説明

バイオフィルム生成抑制方法

【課題】硬質表面のバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供する。
【解決手段】(A) 分子中に、アミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を1種以上有する構成単位(a)とアニオン性基を有するビニル系モノマーに由来する構成単位(b)とを有する高分子化合物を、硬質表面に適用することを特徴とする、硬質表面における微生物によるバイオフィルムの生成を抑制する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルムの生成を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して様々な産業分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ち、製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。更に、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
【0003】
更に、バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物に対する場合と比較して、殺菌剤・静菌剤のような微生物制御薬剤の十分な効果が出ないことも多い。例えば医療の面では近年、医療機器の狭い隙間や空孔内に微生物が残存して、バイオフィルムを形成し、殺菌が不完全になることによる院内感染例が数多く報告されている。ヒト口腔内においては歯に形成するバイオフィルム、いわゆるデンタルプラーク(歯垢)がう食や歯周病の原因となることは良く知られており、これらの問題について長い間検討されている。
これまでバイオフィルムを抑制するためには、原因となる微生物、特に細菌に対して殺菌作用又は静菌作用を与えることによって菌を増殖させないという考え方に基づいて、殺菌・抗菌剤を用いることが主に検討されてきた。殺菌作用がある薬剤を用いたアプローチとして、特許文献1ではカチオン性ポリマーを用いることで菌数を低減させると共に硬質表面への菌の付着を防止するバイオフィルム生成抑制手法が開示されている。また、特許文献2では次亜塩素酸とカチオン性ポリマーを用いたアプローチにより、さらに殺菌作用を向上させたバイオフィルムコントロール手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−260392号公報
【特許文献2】特開2003−71464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、共に、殺菌性の薬剤を用いることにより菌数を低減し、硬質表面への菌の付着を阻害することによって一時的にバイオフィルムの生成を抑制する手法が記載されている。
しかしながら、本発明者らの実験によれば、緑膿菌に対して特許文献1記載のカチオン性ポリマーでは長期的(2日以上)には殺菌性はおろか菌の増殖を抑制する静菌効果さえも示すことがなく、結果としてバイオフィルムの形成を抑制できないことが確認された。また、特許文献2の発明によれば、カチオン性ポリマーに次亜塩素酸を加えることによって一時的に顕著な殺菌効果を得ることは可能であるが、洗浄のために菌と薬剤を一時的にしか接触させることができない硬質表面(排水口や浴室など)においては次亜塩素酸を表面上に残留させることができないので、特許文献1と同様にバイオフィルム生成阻害効果を長期的に持続させることは非常に困難であった。
従って、本発明の目的は、硬質表面において長期的にバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる実情に鑑み、本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、下記成分(A)を硬質表面に適用すれば、長期に亘ってバイオフィルム生成抑制効果が得られることを見出し本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、分子中に、アミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を1種以上有する構成単位 (a)とアニオン性基を有するビニル系モノマーに由来する構成単位(b)とを有する高分子化合物〔成分(A)〕を、硬質表面に適用することを特徴とする、硬質表面における微生物によるバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供するものである。
また、本発明は、上記成分(A)を含有することを特徴とする、硬質表面用バイオフィルム生成抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期的にバイオフィルムの生成を抑制することができる。特に、本発明方法は、従来、薬剤が残留しにくく、バイオフィルムの生成抑制の効果を発現させにくい硬質表面のバイオフィルムの生成抑制に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法及び硬質表面用バイオフィルム生成抑制剤に用いる成分(A)は、アミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を1種以上有する構成単位 (a)とアニオン性基を有するビニル系モノマーに由来する構成単位(b)とを有する高分子化合物である。
【0010】
ここで、構成単位(a)の由来となる単量体化合物は、分子中に1つ以上のアミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を有し、且つビニル系モノマー(b)と共重合可能な化合物であり、このような化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選ばれるものが挙げられる。
【0011】
【化1】

【0012】
