説明

バリ取り洗浄装置およびバリ取り洗浄方法

【課題】ワークを機械的に加工した加工部位に発生する微細なバリを高いバリ取り品質で効率よく除去することができるバリ取り洗浄装置およびバリ取り洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂基板8を切断した切断面に発生したバリを除去して洗浄するバリ取り洗浄において、ラバールノズルを応用したアイスブラストノズル22によって、洗浄水と圧縮空気を用いて洗浄水の凍結粒子23aおよび過冷却状態の液滴23bを含む洗浄媒体23を生成し、樹脂基板8に対して噴射する。これにより、銅などの延性に富む金属の微細なバリを対象とする場合にも、高いバリ取り品質で効率よく除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が実装される基板などのワークを機械的に加工した加工部位に発生するバリを除去して加工部位を洗浄するバリ取り洗浄装置およびバリ取り洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる実装基板のうち、小型機器に用いられる小径基板は複数の基板が作り込まれたいわゆる多面取り基板の形態で取り扱われ、スクリーン印刷や電子部品の搭載などの部品実装作業は複数の基板を対象として一括して行われる。そして部品実装が完了した多面取り基板は、基板切断工程において個片の小径基板に分割され完成品となる。この基板切断は、従来より軸状の切断工具であるルータや円板状の回転工具であるダイシングブレードを回転させて基板を機械的に切削することにより行われる場合が多い(特許文献1,2参照)。特許文献1に示す先行技術例では、複数枚重ねた状態の基板をルータを用いて切断する例が示されている。また特許文献2は基板に設けられたスルーホールの位置をダイシングブレードによって切断する例を示している。
【特許文献1】特開2002−299790号公報
【特許文献2】特開平11−16771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電子部品の実装に用いられる基板には、一般にガラスエポキシ樹脂などの樹脂基板に銅など導電性金属の膜によって回路電極を形成したものが用いられ、基板の厚さ方向を貫通して回路を形成する必要がある場合には、基板の表面のみならず基板を貫通して設けられたスルーホールの内面にも箔状の銅膜が形成される。そして多面取り基板を個片に分割するための基板切断においては、基板表面の回路電極やスルーホール内面の銅膜が、基板材質である樹脂と同時に機械的に切断され、この切断時において切断部には銅などの金属性の微細なバリが発生する。
【0004】
このようなバリが残留したまま製品として用いられると、脱落したバリによる回路電極の短絡などの不具合の原因となるため、このようなバリは極力除去する必要がある。ところが銅など回路電極に用いられる金属は延性に富んでいることから機械的に効率よく除去することが難しく、またブラシなどを用いた人手によるバリ取り作業によっても高いバリ取り品質でバリを除去することが難しい。このため、基板切断後のバリ除去を高いバリ取り品質で効率的に行うことを可能とするバリ取り洗浄技術が望まれていた。そしてこのような要請は、実装基板を機械的に切断する分野に限られず、ワークを機械的に加工した加工部位に除去しがたい微細なバリが発生する場合においても共通するものであった。
【0005】
そこで本発明は、ワークを機械的に加工した加工部位に発生する微細なバリを高いバリ取り品質で効率よく除去することができるバリ取り洗浄装置およびバリ取り洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のバリ取り洗浄装置は、ワークを機械的に加工した加工部位に発生したバリを除去して洗浄するバリ取り洗浄装置であって、前記ワークを保持するワーク保持部と、洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を前記加工部位に対して洗浄ノズルを介して噴射する凍結洗浄媒体噴射手段と、前記洗浄ノズルを前記ワーク保持部に対して相対移動させる移動手段とを備え、前記凍結洗浄媒体噴射手段は、前記洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記洗浄ノズルの本体部を形成し、内部流路孔を絞って設けられた円形の断面のスロート部の下流側に流れ方向に拡径するダイバージェント部が形成されたノズル本体部と、前記内部流路孔の前記流れ方向に圧縮気体を供給する気体供給手段と、前記ノズル本体部に設けられ前記流れ方向と同方向に前記供給された洗浄液を吐出する洗浄液供給管とを有し、前記洗浄液供給管の吐出口が前記ノズル本体部の内壁側面から離れた前記スロート部の近傍に配置され、しかも前記圧縮気体の流速が前記スロート部において音速となり、前記ダイバージェント部における前記圧縮気体の流れにより前記洗浄液が微粒化されて生成した液滴が急激に冷却されて、前記凍結粒子および過冷却状態の液滴が生成される。
【0007】
本発明のバリ取り洗浄方法は、ワークを機械的に加工した加工部位に発生したバリを除去して洗浄するバリ取り洗浄方法であって、前記ワークをワーク保持部に保持させるワーク保持工程と、洗浄ノズルを前記ワーク保持部に対して相対移動させながら、洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を前記加工部位に対して前記洗浄ノズルを介して噴射する洗浄媒体噴射工程と、前記洗浄媒体によって前記加工部位に生じた前記バリを除去して洗浄するバリ取り洗浄工程とを含み、さらに前記洗浄媒体噴射工程は、前記洗浄ノズルの本体部を形成し円形の断面のスロート部の下流側に流れ方向に拡径するダイバージェント部を備えたノズル本体部に圧縮気体を供給して、前記スロート部において前記圧縮気体の流速を音速とする第1工程と、前記ノズル本体部の内側側面から離れた前記スロート部の近傍に配置された洗浄液供給管の吐出口から前記