上無線部12−1,12−2,12−3・・・が第2伝送路52を介して接続されることにより一群の地上ネットワークが構築されている。
【0076】
そして、各第1系統地上無線部11は、列車20に設けられた第1車上無線部21との間でハンドオーバを行いながら相互に無線によるデータ送受信を行うよう構成されており、各第2系統地上無線部12は、列車20に設けられた第2車上無線部22との間でハンドオーバを行いながら相互に無線によるデータ送受信を行うよう構成されている。つまり、列車20の走行中、列車20側と地上側との間で、系統毎にハンドオーバを行いながら、無線通信が行われるのである。
【0077】
本実施形態では、地上側における各系統の各地上無線部11,12が通信可能(電波の送受信が可能)なエリアは、図5に例示するように、地上無線部毎に、その地上無線部を中心とする所定の範囲(通信エリア)内となるように設定されており、列車20の移動経路方向に隣接する通信エリア相互間は、その端部領域(移動経路方向の端部)が一部重複するように設定されている。
【0078】
即ち、図5に示すように、図5における最も左側の第1系統地上無線部11−1及び第2系統地上無線部12−1の通信エリアは、これら各地上無線部11−1,12−1を中心とする所定の第1通信エリアであり、これら各地上無線部11−1,12−1に対して上り方向に隣接する次の第1系統地上無線部11−2及び第2系統地上無線部12−2の通信エリアは、これら各地上無線部11−2,12−2を中心とする所定の第2通信エリアであり、これら各地上無線部11−2,12−2に対して上り方向に隣接する次の第1系統地上無線部11−3及び第2系統地上無線部12−3の通信エリアは、これら各地上無線部11−3,12−3を中心とする所定の第3通信エリアである。そして、第1通信エリアと第2通信エリアは、その端部領域が一部重複しており、第2通信エリアと第3通信エリアについてもその端部領域が一部重複している。
【0079】
尚、各系統の地上無線部11,12はいずれも、同じ系統において隣接する通信エリア相互間では使用周波数(チャンネル)が異なるように構成されている。
列車20に設けられた各系統の各車上無線部21,22は、それぞれ、地上側における同じ系統の地上無線部との間で、その地上無線部の通信エリア内で相互に無線によるデータ送受信を行う。そして、列車20の走行に伴い、列車20側の車上無線部の位置が地上側におけるある地上無線部の通信エリアから次の地上無線部の通信エリアに移る毎に、地上側及び列車20側の各無線部相互間でハンドオーバ処理を行うことにより、双方の通信相手を切り替えていく。
【0080】
尚、各地上無線部11,12は、いずれも、列車20に設けられた各車上無線部21,22(図2(a)参照)と基本的に同じ構成・機能であるため、ここではその詳細説明を省略する。
【0081】
また、地上側において、各系統の各伝送路51,52と外部ネットワークとしてのインターネット14との間(詳しくは地上側ハンドオーバ補償装置15とインターネット14との間)には、これら両者間のデータ伝送を中継するための地上ルータ13が接続されている。
【0082】
この地上ルータ13も、列車20に設けられた車上ルータ23と基本的に同じ構成・機能であるため、ここではその詳細説明を省略する。つまり、この地上ルータ13も、データ(パケット)のルーティングを行うと共に、インターネット14側からの送信データについて、パケット毎に、所定の分散方法にてその送信先の系統(送出系統)を選択・決定し、その選択した系統に従い、図3に例示したように、パケットのヘッダに系統識別子を付加する。そして、その系統識別子を付加したパケットを、地上側ハンドオーバ補償装置15へ送出する。また、本実施形態では、地上ルータ13におけるパケットの分散方法は、上述した車上ルータ23における分散方法と同じである。
【0083】
ここで、本実施形態の移動体無線通信システムでは、上述したように、系統毎に、列車20の走行に伴ってハンドオーバが行われる。そのため、ハンドオーバが行われる度に、無線部相互間の無線通信(電波送受)が一時的に(例えば約0.1秒)途切れてしまう。そして、このハンドオーバによる電波の途切れによって、地上−車上間のデータ通信は、無線部相互間の電波繋がりの途切れよりも長い時間(例えば約1秒)中断してしまう。これは、ハンドオーバによって無線部相互間が繋がっても、その後に、TCPプロトコル等のより上位階層のプロトコルによる接続制御(タイムアウト処理等)が行われるからである。
【0084】
そこで本実施形態では、地上側及び列車20側の双方にそれぞれハンドオーバ補償装置を設け、何れかの系統でハンドオーバが発生する直前にそれを予測して、ハンドオーバ発生を予測した場合には、対向のハンドオーバ補償装置へその旨を通知するようにしている。そして、その通知をすることにより、通知をした相手側に対し、その相手側のルータから送出される各系統側へのパケットのうち、ハンドオーバ発生が予測された系統宛のパケットについては、そのハンドオーバが予測された系統へ送出させるだけでなく、もう一方の系統にもコピーして送出させるようにする。
【0085】
尚、ここでいう「対向」とは、地上側(地上通信システム;自システム)からみれば列車20(車上通信システム;相手側システム)を意味し、列車20側(車上通信システム側;自システム)からみれば地上(地上通信システム;相手側システム)を意味するものとする。
【0086】
