説明

バイオリアクター用担体、バイオリアクター、及び分析方法

【課題】任意のパートナー(例えば、タンパク質又は核酸)に関して、分析に必要な量を高密度で内壁に固定化することが可能な、バイオリアクター用担体を提供する。
【解決手段】前記バイオリアクター用担体は、バイオリアクター用担体におけるプラスチック製内壁表面が、放射線照射処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオリアクター用担体、及び前記担体にパートナー又は酵素を担持させたバイオリアクター、並びにこれらを用いる分析方法に関する。
本明細書における「分析」には、分析対象物質の存在の有無を判定する「検出」と、分析対象物質の量を定量的又は半定量的に決定する「測定」とが含まれる。
【背景技術】
【0002】
動植物細胞・微生物などの生物の生体触媒(体内で様々な化学反応を担う酵素を含んだ細胞・組織・器官など)を利用して、物質の合成や分解を行う手段、あるいは、それを行う反応器として、バイオリアクターが知られている。例えば、下水処理場で、微生物が水中の有機物を食物として捕食し、汚泥に分解する働きを利用して排水中の有機物を浄化処理する方法もバイオリアクターの一つである。反応器は、微生物や細胞の培養により有用な物質を生産したり、生物が持つ酵素の特性を利用して物質の合成や分解を行う装置で、エネルギーの発生や、環境汚染物質の分解、特定の生体成分の微量定量による病気の診断など、様々な分野で応用されている。
【0003】
酵素を固定化したバイオリアクターの具体例には、担子菌Coriolus versicolor及びPeurolus ostreatusの菌体外酵素とPycnoporus coccineus由来のラッカーゼを用いて内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)のうちノニルフェノール、オクチルフェノール、ビフェニールの酵素分解を行ったり、β−フルクトフラノシダーゼをグリシジルアクリレートを母体とする坦体に固定化し、基質に乳糖と蔗糖を通すことにより、乳化オリゴ糖(4-β-D-galactosylsucrose)の生産を行ったりするなど、物質の合成や分解を効率よく行う目的で応用されている。
【0004】
イムノアッセイと称される測定法があり、その測定法では、測定対象物質に対して結合活性をもつ抗体などの物質を固相化した担体を用いる。担体の材料としては、シリカや炭素等の粉末、セファローズやセファデックス等の樹脂、あるいはガラス、プラスチック、又は金属等が用いられ、反応後に、担体を含む部分と担体を含まない部分とを分離し、担体に結合した標識物からの信号を測定する。ポリスチレン又はスチレン共重合体は、その成型のしやすさから、分析用基板として幅広く使用されている。
【0005】
この担体表面に生理活性物質を固定化する方法には、物理吸着法、イオン結合法、及び化学結合法が知られている。イオン結合法は、結合させたい生理活性物質の荷電を利用する方法であり、担体表面へ生理活性物質と逆の荷電を持つ官能基を生じさせて固定化する。化学結合法は、結合活性をもつ官能基を担体の表面に生じさせて、生理活性物質のアミノ基などと共有結合させて固定化する。物理吸着法は、生理活性物質と担体とが相互に物理的に引きつけられる現象を利用するもので、それにはファンデルワールス力、疎水結合力、イオン結合力、又は水素結合力等が関与しているとされる。
【0006】
化学結合法は、結合力が強固であり解離しにくい点や、結合部分を選択することができる点等にメリットを有するが、物理吸着に比べて絶対的結合量が少ない点、結合反応性官能基をもたない生理活性物質を結合することができない点、結合操作が複雑である点がデメリットである。イオン結合法は、環境のpHや塩濃度の変化によって、結合が解離することがある点がデメリットである。
一方、物理吸着法は、結合操作が簡単であるという大きなメリットがあるが、剥がれる可能性があることや、生理活性物質の種類によって吸着力が異なるために結合量の制御が困難であるなどのデメリットをもつ。
【0007】
近年、μTAS(Micro Total Analytical System)という概念が構築され、分離・分析を小さな反応槽内で、分析対象物質を含む液体を送液することによって行うことが盛んに行われている(非特許文献1)。イムノアッセイにおいても、μTASの概念から、小さな基板上に10〜100μm程度の細い流路を作製し、その中で送液を行いながらイムノアッセイを行う、送液型生物学的分析方法が知られている。こうした基板は、送液用の注入/排出口を除いて、通常密閉型に設計されているため、流路内の表面改質処理は、改質剤を含む溶液の送液によるコーティング処理が一般的である(非特許文献1)。
【0008】
