説明

バリスタセラミック、バリスタセラミックを含む多層構成要素、バリスタセラミックの製造方法

本発明は、以下の材料:Znを主成分として、Prを0.1〜3原子%の割合で、Y,Ho,Er,Yb,Luから選択される金属Mを0.1〜5原子%の割合で含む、バリスタセラミックに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項1に基づくバリスタセラミックが記載される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
バリスタセラミックの広く知られている1つの課題は、低い誘電率(ε)を得ることにある。それと同時に高い非線形性を、高電流領域(ESD,8/20)における十分に高い切換耐久性と、低い漏れ電流とで具体化することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0003】
この課題は、請求項1に記載のバリスタセラミックによって解決される。バリスタセラミックのその他の実施形態は、その他の請求項の対象であり、またこれらのバリスタセラミックを含んでいる多層構成要素、およびバリスタセラミックの製造方法である。
【0004】
バリスタは電圧依存的な抵抗器であり、過電圧防護として利用される。
本発明の1つの実施形態は、次の材料:
− Znを主成分として、
− Prを0.1〜3原子%の割合で、
− Y,Ho,Er,Yb,Luから選択される金属Mを0.1〜5原子%の割合で、
含む、バリスタセラミックに関するものである。
【0005】
1つの実施形態では、MはYまたはLuを表す。
1つの実施形態では、Coの割合は0.1〜10原子%の範囲内であり、Coは好ましくはCo2+として存在する。
【0006】
1つの実施形態では、Caの割合は0.001〜5原子%の範囲内であり、Caは好ましくはCa2+として存在する。
【0007】
1つの実施形態では、Siの割合は0.001〜0.5原子%の範囲内であり、Siは好ましくはSi4+として存在する。
【0008】
1つの実施形態では、Alの割合は0.001〜0.1原子%の範囲内であり、Alは好ましくはAl3+として存在する。
【0009】
1つの実施形態では、Crの割合は0.001〜5原子%の範囲内であり、Crは好ましくはCr3+として存在する。
【0010】
1つの実施形態では、Bの割合は0.001〜5原子%の範囲内であり、Bは好ましくはB3+として存在する。
【0011】
デジタル信号の高い伝送速度のために、高いESDロバスト性およびサージ電流安定性と、低いキャパシタンスとを有する多層バリスタが必要とされる。低いキャパシタンスは、伝送される信号への影響をできる限り少なくするために必要である。
【0012】
バリスタのキャパシタンスは、次式:
C = ε ε A/d (1)
[式中、Cはキャパシタンス、εは真空の誘電率、εは相対誘電率、Aは2つの電極間の面積、dは電極間の層の厚みである。]
によって表される。
【0013】
このような粒間材料の真の誘電率εeffは、Levinson他(J.Appl.Phys.vol.46;No.3;1975)によれば、次式:
C = εeff ε[A/(zd)] (2)
[式中、Cはキャパシタンス、εは真空の誘電率、zは電極間の粒子・粒子接触の数、Aは電極間の面積、dは粒子・粒子接触の障壁層厚である。]
によって記述される。
【0014】
多層バリスタのキャパシタンスを低減させために(式(1))、従来の方法は、面積Aを減らすとともに、層厚dを増やすことによって行われている。しかしながら、これは多層コンセプトに反している。面積Aの低減は最大のエネルギー受容能力の低減につながり、そのためにサージ電流安定性の低下、ならびにESDパルスに関わるロバスト性の低下につながるからである。
【0015】
1つの実施形態ではバリスタセラミックは、酸化コバルトや酸化プラセオジムを超えて、低い塩基度(より小さいイオン半径)の金属M、たとえばY3+やLu3+(r3+=93pm)の塩または酸化物の添加物を含んでいる。
【0016】
それにより、障壁のいっそう低い分極率と、障壁特性の制御(障壁高さおよび空乏領域の幅)とが実現され、ならびに、粒子・粒子接触点ごとの低減されたキャパシタンスと、同時に高い非線形性およびESD安定性を有するバリスタセラミックが得られる。
【0017】
粒子・粒子接触点ごとのキャパシタンスの低減により、電極間の同じ面積で、およびこれに伴って同じ良好なESDロバスト性およびサージ電流安定性で、低いキャパシタンスを有するバリスタ構成部分を得ることができる。
【0018】
上述した利点については、実施例の中で詳細に説明されている。
1つの実施形態では、カチオンが比較的小さなイオン半径を有している金属M(たとえばY3+、Lu3+)の酸化物または塩がバリスタセラミックに溶解しており、それにより、バリスタセラミックは粒子・粒子接触点ごとの低いキャパシタンスを有している。
【0019】
1つの実施例では、ZnOにプラセオジム(0.1〜3原子%)およびコバルト(0.1〜10原子%)の酸化物がドーパントとして添加され、さらにカルシウム(0.001〜5原子%)、ケイ素(0.001〜0.5原子%)、アルミニウム(0.001〜0.01原子%)、クロム(0.001〜原子%)が酸化物の形態で、ならびに、ホウ素(0.001〜5原子%)が焼結プロセスで組織形成を制御する目的のための固定された形態で、およびイットリウム(0.1〜5原子%)が酸化物の形態で、添加される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】多層バリスタの製造プロセスを模式的なフローチャートとして示しており、A1の定量、A2の予備粉砕、A3の乾燥、A4のふるい、A5の焼成、A6の再粉砕、A7の乾燥、A8のふるい、B1のスラリー形成、B2のグリーンシート、C1の導電性ペーストの印刷、C2の積層、C3のカッティング、D1の脱炭、D2の焼結、E1の外部終端の塗布、E2の焼き付けの方法ステップを含んでいる。
