バンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器
【課題】 広い2つの通過帯域を有するとともに、2つの通過帯域の間に減衰極が形成されたバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供する。
【解決手段】 積層体の層間に配置された、第1の通過帯域を形成する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと、第2の通過帯域を形成する第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35と、第1および第5の共振電極30a,31aに対向して結合する第1の入出力結合電極40aと、第4および第7の共振電極30d,31cに対向して結合する第2の入出力結合電極40bとを備え、第1乃至第7の共振電極30a,30b,30c,30d,31a,31b,31cは1/4波長共振器であり、第8の共振電極35は1/2波長共振器であるバンドパスフィルタとする。
【解決手段】 積層体の層間に配置された、第1の通過帯域を形成する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと、第2の通過帯域を形成する第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35と、第1および第5の共振電極30a,31aに対向して結合する第1の入出力結合電極40aと、第4および第7の共振電極30d,31cに対向して結合する第2の入出力結合電極40bとを備え、第1乃至第7の共振電極30a,30b,30c,30d,31a,31b,31cは1/4波長共振器であり、第8の共振電極35は1/2波長共振器であるバンドパスフィルタとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものであり、特に、2つの通過帯域を有するバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい通信手段としてUWBが着目されている。UWBは10m程度の短い距離において広い周波数帯域を使用して大容量のデータ転送を実現するものであり、例えば米国FCC(Federal Communication Commission)の規定によると3.1〜10.6GHzの周波数帯域を使用する計画となっている。このようにUWBの特徴は非常に広い周波数帯域を用いることである。
【0003】
このようなUWBに使用可能な超広帯域のフィルタに関する研究は近年盛んに行なわれており、例えば、方向性結合器の原理を応用したバンドパスフィルタによって、通過帯域幅が比帯域(帯域幅/中心周波数)で100%を超える広帯域な特性が得られたとの報告がある(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
一方、従来よく使用されるフィルタとして、複数の1/4波長ストリップライン共振器を併設して相互に結合させて構成したバンドパスフィルタが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−180032号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「マイクロストリップ−CPWブロードサイド結合構造を用いた超広帯域バンドパスフィルタ」2005年3月電子情報通信学会総合大会講演論文集 C-2-114 p.147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1および特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタはそれぞれ問題点を有しており、UWB用のバンドパスフィルタには適さないものであった。
【0008】
例えば、非特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタは通過帯域幅が広すぎるという問題があった。すなわち、UWBは基本的には3.1GHz〜10.6GHzの周波数帯域を使用するが、国際電気通信連合無線通信部門では、IEEE802.11.aで使用する5.3GHzを避ける形で3.1〜4.7GHz程度の帯域を使用するLow Band(ローバンド)と6GHz〜10.6GHz程度の帯域を使用するHigh Band(ハイバンド)とに分割した企画が立案されている。よって、UWBのLow BandおよびHigh Bandに使用されるフィルタには、それぞれ比帯域で40%〜50%程度の通過帯域幅と5.3GHzにおける減衰が同時に要求されるため、通過帯域幅が比帯域で100%を超えるような特性を有する非特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタは通過帯域幅が広すぎて使えないものであった。
【0009】
また、従来の1/4波長共振器を使用したバンドパスフィルタの通過帯域幅は狭すぎ、広帯域化を図った特許文献1に記載のバンドパスフィルタの通過帯域幅であっても比帯域で10%にも満たないものであった。よって、比帯域で40%〜50%に相当する広い通過帯域幅を要求されるUWB用のバンドパスフィルタとして使えるものではなかった。
【0010】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、UWBのLow Band用フィルタおよびHigh Band用フィルタを1つのフィルタでまかなうことが可能な、広い2つの通過帯域を有するとともに、2つの通過帯域の間に減衰極が形成されたバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のバンドパスフィルタは、複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、前記積層体の第1の層間に一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置された、それぞれ前記一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第1乃至第4の共振電極と、前記積層体の前記第1の層間とは異なる第2の層間に横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第5乃至第7の共振電極と、前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第6の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分および前記第7の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分ならびに前記第1および第2部分の一方端同士を接続する接続部からなり、1/2波長共振器として機能する第8の共振電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1および第5の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第1の入出力結合電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第4および第7の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第2の入出力結合電極とを備え、前記第1の共振電極の前記一方端と前記第5の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第4の共振電極の前記一方端と前記第7の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第5の共振電極の前記一方端と前記第6の共振電極の他方端とが同じ側に位置しており、前記第6の共振電極の前記一方端と前記第1部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第7の共振電極の前記一方端と前記第2部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第1の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第1の入出力点を備えており、該第1の入出力点は、前記第1の入出力結合電極の長さ方向において、前記第1および第5の共振電極との対向部の中央よりも前記第1および第5の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、前記第2の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第2の入出力点を備えており、該第2の入出力点は、前記第2の入出力結合電極の長さ方向において、前記第4および第7の共振電極との対向部の中央よりも前記第4および第7の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、通過特性において、前記第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域と、前記第5乃至第8の共振電極によって形成される第2の通過帯域とを有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の無線通信モジュールは、上記本発明のバンドパスフィルタを備えることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の無線通信機器は、上記本発明のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第4の共振電極は、一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合するとともに、第5乃至第8の共振電極は、隣り合う共振電極の開放端同士が互い違いになるように配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合する。よって、第1乃至第4の共振電極間の電磁界結合および第5乃至第8の共振電極間の電磁界結合を強くすることができるので、第1乃至第4の共振電極によって形成される通過帯域および第5乃至第8の共振電極によって形成される通過帯域を広くすることができる。
【0015】
また、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極は、第1および第5の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するとともに、電気信号が入力または出力される第1の入出力点が、第1の入出力結合電極の長さ方向において、第1および第5の共振電極との対向部の中央よりも第1および第5の共振電極の一方端から遠い側に位置している。これにより、第1の入出力結合電極は、第1および第5の共振電極とブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第1および第5の共振電極と強く電磁界結合する。
【0016】
さらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極は、第4および第7の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するとともに、電気信号が入力または出力される第2の入出力点が、第2の入出力結合電極の長さ方向において、第4および第7の共振電極との対向部の中央よりも第4および第7の共振電極の一方端から遠い側に位置している。これにより、第2の入出力結合電極は、第4および第7の共振電極とブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第4および第7の共振電極と強く電磁界結合する。
【0017】
よって、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極が第1および第5の共振電極と強く電磁界結合するとともに、第2の入出力結合電極が第4および第7の共振電極と強く電磁界結合するので、2つの広い通過帯域の全体に渡って平坦で低損失な優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0018】
またさらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極と第2の入出力結合電極との間に、第1の通過帯域を形成する第1乃至第4の共振電極と第2の通過帯域を形成する第5乃至第8の共振電極とが電気的に並列に接続されている。また、第1乃至第4の共振電極において、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第5乃至第8の共振電極において、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。さらに、第1の入出力結合電極は第1および第5の共振電極とインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第2の入出力結合電極は第4および第7の共振電極とインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。そして、第1乃至第7の共振電極は1/4波長共振器からなり第8の共振器は1/2波長共振器からなる。よって、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域において、第1乃至第4の共振電極を介して伝達される電気信号と第5乃至第8の共振電極を介して伝達される電気信号とを打ち消し合わせて減衰極を形成することができるので、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域における減衰量が確保された良好な通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0019】