一方、生理活性物質を分析するために用いられる担体として、アフィニティーカラムが挙げられる。アフィニティーカラムは、ガラス製、金属製、又はプラスチック製の管の中に、目的とする物質に対するリガンドを固定した担体を充填して使用することが多い。これとは別に、キャピラリーカラムのように、前記管の内壁へ直接リガンドを結合させる場合がある。この場合のカラム内壁への抗体のようなリガンドタンパク質の結合方法としても、物理吸着法、イオン結合法、又は化学結合法が用いられる。カラム内壁の改質法は、前述したように、改質剤を含む溶液の送液によるコーティング処理が一般的である。目的物質の分離・分析は、リガンドを固定したカラム内に目的物質を含む液体を送液することによって行われる。
【0009】
近年、タンパク質の構造を認識して特異的に結合することのできるDNAやRNAが開発されており、これらはアプタマーと呼ばれている。イムノアッセイやアフィニティークロマトグラフィーによって特定のタンパク質を分析する場合においても、固相となる担体上へ分析対象物質となるタンパク質に特異的に結合することのできるアプタマーを結合させ、対象物質を分析する試みがなされている。固相となる担体表面上へのアプタマーの結合方法の一つとして、アビジン(又はストレプトアビジン)−ビオチンを用いて間接的に担体表面上に結合させる方法が挙げられる。これは、アプタマーをビオチン標識しておき、アビジン(又はストレプトアビジン)結合担体と反応させることにより、担体表面上へアプタマーを結合させる方法である。この場合には、担体表面上にアビジンを高密度に結合させることが望まれる。
【0010】
【非特許文献1】多賀ら,「クロマトグラフィー(Chromatography)」,(日本),2001年,22巻,2号,69-83頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
密閉型容器や管の内壁を改質する目的で、改質剤を含む溶液の送液によるコーティング処理法は、様々な性質の改質法を選択することができるメリットを有するが、容器基板材質への改質剤の結合方法を綿密に検討する必要がある点、送液による改質操作が非常に煩雑である点など、デメリットも多い。
【0012】
ポリスチレンは、タンパク質を物理吸着する性質も有しているため、従来から、固定化担体機能をもつ測定容器の材質として選択され、例えば、ELISAプレートの素材などに広く用いられている。しかしながら、ポリスチレンは、異なる等電点や異なる疎水性をもつタンパク質の吸着力に差があるため、任意のタンパク質に関して、分析に必要な量を固定化することができるわけではなく、適用が制限されるという重大な欠点があった。
【0013】
従って、本発明の課題は、任意の酵素又はパートナー(例えば、タンパク質又は核酸、特にはタンパク質)に関して、分析に必要な量を高密度で内壁に固定化することが可能な、バイオリアクター用担体(特には、独立した注入口及び排出口を有する容器又は管)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題は、本発明による、バイオリアクター用担体におけるプラスチック製内壁表面が、放射線照射処理又は放電処理されていることを特徴とする、バイオリアクター用担体によって解決することができる。
【0015】
本発明によるバイオリアクター用担体の好ましい態様では、プラスチック製内壁表面がポリスチレン又はスチレン系共重合体である。
また、別の好ましい態様では、放射線がガンマ線である。
更に別の好ましい態様では、ガンマ線照射処理の線量が1〜100kGyである。
更に別の好ましい態様では、ガンマ線がコバルト60を線源とするガンマ線である。
更に別の好ましい態様では、バイオリアクター用担体が、独立した注入口及び排出口を有する容器又は管である。
【0016】
また、本発明は、前記バイオリアクター用担体に、パートナーの一方又は酵素を接触させて固定化し、非固定化パートナー又は非固定化酵素を洗浄除去して得られることを特徴とする、バイオリアクターに関する。
【0017】
また、本発明は、前記バイオリアクター用担体、あるいは、前記バイオリアクターを用いることを特徴とする、分析対象物質の分析方法に関する。
【0018】
また、本発明は、バイオリアクター用担体のプラスチック製内壁表面を、放射線照射処理又は放電処理することを特徴とする、バイオリアクター用担体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のバイオリアクター用担体においては、プラスチック製内壁表面を放射線照射処理又は放電処理によって表面改質を行っているので、種々の酵素やパートナー(例えば、等電点の異なる種々のタンパク質)を結合することができ、酵素やパートナーの性質の差に影響を受けにくい。
従って、本発明のバイオリアクター用担体によれば、改質剤を含む溶液の送液をする必要なしに、種々の酵素、パートナーに関して、充分な一定量を吸着して、固定化担体機能をもつバイオリアクターとすることができる。
