説明

バラスト水処理方法、およびバラスト水処理装置

【課題】磁性フロックに含有される微生物や細菌類を環境や人体への影響が無くなるように死滅させることのできるバラスト水の処理装置を提供する。
【解決手段】バラスト水中に添加された磁性粉と凝集剤を攪拌して磁性フロックを生成する凝集手段と、前記攪拌槽による攪拌で生成された磁性フロックを回収する磁気分離手段を有するバラスト水の処理装置であって、前記磁性フロックを挿通させる管路と、前記管路を加熱する加熱手段とを有することを特徴とする装置。また、前記加熱手段を水槽とし、前記管路を前記水槽内に浸漬させるようにすると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶等におけるバラスト水の浄化処理に係り、特にバラスト水から分離される凝集フロックを浄化するバラスト水の処理方法、および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2004年に国際海事機関(IMO)で採択されたバラスト水管理条約では、バラスト水を介した微生物の移動・拡散による生態系のかく乱や健康被害を防止するため、バラスト水中のプランクトン等を死滅させるための処理装置の搭載を船舶に求めている。現在、オゾン処理や紫外線照射、加熱処理、および磁気分離など、各種水処理技術を組み合わせたバラスト水処理技術が進められている。
【0003】
例えばオゾンによるバラスト水処理については、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されているバラスト水処理は、バラストタンクに移送されるバラスト水中に、オゾン発生装置によって生成されたオゾンを混入させることで、オゾンによる強酸化作用により、バラスト水中の微生物や細菌類を死滅させるというものである。
【0004】
また、紫外線照射を用いたバラスト水処理については、例えば特許文献2に開示されている。特許文献2に開示されているバラスト水処理技術は、バラスト水に対して過酸化水素、または過酸化水素発生化合物を添加し、バラスト水を排出する前に波長領域240〜300nmの紫外線を照射するというものである。この技術において、過酸化水素、または過酸化水素発生化合物をバラスト水に添加することは、先に述べたオゾン処理と同様に、強酸化作用による微生物や細菌類の死滅を目的としたものである。そして、紫外線の照射は、バラスト水中に残存する過酸化水素を分解することで、排出したバラスト水による環境汚染の防止を図ることを目的としている。
【0005】
加熱処理によるバラスト水処理については、特許文献3に開示されている。特許文献3に開示されている技術は、汲み上げられた低温バラスト水と予め加熱処理された高温バラスト水との間で熱交換を行うことにより低温バラスト水を微生物や細菌類の死滅温度にまで加熱するという処理を行うものである。
【0006】
磁気分離に関しては、特許文献4に開示されている。特許文献3に開示されている技術は、バラスト水に対して磁性粉と凝集剤を添加し、これを攪拌することでバラスト水中の微生物や細菌類を含む磁性フロックを生成し、これを磁気分離装置でバラスト水から分離すると共に、バラスト水に残留した磁性フロックをドラム型フィルタによって捕集するというものである。この技術によれば、バラスト水中の微生物や細菌類を物理的に取り除くため、排水するバラスト水による環境への影響が無い。
【0007】
このような背景の下民間企業は、上記のような種々の技術を用いたバラスト水管理システムを開発しており、IMOではバラスト水管理システムの承認要件を設け、我が国では主管庁としての国土交通省による承認管理の体制が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−100157号公報
【特許文献2】特開2006−263664号公報
【特許文献3】特開2008−110276号公報
【特許文献4】特開平9−117618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バラスト水管理システムの承認要件には、バラスト水に含まれる微生物や細菌類(病原性コレラ、大腸菌、腸球菌)の排出基準が定められており、バラスト水管理システムとしての承認を得るためには、これらの基準を確実に満たすという根拠が必要となる。
【0010】
しかし、引用文献1から3に開示されているように、容量の大きなバラスト水に対して処理を行った場合、微生物や細菌類を死滅させることができたという根拠を見出す事は困難である。また、引用文献3に開示されている技術では、バラスト水中に含まれる微生物や細菌類は磁性フロックとして取り除くことができるが、生態系や健康に対する影響を危惧される微生物や細菌類を凝集したフロックを集約して保持しておくことの危険性が指摘されている。
