説明

ハードコートフィルム又はシート

【課題】、耐擦傷性、透明性を有しながら、形状復元性及び低カール性にも優れたハードコートフィルム又はシートを提供する。
【解決手段】透明基材上に、個数平均粒子径が500〜3000nmの架橋樹脂ビーズが、光硬化性樹脂の硬化物であるマトリックスに分散した、厚さ5〜15μmのハードコート層を積層してなり、当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと、当該マトリックスの屈折率nの差|n−n|が0.1以下であり、当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと中心部の屈折率nとが、n<nの関係式を満たし、当該架橋樹脂ビーズの屈折率が、最表面から中心部に向かって連続的又は段階的に高くなることを特徴とする、ハードコートフィルム又はシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ、例えば、液晶ディスプレイ、陰極管表示装置、プロジェクションディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表面を保護する目的等で使用される、透明基材上にハードコート層を設けたハードコートフィルム又はシートに関するものであり、特に、耐擦傷性、形状復元性、低カール性を有しながら、透明性にも優れたハードコートフィルム又はシートに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)又は陰極管表示装置(CRT)等の画像表示装置における画像表示面は、取り扱い時に傷がつかないように、耐擦傷性を付与することが要求される。これに対して、基材フィルム又はシートにハードコート層を形成させた光学積層体(以下、ハードコートフィルム又はシートと呼称する。)を利用することにより、画像表示装置の画像表示面の耐擦傷性を向上させることが一般になされている。
【0003】
ハードコート層は、例えば、多官能(メタ)アクリレートプレポリマーや、多官能(メタ)アクリレートモノマーを単独で或いはこれらの中から2種以上を選択して組み合わせて配合した電離放射線硬化性樹脂を用いた塗膜として形成することができる。
更に、ハードコート層の耐擦傷性の向上、外部応力に対する形状復元性の向上、カール抑制等の点から、シリカ微粒子等の無機フィラーや、架橋アクリル樹脂ビーズ等の有機フィラーを分散させた樹脂組成物を硬化させてハードコート層を形成することができ、特に、形状復元性や、低カール性の点からは有機フィラーを好ましく用いることができる。
有機フィラーの粒子径は大きいほうが、ハードコート層に弾力性を持たせることができ、形状復元性及び低カール性に優れるため望ましいが、粒子径の大きな粒子をバインダ樹脂中に分散させると、ハードコートフィルム又はシートに入射する光が当該粒子によって光散乱が生じ、ヘイズ値が上昇し、透明性が損なわれるという問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、透明プラスチックフィルムもしくはシート基材の少なくとも一方の面に硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルムもしくはシートであって、該基材上に第1ハードコート層として無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子を含有する硬化樹脂を設けた後、さらに第2のハードコート層として無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子を含有しないクリア硬化樹脂の薄膜を設けてなる硬化樹脂被膜層であることを特徴とするハードコートフィルムもしくはシートが開示されている。このようなハードコートフィルム又はシートは、内部架橋微粒子の配合による硬化収縮緩和機能を有するハードコート層をフィルム若しくはシート基材とクリア硬化樹脂からなるハードコート層間に設け、層構成が2層のハードコート膜とすることによって、ハードコート/基材間の密着、フィルム折り曲げ時のクラック、フィルムのカール等を低減することを可能にするが、透明性に関する記載はない。
【0005】
また、特許文献2には、(1)屈折率分布を持つ微粒子と透明樹脂とを含有してなり、前記微粒子が中央部と粒子表層部とからなる微粒子であり、表面の屈折率をns、中央部の屈折率をncとすると、nc>nsであり、表面から中央部に向かって屈折率が連続的又は段階的に増加している透明な微粒子である高屈折率樹脂組成物、(2)透明樹脂の屈折率をnMとするとき、nc−ns>0.3かつ|ns−nM|<0.1であり、微粒子の粒径が0.1〜100nmである高屈折率樹脂組成物、(3)前記(1)又は(2)の高屈折率樹脂組成物を成形してなる光学部品が開示されている。
このような高屈折率樹脂組成物をハードコート層形成用材料として用いたハードコートフィルム又はシートは、透明性に優れているが、微粒子の粒径が小さいために形状復元性及び低カール性が不十分である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−52472号公報
