説明

バリア性積層体およびガスバリアフィルム

【課題】有機層と無機層とからなるバリア性積層体において、有機層と無機層の密着性とバリア性の両方を達成する。
【解決手段】無機層と、該無機層の表面に設けられた有機層とを有し、前記有機層が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を含有する、バリア性積層体。一般式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性積層体、およびこれを用いたガスバリアフィルムに関する。また、バリア性積層体やガスバリアフィルムを用いた各種デバイスに関する。さらに、ガスバリアフィルムおよびデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無機層と有機層を有するバリア性積層体が知られている。例えば、支持体(PET、PEN等)上に有機層を塗布にて形成し、その上に無機層を真空成膜にて積層することにより、下地の平滑性をそのままに均一な無機層を形成することができる。そして、これを繰り返すことで性能の高いガスバリアフィルムを形成することができる。しかし、有機層と無機層の積層構造においては層間の密着性を確保することが難しい。これは、無機層上に有機層を形成しても、無機層が緻密なため、有機層形成用塗布液が易接着層への塗布のようには、無機層へ浸透しないからである。
このような問題から、無機層上に有機層を塗布する場合、有機層と無機層の密着性を向上させる方法としてシランカップリング剤を使用することが検討されている(特許文献1)。シランカップリング剤は、通常、有機層形成用塗布液の中に添加され、有機層の下層である無機層とは共有結合を形成する。結果として、無機層と有機層の密着性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−125079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本願発明者が検討したところ、特許文献1に記載のシランカップリング剤を用いてバリア性積層体を作成すると、有機層と無機層の密着性は向上するが、有機EL素子等のデバイスに組み込んだときのバリア性が必ずしも十分ではないことが分かった。本願発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、バリア性積層体において、有機層と無機層の密着性とバリア性の両方を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の下、本願発明者が鋭意検討を行った結果、有機EL素子等のデバイスに組み込む際に、熱がかけられるが、かかる熱が問題であることが分かった。すなわち、シランカップリング剤を用いて有機層を形成した場合、有機層にシランカップリング剤の加水分解による残留成分として、アルコールが残るが、このアルコールが熱によってガスとなり、バリア性を低下させていることが分かった。すなわち、発生するガスはアルコールに起因するものであり、その組成は水に近い。また、アルコールガスとして出た瞬間にその一部は水に分解されてしまう。つまり、かかるアルコールや水が、バリア性積層体が外部から水分が浸入した場合と同様の悪影響を与えることが分かった。上記課題のもと、本願発明者が検討を行った結果、特定の構造を有するシランカップリング剤を有機層に用いることにより、密着性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、下記<1>により、好ましくは<2>〜<13>により達成された。
【0006】
<1>無機層と、該無機層の表面に設けられた有機層とを有し、前記有機層が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を含有する、バリア性積層体。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R6は、それぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。但し、R1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である。)
<2>無機層と、該無機層の表面に設けられた有機層とを有し、前記有機層が、重合性化合物と下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤と重合開始剤を含む重合性組成物を硬化させてなる層である、バリア性積層体。
一般式(1)
【化2】

(一般式(1)中、R1〜R6は、それぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。但し、R1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である。)
<3>一般式(1)におけるラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基が、(メタ)アクリロイルオキシ基である、<1>または<2>に記載のバリア性積層体。
<4>有機層の表面に、さらに、第2の無機層を有する、<1>〜<3>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<5>少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層が、交互に積層している、<1>〜<4>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<6>前記無機層が、SiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物を含む、<1>〜<5>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<7>前記重合性化合物が、(メタ)アクリレート系化合物である、<2>〜<6>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<8>支持体上に、<1>〜<7>のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
<9><8>に記載のガスバリアフィルムを基板に用いたデバイス。
<10><1>〜<7>のいずれか1項に記載のバリア性積層体または<8>に記載のガスバリアフィルムを用いて封止したデバイス。
<11>前記デバイスが、有機EL素子または太陽電池素子である、<9>または<10>に記載のデバイス。
<12><1>〜<7>のいずれか1項に記載のバリア性積層体または<8>に記載のガスバリアフィルムを用いた封止用袋。