即ち、本実施形態の移動体無線通信システム10では、車上通信システムにおける車上ルータ23と各車上無線部21,22との間に、これら両者間のデータ伝送を中継するための車上側ハンドオーバ補償装置25が設けられており、地上通信システムにおける地上ルータ13と各地上無線部11,12との間(詳しくは地上ルータ13と各伝送路51,52との間)にも、これら両者間のデータ伝送を中継するための地上側ハンドオーバ補償装置15が設けられている。
【0087】
尚、車上側ハンドオーバ補償装置25と地上側ハンドオーバ補償装置15は、基本的には同じ構成・機能であるため、ここでは、代表として列車20に設けられた車上側ハンドオーバ補償装置25についてその構成・機能を説明する。
【0088】
車上側ハンドオーバ補償装置25は、基本的には、各車上無線部21,22からの受信データをそのまま中継して車上ルータ23へ送出すると共に、車上ルータ23からの送信データを、パケット毎に、第1系統及び第2系統のうちヘッダの系統識別子が示す系統(正規送出系統)側へ送出する機能を有する。
【0089】
車上側ハンドオーバ補償装置25の概略構成を、図2(b)に示す。図2(b)に示すように、車上側ハンドオーバ補償装置25は、主として、系統側入出力部41と、ルータ側入出力部43と、通信制御部42とを備えている。
【0090】
車上ルータ23からの送信データは、ルータ側入出力部43を介して通信制御部42へ入力される。また、各車上無線部21,22からの受信データは、それぞれ、系統側入出力部41を介して通信制御部42へ入力される。
【0091】
通信制御部42は、上述した基本的機能を備えていると共に、更に、ハンドオーバ予測機能、ハンドオーバ通知機能、及びモード切り替え機能とを備えている。
このうちハンドオーバ予測機能とは、系統毎に、対応する系統側からの受信パケットに基づいてハンドオーバの発生を予測する機能である。
【0092】
無線によるデータ伝送の特性上、ある系統において、通信エリアの切り替わりが近づいて(即ちハンドオーバが近づいて)電波状態が悪くなると、ハンドオーバする以前に、その系統からのパケットが正常に受信できなくなる。つまり、地上側と列車20側の無線部同士は無線接続していて電波の送受がまだ可能であっても、電波状態(電波強度)が悪くなると、データ(パケット)を正常に送信できなくなる。そこで本実施形態では、系統毎に、パケットの受信状態を監視し、正常に受信できない状態(本発明の開始直前状態、受信異常状態に相当)であると判断した場合に、その系統はハンドオーバが起こる直前の状態であるものと予測するのである。
【0093】
具体的な予測方法は種々考えられる。例えば、本実施形態では、各ルータがパケットを順次交互に分散送出する構成であるため、通常時は各系統宛のパケットが交互に相手側に到着する。パケット到着に若干の粗密は生じ得るが、何れか一方の系統にしか到着しないなどと大きく偏ることはない。一方、どちらかのルート(例えば第1系統)がハンドオーバ直前の状態になったとすると、このとき、第1系統側からのパケットはまったく到着せず、第2系統側からのパケットしか到着しなくなる。この状態を検知すれば、ハンドオーバ発生を事前に予測できることになる。
【0094】
このような方法を含め、例えば系統毎のパケットロス率に基づく方法、RTT(Round Trip Time )に基づく方法、更には後述するように電波強度に基づく方法など、予測方法は適宜採用することができる。
【0095】
そして、何れの方法についても共通して言えることは、ハンドオーバ予測のために特別なデータ(例えばping等)を用いることなどはしておらず、あくまでも、実際に地上−車上間で行われているデータ通信の状況(本例では送受信される生のデータ(パケット))を利用して予測するようにしている、ということであり、このことは本実施形態の特徴的構成の1つである。
【0096】
また、ある系統についてハンドオーバを予測した場合、その系統(本発明のハンドオーバ判断系統に相当)では間もなくハンドオーバが行われるわけだが、通信制御部42は、ハンドオーバの予測後、そのハンドオーバの終了を検知する機能も有している。
【0097】
ハンドオーバの終了検知方法も種々考えられるが、本実施形態では、一例として、ハンドオーバを予測した系統におけるパケット受信状況を引き続き監視し、その系統からのパケットが再び正常に受信される状態(本発明のハンドオーバ終了状態に相当)になった場合に、そのハンドオーバが終了したものと判断する。
【0098】
尚、何をもってパケットが再び正常に受信される状態になったか否かを判断するかについても種々考えられ、例えば、ハンドオーバ開始後、その系統から1つでもパケットが受信されたならばそれをもって正常に受信される状態になったと判断してもよいし、また例えば、その系統からのパケットについて、パケットロス率やRTTなどの種々の観点から、正常に受信できる状態か否かを判断するようにしてもよい。
【0099】
また、ハンドオーバ通知機能とは、ハンドオーバを予測した場合にその旨を対向のハンドオーバ補償装置へ通知する機能、及びその予測した系統におけるハンドオーバの終了を検知した場合にその旨を対向のハンドオーバ補償装置へ通知する機能のことである。
【0100】
即ち、通信制御部42は、上述したハンドオーバ予測機能によって何れかの系統におけるハンドオーバを予測した場合、その系統において間もなくハンドオーバが発生する状態であることを示す情報であって且つ対向のハンドオーバ補償装置の動作モードをハンドオーバモード(詳細は後述)に切り替えさせる為の命令である、ハンドオーバモード移行命令を、そのハンドオーバを予測した系統とは別の系統を介して、対向のハンドオーバ補償装置へ送信する。具体的には、ハンドオーバモード移行命令を示すパケットを生成し、それを自システムの無線部を介して送信する。
【0101】