本発明の無線通信モジュールおよび本発明の無線通信機器によれば、2つの広い通過帯域の全域に渡って通過する信号の損失が小さく、かつ2つの通過帯域の間に形成された減衰極によって減衰量が充分に確保された本発明のバンドパスフィルタを通信信号の濾波に用いることにより、バンドパスフィルタを通過する通信信号の減衰が少なくなるとともにノイズも減少する。このため、受信感度が向上するとともに通信信号の増幅度を小さくできるため増幅回路における消費電力が少なくなる。さらに、本発明のバンドパスフィルタで2つの通信帯域の信号を濾波することができる。よって、小型で受信感度が高く消費電力が少ない高性能な無線通信モジュールおよび無線通信機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の第1の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。
【図2】図1に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。
【図3】図1に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。
【図4】図1のQ−Q’線断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態の第4の例の無線通信モジュールおよび無線通信機器を模式的に示すブロック図である。
【図8】第1の比較例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図9】第2の比較例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】第1の比較例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】第2の比較例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のバンドパスフィルタを添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施の形態の第1の例)
図1は、本発明の実施の形態の第1の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。図2は、図1に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。図3は、図1に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。図4は、図1のQ−Q’線断面図である。
【0022】
本例のバンドパスフィルタは、図1〜図4に示すように、積層体10と、第1の接地電極21と、第2の接地電極22と、第1の環状接地電極23と、第2の環状接地電極24と、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35と、第1の入出力結合電極40aと、第2の入出力結合電極40bと、第1の入出力端子電極60aと、第2の入出力端子電極60bとを備える。積層体10は、複数の誘電体層11が積層されてなる。第1の接地電極21は、積層体10の下面に配置されている。第2の接地電極22は、積層体10の上面に配置されている。帯状の第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dは、積層体10の第1の層間に、一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置されており、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する。第1の環状接地電極23は、積層体10の第1の層間に、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの周囲を囲むように配置されており、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの一方端が接続されている。帯状の第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cは、積層体10の第2の層間に横並びに順次配置されており、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する。第2の環状接地電極24は、積層体10の第2の層間に、第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cの周囲を囲むように配置されており、第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cの一方端が接続されている。第8の共振電極は、積層体10の第2の層間を間に挟んで第1の層間と反対側に位置する第3の層間に配置されており、第6の共振電極31bに平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分35aと、第7の共振電極31cに平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分35bと、第1および第2部分35a,35bの一方端同士を接続する接続部71cとからなり、1/2波長共振器として機能する。第1の入出力結合電極40aは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間に位置する第3の層間に配置されており、第1および第5の共振電極30a,31aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第2の入出力結合電極40bは、積層体10の第3の層間に配置されており、第4および第7の共振電極30d,31cの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第1の入出力端子電極60aは、積層体10の上面に第2の接地電極22と間を開けて配置されており、誘電体層11を貫通する貫通導体50によって、第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに接続されている。第2の入出力端子電極60bは、積層体10の上面に第2の接地電極22と間を開けて配置されており、誘電体層11を貫通する貫通導体50によって、第2の入出力結合電極40bに接続されている。
【0023】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタは、例えば、第1の入出力端子電極60aおよび貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに外部回路からの電気信号が入力されると、第1の入出力結合電極40aと電磁界結合する第1の共振電極30aが励振されることによって、相互に電磁界結合する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dが共振し、第4の共振電極30dと電磁界結合する第2の入出力結合電極40bの第2の入出力点45bから貫通導体50および第2の入出力端子電極60bを介して外部回路に電気信号が出力される。このとき、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dが共振する周波数を含む第1周波数帯域の信号が選択的に通過するため、これによって、第1の通過帯域が形成される。
【0024】
また、第1の入出力端子電極60aおよび貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに外部回路からの電気信号が入力されると、第1の入出力結合電極40aと電磁界結合する第5の共振電極31aが励振されることによって、相互に電磁界結合する第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35が共振し、第7の共振電極31cと電磁界結合する第2の入出力結合電極40bの第2の入出力点45bから貫通導体50および第2の入出力端子電極60bを介して外部回路に電気信号が出力される。このとき、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35が共振する周波数を含む第2周波数帯域の信号が選択的に通過するため、これによって、第2の通過帯域が形成される。
【0025】
このようにして、本例のバンドパスフィルタは、周波数の異なる2つの通過帯域を有するバンドパスフィルタとして機能する。
【0026】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dは、一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合することから、相互の電磁界結合を強くすることができるので、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dによって形成される通過帯域を広くすることができる。
【0027】
また、本例のバンドパスフィルタによれば、第5の共振電極31aの一方端と第6の共振電極31bの他方端とが同じ側に位置しており、第6の共振電極31bの一方端と第1部分35aの他方端とが同じ側に位置しており、第7の共振電極31cの一方端と第2部分35bの他方端とが同じ側に位置していることから、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35は、隣り合う共振電極の開放端同士が互い違いになるように配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合する。よって、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35間の電磁界結合を強くすることができるので、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35によって形成される通過帯域を広くすることができる。
【0028】
さらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の共振電極30aの一方端と第5の共振電極の一方端とが同じ側に位置するように配置されており、第1の入出力結合電極40aは、第1および第5の共振電極30a,31aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するように配置されている。そして、第1の入出力点45aは、第1の入出力結合電極40aの長さ方向において、第1および第5の共振電極30a,31aとの対向部の中央よりも第1および第5の共振電極30a,31aの一方端から遠い側に位置している。これにより、第1の入出力結合電極40aは、第1および第5の共振電極30a,31aとブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第1および第5の共振電極30a,31aと強く電磁界結合する。
【0029】
またさらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第4の共振電極30dの一方端と第7の共振電極の一方端とが同じ側に位置するように配置されており、第2の入出力結合電極40bは、第4および第7の共振電極30d,31cの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するように配置されている。そして、第2の入出力点45bは、第2の入出力結合電極40bの長さ方向において、第4および第7の共振電極30d,31cとの対向部の中央よりも第4および第7の共振電極30d,31cの一方端から遠い側に位置している。これにより、第2の入出力結合電極40bは、第4および第7の共振電極30d,31cとブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第4および第7の共振電極30d,31cと強く電磁界結合する。
【0030】
よって、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aが第1および第5の共振電極30a,31aと強く電磁界結合するとともに、第2の入出力結合電極40bが第4および第7の共振電極30d,31cと強く電磁界結合するので、2つの広い通過帯域の全体に渡って平坦で低損失な優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0031】
またさらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間に、第1の通過帯域を形成する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第2の通過帯域を形成する第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35とが電気的に並列に接続されている。また、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dにおいて、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35において、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。さらに、第1の入出力結合電極40aは第1および第5の共振電極30a,31aとインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第2の入出力結合電極40bは第4および第7の共振電極30d,31cとインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。そして、第1乃至第7の共振電極30a,30b,30c,30d,31a,31b,31cは1/4波長共振器からなり、第8の共振電極35は1/2波長共振器からなる。よって、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域において、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dを介して伝達される電気信号と第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35を介して伝達される電気信号とを打ち消し合わせて減衰極を形成することができるので、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域における減衰量が確保された良好な通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0032】
本例のバンドパスフィルタにおいて、誘電体層11の材質としては、例えばエポキシ樹脂等の樹脂や例えば誘電体セラミックス等のセラミックスを用いることができる。例えば、BaTiO3,Pb4Fe2Nb2O12,TiO2等の誘電体セラミック材料と、B2O3,SiO2,Al2O3,ZnO等のガラス材料とからなり、800〜1200℃程度の比較的低い温度で焼成が可能なガラス−セラミック材料が好適に用いられる。また、誘電体層11の厚みとしては、例えば0.01〜0.1mm程度に設定される。
【0033】
前述した各種の電極および貫通導体の材質としては、例えば、Ag,Ag−Pd,Ag−Pt等のAg合金を主成分とする導電材料やCu系,W系,Mo系,Pd系導電材料等が好適に用いられる。各種の電極の厚みは、例えば0.001〜0.2mmに設定される。
【0034】
本例のバンドパスフィルタは、例えば次のようにして作製することができる。まず、セラミック原料粉末に適当な有機溶剤等を添加・混合して泥漿を作製するとともに、ドクターブレード法によってセラミックグリーンシートを形成する。次に、得られたセラミックグリーンシートにパンチングマシーン等を用いて貫通導体を形成するための貫通孔を形成し、Ag,Ag−Pd,Au,Cu等の導体を含む導体ペーストを充填するとともにセラミックグリーンシートの表面に印刷法を用いて前述したのと同様の導体ペーストを塗布して導体ペースト付きセラミックグリーンシートを作製する。次に、これらの導体ペースト付きセラミックグリーンシートを積層し、ホットプレス装置を用いて圧着し、800℃〜1050℃程度のピーク温度で焼成することにより作製される。
(実施の形態の第2の例)
図5は、本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。なお、本例においては前述した第1の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0035】
本例のバンドパスフィルタにおいては、図5に示すように、第1の入出力結合電極40aは、帯状の第1の下側電極41aと、帯状の第1の上側電極42aと、第1の接続導体43aと、第1の接続補助導体44aとで構成されている。第1の下側電極41aは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間に位置する層間Aに配置されて、第1の共振電極30aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第1の上側電極42aは、積層体10の層間Aと第2の層間との間に位置する層間Bに配置されて、第5の共振電極31aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第1の接続導体43aは、第1の下側電極41aおよび第1の上側電極42aの一方端側同士を接続する。第1の接続補助導体44aは、第1の下側電極41aおよび第1の上側電極42aの他方端側同士を接続する。そして、第1の入出力点45aは、第1の下側電極41aの一方端側の端部に位置する。
【0036】
また、本例のバンドパスフィルタにおいては、第2の入出力結合電極40bは、帯状の第2の下側電極41bと、帯状の第2の上側電極42bと、第2の接続導体43bと、第2の接続補助導体44bとで構成されている。第2の下側電極41bは、積層体の層間Aに配置されて、第4の共振電極30dの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第2の上側電極42bは、積層体10の層間Bに配置されて、第7の共振電極31cの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第2の接続導体43bは、
第2の下側電極41bおよび第2の上側電極42bの一方端側同士を接続する。第2の接続補助導体44bは、第2の下側電極41bおよび第2の上側電極42bの他方端側同士を接続する。そして、第2の入出力点45bは、第2の下側電極41bの一方端側の端部に位置する。
【0037】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第1の共振電極30aおよび第4の共振電極30dとの間隔を維持したままで、第1の共振電極30aと第5の共振電極31aとの間隔を広げることができる。これにより、第1の共振電極30aと第5の共振電極31aとの直接的な電磁界結合を弱めることができるので、第1の入出力結合電極40aと第1の共振電極30aおよび第4の共振電極30dとの電磁界結合をさらに強くすることができる。
【0038】
同様に、本例のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極40bと第4の共振電極30dおよび第7の共振電極31cとの間隔を維持したままで、第4の共振電極30dと第7の共振電極31cとの間隔を広げることができる。これにより、第4の共振電極30dと第7の共振電極31cとの直接的な電磁界結合を弱めることができるので、第2の入出力結合電極40bと第4の共振電極30dおよび第7の共振電極31cとの電磁界結合をさらに強くすることができる。
【0039】
このため、本例のバンドパスフィルタによれば、2つの広い通過帯域の全体に渡って、より平坦でより低損失な、優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0040】
また、本例のバンドパスフィルタは、共振補助電極32a,32b,32c,32dを備えている。共振補助電極32a,32b,32c,32dは、積層体10の層間Aおよび層間Cに、第1の環状接地電極23と対向するように配置されており、それぞれ、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの他方端部に貫通導体50を介して接続されている。
【0041】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、共振補助電極32a,32b,32c,32dと第1の環状接地電極23との間に生じる静電容量により、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの長さを短縮することができるので、より小型のバンドパスフィルタを得ることができる。
【0042】
さらに、本例のバンドパスフィルタは、第1の結合補助電極46aおよび第2の結合補助電極46bを備えている。第1の結合補助電極46aは、積層体10の層間Bに、共振補助電極32aと対向するように配置されている。また、第1の結合補助電極46aは、一方端部が貫通導体50を介して第1の下側電極41aの一方端部の第1の入出力点45aに接続されるとともに、他方端部が他の貫通導体50を介して第1の入出力端子電極60aに接続されている。第2の結合補助電極46bは、積層体10の層間Bに、共振補助電極32dと対向するように配置されいる。また、第2の結合補助電極46bは、一方端部が貫通導体50を介して第2の下側電極41bの一方端部の第2の入出力点45bに接続されるとともに、他方端部が他の貫通導体50を介して第2の入出力端子電極60bに接続されている。
【0043】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の共振電極30aおよび共振補助電極32aの接合体と、第1の入出力結合電極40aおよび第1の結合補助電極46aの接合体とが、全体的にブロードサイドでインターデジタル型に強く電磁界結合する。また、第2の共振電極30bおよび共振補助電極32dの接合体と、第2の入出力結合電極40bおよび第2の結合補助電極46bの接合体とが、全体的にブロードサイドでインターデジタル型に強く電磁界結合する。これにより、2つの広い通過帯域の全体に渡って、さらに平坦で、さらに低損失な、優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
(実施の形態の第3の例)
図6は、本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。なお、本例においては前述した第2の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0044】
本例のバンドパスフィルタは、図6に示すように、積層体10の層間Dに配置された第1の共振器結合電極71と、積層体10の層間Eに配置された第2の共振器結合電極72とを備えている。
【0045】
第1の共振器結合電極71は、結合部71aと、結合部71bと、結合部71aおよび結合部71bの一方端同士を接続する接続部71cとで構成されている。結合部71aは第1の共振電極30aの一方端側と対向するように配置されており、結合部71aの他方端部は貫通導体50を介して第1の環状接地電極23に接続されている。結合部71bは第4の共振電極30dの一方端側と対向するように配置されており、結合部71bの他方端部は他の貫通導体50を介して第1の環状接地電極23に接続されている。
【0046】
第2の共振器結合電極72は、結合部72aと、結合部72bと、結合部72aおよび結合部72bの一方端同士を接続する接続部72cとで構成されている。結合部72aは第5の共振電極31aの一方端側と対向するように配置されており、結合部72bは第7の共振電極31cの一方端側と対向するように配置されている。
【0047】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間において、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号と、第1の共振器結合電極71を介して伝達される電気信号とが互いの位相差によって打ち消し合って生じる減衰極を、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dで構成される第1の通過帯域の両側近傍に形成することができる。
【0048】
また、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間において、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35の隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号と、第2の共振器結合電極72を介して伝達される電気信号とが互いの位相差によって打ち消し合って生じる減衰極を、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35で構成される第2の通過帯域の両側近傍に形成することができる。
【0049】
さらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間において、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号および第1の共振器結合電極71を介して伝達される電気信号が合成された電気信号と、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35の隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号および第2の共振器結合電極72を介して伝達される電気信号が合成された電気信号とが互いの位相差によって打ち消し合う。この現象が、第1の通過帯域の高周波側近傍に生じる減衰極と、第2の通過帯域の低周波側近傍に生じる減衰極との間に位置する周波数領域で発生するので、この周波数領域に減衰極を形成することができる。
【0050】
このようにして、本例のバンドパスフィルタによれば、2つの通過帯域の間に位置する周波数領域に3つの減衰極が生じるので、2つの通過帯域の間の周波数領域における減衰量が充分に確保された優れた通過特性を備えるバンドパスフィルタを得ることができる。
【0051】
(実施の形態の第4の例)
図7は本発明の実施の形態の第4の例の無線通信モジュール80および無線通信機器85を模式的に示すブロック図である。
【0052】
本例の無線通信モジュール80は、例えば、ベースバンド信号が処理されるベースバンド部81と、ベースバンド部81に接続されベースバンド信号の変調後および復調前のRF信号が処理されるRF部82とを備えている。RF部82には前述した本発明のバンドパスフィルタ821が含まれており、ベースバンド信号が変調されてなるRF信号または受信したRF信号における通信帯域以外の信号をバンドパスフィルタ821によって減衰させている。
【0053】