【特許文献2】特開2005−213410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情に鑑み、本発明は、耐擦傷性、透明性を有しながら、形状復元性及び低カール性にも優れたハードコートフィルム又はシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、透明基材上に、屈折率が粒子の最表面から中心部に向かって高くなる、特定の粒子径の架橋樹脂ビーズと、当該架橋樹脂ビーズとほぼ同じ屈折率のバインダ樹脂とを含む、特定の厚さのハードコート層が積層されてなるハードコートフィルムが、耐擦傷性、形状復元性及び低カール性を有しながら、透明性にも優れているという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係るハードコートフィルム又はシートは、透明基材上に、個数平均粒子径が500〜3000nmの架橋樹脂ビーズが、光硬化性樹脂の硬化物であるマトリックスに分散した、厚さ5〜15μmのハードコート層を積層してなり、当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと、当該マトリックスの屈折率nの差|n−n|が0.1以下であり、当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと中心部の屈折率nとが、n<nの関係式を満たし、当該架橋樹脂ビーズの屈折率が、最表面から中心部に向かって連続的又は段階的に高くなることを特徴とする。
【0009】
上記本発明のハードコートフィルム又はシートは、従来のハードコート層に含まれる微粒子よりも上記架橋樹脂ビーズの粒子径が大きいこと、及び架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率とバインダ樹脂の屈折率とがほぼ同じであることから、耐擦傷性、形状復元性、低カール性を有しながら、高い透明性を有する。
また、屈折率が最表面から内側に向かって高くなるような架橋樹脂ビーズは、全体が均一の屈折率を有する架橋樹脂ビーズに比べて、ハードコートフィルム又はシートのヘイズ値が低下し、透過率が向上する。
【0010】
本発明のハードコートフィルム又はシートは、前記架橋樹脂ビーズの中心部の屈折率nと、前記マトリックスの屈折率nの差n−nが0.5以上であることが、ハードコートフィルム又はシートの透明性を特に向上させることができる点から好ましい。
【0011】
本発明のハードコートフィルム又はシートの一例として、前記架橋樹脂ビーズの中心部の主成分がポリスチレンであり、前記架橋樹脂ビーズの最表面及び前記マトリックスの主成分が(メタ)アクリル系樹脂であるハードコートフィルム又はシートが挙げられる。これらの材料を用いたハードコートフィルム又はシートは、架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率n及び中心部の屈折率n、並びにバインダ樹脂の屈折率nの関係が、上記範囲内であり、特に透明性、耐擦傷性に優れるため好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハードコートフィルム又はシートは、従来のハードコート層に含まれる微粒子よりも上記架橋樹脂ビーズの粒子径が大きいこと、及び架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率とバインダ樹脂の屈折率とがほぼ同じであることから、耐擦傷性、形状復元性、低カール性を有しながら、高い透明性を有する。また、屈折率が最表面から内側に向かって高くなるような架橋樹脂ビーズは、全体が均一の屈折率を有する架橋樹脂ビーズに比べて、ハードコートフィルム又はシートのヘイズ値が低下し、透過率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のハードコートフィルム又はシートは、透明基材上に、個数平均粒子径が500〜3000nmの架橋樹脂ビーズが、光硬化性樹脂の硬化物であるマトリックスに分散した、厚さ5〜15μmのハードコート層を積層してなり、当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと、当該マトリックスの屈折率nの差|n−n|が0.1以下であり、当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと中心部の屈折率nとが、n<nの関係式を満たし、当該架橋樹脂ビーズの屈折率が、最表面から中心部に向かって連続的又は段階的に高くなることを特徴とする。
【0014】
以下、本発明のハードコートフィルム又はシートを構成する各層、及び当該各層の構成材料について説明する。
<透明基材>
本発明に用いる透明基材は、光透過性樹脂基材(フィルム又はシート)である。光透過性樹脂基材は、薄さ、軽さ、割れにくさ、フレキシブル性等の点で優れている。
光透過性樹脂基材は、光を透過するものであれば、透明、半透明、無色または有色を問わないが、可視光域380〜780nmにおける平均光透過率が50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは85%以上である場合が好ましい。なお、光透過率の測定は、紫外可視分光光度計(例えば、(株)島津製作所製 UV−3100PC)を用い、室温、大気中で測定した値を用いる。
【0015】
