説明

バッファ層の製造方法および光電変換素子の製造方法

【課題】CBD法による光電変換素子のバッファ層の製造方法において、反応液中における粒子の発生を抑制して低コスト化を図ると共に、バッファ層成膜工程の短時間化を実現する。
【解決手段】基板保持部20に、成膜用基板10を装着し、基板10をヒーター30により温度T[℃]となるように加熱して、加熱状態を保ったまま、温度Tよりも低い温度T[℃]に温調された反応液2に、少なくとも光電変換半導体層13の表面を接触させることによりバッファ層の成膜を開始し、バッファ層の成膜中は基板10を温度T、反応液2を温度Tに維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学浴析出法を用いた光電変換素子のバッファ層の製造方法、および光電変換素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換層とこれに導通する電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Siまたは多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCISあるいはCIGS系等の薄膜系とが知られている。CI(G)Sは、一般式Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)で表される化合物半導体であり、x=0のときがCIS系、x>0のときがCIGS系である。本明細書では、CISとCIGSとを合わせて「CI(G)S」と表記してある。
【0003】
CI(G)S系等の従来の薄膜系光電変換素子においては一般に、光電変換層とその上に形成される透光性導電層(透明電極)との間にバッファ層(CdSなどのCd系化合物、Zn(O,OH,S)などのZn系化合物)が設けられている。かかる系では通常、バッファ層は化学浴析出(CBD:Chemical Bath Deposition)法により成膜されている。
【0004】
バッファ層の役割としては、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等が考えられる。CI(G)S系等では光電変換層の表面凹凸が比較的大きく、特に(4)の条件を良好に充たすために、液相法であるCBD法が好ましいと考えられる。
【0005】
CBD法では、所定温度に加熱した反応溶液中に光電変換層を表面に備えた基板を浸漬させることにより光電変換層上にバッファ層を成膜する方法が一般的である。
他方、CBD法においては、光電変換層へのバッファ層析出と同時に、反応溶液中で粒子(コロイド)が発生し、この粒子が成膜面に付着してしまうという問題や、反応溶液を繰り返し使用できないために、低コスト化が困難であり、また量産性が低いという問題がある。なお、成膜面に粒子が付着したバッファ層を用いて光電変換素子を形成した場合に光電変換素子の性能劣化を引き起こす恐れもある。
【0006】
特許文献1には、量産化を図ったCdSの生成方法および装置が開示されている。具体的には、基板ホルダの温度を基板上にCdSが生成する温度(例えば、60℃)に設定すると共に、溶液温度はCdSの生成反応が起こらない温度(40℃以下)に維持してCdSを成膜する方法が提案されている。また、これにより、基板以外の部分にCdSが生じず、連続成膜が可能となる旨記載されている。
【0007】
特許文献2には、材料溶液使用量を低減して低コスト化を実現するための成膜方法が開示されている。具体的には、基板表面に溶液を必要量滴下し、基板を保持する保持部を加熱する装置が提案されている。これにより、溶液使用量を低減すると共に、基板の温度分布を高精度に制御することができ、膜厚分布や膜質分布に優れ、成膜時間を短縮したプロセスを提供することができる旨記載されている。
【0008】
特許文献3には、反応溶液は加熱せず、基板を保持する保持部を加熱する方法が提案されており、これにより反応溶液中における粒子の生成を抑制することができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−240385号公報
【特許文献2】特開2009−259938号公報
【特許文献3】米国特許出願公開2011/0027938号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1から3に記載のCBD方法、装置であれば、反応溶液中の粒子の発生を抑制することができるため、成膜面への粒子の付着を低減すると共に、反応溶液の繰り返し使用を可能として低コスト化が可能となり、また、量産化を図ることができると考えられる。
【0011】
一方で、光電変換素子の製造に当たっては、CBD法によるバッファ層成膜工程が光電変換素子の製造時間の律速になっており、バッファ層成膜工程をより短時間にすることが求められている。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、CBD法によるバッファ層の製造方法において、反応液中における粒子の発生を抑制して低コスト化を図ると共に、バッファ層成膜工程の短時間化を実現するバッファ層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のバッファ層の製造方法は、基板上に、下部電極、光電変換半導体層、バッファ層、および透光性導電層が積層してなる積層構造を有する光電変換素子における前記バッファ層の製造方法であって、