【0020】
このように、担体内側表面上へ酵素又はパートナーを効率的に固定化することができるので、生物学的分析方法などにおけるBF分離操作を効率的に実施することができる。また、放射線照射処理又は放電処理は、安価に行うことができ、大量調製も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(1)バイオリアクター用担体及びパートナー担持バイオリアクター
本発明のバイオリアクター用担体は、その内部に、溶液を注入及び排出可能な反応室を有し、前記反応室の内壁表面がプラスチック製であるバイオリアクター用担体において、前記内壁表面(全面又はその一部)が放射線照射処理又は放電処理されている限り、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知のプラスチック製担体(すなわち、放射線照射処理又は放電処理が行われていないプラスチック製担体)の表面に対して放射線照射処理又は放電処理を実施することによって製造することができる。
【0022】
放射線照射処理又は放電処理の対象となる被処理出発担体としては、例えば、全体がプラスチックからなるプラスチック製担体、プラスチック又はそれ以外の材料(例えば、ガラス又は金属)からなる担体の内壁表面(全面又はその一部)をプラスチックでコートしたプラスチックコーティング担体などを挙げることができる。
担体材料として用いることのできる前記プラスチックとしては、バイオリアクター用担体の材料として一般的に使用されているプラスチック、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリスチレン若しくはスチレン系共重合体[例えば、ポリ(α−メチルスチレン)]、ポリアセタール樹脂、又はフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0023】
前記担体材料の内、内壁表面の放射線照射処理又は放電処理を担体の外部から実施することができる点で、放射線(例えば、ガンマ線)や放電により産生される電子を透過させることができる材料、例えば、ポリスチレン又はスチレン系共重合体が好ましい。なお、放射線を透過しない材料であっても、例えば、注入口又は排出口から放射線照射装置を挿入し、担体内部から内壁表面の放射線照射を実施することができる。
【0024】
放射線照射処理には、例えば、ガンマ線を用いることができる。ガンマ線照射線量は、好ましくは1〜100kGy、より好ましくは5〜50kGy、更に好ましくは10〜35kGyにわたって実施することができる。この放射線照射処理によって、プラスチック製担持表面の表面改質が行われるので、酵素やパートナー(例えば、タンパク質又は核酸)に対する吸着性が向上する。
【0025】
放電処理には、例えば、プラズマ放電又はコロナ放電を用いることができる。
例えば、空気中でコロナ放電が起きると、発生した電子の衝突に加えて、二次的に発生するオゾンや紫外線による効果によって、樹脂などの表面に反応性や極性の高い官能基が発生し、表面の濡れ性や反応性を高めることができる。
また、プラズマ放電により産生される加速電子(中性粒子)の衝突に加えて、二次的に産生される酸素ラジカル、オゾン、OHラジカル等が基板表面に衝突、反応し、表面上の炭素化合分子錯体切断を行い、それらをCO、Hとして気化させることにより、表面処理が可能である。これらのエネルギーは、UV又はエキシマランプの分子錯体切断エネルギーよりも数倍高いことが知られている。
【0026】
こうして放射線照射処理又は放電処理された本発明によるバイオリアクター用担体には、任意のパートナー(生物学的パートナー)の一方又は酵素を担持させることができる。本明細書において「パートナー」とは、相互に特異的に結合することのできる物質を意味し、例えば、抗原抗体反応によって相互に特異的に結合可能な抗原及び抗体、相補的結合により特異的にハイブリダイズ可能な核酸(例えば、DNA又はRNA)、あるいは、相互に特異的に結合可能なアプタマー及びタンパク質を挙げることができ、好ましくはタンパク質である。なお、アプタマーとは、アデニン、グアニン、シトシン、チミンから構成されるDNA(DNAアプタマー)、又はアデニン、グアニン、シトシン、ウラシルから構成されるRNA(RNAアプタマー)で、特定のタンパク質と特異的に結合することのできる核酸を意味する。
【0027】
本発明においては、本発明のバイオリアクター用担体に、分析対象物質に応じて適宜選択した任意のパートナー又は酵素を担持させることにより作製した、本発明のバイオリアクターを用いて、分析対象物質の分析(生物学的分析)を実施することができる。本発明によるバイオリアクター用担体には、酵素や、分析対象物質に対して特異的に結合可能なパートナーを担持させるか、あるいは、分析対象物質それ自体をパートナーとして担持させることができる。