【0011】
そこで本発明では、磁性フロックに含有される微生物や細菌類を環境や人体への影響が無くなるように死滅させることのできるバラスト水の処理方法、および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るバラスト水処理方法は、バラスト水中に磁性粉と凝集剤を添加することで微生物や細菌を含有した磁性フロックを生成し、前記バラスト水中から前記磁性フロックを回収するバラスト水の処理方法であって、回収した前記磁性フロックを予め定めた前記微生物や前記細菌の死滅温度以上で加熱することを特徴とする。
【0013】
また、上記特徴を有するバラスト水処理方法では、前記磁性フロックを加熱する際に前記磁性フロックを管路に挿通させ、前記磁性フロックを挿通させた管路を加熱するようにすると良い。
このような特徴を持たせることにより、加熱対象とする磁性フロックを確実に加熱することができる。このため、ショートパス等により加熱されないまま処理される磁性フロックが無くなる。
【0014】
また、上記特徴を有するバラスト水処理方法では、前記磁性フロックの加熱は、前記管路を湯煎することにより行うことが望ましい。
このような特徴を持たせることにより、管路内にスケールが付着することを抑制することができる。
【0015】
また、上記特徴を有するバラスト水処理方法では、前記管路の出口温度を計測し、前記磁性フロックの加熱状態を調べるようにすると良い。
このような特徴を持たせることにより、磁性フロック内に含有された細菌類等が確実に死滅しているかを経験的に確認することができる。
【0016】
また、上記特徴を有するバラスト水処理方法では、前記管路内の圧力を計測し、管路の状態を調べるようにすると良い。
このような特徴を持たせることにより、磁性フロックを挿通させる管路の破損、詰まりを検知することができる。
【0017】
また、上記目的を達成するための本発明に係るバラスト水処理装置は、バラスト水中に添加された磁性粉と凝集剤を攪拌して磁性フロックを生成する凝集手段と、前記攪拌槽による攪拌で生成された磁性フロックを回収する磁気分離手段を有するバラスト水の処理装置であって、前記磁性フロックを挿通させる管路と、前記管路を加熱する加熱手段とを有することを特徴とする。
【0018】
また、上記特徴を有するバラスト水処理装置では、前記加熱手段を水槽とし、前記管路を前記水槽内に浸漬させる構成とすると良い。
このような構成とすることにより、管路を湯煎により加熱することが可能となり、管路内にスケールが付着することを抑制することができる。
【0019】
また、上記特徴を有するバラスト水処理装置において前記水槽には、当該水槽内の水を加熱する船舶機器からの蒸気を供給する蒸気供給口が設けられる。
このような構成とすることにより、加熱を経済的に行うことができる。また、上記の噴出により水槽内の水を攪拌し、水槽内の温度分布の均一化を図ることができる。
【0020】
また、上記特徴を有するバラスト水処理装置では、前記管路の出口に温度センサを設けるようにすると良い。
このような構成とすることにより、温度検出により磁性フロックの加熱状態を知ることができ、磁性フロックに含有される細菌類を確実に死滅させているかを確認することができる。
【0021】
また、上記特徴を有するバラスト水処理装置では、前記管路に圧力センサを設けるようにすると良い。
このような構成とすることにより、破損や詰まりといった管路の状態を検知することができる。
【発明の効果】
【0022】
上記のような特徴を有するバラスト水処理方法によれば、磁性フロックに含有される微生物や細菌類を環境や人体への影響が無くなるように死滅させることができる。
また、上記特徴を有するバラスト水処理装置によれば、上記特徴を有するバラスト水処理方法を実施し、磁性フロックに含有される微生物や細菌類を環境や人体への影響が無くなるように死滅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】バラスト水処理装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る加熱殺菌手段の構成を示す図である。
【図3】加熱殺菌手段を構成する挿通管の構成を示す図である。
【図4】挿通管内における磁性フロックの滞留時間と到達温度の関係を示す図である。
【図5】加熱殺菌手段における起動準備工程を示すフローである。
【図6】加熱殺菌手段における磁性フロック加熱殺菌工程を示すフローである。
