説明

ハンドケア用組成物、及び、その製造方法

【課題】油中水型のクリームを剤形として用いずに撥水効果の持続性を高めた、手指用の外用組成物(ハンドケア用組成物)を提供すること。
【解決手段】固形油分及び液状油分を含有する油相と、水及び水溶性増粘剤を含有する水相とからなり、前記油相は、平均一次粒子径が0.1〜300μmの粒子として前記水相中に分散している組成物であって、さらに、ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンからなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上を含有するハンドケア用組成物を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用組成物に関する発明であり、さらに具体的には、製品名としてハンドクリームに相当するハンドケア用組成物、及び、その製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ハンドクリームの目的の1つは手荒れ防止であり、この中には乾燥からの肌荒れ防止と水仕事による手荒れ防止がある。このような目的を達成するために、モイスチャー効果の高いクリームタイプと、水との直接的な接触を防御するための撥水性を主要な効果とするものが、ハンドクリームの製品形態として認められる。
【0003】
特に、荒れた手を改善するために、各種の保湿剤やワセリン等に加えて、尿素、消炎剤、ビタミン剤などの薬剤を配合されている。
【0004】
なお、特許文献1には、後述の本発明の組成物の剤形であるリピッドシェル基剤について開示がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−256971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような事情から、特に手荒れから持続的に防御する目的で、撥水効果を長続きさせる手段は、極めて有用である。しかしながら、これを実現するために、例えば、油中水型のクリームを用いると、手指が油性感を伴ってべたついてしまう傾向が強かった。よって、本発明の課題は、油中水型のクリームを剤形として用いずに撥水効果の持続性を高めた、手指用の外用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について検討を行い、油中水型のクリームではなく、ある程度の大きさのある程度硬質の油性粒子が水相において分散された、いわゆるリピッドシェル製剤とし、当該製剤における配合成分を検討することで、撥水効果をべたつきが抑制された状態で長時間持続させることが可能ではないかと考え、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、固形油分及び液状油分を含有する油相と、水及び水溶性増粘剤を含有する水相とからなり、前記油相は、平均一次粒子径が0.1〜300μmの粒子として前記水相中に分散している組成物であって、さらに、ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンからなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上を含有する組成物である、ハンドケア用組成物(以下、本発明の組成物ともいう)を提供する発明である。
【0009】
さらに、本発明は、本発明の組成物の特定の製造方法を提供する。すなわち、本発明は、下記の工程1及び2を含む、本発明のハンドケア用組成物の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)を提供する発明である。
(1)固形油分及び液状油分を含有する油相を、当該固形油分の融点よりも高い温度で、当該の高い温度とした水相に添加し、当該添加混合物を剪断混合しつつ、前記融点以下の温度とする、工程1;
(2)当該工程1を経て、当該剪断物に対して、ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンからなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上を添加混合し、さらに、水溶性増粘剤を添加混合して、当該混合物をさらに剪断混合する工程2。
【0010】
本発明において、「ハンドケア用組成物」とは、手指用に用いられる外用組成物のことを意味するものであり、製品名としては「ハンドクリーム」が該当するが、「ハンドケア用組成物」は、一般的な乳化組成物である「クリーム」に剤形が限定されるものではない。本発明の組成物の剤形である「リピッドシェル」も、当然にその範疇に含まれる。
【0011】
「リピッドシェル」は、概ねμm単位の平均一次粒子径を有する固形油分をシェル(殻)として液状油分を包埋する油性粒子が、水相に分散してなる剤形である。固形油分は、主に油相と水相の界面に存在するが、部分的に他の油性成分と共に油性粒子の内側に存在してもよい。また、部分的に液状油分が、油相と水相との界面に存在していてもよい。このような構成であることによって、外用剤として皮膚に塗布した際に、水分の皮膚への浸透の油相成分による阻害が抑制され、かつ、水溶性増粘剤の水相における存在により、界面活性剤を配合しなくても、油相を水相中に安定に分散させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、リピッドシェル剤形を、ハンドクリームタイプのハンドケア用組成物に適用し、かつ、特定の皮膜剤やハリを付与するための油分を配合することにより、油中水型乳化組成物に認められるようなべたつきを抑制しつつ、長時間の撥水性を実現することができる、ハンドケア用組成物を提供する発明である。また、本発明は、当該手指用組成物の適切な製造方法を提供する発明でもある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[組成物の含有成分]