<13>支持体上に、重合性化合物と下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤と重合開始剤を含む重合性組成物を適用し、25℃以上の温度で加熱した後に、光線、電子線硬化、または熱線にて硬化させることを含む、<8>に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、素子に組み込んだ際も、有機層と無機層の密着性とバリア性の両方を維持できるバリア性積層体を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のバリア性積層体の一例を示す断面概略図である。
【図2】従来のバリア性積層体からガスが放出する状態を示す断面概略図である。
【図3】本発明のガスバリアフィルムの構成の一例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を含む意味で使用される。
【0010】
本発明のバリア性積層体は、無機層と、該無機層の表面に設けられた有機層とを有し、前記有機層が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を含有するか、重合性化合物と下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤と重合開始剤を含む重合性組成物を硬化させてなる層であることを特徴とする。本発明では、バリア性積層体の有機層に一般式(1)のようなシランカップリング剤を採用することにより、デバイスに組み込んだ後も、高い密着性を保ちつつ、高い水蒸気バリア性を達成できる。
最初に、本発明で用いるシランカップリング剤について説明する。
【0011】
一般式(1)
【化3】

(一般式(1)中、R1〜R6は、それぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。但し、R1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である。)
【0012】
1〜R6は、それぞれ置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。R1〜R6は、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である場合を除き、無置換のアルキル基または無置換のアリール基が好ましい。アルキル基としては炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。アリール基としては、フェニル基が好ましい。R1〜R6は、メチル基が特に好ましい。
【0013】
1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基を有し、R1〜R6の2つがラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基であることが好ましい。さらに、R1〜R3のなかでラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基を有するものの数が1であって、R4〜R6のなかでラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基を有するものの数が1であることが特に好ましい。
一般式(1)で表されるシランカップリング剤が2つ以上のラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基は、それぞれの置換基は同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0014】
ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基は、−X−Yで表されることが好ましい。ここで、Xは、単結合、炭素数1〜6のアルキレン基、アリーレン基であり、好ましくは、単結合、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基である。Yは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合基であり、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、ビニル基、プロペニル基、ビニルオキシ基、ビニルスルホニル基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0015】
また、R1〜R6はラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基以外の置換基を有しても良い。置換基の例としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アシル基(例えば、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基等)、スルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、等が挙げられる。
【0016】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【化4】

【化5】

【0017】
本発明で用いられるシランカップリング剤は、後述する重合性組成物中に、1〜30質量%の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは3〜30質量%であり、さらに好ましくは5〜25質量%である。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0018】
本発明のバリア性積層体は、無機層と、該無機層の表面に設けられた有機層を含むものであり、より好ましくは、有機層の表面に第2の無機層を有する態様である。図1は、本実施形態のバリア性積層体の一例を示す断面概略図であって、1は第1の無機層を、2は有機層を、3は第2の無機層を、10はバリア性積層体をそれぞれ示している。
有機層を形成する際、重合性化合物とシランカップリング剤と重合開始剤を含む組成物を無機層の上に塗布して硬化させることが一般的に行われている。そして、上記特許文献1(特開2001−125079号公報)では、シランカップリング剤の加水分解に対して、塗布液の酸価度を調整することで塗布液の反応を制御し、塗布後、80℃10分の加熱を行って、密着性を向上させている。