バッファ層を化学浴析出させるための反応液を蓄える反応槽と、光電変換半導体層が積層された基板を、少なくとも光電変換半導体層の表面を前記反応液に接触させるように保持する基板保持部と、基板を加熱するヒーターと、反応液の温度を制御する反応液温度制御部を備えた装置を用い、
基板保持部に、光電変換半導体層を最表面に備えてなる成膜用基板を装着し、
成膜用基板を前記ヒーターにより温度T[℃]となるように加熱し、
成膜用基板の加熱状態を保ったまま、温度Tよりも低い温度T[℃]に温調された反応液に、少なくとも光電変換半導体層の表面を接触させることによりバッファ層の成膜を開始し、
バッファ層の成膜中は、成膜用基板を温度T、反応液を温度Tに維持することを特徴とする。
【0014】
ここでは、温度T、Tに維持するとは、ヒーターもしくは反応液温度制御部による設定温度をそれぞれT、Tに維持することを意味する。例えば、成膜用基板、反応液の実際の温度は、成膜用基板を反応液に接触させた直後に変動する場合があるが、これらの温度をそれぞれT、Tとなるように(T、Tに近づけるように)ヒーターおよび反応液温度制御部は機能するものである。
【0015】
特に、バッファ層としてZn系化合物層を形成する場合、
温度T[℃]とT[℃]との関係が、
≧70≧T+30
を満たすようにすることが好ましい。
【0016】
上記において、Zn系化合物とは、ZnS、Zn(S,O)およびZn(S,O,OH)のうちのいずれかである。
【0017】
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板上に、下部電極、光電変換半導体層、バッファ層および透光性導電層が積層してなる積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、
バッファ層を、本発明のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のバッファ層の製造方法によれば、基板をヒーターにより温度T[℃]となるように加熱した後に、温度Tよりも低い温度T[℃]に温調された反応液に、少なくとも光電変換半導体層の表面を接触させるので、反応液に浸した時点から早期に析出が開始され、反応液に基板を接触させた後に、基板の温度を上昇させる場合と比較して、バッファ層の成膜に要する時間を短縮することができる。
【0019】
また、成膜時の基板温度を反応液よりも高く設定することにより、反応液中における粒子(コロイド)の発生を抑制すると共に、基板に選択的に成膜を行うことができる。粒子(コロイド)の発生抑制は、反応液の繰り返しの使用を可能とすることから、コスト抑制を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のバッファ層の製造方法を実施する製造装置の一例の概略構成を示す断面図
【図2】図1に示す製造装置の斜視図
【図3】本発明の光電変換素子の製造方法により製造される一実施形態の光電変換素子を示す断面模式図
【図4】実施例2のCBD方法を実施するためのCBD装置の概略構成を示す模式図
【図5】比較例2のCBD方法を実施するためのCBD装置の概略構成を示す模式図
【図6】比較例3のCBD方法を実施するためのCBD装置の概略構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
まず、実施形態の製造方法に用いられる化学浴析出装置1(以下、CBD装置1とする。)について説明する。図1はCBD装置1の断面模式図であり、図2はその概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、CBD装置1は反応液2を蓄える反応槽3と、成膜用基板10を保持する基板保持部(基板ホルダ)20と、成膜用基板10を、その裏面側から加熱するヒーター30と、反応槽3中の反応液2の温度を制御する反応液温度制御部40とを備えている。
【0023】
基板ホルダ20は、成膜用基板10が密着固定される固定面21aを備えた板状部材21を底面とし、該板状部材21からなる底面に連続して設けられた壁面22を備えた容器状のホルダ本体23と、該ホルダ本体23に接続され、反応槽3の一部に掛止可能とされた支持部26とを備えている。
【0024】
ここで、板状部材21の固定面21aは、本体23の外側に凸の湾曲面となるように構成されている。図1に示すように、固定面21aは、紙面左右方向のほぼ中央が最も底面に近くなる凸状に湾曲しており、成膜用基板10はこの湾曲面に沿って湾曲させて固定される。そして、成膜用基板10は成膜面が鉛直下向きとなるように保持される。このとき、成膜用基板10が湾曲して固定されることにより、成膜面10aも湾曲することとなるため、成膜面10aに気泡が付着することを抑制できる。成膜中には、反応槽3内で気泡(ガス)が発生するが、この気泡が成膜面に付着すると、気泡が付着した部分にはバッファ層の析出が起こらず、完全な成膜を行うことが困難となる。すなわち、成膜固定面が平坦面で成膜面が反応液面2aに対して水平に、すなわち平坦な成膜面10aが鉛直下向きとなるように成膜用基板が保持された場合、気泡が成膜面に付着し、一部成膜不良が生じる恐れがある。一方、図1に示すように成膜面10aを湾曲させることにより、気泡の付着を抑えることができ、より良好な成膜を実現することができる。なお、この場合、成膜用基板10の下地となる基板11としては、固定面の湾曲に沿って湾曲できる程度の可撓性を有するものを用いればよい。
【0025】