具体的な構成としては、ベースバンド部81にはベースバンドIC 811が配置され、RF部82にはバンドパスフィルタ821とベースバンド部81との間にRF IC 822が配置されている。なお、これらの回路間には別の回路が介在していてもよい。そして、無線通信モジュール80のバンドパスフィルタ821にアンテナ84を接続することによってRF信号の送受信がなされる本例の無線通信機器85が構成される。
【0054】
このような構成を有する本例の無線通信モジュール80および無線通信機器85によれば、2つの広い通過帯域の全域に渡って低損失であるとともに、2つの通過帯域の間に減衰極が形成されて減衰量が充分に確保された本発明のバンドパスフィルタ821を用いて、2つの通信帯域の信号の濾波を行なうことができる。これにより、通信信号の減衰を少なくするとともに、ノイズを少なくすることができるため、受信感度が向上するとともに、通信信号の増幅度を小さくすることができるので、増幅回路における消費電力が少なくなる。さらに、2つの通信帯域の濾波を1つのフィルタによって行うことができるので、回路構成を簡略化できるとともに部品点数を削減することができる。よって、小型で受信感度が高く消費電力が少ない高性能な無線通信モジュール80および無線通信機器85を得ることができる。
【0055】
(変形例)
本発明は前述した実施の形態の第1〜第4の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0056】
例えば、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bを備えた例を示した。しかしながら、モジュール基板の中の一領域にバンドパスフィルタが形成される場合等では、第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bは必ずしも必要ではなく、例えば、モジュール基板内の外部回路からの配線導体が、第1の入出力結合電極40aおよび第2の入出力結合電極40bに直接接続するようにしても構わない。この場合には、第1の入出力結合電極40aおよび第2の入出力結合電極40bと配線導体との接続点が、第1の入出力点45aおよび第2の入出力点45bとなる。
【0057】
また、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、積層体10の下面に第1の接地電極21を配置し、積層体10の上面に第2の接地電極22を配置した例を示したが、例えば、第1の接地電極21の下にさらに誘電体層を配置しても構わないし、第2の接地電極22の上にさらに誘電体層を配置しても構わない。また、第1の接地電極21および第2の接地電極22の一方のみを備えるようにしても構わない。
【0058】
またさらに、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、バンドパスフィルタが1つの積層体10の中に構成された例を示したが、厚み方向に積層された複数の積層体にまたがってバンドパスフィルタが構成されるようにしてもかまわない。
【0059】
さらにまた、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとが積層体10の同じ層間に配置され、第8の共振電極35の第1部分35aと第2部分35bとが積層体10の同じ層間に配置された例を示した。しかしながら、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間であれば、異なる層間に配置されるようにしても構わない。同様に、第8の共振電極35の第1部分35aと第2部分35bとが、積層体10の異なる層間に配置されるようにしても構わない。
【0060】
またさらに、UWBに用いられるバンドパスフィルタを例示してこれまで説明を行なってきたが、他の用途においても本発明のバンドパスフィルタが有効であることは言うまでもない。
【実施例】
【0061】
次に、本発明のバンドパスフィルタの具体例について説明する。
【0062】
図5に示した本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタと、図6に示した本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタと、図8に示した第1の比較例のバンドパスフィルタと、図9に示した第2の比較例のバンドパスフィルタとの電気特性を有限要素法を用いたシミュレーションによって算出した。第1の比較例のバンドパスフィルタは、図8に示すように、図5に示した構造における第8の共振電極35を、積層体10の第2の層間の第6の共振電極31bおよび第7の共振電極31cの間に配置された1/4波長共振器31dに置き換えた構造とした。第2の比較例のバンドパスフィルタは、図9に示すように、図6に示した構造における第8の共振電極35を、積層体10の第2の層間の第6の共振電極31bおよび第7の共振電極31cの間に配置された1/4波長共振器31dに置き換えるとともに、第2の共振器結合電極72の両端を貫通導体50を介して第2の環状接地電極24に接続した構造とした。
【0063】
図6に示した実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタのシミュレーションにおいて、複数の第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dは幅が0.15mmで長さが3.5mmの矩形状とし、第1の共振電極30aと第2の共振電極30bとの間隔および第3の共振電極30cと第4の共振電極30dとの間隔はそれぞれ0.19mmとし、第2の共振電極30bと第3の共振電極30cとの間隔は0.185mmとした。複数の第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cは幅が0.18mmで長さが2.54mmの矩形状とし、第5の共振電極31aと第6の共振電極31bとの間隔は0.145mmとした。第8の共振電極35については、第1部分35aは幅0.21mmで長さ2.99mmとし、第2部分35bは幅0.15mmで長さ3.19mmとし、接続部35cは幅0.257mmで長さ0.25mmとした。共振補助電極32a,32dは、それぞれ幅が0.42mmで長さが0.53mmの矩形と幅が0.2mmで長さが0.5mmの矩形とを接合した形状とした。共振補助電極32b,32cは、それぞれ幅が0.4mmで長さが0.52mmの矩形と幅が0.2mmで長さが0.5mmの矩形とを接合した形状とした。第1の下側電極41aおよび第2の下側電極41bは、幅が0.15mmで長さが3.5mmの矩形状とし、第1の上側電極42aおよび第2の上側電極42bは、幅が0.15mmで長さが3.1mmの矩形状とした。第1の接続導体43aおよび第1の接続補助導体44aは、第1の下側電極41aおよび第1の上側電極42aの対向領域において両端からそれぞれ0.1mmの位置に配置した。第1の接続導体43aおよび第1の接続補助導体44aは、第2の下側電極41bおよび第2の上側電極42bの対向領域において両端からそれぞれ0.1mmの位置に配置した。第1の結合補助電極46aおよび第2の結合補助電極46bは幅が0.15mmで長さが1.2mmの矩形状とした。第1の共振器結合電極71については、結合部71a,71bはそれぞれ幅が0.1mmで長さが1.975mmの矩形状とし、接続部71cは幅が0.1mmで長さが0.865mmの矩形状とした。第2の共振器結合電極72については、結合部72a,72bはそれぞれ幅が0.1mmで長さが0.6mmの矩形状とし、接続部72cは幅が0.1mmで長さが0.762mmの矩形状とした。第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bはそれぞれ一辺が0.3mmの正方形とし、第2の接地電極22との間隔は0.2mmとした。第1の接地電極21,第2の接地電極22,第1の環状接地電極23および第2の環状接地電極24の外形は幅が3mmで長さが5mmの矩形状とし、第1の環状接地電極23の開口部は幅が2.4mmで長さが3.65mmの矩形状とし、第2の環状接地電極24の開口部は幅が2.4mmで長さが2.69mmの矩形状とした。バンドパスフィルタ全体の形状は、幅が3mmで長さが5mmで厚みが0.975mmとし、厚み方向の中央部に層間Aおよび層間Bが位置するようにした。第1〜3の層間および層間A〜Eにおいて、隣り合う層間の間隔(隣り合う層間に配置された各種電極同士の間隔)はそれぞれ0.065mmとした。各種電極の厚みは0.01mmとした。第1の接続導体43a,第1の接続補助導体44a,第2の接続導体43b,第2の接続補助導体44bおよび貫通導体50の直径は0.1mmとした。誘電体層11の比誘電率は9.45とした。
【0064】
図5に示した実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタのシミュレーションにおいては、上述した形状寸法を備える図6に示した実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタから、そのまま第1の共振器結合電極71および第2の共振器結合電極72ならびにこれらに接続する貫通導体50を取り除いた構造とした。
【0065】
第2の例のバンドパスフィルタ,第3の例のバンドパスフィルタ,第1の比較例のバンドパスフィルタおよび第2の比較例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を、それぞれ図10,図11,図12および図13に示す。それぞれのグラフは、バンドパスフィルタの通過特性(S21)および反射特性(S11)を示しており、横軸は周波数で縦軸は減衰量を示している。
【0066】
図10に示す第2の例のバンドパスフィルタの通過特性においては、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に減衰極が形成されているが、図12に示す第1の比較例のバンドパスフィルタの通過特性には、その減衰極がないことがわかる。また、図11に示す第3の例のバンドパスフィルタの通過特性においては、第1の通過帯域の高周波側近傍の減衰極と第2の通過帯域の低周波側近傍の減衰極との間に、もう1つの減衰極が形成されているが、図13に示す第2の比較例のバンドパスフィルタの通過特性においては、その減衰極がないことがわかる。そして、実施の形態の第2の例および第3の例のバンドパスフィルタの通過特性では、第1および第2の比較例のバンドパスフィルタの通過特性よりも、第1の通過帯域及び第2の通過帯域の間の周波数領域における減衰量がそれぞれ増加していることがわかる。これにより、本発明の有効性が確認できた。
【符号の説明】
【0067】
10:積層体
11:誘電体層
30a:第1の共振電極
30b:第2の共振電極
30c:第3の共振電極
30d:第4の共振電極
31a:第5の共振電極
31b:第6の共振電極
31c:第7の共振電極
35:第8の共振電極
35a:第1部分
35b:第2部分
35c:接続部
40a:第1の入出力結合電極
40b:第2の入出力結合電極
45a:第1の入出力点
45b:第2の入出力点
80:無線通信モジュール
81:ベースバンド部
82:RF部
821:バンドパスフィルタ
84:アンテナ
85:無線通信機器
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものであり、特に、2つの通過帯域を有するバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい通信手段としてUWBが着目されている。UWBは10m程度の短い距離において広い周波数帯域を使用して大容量のデータ転送を実現するものであり、例えば米国FCC(Federal Communication Commission)の規定によると3.1〜10.6GHzの周波数帯域を使用する計画となっている。このようにUWBの特徴は非常に広い周波数帯域を用いることである。
【0003】
このようなUWBに使用可能な超広帯域のフィルタに関する研究は近年盛んに行なわれており、例えば、方向性結合器の原理を応用したバンドパスフィルタによって、通過帯域幅が比帯域(帯域幅/中心周波数)で100%を超える広帯域な特性が得られたとの報告がある(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
一方、従来よく使用されるフィルタとして、複数の1/4波長ストリップライン共振器を併設して相互に結合させて構成したバンドパスフィルタが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−180032号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「マイクロストリップ−CPWブロードサイド結合構造を用いた超広帯域バンドパスフィルタ」2005年3月電子情報通信学会総合大会講演論文集 C-2-114 p.147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1および特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタはそれぞれ問題点を有しており、UWB用のバンドパスフィルタには適さないものであった。
【0008】
例えば、非特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタは通過帯域幅が広すぎるという問題があった。すなわち、UWBは基本的には3.1GHz〜10.6GHzの周波数帯域を使用するが、国際電気通信連合無線通信部門では、IEEE802.11.aで使用する5.3GHzを避ける形で3.1〜4.7GHz程度の帯域を使用するLow Band(ローバンド)と6GHz〜10.6GHz程度の帯域を使用するHigh Band(ハイバンド)とに分割した企画が立案されている。よって、UWBのLow BandおよびHigh Bandに使用されるフィルタには、それぞれ比帯域で40%〜50%程度の通過帯域幅と5.3GHzにおける減衰が同時に要求されるため、通過帯域幅が比帯域で100%を超えるような特性を有する非特許文献1にて提案されたバンドパスフィルタは通過帯域幅が広すぎて使えないものであった。