光透過性樹脂基材の具体例としては、トリアセテートセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、アセテートプロピオネートセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン、ポリエーテルサルホン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、トリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等により形成したフィルム又はシート等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、ハードコートフィルム又はシートが用いられる態様によって、光透過性樹脂基材を選択することが好ましい。例えば、目的とするハードコートフィルムに光学的等方性が要求される場合は、透明基材として、トリアセテートセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、アセテートプロピオネートセルロース、アセテートブチレートセルロース等のようなセルロースエステル、ポリノルボルネン系透明樹脂の製品名アートン(JSR(株)製)やゼオノア(日本ゼオン(株)製)等のような環状ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂による易接着処理がされたPET等が用いられることが好ましい。中でも、液晶ディスプレイ用途に用いる場合には、トリアセテートセルロース(TAC)、環状ポリオレフィンが好ましく挙げられる。
【0017】
また、本発明においては、透明基材に表面処理(例、鹸化処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線(UV)処理、火炎処理)を実施してもよく、プライマー層(接着剤層)を形成してもよい。本発明における透明基材は、これらの表面処理及びプライマー層も含めたものをいう。
【0018】
透明基材の厚さは、通常、30μm〜200μm程度であり、好ましくは40μm〜200μmである。
【0019】
<ハードコート層>
「ハードコート層」とは、一般にJIS5600−5−4(1999)で規定される鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示すものをいう
【0020】
本発明のハードコート層の厚みは5〜15μmであり、好ましくは8〜13μmである。ハードコート層の厚さが5μm未満の場合、ハードコート層の耐擦傷性が不十分であり、一方、15μmを超える場合は、カールや熱しわが発生しやすくなる。
【0021】
本発明におけるハードコート層は、特定の架橋樹脂ビーズ及びマトリックスからなる。以下、架橋樹脂ビーズ及びマトリックスについて詳述する。
[架橋樹脂ビーズ]
本発明で用いられる架橋樹脂ビーズは、内部に架橋結合が形成された樹脂微粒子である。粒子内部に適度な架橋構造を有する樹脂ビーズは、硬質であるため、ハードコート層の内部において光硬化性樹脂やモノマー、溶剤等による膨潤が少なく、形状が安定している。架橋樹脂ビーズは、ハードコート層中において、後述のマトリックスの主成分である光硬化性樹脂の硬化物のみでは不十分な弾力性を補うことにより、ハードコートフィルム又はシートの硬度を向上させる。
【0022】
架橋樹脂ビーズの形状は特に限定されるものではないが、屈折率傾斜構造を有する架橋樹脂ビーズを製造するのが容易であり、入手しやすい点から、球形又はこれに近いものが好ましい。球形でないものを用いる場合は、長径/短径が3以内のものを用いることが好ましい。
【0023】
本発明に用いられる架橋樹脂ビーズは、個数平均粒子径が500〜3000nm、好ましくは500〜2000nmである。上記架橋樹脂ビーズは従来のハードコート層に含まれる微粒子よりも個数平均粒子径が大きいため、形状復元性、低カール性が向上する。
個数平均粒子径が500nm未満の場合、従来のハードコート層に含まれる微粒子と同程度であるため、透明性は十分であるが、形状復元性や低カール性が不十分であるおそれがある。一方、個数平均粒子径が3000nmを超える場合、架橋樹脂ビーズ及びマトリックスの屈折率を本発明の範囲内に調整しても外光の散乱が大きくなりすぎるため、ヘイズ値が上昇し、透明性が不十分であるおそれがある。
【0024】
尚、本発明において個数平均粒子径とは、一次粒子を電子顕微鏡にて撮影を行い、所定数の粒子の直径を測定し、平均して得られる値である。一次粒子が球形でない場合は、一次粒子の長径と短径の和の1/2を直径とする。
【0025】
本発明に用いられる架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと、後述のマトリックスの屈折率nの差|n−n|は0.1以下であり、好ましくは0.03以下である。架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率とマトリックスの屈折率とがほぼ同じであることから、当該樹脂ビーズとマトリックスの界面において外光の散乱が起こり難く、当該樹脂ビーズの個数平均粒子径を従来よりも大きくしてもヘイズの低下が生じにくく、高い透明性が確保される。
【0026】
更に、当該架橋樹脂ビーズは、当該最表面の屈折率nと中心部の屈折率nとが、n<nの関係式を満たし、当該架橋樹脂ビーズの屈折率が、最表面から中心部に向かって連続的又は段階的に高くなる。このような屈折率傾斜構造を有する架橋樹脂ビーズをハードコート層に分散させると、全体が均一の屈折率を有する架橋樹脂ビーズに比べて、ハードコートフィルム又はシートのヘイズ値が低下し、透明性が向上する。
【0027】
本発明に用いられる架橋樹脂ビーズは、最表面から中心部に向かって高くなるが、屈折率の変化の境界が明確で、屈折率が段階的に変化する構造よりも、屈折率の変化の明確な境界がなく、連続的に屈折率が変化する構造のほうが、架橋樹脂ビーズ内部で外光による光散乱が生じにくいため好ましい。
【0028】
