説明

パケット交換ネットワークのトラフィック解析方法および装置

【課題】 特定の観測ホストからパケット交換ネットワーク内の各リンクのトラフィックを間接的に推定する。
【解決手段】 往復経路検出部111は探索用パケットを発信することにより各リンクの往復経路を検出し、往復時間計測部112は往復経路検出部111による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る。データベース113は往復経路と往復時間とを併せたデータセットを蓄積し各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力する。ニューラルネット116は、入力ベクトル・教師信号作成部114により連立一次方程式から作成された入力ベクトルを入力し教師信号に応じて学習し、単位ベクトル作成部115により連立一次方程式から作成された単位ベクトルに基づいて各リンクの所用時間を出力する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法および装置に関し、特にパケット交換ネットワーク全体を対象にした包括的なトラフィック解析を行えないインターネットのような変化の激しい大規模開放型のパケット交換ネットワークにおいて各リンクのトラフィックを推測するトラフィック解析方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】インターネットのような変化の激しい大規模開放型のパケット交換ネットワークで、各リンクのトラフィックを解析しそれを経路制御に応用することは、従来から難問の1つであった。従来は、幹線リンクに接続した拠点となる各ホストにおいて直接トラフィックを計測し、それを遠隔的に収集するという直接的な手法が採られてきた(例えば、William Stallings著,大鐘久生訳,「SNMPバイブル」,アジソン・ウェスレイ・パブリッシャーズ・ジャパン発行、谷村透著,「UNIX−LAN構築の実践技術」,ソフト・リサーチ・センター発行等参照)。
【0003】例えば、図5に示すようなパケット交換ネットワークで、各リンクのトラフィックを検出する場合について説明する。図5は、1個の観測ホスト1、4個のルータ5〜8からなるインターネットのような大規模開放型のパケット交換ネットワークを示している。各ホスト〜ルータ間およびルータ〜ルータ間の実線は、それぞれを結合するリンク(通信回線) を表している。
【0004】従来の技術では、各ルータ上において結合するリンクのトラフィックを計測し、それを観測ホスト1上から収集することで、パケット交換ネットワークを構成する各リンクのトラフィックを解析していた。図5では、それぞれのルータ5〜8で計測されたトラフィックデータ51〜81が観測ホスト1へ送信される様子を実線矢印で表している。従来の技術では、パケット交換ネットワーク内のトラフィック解析を行うために、各ルータで計測したトラフィックデータを1個所ずつ回収していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の技術では、インターネットのような変化の激しい大規模開放型のパケット交換ネットワークにおいて、次のような問題点がある。
【0006】各リンクのトラフィックを、それに結合するルータ上で個々に計測し、それらを収集した後にパケット交換ネットワーク全体としてのトラフィックを解析するという方法では、パケット交換ネットワーク内のトラフィックを包括的に解析することはできない。
【0007】その第1の理由は、トラフィックを計測するルータは、多くの場合にそれぞれ異なる組織に属しており、計測したトラフィックデータを一般に公開することが少ないからである。例えば、トラフィックデータの交換に関して何らかの提携を結んだ組織間では、計測したトラフィックデータを収集することは可能であるが、特に、インターネットなどの非常に多くの組織から構成されたパケット交換ネットワークでは、パケット交換ネットワーク内のトラフィックを解析できるほどトラフィックデータを収集できることはほとんどないからである。
【0008】また、第2の理由は、個々のトラフィックの計測はパケット交換ネットワーク内の各ルータで独立して行えるものの、パケット交換ネットワークの規模が大きくなるにつれて、これら計測したトラフィックデータの収集に関して、非常に手間がかかるようになることである。これには、収集するデータ自体の量が多くなるという問題以外に、収集先となるルータの場所を数多く把握しなければならないという問題がある。特に、インターネットなどの大規模開放型のパケット交換ネットワークは数十万台を越えるルータから構成されており、変化の激しいこれらルータの場所を全て把握しておくことは不可能だからである。
【0009】以上より、これまでの方法では、パケット交換ネットワーク内のトラフィック解析を包括的に行うことはほぼ不可能であり、トラフィック解析を経路制御に利用する場合も、パケット交換ネットワーク内のボトルネックを検出してそれを避けるといった試みは一般的に行われず、少数のデータに基づいた経路制御やトラフィックの状態を全く無視した静的な経路制御しか行われてこなかった。