〔式中、R1 、R2 、R3 、R7 、R8及びR9 は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。X、Yは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキレン基、−COOR12 −、−CONHR12 −、−OCOR12 −及び−R13 −OCO−R12 −から選ばれる基を示す。ここでR12及びR13 は、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキレン基を示す。R4 は炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基又はR12 C=C(R3 )−X−を示す。R5 は炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はベンジル基を示し、R6 はヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基若しくは硫酸エステル基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基又はベンジル基を示し、R6 がアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はベンジル基の場合は、Z-は陰イオンを示す。R6 がカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基を含む場合、Z-は存在せず、R6 中のこれらの基は陰イオンとなる。R10 は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基又はR78 C=C(R9 )−Y−を示す。R11 は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示す。

【0013】
一般式(1)中、Z-の陰イオンとしては、たとえばハロゲンイオン、硫酸イオン、炭素数1〜3のアルキル硫酸エステルイオン、炭素数1〜3のアルキル基で置換されていてもよい芳香族スルホン酸イオン、ヒドロキシイオンを挙げることができる。
【0014】
一般式(1)の化合物として具体的に好ましいものとしては、アクリロイル(又はメタクリロイル)アミノアルキル(炭素数1〜5)−N,N,N−トリアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩、アクリロイル(又はメタクリロイル)オキシアルキル(炭素数1〜5)−N,N,N−トリアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩、N−(ω−アルケニル(炭素数2〜10))−N,N,N−トリアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩、N,N−ジ(ω−アルケニル(炭素数2〜10))−N,N−ジアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩が挙げられ、N,N−ジ(ω−アルケニル(炭素数2〜6))−N,N−ジアルキル(炭素数1〜2)4級アンモニウム塩が好ましく、ジアリルジメチルアンモニウム塩がより好ましい。
【0015】
一般式(2)の化合物として具体的に好ましいものとしては、アクリロイル(又はメタクリロイル)アミノアルキル(炭素数1〜5)−N,N−ジアルキル(炭素数1〜3)アミン、アクリロイル(又はメタクリロイル)オキシアルキル(炭素数1〜5)−N,N−ジアルキル(炭素数1〜3)アミン、N−(ω−アルケニル(炭素数2〜10))−N,N−ジアルキル(炭素数1〜3)アミン、N,N−ジ(ω−アルケニル(炭素数2〜10))−N−アルキル(炭素数1〜3)アミン、アリルアミン、ジアリルメチルアミン、ジアリルアミンが挙げられ、特に、アリルアミン、ジアリルメチルアミン、ジアリルアミン、アクリロイル(又はメタクリロイル)アミノプロピル−N,N−ジメチルアミン、アクリロイル(又はメタクリロイル)オキシエチル−N,N−ジメチルアミンが好ましい。
【0016】
アニオン性基を有するビニル系モノマーに由来する構成単位(b)のアニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられ、カルボキシル基、スルホン酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
アニオン性基を有するビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、無水マレイン酸、スチレンスルホン酸塩、2 − アクリルアミド− 2 − メチルプロパンスルホン酸塩、アリルスルホン酸塩、ビニルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸塩及びスルホプロピルメタクリレートが挙げられ、これらは1種でも、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、無水マレイン酸が好ましい。
【0017】
成分(A)において、構成単位 (a)と構成単位(b)との割合は、硬質表面におけるバイオフィルム生成抑制の効果を発現する観点から当量比で、(a)/(b)=80/20〜30/70とすることが好ましく、特に(a)/(b)=70/30〜40/60さらに(a)/(b)=60/40〜40/60とすることが好ましく、よりさらに(a)/(b)=55/45〜45/55とすることが好ましい。
【0018】
(A)成分は、更にノニオン性モノマーに由来する構成単位を有していてもよい。このような構成単位としては、下記(i)〜(iii)から選ばれるモノマー由来のものが挙げられる。
【0019】
(i)アクリル(又はメタクリル)アミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリル酸(又はメタクリル酸)アミド、N,N−ジメチルアクリル(又はメタクリル)アミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリル酸(又はメタクリル酸)アミド、N,N−ジメチルアミノメチルアクリル酸(又はメタクリル酸)アミド、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドンから選ばれるアミド基含有化合物。
【0020】
(ii)アクリル酸(又はメタクリル酸)アルキル(炭素数1〜5)、アクリル酸(又はメタクリル酸)2−ヒドロキシエチル、アクリル酸(又はメタクリル酸)−N,N−ジメチルアミノアルキル(炭素数1〜5)、マレイン酸ジアルキル(炭素数1〜5)から選ばれるエステル基含有化合物。
【0021】