なお、板状部材の材料としてはステンレスが好ましく、中でもアルカリ耐性を有するSUS316(JIS規格)が最も好ましい。なお、ステンレスの表面をテフロン(登録商標)やカーボン系材料(カーボン材やSiCなどのカーボン化合物)などの耐熱性および耐アルカリ性を有する材料で被覆してもよい。
【0026】
また、基板ホルダ20は、固定面21aに成膜用基板10を、その表面(成膜面)10aのみを反応液2に接触可能なように、成膜用基板10を基板ホルダ本体23に向けて液漏れ防止治具24によって把持するよう構成されている。さらに、締め付け固定が可能な固定枠25によって、液漏れ防止治具24と把持された成膜用基板10の隙間から反応液2が侵入しないように液漏れ防止治具24と成膜用基板10を締め付け固定するよう構成されている。
【0027】
このように、成膜用基板10の成膜面のみを反応液2に接触可能とすることにより、成膜用基板10の最表面の層13以外の部分が反応液2に接触しないように成膜用基板10を保持することができる場合には、下地基板11として、反応液2に浸食される可能性のある基材、例えばAl基材を用いることもできる。
【0028】
ヒーター30は、ホルダ本体23のステンレス板状部材21の固定面21aの反端側の面、すなわち容器状のホルダ本体23の内側底面に、成膜用基板10より大きい領域に一様に配置されたシート状のヒーターである。特にここでは、ラバーヒーターを備えるものとしている。成膜用基板10の面積より大きい領域にラバーヒーターを備えることにより、板状部材を介して、成膜用基板10を均一に加熱することができ、基板温度の均一性を高めることができる。基板温度の均一性が高いほど、析出される膜の膜厚均一性を高めることができ、好ましい。
【0029】
反応液温度制御部40は、反応槽3の底面に備えられた温度調整手段41と、底面付近の反応液温度を測定する温度測定部42を備えている。温度調整手段41としては、加熱および/または冷却手段を備える。加熱手段としては各種ヒーター、冷却手段としては、冷水等による水冷デバイス、ファン等の空冷デバイスの他、ヒートシンクなどを備えればよい。
なお、反応液の温度は、温度調整手段41が備えられている近傍の反応液温度で定義するものとする。
【0030】
反応槽3の内壁は、耐アルカリ性のある疎水性材料によるコーティングを施こしておくことが好ましい。この疎水性材料のコーティングを施すことにより、基板への膜析出時における、内壁へ膜析出を抑制することができる。これにより、原料の浪費やメンテナンスの手間を省くことができる。
しかしながら、疎水性材料によりコーティングを行っていても、長時間の成膜工程を経ると内壁に析出物がこびりついてくる。このような析出物は塩酸水溶液などで洗浄することにより、溶解して除去することができる。したがって、内壁をコーティングする疎水性材料は、耐アルカリ性のみならず、耐酸性を有するものであることが好ましい。このようなコーティング材料としては、テフロン(登録商標)が好適である。
【0031】
本実施形態の製造方法では、上述のCBD装置1を用いて、基板上に、下部電極、光電変換半導体層、バッファ層、および透光性導電層が積層してなる積層構造を有する光電変換素子におけるバッファ層を製造する。
【0032】
基板11上に下部電極(図1、2では図示省略)、光電変換半導体層13が順次積層されたバッファ層を形成するための成膜用基板10を用意し、まず、この成膜用基板10を基板ホルダ20に装着する。そして、基板10をヒーターにより温度T[℃]となるように加熱する。
【0033】
その後、成膜用基板10の加熱状態を保ったまま(基板10をヒーターで加熱させつつ)、温度Tよりも低い温度T[℃]に温調された反応液に、少なくとも光電変換半導体層13の表面を接触させる。図1に示すように、基板ホルダ20により、基板10ごと反応液に浸漬させるが、基板裏面は保持部20の固定面15に密着され、液漏れ防止治具24および固定枠25により固定されているので、基板の裏面および側端面は反応液と接触しない。
【0034】
基板10は反応液への浸漬前に加熱されているため、基板10の浸漬後、早期にバッファ層の析出が開始される。
【0035】
基板10を反応温度まで十分に加熱した後に、反応液に浸漬させるため、基板を浸漬させた後に基板を加熱する場合と比較して、早期にバッファ層の析出が始まる。したがって、成膜に要する時間を短縮することができる。特に、基板10として金属基板を用いれば、加熱による基板の昇温速度が大きいことから成膜時間の短縮化をさらに促進することができる。
【0036】
成膜中は、ヒーター30により基板温度をTに維持し、また、反応液温度制御部40により反応液温度をTに維持する。なお、基板をTに加熱後、Tより低温の反応液に浸漬させることにより、基板温度は一旦低下し、反応液温度は一旦上昇すると考えられるが、成膜中もヒーターの温度設定をTに、反応液温度制御部40による温調温度をTに維持するものとする。
【0037】
ここで、基板の加熱温度T[℃]を、70〜90℃の所定の温度(一定温度)とし、反応液の温調温度T[℃]を、60℃以下、好ましくは40℃以下の所定の温度(一定温度)とすることが好ましい。
特には、バッファ層としてZn系化合物層を形成する場合、T≧70≧T+30であることが好ましい。すなわち、Tは70℃以上であり、TとTは、30℃以上の温度差となるように設定することが好ましい。
【0038】
なお、基板加熱温度を反応液の温調温度よりも高くしていることから、反応槽3中において、基板が保持される近傍と基板から離間した領域とで反応液中に温度分布が生じていると考えられるが、ここでは、基板から十分に離れた箇所の反応液の温度を反応液温度として測定する。具体的には、図1のCBD装置1に示すように、反応液の温度調整手段41は基板が保持される水面近傍に対向する反応槽3の底面側に備えられており、温度測定部42は、反応槽3の底面付近の反応液の温度を測定する。