【図7】加熱殺菌手段における加熱殺菌終了工程を示すフローである。
【図8】実施形態に係る加熱殺菌手段の第1の変形例を示す図である。
【図9】実施形態に係る加熱殺菌手段の第2の変形例を示す図である。
【図10】実施形態に係る加熱殺菌手段の第3の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のバラスト水処理方法、およびバラスト水処理装置に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1を参照して実施形態に係るバラスト水処理装置10の全体構成について説明する。バラスト水処理装置10は、凝集手段20、磁気分離手段30、フィルタ分離手段40、および加熱殺菌手段50を有することを基本とする。
【0025】
凝集手段20は、高速攪拌槽22と緩速攪拌槽24を有し、ポンプ12を介して送水された原水(被処理水)から磁性フロックFを生成する役割を担う。このため、原水を高速攪拌槽22に送水する配管経路には磁性粉添加手段14と凝集剤添加手段16が設けられ、高速攪拌槽22から緩速攪拌槽24へ送水する経路には高分子凝集剤添加手段18が設けられる。ここで、磁性粉としては例えば四三酸化鉄を好適に用いることができ、凝集剤としてはポリ塩化アルミニウム、塩化鉄、硫酸第二鉄等の水溶性の無機凝集剤を好適に用いることができる。また、高分子凝集剤としては、アニオン系およびノニオン系のものを好適に用いることができる。
【0026】
高速攪拌槽22は、原水と、原水に添加した磁性粉および凝集剤を攪拌するために高速回転する攪拌羽根23を有する。磁性粉と凝集剤を添加された原水は攪拌羽根23により高速攪拌されることで、数十μm程度の大きさの微小な磁性フロック(磁性マイクロフロック)が生成される。磁性マイクロフロックが生成される際、原水中の微生物や細菌類は、電荷を帯びているため磁性粉を核として吸着されて磁性マイクロフロックに取り込まれることとなる。
【0027】
緩速攪拌槽24は、複数段(本実施形態では3段)の連続した多段攪拌槽として構成されており、各段の攪拌槽24A〜24Cにそれぞれ攪拌羽根25A〜25Cが設けられている。このような構成の緩速攪拌槽24では、上流側の攪拌槽24Aから下流側の攪拌槽24Cにかけて段階的に攪拌速度が低下するように設定されている。緩速攪拌槽24には高速攪拌槽22から、磁性マイクロフロックを含む被処理水と、この被処理水に添加された高分子凝集剤が送水される。このため、攪拌槽24Aから攪拌槽24Cにかけて段階的に低速攪拌が行われることで、磁性マイクロフロックが成長していくこととなる。また、攪拌速度が段階的低速化して行くため、成長した磁性フロックFが攪拌羽根25A〜25Cの衝突により破壊される虞が少ない。
【0028】
なお本実施形態においては図1に示すように、凝集手段20を構成する高速攪拌槽22と緩速攪拌槽24を一体構造として示しているが、これらを分離して構成し、それぞれの間を配管を介して送水するようにしても良い。
【0029】
また、上記のような構成の凝集手段20では、高速攪拌槽22、緩速攪拌槽24およびこれらを繋ぐ経路の空気を抜いて満水状態を保つようにすることで、バラスト水処理装置10を搭載した船舶に揺れが生じた場合であっても、凝集手段20内の被処理水(磁性マイクロフロック等を含む被処理水)が波立つ事が無く、円滑に送水することができる。
【0030】
磁気分離手段30は、凝集手段20により所定の大きさに成長した磁性フロックFを被処理水から回収する役割を担う。磁気分離手段30は、磁気分離槽32と磁気フィルタ34、およびスクレーパ(不図示)と移送手段36が備えられている。磁気分離槽32には、磁性フロックFを含有する被処理水が凝集手段20より送水される。磁気フィルタ34は、例えば回転ドラムの体を成し、少なくとも一部を磁気分離槽32中の被処理水に浸漬させることで、磁気分離槽32中に漂う磁性フロックFを吸着捕集する。磁気フィルタ34により吸着捕集された磁性フロックFは、回転により磁気分離槽32から引き上げられ、スクレーパにより磁気フィルタ34から掻き落とされる。そして、掻き落とされた磁性フロックFは、移送手段36により磁性フロック貯留槽38へ移送される。
【0031】
フィルタ分離手段40は、磁気分離槽32によって捕集できなかったゴミや微小な磁性フロックなどを捕集する役割を担う。フィルタ分離手段40では、被処理水が被処理水供給管44を介してドラム型フィルタ42の内側に供給される。ドラム型フィルタ42の内側に供給された被処理水は、ドラム型フィルタ42の内側から外側に流出することにより濾過され、被処理水に残存する磁性フロックやゴミ等の捕集物がドラム型フィルタ42の内側に付着する。これにより被処理水に残存する磁性フロックやゴミなどの汚濁物質が除去され、被処理水は浄化された処理水となる。