(1)油相成分
本発明の組成物の油相成分である「固形油分」は、常温(25℃)で固体または半固体の油分であり、「液状油分」は、常温(25℃)で液体の油分である。ただし、ここに定義される油相成分からは、重量流動イソパラフィンは除外される。本発明において、重量流動イソパラフィンは、別個の区分に属する配合成分として定義される。
【0014】
(a)固形油分
本発明の組成物の油相成分である「固形油分」は、常温(25℃)で固体または半固体の油分である。当該固形油分としては、例えば、固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、ビースワックス、バリコワックス、ポリエチレンワックス、シリコンワックス、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、バチルアルコール、カルナウバロウ、ミツロウ、キャンデリラロウ、ジョジョバロウ、ラノリン、セラックロウ、鯨ロウ、モクロウ、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、カカオ脂、硬化ヒマシ油、硬化油、水添パーム油、パーム油、硬化ヤシ油、ポリエチレン末、ワセリン、各種の水添加動植物油脂、脂肪酸モノカルボン酸ラノリンアルコールエステル等が挙げられる。特に、融点が45〜75℃である固形油分が好ましく、より好ましくは融点が50〜70℃の固形油分である。45℃より低い融点の固形油分を用いると、微細分散組成物の安定性が悪くなる場合があり、また75℃より高い融点の固形油分を用いると、外用組成物を調製する際の水相と油相の混合融解の標準温度(75℃)より高い温度での混合融解が必要となり、処理が煩雑となる。そのような固形油分として、限定はされないが、例えば、セチルアルコール(炭素原子数16)、ステアリルアルコール(炭素原子数18)、ベヘニルアルコール(炭素原子数22)等の炭素原子数が16以上の高級アルコール、又は、キャンデリラロウが挙げられる。さらに、高級アルコールは、不飽和結合がなく、炭素原子数が18以上の直鎖飽和高級アルコールであることがより好適である。特に、粒子の高温での融解を可能な限り抑制し、かつ汎用性が認められるという点において、ベヘニルアルコール又はキャンデリラロウが好ましい。
【0015】
上記の固形油分を、1種単独で、または、2種以上を組合せて本発明において用いることができる。
【0016】
固形油分の配合量は、油相の全質量に対して、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。油相中の固形油分の配合量が10質量%未満の場合、分散組成物の安定性が悪くなる傾向があり、また固形油分の配合量が50質量%を超えると、皮膚に適用した際につぶれにくくなり、肌なじみが悪くなる傾向がある。
【0017】
(b)液状油分
本発明の組成物の油相成分である「液状油分」は、常温(25℃)で液体の油分である。当該液状油分は、結晶化した固形油分と共に微粒子を形成し、油の微粒子を皮膚上でつぶしやすくし、また肌なじみをよくする役割を果たす。固形油分のみでは油の粒が硬く、また皮膚上で伸びないため、使用性と使用感が悪くなる。
【0018】
本発明の組成物の油相を構成する液状油分としては、例えば、オリーブ油、アボガド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、月見草油、ホホバ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、茶実油、コメヌカ油、小麦胚芽油、胚芽油、落花生油、ヒマワリ油、アーモンド油、トウモロコシ油、タートル油、ミンク油、パーシック油、サザンカ油、アマニ油、エノ油、カヤ油、日本キリ油、メドゥフォーム油、スクワレン、スクワラン、植物性スクワラン、ホホバアルコール、流動パラフィン、ポリブテン、水添ポリイソブテン、イソステアリン酸イソセチル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、2−エチルヘキサン酸セチル、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、オクタン酸セチル、テトラオクタン酸ペンタエリスリル、トリ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセライド、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸2−ヘキシルデシル、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、リンゴ酸ジイソステアリル、イソプロピルミリステート、2−オクチルドデシルオレエート、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ミリスチン酸2−ヘキシルデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、2−エチルヘキシルパルミテート、パルミチン酸2−ヘキシルデシル、パルミチン酸2−ヘプチルウンデシル