説明

バルクハウゼンノイズ検査装置

【課題】 検査対象物や検出ヘッドの形状などに起因する励磁コイルと検査対象物の間隔の不均一に左右されることなく、高精度の検査が可能なバルクハウゼンノイズ検査装置を提供する。
【解決手段】 検査対象物30を磁化する励磁コイル2、および磁化された検査対象物30が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサ3を有する検出ヘッド1と、前記励磁コイル2に磁化のための交流磁界を発生させる励磁電流を印加する電源12とを備える。この構成に加えて、磁化された検査対象物30におけるノイズ検出センサ3と対向する部位の磁束密度が目標値と等しくなるように、前記電源12から印加される励磁電流を調整する制御装置13を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行うバルクハウゼンノイズ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体の金属材料が磁化する過程では、金属材料中に混在する非磁性体や内部欠陥などにピンニングされて磁壁の移動が不連続性を有することで、バルクハウゼンノイズが発生する。このバルクハウゼンノイズの大きさは、金属材料の硬度や残留応力などと相関を持つため、バルクハウゼンノイズを測定することで、金属材料からなる検査対象物を破壊することなく金属組織推定に用いることができる情報を得ることが可能となる。
【0003】
このバルクハウゼンノイズを利用した非破壊検査装置として、測定者が検出ヘッドを検査対象物に押し当てて検査するバルクハウゼンノイズ検査装置が知られている(例えば特許文献1)。検出ヘッドには、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルが含まれ、励磁コイルに交流電流を印加することにより、検査対象物が磁化される。特許文献1に開示のバルクハウゼンノイズ検査装置では、予め検査対象物の材質ごとにバルクハウゼンノイズの大きさと材料の硬度との関係性を測定しておいて、検出されるバルクハウゼンノイズの大きさから検査対象物の表面における研削焼けによる異常箇所を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−262958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したように検査対象物に対して検出ヘッドを押し当てて検査する場合に、励磁コイルと検査対象物の間隔は、検出ヘッドおよび検査対象物の形状に左右されて一定に定まり難く、励磁コイルによる検査対象物の磁化度合いが不均一になる。このため、同じ検査対象物であっも、検出コイルが検出する検出ヘッド下部における磁束密度が異なる場合があり、これにより測定結果に誤差が生じて誤検出の要因となる。
また、ここでは検出ヘッドを検査対象物に押し当てて検査する場合について説明したが、例えば検査対象物が大量生産品であると、その全数検査では、摩耗等の問題が生じないように検査対象物に対して検出ヘッドを非接触で測定する必要がある。上記した誤検出の要因は、検出ヘッドを非接触で測定する場合にも同様に起こり得る。
【0006】
この発明の目的は、検査対象物や検出ヘッドの形状などに起因する励磁コイルと検査対象物の間隔の不均一に左右されることなく、高精度の検査が可能なバルクハウゼンノイズ検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる励磁電流を印加する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、磁化された前記検査対象物における前記ノイズ検出センサと対向する部位の磁束密度が目標値と等しくなるように、前記電源から印加される励磁電流を調整する制御装置を設けたことを特徴とする。
バルクハウゼンノイズの抽出前のノイズ検出センサの出力は、検査対象物の表面の磁束密度に依存する。しかし、この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置によると、磁化された検査対象物におけるノイズ検出センサと対向する部位の磁束密度が目標値と等しく一定に保たれるように、電源から供給される励磁電流を制御装置で制御する。そのため、例えば励磁用の鉄心や検査対象物の形状による検査対象物の磁化度合いの不均一等による、検査対象物の表面の磁束密度のばらつきを抑えて、測定条件を均一化でき、高精度の検出が可能となる。
【0008】
この発明において、前記制御装置は、前記ノイズ検出センサの出力をフィードバック信号として前記電源から供給される励磁電流を調整するものとしても良い。
【0009】
この発明において、前記ノイズ検出センサは検出コイルであっても良く、また磁気センサであっても良い。
【0010】
この発明において、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の表面の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を設けても良い。
また、この発明において、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の表面の残留応力を検出する残留応力検出手段を設けても良い。
これら研削焼け検出手段や残留応力検出手段を設けた場合は、別の解析手段を設けることなく、研削焼けや残留応力が検出できる。
【0011】
この発明において、前記検査対象物は転動装置または転動装置部品であっても良い。例えば、前記研削焼け検出手段および残留応力検出手段は、転動装置や転動装置部品の表面の研削焼けおよび残留応力をそれぞれ検出するものであっても良い。転動装置は、ボールやころ等の転動体とこの転動体が接触する部品を有する機械部品であり、転がり軸受、ボールねじ、ボールジョイント等が該当する。転動装置部品は、前記転動装置を構成する部品であり、転動体が接する軌道面を有する部品や転動体等である。