【0009】
また、従来の1/4波長共振器を使用したバンドパスフィルタの通過帯域幅は狭すぎ、広帯域化を図った特許文献1に記載のバンドパスフィルタの通過帯域幅であっても比帯域で10%にも満たないものであった。よって、比帯域で40%〜50%に相当する広い通過帯域幅を要求されるUWB用のバンドパスフィルタとして使えるものではなかった。
【0010】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、UWBのLow Band用フィルタおよびHigh Band用フィルタを1つのフィルタでまかなうことが可能な、広い2つの通過帯域を有するとともに、2つの通過帯域の間に減衰極が形成されたバンドパスフィルタならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のバンドパスフィルタは、複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、前記積層体の第1の層間に一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置された、それぞれ前記一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第1乃至第4の共振電極と、前記積層体の前記第1の層間とは異なる第2の層間に横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第5乃至第7の共振電極と、前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第6の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分および前記第7の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分ならびに前記第1および第2部分の一方端同士を接続する接続部からなり、1/2波長共振器として機能する第8の共振電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1および第5の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第1の入出力結合電極と、前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第4および第7の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第2の入出力結合電極とを備え、前記第1の共振電極の前記一方端と前記第5の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第4の共振電極の前記一方端と前記第7の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第5の共振電極の前記一方端と前記第6の共振電極の他方端とが同じ側に位置しており、前記第6の共振電極の前記一方端と前記第1部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第7の共振電極の前記一方端と前記第2部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第1の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第1の入出力点を備えており、該第1の入出力点は、前記第1の入出力結合電極の長さ方向において、前記第1および第5の共振電極との対向部の中央よりも前記第1および第5の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、前記第2の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第2の入出力点を備えており、該第2の入出力点は、前記第2の入出力結合電極の長さ方向において、前記第4および第7の共振電極との対向部の中央よりも前記第4および第7の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、通過特性において、前記第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域と、前記第5乃至第8の共振電極によって形成される第2の通過帯域とを有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の無線通信モジュールは、上記本発明のバンドパスフィルタを備えることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の無線通信機器は、上記本発明のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第4の共振電極は、一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合するとともに、第5乃至第8の共振電極は、隣り合う共振電極の開放端同士が互い違いになるように配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合する。よって、第1乃至第4の共振電極間の電磁界結合および第5乃至第8の共振電極間の電磁界結合を強くすることができるので、第1乃至第4の共振電極によって形成される通過帯域および第5乃至第8の共振電極によって形成される通過帯域を広くすることができる。
【0015】
また、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極は、第1および第5の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するとともに、電気信号が入力または出力される第1の入出力点が、第1の入出力結合電極の長さ方向において、第1および第5の共振電極との対向部の中央よりも第1および第5の共振電極の一方端から遠い側に位置している。これにより、第1の入出力結合電極は、第1および第5の共振電極とブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第1および第5の共振電極と強く電磁界結合する。
【0016】
さらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極は、第4および第7の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するとともに、電気信号が入力または出力される第2の入出力点が、第2の入出力結合電極の長さ方向において、第4および第7の共振電極との対向部の中央よりも第4および第7の共振電極の一方端から遠い側に位置している。これにより、第2の入出力結合電極は、第4および第7の共振電極とブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第4および第7の共振電極と強く電磁界結合する。
【0017】
よって、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極が第1および第5の共振電極と強く電磁界結合するとともに、第2の入出力結合電極が第4および第7の共振電極と強く電磁界結合するので、2つの広い通過帯域の全体に渡って平坦で低損失な優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0018】
またさらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極と第2の入出力結合電極との間に、第1の通過帯域を形成する第1乃至第4の共振電極と第2の通過帯域を形成する第5乃至第8の共振電極とが電気的に並列に接続されている。また、第1乃至第4の共振電極において、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第5乃至第8の共振電極において、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。さらに、第1の入出力結合電極は第1および第5の共振電極とインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第2の入出力結合電極は第4および第7の共振電極とインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。そして、第1乃至第7の共振電極は1/4波長共振器からなり第8の共振器は1/2波長共振器からなる。よって、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域において、第1乃至第4の共振電極を介して伝達される電気信号と第5乃至第8の共振電極を介して伝達される電気信号とを打ち消し合わせて減衰極を形成することができるので、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域における減衰量が確保された良好な通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0019】
本発明の無線通信モジュールおよび本発明の無線通信機器によれば、2つの広い通過帯域の全域に渡って通過する信号の損失が小さく、かつ2つの通過帯域の間に形成された減衰極によって減衰量が充分に確保された本発明のバンドパスフィルタを通信信号の濾波に用いることにより、バンドパスフィルタを通過する通信信号の減衰が少なくなるとともにノイズも減少する。このため、受信感度が向上するとともに通信信号の増幅度を小さくできるため増幅回路における消費電力が少なくなる。さらに、本発明のバンドパスフィルタで2つの通信帯域の信号を濾波することができる。よって、小型で受信感度が高く消費電力が少ない高性能な無線通信モジュールおよび無線通信機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の第1の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。
【図2】図1に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。
【図3】図1に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。
【図4】図1のQ−Q’線断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態の第4の例の無線通信モジュールおよび無線通信機器を模式的に示すブロック図である。
【図8】第1の比較例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図9】第2の比較例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】第1の比較例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】第2の比較例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のバンドパスフィルタを添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施の形態の第1の例)
図1は、本発明の実施の形態の第1の例のバンドパスフィルタを模式的に示す外観斜視図である。図2は、図1に示すバンドパスフィルタの模式的な分解斜視図である。図3は、図1に示すバンドパスフィルタの上下面および層間を模式的に示す平面図である。図4は、図1のQ−Q’線断面図である。
【0022】
本例のバンドパスフィルタは、図1〜図4に示すように、積層体10と、第1の接地電極21と、第2の接地電極22と、第1の環状接地電極23と、第2の環状接地電極24と、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35と、第1の入出力結合電極40aと、第2の入出力結合電極40bと、第1の入出力端子電極60aと、第2の入出力端子電極60bとを備える。積層体10は、複数の誘電体層11が積層されてなる。第1の接地電極21は、積層体10の下面に配置されている。第2の接地電極22は、積層体10の上面に配置されている。帯状の第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dは、積層体10の第1の層間に、一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置されており、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する。第1の環状接地電極23は、積層体10の第1の層間に、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの周囲を囲むように配置されており、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの一方端が接続されている。帯状の第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cは、積層体10の第2の層間に横並びに順次配置されており、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する。第2の環状接地電極24は、積層体10の第2の層間に、第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cの周囲を囲むように配置されており、第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cの一方端が接続されている。第8の共振電極は、積層体10の第2の層間を間に挟んで第1の層間と反対側に位置する第3の層間に配置されており、第6の共振電極31bに平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分35aと、第7の共振電極31cに平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分35bと、第1および第2部分35a,35bの一方端同士を接続する接続部71cとからなり、1/2波長共振器として機能する。第1の入出力結合電極40aは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間に位置する第3の層間に配置されており、第1および第5の共振電極30a,31aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第2の入出力結合電極40bは、積層体10の第3の層間に配置されており、第4および第7の共振電極30d,31cの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第1の入出力端子電極60aは、積層体10の上面に第2の接地電極22と間を開けて配置されており、誘電体層11を貫通する貫通導体50によって、第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに接続されている。第2の入出力端子電極60bは、積層体10の上面に第2の接地電極22と間を開けて配置されており、誘電体層11を貫通する貫通導体50によって、第2の入出力結合電極40bに接続されている。