また、そのハンドオーバモード移行命令の送信後、そのハンドオーバの終了を検知した場合に、その旨を示す情報であって且つ対向のハンドオーバ補償装置の動作モードをノーマルモード(詳細は後述)に切り替えさせる為の命令である、ノーマルモード移行命令を、少なくともいずれか一方の系統を介して、対向のハンドオーバ補償装置へ送信する。
【0102】
そして、モード切り替え機能とは、対向のハンドオーバ補償装置から上記各モード移行命令が来た場合に、そのモード移行命令に従って自身の動作モードをハンドオーバモード又はノーマルモードの何れかに切り替える機能である。
【0103】
ここで、ノーマルモードとは、対応する自システム内のルータから対向する(相手側の)システム宛の送信データ(パケット)を、単にそのパケットに付加されている系統識別子に従って、対応する系統側へ送出するように動作するモードである。
【0104】
一方、ハンドオーバモードとは、対向するハンドオーバ補償装置からハンドオーバモード移行命令を受信した場合の動作モードであって、対応する自システム内のルータからの送信データ(パケット)のうち、系統識別子にて示された正規送出系統が、相手側システムにおいてハンドオーバが予測された系統(ハンドオーバ判断系統)であるパケット(ハンドオーバ系統側パケット)については、その正規送出系統だけでなく、もう一方の系統にもコピーして送出するように動作するモードである。尚、ハンドオーバが行われる正規送出系統には送出せずにもう一方の系統にのみ送出するようにしてもよい。
【0105】
このハンドオーバモードにおける、パケットのコピー送出について、図4を用いて具体的に説明する。図4(a)は、対向のハンドオーバ補償装置において第1系統のハンドオーバが予測されたことによってその旨を示すハンドオーバモード移行命令が送信されてきたときの、ハンドオーバモード移行後における第1系統向けのパケット(第2n−1パケット)の処理例を示すものである。
【0106】
この場合、自システムのルータから送信されてきたパケットの系統識別子は、正規の送出先である第1系統を示すものとなっている。しかしその第1系統は、対向のハンドオーバ補償装置においてハンドオーバが予測された系統である。そこでこの場合、通信制御部42は、ハンドオーバモードでの動作として、そのパケットをコピーすることにより別途生成する。そして、そのコピー生成されたパケットに対し、アドレス書き換えを行う。即ち、系統識別子を、正規送出系統である第1系統から、第2系統へと書き換える。
【0107】
そして、その系統識別子を書き換えたパケット(コピーパケット)については、その書き換え後の系統識別子に対応した系統(本来は正規の送出先ではなかった非正規の系統)である第2系統へ送出する。また、元の正規のパケット(コピー元のパケット)については、そのまま正規送出系統である第1系統へ送出する。
【0108】
尚、この正規送出系統である第1系統では、ハンドオーバが行われているはずであるため、そのハドオーバが終了するまでは対向のハンドオーバ補償装置には届かない。しかし、そのハンドオーバが終了すれば、対向のハンドオーバ補償装置に再び届くようになり、これにより、対向のハンドオーバ補償装置からは上述したようにノーマルモード移行命令が送信されてくることとなる。
【0109】
図4(b)は、対向のハンドオーバ補償装置において第2系統のハンドオーバが予測されたことによってその旨を示すハンドオーバモード移行命令が送信されてきたときの、ハンドオーバモード移行後における第2系統向けのパケット(第2nパケット)の処理例を示すものである。
【0110】
この場合、自システムのルータから送信されてきたパケットの系統識別子は、正規の送出先である第2系統を示すものとなっている。しかしその第2系統は、対向のハンドオーバ補償装置においてハンドオーバが予測された系統である。そこでこの場合、通信制御部42は、ハンドオーバモードでの動作として、そのパケットをコピーすることにより別途生成する。そして、そのコピー生成されたパケットに対し、アドレス書き換えを行う。即ち、系統識別子を、正規送出系統である第2系統から、第1系統へと書き換える。
【0111】
そして、その系統識別子を書き換えたパケット(コピーパケット)については、その書き換え後の系統識別子に対応した系統(本来は正規の送出先ではなかった非正規の系統)である第1系統へ送出する。また、元の正規のパケット(コピー元のパケット)については、そのまま正規送出系統である第2系統へ送出する。
【0112】
尚、この正規送出系統である第2系統では、ハンドオーバが行われているはずであるため、そのハドオーバが終了するまでは対向のハンドオーバ補償装置には届かない。しかし、そのハンドオーバが終了すれば、対向のハンドオーバ補償装置に再び届くようになり、これにより、対向のハンドオーバ補償装置からは上述したようにノーマルモード移行命令が送信されてくることとなる。
【0113】
このように、通信制御部42は、何れの系統でもハンドオーバが行われていない通常時は、ノーマルモードで動作する。そして、対向のハンドオーバ補償装置にて何れかの系統におけるハンドオーバが予測され、それによりその対向のハンドオーバ補償装置からハンドオーバモード移行命令が送信されてきた場合には、ハンドオーバモードで動作する。そして、その後ノーマルモード移行命令が送信されてきた場合には、再びノーマルモードで動作する。
【0114】
このように構成された本実施形態の移動体無線通信システム10における、列車20の走行に伴うハンドオーバ補償装置の動作モードの切り替わりについて、図5〜図7を用いて説明する。
【0115】