ノズル本体部における前記圧縮気体の流れと同方向に前記洗浄液を吐出する第2工程と、前記ダイバージェント部における前記圧縮気体の流れによって前記洗浄液が微粒化されて生成した液滴を急激に冷却することにより、前記凍結粒子および過冷却状態の液滴を生成する第3工程と、前記洗浄媒体を前記洗浄ノズルから前記加工部位に対して噴射する第4工程とを含み、前記バリ取り洗浄工程は、前記凍結粒子を前記バリに対して衝突させて除去する第1工程と、前記凍結粒子の衝突によってもなお除去されずに残留するバリを前記液滴によって包み込む第2工程と、前記液滴が凍結固化することにより前記バリを内包する固体物を生成する第3工程と、前記固体物を前記凍結粒子の衝突によって剥離させる第4工程とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワークを機械的に加工した加工部位に発生したバリを除去して洗浄するバリ取り洗浄において、内部流路孔を絞って設けられた円形の断面のスロート部の下流側に流れ方向に拡径するダイバージェント部が形成されたノズル本体部と、内部流路孔の流れ方向に圧縮気体を供給する気体供給手段と、ノズル本体部に設けられ流れ方向と同方向に供給された洗浄液を吐出する洗浄液供給管とを有し、洗浄液供給管の吐出口がノズル本体部の内壁側面から離れたスロート部の近傍に配置され、しかも圧縮気体の流速がスロート部において音速となるように構成された凍結洗浄媒体供給手段によって、洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を加工部位に噴射することにより、加工部位に発生する微細なバリを高品質で効率よく除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置の斜視図、図2は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置のワーク保持部の斜視図、図3は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置によるバリ取り洗浄対象となる樹脂基板の説明図、図4は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置におけるノズルヘッドの構成説明図、図5は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置における作動流体供給部の配管系統図、図6は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置に使用されるラバールノズルの構造説明図、図7は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置に使用されるラバールノズルの部分断面図、図8は本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄方法の工程説明図である。
【0010】
まず図1を参照して、バリ取り洗浄装置1の全体構成を説明する。バリ取り洗浄装置1は、ワークを機械的に加工した加工部位に発生したバリを除去して洗浄する機能を有するものである。本実施の形態においては、ワークとして電子部品実装用の樹脂基板を対象としており、この樹脂基板の表面に電極として形成された銅膜や、樹脂基板の厚み方向を貫通して設けられたスルーホール(貫通孔)の内面に形成された銅膜のいずれか一方または双方を機械的に切断することによって生じたバリを対象として、バリ取り洗浄を行う例を示している。
【0011】
図1において、基台1aの上面には、バリ取り洗浄のための洗浄処理室1bを閉囲するカバー部材2が設けられており、洗浄処理室1b内には、以下に説明するバリ取り洗浄機構が配置されている。基台1aの上面には、Xテーブル3X、Yテーブル3Yを組み合わせたXYロボット3が配設されており、Yテーブル3Yに結合された水平な移動テーブル4の上面には、ワークである樹脂基板8を保持するワーク保持部5が装着されている。ワーク保持部5の上方には、バリ取り洗浄のためのノズルヘッド6が保持ブラケット(図示省略)によって保持されている。
【0012】
ノズルヘッド6(図4参照)には、作動流体供給部7から供給される洗浄水(洗浄液)および圧縮空気(圧縮気体)により微細な氷の粒子や水滴をワーク保持部5に保持されたバリ取り洗浄対象の樹脂基板8に対して噴射して洗浄するアイスブラストノズル(洗浄ノズル)が装備されている。XYロボット3を駆動することにより、ワーク保持部5はX方向、Y方向に移動し、これによりワーク保持部5に保持された樹脂基板8をノズルヘッド6に対して相対的に移動させることができる。
【0013】
したがってXYロボット3は、洗浄ノズルであるアイスブラストノズルをワーク保持部5に対して相対移動させる移動手段となっている。なおここでは、ノズルヘッド6を固定配置し、樹脂基板8を水平移動させる構成を採用しているが、ワーク保持部5を固定配置し、ノズルヘッド6をXYロボットによって移動させる構成であってもよい。
【0014】
カバー部材2の前面には、ワーク保持部5の移動範囲に対応して開口部2aが設けられており、開口部2aにはカバー扉9が水平動自在に装着されている。カバー扉9は扉開閉シリンダ9aによって駆動され、これにより開口部2aは開閉する。洗浄処理室1b内への樹脂基板8の搬入・搬出は、開口部2aの前面に設けられた基板搬送アーム10によって行われる。
【0015】
次に図2を参照して、ワーク保持部5の構造を説明する。ワーク保持部5は、冷却ユニット12の上面に樹脂基板8が載置される保持テーブル11を積層した構成となっている。保持テーブル11の上面には、ガイド部材13が設けられており、保持テーブル11上に載置された樹脂基板8はガイド部材13によって位置決めされる。さらに保持テーブル11の上面には、樹脂基板8を構成する個片基板8aの配列に対応して、吸着孔11aが形成されており、保持テーブル11の内部には、吸着孔11aから真空吸引するための内部吸引孔11b(図4参照)が設けられている。