【0023】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタは、例えば、第1の入出力端子電極60aおよび貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに外部回路からの電気信号が入力されると、第1の入出力結合電極40aと電磁界結合する第1の共振電極30aが励振されることによって、相互に電磁界結合する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dが共振し、第4の共振電極30dと電磁界結合する第2の入出力結合電極40bの第2の入出力点45bから貫通導体50および第2の入出力端子電極60bを介して外部回路に電気信号が出力される。このとき、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dが共振する周波数を含む第1周波数帯域の信号が選択的に通過するため、これによって、第1の通過帯域が形成される。
【0024】
また、第1の入出力端子電極60aおよび貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aの第1の入出力点45aに外部回路からの電気信号が入力されると、第1の入出力結合電極40aと電磁界結合する第5の共振電極31aが励振されることによって、相互に電磁界結合する第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35が共振し、第7の共振電極31cと電磁界結合する第2の入出力結合電極40bの第2の入出力点45bから貫通導体50および第2の入出力端子電極60bを介して外部回路に電気信号が出力される。このとき、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35が共振する周波数を含む第2周波数帯域の信号が選択的に通過するため、これによって、第2の通過帯域が形成される。
【0025】
このようにして、本例のバンドパスフィルタは、周波数の異なる2つの通過帯域を有するバンドパスフィルタとして機能する。
【0026】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dは、一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合することから、相互の電磁界結合を強くすることができるので、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dによって形成される通過帯域を広くすることができる。
【0027】
また、本例のバンドパスフィルタによれば、第5の共振電極31aの一方端と第6の共振電極31bの他方端とが同じ側に位置しており、第6の共振電極31bの一方端と第1部分35aの他方端とが同じ側に位置しており、第7の共振電極31cの一方端と第2部分35bの他方端とが同じ側に位置していることから、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35は、隣り合う共振電極の開放端同士が互い違いになるように配置されて相互にインターデジタル型に電磁界結合する。よって、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35間の電磁界結合を強くすることができるので、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35によって形成される通過帯域を広くすることができる。
【0028】
さらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の共振電極30aの一方端と第5の共振電極の一方端とが同じ側に位置するように配置されており、第1の入出力結合電極40aは、第1および第5の共振電極30a,31aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するように配置されている。そして、第1の入出力点45aは、第1の入出力結合電極40aの長さ方向において、第1および第5の共振電極30a,31aとの対向部の中央よりも第1および第5の共振電極30a,31aの一方端から遠い側に位置している。これにより、第1の入出力結合電極40aは、第1および第5の共振電極30a,31aとブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第1および第5の共振電極30a,31aと強く電磁界結合する。
【0029】
またさらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第4の共振電極30dの一方端と第7の共振電極の一方端とが同じ側に位置するように配置されており、第2の入出力結合電極40bは、第4および第7の共振電極30d,31cの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するように配置されている。そして、第2の入出力点45bは、第2の入出力結合電極40bの長さ方向において、第4および第7の共振電極30d,31cとの対向部の中央よりも第4および第7の共振電極30d,31cの一方端から遠い側に位置している。これにより、第2の入出力結合電極40bは、第4および第7の共振電極30d,31cとブロードサイドでインターデジタル型に電磁界結合するので、第4および第7の共振電極30d,31cと強く電磁界結合する。
【0030】
よって、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aが第1および第5の共振電極30a,31aと強く電磁界結合するとともに、第2の入出力結合電極40bが第4および第7の共振電極30d,31cと強く電磁界結合するので、2つの広い通過帯域の全体に渡って平坦で低損失な優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0031】
またさらに、本発明のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間に、第1の通過帯域を形成する第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dと第2の通過帯域を形成する第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35とが電気的に並列に接続されている。また、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dにおいて、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35において、隣り合う共振電極同士はインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。さらに、第1の入出力結合電極40aは第1および第5の共振電極30a,31aとインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしており、第2の入出力結合電極40bは第4および第7の共振電極30d,31cとインターデジタル型の電磁界結合によって主に容量性の結合をしている。そして、第1乃至第7の共振電極30a,30b,30c,30d,31a,31b,31cは1/4波長共振器からなり、第8の共振電極35は1/2波長共振器からなる。よって、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域において、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dを介して伝達される電気信号と第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35を介して伝達される電気信号とを打ち消し合わせて減衰極を形成することができるので、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に位置する周波数領域における減衰量が確保された良好な通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0032】
本例のバンドパスフィルタにおいて、誘電体層11の材質としては、例えばエポキシ樹脂等の樹脂や例えば誘電体セラミックス等のセラミックスを用いることができる。例えば、BaTiO3,Pb4Fe2Nb2O12,TiO2等の誘電体セラミック材料と、B2O3,SiO2,Al2O3,ZnO等のガラス材料とからなり、800〜1200℃程度の比較的低い温度で焼成が可能なガラス−セラミック材料が好適に用いられる。また、誘電体層11の厚みとしては、例えば0.01〜0.1mm程度に設定される。
【0033】
前述した各種の電極および貫通導体の材質としては、例えば、Ag,Ag−Pd,Ag−Pt等のAg合金を主成分とする導電材料やCu系,W系,Mo系,Pd系導電材料等が好適に用いられる。各種の電極の厚みは、例えば0.001〜0.2mmに設定される。
【0034】
本例のバンドパスフィルタは、例えば次のようにして作製することができる。まず、セラミック原料粉末に適当な有機溶剤等を添加・混合して泥漿を作製するとともに、ドクターブレード法によってセラミックグリーンシートを形成する。次に、得られたセラミックグリーンシートにパンチングマシーン等を用いて貫通導体を形成するための貫通孔を形成し、Ag,Ag−Pd,Au,Cu等の導体を含む導体ペーストを充填するとともにセラミックグリーンシートの表面に印刷法を用いて前述したのと同様の導体ペーストを塗布して導体ペースト付きセラミックグリーンシートを作製する。次に、これらの導体ペースト付きセラミックグリーンシートを積層し、ホットプレス装置を用いて圧着し、800℃〜1050℃程度のピーク温度で焼成することにより作製される。
(実施の形態の第2の例)
図5は、本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。なお、本例においては前述した第1の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0035】
本例のバンドパスフィルタにおいては、図5に示すように、第1の入出力結合電極40aは、帯状の第1の下側電極41aと、帯状の第1の上側電極42aと、第1の接続導体43aと、第1の接続補助導体44aとで構成されている。第1の下側電極41aは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間に位置する層間Aに配置されて、第1の共振電極30aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第1の上側電極42aは、積層体10の層間Aと第2の層間との間に位置する層間Bに配置されて、第5の共振電極31aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第1の接続導体43aは、第1の下側電極41aおよび第1の上側電極42aの一方端側同士を接続する。第1の接続補助導体44aは、第1の下側電極41aおよび第1の上側電極42aの他方端側同士を接続する。そして、第1の入出力点45aは、第1の下側電極41aの一方端側の端部に位置する。
【0036】
また、本例のバンドパスフィルタにおいては、第2の入出力結合電極40bは、帯状の第2の下側電極41bと、帯状の第2の上側電極42bと、第2の接続導体43bと、第2の接続補助導体44bとで構成されている。第2の下側電極41bは、積層体の層間Aに配置されて、第4の共振電極30dの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第2の上側電極42bは、積層体10の層間Bに配置されて、第7の共振電極31cの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する。第2の接続導体43bは、
