説明

ハート形をした殻付き牡蠣及びその製法並びにその製法に使用する成形器具

【課題】これまで全く考慮されていなかった殻付き牡蠣の殻外形の全体をハート形という特定の形状になるように養殖し、殻付き牡蠣の商品価値を高めることのできるハート形をした殻付き牡蠣及びその製法並びにその製法に使用する成形器具を提供することにある。
【解決手段】殻付き牡蠣1の成長端側1fの中央が非成長状態のV字型窪み1gに形成され、これを挟んでその両側が成長方向に向けて略丸みを帯びた凸型縁1hに形成され、殻付き牡蠣1の殻外形が全体として略ハート形に形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、殻付き牡蠣を成長段階で成形器具を用いてその殻外形の全体をハート形に形成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の牡蠣は養殖されるものが主流で、日本の各地でそれぞれ養殖されている。本願の出願人の組合でも牡蠣の養殖をおこなっており、「九十九島かき」(地域団体商標)の名称でよく知られている。
牡蠣は二枚貝に含まれ、二枚の殻のうち、身が入っている方の殻は内部側に窪んでいて(以下「身殻」という)、もう一方はこれに蓋をするようにやや平らになっている(以下「蓋殻」という)。牡蠣の二枚の身殻及び蓋殻は、ちょうつがいと貝柱の2箇所でつながっている。牡蠣はちょうつがい側の反対側の成長端側がちょうつがい側からその反対側に向かって成長することが知られている。殻の表面には成長端側の成長に応じて成長線(成長脈)が形成される。この成長線は木の年輪のようなものである。そして、牡蠣は貝柱の筋肉が弛むとちょうつがいを中心にして殻を開き、つまり成長端側が開いて海水に浮遊するプランクトン等の餌を摂取し、貝柱が収縮すると殻を閉じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、各地で養殖される牡蠣は、養殖される環境によって殻の形状が異なるが、殻の形状についてこれまで養殖漁場での自然な成長にまかせて、人工的に特定の形状にしようという試みは一切なされていないのが現状である。
【0004】
この発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、これまで全く考慮されていなかった殻付き牡蠣の殻外形の全体をハート形という特定の形状になるように養殖し、殻付き牡蠣の商品価値を高めることのできるハート形をした殻付き牡蠣及びその製法並びにその製法に使用する成形器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を達成するために、請求項1に係るハート形をした殻付き牡蠣の発明は、殻付き牡蠣のちょうつがいの反対側となる殻付き牡蠣の成長端側の中央が非成長状態のV字型窪みに形成され、これを挟んでその両側が殻付き牡蠣の成長方向に向けて略丸みを帯びた凸型縁に形成され、殻付き牡蠣の殻外形が全体として略ハート形に形成された手段よりなるものである。
【0006】
また、以上の課題を達成するために、請求項2に係るハート形をした殻付き牡蠣の製法の発明は、牡蠣の収穫期の8ヶ月〜2ヶ月前に、養殖中の各牡蠣を漁場から取りだし、殻付き牡蠣のちょうつがいの反対側となる殻付き牡蠣の成長端側の中央をV字型に切り欠き、この中央のV字型切り欠き箇所が形成された殻付き牡蠣を取付網具の収納網部の内部に収納すると共に収納網部の前後の何れかの網目の中に殻付き牡蠣のちょうつがい側の先端部を挿入係止し、中央のV字型切り欠き箇所にこれに相対応するV字型先端側を有する成形器を挿入係合すると共に、殻付き牡蠣を挟んで保持する収納網部の前後の網目の双方の網糸の一部を成形器に形成された網糸係止溝内にそれぞれ係止して殻付き牡蠣の成長端側の中央のV字型切り欠き箇所を成形器を介して前後の網目で固定した後に、再びに漁場に戻して養殖を続け、その養殖中に、殻付き牡蠣の成長端側の中央を成形器により非成長状態に維持してV字型窪みに成形し、これを挟んでその両側を殻付き牡蠣の成長方向に向けて略丸みを帯びた凸型縁に成長させ、殻付き牡蠣の殻外形が全体として略ハート形に形成させる製法よりなるものである。
【0007】