【0032】
ドラム型フィルタ42の内側に付着した汚濁物質は、ドラム型フィルタ42の上方に配設されたスプレーノズル46から噴射される水によって流し落とされる。スプレーノズル46からドラム型フィルタ42に向けて噴射される水により流し落とされた汚濁物質は、ドラム型フィルタ42の内部に設けたホッパ48(汚濁物質排出管の取入口)に落下し、汚濁物質排出管48aを介して排出される。なお、ドラム型フィルタ42により浄化された処理水の一部をスプレーノズル46からの噴出水として利用しても良い。この場合、図1に示すように、処理水の一部を循環ポンプ45によりスプレーノズル46へ回すようにすれば良い。また、汚濁物質と、スプレーノズル46から噴出された水は、汚濁物質排出管48aに設けられたポンプ49を介してポンプ12の前段に戻される。
【0033】
加熱殺菌手段50は、磁気分離手段30により捕集された磁性フロックFを加熱処理することにより、磁性フロックF内に含有された微生物や細菌類を死滅させる役割を担う。磁気分離手段30により捕集された磁性フロックFは小容量タンク52に一時貯留され、ポンプ54を介して加熱殺菌手段50へ送られる。なお、磁性フロックFはスラリー状であるため、移送に用いられるポンプ54はチューブポンプ又は一軸ネジ式ポンプなどの容積式ポンプとすることが良い。
【0034】
加熱殺菌手段50により加熱殺菌された磁性フロックFは回収用貯留槽56へ送られる。回収用貯留槽56には、磁性フロックFの沈殿、分離を防ぐための循環機構58(ポンプ)や攪拌機構(不図示)が備えられている。磁性フロックFが水分と分離沈殿してしまった場合、吸引による磁性フロックFの引抜きが困難となってしまうのに対し、前述のごとく循環や攪拌を行うことで、磁性フロックFの分離沈殿を防止することが可能となるからである。回収用貯留槽56には、磁性フロックFのサンプリング装置59を備えている。サンプリングした磁性フロックF中に微生物や細菌類が存在しないことを確認することで、回収用貯留槽56内の磁性フロックFの安全性を確認することができる。
【0035】
以下、実施形態に係る加熱殺菌手段の具体的構成について図2、図3を参照して詳細に説明する。実施形態に係る加熱殺菌手段50は、挿通管60と水槽70を基本として構成される。
【0036】
挿通管60は、小容量タンク52からポンプ54を介して送られる磁性フロックFを圧送するための管路である。挿通管60は、耐熱性や耐腐食性を有する中空部材で構成されることが望ましい。具体的な例を挙げるとチタン配管などであると良い。
【0037】
挿通管60は図3に示すように、入口62と出口64を上部に備え、入口62から配管を最下部まで延設し、最下部から長円形状(いわゆるトラック形状)に曲げ加工される。曲げ加工された挿通管60は、長円形状の螺旋を描くようにして上部へ延設され、出口64に至る。このような構成とすることにより、曲げ部の半径が小さくなる九十九折形状等に比べて加工が容易となり、かつ必要十分な長さを確保することができるからである。また、入口62を上部に設けた挿通管60を下側に延設した後に上部に設けた出口64へと延設する構成としたことにより、磁性フロックFに空気が含まれていた場合であっても、これを自然に抜く事が可能となり、またリフトするエアにより磁性フロックFの圧送が阻害される虞が無いからである。なお、折り曲げ形成された挿通管60は、サポート69により縦方向に結束保持されることで、自重による管路の変形を防ぐことができる。
【0038】
挿通管60の入口62側にはポンプ54が接続されており、出口64側には回収用貯留槽56が接続されている。また、挿通管60の入口62側には圧力計66が設けられており、挿通管60内部の圧力を計測可能な構成とされている。このような構成とすることにより、挿通管60の破損や挿通管内部での詰まりなどの状態を知ることができる。例えば、挿通管60が破損した場合、圧送される磁性フロックFの漏れが生ずるため、挿通管60内の圧力は低下することとなる。一方、詰まりが生じた場合には、挿通間60内の圧力が上昇することとなる。また、挿通管60の出口64には、温度計68が設けられている。このような構成とすることにより、挿通管60内に圧送された磁性フロックの加熱状態が適正か否かを知ることができる。
【0039】
水槽70は、上述した挿通管60を収容して加熱するためのタンクである。水槽70内には水が貯留され、挿通管60は水槽70内に貯留された水に浸漬されることとなる。ここで、水槽70内に貯留される水は船舶機関で使用される軟水とすると良い。軟水とすることにより、水槽70内や挿通管60にカルキなどが付着することを防ぐことができ、メンテナンスサイクルを長くすることができるからである。