【図2】内部電極(1)と、バリスタセラミック材料(2)と、外部終端(3)とを含む多層バリスタの構造を模式的に示している。1つの実施形態では、多層バリスタのセラミック体はモノリシックなセラミック体として存在している。
【図3】左側にESDパルスの特性曲線、右側に8/20パルスの特性曲線をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
多層バリスタの製造は図1に示すようにして行うことができる。
これらの成分は、酸化され、溶解され、または固定された形態で、表1に掲げる比率で定量され(A1)、予備粉砕され(A2)、乾燥され(A3)、ふるいにかけられ(A4)、引き続いて400℃〜1000℃の間で焼成され(A5)、再粉砕され(A6)、噴霧乾燥され(A7)、ふるいにかけられる(A8)。
【0022】
このようにして製作された粉末から、結合剤、分散剤、ならびに溶剤の添加によってスラリーが製作され(B1)、これから5〜60μmの層厚を有するシートが作成され(B2)、次いで、図1のプロセスチャートに示すようにこれが多層バリスタに加工され:このときグリーンシートに導電性ペーストが印刷され(C1)、積層され、次いでカッティングされる(C2,C3)。
【0023】
以後の脱炭ステップ(D1)で、180℃〜500℃の間の温度でグリーンシートから燃焼により結合剤が除去され、900〜1400℃の間の温度で各成分が焼結される(D2)。次いで、外部終端層(E1)が塗布され、この層が500℃〜1000℃の間の温度で焼き付けられる(E2)。
【0024】
1つの好ましい態様では、方法ステップD2)の焼結温度は1100℃〜1400℃の間である。
【0025】
別の好ましい態様では、方法ステップE2)の焼き付けの温度は600℃〜1000℃の間である。
【0026】
図2は、多層構成要素を模式的な側面図として示している。ここでは内部電極(1)とバリスタセラミック材料(2)の層とが交互に相上下して連続している。内部電極(1)はそれぞれ交互に一方または他方の外部終端(3)と結合されている。中央領域では、それぞれの内部電極(1)が重なり合っている。
【0027】
図2は、0402多層バリスタの典型的な構造(寸法1.0mm×0.5mm×0.5mm)を示しているが、内部電極(2)の重なり合い面積、ならびに内部電極の個数は、希望する電気構成部分特性に合わせて適合化することができる。
【0028】
構成部分の電気的な特徴づけは、漏れ電流、バリスタ電圧、非線形性係数、8/20パルス安定性、ESDパルス安定性、1Aでの8/20端子電圧(U)の判定によって行われる。
【0029】
図3は、左と右にそれぞれパルス推移を示している。ここでは電流Iが時間tに対してそれぞれプロットされている。
【0030】
固有のバリスタ電圧Eは1mAで判定される。
キャパシタンスは1Vおよび1kHzで測定される。
【0031】
ESD安定性は、図3の左側のパルスによって判定される。そのために、構成部分を+/−10のESDパルス(図3の右側参照)により負荷した。パルスの前後におけるUの百分率変化をパーセントで計算して、10%を超える百分率変化を有していてはならない。さらに、8/20ロバスト性試験(パルス形状は図3の右側参照)を実施した。ここでは構成部分を8/20パルス(図3の右側参照)により1A、5A、10A、15A、20A、および25Aで負荷し、ならびに、バリスタ電圧と漏れ電流の百分率変化を負荷後に判定した。
【0032】
非線形性係数は次の各式に従って判定した:
α1(10μA/1mA) = log(110−3/1010−6)/log(V10mA/V10μA
α2(1mA/1A) = log(1/110−3)/log(V1A/V1mA
α3(1mA/20A) = log(20/110−3)/log(V20A/V1mA
安定性試験は80%AVRの条件下で125℃で実施した。漏れ電流Iは、この条件のもとでは増加特性を有していないほうがよい。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
電気的なデータを表2にまとめている。イットリウムの添加により、固有のバリスタ電圧が268V/mmから525V/mmに上昇し、それと同時に相対誘電率は低下する。このような変化の原因は、イットリウム化合物の粒子成長阻害特性に帰することができる。
【0036】
粒度に依存しないパラメータを得るために、比率ε/Eを作成した。表2は、イットリウム添加の増加に伴ってこの比率が低下することを示している。それと同時に、同じ良好な非線形性で、高いESD安定性と8/20安定性が得られる。
【0037】
1つの実施形態では、Znの割合は好ましくは90原子%よりも大きく、Znは好ましくはZn2+として存在する。
【0038】
1つの実施形態では、Prの割合は好ましくは0.5〜0.6原子%の範囲内にあり、Prは好ましくはPr3+/4+として存在する。
【0039】
1つの実施形態では、Mの割合は好ましくは1〜5原子%の範囲内にあり、Mは好ましくはM2+/M3+/M4+として存在する。
【0040】
1つの実施形態では、Coの割合は好ましくは1.5〜2.0原子%の範囲内にあり、Coは好ましくはCo2+として存在する。
【0041】
1つの実施形態では、Caの割合は好ましくは0.01〜0.03原子%の範囲内にあり、Caは好ましくはCa2+として存在する。
【0042】
