説明

バラスト水の製造方法及び船舶搭載バラスト水製造装置

【課題】 船舶から排出される大量のバラスト水により特定海域に本来生息しない微生物が持ち込まれることがなく、更に海洋環境を破壊することもないバラスト水の効率的な製造方法及び船舶搭載バラスト水製造装置を提供すること。
【解決手段】 船舶に積載された海水を船舶上で微生物濾過膜に通すことにより海水中の微生物を除去する微生物除去工程と、逆洗により微生物濾過膜を洗浄する逆洗工程を有し、該微生物除去工程で得られる膜濾過水をバラスト水として用いるバラスト水の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の航行時における重心安定のために積載する海洋環境に悪影響を与えないバラスト水(以下、単に「バラスト水」とも言う。)の製造方法及び船舶搭載バラスト水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油タンカー、鉱石運搬船、自動車運搬船等は空荷や積載貨物量が少ない状態で航行する場合がある。その際、船体が浮力により浮き上がり、スクリューや方向舵が水面下に没しなかったり、水面上の船体が風の影響を大きく受けて操縦性が損なわれ航行上極めて危険な状態となる。このため、通常の船舶は航行時の浮力を調整するため、通常載荷重量の30〜40重量%のバラスト水を積載する。
【0003】
例えば、原油タンカーによる輸送は産油国と消費国の往復となり、消費国から産油国への航行では積荷がなく、消費国で船舶内の油槽に停泊区域の海水等を積載してバラスト水としている。一方、バラスト水を積んだ船舶は産油国の近海、あるいは港湾でバラスト水を排出して、原油を再度積載している。
【0004】
近年、船舶から排出されるバラスト水により特定海域に本来生息しない微生物が持ち込まれ、これに起因して海洋生態系の破壊が生じ、当該水域住民の生活に重大な被害を与えるだけではなく、全世界的な海洋環境の破壊が生じており、深刻な国際問題となっている。このため、バラスト水中の微生物除去を目的として、国際的な規模で各種の方法が検討されている。
【0005】
バラスト水として汲み込まれる海水中の微生物を除去する方法としては、例えば海水を加熱して微生物を死滅させる方法(特開2003−181443号公報)、海水に紫外線を照射して微生物を不活性化させる方法(特表2000−515803号公報、特開平11−265684号公報)、海水を電解装置に通して死滅させる方法(特開2003−334563号公報)、ヨウ素で処理する方法(特表2002−504851号公報)及び次亜塩素酸で処理する方法(特開平04−322788号公報)等が提案されている。
【特許文献1】特開2003−181443号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表2000−515803号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−265684号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2003−334563号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特表2002−504851号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平04−322788号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平2003−154360号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、海水を加熱する方法は、加熱エネルギーの調達手段によっては経済的ではなく、また微生物を完全に死滅させるのが困難である。また、海水に紫外線を照射する方法は、全ての微生物を死滅又は不活性化させるために要する電力が膨大であり、また高流量の海水を処理するには多数のUV装置を並列に設置しなければない等装置の設置コストを高騰させる。また、海水を電解装置に通し電解で生成する塩素イオンの殺菌効果で微生物を死滅させる方法は、微生物の中には塩素イオンで死滅しないものも存在し、全ての微生物を死滅させることができない。また、海水をヨウ素や次亜塩素酸等の薬剤で処理する方法は、微生物の種類によっては死滅させるのに高濃度の薬剤が必要となり、処理後の海水の中和に多大の中和剤を使用せざるを得ない。
【0007】
海水中の微生物を死滅させる方法は、前述の如く、微生物の死滅に完全を期し難く、また屍骸による汚染が生態系に与える影響も懸念されている。更に死滅せずに残留した少量の微生物が輸送中に増殖することから、これらの微生物を完全に除去する方法の開発が切望されている。また、海水を濾過膜に通すことで海水中の微生物を除去する方法も知られているが(特開2003−154360号公報)、この方法で得られる膜濾過水は魚介類の洗浄等に使用されるものであって、船舶のバラスト水に使用するものではない。また、大量の海水を濾過膜により処理するには、通常、濾過面積を大きくするか、あるいは長期間を要することから効率的ではなく、従来海水を濾過膜で大量に処理することなどあり得ないことであった。