(iii)エチレン、プロピレン、n−ブチレン、イソブチレン、n−ペンテン、イソプレン、2−メチル−1−ブテン、n−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ブテン、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンから選ばれるオレフィン系化合物。
【0022】
成分(A)は、常法により、構成単位(a)と(b)に対応するモノマー及び必要によりノニオン性モノマーを重合することにより得られ、また、市販品を用いることもできる。
本発明において、成分(A)は重量平均分子量が好ましくは1,000〜6,000,000、より好ましくは1,000〜500,000、さらに好ましくは1,000〜100,000、特に好ましくは5,000〜60,000である。この重量平均分子量はアセトニトリルと水の混合溶媒(リン酸緩衝液)を展開溶媒とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリエチレングリコールを標準物質として求めたものである。
【0023】
本発明方法は、硬質表面に適用された成分(A)が微生物と接触することによりバイオフィルムの生成を抑制する方法である。
本発明のバイオフィルム生成抑制方法は成分(A)の水希釈系で用いるのが効果的である。本発明方法において、硬質表面に成分(A)を適用する方法としては、硬質表面上に成分(A)が付着して残存させることができる方法であればよく、例えば、成分(A)の水希釈物を一定量溜めて対象物を浸漬する方法が挙げられる。また、対象物が広範に亘る場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。又、該水希釈液を流したり、はけ等により塗布してもよい。その他、タオルなどに該水希釈液を含浸させて、対象物を拭き取っても良い。また、微生物が存在しうる硬質表面に該組成物の水希釈液を付着させたり、塗り付けたりすることも可能である。該組成物の水希釈液は、その使用時の成分(A)の重量濃度が0.1〜2000ppmとなるのが好ましく、1〜200ppmとなるのがより好ましい。
また、対象物によっては水希釈系にせず、クリーム状や軟膏にして塗り広げることも可能である。この場合、成分(A)は適切な溶媒に溶解、分散、乳化された形状で提供され、使用時の成分(A)の重量濃度が0.01〜10%、となるのが好ましく、より好ましくは0.02〜5%、さらに好ましくは0.05〜2%である。
硬質表面に成分(A)を適用する時期は、バイオフィルムを生成する微生物が付着する前でも後でもよいが、該微生物が硬質表面に付着する前に成分(A)を適用することがバイオフィルム生成抑制効果が高く好ましい。
【0024】
本発明の硬質表面用バイオフィルム生成抑制剤は、前記のバイオフィルム生成抑制方法に適用できる形態であればよく、液状であっても、クリーム状、軟膏状及び粉体状であってもよい。好ましい形態は、成分(A)を前記使用時の水希釈系に希釈可能な液体である。具体的には、成分(A)を0.01〜100重量%含有する組成物である。
【0025】
本発明においては、成分(A)に加えて更に、次の成分(B)
(B)一般式(3)
RO−(EO)n−H (3)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)
で表される化合物を、硬質表面に適用してもよい。
【0026】
一般式(3)中、Rで示されるアルキル基又はアルケニル基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルムの生成抑制の観点から、炭素数10〜12であるのが好ましい。EOで示されるエチレンオキシ基の数nは、バイオフィルムの生成抑制の観点から、0〜4がより好ましく、0〜3がさらに好ましい。なお、水への分散性の観点から、nは1〜3が好ましい。
【0027】
成分(B)は、長期的なバイオフィルムの生成抑制効果を発揮できる重量濃度として、系内に1ppm以上存在すればよいが、経済性と効果の観点から1〜10,000ppmが好ましく、5〜10,000ppmがより好ましく、更に5〜2,000ppmが好ましく、特に10〜1,000ppmが好ましい。
【0028】
本発明の硬質表面用バイオフィルム生成抑制剤及びバイオフィルム生成抑制方法においては、成分(B)の水への溶解性を向上し、水系において本剤をより効果的に利用する観点から、さらに界面活性剤を用いることができる。
【0029】
本発明に使用できる界面活性剤の種類は特に限定されないが、成分(B)を水系中に安定に存在させることができる界面活性剤が望ましい。特に乳化・分散・可溶化性能の観点から、界面活性剤の中で陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0030】
また、本発明において、成分(B)を配合する場合の配合量は、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%であり、そして界面活性剤は好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%である。
【0031】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法は、バイオフィルムの危害が懸念される広い分野に適用することが可能である。例えば菌汚染リスクの高い食品又は飲料製造プラント等の製造設備や製造器具の硬質表面に適用することができる。また、バイオフィルムが形成しやすい医療機器、例えば内視鏡や人工透析機等の硬質表面にも適用でき、更に、循環式浴槽設備の硬質表面にも適用することができる。
また、本発明のバイオフィルム生成抑制方法は、例えば、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属等の材質からなる疎水性の硬質表面に対して適用されることが好ましく、具体的にはガラス、ナイロンが好ましく、ガラスがより好ましい。
本発明のバイオフィルム生成抑制では、微生物の存在下、微生物と、本発明で使用する(A)成分(好ましくは(A)成分及び(B)成分)とを接触させることによって、微生物が産生するバイオフィルムが生成するのを抑制することができる。また、それらの接触時間は、長期的であるほど好ましいが、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、4時間以上がさらに好ましく、6時間以上がさらにより好ましく、12時間以上が特に好ましく、24時間以上が最も好ましい。