【0039】
基板が70℃以上であれば、基板が浸漬された近傍の反応液の温度が上昇し、基板へのバッファ層析出が十分に可能なものとなる。一方で、基板温度よりも反応液の設定温度を低くすることにより、基板近傍以外の部分での反応液の温度を低くして、反応液中に粒子(コロイド)が生じるのを抑制することができる。反応液が60℃以下であれば析出反応は大幅に抑制することができ、40℃以下であれば、ほとんど粒子(コロイド)が発生しない。
【0040】
反応液中に浮遊する粒子(コロイド)が増加するほど、析出膜表面への粒子状固形物の付着の可能性が高くなってしまう。粒子状固形物とは、一次粒子径が数十〜数百nmオーダーの粒子が凝集した固形物である。概ね円相当径が1μm以上の粒子状固形物(二次凝集体)がバッファ層表面に付着したまま光電変換素子を作製すると、この部分だけ抵抗が増し、電流が流れにくい領域が発生することになり、光電変換素子の性能が低下する可能性がある。
また、バッファ層上に透光性導電層を形成する工程においてバッファ層表面に付着した粒子状固形物(二次凝集体)が剥離して、それと同時にバッファ層の剥離などが生じて、光電変換素子の性能が低下する可能性がある。
【0041】
本発明の製造方法のように、反応液の温度を基板温度と比較して低くすることにより、反応液全体を析出温度とする場合と比較して粒子(コロイド)発生を抑制することができるので、析出膜表面への粒子状固形物の付着も抑制することができる。また、基板温度を相対的に高くしていることから、基板への選択的な膜析出を行うことができる。なお、反応槽の内壁をテフロン(登録商標)コーティングしておけば、さらに、反応槽内壁への析出の抑制効果を高めることができる。また、反応液の温度を60℃以下、さらには40℃以下と低くすることにより、粒子(コロイド)発生をより積極的に抑制することができる。
【0042】
粒子(コロイド)の発生は、反応液の透過率低下(透明性低下)を促進するものでもあり、粒子(コロイド)を抑制することは、反応液の透過率低下(透明性低下)を抑制することと同義である。反応液の透明度が高いうちは、反応液を再利用できることから、バッファ層の製造コストを抑制することも可能となる。
【0043】
また、粒子(コロイド)発生を抑制する観点から、成膜中は、反応液の撹拌を激しく行わないか、あるいは全く行うことなく実施することが好ましい。ここで、撹拌には、スターラー等による撹拌の他、液循環、反応液への超音波の印加によるものを含むこととする。
先行技術の項で述べた特許文献1の実施形態においては、反応液を循環させることにより溶液濃度を一定に制御する旨記載されているが、このような循環を一定速度以上で行うと、基板と反応液との間に設けた温度差が小さくなる方向にシフトすることとなる。一方、撹拌(液循環)をさせない方が温度差をより保つことができ、より基板への選択的な析出を行う効果が高い。
【0044】
所望の厚さにバッファ層を成膜した後、基板ホルダ20ごと基板を反応液から引き上げ、基板ホルダからバッファ層が形成された基板を取外す。バッファ層析出後に水洗を行い、さらに水洗後にエアーナイフ等の水分除去機構により水分除去を行う。さらに、バッファ層がZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)の場合には150℃〜230℃の温度、好ましくは170℃〜210℃の温度で、5分〜60分、アニールを行う。アニールの方式としては特に限定されないが、市販のオーブン、電気炉、真空オーブン等を利用した温風加熱が好ましい。このように加熱処理を行うことによって光電変換素子の変換効率等の特性を向上させることができる。
【0045】
なお、バッファ層の成膜は、予め設定した条件下での成膜時間と成膜膜厚との関係を調べておいて、所望の成膜膜厚となる成膜時間経過後に終了するようにすればよい。
あるいは、反応液の透過率の変化と成膜膜厚との関係を調べておき、反応液の透過率をインサイチュ(in-situ)で測定し、透過率の低下量に基づいて、成膜を終了するようにしてもよい。
【0046】
また、反応液のpHの変化と成膜膜厚との関係を調べておき、反応液のpHをインサイチュで測定し、pHの変化量に基づいて、成膜を終了するようにしてもよいし、反応液の電気伝導度の変化と成膜膜厚との関係を調べておき、反応液の電気伝導度をインサイチュで測定し、電気伝導度の変化量に基づいて、成膜を終了するようにしてもよい。
【0047】
本発明においてバッファ層の成膜は、化学浴析出(CBD)法によるものである。
「CBD法」とは、一般式 [M(L)] m+ ⇔ Mn++iL(式中、M:金属元素、L:配位子、m,n,i:正数を各々示す。)で表されるような平衡によって過飽和条件となる濃度とpHを有する金属イオン溶液を反応液(化学浴析出溶液)として用い、金属イオンMの錯体を形成させることで、安定した環境で適度な速度で基板上に金属化合物薄膜を析出させる方法である。
【0048】
バッファ層としては特に制限されないが、CdS、ZnS,Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)、InS,In(S,O)及び/又はIn(S,O,OH)等の、Cd,ZnまたはInを含む金属硫化物を含むことが好ましい。バッファ層の膜厚は、5nm〜2μmが好ましく、10〜200nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。