また、以上の課題を達成するために、請求項3に係るハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具の発明は、殻付き牡蠣の成長端側の中央を非成長状態に維持してV字型窪みに成形する成形器と、殻付き牡蠣を前後から挟むように収納する収納網部を複数備えた取付網具とからなり、前記成形器はその先端側が牡蠣の成長端側の中央のV字型切り欠き箇所に係合されるV字型断面に形成され、V字型断面の先端側の反対側の後端から中間側に向かって取付網具の前後の網目の双方の網糸の一部を係止する網糸係止溝が形成され、前記取付網具は基網の片側表面に開放口を有する複数の収納網部が上下に設けられ、ちょうつがい側の先端側を固定し且つ成長端側の中央のV字型切り欠き箇所に挿入係止される成形器を固定する前記網目が基網及び収納網部に多数設けられている手段よりなるものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係るハート形をした殻付き牡蠣及びその製法によれば、殻付き牡蠣のちょうつがいの反対側となる殻付き牡蠣の成長端側の中央が非成長状態のV字型に窪み、これを挟んでその両側が殻付き牡蠣の成長方向に向けて略丸みを帯びた凸型縁に成長するので、殻付き牡蠣の殻外形を全体として略ハート形に形成することが可能となる。ハート形はよく知られた形状であり、しかも一般に愛されている縁起の良い形状であるので、このような優れた形状を殻付き牡蠣が初めて有することにより、その殻付き牡蠣の商品価値を高めることができる。
【0009】
また、この発明に係るハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具によれば、V字型の成形器によって殻付き牡蠣の成長端側の中央を非成長状態のV字型に窪むように成形でき、また、成形される殻付き牡蠣を取付網具の収納網部に収納し、収納する収納網部の前後の網目を利用して殻付き牡蠣のちょうつがい側の先端部分と成長端側の中央を成形する成形器とを保持固定することができ、成形器と取付網具との協動作業により、収納網部に収納された殻付き牡蠣の殻外形をその後の養殖によって全体として略ハート形に形成させることができる等、極めて新規的有益なる効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)はこの発明を実施するための形態を示すハート形をした殻付き牡蠣の正面図、(B)は同図(A)の側断面図である。
【図2】(A)はこの発明を実施するための形態を示すハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用するV字型に折曲した成形器の正面図、(B)は同図(A)の側面図である。
【図3】(A)はこの発明を実施するための形態を示すハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する木製の成形器の正面図、(B)は同図(A)の側面図、(C)は同図(A)の平面図、(D)は同図(B)の中央断面図である。
【図4】この発明を実施するための形態を示すハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する取付網具の一部切り欠き斜視図である。
【図5】(A)〜(B)この発明を実施するための形態を示すハート形をした殻付き牡蠣の製法における作業説明図である。
【図6】(A)〜(B)この発明を実施するための形態を示すハート形をした殻付き牡蠣の製法における作業説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔ハート形をした殻付き牡蠣〕
以下、図面に記載の発明を実施するための形態に基づいて、ハート形をした殻付き牡蠣について具体的に説明する。
【0012】
図1に示すように、殻付き牡蠣1は、前記した従来の殻付き牡蠣と同じように、二枚の殻1a、1bのうち、身1cが入っている方の身殻1aは内部側に窪んでいて、つまり身殻1aの外部側は外側に向かって凸面状に突出し、身殻1aの窪んでいる内部に身1cが入っている。身殻1aの内部を蓋をするように塞ぐもう一方の蓋殻1bはやや平らになっている。
【0013】
殻付き牡蠣1の二枚の身殻1a及び蓋殻1bは、ちょうつがい1dと貝柱1eの2箇所でつながっている。牡蠣1の成長端側1fはちょうつがい1d側の反対側に位置し、この成長端側1fがちょうつがい1d側からその反対側に向かって成長することが前記したように知られている。
【0014】