【0028】
本発明のバイオリアクター用担体にパートナー又は酵素を担持させる方法は、予め放射線照射処理又は放電処理を実施しておくこと以外は、通常のバイオリアクターの作製方法(例えば、物理吸着法)をそのまま適用することができる。より具体的には、放射線照射処理又は放電処理したバイオリアクター用担体に、パートナーの一方又は酵素を含む水溶液を接触させて前記パートナー又は酵素を前記担体の内壁表面に固定化し、続いて、非固定化パートナー又は酵素を洗浄して除去し、必要があれば、更にブロッキング剤で処理することができる。
【0029】
前記の洗浄液としては、例えば、緩衝液、蒸留水、若しくは生理食塩水、又は界面活性剤を含んだ緩衝液、蒸留水、若しくは生理食塩水を用いることができる。また、ブロッキング剤としては、例えば、牛血清アルブミン、スキムミルク、及び合成高分子などを用いることができる。パートナー又は酵素を担持したバイオリアクター用担体(すなわち、パートナー又は酵素担持バイオリアクター)の内壁表面をブロッキング剤で処理することにより、前記パートナー又は酵素以外のタンパク質の吸着を防止することができる。
【0030】
本発明のバイオリアクター用担体の形状は、その内部に、溶液を自在に注入及び排出可能な反応室を有する限り、特に限定されるものではなく、例えば、独立した注入口及び排出口を有する容器又は管を挙げることができる。前記注入口及び排出口の数は、それぞれ、1又はそれ以上であることができる。また、反応室の数も、1又はそれ以上であることができる。反応室が複数の場合、隣接する反応室を結ぶ連絡路は、一方の反応室における排出口と、もう一方の反応室における注入口とを兼用する。
【0031】
こうして得られたパートナー又は酵素担持バイオリアクターは、例えば、液体を送液しながら行う送液型生物学的分析法用基板又はアフィニティーカラムとして用いることができる。更に、アッセイ用基板として用いる際に、予め作製した複数の生物学的パートナー担持放射線照射処理又は放電処理担体を、生物学的パートナーを担持していない担体(ポリスチレン又はスチレン共重合体以外の材質のものでも構わない)を天板として貼り付けることにより、全体として1つの担体の異なった位置に複数の免疫学的パートナーを担持した、送液型生物学的分析法用タンパク質チップ(アレイ)として使用することもできる。
【0032】
また、酵素を担持させたバイオリアクターは、生物が持つ酵素の特性を利用して物質の合成や分解を行う装置と利用することができ、例えば、エネルギーの発生や、環境汚染物質の分解、特定の生体成分の微量定量による病気の診断などに使用することができる。バイオリアクターに担持させることのできる酵素とその利用方法としては、例えば、担子菌Coriolus versicolor及びPeurolus ostreatusの菌体外酵素とPycnoporus coccineus由来のラッカーゼを用いて内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)のうちノニルフェノール、オクチルフェノール、又はビフェニールの酵素分解を行う利用方法、あるいは、β−フルクトフラノシダーゼをグリシジルアクリレートを母体とする坦体に固定化し、基質に乳糖と蔗糖を通すことにより、乳化オリゴ糖(4-β-D-galactosylsucrose)の生産を行う利用方法などを挙げることができる。
【0033】
(2)分析方法
本発明のバイオリアクター用担体を用いて、各種分析を実施することもできる。例えば、本発明の分析方法の一態様として、分析対象物質が抗原であり、固定化用パートナー及び標識化パートナーとして、前記抗原に対する抗体を用いる態様(いわゆるサンドイッチ法)、すなわち、
(1)本発明のバイオリアクター用担体の内壁表面に、分析対象物質(例えば、抗原A)に対して特異的に結合可能な第1のパートナー(例えば、抗体B)を固定化する工程;
(2)前記第1パートナー(抗体B)を固定化して担持したバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記分析対象物質(抗原A)を含む可能性のある被検試料とを接触させる工程;
(3)前記第1パートナー(抗体B)を固定化して担持し、更に前記被検試料に接触させたバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記分析対象物質(抗原A)に対して特異的に結合可能で、標識化された第2のパートナー(例えば、抗体C)とを接触させる工程;
(4)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記第1パートナー(抗体B)に結合した前記分析対象物質(抗原A)に対して未反応の標識化第2パートナー(抗体C)をバイオリアクター用担体の内壁表面から除去する工程;及び