本発明におけるバイオフィルムとは、微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものである。より具体的には、微生物と、微生物が排出する細胞外ポリマー(主に多糖やタンパク質、核酸などが含まれる)からなる、微生物の集合体のことであり、更にこれらが油や有機物を含む汚れ等が共に存在する場合がある。
また、バイオフィルムを形成し易い微生物としては、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌等が挙げられ、これらの中では、緑膿菌がバイオフィルムをより形成し易いが、本発明の方法では、バイオフィルムが緑膿菌由来のバイオフィルムに対しても、より効果を発現することができる。
本発明の方法において、バイオフィルムが生成抑制できる理由は定かではないが、(A)成分により表面改質が起こり菌及び汚れの付着が抑制されることによりバイオフィルムの生成が抑制され、(B)成分により細菌間の情報伝達物質として知られるオートインデューサーの産生が抑制され、さらに効果的にバイオフィルムが生成抑制されると考えられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1
実施例及び比較例:バイオフィルム生成抑制能の検定
(実施例)
成分(A)
(A−1)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリル酸(モル比50/50)の共重合体、Calgon社製、重量平均分子量 45500
(A−2)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリル酸(モル比60/40)の共重合体、Calgon社製、重量平均分子量 19300
(A−3)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリル酸(モル比70/30)の共重合体、Calgon社製、重量平均分子量 17000
(A−4)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリル酸(モル比80/20)の共重合体、Calgon社製、重量平均分子量 23000
(A−5)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸(モル比50/50)の共重合体、重量平均分子量 12000
(A−6)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸(モル比67/33)の共重合体、重量平均分子量 17800
(A−7)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸とSO2(モル比50/45/5)の共重合体、重量平均分子量 23000
(A−8)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸とSO2(モル比67/27/6)の共重合体、重量平均分子量 23000
(A−9)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸とSO2(モル比67/20/13)の共重合体、重量平均分子量 28400
【0034】
(比較例)
(A−10)塩化ジアリルジメチルアンモニウムのカチオン性ポリマー、重量平均分子量8500
(A−11)塩化ジアリルジメチルアンモニウムとSO2(モル比50/50)の共重合体、重量平均分子量 5000
【0035】
バイオフィルム生成抑制能の検定方法
まず、はじめに、成分(A)0.02g(ただし、active 100%としての量である。)を滅菌水で全量が100gになるようにして成分(A)0.02重量%になるように調製した。この調製した溶液中にスライドガラス(1.5cm×1.5cm)〔MATSUNAMI(株)製〕を37℃、24時間浸した後、滅菌水を用いてスライドガラスに付着している溶液を洗い流し、このスライドガラスを24穴マイクロプレート(穴の内径:約1.65cm)〔旭テクノガラス(株)製〕に、垂直に入れた。
次に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa ATCC15692)をLB培地[日本べクトン・ディッキンソン(株)製]を用いて、37℃、18時間前培養して増殖した菌液1mLを99mLのMHB培地[日本べクトン・ディッキンソン(株)製]に加えて菌液を調製した。そして、先ほどスライドガラスを入れた24穴マイクロプレートのそれぞれの穴にこの溶液を1.2mL加え、37℃、24時間培養した。24時間培養後に培養液を廃棄し、この24穴マイクロプレートのそれぞれの穴にMHB培地1.2mLを入れた後、さらに、37℃、24時間培養した。培養後に培養液を廃棄し、滅菌水でスライドガラスを洗浄した後、スライドガラス表面に残ったバイオフィルムを0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色した。次にこのスライドガラスを滅菌水でリンス後、エタノール2mL中に入れてスライドガラスに付着した染色後のバイオフィルムを溶液中に溶解させた。そして、Wellreader〔生化学工業(株)製〕を用いてこの溶液の吸光度を測定することにより付着したバイオフィルムを定量した。
バイオフィルムの状態は、吸光度(absorbance/mL)の値が0〜0.1と小さい値を示し、ほとんどバイオフィルムがスライドガラス上に生成していない状態を◎、0.1よりも大きく、また、0.13以下の値を示し、若干バイオフィルムの形成がみられる状態を○、0.13よりも大きな値を示し、バイオフィルムの形成が顕著にみられる状態を×とした。
結果を表1〜2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例2 :バイオフィルム生成抑制能の検定
成分(A)
実施例1に記載した薬剤を用いて評価を行った。
【0039】
成分(B) RO−(EO) n −H
( B−1 ) ラウリルアルコール「カルコール2098 、花王(株)製、R =C12アルキル、n=0〕
( B−2 ) C12 アルコールエチレンオキサイド3 モル付加物「NIKKOL BL−3SY 、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3 〕
