説明

バルサルタンのマイクロエマルジョン投与形態およびその製造方法

薬物送達システム、例えば、水性媒体と接触したときに、自発的にマイクロエマルジョンを形成するマイクロエマルジョン前濃縮物。本薬物送達システムは、バルサルタン、親水性成分、親油性成分および界面活性剤を含む。本システムにおいて特に有用な親水性成分は、室温で固体であるポリマー、例えば、固体PEGである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、液体、固体または半固体担体の、バルサルタンのマイクロエマルジョン前濃縮物を含む薬物送達システムに関する。本システムは、水性媒体、例えば、水または胃腸管の胃液と接触したとき、エマルジョン、例えば、マイクロエマルジョンを形成する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ある種の活性成分のマイクロエマルジョン投与製剤を開発することは挑戦的である。マイクロエマルジョン投与製剤を製剤するとき、その目的は、バルサルタンの既知固体経口投与形態と比べて、患者におけるバルサルタンの遊離の増加およびバルサルタンの経口バイオアベイラビリティの増加を提供することである。バルサルタンの既知経口投与形態よりも改善されたバイオアベイラビリティを有するマイクロエマルジョン投与製剤の開発は、経口医薬送達の薬物動態学的側面に起因する多様な課題のために、挑戦的である。
【0003】
例えば、バルサルタンは、ヒトにおいては25−40%の広い範囲を伴い、わずかに約25%の経口バイオアベイラビリティしか有さないと同時に大きな対象間および対象内変動性を有する。バルサルタンはまたpH依存溶解性を有し、それ故に、それは、胃腸管の酸性環境での非常に僅かに可溶性から中性環境における可溶性までの範囲にわたる。バルサルタンの透過性は低く、またpH依存性であり、消化器管において環境pHが酸性から中性pH値に増加するに連れて低下する。これらの複雑な生物薬剤学特性の結果、バルサルタンのより遊離可能でバイオアベイラブルであると同時に小さい対象間および対象内変動性を有する、投与形態の開発は挑戦的である。
【0004】
従って、向上した遊離およびバイオアベイラビリティ特性と同時に小さい対象間および対象内変動性を有する、バルサルタンのマイクロエマルジョン投与製剤が望まれる。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
薬物送達システム、または医薬組成物を個々に記載する。本薬物送達システムは、バルサルタンを、親油性成分、親水性成分、界面活性剤、および所望によりさらなる賦形剤を含む前濃縮物、すなわち、マイクロエマルジョン前濃縮物の形である担体内に含む。
【0006】
本マイクロエマルジョン前濃縮物は、室温で液体、固体または半固体である。本薬物送達システムが水性媒体、例えば、胃液と接触したとき、それはその水性媒体とマイクロエマルジョンを形成する。例えば、o/wマイクロエマルジョンが、外相である水性媒体と共に形成される。内相は、少なくとも親油性成分を含み、送達される医薬は内相内に存在するかまたは混合されていてよく、または内相表面に存在してよい。好ましくは、バルサルタンは遊離酸形態である。
【0007】
本発明の一つの例示的態様において、親油性成分は液体親油性成分、例えば、油である。本発明の特定の局面において、親水性成分は室温で固体であるポリマーである。
【0008】
固体ポリマーとして特に有用であるのは、固体ポリオキシエチレングリコール類である。固体ポリエチレングリコール類(PEG)の例は、PEG 1450、PEG 3350、PEG 4000、PEG 8000およびこれらの組み合わせおよび混合物を含み、これに限定されない。本発明の他の局面において、形成されるエマルジョンは、約50nm〜約300nmの平均粒子径を有する粒子を有する、マイクロエマルジョンである。
【0009】
第二の好ましい局面において、本発明は、バルサルタンを含むマイクロエマルジョン前濃縮物の製造方法に関する。このような方法は、例えば、バルサルタンと、界面活性剤、親油性成分および親水性成分を有する液化担体を完全な(intimate)混合物にして、医薬組成物を形成する工程を含む。得られる組成物は、例えば、室温で固体または半固体である。好ましくは、本混合物を経口送達用カプセル内に入れる。本カプセルは、好ましくは腸溶性コートされている。次いで、本医薬組成物を水性媒体と接触させて、マイクロエマルジョンを形成させる。