【発明の効果】
【0012】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる励磁電流を印加する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、磁化された前記検査対象物における前記ノイズ検出センサと対向する部位の磁束密度が目標値と等しくなるように、前記電源から印加する励磁電流を調整する制御装置を設けたため、検査対象物や検出ヘッドの形状などに起因する励磁コイルと検査対象物の間隔の不均一等に左右されることなく、均一の測定検査条件で検査できて、高精度の検査が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図2】この発明の他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図3】同バルクハウゼンノイズ検査装置の一使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の一実施形態を図1と共に説明する。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行う装置であって、励磁コイル2と、検出コイル3と、コントローラ10とを備える。励磁コイル2と検出コイル3は一つの検出ヘッド1に一体化して設けられる。
【0015】
励磁コイル2は、検査対象物30を磁化するためのコイルであって、磁心となる鉄心4に巻かれている。また、検出コイル3は、磁化された前記検査対象物30が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサとなるコイルであって、磁心となる鉄心5に巻かれている。具体的には、検出コイル3は検査対象物30の表面磁束を検出する。前記各鉄心4,5は、フェライトなどの磁性酸化物や積層ケイ素鋼板などからなる。検査時には、摩耗等の観点から、前記検出ヘッド1は検査対象物30に対して非接触状態とされる。励磁コイル2の鉄心4はコ字状のものであり、この鉄心4の両端および検出コイル3の鉄心5の一端が検出ヘッド1における検査対象物30の表面に対向させる平坦面とされた検出面と面一となるように、励磁コイル2および検出ヘッド3の各鉄心4,5が検出ヘッド1内に配置される。
【0016】
コントローラ10は、励磁コイル2に励磁用の交流電流を印加する交流電源12を含む電流制御部11と、検出コイル3の出力信号を処理する出力信号処理部15とを備える。電流制御部11は、交流電源12のほか、前記検出コイル3が検出する磁束の強さに基づき前記交流電源12の交流電流を調整して、磁化された検査対象物30における検出コイル3と対向する部位の磁束密度を常に目標値に保つ制御装置13を有する。
【0017】
出力信号処理部15は、検出コイル3の検出信号を増幅する増幅器などを含むセンサ回路16と、センサ回路16で処理された検出信号から特定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ17とを有する。出力信号処理部15の次段には、抽出されたバルクハウゼンノイズから、検査対象物30の検出目的の性状を検出する性状検出手段25が設けられる。検出目的の性状とは、例えば研削加工時や切削加工時に検査対象物30の表面に生じる研削焼け、あるいは残留応力であり、性状検出手段25として研削焼け検出手段26および残留応力検出手段27が設けられる。これら研削焼け検出手段26および残留応力検出手段27は、それぞれ、出力信号処理部15で抽出されたバルクハウゼンノイズの大きさ等を、設定値と比較して研削焼けの有無、所定値以上の残留応力の有無を判定するものであっても、また研削焼けの深さや平面範囲、残留応力の大きさを測定するものであっても良い。
【0018】
検査時に、検出ヘッド1は位置決め機構20に支持されて、検出ヘッド1の検出面が検査対象物30の表面に非接触状態で対向配置される。前記電流制御部11の制御装置13は、前記出力信号処理部15におけるセンサ回路16の出力をフィードバック信号として、交流電源12から供給される交流電流を調整する。
【0019】
次に、このバルクハウゼンノイズ検査装置の動作を説明する。位置決め機構20を介して検出ヘッド1を、その検出面が検査対象物30の表面に非接触状態で対向するように配置する。この配置状態で、励磁コイル2の鉄心3と検査対象物30の間にはギャップを介して磁気閉回路が構成される。励磁コイル2は交流電源12から交流電流を供給されて交流磁界を発生させ、これにより検査対象物30が磁化する。検出コイル3は、磁化された検査対象物30の表面磁束を検出する。出力信号処理部15におけるバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ17に入力する前の前記検出コイル3の出力は、電流制御部11の制御装置13にフィードバック信号として入力される。すなわち、制御装置13は、磁化された検査対象物30の表面の磁束密度に基づき、交流電源12から励磁コイル2に供給される交流電流を、検査対象物30の表面における検出コイル3の対向部位の磁束密度が所定値に保たれるように制御する。これにより、検査対象物30および検出ヘッド1の形状などに起因する励磁コイル2と検査対象物30の間隔の不均一に左右されることなく、検出コイル3の検出する表面磁束を目標値に保つことができる。
【0020】
一方、検出コイル3の検出信号が入力される出力信号処理部15では、その検出信号から、所定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出する。さらに次段の性状検出段25では、抽出されたバルクハウゼンノイズから、検査対象物30における研削焼けと残留応力を検出する。