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、オレイン酸デシル、ドデシルオレエート、オレイン酸オレイル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、12−ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、コハク酸2−エチルヘキシル、アジピン酸2−ヘキシルデシル、アジピン酸ジ−2−ヘプチルウンデシル、セバチン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ−2−エチルヘキシル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン、トリミリスチン酸グリセリン、トリ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセライド、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、ジメチコン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、トリグリセリン、オレイン酸、トール油脂肪酸、イソステアリン酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、環状ポリシロキサン、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸へキシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、コハク酸ジオクチル、フッ素変性油、トリオクタノイン、ジピバリン酸トリプロピレングリコール等が挙げられる。特に、外用剤として皮膚に適用した際に肌なじみがよいことから、ジメチコン、テトラオクタン酸ペンタエリスリチル、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、又は、ホホバアルコールを液状油分として配合することが好ましい。
【0019】
上記の液状油分を、1種単独でまたは2種以上を組合せて本発明において用いることができる。
【0020】
液状油分の配合量は、油相の全質量に対して、好ましくは50〜90質量%であり、より好ましくは80〜90質量%である。油相中の液状油分の配合量が50質量%未満の場合、皮膚に適用した際につぶれにくくなり、肌なじみが悪くなる傾向があり、また90質量%を超えると、分散組成物の安定性が悪くなる傾向がある。
【0021】
(c)親油性ゲル化剤
油相中には、さらに親油性ゲル化剤を配合することが好ましい。親油性ゲル化剤の配合により、固形油分の固化力を低下させて、皮膚上で油の粒をつぶして伸ばすのに適切となるように硬度を調整することができる。
【0022】
本発明において用いられる親油性ゲル化剤は、上記の固形油分の固化力を低下させ得るものであれば特に限定はされないが、例えば、金属セッケン、親油性ベントナイト、アミノ酸誘導体、デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトールのベンジリデン誘導体等が挙げられる。金属セッケンとしては、例えば水酸基の残存しているアルミニウムステアレート、マグネシウムステアレート、ジンクミリステート等が挙げられる。親油性ベントナイトとしては、例えば、ジメチルベンジルドデシルアンモニウムモンモリロナイトクレー、ジメチルジオクタデシルアンモニウムモンモリナイトクレー等が挙げられる。アミノ酸誘導体としては、例えば、N−ラウロイル−L−グルタミン酸、α,γ−ジ−n−ブチルアミン等が挙げられる。デキストリン脂肪酸エステルとしては、例えばデキストリンパルミチン酸エステル、デキストリンオレイン酸エステル、デキストリンステアリン酸エステル等が挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、8個の水酸基のうち3個以下が高級脂肪酸でエステル化され、高級脂肪酸がステアリン酸、パルミチン酸であるものが挙げられる。ソルビトールのベンジリデン誘導体としては、例えばモノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。特に、パルミチン酸デキストリンが安定性および使用性の面から最も好ましい。デキストリン脂肪酸エステルは、特に限定はされないが、例えば「レオパール KL」「レオパール KE」等の商品名で千葉製粉株式会社より市販されている。
【0023】
上記の親油性ゲル化剤を、1種単独でまたは2種以上を組合せて本発明において用いることができる。
【0024】
本発明の組成物において、親油性ゲル化剤を配合する場合の配合量は、用途や所望の使用感等によって異なり、特に限定はされないが、油相の全質量に対して、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.03〜2質量%である。
【0025】
(d)他の油相成分
さらに本発明の組成物の油相には、必要に応じて、ステロール類、パラメトキシケイ皮酸オクチル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤、ビタミンA及びその誘導体、ビタミンD及びその誘導体、ビタミンE及びその誘導体、ビタミンK及びその誘導体等のビタミン類、動植物抽出物、油溶性薬剤、色素、香料等を、油相中に配合してもよく、また、ビタミンC、アルブチン等の水溶性薬物の結晶の表面を疎水化処理したものを、油相中に分散させてもよい。さらに、油相中に油溶性薬剤を配合してもよい。
