説明

バイオディーゼル燃料油用流動性向上剤

【課題】目詰まり点改善効果や流動点改善効果等の低温での安定性改善効果を有するバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤を提供すること。
【解決手段】炭素数10のαオレフィン(A)と、炭素数14〜18のαオレフィン(B)とのモル比(A)/(B)が、(A)/(B)=10/90〜60/40であるαオレフィン混合物(C)を重合して得られる重量平均分子量が5万〜50万のαオレフィン重合体からなるバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目詰まり点や流動点などの低温安定性を向上させることができるバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤に関する。また、本発明は、低温安定性に優れたバイオディーゼル燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の枯渇が懸念される中、太陽光、風力、水力などの自然エネルギーや動植物由来のバイオマス燃料を有効利用する試みが行われている。さらに、地球規模での二酸化炭素削減にも寄与することから、植物系バイオマス燃料については特に注目されている。植物系バイオマス燃料では、植物を加工し炭素源として使用する。したがって、植物や樹木が排出した二酸化炭素を、再度植物や樹木が光合成により吸収し、これがサイクル化されるので、地球レベルでの二酸化炭素濃度に影響しないと考えられている。このような燃料はカーボンニュートラルな燃料として位置づけられている。
【0003】
ガソリン車に使用される代替燃料としては、サトウキビやトウモロコシなどの穀物を発酵して得られるエタノールや、エタノールとイソブテンとを反応して得られるエチル−ターシャリーブチルエーテルなどの植物系バイオマス燃料が検討されている。
【0004】
一方、ディーゼル車に使用されるバイオマス燃料は、バイオディーゼル燃料と呼ばれており、動植物油脂を原料とするものが一般的である。動植物油脂そのものは、高沸点、高粘度であるが故に、そのままではディーゼル燃料として使用するのは不適切である。したがって、バイオディーゼル燃料には、動植物油脂を加工し、沸点範囲や粘度などの物理的性状が軽油に近い物性のものに変換したものが利用されている。
【0005】
最も一般的に利用されているのは、動植物油脂から誘導した、脂肪酸メチルエステルや脂肪酸エチルエステルなどの脂肪酸エステルである。しかしながら、脂肪酸メチルエステルや脂肪酸エチルエステルなどの脂肪酸エステルからなるバイオディーゼル燃料は、軽油と比較すると、低温での安定性に劣る傾向がある。動植物油脂から得られる脂肪酸エステルは、原料油脂由来の脂肪酸分布を持っているので、目詰まり点や流動点等の低温特性も様々となる。一般的に、飽和脂肪酸含量の多い油脂を原料として製造された飽和脂肪酸メチルエステルや飽和脂肪酸エチルエステルを多く含むバイオディーゼル燃料は、低温での安定性に劣り、流動特性が低下する。したがって、使用時期や使用地域が制限されてしまうという問題があった。
【0006】
しかし、昨今のエネルギー事情から、種々の油脂原料を用いて得られた、脂肪酸メチル
エステルや脂肪酸エチルエステルなどの脂肪酸エステルを利用していく必要性があり、飽和脂肪酸含量の多い油脂を原料とした低温での安定性の悪い脂肪酸エステルも、経済性、供給安定性の面から利用が広く検討されている。
【0007】
一方、軽油やA重油などの中間留出油に使用されている中間留出油用流動性向上剤は、脂肪酸エステルに対しては、このままではほとんど効果を示さないことが知られている。このような事情から、脂肪酸エステルの低温での安定性を改良するために、中間留出油用流動性向上剤をバイオディーゼル燃料油用として改良した、いくつかの低温流動性向上剤が開示されている。例えば、特許文献1には、アルコール部分に1〜22の炭素原子を含有するアクリル酸および/またはメタクリル酸とアルコールとの重合体エステルあるいは共重合体の混合物が、脂肪酸メチルエステルの低温安定性を改良できることが開示されている。また、特許文献2には、バイオディーゼル燃料油用添加剤として、アルキル基の炭素数が8〜30のアルキルメタクリレートと、アルキル基の炭素数が1〜20のポリオキシアルキレンアルキルメタクリレートと、アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレートとの共重合体が開示されている。さらに、特許文献3には、動植物由来のメチルエステルの低温流動性向上剤として、ビニルエステル単位を17モル%以上含み、かつ、主鎖のメチレン100個に対してアルキル分岐を5個以上有するエチレン−ビニルエステル共重合体が開示されている。
【0008】
しかし、これらの共重合体を用いた低温流動性向上剤では、一部の脂肪酸エステルに対しては低温での流動性を改善する効果があるものの、種々の脂肪酸組成の脂肪酸エステル、特に、飽和脂肪酸エステル含量の多い脂肪酸エステルについては十分ではなかった。したがって、種々の脂肪酸組成の脂肪酸エステルに対して、低温での安定性改善効果に優れたバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第0563070号明細書
【特許文献2】特表2001−524578号公報
【特許文献3】特開2005−015798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その目的は、目詰まり点改善効果や流動点改善効果等の低温での安定性改善効果を有するバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤、およびそれを含有する、低温安定性に優れたバイオディーゼル燃料油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のαオレフィン重合体が、種々の脂肪酸組成のバイオディーゼル燃料油に対し、目詰まり点改善効果や流動点改善効果等の低温での安定性改善効果を付与することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明のバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤は、炭素数10のαオレフィン(A)と、炭素数14〜18のαオレフィン(B)とのモル比(A)/(B)が、(A)/(B)=10/90〜60/40であるαオレフィン混合物(C)を重合して得られる重量平均分子量が5万〜50万のαオレフィン重合体からなるものである。