【0010】パケット交換ネットワークのトラフィック解析では、パケット交換ネットワークを構成する全リンクを明確化し、各リンクのトラフィックを直接計測して収集した後に、それらを併せて行うというのが理想的であるが、特に最近では、インターネットのような大規模開放型ネットワークの拡大に伴い、前述のような政治的な理由や技術的な理由のために、パケット交換ネットワークを構成するリンクを明確化したり、解析に十分な量のトラフィックデータを収集することは事実上不可能である。
【0011】このような場合、例えばパケット交換ネットワーク内のあるリンクが混雑により輻輳を起こしたとしても、パケット交換ネットワーク全体を対象にしたトラフィック解析を行えないことから、通信の混雑を前もって検出して障害を避けたり、また経路に障害が発生しても効率的な代替経路を速やかに決定したりすることができない。
【0012】本発明の目的は、パケット交換ネットワーク内にある各リンクのトラフィックを直接測定することなく、特定の観測ホストからパケット交換ネットワーク内の各構成機器に何ら特殊な準備を必要とせずに遠隔的に収集できるデータより、間接的に各リンクのトラフィックを推定することができるトラフィック解析方法を提供することにある。
【0013】また、本発明の他の目的は、上記トラフィック解析方法を実装するパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置を提供することにある。
【0014】さらに、本発明の別の目的は、上記トラフィック解析方法および装置をコンピュータ上で実現するプログラムを記録した記録媒体を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明のパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法は、通信を行うホスト間の往復経路を検出できる機能を備えるとともに、その往復時間を測定できる機能を備えたパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法において、特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信する工程と、前記探索用パケットにより検出された往復経路とその往復時間とを併せたデータセットを収集する工程と、収集されたデータセットに対して知識処理を用いた非線形解析を行うことによりパケット交換ネットワークの包括的なトラフィック解析を行う工程とを含む。
【0016】また、本発明のパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法は、特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信して往復経路を検出する工程と、検出された往復経路の往復時間を計測する工程と、前記往復経路と前記往復時間とを併せたデータセットが必要数得られたかどうかを判定する工程と、得られたデータセットから前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を作成し入力ベクトルおよび教師信号を作成する工程と、作成された入力ベクトルおよび教師信号を用いてニューラルネットを学習させる工程と、学習されたニューラルネットに単位ベクトルを入力して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する工程とを含む。
【0017】さらに、本発明のパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置は、探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部と、この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部と、前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベースと、このデータベースから出力された連立一次方程式から目標データを作成する目標データ作成部と、前記データベースから出力された連立一次方程式から入力データを作成する入力データ作成部と、前記入力データ作成部により作成された入力データを入力し前記目標データ作成部により作成された目標データを参照して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する知識処理部とを有する。
【0018】さらにまた、本発明のパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置は、探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部と、この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部と、前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベースと、このデータベースから出力された連立一次方程式から入力ベクトルおよび教師信号を作成する入力ベクトル・教師信号作成部と、前記データベースから出力された連立一次方程式から単位ベクトルを作成する単位ベクトル作成部と、前記入力ベクトル・教師信号作成部により作成された入力ベクトルを入力し前記教師信号に応じて学習し前記単位ベクトル作成部により作成された単位ベクトルに基づいて前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力するニューラルネットとを有する。