【0026】
(e)油相の配合量
本発明の組成物中の油相の配合量は、用途や所望の使用感等によって異なり、特に限定はされないが、組成物の全質量に対して1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜10質量%である。油相の配合量が1質量%未満の場合、外用剤として皮膚に適用した際に十分なしっとり感をもたらすことができない場合があり、また20質量%を超える場合、べたつきが生じる場合がある。
【0027】
(2)水相成分
水相は、文字通り水を基本とする相であり、水を必須の含有成分とするが、本発明の組成物においては、水と共に水溶性増粘剤を含有させることを、水相の必須の構成とする。水相における水の含有量は、他の水相成分に対する百分率における残量である。
【0028】
(a)水溶性増粘剤
水溶性増粘剤は、本発明の組成物において、組成物全体の粘度を高めて、上記の油性粒子油が水相中に安定に分散するのを助ける。また、組成物の粘度を使用に適した粘度に調整する役割を果たす。
【0029】
本発明の組成物において用いられる水溶性増粘剤は、水性溶媒を増粘させることが可能なものであれば特に限定はされないが、例えば、アラビアゴム、トラガカントガム、ガラクタン、キャロブガム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(褐藻エキス)等の植物系高分子、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子、ポリオキシエチレン系高分子、ポリオキエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等の無機系水溶性高分子等を挙げることができる。これらの水溶性増粘剤の中でも、無機系水溶性高分子が好適であり、特に好適にはベントナイトを挙げることができる。
【0030】
上記の水溶性増粘剤を、1種単独でまたは2種以上を組合せて本発明において用いることができる。
【0031】
水相中の水溶性増粘剤の配合量は、水溶性増粘剤の種類や、用途、所望の使用性等によって異なり、特に限定はされない。例えば、上記の無機系水溶性高分子は、本発明の組成物全体に対して1〜10質量%の範囲で配合され、好適には3〜7質量%である。
【0032】
(b)他の水相成分
さらに、水相中に、例えば、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の一般的な水性の保湿剤の他に、エタノールに代表される低級アルコール他の水性溶媒を配合することができる。また、必要に応じて、その他の水溶性成分、例えば、アルブチン、アスコルビン酸およびその誘導体、トラネキサム酸およびその誘導体等の水溶性薬剤を配合することができる。さらに、水溶性の紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、色素、香料等を、可能な範囲で水相に含有させることができる。
【0033】
(3)皮膜剤等
本発明の組成物には、ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤(以上は、皮膜剤)及び重量流動イソパラフィン(ハリ油分)からなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上を配合する。ポリアクリル酸系皮膜剤としては、例えば、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミド等が挙げられる。ポリウレタン系皮膜剤としては、例えば、ポリウレタン−10、ポリウレタン−24、(ポリウレタン−24/メタクリル酸メチル)クロスポリマー等が挙げられる。ポリビニル系皮膜剤としては、(エイコセン/ビニルピロリドン)コポリマー、ポリビニルアルコール、(ビニルピロリドン/酢酸ビニル(VA))コポリマー等が挙げられる。さらに、重量流動イソパラフィンとしては、例えば、水添ポリイソブテンが挙げられる。これらのポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンの配合量は、それぞれ独立であり、ポリアクリル酸系皮膜剤の配合量は、組成物全体に対して0.1〜4質量%、好適には0.1〜2質量%;ポリウレタン系皮膜剤の配合量は、組成物全体に対して0.1〜4質量%、好適には0.2〜2質量%;ポリビニル系皮膜剤の配合量は、組成物全体に対して0.1〜4質量%、好適には0.2〜2質量%;重量流動イソパラフィンの配合量は、組成物全体に対して0.1〜4質量%、好適には1〜2質量%である。上述したように、本発明の組成物には、これらの皮膜剤とハリ油分は、それぞれ単独に、又は、これらを適宜組み合わせて配合することができるが、2種以上の皮膜剤を組み合わせること、特に、これら4種の成分の全てを配合することは、好適な態様の1つである。2種以上の皮膜剤を組み合わせる場合の配合量の下限は、組成物全体に対して0.1質量%、好適には0.4質量%であり、当該配合量の上限は、同16質量%、好適には6質量%である。なお、上述した単独の各規定の配合量範囲、又は、2種以上の配合量範囲、の各最下限値よりも少ない配合量では、耐水性を十分に長持ちさせることが困難であり、当該範囲の各最上限値を超えた配合量では、過剰の皮膜感が生じる傾向が認められる。
【0034】
[組成物の製造方法]
本発明の組成物は、まず、基本となるリピッドシェル基剤を調製して、それに皮膜剤等を添加して、剪断混合等を行うことにより、製造することができる。
【0035】
<工程1>