【0040】
まず、はじめに、成分(A)又は比較品0.02g、成分(B)0.01g(ただし、成分A、B共にactive 100%としての量である。)を滅菌水で全量が100gになるようにして成分(A)、成分(B)のそれぞれが0.02重量%、0.01重量%になるように調製した。(*ただし、成分(B−1)を使用する場合は、可溶化剤としてポリオキシエチレン(12)ラウリルエーテル 0.1gを添加した。)
また、バイオフィルムの評価は、実施例1と同様の方法を用いて行った。
なお、バイオフィルムの状態は吸光度の値が小さい値を示すほど、バイオフィルムの生成量が少ないことを示す。
結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
以上の結果から、本発明によれば、長期間、硬質表面上のバイオフィルムの生成が抑制できていることがわかる。一方、成分(A)以外の他のポリマー(比較例)においては、バイオフィルム生成抑制効果は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 分子中に、アミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を1種以上有する構成単位(a)とアニオン性基を有するビニル系モノマーに由来する構成単位(b)とを有する高分子化合物を、硬質表面に適用することを特徴とする、硬質表面における微生物によるバイオフィルムの生成を抑制する方法。
【請求項2】
構成単位(a)が、下記一般式(1)で表される化合物及び/ 又は一般式(2)で表される化合物に由来するものである請求項1記載の方法。
【化1】

〔式中、R1 、R2 、R3 、R7 、R8及びR9 は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。X、Yは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキレン基、−COOR12 −、−CONHR12 −、−OCOR12 −及び−R13 −OCO−R12 −から選ばれる基を示す。ここでR12及びR13 は、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキレン基を示す。R4 は炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基又はR12 C=C(R3 )−X−を示す。R5 は炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はベンジル基を示し、R6 はヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基若しくは硫酸エステル基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基又はベンジル基を示し、R6 がアルキル基、ヒドロキシアルキル基又はベンジル基の場合は、Z-は陰イオンを示す。R6 がカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基を含む場合、Z-は存在せず、R6 中のこれらの基は陰イオンとなる。R10 は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基又はR78 C=C(R9 )−Y−を示す。R11 は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示す。〕
【請求項3】
アニオン性基を有するビニル系モノマーが、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、無水マレイン酸、スチレンスルホン酸塩、2 − アクリルアミド− 2 − メチルプロパンスルホン酸塩、アリルスルホン酸塩、ビニルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸塩、スルホプロピルメタクリレート及びリン酸モノ− ω − メタクリロイルオキシアルキル(炭素数1〜12)から選ばれる1種以上である請求項1記載の方法。
【請求項4】
構成単位(a)と構成単位(b)との割合が、当量比で、(a)/(b)=30/70〜80/20である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
更に、次の成分(B)
(B)一般式(3)
RO−(EO)n−H (3)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物を、硬質表面に適用する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
バイオフィルムが、緑膿菌由来のバイオフィルムである請求項1〜5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
硬質表面が、医療機器の硬質表面である請求項1〜6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
硬質表面が、製造設備又は製造器具の硬質表面である請求項1〜7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
硬質表面が、循環式浴槽設備の硬質表面である請求項1〜8の何れか1項記載の方法。
【請求項10】
(A) 分子中に、アミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を1種以上有する構成単位(a)とアニオン性基を有するビニル系モノマーに由来する構成単位(b)とを有する高分子化合物を含有することを特徴とする、硬質表面用バイオフィルム生成抑制剤。
【請求項11】
更に、次の成分(B)
(B)一般式(3)
RO−(EO)n−H (3)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物を含有する、請求項10記載の硬質表面用バイオフィルム生成抑制剤。

【公開番号】特開2010−163429(P2010−163429A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286466(P2009−286466)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】