この発明は、殻付き牡蠣1がちょうつがい1d側の反対側に向かって成長する性質を利用して、その成長端側1fをハート形にしようとするものである。ただ、ハート形に成長する殻付き牡蠣1は、その二枚の身殻1a及び蓋殻1bが全く同一の左右対称に成長することはないので、形成されるハート形も左右対称の完全なハート形にはならない。このため、この発明では形状については略ハート形という表現を用いる。
【0015】
左右対称の完全なハート形ではない略ハート形に形成される殻付き牡蠣1は、身殻1a又は蓋殻1b側の正面からみて、身殻1a及び蓋殻1bの成長端側1fの中央が後述の成形器と網の協動作業によって非成長状態に成形されて、そこはV字型窪み1gに形成されている。即ちV字型窪み1gは身殻1a及び蓋殻1bの双方に形成され、叉ちょうつがい1d側に向けて窪んでいる。このV字型窪み1gがハート形の上部側中央のV字型窪みに対応する。
【0016】
このV字型窪み1gを挟んで身殻1a及び蓋殻1bのそれぞれの成長端側1fの左右両側は、その後の養殖によって成長を続けて成長方向に向けて略丸みを帯びた凸型縁1hに形成されている。即ち略丸みを帯びた凸型縁1hは身殻1a及び蓋殻1bの双方に形成されている。凸型縁1hの「略丸み」を帯びたとの表現は、丸みの先端縁は多少の小さな凹凸があって滑らかでなく完全な丸みではないためである。この左右の凸型縁1hの部分がハート形の上部側中央のV字型窪みの左右の凸型円弧状に対応する。
【0017】
このようにして、殻付き牡蠣1は、成長端側1fの中央の非成長とその左右両側の成長を通じて、成長端側1fには中央のV字型窪み1gとその左右両側の略丸みを帯びた凸型縁1hの形状によって、殻外形が全体として略ハート形に形成されている。

【0018】
〔ハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具〕
次に、図面に記載の発明を実施するための形態に基づいて、ハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具について具体的に説明する。
【0019】
図2〜図4に示すように、ハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具は、前述の殻付き牡蠣1の成長端側1fの中央を非成長状態に維持してV字型窪み1gを成形する成形器3と、殻付き牡蠣1を前後から挟むように収納する収納網部6を複数備えた取付網具4とから構成されている。
【0020】
前記成形器3はその先端側31が牡蠣1の成長端側1fの中央のV字型切り欠き箇所に係合されるV字型断面に形成されている。成形器3は、金属製又はプラスチック製の方形状の基板32の中央をV字型に折曲したもの(図2参照)、或いは断面三角形の木製34(図3参照)が使用される。そして基板32を折曲したものにあってはV字型に折曲した部分或いは木製34にあっては三角形の頂点の一つが上記の成形器3の先端側31となる。
【0021】
図2に示す基板32の中央をV字型に折曲した成形器3にあっては、金属には例えばアルミニウム、ステンレスなどが使用される。成形器3としてこの金属製或いはプラスチック製のものを使用する場合には、ハート形をした殻付き牡蠣の製法に何回も再利用が可能となる。何れにしても金属製或いはプラスチック製の成形器3には、殻付き牡蠣1の成長端側1fの成長時に、成長力によって変形せずにその部分の成長を止めて非成長状態に維持できる強度が要求される。
【0022】
基板32の中央をV字型に折曲した成形器3は、予め方形状の基板32の4つの直角な角部が図示するように斜め32aに切断されていたり、図示しない丸みを帯びた形状に形成されていて、これの取り扱い時にこの角部で怪我しないように配慮されている。
【0023】
基板32の中央のV字型の角度としては、例えば90度のものが一般的であるが、70度〜100度でも可能である。ただ、折曲角度が鋭角状の小さな角度になるに従って、左右両側でそれぞれ成長している成長端側1f同士がこの成形器3を跨いで接近してくっついてしまうことがあり、また逆に折曲角度が鈍角状の大きな角度になるに従って、殻付き牡蠣1の中央のV字型窪み1gが綺麗なV字型にならなくなって、略ハート形の形状にならない。
【0024】
使用されるV字型の成形器3の傾斜側面32bの一辺の高さは例えば15mmものが使用されている。成形器3の傾斜側面32bの一辺の高さはこれを固定する取付網具4の後述する網目51,61の間隔などを考慮して決定される。即ち、網目51,61の間に入る高さに限定される。方形状の網目51,61の内部間隔は後述するように例えば20mm×20mmであり、成形器3はこの網目51,61の内部に挿通できる大きさになっている。また成形器3の長さは例えば50mmものが使用されているが、短すぎると網目51,61への取り付けが面倒となる。