【0049】
バッファ層を析出させるための化学浴析出溶液(反応液)は、少なくともCd、ZnまたはInの金属(M)と硫黄源を含むものである。これによって、上記のバッファ層を形成することができる。硫黄源としては硫黄を含有する化合物、例えばチオ尿素(CS(NH22)、チオアセトアミド(C25NS)の他、チオセミカルバジド、チオウレタン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン等を用いることができる。
【0050】
反応液中の各成分の濃度は、所望のバッファ層を析出させることができれば、特に限定されない。
【0051】
CdSバッファ層を形成する場合には、上記硫黄源と、Cd化合物(例えば硫酸カドミウム、酢酸カドミウム、硝酸カドミウム、塩化カドミウムおよびこれらの水和物等)と、アンモニア水あるいはアンモニウム塩(例えばCH3COONH4、NH4Cl、NH4Iおよび(NH42SO4等)との混合溶液を反応液として用いることができる。
【0052】
ZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)などのZn化合物層からなるバッファ層を形成する場合には、上記硫黄源と、Zn化合物(例えば硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛およびこれらの水和物等)と、アンモニア水あるいはアンモニウム塩(上記と同様)との混合溶液を反応液として用いることができる。
なお、Zn化合物層からなるバッファ層を形成する場合には、反応液にはクエン酸化合物(クエン酸三ナトリウムおよび/またはその水和物)を含有させることが好ましい。クエン酸化合物を含有させることによって錯体が形成されやすく、CBD反応による結晶成長が良好に制御され、膜を安定的に成膜することができる。
【0053】
図1に示したCBD装置1は、バッチ式の成膜を行う形態を想定し、基板ホルダ20に矩形状の基板を1枚ずつ装着するよう構成されているが、本発明のバッファ層の製造方法は、図1に示す装置を用いるものに限るものではなく、基板温度と反応液温度を個別に制御可能なCBD装置であれば、適用可能である。
また本発明の製造方法は、バッチ式に限るものではなく、ロール・トゥ・ロール式の成膜においても適用できる。
【0054】
次に、本発明の光電変換素子の製造方法について説明する。
図3に本発明の光電変換素子の製造方法により製造される一実施形態の光電変換素子の概略断面図を示す。視認しやすくするため、図中、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0055】
図3に示す光電変換素子5は、基板11上に、下部電極(裏面電極)12と光電変換半導体層13とバッファ層14と窓層15と透光性導電層(透明電極)16と上部電極(グリッド電極)17とが順次積層された素子である。
【0056】
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板11上に少なくとも下部電極12と光電変換半導体層13とバッファ層14と透光性導電層16との積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、バッファ層を、本発明のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とするものである。
【0057】
バッファ層以外の各層の成膜方法等は特に制限はない。以下に基板および各層の成膜方法の例について簡単に説明する。
【0058】
(基板)
基板11としては、具体的には、
ガラス基板、
表面に絶縁膜が成膜されたステンレス等の金属基板、
Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及びポリイミド等の樹脂基板等が挙げられる。
【0059】
さらに、基板上にソーダライムガラス(SLG)層が設けられたものであってもよい。ソーダライムガラス層を備えることにより、光電変換層にNaを拡散させることができる。光電変換層がNaを含むことにより、光電変換効率をさらに向上させることができる。
【0060】
上述の通り、本発明のバッファ層の製造方法は、フレキシブな基板にも、フレキシブルでない基板にも適用できる。
一方、図1のCBD装置1に示したように、基板ホルダ20の基板固定面21aが湾曲しているものである場合には、可撓性を有する基板を用いる必要がある。
なお、図1のCBD装置1のように、液漏れ防止治具および固定枠により、基板の裏面および端面保護が可能な装置を用いる場合には、CBD反応液に溶解してしまう成分を含む基板を用いることができる。具体的には、水酸化物イオンと錯イオンを形成しうるAlを含む上述の陽極酸化基板を用いることができる。
【0061】
(下部電極)
下部電極12の主成分としては特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合せが好ましく、Mo等が特に好ましい。下部電極12の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。例えば、基板上にスパッタ法により成膜することができる。
【0062】
(光電変換半導体層)