第2の下側電極41bおよび第2の上側電極42bの一方端側同士を接続する。第2の接続補助導体44bは、第2の下側電極41bおよび第2の上側電極42bの他方端側同士を接続する。そして、第2の入出力点45bは、第2の下側電極41bの一方端側の端部に位置する。
【0037】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第1の共振電極30aおよび第4の共振電極30dとの間隔を維持したままで、第1の共振電極30aと第5の共振電極31aとの間隔を広げることができる。これにより、第1の共振電極30aと第5の共振電極31aとの直接的な電磁界結合を弱めることができるので、第1の入出力結合電極40aと第1の共振電極30aおよび第4の共振電極30dとの電磁界結合をさらに強くすることができる。
【0038】
同様に、本例のバンドパスフィルタによれば、第2の入出力結合電極40bと第4の共振電極30dおよび第7の共振電極31cとの間隔を維持したままで、第4の共振電極30dと第7の共振電極31cとの間隔を広げることができる。これにより、第4の共振電極30dと第7の共振電極31cとの直接的な電磁界結合を弱めることができるので、第2の入出力結合電極40bと第4の共振電極30dおよび第7の共振電極31cとの電磁界結合をさらに強くすることができる。
【0039】
このため、本例のバンドパスフィルタによれば、2つの広い通過帯域の全体に渡って、より平坦でより低損失な、優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
【0040】
また、本例のバンドパスフィルタは、共振補助電極32a,32b,32c,32dを備えている。共振補助電極32a,32b,32c,32dは、積層体10の層間Aおよび層間Cに、第1の環状接地電極23と対向するように配置されており、それぞれ、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの他方端部に貫通導体50を介して接続されている。
【0041】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、共振補助電極32a,32b,32c,32dと第1の環状接地電極23との間に生じる静電容量により、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの長さを短縮することができるので、より小型のバンドパスフィルタを得ることができる。
【0042】
さらに、本例のバンドパスフィルタは、第1の結合補助電極46aおよび第2の結合補助電極46bを備えている。第1の結合補助電極46aは、積層体10の層間Bに、共振補助電極32aと対向するように配置されている。また、第1の結合補助電極46aは、一方端部が貫通導体50を介して第1の下側電極41aの一方端部の第1の入出力点45aに接続されるとともに、他方端部が他の貫通導体50を介して第1の入出力端子電極60aに接続されている。第2の結合補助電極46bは、積層体10の層間Bに、共振補助電極32dと対向するように配置されいる。また、第2の結合補助電極46bは、一方端部が貫通導体50を介して第2の下側電極41bの一方端部の第2の入出力点45bに接続されるとともに、他方端部が他の貫通導体50を介して第2の入出力端子電極60bに接続されている。
【0043】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の共振電極30aおよび共振補助電極32aの接合体と、第1の入出力結合電極40aおよび第1の結合補助電極46aの接合体とが、全体的にブロードサイドでインターデジタル型に強く電磁界結合する。また、第2の共振電極30bおよび共振補助電極32dの接合体と、第2の入出力結合電極40bおよび第2の結合補助電極46bの接合体とが、全体的にブロードサイドでインターデジタル型に強く電磁界結合する。これにより、2つの広い通過帯域の全体に渡って、さらに平坦で、さらに低損失な、優れた通過特性を有するバンドパスフィルタを得ることができる。
(実施の形態の第3の例)
図6は、本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタを模式的に示す分解斜視図である。なお、本例においては前述した第2の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0044】
本例のバンドパスフィルタは、図6に示すように、積層体10の層間Dに配置された第1の共振器結合電極71と、積層体10の層間Eに配置された第2の共振器結合電極72とを備えている。
【0045】
第1の共振器結合電極71は、結合部71aと、結合部71bと、結合部71aおよび結合部71bの一方端同士を接続する接続部71cとで構成されている。結合部71aは第1の共振電極30aの一方端側と対向するように配置されており、結合部71aの他方端部は貫通導体50を介して第1の環状接地電極23に接続されている。結合部71bは第4の共振電極30dの一方端側と対向するように配置されており、結合部71bの他方端部は他の貫通導体50を介して第1の環状接地電極23に接続されている。
【0046】
第2の共振器結合電極72は、結合部72aと、結合部72bと、結合部72aおよび結合部72bの一方端同士を接続する接続部72cとで構成されている。結合部72aは第5の共振電極31aの一方端側と対向するように配置されており、結合部72bは第7の共振電極31cの一方端側と対向するように配置されている。
【0047】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間において、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号と、第1の共振器結合電極71を介して伝達される電気信号とが互いの位相差によって打ち消し合って生じる減衰極を、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dで構成される第1の通過帯域の両側近傍に形成することができる。
【0048】
また、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間において、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35の隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号と、第2の共振器結合電極72を介して伝達される電気信号とが互いの位相差によって打ち消し合って生じる減衰極を、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35で構成される第2の通過帯域の両側近傍に形成することができる。
【0049】
さらに、本例のバンドパスフィルタによれば、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとの間において、第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dの隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号および第1の共振器結合電極71を介して伝達される電気信号が合成された電気信号と、第5乃至第8の共振電極31a,31b,31c,35の隣り合う共振器同士の電磁界結合を介して伝達される電気信号および第2の共振器結合電極72を介して伝達される電気信号が合成された電気信号とが互いの位相差によって打ち消し合う。この現象が、第1の通過帯域の高周波側近傍に生じる減衰極と、第2の通過帯域の低周波側近傍に生じる減衰極との間に位置する周波数領域で発生するので、この周波数領域に減衰極を形成することができる。
【0050】
このようにして、本例のバンドパスフィルタによれば、2つの通過帯域の間に位置する周波数領域に3つの減衰極が生じるので、2つの通過帯域の間の周波数領域における減衰量が充分に確保された優れた通過特性を備えるバンドパスフィルタを得ることができる。
【0051】
(実施の形態の第4の例)
図7は本発明の実施の形態の第4の例の無線通信モジュール80および無線通信機器85を模式的に示すブロック図である。
【0052】
本例の無線通信モジュール80は、例えば、ベースバンド信号が処理されるベースバンド部81と、ベースバンド部81に接続されベースバンド信号の変調後および復調前のRF信号が処理されるRF部82とを備えている。RF部82には前述した本発明のバンドパスフィルタ821が含まれており、ベースバンド信号が変調されてなるRF信号または受信したRF信号における通信帯域以外の信号をバンドパスフィルタ821によって減衰させている。
【0053】
具体的な構成としては、ベースバンド部81にはベースバンドIC 811が配置され、RF部82にはバンドパスフィルタ821とベースバンド部81との間にRF IC 822が配置されている。なお、これらの回路間には別の回路が介在していてもよい。そして、無線通信モジュール80のバンドパスフィルタ821にアンテナ84を接続することによってRF信号の送受信がなされる本例の無線通信機器85が構成される。
【0054】
このような構成を有する本例の無線通信モジュール80および無線通信機器85によれば、2つの広い通過帯域の全域に渡って低損失であるとともに、2つの通過帯域の間に減衰極が形成されて減衰量が充分に確保された本発明のバンドパスフィルタ821を用いて、2つの通信帯域の信号の濾波を行なうことができる。これにより、通信信号の減衰を少なくするとともに、ノイズを少なくすることができるため、受信感度が向上するとともに、通信信号の増幅度を小さくすることができるので、増幅回路における消費電力が少なくなる。さらに、2つの通信帯域の濾波を1つのフィルタによって行うことができるので、回路構成を簡略化できるとともに部品点数を削減することができる。よって、小型で受信感度が高く消費電力が少ない高性能な無線通信モジュール80および無線通信機器85を得ることができる。
【0055】
(変形例)
本発明は前述した実施の形態の第1〜第4の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0056】
例えば、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bを備えた例を示した。しかしながら、モジュール基板の中の一領域にバンドパスフィルタが形成される場合等では、第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bは必ずしも必要ではなく、例えば、モジュール基板内の外部回路からの配線導体が、第1の入出力結合電極40aおよび第2の入出力結合電極40bに直接接続するようにしても構わない。この場合には、第1の入出力結合電極40aおよび第2の入出力結合電極40bと配線導体との接続点が、第1の入出力点45aおよび第2の入出力点45bとなる。
【0057】
また、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、積層体10の下面に第1の接地電極21を配置し、積層体10の上面に第2の接地電極22を配置した例を示したが、例えば、第1の接地電極21の下にさらに誘電体層を配置しても構わないし、第2の接地電極22の上にさらに誘電体層を配置しても構わない。また、第1の接地電極21および第2の接地電極22の一方のみを備えるようにしても構わない。
【0058】
またさらに、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、バンドパスフィルタが1つの積層体10の中に構成された例を示したが、厚み方向に積層された複数の積層体にまたがってバンドパスフィルタが構成されるようにしてもかまわない。
【0059】
さらにまた、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとが積層体10の同じ層間に配置され、第8の共振電極35の第1部分35aと第2部分35bとが積層体10の同じ層間に配置された例を示した。しかしながら、第1の入出力結合電極40aと第2の入出力結合電極40bとは、積層体10の第1の層間と第2の層間との間であれば、異なる層間に配置されるようにしても構わない。同様に、第8の共振電極35の第1部分35aと第2部分35bとが、積層体10の異なる層間に配置されるようにしても構わない。
【0060】
またさらに、UWBに用いられるバンドパスフィルタを例示してこれまで説明を行なってきたが、他の用途においても本発明のバンドパスフィルタが有効であることは言うまでもない。
【実施例】
【0061】
次に、本発明のバンドパスフィルタの具体例について説明する。
【0062】
図5に示した本発明の実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタと、図6に示した本発明の実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタと、図8に示した第1の比較例のバンドパスフィルタと、図9に示した第2の比較例のバンドパスフィルタとの電気特性を有限要素法を用いたシミュレーションによって算出した。第1の比較例のバンドパスフィルタは、図8に示すように、図5に示した構造における第8の共振電極35を、積層体10の第2の層間の第6の共振電極31bおよび第7の共振電極31cの間に配置された1/4波長共振器31dに置き換えた構造とした。第2の比較例のバンドパスフィルタは、図9に示すように、図6に示した構造における第8の共振電極35を、積層体10の第2の層間の第6の共振電極31bおよび第7の共振電極31cの間に配置された1/4波長共振器31dに置き換えるとともに、第2の共振器結合電極72の両端を貫通導体50を介して第2の環状接地電極24に接続した構造とした。