また、本発明のバイオディーゼル燃料油組成物は、本発明の流動性向上剤をバイオディーゼル燃料油に対して10〜10000ppm含有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオディーゼル燃料油用添加剤は、種々の脂肪酸組成のバイオディーゼル燃料油に対し、目詰まり点改善効果や流動点改善効果等の低温での安定性改善効果を付与することができる。特に、飽和脂肪酸エステル含量が高いバイオディーゼル燃料油に対しても、目詰まり点改善効果や流動点改善効果等の低温での安定性改善効果を付与することができる。したがって、本発明のバイオディーゼル燃料油用添加剤をバイオディーゼル燃料油に含有させることによって、低温安定性に優れたバイオディーゼル燃料油組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤は、重量平均分子量が5万〜50万のαオレフィン重合体からなる。
【0015】
本発明におけるαオレフィン重合体は、炭素数10のαオレフィン(A)と、炭素数14〜18のαオレフィン(B)とのαオレフィン混合物(C)を重合することにより得られる。
本発明に用いる(A)成分は炭素数10のαオレフィンである。具体的には、1−デセンが挙げられる。
本発明に用いる(B)成分は炭素数14〜18のαオレフィンである。具体的には、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセンが挙げられる。これら(B)成分は、単独でも混合して用いてもよい。
本発明に用いるαオレフィン混合物(C)は、炭素数10のαオレフィン(A)と炭素数14〜18のαオレフィン(B)とのモル比(A)/(B)が、(A)/(B)=10/90〜60/40の範囲で混合したものであり、好ましくは、(A)/(B)=15/85〜55/45のαオレフィンの混合物である。モル比(A)/(B)が上記の範囲から外れたαオレフィン混合物を重合したαオレフィン重合体では、バイオディーゼル燃料油に対して低温での安定性改善効果が得られない場合がある。
【0016】
本発明における(A)成分と(B)成分からなるαオレフィン混合物(C)は、混合物のモル平均炭素数が13. 0〜15.5であるものが、広範囲なバイオディーゼル燃料油に対して、より低温での安定性改善効果が高くなり好ましい。さらに好ましいモル平均炭素数は、13.5〜15.0である。
【0017】
本発明のαオレフィン重合体は、上記αオレフィン混合物(C)を重合することにより得ることができる。αオレフィン重合体の分子量は、重量平均分子量が5万〜50万であり、好ましくは、5万〜30万である。αオレフィン重合体の重量平均分子量が5万未満であると、バイオディーゼル燃料油に添加した際、低温での安定性改善効果が得られない場合がある。また、αオレフィン重合体の重量平均分子量が50万を超えると、αオレフィン重合体の粘度が高くなるので、運用時にポンプで吸い上げることが困難となり、溶剤で希釈する等、操作が煩雑となり好ましくない。なお、重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0018】
本発明におけるバイオディーゼル燃料油は、特に限定は無いが、好適には動植物油脂から誘導される脂肪酸エステルである。上記脂肪酸エステルは、常法により得られる。例えば、動植物油脂とアルコールとのエステル交換反応により得る方法、または動植物油脂を脂肪酸とグリセリンとに加水分解した後、グリセリンを除去して得られる脂肪酸とアルコールとの脱水反応により得る方法が挙げられる。脂肪酸エステルを得るために使用されるアルコールとしてはメタノールやエタノールが好適である。
【0019】
本発明のバイオディーゼル燃料油組成物は、本発明のバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤をバイオディーゼル燃料油に対し10〜10000ppm含有する。含有量が10ppm未満である場合は、低温での安定性改善効果が得られにくい。また、10000ppmを超えて含有させても、含有量に見合った低温での安定性改善効果が得られない。好ましい含有量としては、100〜8000ppmであり、より好ましくは200〜6000ppmである。
【0020】
本発明のバイオディーゼル燃料油組成物には、前記流動性向上剤と共に、所望により、石油系燃料油の添加剤として従来から使用されている各種添加剤、例えば、曇り点降下剤、防錆剤、酸化防止剤、セタン価向上剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、燃焼性向上剤、黒煙減少剤、消泡剤、色相安定剤、氷結防止剤、スラッジ分散剤、マーカーなどを含有させることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(1)αオレフィン重合体の製造例
(重合体1)
グローブボックス内を窒素で置換した。酸素濃度を測定したところ0.01%であった。グローブボックス内で以下の重合反応を行った。
攪拌機、窒素導入管、温度計、滴下ロートを取り付けた200mL四つ口フラスコに、三塩化チタン(ソルベー触媒:東ソー・ファインケム社製)0.15gとn−ヘプタン100mLを仕込んだ。さらに、1mol/Lのジエチルアルミニウムクロリド/n−ヘプタン溶液7.5mlをシリンジで仕込んだ。
反応液を90℃まで昇温した後、1−デセン1.0g(0.007mol)と、1−テトラデセン9.0g(0.046mol)の混合物10.0gを滴下した後、90℃において、1.5時間重合反応を行った。1.5時間経過後、2−メチル−1−プロパノール15mLを徐々に滴下し、触媒を失活させ、重合を停止した。
グローブボックスから四つ口フラスコを取り出して反応液を分液ロートに移し、温水150mLを加えて振とうし、静置した後、分離した水層を除去した。この操作をさらに4回繰り返し行った。得られた精製物を減圧して溶媒を留去し、重合体5.0gを得た。
【0022】
(重合体2〜11)
表1に記載したαオレフィンを表1に記載の重量で仕込み、重合体1の製造方法と同様の手順で重合を行い、αオレフィン重合体である重合体2〜11を得た。表1に重合体1〜11のモル平均炭素数、および重量平均分子量をそれぞれ示す。
【0023】
【表1】