しかし、本願発明者が検討したところ、上記特許文献1(特開2001−125079号公報)に記載のようなシランカップリング剤を使用した場合、加水分解の副生成物であるアルコール(メタノール、エタノール)が有機層に残存してしまうことが分かった。そして、この残存するアルコールが、その後のプロセス、例えば、デバイスに組み込む段階になって、大量の出ガスを放出することが分かった。この傾向は、加熱や脱気された場合に顕著になる。図2は、従来のバリア性積層体からガスが放出する状態を示す概略図であって、図1と符号は共通である。従来の有機層2’には、アルコール4が残存しており、この状態で加熱や脱気が起こると、かかるアルコールガスが放出し、ガスバリア性を低下させてしまう。特に、図2に示す本実施形態のように、有機層の表面に無機層3が設けられている場合、かかる無機層3を破壊してしまうこともあった。かかるバリア性積層体を組み込んだデバイスを、100℃以上の高温プロセスに曝された際に、副生成物の残存によるこの傾向が顕著であることが分かった。
これに対し、本願発明では、シランカップリング剤が加水分解しても、該シランカップリング剤がアンモニア以外の気体成分は実質的に産出しないことから、上記のような問題が起こらない。すなわち、本発明のバリア性積層体は、高いガスバリア性を高温や真空プロセス化でも維持でき、なおかつ、有機層と無機層の密着性を確保できる。
【0019】
図1、図2では、有機層2は1層のみであるが、さらに、第2の有機層を有していてもよい。すなわち、本願発明では、少なくとも2層の有機層と少なくとも2層の無機層が交互に積層している構成が好ましい。さらに、バリア性積層体を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
【0020】
(有機層)
本発明の有機層は、ポリマーの層である。有機層は、好ましくは、重合性化合物とシランカップリング剤と重合開始剤を含む重合性組成物を層状にした後硬化して形成する。
【0021】
重合性組成物を層状にする方法としては、通常、基材フィルムまたは無機層等の支持体の上に、重合性組成物を適用して形成する。適用方法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法が例示され、この中でもエクストル−ジョンコート塗布が好ましく採用できる。
【0022】
(重合性化合物)
本発明で用いる重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を末端または側鎖に有する化合物、および/または、エポキシまたはオキセタンを末端または側鎖に有する化合物である。これらのうち、エチレン性不飽和結合を末端または側鎖に有する化合物が好ましい。エチレン性不飽和結合を末端または側鎖に有する化合物の例としては、(メタ)アクリレート系化合物、アクリルアミド系化合物、スチレン系化合物、無水マレイン酸等が挙げられ、(メタ)アクリレート系化合物が好ましい。
【0023】
(メタ)アクリレート系化合物としては、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートやポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が好ましい。
スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、4−ヒドロキシスチレン、4−カルボキシスチレン等が好ましい。
【0024】
以下に、(メタ)アクリレート系化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
さらに、本発明では、下記一般式(2)で表されるメタアクリレート系化合物も好ましく採用できる。
一般式(2)
【化12】

(一般式(2)中、R1は、置換基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜5の整数を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、R1の少なくとも1つは重合性基を含む。)
【0031】
1の置換基としては、−CR22−(R2は水素原子または置換基)、−CO−、−O−、フェニレン基、−S−、−C≡C−、−NR3−(R3は水素原子または置換基)、−CR4=CR5−(R4、R5は、ぞれぞれ、水素原子または置換基)の1つ以上と、重合性基との組み合わせからなる基が挙げられ、−CR22−(R2は水素原子または置換基)、−CO−、−O−およびフェニレン基の1つ以上と、重合性基との組み合わせからなる基が好ましい。
2は、水素原子または置換基であるが、好ましくは、水素原子またはヒドロキシ基である。
1の少なくとも1つが、ヒドロキシ基を含むことが好ましい。ヒドロキシ基を含むことにより、機層の硬化率が向上する。
1の少なくとも1つの分子量が10〜250であることが好ましく、70〜150であることがより好ましい。
1が結合している位置としては、少なくともパラ位に結合していることが好ましい。
nは、0〜5の整数を示し、0〜2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、いずれも1であることがさらに好ましい。
【0032】
一般式(2)で表される化合物は、R1の少なくとも2つが同じ構造であることが好ましい。さらに、nは、いずれも1であり、4つのR1の少なくとも2つずつがそれぞれ同じ構造であることがより好ましく、nは、いずれも1であり、4つのR1が同じ構造であることがさらに好ましい。一般式(2)が有する重合性基は、(メタ)アクリロイル基またはエポキシ基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。一般式(2)が有する重合性基の数は、2つ以上であることが好ましく、3つ以上であることがより好ましい。また、上限は特に定めるものではないが、8つ以下であることが好ましく、6つ以下であることがより好ましい。
一般式(2)で表される化合物の分子量は、600〜1400が好ましく、800〜1200がより好ましい。
【0033】
本発明では、一般式(2)で表される化合物を1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上含んでいる場合、例えば、同じ構造のR1を含み、かつ、該R1の数が異なる化合物およびそれらの異性体を含んでいる組成物が例示される。
【0034】
以下に、一般式(2)で表される化合物の具体例を示すが、これによって本発明が限定されることはない。また、下記化合物では、一般式(2)の4つのnがいずれも1の場合を例示しているが、一般式(2)の4つのnのうち、1つまたは2つまたは3つが0のもの(例えば、2官能や3官能化合物等)や、一般式(2)の4つのnのうち、1つまたは2つまたは3つ以上が2つ以上のもの(R1が1つの環に、2つ以上結合しているもの、例えば、5官能や6官能化合物等)も本発明の好ましい化合物として例示される。