【0016】
樹脂基板8が保持テーブル11に載置された状態で、真空吸引源29(図5参照)によって内部吸引孔11bから真空吸引することにより、樹脂基板8のそれぞれの個片基板8aを真空吸着によって保持することができるようになっている。冷却ユニット12の内部には、冷媒循環孔12aが設けられており、冷媒循環孔12a内に不凍液などの冷媒を循環させることにより、保持テーブル11に保持された樹脂基板8は予め設定された所定温度に冷却される。
【0017】
次に図3を参照して、バリ取り洗浄対象の樹脂基板8および樹脂基板8におけるバリの発生状態について説明する。ここで示す樹脂基板8は、小型機器に用いられる小サイズの回路基板が同一の親基板に作り込まれたいわゆる多面取り基板であり、ガラスエポキシ樹脂などの樹脂を材質としている。ここでは、部品実装作業の前工程において必要に応じて行われる基板切断、またはスクリーン印刷や電子部品の搭載などの部品実装作業が完了した後、完成品としての個片基板8aに分割するための基板切断を終えた状態のものが対象となっている。
【0018】
この基板切断はダイシングブレードやルータなどの切削工具を用いて行われ、ここに示す例では、取り扱いの便宜のため、それぞれの個片基板8aを完全には分離させず、部分的に繋がった状態としている。すなわち図3に示すように、樹脂基板8において横方向には連続した連続切断溝14が加工され、縦方向には各個片基板8a毎に断続した断続切断溝15が加工されており、複数の個片基板8aを樹脂基板8の全体形状を保ったまま一体として搬送して、ワーク保持部5に保持させることが可能となっている。
【0019】
図3(a)の拡大図に示すように連続切断溝14は、樹脂基板8の表面に形成された電極17とともに、樹脂基板8を貫通して設けられたスルーホール16を切断する形態で加工されている。この溝加工によって形成された切断面14aにおいて、スルーホール16の内面に電極17と一体に形成された導電性金属の膜(ここでは銅膜)が、ガラスエポキシ樹脂などの樹脂を材質とする樹脂基板8の本体とともに切断されることによってバリが発生する。
【0020】
このバリは、切削工具による切断加工時に切削断面17aが切断方向に金属の延性により引き伸ばされて延出し、面的な拡がりを有する形で薄膜状に形成された面積的に大きなバリ(以下「面バリ18a」と略称する。)とともに、電極17の一部が微細な髭状に引き伸ばされた幅細のバリ(以下「髭バリ18b」と略称する。)など、バリ発生形態(発生部位、大きさ、付着強度など)の異なる多様なバリが発生する。さらにこのようなバリが断片として飛散して切断部近傍に付着した場合には、付着バリ18cとして残留する。
【0021】
このようなバリが残留したまま製品として用いられると、脱落したバリによる回路電極の短絡などの不具合の原因となるため、基板切断過程で発生したバリは極力除去する必要があるが、銅など回路電極に用いられる金属は延性に富んで屈曲容易であり、単純に機械的に外力を作用させて折り取る形で効率よく除去することが難しい場合が多い。本実施の形態においては、このようなバリ発生形態や付着特性が異り、完全な除去が難しいバリを対象として、以下に説明する方法によってバリ取り洗浄を行うようにしている。
【0022】
図4は、このバリ取り洗浄に使用されるノズルヘッド6の構成およびワーク保持部5における樹脂基板8の保持形態を示している。前述のように、ワーク保持部5の保持テーブル11上に載置された樹脂基板8は、個片基板8a毎に設けられた吸着孔11aによって保持テーブル11に吸着保持されており、冷却ユニット12に設けられた冷媒循環孔12a内で冷却媒体を循環させることにより、樹脂基板8は保持テーブル11を介して冷却される。
【0023】
この冷却効果により、バリ取り洗浄動作に先立って、樹脂基板8の温度を極力低下させ、以下に説明するアイスブラストによるバリ取り洗浄を効率よく行うことができる。すなわち、ワーク保持部5は、ワークである樹脂基板8を予め冷却するための予冷手段である冷却ユニット12を備えた構成となっている。なお対象となるワークの種類によっては予冷が不要の場合もあり、冷却ユニット12は必須構成要件ではない。
【0024】
ノズルヘッド6は、ノズルブロック6aにアイスブラストノズル22を装着した構成となっている。アイスブラストノズル22は、作動流体供給部7から供給される洗浄液としての洗浄水と圧縮空気から発生した凍結粒子23aおよび液滴23bを含んだ洗浄媒体23を、ワーク保持部5に保持された樹脂基板8に対して噴射する。アイスブラストノズル22は、ノズルヘッド6に対して所定姿勢、すなわちそれぞれから噴射される洗浄媒体23の樹脂基板8の表面8bへの入射角度が角度αとなるように保持される。角度αは、一般には30度〜60度の範囲であるが、詳細の角度は個別の樹脂基板8を対象として実際にバリ取り洗浄テストを行った試行結果に基づいて設定される。
【0025】
次に、図5を参照して、作動流体供給部7などの配管系の構成を説明する。図5において、真空吸引源29は保持テーブル11に接続されており、真空吸引源29を作動させることにより、樹脂基板8は保持テーブル11に吸着保持される。冷媒循環部30は、冷媒供給管30a・戻り管30bを介して冷却ユニット12に接続されており、不凍液などの冷媒を冷却して冷却対象部に循環させる機能を有している。冷媒供給管30aに介設された開閉バルブ31を開閉することにより、冷却ユニット12による樹脂基板8の冷却動作が制御される。
【0026】
作動流体供給部7には、洗浄水供給源32およびエア供給源33から、洗浄液として使用される洗浄水および噴射媒体として使用される圧縮空気がそれぞれ供給される。アイスブラストノズル22に洗浄水と圧縮空気を供給する配管系について説明する。エア供給源33に接続されたエア供給管33aはアイスブラストノズル22に接続されており、エア供給管33aにはレギュレータ41、フィルタ42、温湿度調整器43、および開閉バルブ45が介設されている。開閉バルブ45を開閉制御することにより、アイスブラストノズル22に供給される圧縮空気がオンオフ制御される。