(5)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記第1パートナー(抗体B)に結合した前記分析対象物質(抗原A)に結合した標識化第2パートナー(抗体C)の標識に由来する信号を分析する工程
を含むことを特徴とする、分析対象物質の免疫学的分析方法(以下、本発明の分析方法にける「第1態様」と称する)を挙げることができる。
【0034】
前記第1態様におけるパートナーとして免疫学的パートナーを使用する場合には、第1免疫学的パートナー(例えば、抗体B)及び第2免疫学的パートナー(例えば、抗体C)は、ポリクローナル抗体であるかあるいはモノクローナル抗体であることができる。両者がモノクローナル抗体である場合は、第1免疫学的パートナーと第2免疫学的パートナーとで異なるモノクローナル抗体を用いる。
【0035】
前記第1態様における工程(1)において、第1パートナーを担体上に固定化する場合には、例えば、第1パートナーを担体上に直接、固定化することもできるし、あるいは、間接的に、例えば、適当な物質を介して固定化することもできる。例えば、第1パートナーがアプタマーである場合には、ビオチン−アビジン系を介して固定化することができる。より具体的には、例えば、アプタマーを予めビオチン化し、バイオリアクター用担体上にアビジン(又はストレプトアビジン)を固定化した後、ビオチン化アプタマーとアビジン固定化担体とを接触させることにより、前記担体上に、第1パートナーを間接的に固定化することができる。
【0036】
本発明の分析方法の別の一態様として、分析対象物質が抗体(例えば、抗体X)であり、固定化用パートナーが前記抗体に対する抗原(例えば、抗原Y)であり、標識化パートナーが前記抗原に対する抗体(例えば、抗体Z)である態様(いわゆる2段階競合法)、すなわち、
(1)本発明のバイオリアクター用担体の内壁表面に、分析対象物質(例えば、抗体X)に対して特異的に結合可能な第1のパートナー(例えば、抗原Y)を固定化する工程;
(2)前記第1パートナー(抗原Y)を固定化して担持したバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記分析対象物質(抗体X)を含む可能性のある被検試料とを接触させる工程;
(3)前記第1パートナー(抗原Y)を固定化して担持し、更に前記被検試料に接触させたバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記第1パートナー(抗原Y)に対して特異的に結合可能で、標識化された第2のパートナー(例えば、抗体Z)とを接触させる工程;
(4)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記第1パートナー(抗原Y)に対して未反応の標識化第2パートナー(抗体Z)をバイオリアクター用担体上から除去する工程;及び
(5)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記第1パートナー(抗原Y)に結合した標識化第2パートナー(抗体Z)の標識に由来する信号を分析する工程
を含むことを特徴とする、分析対象物質の免疫学的分析方法(以下、本発明の分析方法にける「第2態様」と称する)を挙げることができる。
【0037】
前記第2態様における工程(1)において、第1パートナーを担体上に固定化する場合には、例えば、第1パートナーを担体上に直接、固定化することもできるし、あるいは、間接的に、例えば、適当な物質を介して固定化することもできる。例えば、第1パートナーがアプタマーである場合には、ビオチン−アビジン系を介して固定化することができる。より具体的には、例えば、アプタマーを予めビオチン化し、バイオリアクター用担体上にアビジン(又はストレプトアビジン)を固定化した後、ビオチン化アプタマーとアビジン固定化担体とを接触させることにより、前記担体上に、第1パートナーを間接的に固定化することができる。
【0038】
本発明の分析方法の更に別の一態様として、分析対象物質が抗原であり、1次抗体として前記抗原に対する抗体を、標識化2次抗体として前記1次抗体に対する抗体を用いる態様、すなわち、
(1)本発明のバイオリアクター用担体の内壁表面に、分析対象物質(抗原A)を含む可能性のある被検試料を接触させる工程;
(2)前記被検試料を接触させたバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記分析対象物質(抗原A)に対して結合可能な第1のパートナー(例えば、抗体B)とを接触させる工程;
(3)前記被検試料を接触させ、更に前記第1パートナー(抗体B)と接触させたバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記第1パートナー(抗体B)と特異的に結合可能で、標識化された第2のパートナー(例えば、抗体C)とを接触させる工程;