【0019】一方、本発明の記録媒体は、コンピュータを、特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信する手順,前記探索用パケットにより検出された往復経路とその往復時間とを併せたデータセットを収集する手順,および収集されたデータセットに対して知識処理を用いた非線形解析を行うことによりパケット交換ネットワークの包括的なトラフィック解析を行う手順を実行させるためのプログラムを記録する。
【0020】また、本発明の記録媒体は、コンピュータを、特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信して往復経路を検出する手順,検出された往復経路の往復時間を計測する手順,前記往復経路と前記往復時間とを併せたデータセットが必要数得られたかどうかを判定する手順,得られたデータセットから前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を作成し入力ベクトルおよび教師信号を作成する手順,作成された入力ベクトルおよび教師信号を用いてニューラルネットを学習させる手順,および学習されたニューラルネットに単位ベクトルを入力して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する手順を実行させるためのプログラムを記録する。
【0021】さらに、本発明の記録媒体は、コンピュータを、探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部,この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部,前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベース,このデータベースから出力された連立一次方程式から目標データを作成する目標データ作成部,前記データベースから出力された連立一次方程式から入力データを作成する入力データ作成部,および前記入力データ作成部により作成された入力データを入力し前記目標データ作成部により作成された目標データを参照して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する知識処理部として機能させるためのプログラムを記録する。
【0022】さらにまた、本発明の記録媒体は、コンピュータを、探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部,この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部,前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベース,このデータベースから出力された連立一次方程式から入力ベクトルおよび教師信号を作成する入力ベクトル・教師信号作成部,前記データベースから出力された連立一次方程式から単位ベクトルを作成する単位ベクトル作成部,および前記入力ベクトル・教師信号作成部により作成された入力ベクトルを入力し前記教師信号に応じて学習し前記単位ベクトル作成部により作成された単位ベクトルに基づいて前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力するニューラルネットとして機能させるためのプログラムを記録する。
【0023】本発明のトラフィック解析方法および装置では、パケット交換ネットワーク内の通信対象となるホストへ探索用パケットを発信することで、解析に必要な往復経路と往復時間とを併せたデータセットを収集する。次に、収集したデータセットをもとに往復経路として得られた各リンクにそのリンクを通過する所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を作成し、この連立一次方程式に対して知識処理を用いて非線形解析を行い解を求める。各解は、該当するリンクを通過するのに要した所用時間であるので、解の集合としてパケット交換ネットワーク内の各トラフィックを包括的に解析した結果を取得できる。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0025】図1は、本発明の第1の実施の形態に係るトラフィック解析装置110の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るトラフィック解析装置110は、往復経路検出部111と、往復時間計測部112と、データベース113と、入力ベクトル・教師信号作成部114と、単位ベクトル作成部115と、ニューラルネット116とから構成される。以下、本実施の形態では、知識処理の一例としてニューラルネット116を用いて説明する。
【0026】往復経路検出部111は、探索用パケットをトラフィックデータ収集パケットとして発信することにより往復経路を検出する。