【0027】
レギュレータ41はエア供給配管33aに供給される圧縮空気の圧力を調整し、フィルタ42は供給される圧縮空気の異物を濾過して除去する。温湿度調整器43は圧縮空気を冷却することにより水分を凍結させて除去するとともに、圧縮空気の温度を所定温度に調整する。エア供給配管33aに接続された温度センサ44は、供給される圧縮空気の温度を検出する。レギュレータ41を操作することにより、アイスブラストノズル22に供給される圧力を所定の圧力に設定することができる。ここでは圧縮空気は、0.2Mpa〜1MPaの圧力範囲から選択された規定圧に設定される。
【0028】
また温湿度調整器43の動作設定により、アイスブラストノズル22に供給される圧縮空気の湿度および温度を所望範囲に設定することができるようになっている。ここでは、設定温度・湿度としては、温度が0℃〜40℃(好ましくは10〜30℃)、湿度が露点温度換算で−20℃〜0℃(好ましくは−15℃〜−5℃)の条件範囲から選定される。上述のエア供給源33およびエア供給配管33aに介設された各要素は、アイスブラストノズル22に圧縮気体である圧縮空気を供給する気体供給手段を構成している。
【0029】
洗浄水供給配管32aは、定量吐出型のポンプ46に接続されており、ポンプ46は洗浄水供給配管32aを介して供給された洗浄水を定量吐出する。吐出された洗浄水は、吐出水配管46aを介して洗浄水冷却ユニット50に送給される。吐出水配管46aには流量センサ47、逆止弁48、フィルタ49が介設されている。流量センサ47は吐出水配管46aを流れる洗浄水の流量を検出する。逆止弁48は洗浄水の逆流を防止し、フィルタ49は洗浄水中の異物を濾過して除去する。
【0030】
洗浄水冷却ユニット50に備えられた冷媒容器50aには冷媒供給管30a、戻り管30bが開閉バルブ52を介して繋ぎ込まれており、開閉バルブ52を開状態にすることにより、冷媒容器50a内には冷媒循環部30によって冷却される不凍液などの冷媒51が循環する。冷媒容器50a内には吐出水配管46aと連通した冷却管50bが配置されており、冷却管50bは冷媒51に浸漬された状態にあって常に冷媒51によって冷却されている。
【0031】
上記構成により、吐出水配管46aから送給された洗浄水は、冷却管50b内を通過することによって、−5℃〜30℃(好ましくは0℃〜20℃)の温度範囲内に設定される設定温度(本実施の形態においては、約5℃)に冷却され、この状態で冷水供給配管50cを介してアイスブラストノズル22に供給される。このとき、流量センサ47の検出結果に基づいて制御部(図示省略)によってポンプ46の駆動を制御することにより、アイスブラストノズル22には常に予め設定された規定流量の冷水が供給される。上記構成において、洗浄水供給源32から冷水供給配管50cに至る配管系に設けられた各要素は、洗浄液である洗浄水をアイスブラストノズル22に対して供給する洗浄液供給手段を構成している。
【0032】
次に図6を参照して、アイスブラストノズル22の構造およびアイスブラストノズル22による洗浄媒体23の噴射態様について説明する。なおアイスブラストノズル22は既に公知のものであり、その構成は特開2007−73615号公報に詳述されている。
【0033】
図6(a)に示すように、アイスブラストノズル22は、円筒形状のノズル本体部22aを主体としており、ノズル本体部22aには長手方向に貫通して内部流路孔24が形成されている。内部流路孔24の上流側は、エア供給配管33aが接続されて圧縮空気(矢印a)が導入される導入部24aとなっている。導入部24aに供給される圧縮空気は、予め設定された所定の温度・湿度に保たれるよう、温湿度調整器43によって調整されている。
【0034】
導入部24aの下流側には、内部流路孔24の流路径が流れ方向に沿って絞られたコンバージェント部24b、流路径が最も小さく絞られたスロート部24c、流路径が拡大するダイバージェント部24dおよび流路径が漸増する加速冷却部24eが圧縮空気の流れ方向に順次設けられている。加速冷却部24eがノズル本体部22aの端部に到達した開口は、洗浄媒体23を噴射する噴射口22bとなっている。またコンバージェント部24bの上流側には整流板27が設けられており、これにより圧縮空気の流れが整流されて圧力損失を減少させることができ、スロート部24cへの圧縮空気の供給をスムーズに行うことができる。
【0035】
すなわち、上述構成のアイスブラストノズル22は、コンバージェント部24b、スロート部24cおよびダイバージェント部24dを有するラバールノズルを形成している。ノズル本体部22aはPTFE樹脂などの樹脂や金属で形成されており、一体成形あるいは適宜分割して成形されたものを一体化して製作される。スロート部24cの直径は例えば3〜10mmの範囲から適宜設定され、スロート部24cから噴射口までの距離は、例えば100〜300mmの範囲で圧縮空気を加速するのに十分な距離に設定される。
【0036】
コンバージェント部24b、スロート部24cおよびダイバージェント部24dの形状は、供給される圧縮空気が断熱膨張により低温に冷却されるように、特性曲線法によって、供給される圧縮空気を適切に断熱膨張させ、洗浄水を微粒化して低温に冷却可能な形状に設計される。特性曲線法によって設計されたラバールノズルにおいては、供給される圧縮空気がコンバージェント部24bで亜音速であっても、断面積の小さいスロート部24cで音速となり、断面積の大きくなったダイバージェント部24dで圧力が低下して超音速となる。
【0037】
すなわち圧縮空気は、スロート部24cで音速程度の高速となるように圧力が調整された後、亜音速(例えば50m/sec程度)でコンバージェント部24bに供給され、コンバージェント部24bで加速されてスロート部24cで音速(330m/sec程度)となり、ダイバージェント部24dでさらに加速されて、例えば400〜500m/sec程度の超音速まで加速される。この加速とともに生じる断熱膨張により、圧縮空気の温度は−60℃〜−110℃程度に低下する。