(4)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記分析対象物質(抗原A)に結合した前記第1パートナー(抗体B)に対して未反応の標識化第2パートナー(抗体C)をバイオリアクター用担体の内壁表面から除去する工程;及び
(5)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記分析対象物質(抗原A)に結合した前記第1パートナー(抗体B)に結合した標識化第2パートナー(抗体C)の標識に由来する信号を分析する工程
を含むことを特徴とする、分析対象物質の免疫学的分析方法(以下、本発明の分析方法にける「第3態様」と称する)を挙げることができる。
【0039】
本発明の分析方法の更に別の一態様として、分析対象物質を予め標識し、前記分析対象物質に対するパートナーを用いる態様、すなわち、
(1)本発明のバイオリアクター用担体の内壁表面に、分析対象物質(例えば、抗原A)に対して特異的に結合可能なパートナー(例えば、抗体B)を固定化する工程;
(2)前記パートナー(抗体B)を固定化して担持したバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記分析対象物質(抗原A)を含む可能性のある被検試料とを接触させる工程;
(3)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記パートナー(抗体B)に対して未反応の被検試料をバイオリアクター用担体の内壁表面から除去する工程;及び
(4)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記パートナー(抗体B)に結合した前記分析対象物質(抗原A)の標識に由来する信号を分析する工程
を含むことを特徴とする、分析対象物質の免疫学的分析方法(以下、本発明の分析方法にける「第4態様」と称する)を挙げることができる。
【0040】
本発明の分析方法の更に別の一態様として、分析対象物質を予め標識し、前記分析対象物質に対するパートナーと、解離剤とを使用する態様、すなわち、
(1)本発明のバイオリアクター用担体の内壁表面に、分析対象物質(例えば、抗原A)に対して特異的に結合可能なパートナー(例えば、抗体B)を固定化する工程;
(2)前記パートナー(抗体B)を固定化して担持したバイオリアクター用担体の内壁表面と、前記分析対象物質(抗原A)を含む可能性のある被検試料とを接触させる工程;
(3)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記パートナー(抗体B)に対して未反応の被検試料をバイオリアクター用担体の内壁表面から除去する工程;
(4)バイオリアクター用担体の内壁表面に固定化された前記パートナー(抗体B)に結合した前記分析対象物質(抗原A)を、解離剤により担体から溶出させる工程;
(5)溶出された分析対象物質(抗原A)の標識に由来する信号を分析する工程
を含むことを特徴とする、分析対象物質の免疫学的分析方法(以下、本発明の分析方法にける「第5態様」と称する)を挙げることができる。
【0041】
前記第4態様又は第5態様において、分析対象物質が抗体である場合には、前記パートナーとして抗原を用いることができる。分析対象物質が核酸である場合には、前記パートナーとしてその相補的核酸を用いることができる。第4態様又は第5態様で用いる抗体は、ポリクローナル抗体であるかあるいはモノクローナル抗体であることができる。
【0042】
第5態様で使用する解離剤としては、分析対象物質及びパートナーの組合せが抗原抗体の組合せである場合には、例えば、酸、アルカリ溶液、ドデシル硫酸Na(SDS)、チオシサン酸塩、又はグアニジン塩酸を使用することができ、分析対象物質及びパートナーの組合せが核酸である場合には、例えば、アルカリ溶液を使用することができる。
【0043】
前記第4態様又は第5態様における工程(1)において、パートナーを担体上に固定化する場合には、例えば、パートナーを担体上に直接、固定化することもできるし、あるいは、間接的に、例えば、適当な物質を介して固定化することもできる。例えば、パートナーがアプタマーである場合には、ビオチン−アビジン系を介して固定化することができる。より具体的には、例えば、アプタマーを予めビオチン化し、バイオリアクター用担体上にアビジン(又はストレプトアビジン)を固定化した後、ビオチン化アプタマーとアビジン固定化担体とを接触させることにより、前記担体上に、パートナーを間接的に固定化することができる。
【0044】
本発明の分析方法で用いる標識物質としては、公知の標識物質、例えば、発色物質、発光物質、蛍光物質、又は酵素などを用いることができる。
【0045】