【0027】探索用パケットは、そのヘッダ部分に、宛先ホスト(往復経路検出部111のある観測ホスト1)のアドレス,宛先ホスト上の通信相手名(架空の名前),発信元ホスト(往復経路検出部111のある観測ホスト1)のアドレス,発信元ホスト上の発信者名(往復経路検出部111),および経由点(往復経路を知りたいホスト)のアドレスが設定され、データ部分を持たないパケットである。例えば、IP(Internet Protocol)パケットでは、SRR(SouRce Route)オプションを用いることで任意の点を経由して通信することができる。
【0028】往復時間計測部112は、往復経路検出部111により往復経路が取得された後、往復時間を計るための時間計測用パケットをトラフィックデータ収集パケットとして1つ発信し、そのエラーが帰って来る往復時間を計る。例えば、IPパケットでは、pringコマンドを用いることによって個別の通信相手に対してその往復時間を計測することができる。
【0029】データベース113は、往復経路検出部111で検出された往復経路と、往復時間計測部112で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し、パケット交換ネットワークの各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を作成する。
【0030】入力ベクトル・教師信号作成部114は、データベース113から出力された連立一次方程式から入力ベクトルおよび教師信号を作成する。
【0031】単位ベクトル作成部115は、データベース113から出力された連立一次方程式から単位ベクトルを作成する。
【0032】ニューラルネット116は、入力ベクトル・教師信号作成部114により作成された入力ベクトルを入力し教師信号を参照して学習し、単位ベクトル作成部115により作成された単位ベクトルを入力して各リンクの所用時間を出力する。ニューラルネット116は、入力層が用意した変数の数に等しいノードを持ち、出力層は1つとする。なお、中間層をどのようにとるかは、ニューラルネット116の情報量基準に関するので、一概にはいえない。入力データの個数によっても変わってくるが、一般的な3層で、中間層は入力層の1/3〜1/4程度で十分である。
【0033】図2を参照すると、本発明の第1の実施の形態に係るトラフィック解析方法の手順は、往復経路検出ステップS101と、往復時間計測ステップS102と、データセット必要数判定ステップS103と、入力ベクトルおよび教師信号作成ステップS104と、ニューラルネット学習ステップS105と、各リンク所用時間関係出力ステップS106とからなる。
【0034】図3は、本発明の第1の実施の形態に係るトラフィック解析装置110によりトラフィックが解析されるパケット交換ネットワークの一例を示す。このパケット交換ネットワークは、1個の観測ホスト1と、3個のホスト2〜4と、4個のルータ5〜8とからなるインターネットのような大規模開放型のパケット交換ネットワークである。各ホスト〜ルータ間およびルータ〜ルータ間の実線は、それぞれを結合するリンク(通信回線) 9〜13を表している。なお、本実施の形態に係るトラフィック解析装置110は、観測ホスト1上に搭載される。
【0035】次に、このように構成された第1の実施の形態に係るパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置110の動作について、図1ないし図3を用いて説明する。
【0036】まずは、往復経路検出部111は、探索用パケットを発信することにより、観測ホスト1よりパケット交換ネットワーク内の各ホスト2〜4へ至る往復経路を検出する(ステップS101)。
【0037】詳しくは、往復経路検出部111は、まず探索用パケットの寿命に1を設定してから探索用パケットを発信する。この探索用パケットは、ルータを1個分リレーされた時点で寿命切れエラーが発生し、当該ルータが観測ホスト1へエラー通知を返す。例えば、IPパケットの場合には、ICPM(Internet Control Message Protcol)エラーが返される。
【0038】往復経路検出部111は、エラー通知を受け取った後、今度は探索用パケットの寿命に2を設定してから探索用パケットを発信する。この探索用パケットは、ルータを2個分リレーされた時点で寿命切れエラーが発生し、当該ルータが観測ホスト1へエラー通知を返す。
【0039】この手順を繰り返すことで、寿命を1ずつ増やされた探索用パケットをリレーしたルータは、次々とエラー通知を返してくる。
【0040】探索用パケットが、経路を知りたいホストと、往復経路検出部111のある観測ホスト1との間をブーメランのように往復して、宛先ホストでもある観測ホスト1に戻ってくると、通信相手名は架空の名前なので、観測ホスト1は探索用パケットの差出人、つまり観測ホスト1自身にある往復経路検出部111に、通信相手がいないというエラーを返す。
【0041】往復経路検出部111は、この通信相手がいないというエラーを受け取ると、寿命を1ずつ増やしながら探索用パケットを送信する処理を止める。
【0042】次に、往復経路検出部111は、これまでに返された探索用パケットのエラー通知から、エラー通知を出したルータやホストのアドレスを集めることで、最終的に探索用パケットがリレーされた経路、すなわち観測ホスト1から経由点を通って観測ホスト1に至る経路(つまり、観測ホスト1と経由点との往復経路)を知ることができる。