【0025】
成形器3のV字型断面の先端側31の反対側となる後端から中間側に向かって網糸係止溝33が形成されている。網糸係止溝33はV字型に折曲された左右の傾斜側面32bの長さ方向の中央部分に、その長さ方向に対してその直交方向に向けてそれぞれ形成されている。左右の各網糸係止溝33の溝深さは溝の開口縁から例えば5mmである。また、成形器3を平面に対して左右対称なV字型に配置した場合に、左右の各網糸係止溝33の溝底同士を結ぶ直線がその平面に略平行になるように左右の各網糸係止溝33は形成されている。
【0026】
成形器3の長さ方向の中央部分に形成された網糸係止溝33には、使用時、殻付き牡蠣1の身殻1a及び蓋殻1bの表面を挟んで両側から保持する後述する前後の網目51,61の中の殻付き牡蠣1の成長端側1fに対応する箇所にくる前後の網目51,61の双方の網糸51a,61aの一部が挿入されてその溝底部分に係止される。このため、網糸係止溝33の溝幅は双方の網糸51a,61aが挿入係止できる程度の例えば1mmである。網糸51a,61aの直径がこれよりも大きい場合には溝幅もこれに合わせて幅広になる。
【0027】
成形器3の網糸係止溝33の溝底側には、その左右の溝幅方向に向けて斜め上向きの楔形に形成された底部側溝33aがそれぞれ形成されている。網糸係止溝33の溝底側に挿入係止された双方の網糸51a,61aは、この左右の底部側溝33aの先端側で係止されることで簡単に外れることがなくなる。
【0028】
さらに網糸係止溝33の溝底側にそれぞれ形成された左右の底部側溝33aの先端間の間隔は例えば4mm程度になっているので、殻付き牡蠣1の成長端側1fを前後から挟む各網目51,61の網糸51a,61aは身殻1a及び蓋殻1bの表面側に向かって4mm程度の間隔で前後に移動可能となる。この場合、4mm程度の間隔がこれより広すぎると、成形器3がずれやすくなって、形のよい略ハート形の殻付き牡蠣1の成形が困難となる。
【0029】
このため、殻付き牡蠣1の身殻1a及び蓋殻1bの成長端側1fはその4mm程度の間隔で開くことができるので、殻付き牡蠣1は成長端側1fが開いて海水に浮遊するプランクトン等の餌を確実に摂取して成長を続けることができる。これにより、餌の摂取不足に起因する成長端側1fの左右の凸型縁1hの成長不足を招くこともなく、成長端側1fの左右の凸型縁1hの略ハート形への成形を妨げることがない。
【0030】
図3に示す前記の木製34の成形器3にあっては、ハート形をした殻付き牡蠣の製法においてはその都度使い捨てとなる。木製は金属製或いはプラスチック製に比べて安価であり、海洋投棄しても環境汚染の問題もない。ただこの木製34の成形器3も、基板32を使用する成形器3と同じように、殻付き牡蠣1の成長端側1fの成長時に、成長力によって変形せずにその部分の成長を止めて非成長状態に維持できる強度が要求される。
【0031】
木製34の成形器3は、基板32の成形器3に比べて、角部34aで怪我する恐れは小さいので、角部34aを斜めに切断したり、丸みを帯びた形状に形成する必要性は低いが、角部34aを切断したり丸みを有するように処理してもよい。
【0032】
木製34の成形器3は先端側31を頂点とする例えば断面二等辺三角形の形状に形成され、そのV字型の先端側31の角度としては、基板32を折曲して使用する成形器3と同じように、例えば90度のものが一般的であるが、70度〜100度でも可能である。ただ、先端側31が鋭角状の小さな角度になるに従って、左右両側でそれぞれ成長している成長端側1f同士がこの成形器3を跨いで接近してくっついてしまうことがあり、また逆に先端側31が鈍角状の大きな角度になるに従って、殻付き牡蠣1の中央のV字型窪み1gが綺麗なV字型にならなくなって、略ハート形の形状にならない。
【0033】
木製34の成形器3の傾斜側面34bの一辺の高さは例えば15mmものが使用されている。成形器3の傾斜側面34bの一辺の高さはこれを固定する取付網具4の後述する網目51,61の間隔などを考慮して決定される。即ち、網目51,61の間に入る高さに限定される。方形状の網目51,61の内部間隔は後述するように例えば20mm×20mmであり、成形器3はこの網目51,61の内部に挿通できる大きさになっている。また成形器3の長さは例えば50mmものが使用されているが、短すぎると網目51,61への取り付けが面倒となる。