【0008】
従って、本発明の目的は、船舶から排出される大量のバラスト水により特定海域に本来生息しない微生物が持ち込まれることがなく、更に海洋環境を破壊することもないバラスト水の効率的な製造方法及び船舶搭載バラスト水製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、船舶に積載された海水を船舶上で微生物濾過膜に通すことにより海水中の微生物を除去する微生物除去工程と、逆洗により微生物濾過膜を洗浄する逆洗工程を有し、該微生物除去工程で得られる膜濾過水をバラスト水として用いれば、大量の海水であっても、航行中に濾過膜で処理できること、汲み上げられた海水は、船舶が停泊する港湾域の海水であり、濾過膜を汚染する油分を比較的多く含むが、油分を濾過膜で処理する前に予め除去しておけば、濾過膜の処理効率が向上すること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、船舶に積載された海水を船舶上で微生物濾過膜に通すことにより海水中の微生物を除去する微生物除去工程と、逆洗により微生物濾過膜を洗浄する逆洗工程を有し、該微生物除去工程で得られる膜濾過水をバラスト水として用いるバラスト水の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、前記海水は船舶内の複数のバラスト水槽にそれぞれ積載されたものであって、微生物除去工程は、一のバラスト水槽の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を該一のバラスト水槽に戻す循環処理であって、これを他のバラスト水槽の海水についても順次行う前記バラスト水の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、前記海水は船舶内の複数のバラスト水槽の中、1つを空き水槽とし、他のバラスト水槽に積載されたものであって、微生物除去工程は、一のバラスト水槽の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を該空き水槽に供給するワンパス処理を行い、次いで他のバラスト水槽の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を空き水槽となった該一のバラスト水槽に供給するワンパス処理を行い、該ワンパス処理を順次行う前記バラスト水の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、前記微生物濾過膜で処理する前に予め、少なくとも海水中の油分を除去する前記バラスト水の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(5)は、前記微生物濾過膜が中空糸膜である前記バラスト水の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(6)は、前記海水中の油分を、疎水性吸着材で吸着除去する前記バラスト水の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(7)は、汲み上げられた海水を積載する複数のバラスト水槽と、該バラスト水槽に貯留された海水中の微生物を除去する微生物濾過膜装置と、該微生物濾過膜装置で得られる膜濾過水を貯留する逆洗用タンクと、それぞれのバラスト水槽と該微生物濾過膜装置を接続する海水供給管と、該逆洗用タンクと該それぞれのバラスト水槽を接続する膜濾過水供給管を備えることを特徴とする船舶搭載バラスト水製造装置を提供するものである。
【0017】
また、本発明(8)は、前記微生物濾過膜装置の前段で且つバラスト水槽の後段に、少なくとも海水中の油分を除去する油分吸着除去装置を設置する前記船舶搭載バラスト水製造装置を提供するものである。
【0018】
また、本発明(9)は、前記微生物濾過膜装置が、浸漬型中空糸膜装置又は加圧型中空糸膜装置である前記船舶搭載バラスト水製造装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、バラスト水として使用される大量の海水を、船舶の航行中に微生物濾過膜で効果的に処理できるため、船舶から排出されるバラスト水により特定海域に本来生息しない微生物が持ち込まれることはなく、更に海洋環境を破壊することもない。また、油分を比較的多く含む海水であっても、これらは微生物濾過膜で処理する前に予め除去されるため、微生物濾過膜が汚染されることがなく、長期間安定して処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のバラスト水の製造方法において、船舶に積載される海水としては、特に制限されないが、通常船舶が停泊する港湾域の海水であり、該海水には、微生物の他、通常油分が0.05〜1.0%含まれ、濁度が1〜100度である。また、海水中の微生物のうち、特に国際的に問題とされる微生物としては、大腸菌群、コレラ菌、腸球菌、ミジンコの幼生、北太平洋ヒトデの幼生、アジア昆布の幼生、ゼブラ貝の幼生及び毒性藻類等が挙げられ、これらの微生物の大きさはほとんどが数μmであり、最も小さいもので0.3〜0.5μmである。