【0021】
この構成のバルクハウゼンノイズ検査装置によると、磁化された検査対象物30における検出コイル3と対向する部位の磁束密度が目標値と常に等しくなるように、交流電源12から供給される交流電流を制御装置13で調整するので、検査対象物30および検出ヘッド1の形状などに起因する励磁コイル2と検査対象物30の間隔の不均一に左右されることなく、検出コイル3は検査対象物30の表面から常に目標値の磁束を検出できて、検査条件が均一化され、高精度の検出が可能となる。
【0022】
なお、この実施形態では、検出ヘッド1を検査対象物30の表面に非接触状態で対向させて検査を行う場合を示したが、検出ヘッド1を検査対象物30の表面に接触させた状態で検査を行なう場合でも、検出ヘッド1や検査対象物30の形状に影響されることなく、検出コイル3は検査対象物30の表面から常に目標値の磁束を検出できて、高精度の検出が可能となる。
【0023】
図2は、この発明の他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、図1に示す実施形態において、鉄心5に巻いた検出コイル3に代えて、磁気センサ6をノイズ検出センサとして用いている。磁気センサ6としては、例えばホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサなどが使用される。この場合、磁気センサ6は、その検出面が検出ヘッド1の検出面と面一となるように検出ヘッド1内に配置される。その他の構成および作用効果は図1の実施形態の場合と同様である。同図の実施形態においても、図1の性状検出手段25を備えるが、図示は省略している。
【0024】
図3は、図1,図2に示したバルクハウゼンノイズ検査装置を使用して行う非破壊検査の一例を示す。ここでは、軸受の内輪31の転走面31aの研削焼けを検出する。バルクハウゼンノイズ検査装置の検出ヘッド1は、位置決め機構20のヘッド支持部32に支持され軸受内輪31の転走面31aに垂直姿勢で対向配置されておりヘッド支持部32の移動により転走面31aの表面に沿って移動しながら異常箇所を検出する。軸受内輪31は回転軸33の外径面に嵌着されており、回転軸33を回転させることで、軸受内輪31の転走面31aの全周面に沿って前記検出ヘッド1を移動させて研削焼けを検査することができる。
軸受内輪31等の転動部品の製造ライン上で、このようにバルクハウゼンノイズ検査装置を使用すると、軸受内輪31の転走面31aの研削焼けを正確に全数検査することができ、品質保証能力を高めることができる。
【0025】
図3では、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を軸受内輪31の転走面31aにおける研削焼けの検査に用いた例を示したが、検出する表面情報は残留応力や欠陥であっても良い。また検査対象物は軸受部品である内輪31に限らず、例えば軸受そのものの表面情報を検出するものとしても良い。また、検査対象物は軸受に限らず他の転動装置や転動装置部品であっても良く、この場合にもその転動装置や転動装置部品の表面情報を高い精度でしすることができる。
【符号の説明】
【0026】
1…検出ヘッド
2…励磁コイル
3…検出コイル(ノイズ検出センサ)
6…磁気センサ(ノイズ検出センサ)
12…交流電源
13…制御装置
30…検査対象物
31…軸受内輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するノイズ検出センサを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる励磁電流を印加する電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、
磁化された前記検査対象物における前記ノイズ検出センサと対向する部位の磁束密度が目標値と等しくなるように、前記電源から印加される励磁電流を調整する制御装置を設けたことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記制御装置は、前記ノイズ検出センサの出力をフィードバック信号として前記電源から印加される励磁電流を調整するものとしたバクルハウゼンノイズ検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ノイズ検出センサが検出コイルであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記ノイズ検出センサが磁気センサであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の表面の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記ノイズ検出センサが検出したバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の表面の残留応力を検出する残留応力検出手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記検査対象物が転動装置または転動装置部品であるバルクハウゼンノイズ検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−243175(P2010−243175A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88815(P2009−88815)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】