【0038】
スロート部24cの上流側には、洗浄水を圧縮空気の流れと同方向に吐出する洗浄液供給管25が設けられている。ここで洗浄水の温度は前述の温度範囲で設定される規定水温となるように洗浄水冷却ユニット50によって温度調整されており、予め設定された規定量で冷水供給配管50cを介して供給される。供給された洗浄水は、洗浄液供給管25の先端部の吐出口から吐出されて微細な液滴26となり、圧縮空気とともに下流側へ高速で流動する。
【0039】
洗浄液供給管25の吐出口は、図7(a)に示すように、スロート部24cの近傍且つ内部流路孔24の内側壁面から離れた位置、例えばスロート部24cの中心から上流方向および下流方向にそれぞれスロート部24cの内径dの5倍の長さの範囲以内である吐出口配置範囲(破線枠で示す範囲R参照)内に配置される。このように、洗浄液供給管25の吐出口をノズル本体部22aの内側壁面から離れたスロート部24cの近傍に配置することにより、吐出された洗浄水が微粒化した液滴26がノズル本体部22aの内側壁面に形成される境界層領域の影響を受けにくくなる。これにより、液滴26の速度低下を抑えて十分に加速することができ、洗浄媒体としての能力を向上させることが可能となっている。
【0040】
ここで洗浄液供給管25の吐出口を上述の吐出口配置範囲内に位置させることの意義を説明する。吐出口を吐出口配置範囲の上流側に配置した場合には、洗浄水が流速が遅く且つ温度が高い圧縮空気中に吐出されるため、生成される液滴の粒径が大きくなるとともに、冷却効率も低下する。また吐出口を吐出口配置範囲の下流側に配置した場合には、ノズル本体部22aの噴射口22bまでの距離が短くなり、生成された液滴を十分に冷却することができない。これに対し、吐出口を上述の吐出口配置範囲内に位置させることにより、生成される液滴の粒径を小さくするとともに、生成された液滴を下流側に流動させる過程において十分な冷却のための距離を確保することが可能となっている。
【0041】
アイスブラストノズル22内における洗浄媒体の生成過程について説明する。導入部24aに設定圧(例えば0.5Mp)で供給された圧縮空気の流れは、まず整流板27によって整流され、次いでコンバージェント部24bによって加速され(矢印b)、音速程度の流速でスロート部24cを通過する。そしてスロート部24cからダイバージェント部24d内に移動することにより圧力が低下してさらに加速され(矢印c)、前述のように断熱膨張により−110℃程度まで温度が低下する。そして洗浄液供給管25の吐出口から吐出され圧縮空気の流れによって微粒化した液滴26は、温度が低下した圧縮空気によって急激に冷却され、液滴26が凍結した凍結粒子23aおよび液滴26が0℃以下においても過冷却の液滴の状態で存在する液滴23bの双方またはいずれか一方が生成される。すなわち、ここでは凍結粒子23a洗浄液および液滴23bを含む固液2相の噴霧粒子群が形成される。
【0042】
そしてこのような固液2相の噴霧粒子群を含む圧縮空気の流れである洗浄媒体23は、徐々に拡径する加速冷却部24e内で加速されながら下流側へ高速で流動し(矢印d)、アイスブラストノズル22の噴射口22bから噴射される。加速冷却部24eにおける拡径度合いは、内部流路孔24の内側壁面付近に形成される境界層領域の厚みを考慮して決定される。一般に流体の円管内流れにおいては、管内壁面付近で流れの状態が変化する境界層が形成され、この境界層領域では流速が低下する。そして管内径が一定の円管内流れの場合には、管出口付近で境界層領域が拡がり、この結果流れの中心付近での流速の低下が生じる。これに対し、この境界層領域を考慮して流れ方向に徐々に拡径した加速冷却部24eを設けることにより、境界層領域における流速低下の影響を抑えることができ、噴射口22b付近でも高速の流れを広い範囲で確保できるようになっている。
【0043】
アイスブラストノズル22の設計に際しては、洗浄媒体23によってバリ取り洗浄作用を有する有効径Dとして、図6(b)に示す必要処理幅W、すなわち樹脂基板8の切断幅Bに、付着バリ18c(図3参照)などによるバリ付着が発生する洗浄対象範囲を加えた幅Wを十分カバーすることが可能な有効径Dが得られるように、アイスブラストノズル22の各部寸法が設定される。さらに、エア供給配管33aに備えられた温湿度調整器43によって圧縮空気の温度・湿度、さらに洗浄水冷却ユニット50によって洗浄水の温度をそれぞれ調整することにより、凍結粒子23aと液滴23bとの比率を所望の比率に設定することが可能となっている。
【0044】
なお、洗浄液供給管25の形態として、洗浄水とともに洗浄水と異なる種類の気体を混合して噴射できるよう、2重管構造としてもよい。ここでは、混合する気体として最も簡便な圧縮空気を使用する例を示している。すなわち、図7(b)に示すように、図7(a)に示す洗浄液供給管25よりも大径の洗浄液供給管25Aの内部に、気体供給管25Bを挿通させて2重管構造とし、気体供給管25Bをエア供給源33に連結された気体供給配管28に接続する。洗浄液供給管25Aの吐出口から洗浄水を吐出させる際に、気体供給管25Bから圧縮空気を同時に噴出させて混合することにより、吐出された洗浄水を微粒化する作用が増大して液滴26の粒径をより細かくすることができる。
【0045】
そして気体供給管25Bから噴出する圧縮空気の圧力や流量を調整することにより、所望の粒度の液滴26を得ることが可能となる。このとき、より細かい液滴26とすることにより冷却速度を高めて洗浄媒体23中の凍結粒子23aの割合を高めることができ、前述の圧縮空気の温度・湿度や、洗浄水の温度調整と併せて、凍結粒子23aと液滴23bとの比率を調整可能となっている。なお、気体供給管25Bから噴射する気体として圧縮空気の替わりに、洗浄対象物を汚染する性質を有しないものであれば、窒素ガスなど他の種類の気体を用いるようにしてもよい。
【0046】