【0024】
(2)脂肪酸エステルの合成例
(廃食油メチルエステルの合成)
窒素導入管、温度計、ジムロートを取り付けた5Lの四ツ口フラスコに、廃食油を3000g、メタノールを1370g、水酸化カリウムを7g加え、60℃にて3時間、エステル交換反応を行った。反応後、温水で3回洗浄し、下層のグリセリン水溶液を分離した。上層の粗廃食油メチルエステルを再度、四ツ口フラスコに投入し、メタノールを1370g、水酸化カリウムを5g加え、再度エステル交換反応を行った。反応終了後、温水で3回洗浄した後、水酸化カリウム溶液を加え、遊離脂肪酸を中和水洗した。さらに温水で3回洗浄し、洗液が中性であることを確認した後、水洗を終了した。洗浄後のエステルを70℃、10torrまで減圧し、1時間脱水し、廃食油メチルエステルを得た。
【0025】
(廃食油エチルエステルの合成)
上記の廃食油メチルエステルの合成におけるメタノールをエタノールに変更した以外は同様の手順で合成を行い、廃食油エチルエステルを得た。
【0026】
(パーム油メチルエステルの合成)
上記の廃食油メチルエステルの合成における廃食油をパーム油に変更した以外は同様の手順で合成を行い、パーム油メチルエステルを得た。
【0027】
(ジャトロファ油メチルエステルの合成)
上記の廃食油メチルエステルの合成における廃食油をジャトロファ油に変更した以外は同様の手順で合成を行い、ジャトロファ油メチルエステルを得た。
【0028】
上記で得られた廃食油メチルエステル、廃食油エチルエステル、パーム油メチルエステル、ジャトロファ油メチルエステルの脂肪酸組成をそれぞれガスクロマトグラフィーにおいて分析した。分析結果を以下の表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
(廃食油メチルエステルの流動点測定)
以下の表3に、廃食油メチルエステルにαオレフィン重合体を添加した際の流動点測定結果を示す。流動点はJIS K−2269に準じ、1℃刻みで測定を行った。尚、流動性向上剤としては、表1に記載の重合体1〜11、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびアルキルメタクリレート共重合体を用いた。
【0031】
【表3】