本発明による分析方法で分析可能な対象物(すなわち、分析対象物質)は、それに特異的な結合可能なパートナーが存在する限り、特に限定されるものではないが、例えば、タンパク質(例えば、抗原、抗体、又はレセプターなど)、核酸(例えば、DNA又はRNA)、又は生理活性を持つ化学物質などである。また、本発明による分析方法で分析可能な被検試料は、前記分析対象物質を含む可能性のある試料であれば、特に限定されず、特には生体試料、例えば、血液、血清、血漿、尿、髄液、又は細胞若しくは組織破砕液などを挙げることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によってポリスチレン製担体表面の放射線照射処理による改質を行い、アレルゲン特異IgE抗体測定系を用いる免疫学的分析方法において評価した。放射線照射処理されていないポリスチレン製担体に比べて、放射線照射処理された担体の方が、担体に結合した免疫学的に特異的結合可能な免疫学的パートナーの、その分析対象物質に対して免疫学的に結合活性の高い結果について具体的に説明する。
実施例においては、ポリスチレン製容器としての一例を示しているに過ぎず、ポリスチレン又はスチレン共重合体を原料とする容器又は管を使用することもできる。また、実施例では免疫学的測定法における標識体のシグナルを分析しているが、放射線照射ポリスチレン製容器内壁上に分析対象物質に対して特異的に結合することのできるパートナーを結合させ、分析対象物質を含む溶液を注入し、免疫学的結合を解離させることのできる条件にて分析対象物質を容器外へ溶出させ、分析対象物質を選択的に捕獲するアフィニティーカラムとしても使用することができる。また、容器内壁上へ酵素を結合させ、物質の合成や分解、特定の生体成分の微量定量なども行うことができる。
なお、実施例に示された内容および検出法は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
《実施例1:ポリスチレン製容器内でのアレルゲン特異IgE抗体のイムノアッセイ》
(1)イムノアッセイ用ポリスチレン製容器の作製
図1及び図2に示すポリスチレン製容器を作製した。図1に示すように、ポリスチレン容器1(1cm×2cm×0.2cm)は、その内部に反応室11が設けられている。反応室11には、注入口12から溶液を注入することができ、反応室11内の溶液は、排出口13から排液することができる。図2には、担体に結合させたいパートナーを含む溶液を容器内に送液した場合に、パートナーが容器内壁に結合する部分を着色して示している。
【0048】
(2)ガンマ線照射
実施例1(1)で作製したポリスチレン製容器は、コバルト60のガンマ線を用い、15kGyの線量で放射線照射処理した。
【0049】
(3)ガンマ線照射処理ポリスチレン製容器内壁へのアレルゲンの結合
実施例1(2)において調製したガンマ線照射処理ポリスチレン製容器内へ、免疫反応の固定化量には充分な量(1μg/mL)のアレルゲンを含むミルクアレルゲン水溶液200μLを注入し、恒湿槽内で、25℃にて1時間静置し、アレルゲンを容器内壁上に結合させた。結合反応の終了後、0.1%ツイーン(Tween)−20及び0.15mol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸緩衝液を余剰のアレルゲン溶液を洗い流すのに充分な量を注入し、アレルゲン水溶液を除去した。次いで、0.25%リピジュア(日本油脂社)を含む20mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)200μLを注入し、37℃で1時間静置し、ブロッキングを行った。容器はアッセイに用いるまで4℃で保存した。対照として、ガンマ線照射処理を行っていないポリスチレン製容器を用い、上記と同様に操作を行ってアレルゲン固定化容器を作製した。
【0050】
(4)アレルゲン特異IgE抗体の測定
(4−1)アレルゲン特異IgE抗体のイムノアッセイ手順
前記実施例1(1)〜(3)で調製したアレルゲン結合ポリスチレン製容器へ、検体(アレルゲン特異IgE抗体陰性ヒト血清及び陽性ヒト血清)200μLをそれぞれ別の容器へ注入して容器内に満たし、室温で1時間静置した。洗浄液(0.1%Tween−20及び0.15mol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸緩衝液)を検体成分を洗い流すのに充分な量を容器内へ注入した後、抗ヒトIgE抗体標識ユーロピウム錯体封入ナノ粒子試薬200μLを注入して容器内に満たし、室温で1時間静置した。続いて、反応容器内へ上記洗浄液を標識ナノ粒子試薬を洗い流すのに充分な量を容器内へ注入した後、抗原抗体反応によって容器内壁上に結合したユーロピウム錯体の時間分解蛍光強度を測定し、アレルゲン特異IgE抗体を分析した。