【0034】
木製34の成形器3のV字型断面の先端側31の反対側となる後端面34cから中間側に向かって網糸係止溝35が形成されている。網糸係止溝35は左右の傾斜側面34b及び後端面34cの長さ方向の中央部分に、その長さ方向に対してその直交方向に向けて形成されている。網糸係止溝35の溝深さは傾斜側面34bの溝の開口縁からその傾斜側面に沿って例えば5mmである。また、成形器3を平面に対して左右対称なV字型に配置した場合に、網糸係止溝35の溝底がその平面に略平行になるように形成されている。
【0035】
木製34の成形器3の長さ方向の中央部分に形成された網糸係止溝35には、使用時、殻付き牡蠣1の身殻1a及び蓋殻1bの表面を挟んで両側から保持する後述の前後の網目51,61の中の殻付き牡蠣1の成長端側1fに対応する箇所にくる前後の網目51,61の双方の網糸51a,61aの一部が挿入されてその溝底部分に係止される。このため、網糸係止溝35の溝幅は双方の網糸51a,61aが挿入係止できる程度の例えば1mmである。網糸51a,61aの直径がこれよりも大きい場合には溝幅もこれに合わせて幅広になる。
【0036】
木製34の成形器3の網糸係止溝35の溝底側には、その左右の溝幅方向に向けて斜め上向きの楔形に形成された底部側溝35aがそれぞれ形成されている。網糸係止溝35の溝底側に挿入係止された双方の網糸51a,61aは、この左右の底部側溝35aの先端側で係止されることで簡単に外れることがなくなる。
【0037】
さらに網糸係止溝35の溝底側にそれぞれ形成された底部側溝35aの先端間の間隔は例えば4mm程度になっているので、殻付き牡蠣1の成長端側1fを前後から挟む各網目51,61の網糸51a,61aは身殻1a及び蓋殻1bの表面側に向かって4mm程度の間隔で前後に移動可能となる。この場合、4mm程度の間隔がこれより広すぎると、成形器3がずれやすくなって、形のよい略ハート形の殻付き牡蠣1の成形が困難となる。
【0038】
このため、殻付き牡蠣1の身殻1a及び蓋殻1bの成長端側1fはその4mm程度の間隔で開くことができるので、殻付き牡蠣1は成長端側1fが開いて海水に浮遊するプランクトン等の餌を確実に摂取して成長を続けることができる。これにより、餌の摂取不足に起因する成長端側1fの左右の凸型縁1hの成長不足を招くこともなく、成長端側1fの左右の凸型縁1hの略ハート形への成形を妨げることがない。
【0039】
取付網具4は、殻付き牡蠣1を前後から挟んで保持及びちょうつがい1d側の先端側を固定し且つ成長端側1fの中央のV字型切り欠き箇所に挿入係止される成形器3を固定するために使用され、ハート形に形成する殻付き牡蠣1が取り付け保持される。取付網具4は図4に示すように殻付き牡蠣1を前後から挟むように収納する収納網部6を複数例えば8段備えている。
【0040】
取付網具4は、例えば長方形状の基網5の片側表面に収納網部6が上下方向に例えば8段設けられている。各収納網部6はその一辺例えば図4においては上辺が開く開放口62が形成されていて、この開放口62からその内部にハート形に形成する殻付き牡蠣1を収納して固定するようになっている。
【0041】
長方形状の基網5には網糸51aが例えば縦横に等間隔で組まれていて、縦横の網糸51aによって方形状の網目51が多数形成されている。方形状の各網目51の内部間隔は例えば20mm×20mmである。基網5の最上辺52は硬めの棒状で構成されていて、殻付き牡蠣1が多数取り付けられた基網5の最上辺52をロープなどにより海上から吊っても変形しないような強度になっている。なお、基網5を逆さまにして吊る場合には、最下辺53が硬めの棒状で構成される。
【0042】
横長の長方形状の各収納網部6の表面側には網糸61aが例えば縦横に等間隔で組まれていて、縦横の網糸61aによって方形状の網目61が多数形成されている。方形状の各網目61の内部間隔は上記の網目51と同様に例えば20mm×20mmである。
【0043】
各開放口62から収納網部6の内部にそれぞれ収納された各殻付き牡蠣1は、ちょうつがい1d側の先端側が基網5の網目51或いは収納網部6の網目61の一つに挿入されて固定される。また収納網部6の開放口62側の網糸61a及びこれに対応する箇所の基網5の網糸51aの双方が成形器3の網糸係止溝33又は網糸係止溝35に挿入係止されることで、収納網部6に収納された各殻付き牡蠣1の成長端側1fの中央のV字型切り欠き箇所に挿入係止される成形器3は取付網具4の各収納網部6の開放口62側に固定され、同時に収納網部6の開放口62は閉じられる。