光電変換半導体層13の主成分としては特に制限されず、高い光電変換効率が得られることから、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることが好ましく、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることがより好ましい。
【0063】
光電変換半導体層13の主成分としては、
CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,およびTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0064】
上記化合物半導体としては、
CuAlS2,CuGaS2,CuInS2
CuAlSe2,CuGaSe2
AgAlS2,AgGaS2,AgInS2
AgAlSe2,AgGaSe2,AgInSe2
AgAlTe2,AgGaTe2,AgInTe2
Cu(In,Al)Se2,Cu(In,Ga)(S,Se)2
Cu1-zIn1-xGaxSe2-yy(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)(CI(G)S),
Ag(In,Ga)Se2,およびAg(In,Ga)(S,Se)2等が挙げられる。
【0065】
また、CuZnSnS,CuZnSnSe,CuZnSn(S,Se),CdTe,(Cd,Zn)Te等であってもよい。
【0066】
光電変換半導体層13の膜厚は特に制限されず、1.0〜4.0μmが好ましく、1.5〜3.5μmが特に好ましい。
【0067】
光電変換半導体層13の成膜方法も特に制限はなく、真空蒸着法、スパッタ法、MOCVD法等により成膜することができる。
【0068】
(バッファ層)
バッファ層14は、上記の本発明のバッファ層の製造方法により製造される。バッファ層14の導電型は特に制限されず、n型等が好ましい。バッファ層14の膜厚は特に制限されず、5nm〜2μmが好ましく、10〜200nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。なお、バッファ層の詳細については既述の通りである。
【0069】
(窓層)
窓層15は、光を取り込む中間層である。窓層15の組成としては特に制限されず、i−ZnO等が好ましい。窓層15の膜厚は特に制限されず、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。窓層15の成膜方法は、特に制限されないが、スパッタ法やMOCVD法が適している。一方で、バッファ層14を液相法により製造するため、製造プロセスを簡易にするためには液相法を用いることも好ましい。窓層15は必須ではなく、窓層15のない光電変換素子としてもよい。
【0070】
(透光性導電層)
透光性導電層16は、光を取り込むと共に、下部電極12と対になって、光電変換半導体層13で生成された電流が流れる電極として機能する層である。透光性導電層16の組成は特に制限されず、ZnO:Al、ZnO:Ga、ZnO:B等のn−ZnO等が好ましい。透光性導電層16の膜厚は特に制限されず、50nm〜2μmが好ましい。透光性導電層16の成膜方法としては特に制限されないが、窓層と同様、スパッタ法やMOCVD法が適している。一方で、製造プロセスを簡易にするためには液相法を用いることも好ましい。
【0071】
(上部電極)
上部電極17の主成分としては特に制限されず、Al等が挙げられる。上部電極17の膜厚は特に制限されず、0.1〜3μmが好ましい。
なお、多数の光電変換素子(セル)が集積化されてなる集積化太陽電池においては、上部電極は直列接続されたセルのうち、電力取出し端となるセルに設けられている。
【0072】
本実施形態の製造方法により製造される光電変換素子5は、以上のように構成されている。
光電変換素子5は、太陽電池等に好ましく使用することができる。光電変換素子5に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
【0073】
なお、本発明の製造方法で作製される光電変換素子は、太陽電池のみならずCCD等の他の用途にも適用可能である。
【実施例】
【0074】
本発明に係る実施例および比較例について説明する。
【0075】
<成膜用基板>
成膜用基板は、下地基板11上に下部電極および光電変換半導体層13が積層されてなるものである。成膜用基板として、下記2種類を用意した。
【0076】
(成膜用基板I)
成膜用基板Iは、100μm厚ステンレス(SUS)−30μm厚Al複合基材上のAl表面にアルミニウム陽極酸化膜(AAO)が形成された陽極酸化基板を用い、AAO表面にソーダライムガラス(SLG)層及びMo電極層、および光電変換半導体層が順次形成されてなるものとした。具体的には、SLG層およびMo電極層をスパッタ法により形成し、光電変換半導体層として、Cu(In0.7Ga0.3)Se2層を3段階法により成膜した。各層の膜厚は、SUS(100μm)、Al(30μm)、AAO(20μm)、SLG(0.2μm)、Mo(0.8μm)、CIGS(1.8μm)であった。基板Iの大きさは10cm×10cmとした。
【0077】
(成膜用基板II)
成膜用基板IIは、Mo電極層付きソーダライムガラス(SLG)基板上にCIGS層を成膜してなるものとした。具体的には、ソーダライムガラス(SLG)基板上に、スパッタ法によりMo下部電極を0.8μm厚で成膜し、さらにMo下部電極上に3段階法を用いて膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se2層を成膜した。基板IIの大きさは3cm×3cmとした。