まず図5は、移動体無線通信システム10において、各系統いずれもハンドオーバが行われていない状態Aであって、地上側及び列車20側のいずれのハンドオーバ補償装置もノーマルモードで動作している状態を示している。
【0116】
この状態Aでは、列車20において、第1車上無線部21は、地上側における第1通信エリア内に存在しており、この第1通信エリアを通信範囲とする同じ第1系統の第1系統地上無線部11−1との間で無線通信を行っている。また、第2車上無線部22は、地上側における第2通信エリア内に存在しており、この第2通信エリアを通信範囲とする同じ第2系統の第2系統地上無線部12−2との間で無線通信を行っている。
【0117】
そして、この状態Aでは、いずれの系統でもハンドオーバが発生しておらずまた予測もされていないことから、各ハンドオーバ補償装置15,25はそれぞれ、自システム内のルータからのパケットを系統識別子に従ってそのまま対応する系統側(無線部側)へ送出する。そのため、例えば地上側から列車20側へ送信されるパケットについては、図5に例示するように、地上ルータ13により選択された正規送出系統が第1系統のパケット(第2n−1パケット;第1,3,5・・・パケット)については第1系統側へ(第1伝送路51へ)送出され、地上ルータ13により選択された正規送出系統が第2系統のパケット(第2nパケット;第2,4,6・・・パケット)については第2系統側へ(第2伝送路52へ)送出される。尚、図中、丸付き数字は、パケットの番号(送出順序)を示している。
【0118】
そして、その状態Aから列車20の走行(上り方向)が進んで、図6に示す状態Bのように、第1車上無線部21が第1通信エリアと第2通信エリアとの境界領域近傍に位置するようになると、各ハンドオーバ補償装置ではそれぞれ、第1系統におけるハンドオーバが予測されることとなる。そして、例えば車上側ハンドオーバ補償装置25において、地上側からのパケット受信状況に基づいて第1系統のハンドオーバが予測されると、車上側ハンドオーバ補償装置25から対向の地上側ハンドオーバ補償装置15へ、ハンドオーバモード移行命令が送出される。
【0119】
対向の地上側ハンドオーバ補償装置15は、そのハンドオーバモード移行命令を受信すると、自身の動作モードをハンドオーバモードに移行する。これにより、図6に例示するように、地上ルータ13により選択された正規送出系統が第1系統のパケット(第2n−1パケット;第1,3,5・・・パケット)については、その正規の第1系統への送出は継続すると共に、図6(a)で説明したようにそのコピーパケットを生成して、非正規である第2系統にも送出する。尚、図中、四角付き数字は、コピーパケットの番号を示している。
【0120】
そのため、この状態Bにおいては、第1系統ではハンドオーバがおこなわれるものの、第2系統を介して、全てのパケットを送信することができる。
そして、その状態Bからさらに列車20の走行(上り方向)が進むと、列車20の第1車上無線部21は、第1通信エリアから第2通信エリアへと移動していき、これにより、第2エリアを通信範囲とする同じ第1系統の第1系統地上無線部11−2からの第1系統宛のパケットを受信できるようになる。
【0121】
そこで車上側ハンドオーバ補償装置25は、第1車上無線部21を介して第1系統からのパケットを再び正常に受信できるようになったら、対向の地上側ハンドオーバ補償装置15へノーマルモード移行命令を送出して、その地上側ハンドオーバ補償装置15を再びノーマルモードに移行させる。これにより、図7に例示する状態Cのように、地上側ハンドオーバ補償装置15は再びノーマルモードで動作するようになる。
【0122】
次に、各ハンドオーバ補償装置における通信制御部42が実行する、上述した各種処理について、図8〜図10の各フローチャートを用いて説明する。
通信制御部42は、図8に示すモード移行制御処理、図9に示すパケット送信制御処理、及び図10に示すハンドオーバ判断制御処理の各制御処理を、マルチプロセスにて実行する。
【0123】
このうち、まず図8のモード移行制御処理について説明する。通信制御部42は、このモード移行制御処理を開始すると、まずS110にて、対向のハンドオーバ補償装置からハンドオーバモード移行命令を受信したか否か判断する。
【0124】
尚、通信制御部42がこのモード移行制御処理を開始した時点では、当該通信制御部42の動作モード(延いてはハンドオーバ補償装置の動作モード)はノーマルモードにセットされている。
【0125】
このS110の判断処理にて、ハンドオーバモード移行命令を受信するまで待機する。そして、ハンドオーバモード移行命令を受信したならば、S120に進んで、自身の動作モードをハンドオーバモードにセットする。
【0126】
ハンドオーバモードへのセット後、S130にて、対向のハンドオーバ補償装置からノーマルモード移行命令を受信したか否か判断する。即ち、このS130にて、ノーマルモード移行命令を受信するまで待機する。そして、ノーマルモード移行命令を受信したならば、S140に進んで、自身の動作モードをノーマルモードにセットし、再びS110に戻る。
【0127】
次に、図9のパケット送信制御処理について説明する。通信制御部42は、このパケット送信制御処理を開始すると、まずS210にて、自システム側のルータからパケットを受信したか否か判断する。そして、パケットが受信されない間はこのS210の判断処理を繰り返すが、ルータからパケットが受信された場合は、S220に進み、自身において現在セットされているモードを判定する。
【0128】