【0010】
本発明のある好ましい態様において、このような医薬組成物に用いるバルサルタンの量は、好ましくは約20mg〜約640mgの範囲であり、より好ましくは80mgまたは160mgである。
【0011】
本発明の他の好ましい局面は、高血圧、鬱血性心不全、狭心症(angina)、心筋梗塞、動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性心筋症、腎不全、末梢血管疾患、卒中、左室肥大、認知機能不全、頭痛、または慢性心不全の処置方法であって、そのような処置を必要とする対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む、方法である。
【0012】
本発明の他の局面において、高血圧、鬱血性心不全、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性心筋症、腎不全、末梢血管疾患、卒中、左室肥大、認知機能不全、頭痛、または慢性心不全の処置用医薬の製造のための、本発明の医薬組成物の使用が提供される。
【0013】
バルサルタン、親油性成分、親水性成分および界面活性剤を含む、高血圧、鬱血性心不全、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性心筋症、腎不全、末梢血管疾患、卒中、左室肥大、認知機能不全、頭痛、または慢性心不全の処置用医薬組成物。
【0014】
詳細な記載
本発明は、マイクロエマルジョン前濃縮物が液体、固体または半固体形態で送達される、薬物送達システムに関する。本薬物送達システムは、バルサルタンを、親油性成分、界面活性剤および親水性成分を含む担体中に含む。本薬物送達システムが水性媒体と接触したとき、エマルジョン、特にマイクロエマルジョンが自発的に形成される。特に、マイクロエマルジョンは、本発明の送達システムが経口で摂取されたとき、哺乳動物の消化管で形成される。前記成分に加えて、本薬物送達システムはまた所望により他の賦形剤、例えば緩衝剤、pH調節剤、安定化剤、共界面活性剤、増量剤、酸化剤およびこのような医薬使用に適切であると当業者に認識されている他のアジュバントも含んでよい。
【0015】
ここで使用する用語“薬物送達システム”は、哺乳動物、例えば、ヒトに投与すべき医薬を含む医薬組成物を意味する。医薬組成物は“薬学的に許容され”、それは通常の医学的判断の範囲内で、合理的な利益/危険比と釣り合った、過剰の毒性、刺激、アレルギー性応答および他の問題となる合併症なしに哺乳動物、特にヒトの組織と接触するのに適する、化合物、物質、組成物および/または投与形態を意味する。
【0016】
ここで使用する用語“治療的有効量”は、哺乳動物が冒されている疾患または状態の症状の軽減、消失、処置、予防または制御に有用である量または濃度を意味する。用語“制御”は、哺乳動物が冒されている疾患および状態の進行の遅延、中断、阻止または停止であり得る全ての過程を意味する。しかしながら、“制御”は必ずしも、全ての疾患および状態の症状の完全な消失を意図せず、予防処置を含むことを意図する。
【0017】
本発明に使用するのに適するバルサルタン((S)−N−バレリル−N−{[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イル]−メチル}−バリン)は商業的供給源から購入でき、または既知方法に従い製造できる。例えば、バルサルタンの製造は、米国特許5,399,578に記載され、その全ての開示を引用により本明細書に包含させる。バルサルタンは、本発明の目的のために、その遊離形で使用され得る。
【0018】
バルサルタンは、典型的に約20mg〜約640mg、好ましくは約40mg〜約320mg、より好ましくは約80mg〜約320mgの範囲、最も好ましくは約80mgまたは約160mgの量で用いられる。上記のバルサルタンの量は、あるマイクロエマルジョン投与形態中に存在する遊離バルサルタンの量を意味する。
【0019】
ここで使用する用語“担体”は、医薬を、生体膜を通してまたは体液内に輸送する薬学的に許容される組成物を意味する。本発明の担体は、親油性成分、親水性成分および界面活性剤を含む。本発明の担体は、水性媒体、例えば、水、水を含む流体、哺乳動物における生体内媒体、例えば胃腸管の胃液と接触し、それらに分散し、または、それらで希釈されたとき、マイクロエマルジョンまたはコロイド構造を自発的に生じる。コロイド構造は、液滴、ミセルおよびナノ粒子を含む固体または液体粒子である。本担体は、例えば、マイクロエマルジョン前濃縮物(以下にさらに詳述する通り)である。