上記構成において、前述の洗浄液供給手段、気体供給手段およびアイスブラストノズル22は、洗浄液としての洗浄水の凍結粒子23aおよび過冷却状態の液滴23bを含む洗浄媒体を樹脂基板8を切断加工した加工部位に対して噴射する凍結洗浄媒体噴射手段を構成している。そしてこの凍結洗浄媒体噴射手段は、洗浄水を供給する前述の洗浄液供給手段と、アイスブラストノズル22の本体部を構成し、内部流路孔24を絞って設けられた円形の断面のスロート部24cの下流側に流れ方向に拡径するダイバージェント部24dが形成されたノズル本体部22aと、ノズル本体部22aに設けられ流れ方向と同方向に供給された洗浄液としての洗浄水を吐出する洗浄液供給管25とを有する構成となっている。
【0047】
また上述のアイスブラストノズル22の内部構造において、洗浄液供給管25の吐出口がノズル本体部22aの内壁側面から離れたスロート部24cの近傍に配置され、しかも圧縮空気の流速がスロート部24cにおいて音速となり、ダイバージェント部24dにおける圧縮空気の流れにより、吐出された洗浄水が微粒化されて生成した液滴26が急激に冷却されて、凍結粒子23aおよび過冷却状態の液滴23bが生成される形態となっている。なお本実施の形態に示す例においては、バリ取り洗浄に用いる洗浄液として、もっとも安価で使用しやすい水(洗浄水)を用いる例を示したが、アルコールなど水以外の洗浄に適した液体を洗浄液として用いてもよい。
【0048】
このように、上記構成のラバールノズルを応用したアイスブラストノズル22は、圧縮空気と洗浄水を供給するのみで、凍結粒子23aおよび過冷却状態の液滴23bを含んだ洗浄媒体23を発生させることが可能であることに加えて、前述のように、所定の粒度に微粒化された液滴26を十分に加速して冷却させることができ、さらに凍結粒子23aと液滴23bとの比率を所望の割合に設定出来るという従来にない優れた特性を有している。このような特性を備えたアイスブラストノズル22をバリ取り洗浄装置に用いることにより、以下に説明するように銅など延性に富んだ金属の微細なバリを対象とするバリ取りに適した洗浄媒体を、効率よく低コストで発生させることが可能となっている。
【0049】
なお、上述のアイスブラストノズル22は、ノズル本体部22aがラバールノズルを構成する形状となっているが、ノズル本体部22aがスロート部24cの下流側にダイバージェント部22dを備えていればよく、スロート部24cの上流側にコンバージェント部22bをを備えることは本発明における必須要件ではない。
【0050】
次に、切断加工後の樹脂基板8の加工部位に発生したバリを除去して洗浄するバリ取り洗浄方法について説明する。すなわちここでは対象となるワークは電子部品が実装される樹脂基板であり、除去するバリは樹脂基板8の表面もしくは貫通孔の内面に形成された銅膜を機械的に切断することによって生じたものである。前述のように、樹脂基板8を貫通して設けられたスルーホール16を切断する形態の溝加工においては、面バリ18aや髭バリ18bなど、バリ発生形態の異なる多様なバリが発生する。
【0051】
本実施の形態に示すバリ取り洗浄装置によるバリ取り洗浄方法においては、洗浄媒体23中に微細な凍結粒子23aや液滴23bが多数含まれていることから、微細なバリに対しても確実にこれら凍結粒子や水滴を作用させて、確実なバリ除去を行うことができるという長所を有している反面、これらの凍結粒子23aや水滴23bは分散状態で噴射されることから、図3に示す面バリ18aなど強固な付着力を保ったまま発生しているバリに対しては、バリ除去のための十分な打撃力という観点からは必ずしも有効ではない。
【0052】
このようなバリまでを除去可能範囲に含めてバリ取り条件を設定しようとすれば、噴射量・圧力を高めに設定するとともに、処理速度を低く設定する必要があり、結果としてバリ取り作業コストの上昇と作業効率の低下を招く結果となる。このため、対象となる樹脂基板8に発生するバリに、前述の面バリなど強固な付着力を有するものが高い確率で含まれている場合には、前述のアイスブラストノズル22によるバリ取り洗浄動作に先立って、加工部位に発生したバリのうち、アイスブラストノズル22によって除去困難なバリを予め除去するか、もしくはバリの強度を弱めてアイスブラストノズル22によるバリ取り洗浄を容易にするための前処理を行うことが望ましい。この前処理においては、微細なバリは除去対象とはならないことから、バリ取り外力を大雑把に作用させるラフな方法でよい。
【0053】
このような前処理の方法としては、旧来より用いられているブラシによる方法、レーザ光の照射による方法、砥粒ブラストによる方法、またはウォータジェットによる方法などを用いることができる。これらの前処理を実行するための前処理装置は、図1に示すバリ取り洗浄装置の前工程装置として別個に設けてもよく、また砥粒ブラストやウォータジェットなど、図1に示すバリ取り洗浄装置に一体に組み込み可能な方式の前処理手段である場合には、同一の洗浄処理室1b内に組み込むことができる。
【0054】
すなわち砥粒ブラストやウォータジェットのためのブラストノズルやウォータジェットノズルをワーク保持部5に保持された樹脂基板8に対して噴射可能に保持させ、バリ取り洗浄装置内または装置外に配置された砥粒供給装置や高圧水発生装置からブラストノズルやウォータジェットノズルにバリ取り洗浄媒体としての砥粒や高圧水を供給可能な構成とする。この場合にはバリ取り洗浄装置は、アイスブラストノズル22によるバリ取り洗浄動作に先立って、加工部位に発生したバリのうちアイスブラストノズル22によるバリ取りが困難なバリを除去、もしくはバリの強度を弱めてアイスブラストノズル22によるバリ取り洗浄を容易にするための前処理を行う前処理手段を備えた形態となっている。
【0055】
次にアイスブラストノズル22による樹脂基板8を対象としたバリ取り洗浄動作について、図8を参照して説明する。ここでは、対象となる樹脂基板8の加工部位にアイスブラストノズル22では除去困難な強固なバリが発生していない場合、あるいはそのようなバリを前処理によって除去、もしくはバリの強度を弱めてアイスブラストノズル22によるバリ取り洗浄を容易にした後の樹脂基板8を対象とする例を示す。
【0056】