本発明のハードコートフィルム又はシートは、前記架橋樹脂ビーズの中心部の屈折率nと、前記マトリックスの屈折率nの差n−nが0.5以上であることが、ハードコートフィルム又はシートの透明性を特に向上させることができる点から好ましい。
【0029】
なお、本発明における架橋樹脂ビーズ、及びマトリックスの屈折率は、例えば以下の方法によって測定することができる。
架橋樹脂ビーズについては各原材料の屈折率の相加平均、マトリックス層についてはアッベの屈折計による直接測定や分光光度計を用いた反射率データを元に光学シミュレーションを行い、算出する事ができる。
【0030】
本発明に用いられる架橋樹脂ビーズとしては、個数平均粒子径、並びに架橋樹脂ビーズ、及びマトリックスの屈折率が上記本発明に係る関係を満たすものであり、マトリックス中で良好な透明性を保持するものであれば、任意の架橋樹脂ビーズを使用することができる。
このような架橋樹脂ビーズの構成材料としては、例えば、粒子内部架橋タイプのスチレン系樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、アクリル系樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、スチレン−イソプレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、及び上記の樹脂等を主成分とするミクロゲル等の中から、2種類以上を選択して用いることができる。
【0031】
中でも、架橋樹脂ビーズの中心部の主成分が、ポリスチレン(n=1.59−1.60)、ポリメチルスチレン(n=1.56−1.58)、アクリルニトリル−スチレン共重合体(n=1.57)、及びこれらの混合物等であり、前記マトリックスの主成分としてビーズの最表面の主成分及びマトリックスの主成分として、粒子化しやすいポリメタクリル酸メチル(n=1.49−1.50)を中心にその前後の屈折率を持った(メタ)アクリル樹脂である場合、架橋樹脂ビーズ及びバインダ樹脂の屈折率を本発明の範囲内に調整することができ、特に透明性、耐擦傷性に優れるため好ましい。
このような架橋樹脂ビーズの市販品として、例えば、日本ペイント社製、商品名「MG−251」等を好適に用いることができる。
【0032】
架橋樹脂ビーズは、マトリックス100重量部に対して5〜30重量部、更に10〜15重量部含有することが、透明性、低カールの点から好ましい。
【0033】
[マトリックス]
本発明において、マトリックスは、光硬化性樹脂の硬化物からなり、ハードコート層に対して主に耐擦傷性を付与する働きを有する。
また、本発明において、光には可視及び非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。
【0034】
光硬化性樹脂には、光重合性官能基を有するバインダ樹脂、及び必要に応じて重合開始剤、その他添加剤が含まれる。光硬化性樹脂は、加工速度の早さ、支持体への熱のダメージの少なさの点において優れている。
本発明において、マトリックスは主に光硬化性樹脂の硬化物からなるが、当該光硬化性樹脂に含まれる、光硬化工程において未反応の化合物や、残留溶剤等を含有するものである。また、非架橋型重合性高分子、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の、他の樹脂を含有していてもよい。
【0035】
光重合性官能基は、可視光又は紫外線や電子線等の電離放射線を含む不可視光により重合反応し、バインダ樹脂の分子間に架橋結合を形成し得る官能基であり、光照射により直接活性化して光重合反応する狭義の光重合性官能基であってもよいし、光重合性官能基と光重合開始剤を共存させて光照射した時に光重合開始剤から発生した活性種の作用により重合反応が開始、促進される広義の光重合性官能基であってもよい。
光重合性官能基としては、例えば、エチレン性二重結合のような光ラジカル重合反応性を有するものや、エポキシ基等の環状エーテル基のような光カチオン重合及び光アニオン重合反応性の有するものを例示することができ、その中でもエチレン性二重結合が好ましい。エチレン性二重結合は、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のいずれでもよく、中でも(メタ)アクリロイル基が好ましい。充分な架橋性を得るためには、バインダ樹脂は一分子中に少なくとも2つの光重合性官能基を有することが好ましい。
なお、本明細書中において、(メタ)アクリロイルはアクリロイル及びメタクリロイルを表し、(メタ)アクリレートはアクリレート及びメタクリレートを表し、(メタ)アクリルはアクリル及びメタクリルを表し、(メタ)アクリル系樹脂はアクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂を表す。
【0036】
光重合性官能基を有するバインダ樹脂としては、光重合性官能基を有すれば、骨格は特に限定されることはないが、(メタ)アクリル系樹脂、末端や側鎖にエチレン性二重結合基を有する反応性ポリマーであることが好ましい。
本発明におけるハードコート層に含まれる(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂の骨格を含んでいる樹脂であれば特に限定されるものではない。また、ハードコート層は上記(メタ)アクリル系樹脂を一種類又は二種類以上を含んでいてもよい。
【0037】