【0020】
ここで使用する用語“マイクロエマルジョン”は、その成分が水性媒体と接触したときに、自発的にまたは実質的に自発的に形成される透明なまたはわずかに濁ったコロイド分散を意味する。マイクロエマルジョンは、熱力学的に安定であり、標準光散乱技術により、例えば、MALVERN ZETASIZER 3000粒子特徴付け機器を使用して測定したとき、平均直径が約300nm未満、例えば、約250nm未満、150nm未満、100nm未満で、約2−4nmより大きい分散粒子を含む。マイクロエマルジョンは例えば、少なくとも15分間、または4時間までまたは24時間以上でさえ、例えば、熱力学的に安定である。
【0021】
マイクロエマルジョンは、自発的形成、熱力学的安定性および洗練された見かけのために、製造が非常に容易であり得る。マイクロエマルジョンは、それが、伝統的粗製エマルジョンと比較して、薬剤負荷を増加でき、浸透を増強でき、粒子径を減少でき、粒子径均一性を改善でき、溶解速度を増加でき、バイオアベイラビリティを増加でき、そして医薬薬物動態学における個体間および個体内変動性を低下できるため、医薬の送達を改善する。組成物に関連してここで使用する用語“バイオアベイラブル”は、組成物が、使用環境において当量の非分散医薬を含む対照と比較して少なくとも1.5倍であるその組成物中の医薬の最大濃度を提供できることを意味する。
【0022】
ここで使用する用語“マイクロエマルジョン前濃縮物”は、水性媒体、水中で、例えば、1:1〜1:300、または1:1〜1:70、または1:1〜1:10に希釈したとき、または経口投与後、消化器液中で、自発的にマイクロエマルジョン、例えば、o/wマイクロエマルジョンを形成する、組成物、または前濃縮物を意味する。
【0023】
マイクロエマルジョン前濃縮物内の親油性成分、親水性成分および界面活性剤の相対比率は、標準三方向プロットグラフ上の“マイクロエマルジョン”領域に入る。このようなグラフ、または相図は、当業者により慣用の方法で作成され得る。例えば、その全体を本明細書に引用して包含させる、英国特許2,222,770に記載の通り。
【0024】
マイクロエマルジョン前濃縮物は、親油性成分、親水性成分および界面活性剤を含む。親水性成分および界面活性剤は、薬物送達システム中で一体となって、担体の組成の95重量%、例えば、80%までを構成できる。
【0025】
ここで使用する用語“固化”は、固体または半固体を製造することを意味する。“半固体”は、固体および液体物質の状態の両方の特質および/または特性を有することを意味する。
【0026】
ここで使用する用語“親油性成分”は、水よりも油とより和合性の物質、材料または成分を意味する。親油性特性を有する物質は、水に不溶性またはほぼ不溶性であるが、油または他の非極性溶媒には容易に可溶性である。用語“親油性成分”は、1種以上の親油性物質を含み得る。複数の親油性成分が、マイクロエマルジョン前濃縮物の親油性相を構成し、例えば、o/wマイクロエマルジョンにおいて、油状外観を形成する。室温(約25−27℃)で、マイクロエマルジョン前濃縮物の親油性成分および親油性相は固体、半固体または液体であってよい。例えば、固体親油性成分は、ペースト、顆粒形態、粉末または薄片として存在できる。
【0027】
固体親油性成分、すなわち、室温で固体または半固体のものの例は、次のものを含み、これに限定されない:
1. モノ−、ジ−およびトリグリセリド類の混合物、例えば水素化ココ−グリセリド類[約33.5℃〜約37℃の融点(m.p.)]、WITEPSOL H15としてSasol Germany(Witten, Germany)から市販;
2. エステル類、例えばプロピレングリコール(PG)ステアレート、MONOSTEOL(約33℃〜約36℃のm.p.)としてGattefosse Corp.(Paramus, NJ)から市販;PEG−2ステアレート、HYDRINE(約44.5℃〜約48.5℃のm.p.)としてGattefosse Corp.から市販;セチルパルミテート(約50℃のm.p.)、CUTINA CPとしてCognis Corp.(Hoboken, NJ)から市販;
3. グリセリル脂肪酸エステル類、例えば水素化ヤシ/パーム核油PEG−6エステル類(約30.5°〜約38℃のm.p.)、LABRAFIL M2130 CSとしてGattefosse Corp.から市販;