【0044】
〔ハート形をした殻付き牡蠣の製法〕
続いて、図面に記載の発明を実施するための形態に基づいて、ハート形をした殻付き牡蠣の製法について具体的に説明する。
【0045】
牡蠣の収穫期の8ヶ月〜2ヶ月前に、養殖中の各牡蠣を漁場の海水中から引き上げて取り出す。このうち8ヶ月〜2ヶ月の範囲があるのは、地域の水温、潮位により変動があるからである。また、出荷の時期についても多少の変動があるからである。
【0046】
例えば、冬場の牡蠣のマガキの場合、7月頃に生まれた牡蠣の幼生を11月頃に購入して養殖を始める。牡蠣の幼生をホタテ貝の殻の表面に付着させて養殖を行う。
【0047】
そして翌年の10月頃から、養殖中の各牡蠣を漁場の海水中から引き上げて取り出し、ハート形をした殻付き牡蠣1を造るための作業を開始する。
【0048】
作業の開始時期としては、水温の変動がない安定した時期、つまり、水温の日変動が2度以内であることが必要である。水温の変動が安定しない場合には死滅したりして、ハート形をした殻付き牡蠣1が上手くできない。
【0049】
海水中から引き上げた殻付き牡蠣の表面は付着物がこびり付いているので、その前に例えばハンドクリーナーなどを使って除去する。
【0050】
殻付き牡蠣1の蓋殻1b側を表側にし、身殻1a側を裏側にして、殻付き牡蠣1のちょうつがい1dの反対側となる成長端側1fの中央をハサミで例えば5mm〜10mmの深さのV字型に切り欠く。成長端側1fの中央にはV字型切り欠き箇所11が形成される(図5(A)参照)。
【0051】
V字型切り欠き箇所11が形成した各殻付き牡蠣1を開放口62から収納網部6の内部にそれぞれ収納すると共に、各殻付き牡蠣1のちょうつがい1d側の先端部をその前後側の収納網部6の網目61又は基網5の網目51の何れかの網目の中に挿入係止して網目61又は網目51によって固定する(図5(B)参照)。
【0052】
収納網部6の内部にその先端部が固定された殻付き牡蠣1の中央のV字型切り欠き箇所11に、これに相対応するV字型の先端側31を有する成形器3を挿入係合する。成形器3は前記したように15mm程度の高さを有するため、成形器3の後端側はV字型切り欠き箇所11からはみ出る(図6(A)参照)。
【0053】
殻付き牡蠣1を挟んで保持する収納網部の開放口62側の網糸61a及びこれに対応する箇所の基網5の網糸51aの双方の一部を、成形器3に形成された網糸係止溝33内にそれぞれ係止する(図6(A)参照)。
【0054】
これで、収納網部6の開放口62側の網糸61a及びこれに対応する箇所の基網5の網糸51aの双方が成形器3の網糸係止溝33に挿入係止されることで、収納網部6に収納された各殻付き牡蠣1の成長端側1fの中央のV字型切り欠き箇所に挿入係止される成形器3は取付網具4の各収納網部6の開放口62側に固定される。また、開放口62は閉じられる。
【0055】
殻付き牡蠣1の成長端側1fの中央のV字型切り欠き箇所11を成形器3を介して取付網具4の前後の網目61,51の網糸61a,51aで固定した後に、再びに漁場に戻して収穫期までの2ヶ月〜8ヶ月の間、養殖を続ける。漁場の海水中に沈めて養殖を続ける場合、成形器3が係止された殻付き牡蠣1の成長端側1fを上向きにしてもよく、逆に下向きにしても良い。
【0056】
収穫期になると、漁場の海水中に沈めて養殖している殻付き牡蠣1を引き上げる。各殻付き牡蠣1は取付網具4の収納網部6の内部で成長するが、成長した各殻付き牡蠣1はちょうつがい1dの先端側と成長端側1fのV字型窪み1gに挿入係合された成形器3とは収納網部6の前後の網目61,51の網糸61a,51aで固定されて取り出すことが困難である。このため、前後の網目61,51の網糸61a,51aを切断して、成長した各殻付き牡蠣1は収納網部6の内部から取り出される(図6(B)参照)。
【0057】
この養殖中に、殻付き牡蠣1の成長端側1fの中央を成形器3により非成長状態に維持するので、V字型切り欠き箇所11は成長が阻害されてV字型窪み1gに成形される。これに対して、これを挟んでその両側は殻付き牡蠣1の成長方向に向けて成長を続けるので、略丸みを帯びた凸型縁1hに成長させることできる。
【0058】
その結果、殻付き牡蠣1の殻外形を全体として略ハート形に形成させることができるのである。
【0059】