【0040】
水槽70には、水を加熱する熱源となる蒸気(スチーム)を供給する蒸気供給口72と、蒸気の供給により余剰となった水を排出する凝縮水排出口74が設けられる。蒸気供給口72と凝縮水排出口74との配置関係は、次のようなものであれば良い。すなわち、蒸気供給口72は水槽70の下部側(少なくとも下半部)とし、凝縮水排出口74は水槽70の上部側であって少なくとも、水に浸漬させた挿通管60の上部よりも高い位置とすれば良い。このような配置関係とすることにより、蒸気供給口72から噴射された高温蒸気は水槽70内部の水を温めつつ上昇することで攪拌作用を生じさせ、水槽70内部の温度分布の均一化を図ることができる。また、凝縮水排出口74を挿通管60の上部よりも高い位置に備えたことにより、水位を挿通管60より高い位置で一定に保つことが可能となる。
【0041】
また、水槽70には、温度計80と水位計82を備えるようにすると良い。温度計80による水槽70内の水の温度を計測し、水槽70内の温度を設定値に保つことで、挿通管60の加熱状態を良好に保つことができるからである。また、水位計82を備えることによれば、水に浸漬させた挿通管60の上部が水から出てしまうことを防止することができる。挿通管60が水から出てしまうと、良好な加熱状態を保つことができなくなってしまうからである。
【0042】
このような構成を有する加熱殺菌手段50において挿通管60の口径は、磁性フロックFを沈殿させず、詰まりを生じさせない程度とすれば良い。ここで、磁性フロックFを沈殿させないとは挿通管60内に圧送される磁性フロックFの搬送速度と磁性フロックFの沈降速度に関係し、詰まりを生じさせないとは、挿通管60の口径と磁性フロックFの粘度、及び性状に関係する。また、圧送される磁性フロックFの搬送速度は、挿通管60の入口に接続されたポンプ54の吐出流量と挿通管60の口径(面積)に関係する。
【0043】
また、挿通管60の長さは、所定の搬送速度で磁性フロックFが搬送された際、磁性フロックFに含有される微生物や細菌類を死滅させることのできる温度を所定時間確保することのできる長さであれば良い。なお発明に係る実施例では、加熱により細菌類等を死滅させるための温度と時間を75℃で3分と定める。
【0044】
ポンプ54については吐出流量を可変とし、挿通管60は口径34mm、厚み1.2mm、長さ57.4mとし、磁性フロックFの搬送速度を7.3m/minとした場合、磁性フロックFが挿通管60内に滞留する時間は約7分50秒となる。
【0045】
上記構成の加熱殺菌手段50において水槽70内の水の温度を約80℃とした場合、滞留時間と共に変化する磁性フロックFの到達温度は図4のような傾向を示す。図4によれば磁性フロックFは、挿通管60内での滞留時間のうち約3分40秒で75℃まで昇温し、その後約80℃一定となるまで75℃以上の温度を保ったまま、約4分10秒経過することとなる。上述したように、磁性フロックF内の細菌類等を死滅させるには、75℃で3分の時間が必要となるが、実験によれば上記構成の挿通管60を用いて上記搬送速度で搬送した場合には、75℃以上となる時間を3分以上確保することができるため、磁性フロックF中に含まれる細菌類を確実に死滅させることができる。なお、挿通管60の口径と長さは流速を含む種々のパラメータに基づいて決定するため、一概に定めることはできないが、管路内に圧送された磁性フロックFの昇温時間を考慮した上で、75℃以上で3分以上の滞留時間を確保することができるものであれば良い。なお、磁性フロックFの沈殿を防止するために、磁性フロックFの圧送速度(流速)は、1.2m/min以上となるように設定する。
【0046】
上記のような構成の加熱殺菌手段50では、起動準備、加熱殺菌、加熱殺菌終了といった3つの大工程により磁性フロックFの加熱殺菌が行われる。
まず、起動準備工程では図5に示すように、水位計82により水槽70内の水位の計測が行われる(S100)。水位計測により水位が所定の水位、すなわち挿通管60を完全に浸漬できる水位以下であると判断された場合には、水槽70内に水が注入される(S110)。水位計82による水位計測の結果が、所定の水位以上と判断された場合、温度計80により水槽70内に貯留された水の温度計測が行われる(S120)。温度計80による計測値が設定温度(例えば80℃〜95℃)よりも低いと判断された場合には、蒸気供給口72から蒸気(スチーム)が水槽70内に供給される(S130)。スチームの供給により温度計80による計測温度が設定温度に達すると、挿通管内に磁性フロックFを導入することが可能となるため蒸気の供給が停止され(S140)、小容量タンク52内の磁性フロックFの貯留量(水位)の検出が行われる(S150)。小容量タンク52の水位が基準値に達していない場合、ポンプ54による磁性フロックF圧送時に、圧送流体の中に空気等が混入してしまう可能性があるため、水位が基準値に達するまで待機状態が維持される(S160)。その後、小容量タンク52の水位が基準値に達する事で磁性フロックFの加熱殺菌が可能な状態となり、起動準備が終了する(S170)。