【0035】
【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【0036】
上一般式(2)で表される化合物は、市販品として入手することができる。また、上記化合物は、公知の方法によって合成することもできる。例えば、エポキシアクリレートは、エポキシ化合物とアクリル酸との反応で得ることができる。これらの化合物は、通常、反応の際、2官能、3官能、5官能やその異性体なども生成する。これらの異性体を分離したい場合は、カラムクロマトグラフィによって分離できるが、本発明では、混合物として用いることも可能である。
【0037】
(重合開始剤)
本発明における重合性組成物は、通常、重合開始剤を含む。重合開始剤を用いる場合、その含量は、重合に関与する化合物の合計量の0.1モル%以上であることが好ましく、0.5〜2モル%であることがより好ましい。このような組成とすることにより、活性成分生成反応を経由する重合反応を適切に制御することができる。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、ランベルティ(Lamberti)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZT、エザキュアKTO46など)等が挙げられる。
【0038】
本発明では、シランカップリング剤と重合性化合物と重合開始剤を含む重合性組成物を、光(例えば、紫外線)、電子線、または熱線にて、硬化させるが、光によって硬化させることが好ましい。特に、重合性組成物を25℃以上の温度(例えば、30〜130℃)をかけて加熱した後に、硬化させることが好ましい。このような構成とすることにより、シランカップリング剤の加水分解反応を進行させ、重合性組成物を効果的に硬化させ、かつ、基材フィルム等にダメージを与えずに成膜することができる。
また、本発明で用いる重合性組成物は、一般式(1)で表されるシランカップリング剤以外のシランカップリング剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、重合性組成物の全成分の0.1質量%以下であることをいう。
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.1J/cm2以上が好ましく、0.5J/cm2以上がより好ましい。重合性化合物として、(メタ)アクリレート系化合物を採用する場合、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で0.5J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0039】
本発明における有機層は、平滑で、膜硬度が高いことが好ましい。有機層の平滑性は1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.5nm未満であることがより好ましい。モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(例えば、アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
【0040】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは50nm〜2000nmが好ましく、200nm〜1500nmがより好ましい。
有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
有機層の硬度は高いほうが好ましい。有機層の硬度が高いと、無機層が平滑に成膜されその結果としてバリア能が向上することがわかっている。有機層の硬度はナノインデンテーション法に基づく微小硬度として表すことができる。有機層の微小硬度は100N/mm以上であることが好ましく、150N/mm以上であることがより好ましい。
【0041】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。本発明では、この中でも特に真空製膜法が好ましい。無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化窒化物または金属酸化炭化物であり、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTaから選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物などを好ましく用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
本発明により形成される無機層の平滑性は、1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.5nm以下がより好ましい。無機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0042】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内であり、好ましくは10〜200nmである。無機層は複数のサブレイヤーから成る積層構造であってもよい。この場合、各サブレイヤーが同じ組成であっても異なる組成であってもよい。
【0043】
(有機層と無機層の積層)
有機層と無機層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機層を順次繰り返し製膜することにより行うことができる。
特に、本発明では、少なくとも2層の有機層と少なくとも2層の無機層を交互に積層した場合に、高いバリア性を発揮することができる。
【0044】
(機能層)
本発明のバリア性積層体においては、機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、耐溶剤層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0045】
バリア性積層体の用途
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体には、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はガスバリアフィルムのバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、バリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0046】