本発明の製造方法の工程1においては、通常、70℃前後の温度に加熱して液状にした油性成分の混合物を、同程度の温度の水相に、例えば、送液ポンプ等の注入手段を用いて、水相の下部から直接注入することにより、油相を水相中に導入する。当該注入を水相の上部から行うと、直ちに油性成分の浮上分離が生じ、油性粒子の均一な分散を形成することが困難な場合がある。なお、ここにいう水相には、保湿剤を含んでも良いし、あるいは除いても良い。また高温に弱い水溶性成分は除かれることが好ましい。
【0036】
次に、例えば40℃〜55℃程度の、固形油分の融点以下の温度まで剪断混合することによって、固形油分が結晶化して他の油性成分を包含するように形成した油の粒子を剪断力によって粉砕して、油の分散物を形成する。それによって、油性成分の浮遊物や凝集物を生じさせることなく、好ましくは一次粒子径が0.1〜300μm、好適には0.1〜100μm程度の粒子として、固形油分を含む油相を、水相中に安定に分散させることができる。なお、剪断混合は、油相を水相中に添加している間も行って差し支えなく、あるいは添加の間は剪断混合しないで、添加終了直後から剪断混合を開始してもよい。また、剪断混合の際に、例えば氷等を用いて混合物を冷却しながら剪断混合してもよく、あるいは室温で自然に冷却させながら剪断混合してもよい。本明細書において、「固形油分の融点以下の温度まで剪断混合する」とは、固形油分の融点より高い温度から剪断混合を開始して、油相と水相との混合物の温度が固形油分の融点以下の温度になるまで、剪断混合を連続的または断続的に行うことを意味する。例えば、固形油分の融点付近の温度まで剪断混合した後、一度剪断混合を停止し、再度固形油分の融点以下の温度で剪断混合を行う場合も、これに含まれる。
【0037】
このようにして、工程1の目的物であるリピッドシェル基剤を調製することができる。
【0038】
<工程2>
上述の工程1により調製された、リピッドシェル基剤に対して、ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンからなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上を添加混合し、さらに、水溶性増粘剤の添加混合を行う。これらの2種類の添加混合は、どちらが先になっても良く、一緒に行っても良い。また、これらの添加混合は、室温で行うことができる。この添加混合終了後、工程1で行ったのと同様の剪断混合を行い、本発明の組成物を得ることができる。なお、本発明の組成物に、上記以外の水溶性成分、例えば、保湿剤や水溶性薬剤成分を配合する場合には、水溶性増粘剤と共に添加することが好ましい。また、これらの添加混合終了後に、低級アルコールや防腐剤を添加してから、剪断混合を行うことができる。
【0039】
このようにして、本発明の組成物を製造することができる。
【0040】
なお、本発明の製造方法において、剪断混合は、剪断力を加えながら混合できる任意の装置を用いて行うことができる。例えば、ホモミキサー、ホモディスパー、フロージェットミキサー、ウルトラミキサー、コロイドミル等の高速剪断分散装置、またはホモジナイザー等の高圧剪断分散装置によって、剪断混合を行うことができるが、本発明の目的を達成できる限り、他の任意の装置を用いて剪断混合してもよい。中でも、ホモミキサーを用いて剪断混合することによって、より均質かつ安定な油の微細分散組成物を作成できる。高速剪断分散装置を用いる場合の回転速度、または高圧剪断分散装置を用いる場合の圧力は、用いる装置の種類やパワーによって異なり、特に限定はされないが、例えば、ホモミキサー等の高速剪断分散装置を用いる場合の回転速度は、通常は100〜15000rpmであり、好ましくは1000〜10000rpmである。高速剪断分散装置の回転速度が100rpm未満では、期待する寸法の油性粒子を形成できない場合があり、また10000rpmを超えて回転速度を上げても、それ以上微粒子化の効果を上げることはできない。また、ホモジナイザー等の高圧剪断分散装置を用いる場合の圧力は、好ましくは10〜1000kgf/cm、より好ましくは100〜500kgf/cmである。高圧剪断分散装置の圧力が10kgf/cm未満では、期待する寸法の油性粒子を形成できない場合があり、1000kgf/cmを超えて圧力を上げても、それ以上微粒子化の効果を上げることはできない。
【0041】
剪断混合の時間は、特に限定はされないが、好ましくは、1分から60分であり、より好ましくは2分から30分であり、さらに好ましくは3分から10分である。
【0042】
また、攪拌は、通常、例えば10〜1500rpm、より好ましくは20〜300rpm程度の比較的低速の回転速度で、例えば、10分から8時間、より好ましくは30分から4時間、例えばプロペラミキサー、パドルミキサー、アンカーミキサー、ゲートミキサー、プラネタリーミキサー等の低速攪拌装置によって行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、この記載は、本発明の範囲を限定することを目的とするものではない。
【0044】
本実施例の対象となるハンドケア用組成物の処方は、下記のごとくである。
[試験品の処方]
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 51.3
95%エタノール 5
1,3−ブチレングリコール 8
ジプロピレングリコール 5
キャンデリラロウ 4
パルミチン酸デキストリン 0.2
ジメチルポリシロキサン(※1) 5
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 13