4. 脂肪アルコール類、例えばミリスチルアルコール(約39℃のm.p.)、LANETTE 14としてCognis Corp.から市販;および
5. ポリグリコシル化飽和グリセリド類、例えばラウロイルマクロゴール−32グリセリド類(約42−46℃のm.p.)、GELUCIRE 44/14として、Gattefosse Corp.から市販。GELUCIRE 44/14は水に分散性であるが、本発明に関しては、GELUCIRE 44/14は固体親油性化合物である。
【0028】
液体親油性成分、すなわち、室温で液体のものの例は、次のものを含み、これに限定されない:
1. モノ−、ジ−およびトリグリセリド類の混合物、例えば中鎖モノ−およびジ−グリセリド類グリセリルカプリレート/カパラート、CAPMUL MCMとしてAbitec Corp.(Columbus, OH)から市販;
2. エステル類、例えばPGモノカプリレート、CAPMUL PG-8としてAbitec Corp.から市販;
3. 油、例えばベニバナ油、ゴマ油、コーン油、ヒマシ油、ココナッツ油、綿実油、ダイズ油、オリーブ油および鉱油;
4. 植物にその特徴的香を提供する精油、または全てのクラスの揮発性油、例えばスペアミント油、クローブ油、レモン油およびペパーミント油;
5. 精油画分または成分、例えばメントール、カルバクロールおよびチモール;および
6. 合成油、例えばトリアセチン、トリブトリン(tributryin)、酪酸エチル、カプリル酸エチルオレイン酸、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルおよびカプリル酸エチル。
【0029】
親油性成分は、担体組成の約5%〜約85重量%、例えば、約10%〜約85%、例えば、約15%〜約60%、例えば、約20%〜約40%を構成する。
【0030】
ここで使用する“親水性成分”は、親水性成分および/または水を含む。固体親水性成分を、マイクロエマルジョン前濃縮物が室温で固体または半固体となるようにまたはそうなることを助けるようにマイクロエマルジョン前濃縮物に添加する。親水性成分の例は、一般的に式H(OCHCH)OH(式中、nはポリマーの平均分子量に相当する)に従うエチレンオキシドのポリマーであるPEGである。
【0031】
本発明において有用なタイプのPEGは、その物質の状態、すなわち、該物質が室温および常圧で固体または液体形態のいずれで存在するのかにより分類できる。ここで使用する、“固体PEG”は、本物質が室温および常圧で固体状態であるような分子量を有するPEGを意味する。例えば、1,000〜10,000の範囲の分子量を有するPEGは固体PEGである。特に有用な固体PEGは、分子量1,450〜8,000を有するものである。固体PEGとして特に有用なのはPEG 1450、PEG 3350、PEG 4000、PEG 8000、それらの誘導体およびそれらの混合物である。種々の分子量のPEGが、Dow Chemicals(Danbury, CT)からCARBOWAX SENTRYシリーズとして市販されている。さらに、固体PEGは結晶構造、またはポリマーマトリックスを有し、それは、本発明において特に有用な特性である。
【0032】
本発明の一つの例示的態様において、例えば親油性成分、界面活性剤およびバルサルタンを含む担体の80%までを、液化されているとき、親水性成分の結晶構造を妨害することなく親水性成分に組み込むことができる。
【0033】
親水性成分としてまた有用なのは、ブロックコポリマー、例えばBASF Corp.(Mt. Olive, NJ)から入手可能な種々のポロキサマー類およびビタミンE TPGSを含み、これに限定されないPEG誘導体である。
【0034】
有用な親水性成分のさらに別の例は、式(CHChO)(式中、nはオキシエチレン基の平均数に相当する)により示されるエチレンオキシドの非イオン性ホモポリマーであるポリエチレンオキシド(“PEO”)である。種々のグレードのPEOが、Dow ChemicalsからPOLYOXとして市販されている。室温および常圧で、PEOは固体状態で存在する。PEOは、例えば、約100,000〜7,000,000の範囲の分子量を有する。本発明の親水性成分は、PEG、PEO、および前記の任意の組み合わせを含み得る。
【0035】
親水性成分は、担体の約15%〜約90重量%、例えば、約20%〜約70%、例えば、約30%〜約50%を構成し得る。
【0036】