【0032】
(廃食油メチルエステルの目詰まり点測定)
以下の表4に、廃食油メチルエステルにαオレフィン重合体を添加した際の目詰まり点測定結果を示す。目詰まり点はJIS K−2288に準じて測定を行った。尚、流動性向上剤としては、表1に記載の重合体1および重合体4、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびアルキルメタクリレート共重合体を用いた。
【0033】
【表4】

【0034】
(廃食油エチルエステルの流動点測定)
以下の表5に、廃食油エチルエステルにαオレフィン重合体を添加した際の流動点測定結果を示す。流動点はJIS K−2269に準じ、1℃刻みで測定を行った。尚、流動性向上剤としては、表1に記載の重合体2、重合体6および重合体10、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびアルキルメタクリレート共重合体を用いた。
【0035】
【表5】

【0036】
(パーム油メチルエステルの流動点測定)
以下の表6に、パーム油メチルエステルにαオレフィン重合体を添加した際の流動点測定結果を示す。流動点はJIS K−2269に準じ、1℃刻みで測定を行った。尚、流動性向上剤としては、表1に記載の重合体3および重合体5、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびアルキルメタクリレート共重合体を用いた。
【0037】
【表6】

【0038】
(ジャトロファ油メチルエステルの流動点測定)
以下の表7に、ジャトロファ油メチルエステルにαオレフィン重合体を添加した際の流動点測定結果を示す。流動点はJIS K−2269に準じ、1℃刻みで測定を行った。尚、流動性向上剤としては、表1に記載の重合体2および重合体4、エチレン−酢酸ビニル共重合体、およびアルキルメタクリレート共重合体を用いた。
【0039】
【表7】

【0040】
表3〜7に示した結果からも理解できるとおり、本発明のバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤によれば、表2に示す種々の脂肪酸組成のバイオディーゼル燃料油に対して、目詰まり点改善効果や流動点改善効果などの低温での安定性改善効果が得られる。特に、パルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸のエステル含量が高いバイオディーゼル燃料油に対しても、低温での安定性改善効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10のαオレフィン(A)と、炭素数14〜18のαオレフィン(B)とのモル比(A)/(B)が、(A)/(B)=10/90〜60/40であるαオレフィン混合物(C)を重合して得られる重量平均分子量が5万〜50万のαオレフィン重合体からなるバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤。
【請求項2】
αオレフィン混合物(C)のモル平均炭素数が13. 0〜15.5である、請求項1記載のバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のバイオディーゼル燃料油用流動性向上剤をバイオディーゼル燃料油に対して10〜10000ppm含有するバイオディーゼル燃料油組成物。

【公開番号】特開2011−241382(P2011−241382A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67351(P2011−67351)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】