【0078】
<表面処理>
KCN10%水溶液の入った反応槽を用意し、成膜用基板表面であるCIGS層の表面を室温で3分間分浸漬させてCIGS層表面の不純物除去を行った。取り出した後に十分に水洗を行った。
【0079】
<反応液の調製>
成分(Z)の水溶液(I)として硫酸亜鉛水溶液(0.18[M])、成分(S)の水溶液(II)としてチオ尿素水溶液(チオ尿素0.30[M])、成分(C)の水溶液(III)としてクエン酸三ナトリウム水溶液(0.18[M])、及び成分(N)の水溶液(IV)としてアンモニア水(0.30[M])をそれぞれ調製した。次に、これらの水溶液のうち、I,II,IIIを同体積ずつ混合して、硫酸亜鉛0.06[M],チオ尿素0.10[M],クエン酸三ナトリウム0.06[M]となる混合溶液を完成させ、この混合溶液と、0.30[M]のアンモニア水を同体積ずつ混合してCBD溶液(反応液)を得た。水溶液(I)〜(IV)を混合する際には、水溶液(IV)を最後に添加するようにした。透明な反応液とするには、水溶液(IV)を最後に添加することが重要である。混合して得られた反応液は、孔サイズ0.22μmのろ過フィルタを用いてろ過した。最終的に得られた反応液のpHは10.3であった。
【0080】
<CBD工程>
上記のようにして調製した反応液を用い、実施例および比較例の条件下で、バッファ層としてZn(S,O)膜を成膜した。
【0081】
実施例1〜3については、基板加熱温度T>反応液の温調温度Tを満たし、予め基板を温度Tに加熱した後、温度Tの反応液に浸漬させてバッファ層の成膜を行った。
各実施例および比較例について説明する。各主要条件については表1にも列挙する。
【0082】
(実施例1)
実施例1は、図1に示したCBD装置1を用いた。
成膜用基板Iを基板ホルダにセットして90℃に加熱し、加熱開始15分後に40℃に温調された反応液中に浸漬させ、30分間バッファ層の析出を行った。
【0083】
(実施例2)
実施例2は、図4に模式的に示すCBD装置100を用いた。CBD装置100は、反応液2を蓄えることが可能な反応槽103と、反応槽103の壁面に形成された、成膜用基板10の大きさよりも小さい開口部103aと、この開口部103aに対応する位置であって反応槽103の外側壁面に、開口部103a全体を成膜用基板10で覆うように成膜用基板10を保持する基板保持部(基板ホルダ)104を備え、さらに、反応液温度制御部110および基板加熱制御部120を備えている。
【0084】
基板ホルダ104は、基板10の背面全体を均一に押圧することが可能な背板106(後述の恒温水循環路の一部を兼ねている)と、この背板106を開口部103aに向けて押圧することが可能なネジ部材107とを備えている。
【0085】
反応液温度制御部110は、反応槽103の外側から反応液2を加熱もしくは冷却するために恒温水111を循環させる反応槽103外部に配設された反応液温調用恒温水循環路112と、液温度を一定に維持する恒温槽113を備えている。
【0086】
また、基板加熱制御部120は、基板裏面から基板10を加熱するために恒温水121を循環させる基板裏面に配設された基板加熱用恒温水循環路122と、液温度を一定に維持する恒温槽123とを備えている。すなわち、このCBD装置100は、基板裏面を加熱する機構(基板加熱制御部120)とは別(独立)に、このCBD装置に導入した反応液を所定の温度に制御する機構(反応液温度制御部110)を備え、それぞれの温度を独立に制御することができるようになっている。
【0087】
実施例2は、成膜用基板IIを基板ホルダにセットして90℃に加熱し、40℃に温調しておいた反応液を基板IIの加熱開始15分後に反応槽内に注入し、30分間バッファ層の析出を行った。
【0088】
(実施例3)
実施例2と同じCBD装置を用いた。
反応液の温調温度Tを20℃とし、析出時間を120分としたこと以外は実施例2と同じとした。
【0089】
(比較例1)
実施例1と同じCBD装置を用いた。但し、基板加熱用のヒーターは用いていない。
成膜用基板IIを加熱することなく、90℃に温調した反応液中に浸漬させ、その後60分間バッファ層の析出を行った。
【0090】
(比較例2)
比較例2は、図5に模式的に示すように、反応液2を蓄えることが可能な反応槽133と、反応槽133の壁面に形成された、成膜用基板の大きさよりも小さい開口部133aと、この開口部133aに対応する位置であって反応槽133の外側壁面に、開口部全体を成膜用基板10で覆うように成膜用基板10を保持する基板保持部(基板ホルダ)134を備えた反応ポット130を用いた。基板ホルダ134は、基板10の背面全体を均一に押圧することが可能な背板136と、この背板136を開口部133aに向けて押圧することが可能なネジ部材137とを備えている。
反応槽133に反応液2を保持させると共に、成膜用基板10を基板ホルダ134により保持させた状態で、反応ポット130を恒温槽140の恒温水141中に浸漬させることにより、反応ポット130全体を90℃に加熱し、バッファ層の析出を60分間行った。本方法では、反応液と基板とは同時にほぼ同じ温度に加熱された状態である。
【0091】
(比較例3)
比較例3は、図6に模式的に示すSUS製の反応容器150に準備した反応液2を入れ、成膜用基板I(基板10)を反応容器中に析出面が下になるように立てかけた状態で、反応容器150ごと恒温槽155の恒温水156中に浸漬させて60分間バッファ層の析出を行った。本方法では、成膜用基板Iは反応液を介して加熱されている。