他の例示的態様において、担体の親水性成分は、一親水性成分、例えば、固体PEG、例えば、PEG 1450、PEG 3350、PEG 4000およびPEG 8000から成る。この例示的態様において、マイクロエマルジョン成分の親水性相は、一親水性物質から成る。例えば、担体がPEG 3350を含むならば、その担体は他の親水性物質、例えば、低級アルカノール類(低級アルキルはC−Cである)、例えばエタノール;または水を含まないであろう。親油性相および親水性相両方に親和性を有する物質、例えば界面活性剤は、この例示的態様において親水性とは見なさない。それ故、本担体は、一親水性成分に加えて、界面活性剤を含み得る。
【0037】
さらに別の例示的態様において、担体の親水性成分は固体PEGの混合物から成る。例えば、親水性成分は、PEG 1450、PEG 3350、PEG 4000、PEG 8000、それらの誘導体および任意のこれらの組み合わせおよび混合物を含む。
【0038】
担体はまた1種以上の界面活性剤、すなわち、界面活性剤の混合物;または界面張力を低下させる表面活性剤も含み得る。界面活性剤は、担体の親水性または親油性相いずれに添加してもよい。界面活性剤は、例えば、非イオン性、イオン性または両性である。界面活性剤は、その製造に含まれる副産物または未反応出発物質を含む複雑な混合物であってよく、例えば、ポリオキシエチル化により製造した界面活性剤は、他の副産物、例えば、PEGを含み得る。1種以上の界面活性剤は、医薬分野で有用な任意のHLBを有し得る。例えば、界面活性剤は、8−17、例えば、10−17の平均親水性−親油性バランス(HLB)値を有するHLBを有する。界面活性剤タイプの例は、脂肪酸類;アルキルスルホネート類;ポリオキシエチレン脂肪酸類;ソルビタン誘導体;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類;レシチン;リン脂質類;モノ−、ジ−およびトリグリセリド類;およびそれらの混合物を含み、これに限定されない。
【0039】
このような界面活性剤の例は、次のものを含み、これに限定されない:
1. 天然または水素化ヒマシ油およびエチレンオキシドの反応産物。天然または水素化ヒマシ油を、約1:35〜約1:60のモル比でエチレンオキシドと反応させてよく、所望によりPEG成分を産物から除去する。種々のこのような界面活性剤、例えば、BASF Corp.(Mt. Olive, NJ)のCREMOPHORシリーズ、例えば約50−60の鹸化値、約1未満の酸価、約2%未満の水含量、すなわち、Fischer、約1.453−1.457のn60および約14−16のHLBを有する、PEG−40水素化ヒマシ油であるCREMOPHOR RH 40が市販されている;
2. ポリオキシエチレンステアリン酸エステル類を含むポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、例えばUniqema(New Castle, DE)からのMYRJシリーズ、例えば、約47℃のm.p.を有するMYRJ 53。MYRJシリーズの特定の化合物は、例えば、約47℃のm.p.を有するMYRJ 53およびMYRJ 52として入手可能なPEG−40−ステアレートである;
3. Uniqema(New Castle, DE)のTWEENシリーズ、例えば、TWEEN 20、TWEEN 40、TWEEN 60およびTWEEN 80を含む、ソルビタン誘導体;
4. ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーおよびブロックコポリマーまたはポロキサマー、例えば、UniqemaのSYNPERONIC PE/F 87/108/127L44;
5. ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、例えばC12−C18アルコール類のポリオキシエチレングリコールエーテル類、例えば、UniqemaのBRIJシリーズとして既知のおよび市販されている、例えば、ポリオキシル2−、10−または20−セチルエーテルまたはポリオキシル23−ラウリルエーテル、またはポリオキシル20−オレイルエーテル、またはポリオキシル2−、10−、20−または100−ステアリルエーテル。BRIJシリーズの特に有用な製品は、BRIJ 58;BRIJ 76;BRIJ 78;BRIJ 35、すなわち、ポリオキシル23ラウリルエーテル;BRIJ 96;およびBRIJ 98、すなわち、ポリオキシル20オレイルエーテルである。これらの製品は、約32℃〜約43℃のm.p.を有する;