【0021】
本発明のバラスト水は船舶上で製造される。これにより大量の海水を、船舶の航行中に微生物濾過膜で効果的に処理することができ、船舶から排出されるバラスト水により特定海域に本来生息しない微生物が持ち込まれることがない。本発明における微生物除去工程は、船舶に積載された海水を微生物濾過膜に通すことにより海水中の微生物を除去する工程である。
【0022】
次に、本発明のバラスト水の製造方法の一例を図1及び図2を参照して説明する。図1はタンカーのダブルハル構造を示し、(A)は船体の船首船尾方向に直交する方向に沿って切断した模式断面図、(B)は船体の船首船尾方向に沿って切断した模式断面図である。図2は本例のバラスト水の製造方法を実施する装置のフロー図である。海水は、例えば図1に示すようなダブルハル構造における複数の室に分割されたバラスト水槽2に積載される。すなわち、図1中、船舶1は内側の槽が原油槽3であり、外側の槽がバラスト水槽2である。バラスト水槽2は本例では、船舶の幅方向に2分割、船舶の長さ方向に3分割された都合6つのバラスト水槽11〜16を有する。
【0023】
図2中、船舶搭載バラスト水の製造装置10は、装置全体が船舶上に搭載されるものであって、汲み上げられた海水を積載する複数のバラスト水槽2(11〜16)と、バラスト水槽2に貯留された海水中の微生物を除去する微生物濾過膜装置4と、微生物濾過膜装置4で得られる膜濾過水が流入する逆洗用タンク6と、それぞれのバラスト水槽11〜16と微生物濾過膜装置4の海水流入配管28を接続する海水供給管21〜26と、逆洗用タンク6の膜濾過水流出配管38とそれぞれのバラスト水槽11〜16を接続する膜濾過水供給管31〜36を備え、必要に応じて微生物濾過膜装置4の前段に、海水中の油分を除去する油分吸着除去装置5を備える。また、油分吸着除去装置5の後段で且つ微生物濾過膜装置4の前段に、必要に応じて不図示の除濁装置を設置することができる。また、本発明の製造装置の関連設備としては、バラスト水槽2に貯留された海水を微生物濾過膜装置4に供給する送液ポンプなどがある。
【0024】
船舶搭載バラスト水の製造装置10を使用して海水中の微生物を除去する方法としては、バラスト水槽毎に微生物除去工程を実施する循環処理方法、あるいは空きバラスト水槽を利用するワンパス処理方法が挙げられる。これらは、図2中のバルブを適宜操作することで実施することができる。
【0025】
循環処理方法の一例を次に示す。先ずバラスト水槽11の海水を単独で処理する。すなわちバラスト水槽11の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水をバラスト水槽11に戻すことにより循環処理する。次いでバラスト水槽12の海水を単独で処理する。すなわちバラスト水槽12の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水をバラスト水槽12に戻すことにより循環処理する。これを他のバラスト水槽13〜16についても順次行う。なお、バラスト水槽11〜16中、海水供給管の海水取水口と、膜濾過水供給管の膜濾過水流出口はできるだけ離すことが好ましい。
【0026】
ワンパス処理方法の一例を次に示す。海水は船舶内の複数のバラスト水槽2の中、1つを空きバラスト水槽とし、他のバラスト水槽に積載する。この場合、空きバラスト水槽が膜濾過水の貯留槽となる。例えば、バラスト水槽11〜15に海水を積載し、バラスト水槽16を空きバラスト水槽とする。バラスト水槽11の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を空きバラスト水槽16に供給するワンパス処理を行い、次いでバラスト水槽12の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を空きバラスト水槽11に供給するワンパス処理を行い、該ワンパス処理を順次行う。これにより、微生物除去工程終了後は、複数のバラスト水槽の中、1つの空きバラスト水槽以外のバラスト水槽には膜濾過水が貯留されることになる。なお、膜濾過水が貯留されたバラスト水槽の配置は、船体の重心を安定に保つ位置関係にあることが好ましい。また、微生物除去工程後、バラスト水槽の底部に残存する海水のひき残し分は、次亜塩素酸など薬剤の添加や加熱処理など公知の殺菌処理が行われてもよい。この場合、この海水のひき残し分は比較的少量であるため、殺菌剤の使用量も少量でよく、また加熱に伴う消費エネルギーも少ない。