【0092】
(比較例4)
実施例1と同様のCBD装置を用いた。
反応液の温調温度Tを90℃とし、基板加熱温度と温調温度を同じにしたこと以外は実施例1と同じ条件でバッファ層の析出を行った。
【0093】
(比較例5)
実施例1と同様のCBD装置を用いた。
基板加熱を反応液への基板浸漬後に開始した点以外は実施例1と同じ条件でバッファ層の析出を行った。
【0094】
(比較例6)
実施例2と同様のCBD装置を用いた。
成膜用基板IIを基板ホルダにセットして40℃に加熱し、同時に40℃に温調しておいた反応液を反応槽内に注入し、30分間バッファ層の析出を行った。基板保持部の加熱開始時期は、反応液への浸漬と同時とした。
【0095】
<膜厚評価>
CIGS層を被覆したバッファ層の膜厚を評価するために、バッファ層表面に保護膜を形成した後に収束イオンビーム(FIB)加工を行ってバッファ層の断面出しを行い、その断面についてSEM観察を実施した。この断面SEM像から合計35ポイントについて膜厚計測を行い、その平均値を表1に示した。
【0096】
<膜表面評価>
100μm×100μmの視野において、一次粒子サイズが数十〜数百nmオーダーの粒子が凝集した付着物(膜表面を真上から観察した時に発見される凝集体)の存在状態を以下の基準で評価した。
円相当径が3μm以上のものが3個以下の場合を良好(○)、円相当径が3μm以上のものが4個以上、10個以下の場合を可(△)、円相当径が3μm以上のものが11個以上の場合を不良(×)として表1に示した。
【0097】
<反応液の透過率>
反応終了後の反応液について透過率を波長200nmから800nmの範囲で測定し、波長550nmにおける透過率の値を表1に示した。
【0098】
【表1】

【0099】
表1に示すように、実施例1〜3および比較例5のように、反応液温度を基板温度より低く設定することにより、粒子(コロイド)付着数が非常に少なく、良好な膜が得られた。また、このとき、反応液透過率はいずれも80%以上と粒子(コロイド)の発生が抑制されていることも明らかである。
【0100】
反応液の温調温度を20℃とした実施例3では、40℃とした実施例1、2と比較して成膜終了時の反応液透過率が格段に高く、粒子(コロイド)発生抑制効果が顕著である一方、析出速度は実施例1、2と比較して遅かった。
【0101】
一方、実施例1、2および比較例5は、基板加熱温度と反応液温調温度の条件は同一であるが、析出速度が実施例、比較例で大きく異なる。この結果から、基板加熱を反応液浸漬前に行うことにより、析出速度が大幅に速くなることが明らかである。なお、基板温度および反応温度共に40℃とした比較例6については膜析出がなされなかった。
【符号の説明】
【0102】
1 CBD装置
2 反応液
3 反応槽
5 光電変換素子
10 成膜用基板
11 基板
12 下部電極
13 光電変換半導体層
14 バッファ層
15 窓層
16 透光性導電層(透明電極)
17 上部電極(グリッド電極)
20 基板ホルダ(基板保持部)
21 ステンレス板状部材
22 壁面
23 ホルダ本体
24 液漏れ防止治具
25 固定枠
30 ヒーター
40 反応液温度制御部
41 温度調整手段
42 温度測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、下部電極、光電変換半導体層、バッファ層、および透光性導電層が積層してなる積層構造を有する光電変換素子における前記バッファ層の製造方法であって、
前記バッファ層を化学浴析出させるための反応液を蓄える反応槽と、前記光電変換半導体層が積層された前記基板を、少なくとも該光電変換半導体層の表面を前記反応液に接触させるように保持する基板保持部と、前記基板を加熱するヒーターと、前記反応液の温度を制御する反応液温度制御部を備えた装置を用い、
前記基板保持部に、光電変換半導体層を最表面に備えてなる成膜用基板を装着し、
該成膜用基板を前記ヒーターにより温度T[℃]となるように加熱し、
該成膜用基板の加熱状態を保ったまま、前記温度Tよりも低い温度T[℃]に温調された前記反応液に、少なくとも前記光電変換半導体層の表面を接触させることによりバッファ層の成膜を開始し、
該バッファ層の成膜中は、前記成膜用基板を前記温度T、前記反応液を前記温度Tに維持することを特徴とするバッファ層の製造方法。
【請求項2】
前記バッファ層としてZn系化合物を形成する場合、
前記温度T[℃]とT[℃]との関係が、
≧70≧T+30
を満たすことを特徴とする請求項1記載のバッファ層の製造方法。
【請求項3】
基板上に、下部電極、光電変換半導体層、バッファ層および透光性導電層が積層してなる積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、
前記バッファ層を、請求項1または2記載のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とする光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−70032(P2013−70032A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−169379(P2012−169379)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「太陽光発電システム次世代高性能技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】