6. 約36℃のm.p.を有する、Eastman Chemical Co.(Kingsport, TN)から入手可能な水可溶性トコフェリルPEGコハク酸エステル類;
7. 例えば、5−35[CH−CH−O]単位、例えば、20−30単位を有するPEGステロールエーテル類、例えば、Chemron(Paso Robles, CA)からのSOLULAN C24(Choleth-24およびCetheth-24);
8. 例えば、4−10の範囲のグリセロール単位、または4、6または10グリセロール単位を有する、ポリグリセロール脂肪酸エステル類。例えば、特に適するのは、デカ−/ヘキサ−/テトラ−グリセリルモノステアレート、例えば、Nikko Chemicals(Tokyo, Japan)のDECAGLYN、HEXAGLYNおよびTETRAGLYNである;および
9. アルキレンポリオールエーテルまたはエステル、例えば、各々GELUCIRE 44/14およびGELUCIRE 50/13であるラウロイルマクロゴール−32グリセリド類および/またはステアロイルマクロゴール−32グリセリド類。
【0040】
界面活性剤または界面活性剤混合物は、担体の約1−90重量%、例えば、5−85%、例えば、10−80%、例えば、20−60%、例えば、35−55%を構成し得る。
【0041】
本発明のある例示的態様において、本医薬組成物は、医薬組成物に一般的に見られるさらなる賦形剤を含んでよく、このような賦形剤の例は、共界面活性剤、抗酸化剤、抗微生物剤、増量剤、酸化剤、酵素阻害剤、安定化剤、防腐剤、香味剤、甘味剤および引用により本明細書に包含させるHandbook of Pharmaceutical Excipients, Rowe et al., Eds., 4th Edition, Pharmaceutical Press (2003)に記載の他の成分を含み、これに限定されない。
【0042】
ここで使用する“共界面活性剤”は、界面エネルギーをさらに低下させることにより界面活性剤として働くだけでなく、それ自体ミセル凝集体を形成できない界面活性剤である。共界面活性剤は、例えば、親水性でも親油性でもよい。共界面活性剤の例は、セチルアルコールおよびステアリルアルコールを含み、これに限定されない。
【0043】
抗酸化剤の例は、アスコルビン酸およびその誘導体、トコフェロールおよびその誘導体、ブチルヒドロキシルアニソールおよびブチルヒドロキシルトルエンを含み、これに限定されない。α−トコフェロールとしてのビタミンEが特に有用である。
【0044】
増量剤の例は、微晶性セルロース、二酸化ケイ素、デンプンおよびその誘導体、ラクトース、リン酸二カルシウムおよびマンニトールを含み、これに限定されない。
【0045】
酸化剤の例は、クエン酸、コハク酸、フマル酸、アスコルビン酸、リン(phosphric)酸、カプリン酸、オレイン酸、グルタミン酸およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロースおよびカルボマーを含み、これに限定されない。
【0046】
これらのさらなる賦形剤は、総医薬組成物の約0.05−50重量%を構成し得る。抗酸化剤、抗微生物剤、酵素阻害剤、安定化剤または防腐剤は、典型的に総医薬組成物の約0.05−1重量%までを提供する。甘味剤または香味剤は、典型的に総医薬組成物の約2.5%または5重量%までを提供する。
【0047】
本マイクロエマルジョン前濃縮物は、別々に製造し、その後医薬との完全な混合物にしてよい。あるいは、担体の2種以上の成分をバルサルタンと混合してよい。
【0048】
自発的に分散性のマイクロエマルジョン前濃縮物は、好ましくは、水性媒体、例えば水で、1:1〜1:300、例えば、1:1〜1:70、特に1:10〜1:70、より具体的に、例えば、1:10に希釈したとき、または経口投与後患者の消化器液内で、自発的にまたは実質的に自発的にo/wエマルジョン、例えば、マイクロエマルジョンを形成する。
【0049】
さらなる局面において、本発明は、バルサルタンを含むマイクロエマルジョンの製造方法を提供し、その方法は次の工程を含む:
(a) バルサルタンと、親油性成分、界面活性剤および親水性成分を含むマイクロエマルジョン前濃縮物を完全な混合物にして、自発的に分散性の医薬組成物を形成し;そして
(b) 本自発的に分散性の医薬組成物を水性媒体に希釈して、マイクロエマルジョンを形成させる。
【0050】