【0027】
微生物濾過膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜が挙げられる。このうち、中空糸膜が、単位容量当りの濾過面積を最も大とすることができる点で好ましい。
【0028】
中空糸膜は、中空構造を有し、更に該中空構造を形成する孔に連通して、膜面の該孔に連通する細孔を多数形成したものであり、外圧式と内圧式とがある。本発明において、微生物濾過膜として精密濾過膜を用いる場合、中空糸膜の細孔の径としては、0.01〜0.4μm、好ましくは0.01〜0.3μmである。また、限外濾過膜を用いる場合は、中空糸膜の細孔の径としては、0.002〜0.01μmである。海水中に生息する細菌や幼生等の微生物の大きさは通常数μm、最小のものでも0.3〜0.5μm程度であり、従って、上記細孔径の中空糸膜を使用すれば、海水中のこれらの細菌、幼生等の微生物をほぼ完全に除去することができる。また、膜面に付着した微生物を除去して、その濾過能力を回復するために逆洗を行うが、本逆洗とは別に、濾過中に膜面の外側から気泡でバブリングして膜面に付着した微生物を剥離除去する操作ができる点で外圧式中空糸膜を使用することが好ましい。
【0029】
また、中空糸膜は浸漬型中空糸膜装置又は加圧型中空糸膜装置として使用される。浸漬型中空糸膜装置を用いる方法は、海水貯槽中に浸漬された該装置の該中空糸の内側をヘッド差又は吸引ポンプによる吸引等で通水し、海水中の微生物を除去する方法である。また、浸漬型中空糸膜装置及び加圧型中空糸膜装置ともに、前述した通り、中空糸膜の下方から微細な気泡を発生させて、中空糸膜に付着した微生物を適宜剥離させながら、膜の表面を洗浄しつつ濾過することができる。
【0030】
本発明で使用する精密濾過膜の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロースなどが挙げられる。
【0031】
海水を微生物濾過膜に通す方法としては、特に制限されないが、微生物濾過膜を組み込んだ微生物濾過膜装置の2基以上を並列配置するようにしてもよい。この場合、一の微生物濾過膜装置が逆洗工程であっても、他の微生物濾過膜装置は微生物除去工程を実施することができ、多量の膜濾過水を連続して得ることができる。
【0032】
バラスト水の製造方法の逆洗工程は、逆洗により微生物濾過膜を洗浄する工程である。微生物除去工程において、時間が経過するにつれ、膜の目詰まりの原因物質となる微生物等が微生物濾過膜に付着して膜の入口と出口で膜差圧が上昇してくる。このため、海水の濾過を停止し、膜濾過水を洗浄水として微生物濾過膜を逆洗する。逆洗工程を行うことにより、微生物濾過膜の濾過機能が回復する。そして、逆洗工程を終えると、再度微生物除去工程に移り、これを繰り返し行うことで、長期間に亘る濾過を可能にする。なお、逆洗により生成する微生物濃縮液は、次亜塩素酸など薬剤の添加や加熱処理など公知の殺菌処理が行われれる。この微生物濃縮液は比較的少量であるため、殺菌剤の使用量も少量でよく、また加熱に伴う消費エネルギーも少ない。
【0033】
本発明のバラスト水の製造方法において、微生物濾過膜で処理する前に予め、海水中の油分を除去することが、微生物濾過膜の目詰まりを防止し、濾過能力の低下を防止することができる点で好ましい。すなわち、海水中の油分も微生物濾過膜で捕捉されるが、微生物や他の濁質と異なり、油分は膜面に付着すると前記のバブリングや逆洗工程では容易に除去することができず、微生物濾過膜を目詰まりさせ、濾過能力の低下の原因となる。
【0034】
海水の油分を除去する方法としては、特に制限されず、公知の油水分離装置を用いることができる。油水分離装置は、疎水性吸着材を用いたものが、簡易な方法で且つ高い油分吸着能力を示すので好ましい。疎水性吸着材としては、親油性のポリエチレンやポリプロピレン等の素材で作製された不織布フィルター、粉体物、及び中空糸膜が挙げられる。具体的には、油分吸着材「ダイヤマルス(商標登録)」を使用すると、極めて効率よく油分を除去することができる。海水の油分の除去工程により、例えば油分0.05〜1.0%の海水は、油分0.005〜0.02%の海水とすることができる。
【0035】
海水中の油分を除去することは微生物濾過膜の汚染防止において必要であるが、微生物濾過膜における微生物除去の負荷を低減させるために海水中の濁質を予め除去することが好ましい。海水中の濁質を除去する方法としては、特に制限されず、公知の除濁装置を用いることができる。除濁装置としては、砂濾過装置、ポリエチレンやポリプロピレン製の不織布濾過布を備えた装置、濾過槽体中に立設された繊維の束に濁質を吸着させる長繊維束除濁装置等が挙げられる。油分吸着材「ダイヤマルス(商標登録)」を使用すると油分の除去と濁質を共に除去することができる点で好ましい。