なお、この発明は上記発明を実施するための形態に限定されるものではなく、この発明の精神を逸脱しない範囲で種々の改変をなし得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 殻付き牡蠣
1a 身殻
1b 蓋殻
1c 身
1d ちょうつがい
1e 貝柱
1f 成長端側
1g V字型窪み
1h 凸型縁
11 V字型切り欠き箇所
3 成形器
31 先端側
32 基板
32a 斜め
32b 傾斜側面
33 網糸係止溝
33a 底部側溝
34 木製
34a 角部
34b 傾斜側面
34c 後端面
35 網糸係止溝
35a 底部側溝
4 取付網具
5 基網
51 網目
51a 網糸
52 最上辺
53 最下辺
6 収納網部
61 網目
61a 網糸
62 開放口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殻付き牡蠣のちょうつがいの反対側となる殻付き牡蠣の成長端側の中央が非成長状態のV字型窪みに形成され、これを挟んでその両側が殻付き牡蠣の成長方向に向けて略丸みを帯びた凸型縁に形成され、殻付き牡蠣の殻外形が全体として略ハート形に形成されたことを特徴とするハート形をした殻付き牡蠣。
【請求項2】
牡蠣の収穫期の8ヶ月〜2ヶ月前に、養殖中の各牡蠣を漁場から取りだし、殻付き牡蠣のちょうつがいの反対側となる殻付き牡蠣の成長端側の中央をV字型に切り欠き、この中央のV字型切り欠き箇所が形成された殻付き牡蠣を取付網具の収納網部の内部に収納すると共に収納網部の前後の何れかの網目の中に殻付き牡蠣のちょうつがい側の先端部を挿入係止し、中央のV字型切り欠き箇所にこれに相対応するV字型先端側を有する成形器を挿入係合すると共に、殻付き牡蠣を挟んで保持する収納網部の前後の網目の双方の網糸の一部を成形器に形成された網糸係止溝内にそれぞれ係止して殻付き牡蠣の成長端側の中央のV字型切り欠き箇所を成形器を介して前後の網目で固定した後に、再びに漁場に戻して養殖を続け、その養殖中に、殻付き牡蠣の成長端側の中央を成形器により非成長状態に維持してV字型窪みに成形し、これを挟んでその両側を殻付き牡蠣の成長方向に向けて略丸みを帯びた凸型縁に成長させ、殻付き牡蠣の殻外形が全体として略ハート形に形成させることを特徴とするハート形をした殻付き牡蠣の製法。
【請求項3】
請求項2のハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具は、殻付き牡蠣の成長端側の中央を非成長状態に維持してV字型窪みに成形する成形器と、殻付き牡蠣を前後から挟むように収納する収納網部を複数備えた取付網具とからなり、前記成形器はその先端側が牡蠣の成長端側の中央のV字型切り欠き箇所に係合されるV字型断面に形成され、V字型断面の先端側の反対側の後端から中間側に向かって取付網具の前後の網目の双方の網糸の一部を係止する網糸係止溝が形成され、前記取付網具は基網の片側表面に開放口を有する複数の収納網部が上下に設けられ、ちょうつがい側の先端側を固定し且つ成長端側の中央のV字型切り欠き箇所に挿入係止される成形器を固定する前記網目が基網及び収納網部に多数設けられていることを特徴とするハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具。
【請求項4】
成形器の網糸係止溝の溝底側には、その左右の溝幅方向に向けて斜め上向きに形成された底部側溝がそれぞれ形成されている請求項3記載のハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具。
【請求項5】
成形器は、金属製又はプラスチック製の基板の中央をV字型に折曲したその先端側が牡蠣の成長端側の中央のV字型切り欠き箇所に係合されるV字型断面に形成されている請求項3記載のハート形をした殻付き牡蠣の製法に使用する成形器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152179(P2012−152179A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15828(P2011−15828)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(503111274)佐世保市相浦漁業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】