医薬(複数もある)、親油性成分(複数もある)、界面活性剤(複数もある)および親水性成分(複数もある)(存在するとき)の相対的比率は、標準三方向プロットグラフ上の“マイクロエマルジョン”領域に入らなければならない。本組成物は、それ故に、水性媒体への添加により、例えば、平均粒子径300nm未満、特に200nm未満を有する、マイクロエマルジョンを提供できる、高い安定性である。形成されたマイクロエマルジョンは、経腸的、例えば、経口的に、例えば、飲用溶液の形で投与してよい。本発明の組成物がマイクロエマルジョン前濃縮物であるとき、本マイクロエマルジョン前濃縮物の単位投与を、経口投与可能なカプセル殻を充填するのに使用してよい。本カプセル殻は軟または硬カプセル殻、例えば、ゼラチンまたはヒドロキシルプロピルメチルセルロース製であり得る。カプセル殻が水性媒体と接触するか、その中に浸漬されたとき、水性媒体がマイクロエマルジョンの形成を可能にする。
【0051】
各単位投与量は、適切には0.1mgおよび1000mg医薬、例えば、0.1mg、1mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、40mg、50mg、80mg、100mg、160mg、200mg、250mg、300mg、320mg、400mgまたは500mg、640mg、例えば、5mg〜640mgの医薬、例えば、10mg〜100mgの医薬、例えば、20mg〜640mgの医薬を含む。このような単位投与形態は、治療の特定の目的、治療の相等により、1日1〜5回投与するのに適する。
【0052】
本発明の組成物は、経口で投与したとき、例えば、標準バイオアベイラビリティ試験で得られるバイオアベイラビリティの一貫性および高レベルの観点で、特に有益な特性を示す。
【0053】
薬物動態学的パラメータ、例えば、医薬物質吸収は、例えば、血中レベルで測定して、また、驚くべきことにより予測可能となり、変動性の吸収に伴う投与に際する問題が無くなるか、軽減され得る。加えて、本医薬組成物は、胃腸管に存在する生物界面活性剤またはテンサイド物質、例えば、胆汁酸塩で有効である。すなわち、本発明の医薬組成物は、このような天然テンサイドを含む水性システムで充分に分散性であり、それ故安定であるエマルジョンまたはマイクロエマルジョンシステムおよび/または粒子システムをイン・サイチュで形成できる。医薬組成物の機能は、経口投与して、特定の時点でのまたはある個体での、胆汁酸塩の存在または不存在に実質的に無関係におよび/または損なわれずに残る。本発明の組成物はまた患者間および患者内用量応答の変動性も減じ得る。
【0054】
本発明のさらに別の態様は、高血圧、鬱血性心不全、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性心筋症、腎不全、末梢血管疾患、卒中、左室肥大、認知機能不全、頭痛または慢性心不全の処置方法であって、そのような処置を必要とする対象に、治療的有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。好ましい態様において、本医薬組成物を対象に経口投与する。
【0055】
本発明の他の局面において、高血圧、鬱血性心不全、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性心筋症、腎不全、末梢血管疾患、卒中、左室肥大、認知機能不全、頭痛または慢性心不全の処置用医薬の製造のための、本発明の医薬組成物の使用が提供される。
【0056】
本発明の他の局面は、バルサルタン、親油性成分、親水性成分および界面活性剤を含む、高血圧、鬱血性心不全、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性心筋症、腎不全、末梢血管疾患、卒中、左室肥大、認知機能不全、頭痛または慢性心不全の処置用医薬組成物を提供する。
【0057】
本発明の具体的態様を、ここで、以下の実施例を参照して証明する。これらの実施例は単に本発明を説明する方法でのみ開示され、いかなる方法でも本発明の範囲を限定すると取ってはならないことは理解すべきである。
【0058】
以下の実施例の全てで、バルサルタン医薬物質を適当な容器に入れ、油、界面活性剤および他の賦形剤を添加し、混合物を60−80℃に加熱し、医薬物質が溶解するまで撹拌する。その後、本混合物をカプセルに入れてよい。
【実施例】
【0059】
固体マイクロエマルジョン投与形態
実施例1
【表1】