水添ポリイソブテン 1
ベントナイト(※2) 5
ポリウレタン系皮膜剤(市販品※3) 1
ポリビニル系皮膜剤(市販品※4) 0.5
ポリアクリル酸系皮膜剤(市販品※5) 0.5
EDTA・3Na・2HO 0.05
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
フェノキシエタノール 0.35
【0045】
※1:シリコーンKF−96A−6T(信越化学工業社製)
※2:クニピアG−4(クニミネ工業社製)
※3:アクアリンカーSU−100(ポリウレタン−24を30質量%含有)(コニシ社製)
※4:エスダイン5301(ポリビニルアルコールを10質量%、ポリ酢酸ビニルを39.8質量%含有)(積水化学社製)
※5:ダイトゾール5000A−S(ポリアクリル酸エチル50質量%)(大東化成工業社製)
【0046】
[試験品の製造方法]
上記試験品は、下記の製造方法にて製造した。
【0047】
水相成分(イオン交換水、EDTA・3Na・2HO、クエン酸及びクエン酸ナトリウム)を70℃にて加熱溶解し、これを30rpm程度で攪拌しつつ、その下部から、80℃にて加熱溶解を行った油相成分(キャンデリラロウ、パルミチン酸デキストリン、ジメチルポリシロキサン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット及び水添ポリイソブテン)を、送液ポンプを用いて、前記水相成分の下部から導入を行った、導入終了後、初期の系の温度を70℃に保ち、ホモミキサーを用いて9000rpmで剪断混合を行いながら、氷水によりにより40℃まで系の温度を低下させた。その後、当該温度を保ったまま、175rpmでスリーワンモーターを用いて攪拌しつつ、上記の市販の皮膜剤(ポリビニル系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤及びポリアクリル酸系皮膜剤)の室温混合物を添加し、さらに、保湿剤(1,3−ブチレングリコール及びジプロピレングリコール)と水溶性増粘剤(ベントナイト)の室温混合部を添加し、さらに、95%エタノールとフェノキシエタノールを添加して、最後にホモミキサーを用いて9000rpmで剪断混合を行って、所望するリピッドシェル型の剤形のハンドケア用組成物を得た。当該ハンドケア用組成物における油性粒子の一次粒子径は、40〜60μmであり、粘度は61900(mPa・s/30℃)で、pHは6.88であった。
【0048】
[実使用試験]
パネル4名(対照1名)の手指に上記の試験品を塗布して、その後、30分、1時間、2時間、3時間、4時間及び5時間経過後に、通常の石鹸洗浄を行い、撥水効果が認められるか否かを目視で確認した。パネル3名のうち、1名でも撥水効果を否定するものが認められた場合には、無効と判定することとした。その結果、対照(1名:試験品は無塗布)の場合は、最初から撥水効果は認められなかったのに対して、試験実施群3名においては、いずれも5時間経過時において明らかな撥水効果が認められた。また、これらの試験パネル3名内で、誰もべたつきを感じなかった。
【0049】
この試験において、本発明の組成物の、手指における撥水効果の優れた持続性が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形油分及び液状油分を含有する油相と、水及び水溶性増粘剤を含有する水相とからなり、前記油相は、平均一次粒子径が0.1〜300μmの粒子として前記水相中に分散している組成物であって、さらに、ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンからなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上を含有する組成物である、ハンドケア用組成物。
【請求項2】
ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンからなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上は、これらの成分すべてが選択されて配合されている、請求項1に記載のハンドケア用組成物。
【請求項3】
水溶性増粘剤は、無機系水溶性高分子である、請求項1又は2に記載のハンドケア用組成物。
【請求項4】
無機系水溶性高分子は、ベントナイトである、請求項3に記載のハンドケア用組成物。
【請求項5】
さらに、油相に親油性ゲル化剤を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のハンドケア用組成物。
【請求項6】
下記の工程1及び2を含む、請求項1〜5のいずれかに記載のハンドケア用組成物の製造方法。
(1)固形油分及び液状油分を含有する油相を、当該固形油分の融点よりも高い温度で、当該の高い温度とした水相に添加し、当該添加混合物を剪断混合しつつ、前記融点以下の温度とする、工程1;
(2)当該工程1を経て、当該剪断物に対して、ポリアクリル酸系皮膜剤、ポリウレタン系皮膜剤、ポリビニル系皮膜剤及び重量流動イソパラフィンからなる群の成分から選ばれる1種又は2種以上を添加混合し、さらに、水溶性増粘剤を添加混合して、当該混合物をさらに剪断混合する工程2。

【公開番号】特開2012−20965(P2012−20965A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160043(P2010−160043)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】