【0063】
図6に示した実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタのシミュレーションにおいて、複数の第1乃至第4の共振電極30a,30b,30c,30dは幅が0.15mmで長さが3.5mmの矩形状とし、第1の共振電極30aと第2の共振電極30bとの間隔および第3の共振電極30cと第4の共振電極30dとの間隔はそれぞれ0.19mmとし、第2の共振電極30bと第3の共振電極30cとの間隔は0.185mmとした。複数の第5乃至第7の共振電極31a,31b,31cは幅が0.18mmで長さが2.54mmの矩形状とし、第5の共振電極31aと第6の共振電極31bとの間隔は0.145mmとした。第8の共振電極35については、第1部分35aは幅0.21mmで長さ2.99mmとし、第2部分35bは幅0.15mmで長さ3.19mmとし、接続部35cは幅0.257mmで長さ0.25mmとした。共振補助電極32a,32dは、それぞれ幅が0.42mmで長さが0.53mmの矩形と幅が0.2mmで長さが0.5mmの矩形とを接合した形状とした。共振補助電極32b,32cは、それぞれ幅が0.4mmで長さが0.52mmの矩形と幅が0.2mmで長さが0.5mmの矩形とを接合した形状とした。第1の下側電極41aおよび第2の下側電極41bは、幅が0.15mmで長さが3.5mmの矩形状とし、第1の上側電極42aおよび第2の上側電極42bは、幅が0.15mmで長さが3.1mmの矩形状とした。第1の接続導体43aおよび第1の接続補助導体44aは、第1の下側電極41aおよび第1の上側電極42aの対向領域において両端からそれぞれ0.1mmの位置に配置した。第1の接続導体43aおよび第1の接続補助導体44aは、第2の下側電極41bおよび第2の上側電極42bの対向領域において両端からそれぞれ0.1mmの位置に配置した。第1の結合補助電極46aおよび第2の結合補助電極46bは幅が0.15mmで長さが1.2mmの矩形状とした。第1の共振器結合電極71については、結合部71a,71bはそれぞれ幅が0.1mmで長さが1.975mmの矩形状とし、接続部71cは幅が0.1mmで長さが0.865mmの矩形状とした。第2の共振器結合電極72については、結合部72a,72bはそれぞれ幅が0.1mmで長さが0.6mmの矩形状とし、接続部72cは幅が0.1mmで長さが0.762mmの矩形状とした。第1の入出力端子電極60aおよび第2の入出力端子電極60bはそれぞれ一辺が0.3mmの正方形とし、第2の接地電極22との間隔は0.2mmとした。第1の接地電極21,第2の接地電極22,第1の環状接地電極23および第2の環状接地電極24の外形は幅が3mmで長さが5mmの矩形状とし、第1の環状接地電極23の開口部は幅が2.4mmで長さが3.65mmの矩形状とし、第2の環状接地電極24の開口部は幅が2.4mmで長さが2.69mmの矩形状とした。バンドパスフィルタ全体の形状は、幅が3mmで長さが5mmで厚みが0.975mmとし、厚み方向の中央部に層間Aおよび層間Bが位置するようにした。第1〜3の層間および層間A〜Eにおいて、隣り合う層間の間隔(隣り合う層間に配置された各種電極同士の間隔)はそれぞれ0.065mmとした。各種電極の厚みは0.01mmとした。第1の接続導体43a,第1の接続補助導体44a,第2の接続導体43b,第2の接続補助導体44bおよび貫通導体50の直径は0.1mmとした。誘電体層11の比誘電率は9.45とした。
【0064】
図5に示した実施の形態の第2の例のバンドパスフィルタのシミュレーションにおいては、上述した形状寸法を備える図6に示した実施の形態の第3の例のバンドパスフィルタから、そのまま第1の共振器結合電極71および第2の共振器結合電極72ならびにこれらに接続する貫通導体50を取り除いた構造とした。
【0065】
第2の例のバンドパスフィルタ,第3の例のバンドパスフィルタ,第1の比較例のバンドパスフィルタおよび第2の比較例のバンドパスフィルタの電気特性のシミュレーション結果を、それぞれ図10,図11,図12および図13に示す。それぞれのグラフは、バンドパスフィルタの通過特性(S21)および反射特性(S11)を示しており、横軸は周波数で縦軸は減衰量を示している。
【0066】
図10に示す第2の例のバンドパスフィルタの通過特性においては、第1の通過帯域と第2の通過帯域との間に減衰極が形成されているが、図12に示す第1の比較例のバンドパスフィルタの通過特性には、その減衰極がないことがわかる。また、図11に示す第3の例のバンドパスフィルタの通過特性においては、第1の通過帯域の高周波側近傍の減衰極と第2の通過帯域の低周波側近傍の減衰極との間に、もう1つの減衰極が形成されているが、図13に示す第2の比較例のバンドパスフィルタの通過特性においては、その減衰極がないことがわかる。そして、実施の形態の第2の例および第3の例のバンドパスフィルタの通過特性では、第1および第2の比較例のバンドパスフィルタの通過特性よりも、第1の通過帯域及び第2の通過帯域の間の周波数領域における減衰量がそれぞれ増加していることがわかる。これにより、本発明の有効性が確認できた。
【符号の説明】
【0067】
10:積層体
11:誘電体層
30a:第1の共振電極
30b:第2の共振電極
30c:第3の共振電極
30d:第4の共振電極
31a:第5の共振電極
31b:第6の共振電極
31c:第7の共振電極
35:第8の共振電極
35a:第1部分
35b:第2部分
35c:接続部
40a:第1の入出力結合電極
40b:第2の入出力結合電極
45a:第1の入出力点
45b:第2の入出力点
80:無線通信モジュール
81:ベースバンド部
82:RF部
821:バンドパスフィルタ
84:アンテナ
85:無線通信機器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、
該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、
前記積層体の第1の層間に一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置された、それぞれ前記一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第1乃至第4の共振電極と、
前記積層体の前記第1の層間とは異なる第2の層間に横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第5乃至第7の共振電極と、
前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第6の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分および前記第7の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分ならびに前記第1および第2部分の一方端同士を接続する接続部からなり、1/2波長共振器として機能する第8の共振電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1および第5の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第1の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第4および第7の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第2の入出力結合電極とを備え、
前記第1の共振電極の前記一方端と前記第5の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第4の共振電極の前記一方端と前記第7の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第5の共振電極の前記一方端と前記第6の共振電極の他方端とが同じ側に位置しており、前記第6の共振電極の前記一方端と前記第1部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第7の共振電極の前記一方端と前記第2部分の他方端とが同じ側に位置しており、
前記第1の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第1の入出力点を備えており、該第1の入出力点は、前記第1の入出力結合電極の長さ方向において、前記第1および第5の共振電極との対向部の中央よりも前記第1および第5の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、
前記第2の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第2の入出力点を備えており、該第2の入出力点は、前記第2の入出力結合電極の長さ方向において、前記第4および第7の共振電極との対向部の中央よりも前記第4および第7の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、
通過特性において、前記第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域と、前記第5乃至第8の共振電極によって形成される第2の通過帯域とを有することを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のバンドパスフィルタを備えることを特徴とする無線通信モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とする無線通信機器。
【請求項1】
複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、
該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、
前記積層体の第1の層間に一方端と他方端とが互い違いになるように横並びに順次配置された、それぞれ前記一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第1乃至第4の共振電極と、
前記積層体の前記第1の層間とは異なる第2の層間に横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて1/4波長共振器として機能する帯状の第5乃至第7の共振電極と、
前記第2の層間を間に挟んで前記第1の層間と反対側に位置する層間に配置された、前記第6の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第1部分および前記第7の共振電極に平行に近接配置されて電磁界結合する帯状の第2部分ならびに前記第1および第2部分の一方端同士を接続する接続部からなり、1/2波長共振器として機能する第8の共振電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第1および第5の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第1の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第1の層間と前記第2の層間との間に位置する層間に配置された、前記第4および第7の共振電極の長さ方向の半分以上に渡る領域と対向して電磁界結合する第2の入出力結合電極とを備え、
前記第1の共振電極の前記一方端と前記第5の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第4の共振電極の前記一方端と前記第7の共振電極の前記一方端とが同じ側に位置しており、前記第5の共振電極の前記一方端と前記第6の共振電極の他方端とが同じ側に位置しており、前記第6の共振電極の前記一方端と前記第1部分の他方端とが同じ側に位置しており、前記第7の共振電極の前記一方端と前記第2部分の他方端とが同じ側に位置しており、
前記第1の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第1の入出力点を備えており、該第1の入出力点は、前記第1の入出力結合電極の長さ方向において、前記第1および第5の共振電極との対向部の中央よりも前記第1および第5の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、
前記第2の入出力結合電極は電気信号が入力または出力される第2の入出力点を備えており、該第2の入出力点は、前記第2の入出力結合電極の長さ方向において、前記第4および第7の共振電極との対向部の中央よりも前記第4および第7の共振電極の前記一方端から遠い側に位置しており、
通過特性において、前記第1乃至第4の共振電極によって形成される第1の通過帯域と、前記第5乃至第8の共振電極によって形成される第2の通過帯域とを有することを特徴とするバンドパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のバンドパスフィルタを備えることを特徴とする無線通信モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のバンドパスフィルタを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とする無線通信機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−199950(P2010−199950A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41987(P2009−41987)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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