(メタ)アクリル系樹脂として、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、及び下記一般式(I)で表される重合体等の一種又は二種以上が重合した重合体が挙げられるが、中でもウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートの一種又は二種以上が重合した重合体が、その他成分との相溶性の点から好適に用いられる。
【0038】
【化1】

【0039】
(一般式(I)中、Lは炭素数1〜10の連結基を表し、nは0又は1を表す。Rは水素原子又はメチル基を表す。Aは任意のビニルモノマーの重合単位を表し、単一成分であっても複数の成分で構成されていてもよい。x、yは各重合単位のモル%である。yは0であっても良い。)
【0040】
Lは炭素数1〜10の連結基を表し、より好ましくは炭素数1〜6の連結基であり、特に好ましくは2〜4の連結基であり、直鎖であっても分岐構造を有していてもよく、環構造を有していてもよく、O、N、Sから選ばれるヘテロ原子を有していても良い。
連結基Lの好ましい例としては、*−(CH−O−**,*−(CH−NH−**、*−(CH−O−**、*−(CH−O−**、*−(CH−O−(CH−O−**、*−CONH−(CH−O−**、*−CHCH(OH)CH−O−**、*−CHCHOCONH(CH−O−**等が挙げられる。ここで、*は、ポリマー主鎖側の連結部位を表し、**は、(メタ)アクリロイル基側の連結部位を表す。
【0041】
一般式(I)中、Rは水素原子またはメチル基を表すが、硬化反応性の観点から、より好ましくは水素原子である。
一般式(I)においてxは100モル%、すなわち単独の重合体であっても良い。また、xが100モル%であっても、xモル%で表された(メタ)アクリロイル基を含有する重合単位が2種以上混合して用いられた共重合体であってもよい。xとyの比は、特に制限はなく、硬度や、溶剤への溶解性、透明性等種々の観点から適宜選択することができる。
【0042】
一般式(I)中、Aは任意のビニルモノマーの重合単位を表し、特に制限はなく、硬度や、溶剤への溶解性、透明性等種々の観点から適宜選択することができ、目的に応じて単一あるいは複数のビニルモノマーによって構成されていても良い。
【0043】
例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、アリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタアクリレート、アリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリレート類、スチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン等のスチレン誘導体、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸およびその誘導体等を挙げることができる。
【0044】
また、末端や側鎖にエチレン性二重結合基を有する反応性ポリマーとしては、骨格成分がポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(アクリロニトリル/スチレン)、ポリ((メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル/(メタ)アクリル酸メチル)、ポリ((メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル/(メタ)アクリル酸ブチル)、及び、これらの樹脂とシリコーン樹脂との共重合体等が挙げられる。
【0045】
上記(メタ)アクリル系樹脂は、3つ以上の重合性官能基を有する反応性モノマー、特に、末端や側鎖に当該官能基を有するモノマーを重合開始剤の存在下において、光照射により重合したポリマーであることが、ハードコート層の耐擦傷性の点から好ましい。
【0046】
ハードコート層には、上記バインダ樹脂の重合体のほかに、他の樹脂の重合体を含有していてもよい。例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエーテル樹脂からなる群から選択される一種または二種以上の樹脂を含むことができる。
ハードコート層が上記他の樹脂を含む場合、(メタ)アクリル系樹脂と他の樹脂の配合比(重量比)は10:0〜1:9、更に9:1〜6:4であることが好ましい。
【0047】
[その他の添加剤]
本発明においてハードコート層は、更に帯電防止性及び/又は防眩性を付与する場合には、帯電防止剤及び/又は防眩剤を含んでいてもよい。また、反応性又は非反応性レベリング剤、各種増感剤、開始剤等を混合しても良い。
【0048】
(帯電防止剤(導電剤))
帯電防止層を形成する帯電防止剤の具体例としては、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1〜第3アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性化合物、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基などのアニオン性基を有するアニオン性化合物、アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系などの両性化合物、アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系などのノニオン性化合物、スズ及びチタンのアルコキシドのような有機金属化合物及びそれらのアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等が挙げられ、さらに上記に列記した化合物を高分子量化した化合物が挙げられる。また、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、または金属キレート部を有し、且つ、電離放射線により重合可能なモノマーまたはオリゴマー、或いは電離放射線により重合可能な重合可能な官能基を有するカップリング剤のような有機金属化合物等の重合性化合物もまた帯電防止剤として使用できる。