【0047】
次に、加熱殺菌工程では図6に示すように、ポンプ54を起動して磁性フロックFを挿通管60に圧送する(S200)。挿通管60に対する磁性フロックの圧送を開始した後、磁性フロックが挿通管60から排出されるまでのカウントを開始する(S210)。磁性フロックFの圧送、加熱により、水槽70内の水と磁性フロックFとの間では熱交換が行われるため、温度計80により水槽70内の水の温度計測が行われる(S220)。温度計測により水温が設定温度よりも低い場合には蒸気の導入が行われ(S230)、S220に戻り再び水温の計測が行われる。S220による水温の計測により、水温が設定温度以上であると判断された場合、蒸気の供給(導入)が行われているか否かが判断される(S240)。蒸気の供給が行われていない場合には小容量タンク52内の磁性フロックの貯留量(水位)の計測が行われ(S260)、蒸気の供給が行われている場合には、蒸気の供給が停止された後(S250)、S260へ移行される。
【0048】
小容量タンク52内の水位が基準値を切っていた場合、ポンプ54の駆動を停止し、小容量タンク52内に磁性フロックFを貯留する(S270)。この時、磁性フロックを圧送するポンプ54は停止しているため、磁性フロックの排出を予測するカウントも停止される(S280)。一方、小容量タンク52内の水位が基準値以上であった場合には、ポンプ54の運転状態が判定され(S290)、ポンプが停止していない状態の場合には挿通管60の入口62に備えた圧力計66により、挿通管60内部の圧力の検出が行われる(S300)。なお、S290においてポンプ54が停止状態であると判断された場合には、S200に戻りポンプ54の起動が行われる。圧力計66による検出値に異常が生じた場合、挿通管60に破損や詰まりといったトラブルが生じたこととなる。この場合、磁性フロックFを圧送するポンプ54や、水槽70へ供給する蒸気等を停止させる緊急停止が行われる(S320)。これに対し、圧力計66の値が正常であった場合には、挿通管60の出口64に設けられた温度計68による温度計測が行われる(S310)。温度計68による計測値が、予め定めた細菌類等の死滅温度よりも低い場合には異常と判断され、緊急停止が行われる(S320)。一方、温度計68による計測値が細菌類等の死滅温度以上であった場合には正常と判断され、カウントが終了しているか否かの確認が行われる(S330)。カウントが終了している場合には、磁性フロックの加熱殺菌工程が終了する(S340)。一方、カウントが終了していない場合には、S220へ戻り、水槽70内の水温の計測から繰り返し処理が行われる。
【0049】
磁性フロックの加熱殺菌工程終了後、図7に示すような加熱殺菌終了工程に入る(S400)。まず、挿通管60に洗浄水が導入される(S410)。洗浄水の導入後(導入と共に)挿通管60内に残留する磁性フロックFが洗浄水に置換されるまでの時間のカウントが開始される(S420)。その後、温度計80により水槽70内の水の温度が計測される(S430)。温度計80による計測温度が設定温度よりも低い場合には、蒸気供給口72から蒸気が供給され(S440)、S430に戻り再度温度計測が行われる。一方、S430における計測温度が設定温度以上である場合には、蒸気供給が停止されているか否かの判断が行われ(S450)、蒸気供給が停止されている場合にはカウントが終了されているか否かの判定が行われる(S470)。S450において蒸気供給が停止されていない場合には、蒸気の供給を停止し(S460)、S670におけるカウントの終了の判定に移行する。S470においてカウントが終了している場合には、ポンプを停止する(S480)。これにより挿通管60への洗浄水の導入も停止され、挿通管60内部は洗浄水により満たされることとなる。一方、S470においてカウントが終了されていない場合には、S430に戻り、水槽70内の水の温度計測と蒸気の導入を繰り返すこととなる。
【0050】