1つの実施形態では、Siの割合は好ましくは0.01〜0.15原子%の範囲内にあり、Siは好ましくはSi4+として存在する。
【0043】
1つの実施形態では、Alの割合は好ましくは0.005〜0.01原子%の範囲内にあり、Alは好ましくはAl3+として存在する。
【0044】
1つの実施形態では、Crの割合は好ましくは0.05〜0.2原子%の範囲内にあり、Crは好ましくはCr3+として存在する。
【0045】
1つの実施形態では、Bの割合は好ましくは0.001〜0.01原子%の範囲内にあり、Bは好ましくはB3+として存在する。
【0046】
1つの実施形態では、相対誘電率εは1000よりも低い。
アルカリカーボネート添加剤が回避される結果として、工業プロセスの過程で高い再現性を実現することができる。
【0047】
製造方法においては、組織構成を制御する目的のために、酸化ホウ素を焼結補助剤として、気化損失をほぼ回避しながら、高い温度領域で適当な前段階から遊離させることができる。
【0048】
設計形態0402および0201の多層バリスタは、漏れ電流、ESD安定性、8/20ロバスト性、長期安定性、および非線形性の結果が卓越しているという特徴がある。
【0049】
主成分とは少なくとも50原子%の割合を意味する。Znの割合は好ましくは70原子%を超え、Znは好ましくはZn2+として存在する。
【0050】
バリスタセラミックの製造方法の1つの変更例では、製造方法は次の方法ステップ:a)未加工セラミック材料の焼成、b)スラリーの製造、c)グリーンシートの作成、d)グリーンシートのバインダ除去、e)d)のグリーンシートの焼結を含む。
【0051】
製造方法の別の変更例では、製造方法は方法ステップd)とe)の間に追加的に方法ステップd1)構造の組立を含む。
【符号の説明】
【0052】
1) 内部電極
2) バリスタセラミック材料
3) 外部終端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の材料:
Znを主成分として、
Prを0.1〜3原子%の割合で、
Y,Ho,Er,Yb,Luから選択される金属Mを0.1〜5原子%の割合で、
含む、バリスタセラミック。
【請求項2】
MがYまたはLuを表す、請求項1記載のバリスタセラミック。
【請求項3】
Coを0.1〜10原子%の割合で追加的に含む、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項4】
Caを0.001〜5原子%の割合で追加的に含む、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項5】
Siを0.001〜0.5原子%の割合で追加的に含む、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項6】
Alを0.001〜0.1原子%の割合で追加的に含む、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項7】
Crを0.001〜5原子%の割合で追加的に含む、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項8】
Bを0.001〜5原子%の割合で追加的に含む、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項9】
Znを主成分として、
Prを0.1〜3原子%の割合で、
Mを0.1〜5原子%の割合で、
Coを0.1〜10原子%の割合で、
Caを0.001〜5原子%の割合で、
Siを0.001〜0.5原子%の割合で、
Alを0.001〜0.1原子%の割合で、
Crを0.001〜5原子%の割合で、
Bを0.001〜5原子%の割合で、
含む、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項10】
2000よりも低い相対誘電率εrを有する、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項11】
Mの添加によってバリスタ材料の相対誘電率が低減される、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項12】
焼結温度が1000〜1300℃の間である、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項13】
アルカリ金属を有していない、先行請求項のいずれか1項に記載のバリスタセラミック。
【請求項14】
ESD防護のための設計形態を有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載のバリスタセラミックを含む多層構成要素。
【請求項15】
次の方法ステップ:
a)未加工セラミック材料の焼成、
b)スラリーの製造、
c)グリーンシートの作成、
d)グリーンシートのバインダ除去、
e)d)のグリーンシートの焼結、
を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のバリスタセラミックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−516825(P2012−516825A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546868(P2011−546868)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051188
【国際公開番号】WO2010/089279
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】