【0049】
また、導電性超微粒子が挙げられる。導電性微粒子の具体例としては、金属酸化物からなるものを挙げることができる。そのような金属酸化物としては、ZnO(屈折率1.90、以下、カッコ内の数値は屈折率を表す。)、CeO(1.95)、Sb(1.71)、SnO(1.997)、ITOと略して呼ばれることの多い酸化インジウム錫(1.95)、In(2.00)、Al(1.63)、アンチモンドープ酸化錫(略称;ATO、2.0)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(略称;AZO、2.0)等を挙げることができる。微粒子とは、1ミクロン以下の、いわゆるサブミクロンの大きさのものを指し、好ましくは、平均粒子径が0.1nm〜0.1μmのものである。
帯電防止剤は、上記樹脂の合計量100重量部に対し、1〜30重量部、好ましくは3〜15重量部含有させることができる。
【0050】
(防眩剤)
防眩剤としては、後記する防眩層の項で説明する防眩剤と同様のものを、上記樹脂の合計量100重量部に対し、20〜30重量部、好ましくは10〜25重量部含有させることができる。
【0051】
<その他の層>
本発明によるハードコートフィルム又はシートは、上記したように透明基材とハードコート層とにより基本的には構成されてなる。しかしながら、用途を加味してハードコート層の上に、下記する一又は二以上の層を形成してもよい。また更に、中屈折率層や高屈折率層を含んで形成しても良い。
【0052】
(A)帯電防止層
帯電防止層は、帯電防止剤と樹脂とを含んでなるものである。帯電防止剤はハードコート層で説明したのと同様であって良い。帯電防止層の厚さは、30nm〜1μm程度であることが好ましい。
【0053】
帯電防止層に含まれる樹脂の具体例としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、もしくは光硬化性樹脂もしくは光硬化性化合物(有機反応性ケイ素化合物を含む)を使用することができる。樹脂としては、熱可塑性の樹脂も使用できるが、熱硬化性樹脂を使用することがより好ましく、より好ましくは、光硬化性樹脂または光硬化性化合物を含む光硬化性組成物である。
光硬化性組成物としては、分子中に重合性不飽和結合または、エポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー、及び/又はモノマーを適宜に混合したものである。
光硬化性組成物中のプレポリマー、オリゴマー、及びモノマーの例としては、前記ハードコート層で挙げたのと同様のものを用いることができる。
【0054】
通常、光硬化性組成物中のモノマーとしては、必要に応じて、1種若しくは2種以上を混合して用いるが、光硬化性組成物に通常の塗布適性を与えるために、前記のプレポリマー又はオリゴマーを5重量%以上、前記モノマー及び/又はポリチオール化合物を95重量%以下とするのが好ましい。
【0055】
(B)防眩層
防眩層は、透過性基材とハードコート層または低屈折率層との間に形成されてよい。防眩層は樹脂と防眩剤とにより形成されてよく、樹脂としては、ハードコート層の項で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0056】
本発明の好ましい態様によれば、防眩層は微粒子の平均粒子径をR(μm)とし、防眩層の凹凸の凸部分の鉛直方向での基材面からの最大値をHmax(μm)とし、防眩層の凹凸平均間隔をSm(μm)とし、凹凸部の平均傾斜角をθaとした場合に、下記式:
8R≦Sm≦30R
R<Hmax<3R
1.3≦θa≦2.5
1≦R≦8
全てを同時に満たすものが好ましい。
【0057】
また、本発明の別の好ましい様態によれば、微粒子と透明樹脂組成物の屈折率をそれぞれ、n1、n2とした場合に、Δn=│n1−n2│<0.1を満たすものであり、且つ、防眩層内部のヘイズ値が55%以下である防眩層が好ましい。
【0058】
防眩剤としては微粒子が挙げられ、微粒子の形状は、真球状、楕円状などのものであってよく、好ましくは真球状のものが挙げられる。また、微粒子は無機系、有機系のものが挙げられるが、好ましくは有機系材料により形成されてなるものが好ましい。微粒子は、防眩性を発揮するものであり、好ましくは透明性のものがよい。微粒子の具体例としては、プラスチックビーズが挙げられ、より好ましくは、透明性を有するものが挙げられる。プラスチックビーズの具体例としては、スチレンビーズ(屈折率1.59)、メラミンビーズ(屈折率1.57)、アクリルビーズ(屈折率1.49)、アクリル−スチレンビーズ(屈折率1.54)、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズなどが挙げられる。微粒子の添加量は、透明樹脂組成物100重量部に対し、2〜30重量部、好ましくは10〜25重量部程度である。
【0059】
防眩層の膜厚(硬化時)は0.1〜100μm、好ましくは0.8〜20μmの範囲にあることが好ましい。膜厚がこの範囲にあることにより、防眩層としての機能を十分に発揮することができる。
【0060】