<ガスバリアフィルム>
ガスバリアフィルムは、基材フィルムと、該基材フィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。図3は、本発明のガスバリアフィルムの構成の一例を示したものであって、基材フィルム5の上に、有機層と無機層が交互に設けられた構成を示している。具体的には、基材フィルム5の側から順に、有機層6、無機層1、有機層2、無機層3の順に、それぞれの面が互いに隣接するように設けられている。有機層6は、アンダーコート層とも呼ばれ、基材フィルム5と無機層13の密着性を向上させている。有機層6は、上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を含む有機層であってもよいし、他の有機層であってもよい。
ガスバリアフィルムにおいて、本発明のバリア性積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、基材フィルム側から無機層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機層の順に積層していてもよい。本発明のバリア性積層体の最上層は無機層でも有機層でもよい。
また、本発明におけるガスバリアフィルムは大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
ガスバリアフィルムを構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
ガスバリアフィルムはバリア性積層体、基材フィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体と基材フィルムの間、基材フィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0047】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるガスバリアフィルムは、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等のバリア性積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0048】
本発明のガスバリアフィルムを後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0049】
本発明のガスバリアフィルムを偏光板と組み合わせて使用する場合、ガスバリアフィルムのバリア性積層体がセルの内側に向くようにし、最も内側に(デバイスに隣接して)配置することが好ましい。このとき偏光板よりセルの内側にガスバリアフィルムが配置されることになるため、ガスバリアフィルムのレターデーション値が重要になる。このような態様でのガスバリアフィルムの使用形態は、レターデーション値が10nm以下の基材フィルムを用いたガスバリアフィルムと円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの基材フィルムを用いたガスバリアフィルムに直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0050】
レターデーションが10nm以下の基材フィルムとしてはセルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。
また1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【0051】
本発明のガスバリアフィルムは有機EL素子等のデバイスとして利用されることから、プラスチックフィルムは透明であること、すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のガスバリアフィルムをディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のガスバリアフィルムに用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、上述したもののほか、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に記載されているものを好ましく採用できる。
【0052】
本発明のバリア性積層体は水や酸素等により常温常圧下における使用によっても経年劣化しうる素子の封止に好ましく用いられる。例えば有機EL素子、液晶表示素子、太陽電池、タッチパネル等が挙げられる。
【0053】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0054】
本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、バリア性積層体およびガスバリアフィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0055】
従来のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、これらをデバイスに組み込み、その状態で、例えば、80℃以上、さらには100℃以上の温度で加熱したとき、アルコールガスを放出し、デバイスにダメージを与えてしまっていた。しかしながら、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、このような高温で加熱してもアルコールガスを大量に放出しないため、デバイスにダメージを与えることを効果的に抑制できる。
【0056】
(有機EL素子)
ガスバリアフィルムを用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。有機EL素子の製造工程には、ITOのエッチング工程後の乾燥工程や湿度の高い条件下での工程があるため、本発明のガスバリアフィルムを用いることは極めて優位である。
【0057】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリアフィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、IPS型(In-Plane Switching)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
【0058】
(太陽電池)
本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、接着層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。太陽電池は、ある程度の熱と湿度に耐えることが要求されるが、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは好適である。本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