このような加熱殺菌処理を行う加熱殺菌手段50によれば、100℃以下の温水による間接加熱(湯煎)により挿通管60を加熱するため、挿通管60内にスケールが付着することを抑制することができる。また、水槽70内の水は蒸気を噴射することにより加熱し、余剰な凝縮水は排出される構造としているため、水槽70内に高圧となる箇所が無く安全性が高い。また、水槽70内に貯留する水も蒸気も、バラスト水処理装置10を搭載する船舶の機関に使用するものの一部を利用することができ経済的である。さらに水槽70内に貯留する水が磁性フロックF等の汚濁物に接触することが無いため、排出された凝縮水を船舶等の機関で再利用することができる。
【0051】
また、上記のような加熱殺菌手段50を有するバラスト水処理装置10によれば、バラスト水から微生物や細菌類を物理的に回収してバラスト水を浄化すると共に、微生物や細菌類を凝集した磁性フロックFの無菌化を図ることができる。これにより、バラスト水を他の海域へ放流することによる環境面への影響はもちろん、回収した磁性フロックFを長期間に亙り貯蔵することによる環境や人体に対する影響も無くすことができる。
【0052】
なお、上記実施形態では、加熱殺菌手段50の前段に小容量タンク52を配置して磁性フロックを一時貯留する旨記載した。しかしながら磁気分離手段30を構成する磁性フロック貯留槽38を一時貯留手段として用いる構成とすることで、小容量タンク52を省くこともできる。このような構成とした場合、設置スペース及び設備コストの削減を図ることができる。
【0053】
また、実施形態ではあえて円筒管を図示してこれを管路としたが、本発明を実施する上では円筒管に限らず、スリット状の狭い流路であって、そこを通過する磁性フロックを湯煎により確実に加熱することができる形態であれば、それを管路と位置付けることとする。
【0054】
以下、本実施形態に係る加熱殺菌手段50の変形例について説明する。まず、図8を参照して第1の変形例について説明する。なお図8において図8(A)は加熱殺菌手段の上面構成を示すブロック図であり、図8(B)は正面構成を示すブロック図である。
【0055】
本変形例に係る加熱殺菌手段50bは、挿通管60aの形態を上記実施形態と異ならせた点を特徴としている。具体的には、図8(A)から読み取れるように、平面形状を長円形状ではなく、九十九折り形状に形成し、これを多段に積み重ねるように配置している。挿通管60bの形態をこのようなものとすることによれば、水槽70の容積を有効に活かすことができ、挿通管60の長さを長くすることができる。このため、磁性フロックFが挿通管60内に滞留する時間を長くすることができ、磁性フロックF内に含有された細菌類をより確実に死滅させることが可能となる。なお、その他の構成については、上述した実施形態に係る加熱殺菌手段50と同様である。
【0056】
次に、図9を参照して加熱殺菌手段に係る第2の変形例について説明する。なお図9において図9(A)は加熱殺菌手段の上面構成を示すブロック図であり、図9(B)は正面構成を示すブロック図である。
【0057】
本変形例に係る加熱殺菌手段50bも、挿通管60bの形態に特徴がある。具体的には、水槽70内に、長円形状のロールを螺旋状に形成した挿通管60bを2条に配置した点を特徴とする。挿通管60bの形態をこのようなものとすることによれば、磁性フロックFの加熱殺菌能力が2倍になると共に、一方の挿通管60に破損、あるいは詰まりが生じた場合であっても磁性フロックFの加熱殺菌処理を続行することができる。なお、その他の構成については、上述した実施形態に係る加熱殺菌手段50と同様である。
【0058】
次に、図10を参照して加熱殺菌手段に係る第3の変形例について説明する。なお図10において図10(A)は加熱殺菌手段の上面構成を示すブロック図であり、図10(B)は正面構成を示すブロック図である。
本変形例に係る加熱殺菌手段50cは、挿通管60と水槽70との関係に特徴がある。このため、本変形例に係る挿通管60の形態は、上述した実施形態に係る加熱殺菌手段50の挿通管や、上記第1、第2の変形例に係る加熱殺菌手段50a,50bの挿通管と同様で良い。本変形例に係る加熱殺菌手段50cは、挿通管60の巻き回(ロール)、あるいは折返しによって構成される水槽70内のデッドスペースに構造物76を配置するというものである。このような構成とすることにより、デッドスペースの水を排除することができ、蒸気による水の昇温時間を短縮することができる。なお、デッドスペースに配置する構造物76は、水よりも熱伝導率の高いものとすることが望ましい。その他の構成については、上述した実施形態に係る加熱殺菌手段50と同様である。
【0059】