なお、前記の抗ヒトIgE抗体標識ユーロピウム錯体封入ナノ粒子試薬は、Matsuya et al., Anal. Chem., 2003, 75, 6124-6132に記載の抗体標識ユーロピウム錯体封入ナノ粒子の調製法に準じて調製した。
【0051】
(4−2)時間分解蛍光測定条件
アレルゲン特異IgE抗体のイムノアッセイにおける時間分解蛍光測定は、DELFIA蛍光光度計(Wallac製)を使用し、以下の条件で実施した。
待機時間:0.20ms
測光時間:0.40ms
測定波長:615nm
DELFIA蛍光光度計は、96穴マイクロプレート測定用の検出器であるが、上記ポリスチレン製容器の測定は、96穴マイクロプレート大の枠を用いてポリスチレン製容器を固定して行われた。
【0052】
(4−3)測定結果
15kGyの線量でガンマ線照射処理を行ったポリスチレン製容器と、ガンマ線照射処理を行っていない対照用ポリスチレン製容器とに関して、ミルク特異IgE抗体を測定した結果を図3に示す。
【0053】
図3から明らかなように、ガンマ線照射処理されたポリスチレン製容器を用いた場合のミルク特異IgE抗体陰性ヒト血清の測定値は、ガンマ線照射処理ポリスチレン製容器の方がガンマ線照射処理を行っていないポリスチレン製容器に比べて低かった。これは、ポリスチレン製容器をガンマ線照射処理することによって、標識ナノ粒子試薬が容器内壁表面上へ非特異的に吸着する量を減少させることができることを示している。一方、ミルク特異IgE抗体陽性ヒト血清の測定値は、ポリスチレン製容器をガンマ線照射処理することにより、ガンマ線照射を行っていないポリスチレン製容器を用いた場合の測定値に比べて、有意に高値であった。これは、ポリスチレン製容器をガンマ線照射処理することによって、容器内壁表面の改質が起こり、免疫学的反応において好ましい状態でミルクアレルゲンが容器内壁表面上に固定化されたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のバイオリアクター用担体は、生物学的分析、例えば、免疫学的分析の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1で用いたポリスチレン製容器の構造を模式的に示す説明図である。
【図2】図1に示すポリスチレン製容器内に、分析対象物質に対して特異的に結合することのできるパートナーを含む溶液を送液した際に、容器内壁上に前記パートナーが結合される部分を示す説明図である。
【図3】ガンマ線照射処理又は未処理ポリスチレン製容器を用いたミルク特異IgE抗体イムノアッセイの測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオリアクター用担体におけるプラスチック製内壁表面が、放射線照射処理又は放電処理されていることを特徴とする、バイオリアクター用担体。
【請求項2】
前記プラスチック製内壁表面がポリスチレン又はスチレン系共重合体である、請求項1に記載のバイオリアクター用担体。
【請求項3】
放射線がガンマ線である、請求項1又は2に記載のバイオリアクター用担体。
【請求項4】
ガンマ線照射処理の線量が1〜100kGyである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のバイオリアクター用担体。
【請求項5】
ガンマ線が、コバルト60を線源とするガンマ線である、請求項4に記載のバイオリアクター用担体。
【請求項6】
バイオリアクター用担体が、独立した注入口及び排出口を有する容器又は管である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のバイオリアクター用担体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のバイオリアクター用担体の内壁に、パートナーの一方又は酵素を接触させて固定化し、非固定化パートナー又は非固定化酵素を洗浄除去して得られることを特徴とする、バイオリアクター。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のバイオリアクター用担体、あるいは、請求項7に記載のバイオリアクターを用いることを特徴とする、分析対象物質の分析方法。
【請求項9】
バイオリアクター用担体のプラスチック製内壁表面を、放射線照射処理又は放電処理することを特徴とする、バイオリアクター用担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−94812(P2006−94812A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286677(P2004−286677)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000138277)株式会社三菱化学ヤトロン (30)
【Fターム(参考)】