(C)低屈折率層
低屈折率層は、シリカ、もしくはフッ化マグネシウムを含有する樹脂、低屈折率樹脂であるフッ素系樹脂、シリカ、もしくはフッ化マグネシウムを含有するフッ素系樹脂から構成され、屈折率が1.46以下の、やはり30nm〜1μm程度の薄膜、または、シリカ、もしくはフッ化マグネシウムの化学蒸着法もしくは物理蒸着法による薄膜で構成することができる。フッ素樹脂以外の樹脂については、帯電防止層を構成するのに用いる樹脂と同様である。
【0061】
低屈折率層は、より好ましくは、シリコーン含有フッ化ビニリデン共重合体で構成することができる。このシリコーン含有フッ化ビニリデン共重合体は、具体的には、フッ化ビニリデンが30〜90%、ヘキサフルオロプロピレンが5〜50%(以降も含め、百分率は、いずれも質量基準)を含有するモノマー組成物を原料とした共重合により得られるもので、フッ素含有割合が60〜70%であるフッ素含有共重合体100部と、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物80〜150部とからなる樹脂組成物であり、この樹脂組成物を用いて、膜厚200nm以下の薄膜であって、且つ耐擦傷性が付与された屈折率1.60未満(好ましくは1.46以下)の低屈折率層を形成する。
【0062】
このほか、低屈折率層は、SiOからなる薄膜で構成することもでき、蒸着法、スパッタリング法、もしくはプラズマCVD法等により、またはSiOゾルを含むゾル液からSiOゲル膜を形成する方法によって形成されたものであってもよい。なお、低屈折率層は、SiO以外にも、MgFの薄膜や、その他の素材でも構成し得るが、下層に対する密着性が高い点で、SiO薄膜を使用することが好ましい。
【0063】
本発明の低屈折率層の好ましい態様によれば、「空隙を有する微粒子」を利用することが好ましい。
「空隙を有する微粒子」は低屈折率層の層強度を保持しつつ、その屈折率を下げることを可能とする。「空隙を有する微粒子」とは、微粒子の内部に気体が充填された構造及び/又は気体を含む多孔質構造体を形成し、微粒子本来の屈折率に比べて微粒子中の気体の占有率に反比例して屈折率が低下する微粒子を意味する。また、本発明にあっては、微粒子の形態、構造、凝集状態、塗膜内部での微粒子の分散状態により、内部、及び/又は表面の少なくとも一部にナノポーラス構造の形成が可能な微粒子も含まれる。
【0064】
「空隙を有する微粒子」の平均粒子径は、5nm以上300nm以下であり、好ましくは下限が8nm以上であり上限が100nm以下であり、より好ましくは下限が10nm以上であり上限が80nm以下である。微粒子の平均粒子径がこの範囲内にあることにより、低屈折率層に優れた透明性を付与することが可能となる。
【0065】
(D)防汚層
本発明の好ましい態様によれば、低屈折率層の最表面の汚れ防止を目的として防汚層を設けてもよく、好ましくは低屈折率層が形成された基材フィルムの一方の面と反対の面側に防汚層が設けられてなるものが好ましい。防汚層は、ハードコートフィルム又はシートに対して防汚性と耐擦傷性のさらなる改善を図ることが可能となる。
【0066】
防汚剤の具体例としては、分子中にフッ素原子を有する光硬化性樹脂組成物への相溶性が低く、低屈折率層中に添加することが困難とされるフッ素系化合物および/またはケイ素系化合物、分子中にフッ素原子を有する光硬化性樹脂組成物および微粒子に対して相溶性を有するフッ素系化合物および/またはケイ系化合物が挙げられる。
【0067】
<用途>
本発明に係るハードコートフィルム又はシートは、透過型表示装置の前面に配置されて使用される。特に、テレビジョン、コンピュータ、ワードプロセッサなどのディスプレイ表示に使用される。とりわけ、CRT、液晶パネル、プラズマディスプレイなどのディスプレイの表面に用いられる。
【0068】
以下、本発明のハードコートフィルム又はシートの製造方法について説明する。
まず、上述のハードコート層の説明において挙げた透明基材を準備する。
次に、ハードコート層形成用樹脂組成物を準備する。具体的には、上述の架橋樹脂ビーズ及び光硬化性樹脂を、固形成分を分散させることが可能な溶剤(例えば、メチルエチルケトン等)に対して添加し、ペイントシェーカー、ディスパーミキサー、サンドミル等の公知の機械的強制分散方法によって十分に撹拌して、ハードコート層形成用樹脂組成物を得る。光硬化性樹脂及び架橋樹脂ビーズは、溶剤に対して固形分比が20重量%になるように調製する。
【0069】
上記光硬化性樹脂が、紫外線硬化性樹脂を含有する場合は、ハードコート層形成用樹脂組成物には、上記重合性官能基の反応を開始又は促進させるために、必要に応じて重合開始剤を適宜選択して含有させることができる。
重合開始剤は、光照射及び/又は加熱により重合を開始させる物質を放出することが可能であれば良い。例えば、光ラジカル重合開始剤としては、イミダゾール誘導体、ビスイミダゾール誘導体、N−アリールグリシン誘導体、有機アジド化合物、チタノセン類、アルミナート錯体、有機過酸化物、N−アルコキシピリジニウム塩、チオキサントン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
次に、得られたハードコート層形成用樹脂組成物を透明基材上に塗布、乾燥する。
塗布方法は、基材フィルム表面にハードコート層形成用樹脂組成物を均一に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ピードコーター法等の各種方法を用いることができる。
基材フィルム上への塗布量としては、得られるハードコートフィルム又はシートが要求される性能により異なるものであるが、硬化後の膜厚が5〜15μm、好ましくは8〜13μmとなるように塗布する。