上記実施形態では主に、加熱殺菌手段50として水槽70に浸漬させた挿通管60内に磁性フロックを圧送し、挿通管60を湯煎するという方式のものを例に挙げて説明した。しかし本発明のバラスト水処理方法においては、磁性フロックに凝集させた微生物や細菌類を死滅させるための加熱殺菌手段として乾燥機を用いた場合であっても、技術的範囲とすることができる。発明に用いる乾燥機の形態は特に問わないため図示はしないが、ここでいう乾燥機とはバラスト水処理装置を搭載する船舶に用いられる機器により生成、利用される蒸気の熱を利用して磁性フロッグに含まれる水分を蒸発させるものであれば良い。
【0060】
一例を挙げるとするならば、上記の熱で加熱された回転式ドラムの表面に磁性フロックを押し付け、水分蒸発後に回転式ドラムの表面から磁性フロック(乾燥体)を掻き採るというものである。
【0061】
このような構成の乾燥機を加熱殺菌手段として用いた場合であっても、磁性フロックがショートパスして回収用貯留槽56に至る虞が無い。また、本形態では回転式ドラムを蒸気により直接加熱するため、湯煎による挿通管60の加熱に比べて表面温度(加熱温度)を高くすることができる。このため、短時間で確実に細菌類等を死滅させることが可能となる。さらに乾燥機を加熱殺菌手段として用いた場合には、磁性フロック中に含まれる水分を蒸発させることができるため、汚濁物質として貯留する物質(乾燥された磁性フロック)の減容化を図ることができる。
【符号の説明】
【0062】
10………バラスト水処理装置、12………ポンプ、14………磁性粉添加手段、16………凝集剤添加手段、18………高分子凝集剤添加手段、20………凝集手段、22………高速攪拌槽、24………緩速攪拌槽、30………磁気分離手段、32………磁気分離槽、34………磁気フィルタ、38………磁性フロック貯留槽、40………フィルタ分離手段、42………ドラム型フィルタ、46………スプレーノズル、50………加熱滅菌手段、52………小容量タンク、54………ポンプ、56………回収用貯留槽、60………挿通管、62………入口、64………出口、66………圧力計、68………温度計、69………サポート、70………水槽、72………蒸気供給口、74………凝縮水排出口、80………温度計、82………水位計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト水中に磁性粉と凝集剤を添加することで微生物や細菌を含有した磁性フロックを生成し、前記バラスト水中から前記磁性フロックを回収するバラスト水の処理方法であって、
回収した前記磁性フロックを予め定めた前記微生物や前記細菌の死滅温度以上で加熱することを特徴とするバラスト水処理方法。
【請求項2】
前記磁性フロックを加熱する際に前記磁性フロックを管路に挿通させ、前記磁性フロックを挿通させた管路を加熱することを特徴とする請求項1に記載のバラスト水処理方法。
【請求項3】
前記磁性フロックの加熱は、前記管路を湯煎することにより行うことを特徴とする請求項2に記載のバラスト水処理方法。
【請求項4】
前記管路の出口温度を計測し、前記磁性フロックの加熱状態を調べることを特徴とする請求項2または3に記載のバラスト水処理方法。
【請求項5】
前記管路内の圧力を計測し、管路の状態を調べることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1に記載のバラスト水処理方法。
【請求項6】
バラスト水中に添加された磁性粉と凝集剤を攪拌して磁性フロックを生成する凝集手段と、前記攪拌槽による攪拌で生成された磁性フロックを回収する磁気分離手段を有するバラスト水の処理装置であって、
前記磁性フロックを挿通させる管路と、
前記管路を加熱する加熱手段とを有することを特徴とするバラスト水処理装置。
【請求項7】
前記加熱手段を水槽とし、前記管路を前記水槽内に浸漬させたことを特徴とする請求項6に記載のバラスト水処理装置。
【請求項8】
前記水槽には、当該水槽内の水を加熱する船舶機器からの蒸気を供給する蒸気供給口が設けられることを特徴とする請求項7に記載のバラスト水処理装置。
【請求項9】
前記管路の出口に温度センサを設けたことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1に記載のバラスト水処理装置。
【請求項10】
前記管路に圧力センサを設けたことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1に記載のバラスト水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−16117(P2011−16117A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164241(P2009−164241)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】