このとき、ノーマルモードに設定されているならば、S230に進み、ルータで決定(選択)された宛先系統、即ち系統識別子が示す系統へ、そのパケットを送出する。即ち、ルータによりパケット毎に分散指定された宛先に従ってそのまま分散送信するのであり、本例では、奇数番目のパケットについては第1系統へ、偶数番目のパケットについては第2系統へ、それぞれ送出されることとなる。
【0129】
一方、ハンドオーバモードに設定されているならば、S240に進み、ハンドオーバモードに対応したパケット中継を行う。即ち、ルータにより指定された正規送出系統に対してはそのまま送出(分散送信)する。そして、その分散送信を基本としつつ、更に、ハンドオーバ系統宛のパケットについては、図6で説明したように、そのパケットをコピーすると共に、系統識別子を書き換えて、その書き換え後の系統に送出(コピー送信)する。
【0130】
次に、図10のハンドオーバ判断制御処理について説明する。通信制御部42は、このハンドオーバ判断制御処理を開始すると、まずS310にて、相手側システムからの各系統の着信パケットを監視する。そして、S320にて、第1又は第2いずれかの系統からのパケットについて、その受信状態が異常であるか否か判断する。そして、いずれの系統の受信状態も正常ならばS310に戻るが、いずれかの系統で受信異常を検知した場合には、その系統(ハンドオーバ系統)にてハンドオーバが開始される直前であることを予測し(S330)、S340にて、そのハンドオーバ系統以外の系統を介して対向のハンドオーバ補償装置へハンドオーバモード移行命令を送信する。
【0131】
その後、S350に進んで引き続き相手側システムからの各系統の着信パケットを監視する。そして、S360にて、相手側システムからハンドオーバ系統(S320〜S330でハンドオーバを予測した系統)を介してパケットが正常に受信されるようになったか否かを判断する。そして、ハンドオーバ系統からのパケットの正常受信が再開されない間はS350に戻るが、ハンドオーバ系統からのパケットの正常受信再開を検知した場合には、そのハンドオーバ系統におけるハンドオーバが終了したことを検知し(S370)、S380にて、対向のハンドオーバ補償装置へノーマルモード移行命令を送信する。
【0132】
尚、本実施形態では、列車20内において乗客等がPC26等を用いた地上側との通信(インターネット接続等)をだれも行っていない場合、つまり地上側と列車20側の間で実質的なデータ通信が行われていない間は、各ハンドオーバ補償装置は、上述した図8〜図10の処理は行わない。
【0133】
図11に、ハンドオーバ補償装置を備えた本実施形態の移動体無線通信システム10と、ハンドオーバ補償装置を備えない従来の移動体無線通信システムとの、通信速度の比較例を示す。図11に示すように、従来のシステムでは、時刻t1にてハンドオーバが開始されると、通信速度は0となる。そして、時刻t2にてハンドオーバが終了しても、上述した上位階層での接続制御等のためにすぐには通信速度が復帰せず、ハンドオーバ終了から所定時間経過した時刻t3にて、再び通信可能となる。
【0134】
一方、本実施形態のシステムでは、ハンドオーバ開始直前にそれが予測されて対向のハンドオーバ補償装置へハンドオーバモード移行命令が送信されるため、何れか一方の系統がハンドオーバで通信不能となっても、もう一方の系統を利用して通信を継続することができる。そのため、図11に示すように、時刻t1にてハンドオーバが開始されても、通信速度は半減するもののデータ通信は継続して行われる。そして、時刻t2にてハンドオーバが終了すると、直ちに回復に向かい、迅速に元の(ノーマルモードでの)データ通信に復帰することができる。
【0135】
以上説明したように、本実施形態の移動体無線通信システム10によれば、地上側及び列車20側それぞれにハンドオーバ補償装置を設け、これにより、対向のハンドオーバ補償装置からハンドオーバモード移行命令を受信したならば自身の動作をハンドオーバモードにセットし、これにより、少なくともいずれか一方の系統にてデータ通信を継続することができる。そのため、移動体無線通信システム10全体として、ハンドオーバ発生によるデータ通信の安定性への影響を抑制しつつ、効率的且つ安定したデータ通信を行えるようにすることが可能となる。
【0136】
また、本実施形態では、ハンドオーバが実際に開始されてからハンドオーバモードに移行させるのではなく、ハンドオーバが開始される前にそれを予測して予めハンドオーバモードに移行させるようにしているため、ハンドオーバによるデータ通信の途切れを確実に防ぐことができ、データ通信の安定性をより高めることができる。
【0137】
しかも、そのハンドオーバの予測(受信異常状態か否かの判断)は、その予測のために特別な制御データ等を用いて行うのではなく、実際に送受信される生のパケットの受信状態に基づいて行うため、実際のデータ通信を阻害することなく、精度良く予測することができる。
【0138】
また、本実施形態では、ハンドオーバモードからノーマルモードへの復帰についても、相手側のハンドオーバ補償装置からの命令に従うようにしている。そのため、相手側システムからみた無線通信の状態に応じた適切なモード切り替えが可能となり、データ通信の効率をより高めることができる。
【0139】
尚、本実施形態において、各車上無線部21,22は本発明の移動体側無線送受信手段に相当し、各地上無線部11,12は本発明の地上側無線送受信手段に相当し、車上ルータ23は本発明の移動体側データ中継装置に相当し、地上ルータ13は本発明の地上側データ中継装置に相当し、各ハンドオーバ補償装置15,25における通信制御部42は、本発明のハンドオーバ判断手段、ハンドオーバ情報送出手段、送信データ制御手段、終了判断手段、及び終了情報送出手段に相当する。
【0140】