まず、図3に示す切断加工後の樹脂基板8をワーク保持部5に保持させる(ワーク保持工程)。このとき、ワーク保持部5に備えられた予冷手段によって樹脂基板8を予め設定された予冷温度(0〜10℃)まで冷却する。なお、バリ取り洗浄装置に前述の前処理手段が一体に設けられている場合には、アイスブラストノズル22によるバリ取り洗浄に先立って、前述の前処理を行う(前処理工程)。
【0057】
この後ノズルヘッド6による樹脂基板8を対象としたバリ取り洗浄動作が開始される。すなわちアイスブラストノズル22をワーク保持部5に対して相対移動させながら、凍結粒子23aおよび液滴23bを含む洗浄媒体23を加工部位に対してアイスブラストノズル22を介して噴射する(洗浄媒体噴射工程)。
【0058】
この洗浄媒体噴射工程の詳細を説明する。まずエア供給管50cからノズル本体部22aの導入部24a内に圧縮空気を供給して、スロート部24cにおいて圧縮空気の流速を音速とする(第1工程)。次いで、ノズル本体部22aの内側側面から離れたスロート部24cの近傍に配置された洗浄液供給管25の吐出口から、ノズル本体部22aにおける圧縮空気の流れと同方向に洗浄水を吐出する(第2工程)。次に、ダイバージェント部24dにおける圧縮空気の流れによって洗浄水が微粒化されて生成した液滴26を急激に冷却することにより、凍結粒子23a洗浄液供給管過冷却状態の液滴26bを生成する(第3工程)。次に、図8(a)に示すように、凍結粒子23aおよび液滴23bを含む洗浄媒体23を、アイスブラストノズル22の噴射口22bから樹脂基板8の加工部位に対して噴射する(第4工程)。そして噴射された洗浄媒体23によって、加工部位に生じたバリを除去して洗浄する(バリ取り洗浄工程)。
【0059】
このバリ取り洗浄工程の詳細を説明する。まず、凍結粒子23aをバリに対して衝突させて除去する(第1工程)。すなわち、図8(a)に示すように、面状に展開されて受圧面積の大きい面バリ18aに凍結粒子23aの衝突力を作用させ、脱落させる。次いで、凍結粒子23aの衝突によってもなお除去されずに残留する髭バリ18bを液滴23bによって包み込む(第2工程)。すなわち図8(b)に示すように、幅細形状で受圧面積が小さく凍結粒子23aの衝突力では除去が困難な髭バリ18bに液滴23bを付着させ、液滴23bによって髭バリ18bを包み込む。このとき液滴23bは過冷却されていることから、微細な髭バリ18bに接触すると急速に凍結固化する。
【0060】
そして複数の液滴23bが髭バリ18bに付着堆積することにより、髭バリ18bは液滴23bが凍結固化した氷結体23cによって包み込まれ、髭バリ18bを内包する固体物34を生成する(第3工程)。この後、図8(c)に示すように、固体物34を凍結粒子23aの衝突によって剥離させる(第4工程)。このような固形物34は面的な拡がりを有することから、髭バリ18bそのもののサイズと比較して面積的に大きく、洗浄媒体23の噴射による外力によって、図8(d)に示すように、容易にバリ発生部位から剥離脱落し、これにより髭バリ18bが樹脂基板8から除去される。
【0061】
これとともに、図3(b)に示す樹脂基板8の上面に付着した付着バリ18cなど、基板切断における加工部位の近傍に存在する微細異物も同様に、液滴23bが凍結固化した氷結体23cに包み込まれて除去される。すなわち、ここでは、樹脂基板8に生成した微細な髭バリ18bなどの微細異物の除去において、髭バリ18bなどの微細異物を包み込んだ過冷却の液滴23bが凍結固化することによって生成した固形物34を、樹脂基板8のバリ発生部位から剥離させるようにしている。
【0062】
上記説明したように、樹脂基板8の切断後のバリ取り洗浄のように、除去することが困難な微細なバリを対象とするバリ取り洗浄装置において、上記構成のアイスブラストノズル22を採用することにより、銅など延性に富んだ金属の微細なバリを対象として、バリ取り作業を高いバリ取り品質で効率よく行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のバリ取り洗浄装置およびバリ取り洗浄方法は、ワークを機械的に加工した加工部位に発生する微細なバリを高いバリ取り品質で効率よく除去することができるという効果を有し、樹脂基板を機械的に切断することによって生じた銅膜のバリなど除去困難なバリを対象とするバリ取り洗浄の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置の斜視図
【図2】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置のワーク保持部の斜視図
【図3】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置によるバリ取り洗浄対象となる樹脂基板の説明図
【図4】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置におけるノズルヘッドの構成説明図
【図5】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置における作動流体供給部の配管系統図
【図6】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置に使用されるラバールノズルの構造説明図
【図7】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄装置に使用されるラバールノズルの部分断面図
【図8】本発明の一実施の形態のバリ取り洗浄方法の工程説明図
【符号の説明】
【0065】
1 バリ取り洗浄装置
3 XYロボット
5 ワーク保持部
6 ノズルヘッド
7 作動流体供給部
8 実装基板
8a 個片基板
11 保持テーブル
12 冷却ユニット
16 スルーホール
17 電極
18a 面バリ
18b 髭バリ
22 アイスブラストノズル(洗浄ノズル)
23 洗浄媒体
23a 凍結粒子
23b 液滴
32 洗浄水供給源
33 エア供給源