【0059】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー等が挙げられる。
また、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等の樹脂フィルムと、本発明のバリア性積層体またはガスバリアフィルムを積層して封止用袋として用いることができる。これらの詳細については、特開2005−247409号公報、特開2005−335134号公報等の記載を参酌できる。
【0060】
<光学部材>
本発明のガスバリアフィルムを用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるガスバリアフィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1
(有機層塗布組成物の調整)
重合性化合物(ダイセルサイテック社製、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)100重量部、光重合開始剤(チバケミカル社製、イルガキュア184)、下記に示すシランカップリング剤3重量部およびメチルエチルケトン(MEK)を含む組成物を調整した。MEKの量は、乾燥膜厚が1μmになるように調整し、光重合開始剤は組成物中に3重量%とした。
【化18】

上記式中、RはCH2CHCOOCH2を表す。
上記シランカップリング剤は、特開2009−67778号公報に記載の方法を参酌して合成した。
【0063】
(第1層の形成)
ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、テオネックスQ65FA、厚さ100μm、幅1000mm)上に、上記で得られた有機層塗布組成物をダイコーターにて塗布、乾燥し、紫外線硬化により硬膜させ、巻き径に応じて巻き取りテンションが一定になるように制御しながらフィルムロールを作成した。
【0064】
(第2層の形成)
上記有機層の表面に、無機層を形成した。先の第1層を真空製膜装置の送り出し部にセットした。真空成膜装置を真空排気した後、CVD法にてSiN膜を50nmの範囲で成膜し、成膜後に巻き取った。
【0065】
(第3層の形成)
上記無機層の表面に、有機層を形成した。塗布膜で10μmの厚さとなるように有機層塗布組成物を塗布し、乾燥膜で1μmを得た。塗布後の乾燥温度は乾燥風にて調整し、30℃以上になるように制御した。3分間加熱できるようにした。その後、第1層目と同様に温度調整された紫外線硬化装置にて硬膜し、巻き取った。
【0066】
得られたガスバリアフィルムについて、密着性および水蒸気透過率について、以下の方法に従って評価した。
【0067】
<密着性の評価>
JIS K5400に準拠した方法で評価した。ガスバリアフィルムのバリア層側の面にカッターナイフで膜面に対して90°の切り込みを1mm間隔で入れ、1mm間隔の碁盤目を100個作成した。この上に2cm幅のマイラーテープ(日東電工製、ポリエステルテープ、No.31B)で貼り付けたテープを剥がした。有機層が残存したマスの数で評価した。
◎→100個
○→99〜60個
△→59〜20個
×→19〜0個
【0068】
<カルシウム法による水蒸気透過率の測定(バリア性)>
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-1438頁に記載の方法を用いて水蒸気透過率(g/m2/day)を測定した。このときの温度は40℃、相対湿度は90%とした。以下のとおり評価した。
×:1.0×10-3 g/m2・day 以上
△×:2.0×10-4 g/m2・day 以上1.0×10-3 g/m2・day 未満
△:1.0×10-4 g/m2・day 以上2.0×10-4 g/m2・day 未満
○:5.0×10-5 g/m2・day 以上1.0×10-4 g/m2・day 未満
◎:5.0×10-5 g/m2・day 未満
【0069】
(実施例2〜4)
実施例1において、TMPTAとシランカップリング剤の含量を表に記載のとおり変更し、他は同様に行った。
【0070】
(比較例1〜3)
実施例2、3、4において、それぞれ、シランカップリング剤を同量のKR500(信越シリコーン製)に変更し、他は同様に行った。
【0071】
さらに、実施例2、3、比較例1、2で作成したガスバリアフィルムを100℃で5時間加熱した後加温による脱ガスの影響を確認した。
【0072】
(実施例5〜8、比較例4〜6)
上記実施例1〜4、比較例1〜3で作成したガスバリアフィルムの第3層の表面に、さらに、下記に従って第4の層を形成してガスバリアフィルムを形成した。得られたガスバリアフィルムについて、実施例1と同様の手法で密着性および水蒸気透過率を測定した。
【0073】
(第4層の形成)
上記有機層の表面に、無機層を形成した。上記で作成したガスバリアフィルムを真空製膜装置の送り出し部にセットした。真空成膜装置を真空排気した後、CVD法にてSiN膜を50nmの範囲で成膜し、成膜後に巻き取った。
【0074】
さらに、実施例5〜8、比較例4〜6で作成したガスバリアフィルムを100℃で5時間加熱した後加温による脱ガスの影響を確認した。
【0075】
(実施例9〜11)
実施例2〜4において、シランカップリング剤と当量の下記で表されるシランカップリング剤に変更したほかは、同様に行ってガスバリアフィルムを形成した。得られたガスバリアフィルムについて、実施例1と同様の手法で密着性および水蒸気透過率を測定した。
さらに、実施例2〜4で作成したガスバリアフィルムを100℃で5時間加熱した後加温による脱ガスの影響を確認した。
【化19】

【0076】
以上の結果を下記表に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
上記表から明らかなとおり、一般式(1)で表されるシランカップリング剤を用いた場合、密着性および水分透過率のいずれにも優れたガスバリアフィルムが得られることが分かった。一方、従来のシランカップリング剤を用いた場合、水分透過率が劣る傾向にあった。さらに、シランカップリング剤を含む有機層を無機層で挟んだ場合、加熱後には、ガスバリアフィルムが破壊してしまうことが分かった。
【0083】
有機EL発光素子での評価