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0141】
例えば、上記実施形態では、ハンドオーバ開始の予測、及びハンドオーバの終了検知のいずれも、相手側システムから受信されるパケットの受信状況に基づいて行うようにしたが、これはあくまでも一例であり、開始予測・終了検知それぞれ適切に行うことができる限り、その具体的方法は特に限定されるものではない。
【0142】
例えば、図12に示すように、受信電波の電波強度に基づいて、ハンドオーバの予測・終了検知を行うことも可能である。
図12は、図10に示したハンドオーバ判断制御処理の別の実施例を表すものである。通信制御部42は、この図12のハンドオーバ判断制御処理を開始すると、まずS410にて、現在無線通信中の各系統の無線部からそれぞれRSSIデータを取得することにより、そのRSSIに基づいて、無線通信中の各系統の電波強度を監視する。そして、S420にて、第1又は第2いずれかの系統におけるRSSIが所定の閾値以下か否か判断する。この閾値は、例えば、データ通信を正常に行うことが可能なぎりぎりの状態におけるRSSIとしてもよいし、そのRSSIよりも所定量大きい(或いは小さい)値とするなど、適宜決めることができる。
【0143】
そして、いずれの系統のRSSIも閾値より大きければS410に戻るが、いずれかの系統のRSSIが閾値以下ならば、その系統(ハンドオーバ系統)にてハンドオーバが開始される直前であることを予測し(S430)、S440にて、そのハンドオーバ系統以外の系統を介して対向のハンドオーバ補償装置へハンドオーバモード移行命令を送信する。
【0144】
その後、S450に進んで、S410と全く同じようにRSSIに基づいて各系統の電波強度を監視する。そして、S470にて、ハンドオーバ系統(S420〜S430でハンドオーバを予測した系統)のRSSIが閾値を超えたか否かを判断する。そして、ハンドオーバ系統のRSSIが閾値を超えない間はS450に戻るが、ハンドオーバ系統のRSSIが閾値を超えた場合には、そのハンドオーバ系統におけるハンドオーバが終了したことを検知し(S470)、S480にて、対向のハンドオーバ補償装置へノーマルモード移行命令を送信する。
【0145】
このように、電波強度(RSSI)に基づいてハンドオーバの予測及び終了検知を行う方法によっても、実際のデータ通信を阻害することなく、精度良く予測・終了検知することができる。
【0146】
また、上記実施形態では、各ハンドオーバ補償装置におけるモード移行は、あくまでも対向のハンドオーバ補償装置からの移行命令に従って受動的に行うものとして説明したが、このように受動的に行うことは必須ではない。例えば、ハンドオーバを予測して対向のハンドオーバ補償装置へハンドオーバモード移行命令を送信した場合には、自身も共にハンドオーバモードに移行するようにしてもよい。
【0147】
また、ハンドオーバモード移行命令の送信は、ハンドオーバを予測した場合に限らず、実際にハンドオーバが開始されたときに行うようにしてもよい。但し、データ通信の安定化のためには、上記実施形態のようにハンドオーバ開始前にそれを予測してハンドオーバモード移行命令を送信するのが好ましい。
【0148】
また、ハンドオーバモードにおいては、ルータからのパケットを、その系統識別子に拘わらず(即ち、正規送出系統がどの系統であるかにかかわらず)、全てのパケットを、双方の系統に送出するようにしてもよい。つまり、各系統に2重送信するのである。
【0149】
また、上記実施形態では、地上側において、各系統の各地上無線部はそれぞれ同じ位置・間隔で配置するようにしたが、これはあくまでも一例である。
また、上記実施形態では、各無線部の通信エリアを、その無線部を中心とする所定のエリアであるとしたが(図5等参照)、これはあくまでも一例であり、各無線部の通信エリアをどのように設定するか、また、各無線部の無線周波数(チャンネル)をどのように設定するかについては、適宜決めることができる。
【0150】
一例として、例えば第1系統地上無線部11については、下り方向に指向性を有するアンテナを用いることでその設置位置から下り方向へ一定距離離れた位置までの範囲が通信エリアとなるようにし、第2系統地上無線部12については、上り方向に指向性を有するアンテナを用いることでその設置位置から上り方向へ一定距離離れた位置までの範囲が通信エリアとなるようにする。各系統とも、列車20の走行方向に隣接する通信エリア相互間は、上記実施形態と同様、その端部領域(走行方向の端部)が一部重複するように設定する。この場合、同じ位置に設置される各系統の地上無線部11,12の無線周波数は同じ周波数とすることができる。
【0151】
対する列車20においては、例えば、第1系統の第1車上無線部21については、列車20における上り方向側の先頭車両に設置すると共に、上り方向に指向性を有するアンテナを用いることでその設置位置から上り方向へ一定距離離れた位置までの範囲が通信エリアとなるようにし、第2系統の第2車上無線部22については、列車20における下り方向側の先頭車両に設置すると共に、下り方向に指向性を有するアンテナを用いることでその設置位置から下り方向へ一定距離離れた位置までの範囲が通信エリアとなるようにする。
【0152】
上記のように各無線部の通信エリアが設定されているような移動体無線通信システムに対しても、上記実施形態と同様、本発明を適用することが可能である。尚勿論、上記例示した通信エリアの設定例についてもあくまでも一例に過ぎないことは言うまでもない。
【0153】