【0036】
実験例1
実際の船舶を使用することなく、図3に示した陸上設置の実験用バラスト水製造装置を用いて行った。すなわち、船舶が停泊する国内のA港湾域の海水(以下「原海水」と言う。)を実験用バラスト水製造装置の原海水タンクに汲み上げ、この海水を下記の運転条件で処理した。原海水及び処理水(膜濾過水)の大腸菌群を下記測定方法により測定した。なお、原海水の油分はn−ヘキサン抽出物として8mg/l、原海水の濁度は5度であった。
【0037】
(実験用バラスト水製造装置)
図3に示す装置を用いた。実験用バラスト水製造装置20は中空糸膜型微生物濾過装置4aを主体とするもので、処理槽8に処理能力3m/時の精密濾過膜からなる中空糸膜モジュール7「ステラポアSUR31534」(三菱レイヨン製)を浸漬したものを用いた。また、原海水タンク11aと中空糸膜型微生物濾過装置4a間は配管21(28)で接続し、中空糸膜型微生物濾過装置4aと逆洗タンク6間は処理水管42で接続し、逆洗タンク6と処理水貯槽16a間はオーバーフロー管38で接続した。処理水管42には吸引ポンプ44を設置した。また逆洗ポンプ45を設置し、逆洗タンク6内の濾過水を逆洗配管43によって前記精密濾過膜を逆洗できるようにした。
【0038】
(運転方法)
模擬ワンパス処理方法で行った。すなわち、原海水を中空糸膜型微生物濾過装置4aに3m/時の処理量で供給した。微生物除去工程においては、ブロワ−46からの空気を中空糸膜モジュール7の下部に設置したディストリビュータ41から微細な気泡としてバブリングして、中空糸膜表面に付着した微生物等を剥離しながら濾過を行った。また微生物除去工程15分に対して、逆洗工程1分とし、これを繰り返した。また、微生物が濃縮された廃液は、中空糸膜型微生物濾過装置4aの処理槽8の下部から適宜抜液した。
【0039】
(微生物の測定方法)
大腸菌群は、BGLB培地(Brilliant Green Lactose Bile Broch)に試料を添加し、35℃で24時間培養した後、大腸菌群を計測した。
【0040】
(処理結果)
原海水中の大腸菌群数は3500個/100mlであったが、処理水に大腸菌群は検出されなかった。また処理水のn−ヘキサン抽出物は検出されず、濁度は2度以下であった。ただし濾過運転の初期における逆洗直後の所定流量での差圧は0.01MPa以下であったが、濾過運転170時間後における逆洗直後の差圧は0.045MPaであった。
【0041】
実験例2
下記実験用バラスト水製造装置及び下記の運転条件で処理した以外は、実験例1と同様の方法で行った。
【0042】
(実験用バラスト水製造装置)
図4に示す装置を用いた。図4の装置において図3の装置と同一構成要素には同一符号を付してその説明を省略し、異なる点について主に説明する。すなわち、図4の装置において、図3の装置と異なる点は、原海水タンク11aと中空糸膜型微生物濾過装置4a間に、処理能力3m/時の油水分離装置「ダイヤマルスRH−03」(三菱レイヨンエンジニアリング社製)5を配置した点にある。
【0043】
(運転方法)
模擬ワンパス処理方法で行った。すなわち、原海水を中空糸膜型微生物濾過装置4aに3m/時の処理量で供給した。微生物除去工程においては、ブロワー41からの空気を中空糸膜モジュール7の下部に設置したディストリビュータ41から微細な気泡としてバブリングし、中空糸膜表面に付着した微生物等を剥離させながら、濾過を続けた。また、微生物除去工程15分に対して、逆洗工程1分とし、これを繰り返した。また、微生物が濃縮された廃液は、中空糸膜型微生物濾過装置4aの処理槽8の下部から適宜抜液した。
【0044】
(処理結果)
原海水中の大腸菌群数は3500個/100mlであったが、処理水に大腸菌群は検出されなかった。また処理水のn−ヘキサン抽出物は検出されず、濁度は2度以下であった。なお、濾過運転の初期における逆洗直後の所定流量での差圧は0.01MPa以下であり、濾過運転170時間後における逆洗直後の差圧も同様にして0.01MPa以下であり、原海水中の油分を予め油水分離装置で除去することにより、精密濾過膜の油分による汚染が効果的に防止できた。
【0045】
実験例3
浸漬型の中空糸膜型微生物濾過装置4aに代えて、加圧型の中空糸膜型微生物濾過装置(不図示)を用い、実験例1と同じように気泡による洗浄と定期的な逆洗工程を行った。但し、気泡による洗浄は、膜処理装置への通水を中断し、約5分間、膜の下部から空気を流入して得られる気泡によるバブリングを行った。なお、加圧型の中空糸膜型微生物濾過装置で用いた中空糸膜モジュールは、処理能力3m/時の精密濾過膜である「ステラポアG型UMF−2024WFA」3本(三菱レイヨン社製)を用いた。また、中空糸膜型微生物濾過装置の前段に、処理能力3m/時の油水分離装置「ダイヤマルスRH−03」を配置した。
【0046】
(処理結果)