上記で得られたガスバリアフィルムを用いて、有機EL素子を作成した。まず、ITO膜(抵抗:30Ω)を上記ガスバリアフィルムに上にスパッタで形成した。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン:膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン:膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム:膜厚60nm
(電子注入層)
フッ化リチウム:膜厚1nm
この上に、金属アルミニウムを100nm蒸着して陰極とし、その上に厚さ3μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
次に、熱硬化型接着剤(エポテック310、ダイゾーニチモリ(株))を用いて、作成した有機EL素子上と、上記で作製したガスバリアフィルムを、バリア性積層体が有機EL素子の側となるように貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を計10素子作製した。
この結果、比較例のガスバリアフィルムを用いた場合、ITO膜基板として用いたガスバリアフィルムがダメージを受けてしまい、良好な素子が得られなかった。一方、本発明のガスバリアフィルムを用いた場合、ITO膜基板として用いたガスバリアフィルムがダメージを受けずに、良好な有機EL素子が得られた。
【0084】
太陽電池の作成
上記で作成したガスバリアフィルムを用いて、太陽電池モジュールを作成した。具体的には、太陽電池モジュールよう充填剤として、スタンダードキュアタイプのエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた。10cm角の強化ガラス上に厚さ450μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体でアモルファス系のシリコン太陽電池セルを挟み込み充填し、さらにその上のガスバリアフィルムを設置することで太陽電池モジュールを作成した。設置条件は、150℃にて真空引き3分行ったあと、9分間圧着を行った。本方法で作成した太陽電池モジュールは、良好に作動し、85℃、85%相対湿度の環境下でも良好な電気出力特性を示した。
【0085】
封止用袋の作成
上記で作成したガスバリアフィルムを用いて、封止用袋を作成した。ガスバリアフィルムの基材フィルム側と、樹脂フィルムからなるバック(ポリエチレン製のバッグ)をヒートシール法によって融着し、封止用袋を作成した。得られた封止用袋に、薬剤として、セファゾリンナトリウム(大塚製薬工場製)を封入し、40℃相対湿度75%の条件で6ヶ月保存して色調の変化を評価したところ、色調に変化はほとんど見られなかった。
【符号の説明】
【0086】
1 無機層
2 有機層
3 無機層
4 アルコール
5 基材フィルム
6 有機層
10 バリア性積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機層と、該無機層の表面に設けられた有機層とを有し、前記有機層が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を含有する、バリア性積層体。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R6は、それぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。但し、R1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である。)
【請求項2】
無機層と、該無機層の表面に設けられた有機層とを有し、前記有機層が、重合性化合物と下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤と重合開始剤を含む重合性組成物を硬化させてなる層である、バリア性積層体。
一般式(1)
【化2】

(一般式(1)中、R1〜R6は、それぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。但し、R1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である。)
【請求項3】
一般式(1)におけるラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基が、(メタ)アクリロイルオキシ基である、請求項1または2に記載のバリア性積層体。
【請求項4】
有機層の表面に、さらに、第2の無機層を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項5】
少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層が、交互に積層している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
前記無機層が、SiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項7】
前記重合性化合物が、(メタ)アクリレート系化合物である、請求項2〜6のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項8】
支持体上に、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
【請求項9】
請求項8に記載のガスバリアフィルムを基板に用いたデバイス。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体または請求項8に記載のガスバリアフィルムを用いて封止したデバイス。
【請求項11】
前記デバイスが、有機EL素子または太陽電池素子である、請求項9または10に記載のデバイス。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体または請求項8に記載のガスバリアフィルムを用いた封止用袋。
【請求項13】
支持体上に、重合性化合物と下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤と重合開始剤を含む重合性組成物を適用し、25℃以上の温度で加熱した後に、光線、電子線硬化、または熱線にて硬化させることを含む、請求項8に記載のガスバリアフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43382(P2013−43382A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183156(P2011−183156)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】