また、上記実施形態では、通信系統として第1系統及び第2系統の2つの系統を有する移動体無線通信システム10を例に挙げて説明したが、本発明の適用は、2つの系統を有するものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0154】
1a,1b,1c,2a,2b,2c,20a,20b…アンテナ、10…移動体無線通信システム、11(11−1,11−2,11−3・・・)…第1系統地上無線部、12(12−1,12−2,12−3・・・)…第2系統地上無線部、13…地上ルータ、14…インターネット、15…地上側ハンドオーバ補償装置、20…列車、21…第1車上無線部、22…第2車上無線部、23…車上ルータ、24…AP、25…車上側ハンドオーバ補償装置、26…PC、31…RF部、32…ベースバンド部、41…系統側入出力部、42…通信制御部、43…ルータ側入出力部、51…第1伝送路、52…第2伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の移動経路を移動する移動体に設けられた移動体側通信システムと、前記移動経路に沿って設けられた地上通信システムとの間で、複数の系統にて、無線によるデータ通信が可能に構成され、
前記移動体側通信システムには前記系統毎に移動体側無線送受信手段が設けられると共に、前記地上通信システムには、前記移動経路に沿って所定間隔で配置された複数の地上側無線送受信手段が伝送路を介して接続されてなる一群の地上側ネットワークが前記系統毎に個別に設けられて、同じ前記系統の前記移動体側無線送受信手段と前記地上側無線送受信手段との間でそれぞれ無線によるデータの送受信が行われ、該無線によるデータの送受信は、所定の形式のパケット単位で行われると共に、前記系統毎に、前記移動体側無線送受信手段とデータの送受信を行う前記地上側無線送受信手段が前記移動体の移動に伴って順次切り替わっていくハンドオーバが行われるよう構成され、
前記移動体側通信システムには、前記各移動体側無線送受信手段と前記移動体内の通信機器との間のデータ伝送を中継する装置であって、前記通信機器から入力された前記地上通信システム側への送信データを、パケット毎に、前記各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の前記移動体側無線送受信手段へ送出するよう構成された移動体側データ中継装置が設けられ、前記地上通信システムには、前記各地上側ネットワークと外部ネットワークとの間のデータ伝送を中継する装置であって、前記外部ネットワークから入力された前記移動体側への送信データを、パケット毎に、前記各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の前記地上側無線送受信手段へ送出するよう構成された地上側データ中継装置が設けられてなる、移動体無線通信システムにおいて、
前記移動体側通信システムにおける前記移動体側データ中継装置と前記各移動体側無線送受信手段との間、及び前記地上通信システムにおける前記地上側データ中継装置と前記各地上側ネットワークとの間に、それぞれデータ伝送を中継するために設けられるハンドオーバ補償装置であって、
前記系統毎に、前記ハンドオーバが開始されたか、又は前記移動体側無線送受信手段と前記地上側無線送受信手段との間の無線によるデータ送受信の状態が前記ハンドオーバ開始直前の所定の開始直前状態となったかの何れかであるハンドオーバ状態になったか否かを判断する、ハンドオーバ判断手段と、
前記ハンドオーバ判断手段により前記各系統の何れかが前記ハンドオーバ状態と判断された場合に、前記移動体側通信システム及び前記地上通信システムのうち当該ハンドオーバ補償装置が設けられている側のシステムである自システムにおける、そのハンドオーバ状態と判断された系統であるハンドオーバ判断系統以外の系統の前記無線送受信手段へ、該ハンドオーバ判断系統が前記ハンドオーバ状態であることを示すハンドオーバ情報を送出することによって、該ハンドオーバ情報を前記自システムに対する通信相手側のシステムである相手側システムへ無線送信させる、ハンドオーバ情報送出手段と、
前記相手側システムから前記ハンドオーバ情報が受信されていない通常時は、前記自システムにおける前記データ中継装置からの送信データを、パケット毎に、前記正規送出系統の前記無線送受信手段へ送出する、ノーマルモードにて動作し、前記相手側システムから前記ハンドオーバ情報が受信された場合には、少なくともそのハンドオーバ情報に対応した前記ハンドオーバが終了するまでは、前記自システムにおける前記データ中継装置からの送信データを構成する前記パケットのうち、前記正規送出系統が前記ハンドオーバ判断系統であるハンドオーバ系統側パケットについては、前記正規送出系統に代えて又は該正規送出系統に加えて、該正規送出系統とは異なる系統の前記無線送受信手段へ送出する、ハンドオーバモードにて動作する、送信データ制御手段と、
を備えていることを特徴とするハンドオーバ補償装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハンドオーバ補償装置であって、
前記ハンドオーバ判断手段は、前記移動体側無線送受信手段と前記地上側無線送受信手段との間の無線によるデータ送受信の状態が前記開始直前状態となったか否かを判断し、該開始直前状態となった場合に、前記ハンドオーバ状態になったと判断する
ことを特徴とするハンドオーバ補償装置。
【請求項3】
請求項2に記載のハンドオーバ補償装置であって、
前記ハンドオーバ判断手段は、前記系統毎に、前記自システムにおける前記無線送受信手段による前記相手側システムからの前記パケットの受信状態を監視し、何れかの前記系統において前記パケットの受信状態が、予め設定した、正常に受信されない状態であることを示す受信異常状態となった場合に、前記開始直前状態になったと判断する