【0060】
実施例2
【表2】

【0061】
実施例3
【表3】

【0062】
実施例4
【表4】

【0063】
実施例5
【表5】

【0064】
実施例6
【表6】

【0065】
実施例7
【表7】

【0066】
実施例8
【表8】

【0067】
実施例9
【表9】

【0068】
実施例10
【表10】

【0069】
液体マイクロエマルジョン投与形態
実施例1
【表11】

【0070】
実施例2
【表12】

【0071】
実施例3
【表13】

【0072】
実施例4
【表14】

【0073】
実施例5
【表15】

【0074】
実施例6
【表16】

【0075】
実施例7
【表17】

【0076】
実施例8
【表18】

【0077】
実施例9
【表19】

【0078】
実施例10
【表20】

【0079】
実施例11
【表21】

【0080】
実施例12
【表22】

【0081】
本発明を、特定の態様を参照して上記に記載しているが、多くの変更、修飾および改変を、ここに開示の発明の概念から逸脱することなく行うことができることは明らかである。従って、添付の特許請求の範囲の精神および広い範囲に入る全てのこのような変更、修飾および改変を包含することを意図する。ここに引用した全ての特許出願、特許および他の刊行物は、その全体を引用によりここに包含させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) バルサルタン;および
(b) 界面活性剤、親油性成分および親水性成分
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
該医薬組成物が液体、固体または半固体であり、水性媒体と接触したとき、マイクロエマルジョンを形成する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
該親油性成分が液体親油性成分である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
該親油性成分が油である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
該親水性成分が室温で固体ポリマーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
該親水性成分がポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
該PEGが、PEG 1450、PEG 3350、PEG 4000、PEG 8000、誘導体およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
該医薬組成物が経口投与形態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
カプセル剤の形態である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
該油が精油である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
該マイクロエマルジョンが、300nm未満の平均粒子径を有する粒子を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
該水性媒体が胃液である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
該界面活性剤および該親油性成分が、親水性成分のポリマーマトリックスに包埋されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
さらに共界面活性剤、増量剤、酸化剤またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
該親油性成分がモノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライドまたはそれらの混合物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
該ポリマーがポリエチレンオキシドを含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項17】
高血圧、鬱血性心不全、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性心筋症、腎不全、末梢血管疾患、卒中、左室肥大、認知機能不全、頭痛、または慢性心不全の処置方法であって、治療的有効量の請求項1の医薬組成物を、そのような処置を必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項18】
難溶性医薬を含むマイクロエマルジョンを製造する方法であって:
(a) バルサルタンと、界面活性剤、親油性成分および親水性成分を含む液化担体を完全な混合物にしてマイクロエマルジョン前濃縮物を形成し、該マイクロエマルジョン前濃縮物は室温で固体または半固体であり;続いて
(b) 該医薬組成物を水性媒体と接触させて、マイクロエマルジョンを形成させる
ことを含む、方法。
【請求項19】
該親油性成分が液体親油性成分である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該親油性成分が油である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
該親水性成分がPEGを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
該PEGが、PEG 1450、PEG 3350、PEG 4000、PEG 8000、それらの誘導体およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
該マイクロエマルジョンが300nm未満の平均粒子径を有する粒子を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
該水性媒体が胃液である、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
該界面活性剤および該親油性成分が、該親水性成分のポリマーマトリックスに包埋されている、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
該担体が、さらに共界面活性剤を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
該親油性成分がモノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライドまたはそれらの混合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
該親水性成分がポリエチレンオキシドを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
界面活性剤、親油性成分および親水性成分を含む、難溶性医薬のための薬物送達システムであって、ここで、該親水性成分が本質的に固体PEGから成る、システム。
【請求項30】
該親油性成分が油である、請求項29に記載の薬物送達システム。

【公表番号】特表2010−511722(P2010−511722A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540402(P2009−540402)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/086226
【国際公開番号】WO2008/073731
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】