【0071】
乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥又は加熱乾燥、更にはこれらの乾燥を組み合わせる方法等が挙げられる。例えば、溶媒としてケトン系溶剤を用いる場合は、通常室温〜80℃、好ましくは40℃〜60℃の範囲内の温度で、20秒〜3分、好ましくは30秒〜1分程度の時間で乾燥工程が行われる。
【0072】
次に、塗布、乾燥させたハードコート層に対し、光を照射してハードコート層を硬化させることにより、本発明のハードコートフィルム又はシートが得られる。
光照射には、主に、紫外線、可視光、電子線、電離放射線等が使用される。紫外線硬化の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等を使用する。電子線硬化の場合には、100keV〜300keVのエネルギーを有する電子線等を使用する。また、室温(25℃)で24時間以上放置することにより重合を行っても良い。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
【0074】
実施例において行った評価方法は以下のとおりである。
(1)架橋樹脂ビーズの個数平均粒子径
電子顕微鏡にて撮影を行い、所定数の粒子の直径を測定し、平均して平均粒子径とした。
【0075】
(2)架橋樹脂ビーズ、及びマトリックス層の屈折率
架橋樹脂ビーズについては各原材料の屈折率の相加平均、マトリックス層についてはシミュレーションにより算出した。
【0076】
(3)形状復元性
鉛筆により傷をつけ、40℃オーブンに保存した後、傷の復元を目視で判断する。鉛筆での傷のつけ方はJIS K5600に準拠した試験法で行った。
【0077】
(4)カール
10×10cmにサンプルを切り取り、対峙する2辺間の距離を測定した。
【0078】
(5)ヘイズ値(透明性)
JIS K7136に準拠し、サンプルをヘイズメーター(「NDH2000」,日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0079】
<実施例1>
基材として40μmTAC厚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(コニカ製)を用い、その上にマトリックスとしてウレタンアクリレート(紫光UV1700−B:商品名、日本合成(株)製、n=1.52)90部、架橋樹脂ビーズ(MG−251:商品名、日本ペイント(株)製、粒子径:500nm、|n−n|=0.1)10部の混合物を溶剤で固形分45%に調製し、ドライ厚みで約12μmとなるように塗工し、光量100mJで硬化させ、約12μmのハードコート層を形成し、実施例1のハードコートフィルムを得た。
【0080】
<比較例1>
前記実施例1の架橋樹脂ビーズを含まない他は実施例1と同様にして、ハードコート層の厚みが約12μmの比較例1のハードコートフィルムを得た。
【0081】
<比較例2>
前記実施例1の架橋樹脂ビーズが単核構造(n=1.53)の他は実施例1と同様にして、ハードコート層の厚みが約12μmの比較例2のハードコートフィルムを得た。
【0082】
<比較例3>
前記実施例1の架橋樹脂ビーズの粒径が300nmの他は実施例1と同様にして、ハードコート層の厚みが約12μmの比較例3のハードコートフィルムを得た。
【0083】
<比較例4>
前記実施例1のドライ厚みが約20μmの他は実施例1と同様にして、ハードコート層の厚み20μmの比較例4のハードコートフィルムを得た。
【0084】
前記、実施例1、比較例1〜3で得られた各ハードコートフィルムの形状復元性、カール、ヘイズについて表1に示す。形状復元性については○印(復元)、×印(復元せず)で評価した。カールについては○印(2辺の距離が50mm以上)、×印(2辺の距離が50mm未満)で評価した。ヘイズについては○印(ヘイズ値0.5未満)、×印(ヘイズ値0.5以上)で評価した。
【0085】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、個数平均粒子径が500〜3000nmの架橋樹脂ビーズが、光硬化性樹脂の硬化物からなるマトリックスに分散した、厚さ5〜15μmのハードコート層を積層してなり、
当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと、当該マトリックスの屈折率nの差|n−n|が0.1以下であり、
当該架橋樹脂ビーズの最表面の屈折率nと中心部の屈折率nとが、n<nの関係式を満たし、
当該架橋樹脂ビーズの屈折率が、最表面から中心部に向かって連続的又は段階的に高くなる
ことを特徴とする、ハードコートフィルム又はシート。
【請求項2】
前記架橋樹脂ビーズの中心部の屈折率nと、前記マトリックスの屈折率nの差n−nが0.5以上である、請求項1に記載のハードコートフィルム又はシート。
【請求項3】
前記架橋樹脂ビーズの中心部の主成分がポリスチレンであり、前記架橋樹脂ビーズの最表面及び前記マトリックスの主成分が(メタ)アクリル系樹脂である、請求項1又は2に記載のハードコートフィルム又はシート。

【公開番号】特開2008−87279(P2008−87279A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269463(P2006−269463)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】