ことを特徴とするハンドオーバ補償装置。
【請求項4】
請求項2に記載のハンドオーバ補償装置であって、
前記各無線送受信手段は、前記相手側システムにおけるデータ送受信対象の前記無線送受信手段からの受信電波の強度を検出する電波強度検出手段を備え、
前記ハンドオーバ判断手段は、前記電波強度検出手段により検出された前記受信電波の強度が予め設定した電波強度閾値以下である場合に、前記開始直前状態になったと判断する
ことを特徴とするハンドオーバ補償装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のハンドオーバ補償装置であって、
前記ハンドオーバ判断手段により前記各系統の何れかが前記ハンドオーバ状態と判断された後、該判断された前記ハンドオーバ判断系統における前記ハンドオーバが終了したか否かを判断する終了判断手段と、
前記終了判断手段にて前記ハンドオーバが終了したと判断された場合に、前記自システムにおける一又は複数の系統の前記無線送受信手段へ、該ハンドオーバが終了したことを示す終了情報を送出することによって、該終了情報を前記相手側システムへ無線送信させる、終了情報送出手段と、
を備え、
前記送信データ制御手段は、前記相手側システムからの前記ハンドオーバ情報の受信によって前記ハンドオーバモードでの動作を開始した後、該相手側システムから前記終了情報が受信された場合に、前記ノーマルモードでの動作に移行する
ことを特徴とするハンドオーバ補償装置。
【請求項6】
請求項5に記載のハンドオーバ補償装置であって、
前記送信データ制御手段は、前記相手側システムからの前記ハンドオーバ情報の受信によって前記ハンドオーバモードでの動作を開始した後も、前記ハンドオーバ系統側パケットを前記正規送出系統にも送出するよう構成されており、
前記終了判断手段は、前記自システムの前記ハンドオーバ情報送出手段が前記ハンドオーバ情報を送出した後、前記ハンドオーバ判断系統における前記相手側システムからのデータの受信状態が、該ハンドオーバ情報に対応した前記ハンドオーバが終了したことを示す所定のハンドオーバ終了状態となった場合に、該ハンドオーバが終了したものと判断する
ことを特徴とするハンドオーバ補償装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のハンドオーバ補償装置であって、
前記送信データ制御手段は、前記自システムの前記ハンドオーバ判断手段により前記各系統の何れかが前記ハンドオーバ状態と判断された場合、少なくともそのハンドオーバ状態に対応したハンドオーバが終了するまでは、自身においても、該ハンドオーバ状態と判断された系統を前記ハンドオーバ判断系統として前記ハンドオーバモードにて動作する
ことを特徴とするハンドオーバ補償装置。
【請求項8】
所定の移動経路を移動する移動体に設けられた移動体側通信システムと、前記移動経路に沿って設けられた地上通信システムとの間で、複数の系統にて、無線によるデータ通信が可能に構成され、
前記移動体側通信システムには前記系統毎に移動体側無線送受信手段が設けられると共に、前記地上通信システムには、前記移動経路に沿って所定間隔で配置された複数の地上側無線送受信手段が伝送路を介して接続されてなる一群の地上側ネットワークが前記系統毎に個別に設けられ、同じ前記系統の前記移動体側無線送受信手段と前記地上側無線送受信手段との間でそれぞれ無線によるデータの送受信が行われ、該無線によるデータの送受信は、所定の形式のパケット単位で行われると共に、前記系統毎に、前記移動体側無線送受信手段とデータの送受信を行う前記地上側無線送受信手段が前記移動体の移動に伴って順次切り替わっていくハンドオーバが行われるよう構成され、
前記移動体側通信システムには、前記各移動体側無線送受信手段と前記移動体内の通信機器との間のデータ伝送を中継する装置であって、前記通信機器から入力された前記地上通信システム側への送信データを、パケット毎に、前記各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の前記移動体側無線送受信手段へ送出するよう構成された移動体側データ中継装置が設けられ、前記地上通信システムには、前記各地上側ネットワークと外部ネットワークとの間のデータ伝送を中継する装置であって、前記外部ネットワークから入力された前記移動体側への送信データを、パケット毎に、前記各系統のうち所定の分散方法にて選択した何れか1つの系統である正規送出系統の前記地上側無線送受信手段へ送出するよう構成された地上側データ中継装置が設けられてなる、移動体無線通信システムであって、
前記移動体側通信システムにおける前記移動体側データ中継装置と前記各移動体側無線送受信手段との間、及び前記地上通信システムにおける前記地上側データ中継装置と前記各地上側ネットワークとの間には、それぞれ、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のハンドオーバ補償装置が設けられている
ことを特徴とする移動体無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−182735(P2012−182735A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45333(P2011−45333)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】