34 固形物
46 ポンプ
50 洗浄水冷却ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを機械的に加工した加工部位に発生したバリを除去して洗浄するバリ取り洗浄装置であって、
前記ワークを保持するワーク保持部と、洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を前記加工部位に対して洗浄ノズルを介して噴射する凍結洗浄媒体噴射手段と、前記洗浄ノズルを前記ワーク保持部に対して相対移動させる移動手段とを備え、
前記凍結洗浄媒体噴射手段は、前記洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記洗浄ノズルの本体部を形成し、内部流路孔を絞って設けられた円形の断面のスロート部の下流側に流れ方向に拡径するダイバージェント部が形成されたノズル本体部と、前記内部流路孔の前記流れ方向に圧縮気体を供給する気体供給手段と、前記ノズル本体部に設けられ前記流れ方向と同方向に前記供給された洗浄液を吐出する洗浄液供給管とを有し、
前記洗浄液供給管の吐出口が前記ノズル本体部の内壁側面から離れた前記スロート部の近傍に配置され、しかも前記圧縮気体の流速が前記スロート部において音速となり、
前記ダイバージェント部における前記圧縮気体の流れにより前記洗浄液が微粒化されて生成した液滴が急激に冷却されて、前記凍結粒子および過冷却状態の液滴が生成されることを特徴とするバリ取り洗浄装置。
【請求項2】
前記ワーク保持部は、前記ワークを予め冷却するための予冷手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のバリ取り洗浄装置。
【請求項3】
前記凍結洗浄媒体噴射手段によるバリ取り洗浄動作に先立って、前記加工部位に発生したバリのうち前記凍結洗浄媒体噴射手段によるバリ取りが困難なバリを除去もしくはバリの強度を弱めて前記凍結洗浄媒体噴射手段によるバリ取り洗浄を容易にするための前処理を行う前処理手段を備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のバリ取り洗浄装置。
【請求項4】
前記ワークは電子部品が実装される樹脂基板であり、前記バリは前記樹脂基板の表面もしくは貫通孔の内面に形成された銅膜を機械的に切断することによって生じたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のバリ取り洗浄装置。
【請求項5】
ワークを機械的に加工した加工部位に発生したバリを除去して洗浄するバリ取り洗浄方法であって、
前記ワークをワーク保持部に保持させるワーク保持工程と、洗浄ノズルを前記ワーク保持部に対して相対移動させながら、洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を前記加工部位に対して前記洗浄ノズルを介して噴射する洗浄媒体噴射工程と、前記洗浄媒体によって前記加工部位に生じた前記バリを除去して洗浄するバリ取り洗浄工程とを含み、
さらに前記洗浄媒体噴射工程は、前記洗浄ノズルの本体部を形成し円形の断面のスロート部の下流側に流れ方向に拡径するダイバージェント部を備えたノズル本体部に圧縮気体を供給して、前記スロート部において前記圧縮気体の流速を音速とする第1工程と、
前記ノズル本体部の内側側面から離れた前記スロート部の近傍に配置された洗浄液供給管の吐出口から前記ノズル本体部における前記圧縮気体の流れと同方向に前記洗浄液を吐出する第2工程と、
前記ダイバージェント部における前記圧縮気体の流れによって前記洗浄液が微粒化されて生成した液滴を急激に冷却することにより、前記凍結粒子および過冷却状態の液滴を生成する第3工程と、
前記洗浄媒体を前記洗浄ノズルから前記加工部位に対して噴射する第4工程とを含み、
前記バリ取り洗浄工程は、前記凍結粒子を前記バリに対して衝突させて除去する第1工程と、前記凍結粒子の衝突によってもなお除去されずに残留するバリを前記液滴によって包み込む第2工程と、前記液滴が凍結固化することにより前記バリを内包する固体物を生成する第3工程と、前記固体物を前記凍結粒子の衝突によって剥離させる第4工程とを含むことを特徴とするバリ取り洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄媒体噴射工程に先だって、前記ワーク保持部に備えられた予冷手段によって前記ワークを予め冷却することを特徴とする請求項5記載のバリ取り洗浄装置。
【請求項7】
前記洗浄媒体噴射工程に先立って、前記加工部位に発生したバリのうち前記凍結洗浄媒体噴射手段によるバリ取りが困難なバリを除去もしくはバリの強度を弱めて前記凍結洗浄媒体噴射手段によるバリ取り洗浄を容易にするための前処理を行う前処理工程を含むことを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載のバリ取り洗浄方法。
【請求項8】
前記ワークは電子部品が実装される樹脂基板であり、前記バリは前記樹脂基板の表面もしくは貫通孔の内面に形成された銅膜を機械的に切断することによって生じたものであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のバリ取り洗浄方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−307624(P2008−307624A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156244(P2007−156244)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【特許番号】特許第4151796号(P4151796)
【特許公報発行日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(000179328)リックス株式会社 (33)
【Fターム(参考)】