原海水中の大腸菌群数は3500個/100mlであったが、処理水に大腸菌群は検出されなかった。また処理水のn−ヘキサン抽出物は検出されず、濁度は2度以下であった。なお、精密濾膜の差圧データも実験例2と同様であった。
【0047】
各実施例に示すように、原海水タンク内に貯留された原海水をバラスト水製造装置で処理することにより、原海水中の大腸菌群が検出されない程度まで除去された。また中空糸膜型微生物濾過装置の前段に油水分離装置を設置することにより、精密濾過膜の油分による汚染を効果的に防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(A)は船体の船首船尾方向に直交する方向に沿って切断した模式断面図、(B)は船体の船首船尾方向に沿って切断した模式断面図である。
【図2】本例の船舶搭載バラスト水製造装置のフロー図である。
【図3】実験例1で使用した実験用バラスト水製造装置のフロー図である。
【図4】実験例2で使用した実験用バラスト水製造装置のフロー図である。
【符号の説明】
【0049】
1 船舶(タンカーのバラスト構造)
2 バラスト水槽
4 微生物濾過膜装置
4a 中空糸膜型微生物濾過装置
5 油分吸着除去装置
6 逆洗タンク
7 中空糸膜モジュール
8 処理槽
10 船舶搭載バラスト水製造装置
11〜16 バラスト水槽
11a 原海水
20、30 実験用バラスト水製造装置
21〜26 海水供給管
31〜36 膜濾過水供給管
28 海水流入配管
38 膜濾過水流出配管
41 ディストリビュータ
43 逆洗配管
44 吸引ポンプ
45 逆洗ポンプ
46 ブロアー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に積載された海水を船舶上で微生物濾過膜に通すことにより海水中の微生物を除去する微生物除去工程と、逆洗により微生物濾過膜を洗浄する逆洗工程を有し、該微生物除去工程で得られる膜濾過水をバラスト水として用いることを特徴とするバラスト水の製造方法。
【請求項2】
前記海水は船舶内の複数のバラスト水槽にそれぞれ積載されたものであって、微生物除去工程は、一のバラスト水槽の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を該一のバラスト水槽に戻す循環処理であって、これを他のバラスト水槽の海水についても順次行うことを特徴とする請求項1記載のバラスト水の製造方法。
【請求項3】
前記海水は船舶内の複数のバラスト水槽の中、1つを空き水槽とし、他のバラスト水槽に積載されたものであって、微生物除去工程は、一のバラスト水槽の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を該空き水槽に供給するワンパス処理を行い、次いで他のバラスト水槽の海水を微生物濾過膜に通し、得られた膜透過水を空き水槽となった該一のバラスト水槽に供給するワンパス処理を行い、該ワンパス処理を順次行うことを特徴とする請求項1記載のバラスト水の製造方法。
【請求項4】
前記微生物濾過膜で処理する前に予め、少なくとも海水中の油分を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のバラスト水の製造方法。
【請求項5】
前記微生物濾過膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のバラスト水の製造方法。
【請求項6】
前記海水中の油分を、疎水性吸着材で吸着除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のバラスト水の製造方法。
【請求項7】
汲み上げられた海水を積載する複数のバラスト水槽と、該バラスト水槽に貯留された海水中の微生物を除去する微生物濾過膜装置と、該微生物濾過膜装置で得られる膜濾過水を貯留する逆洗用タンクと、それぞれのバラスト水槽と該微生物濾過膜装置を接続する海水供給管と、該逆洗用タンクと該それぞれのバラスト水槽を接続する膜濾過水供給管を備えることを特徴とする船舶搭載バラスト水製造装置。
【請求項8】
前記微生物濾過膜装置の前段で且つバラスト水槽の後段に、少なくとも海水中の油分を除去する油分吸着除去装置を設置することを特徴とする請求項7記載の船舶搭載バラスト水製造装置。
【請求項9】
前記微生物濾過膜装置が、浸漬型中空糸膜装置又は加圧型中空糸膜装置であることを特徴とする請求項7又は8記載の船舶搭載バラスト水製造装置。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−728(P2006−728A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178351(P2004−178351)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(591078996)財団法人造水促進センター (4)
【Fターム(参考)】