【0043】往復経路の取得は、既述したように手間がかかり、探索用パケットを1つ発信してすぐ求められるものではない。例えば、ホストAからホストBへパケットを送る際、片道10個のルータをリレーされるような場合は、往復分の寿命を1〜20まで設定した20個分の探索用パケットを発信し、リレーを行う各ルータが返すエラー通知を20個収集する必要がある。
【0044】例えば、観測ホスト1〜ホスト2の往復経路が、リンク9→リンク13→リンク12になり、観測ホスト1〜ホスト3の往復経路が、リンク12→リンク13→リンク10→リンク11→リンク13→リンク9になり、観測ホスト1〜ホスト4の往復経路が、リンク12→リンク11→リンク10→リンク9になったとする。
【0045】同時に、往復時間計測部112は、観測ホスト1とホスト2〜4との往復時間を計測する(ステップS102)。詳しくは、往復時間計測部112は、時間計測用パケットをトラフィックデータ収集パケットとして1つ発信し、そのエラーが帰って来る往復時間を計る。
【0046】例えば、観測ホスト1〜ホスト2の往復時間が10秒、観測ホスト1〜ホスト3の往復時間が50秒、観測ホスト1〜ホスト4の往復時間が40秒になったとする。
【0047】予め定められた必要数の往復経路および往復時間からなるデータセットが得られると(ステップ103でイエス)、データベース113は、各リンクに対し、そのリンクを通過するのに要した時間(所用時間)を表す変数を1つ割り当て、連立一次方程式を作成する。図3では、各リンク9〜13に、変数a〜eがそれぞれ割り当てられている。
【0048】以上より、例えば観測ホスト1〜ホスト2の往復時間に関して、方程式:a+d+e=10を立てることができる。同様に、観測ホスト1〜ホスト3の往復時間に関しては、方程式:a+b+c+d+2e=50、観測ホスト1〜ホスト4の往復時間に関しては、方程式:a+b+c+d=40なる方程式を立てることができる。これら3つの方程式は、連立一次方程式を構成する。
【0049】次に、この連立一次方程式およびa,b,c,d,e>=0を制約式として、各変数a〜eの値の範囲をLP(線形計画) 問題として解くわけであるが、LP問題として解いた場合は最大値をとれる変数が1つ求まるだけである。計測したデータセットは、変化の激しいパケット交換ネットワーク内の往復時間を、時間をずらしながらある瞬間ごとに計っていったものであり、計測時刻の違いにより当然ある程度の矛盾を含んでいる。したがって、実用上は、最大値をとる変数をただ1つ求めるのではなく、最大値の近傍にある変数群 (最大値をとる確率が高い変数群) を求める方が、有益な情報を含んでいる。このため、ニューラルネット116を利用した非線形解析 (線形モデルの近似) を行うことで、各解の近似値を求めることにする。
【0050】入力ベクトル・教師信号作成部114は、各変数a〜eに1から始まる連続した自然数を割り当て、データベース113から連立一次方程式を入力して、入力ベクトルおよび教師信号を出力する(ステップS104)。この例では、aに1、bに2、以下eに5を割り当てる。変数の係数がnであった場合、成分には1ではなく1/nを設定する。教師信号には、計測した往復時間を最大往復時間で正規化して利用する。
【0051】例えば、観測ホスト1〜ホスト2の往復時間に関する方程式は、入力ベクトル:(1, 0, 0, 1, 1) 、教師信号:0.2(最大往復時間50で正規化。以下同様)となり、観測ホスト1〜ホスト3の往復時間に関する方程式は、入力ベクトル:(1, 1, 1, 1, 0. 5) 、教師信号:1.0となり、観測ホスト1〜ホスト4の往復時間に関する方程式は、入力ベクトル:(1, 1, 1, 1, 0)、教師信号:0.8となる。
【0052】以上の入力ベクトルおよび教師信号をもとに、ニューラルネット116は、学習を行う(ステップS105)。
【0053】また、単位ベクトル作成部115は、変数a〜eの数に等しい次元の入力ベクトルを考え、方程式に含まれる変数と同じ番号を持つ成分を1に、それ以外を0にした単位ベクトルを作成する。
【0054】学習を終えたニューラルネット116は、単位ベクトル作成部115により作成された単位ベクトルを順次入力し、各リンクの所用時間の関係を出力する(ステップS106)。出力データは各変数a〜eの近似解となっており、出力データの大小は各変数a〜eの近似解の大小と等しい。したがって、出力データの大きさを比較することで、所用時間の大きいリンク、すなわちパケット交換ネットワーク内のボトルネックを検出することが可能になる。
【0055】なお、上記実施の形態では、知識処理による非線形解析を行う部分をニューラルネット116としたが、ファジィ,遺伝的アルゴリズム,カオス等の他の知識処理を使用することもできる。このようにした場合、一般的には、入力ベクトル・教師信号作成部114を目標データ作成部、単位ベクトル作成部115を入力データ作成部、ニューラルネット116を知識処理部とすればよい。
【0056】また、往復時間計測部112を、往復経路検出部111による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計るための時間計測用パケットを1つ発信して、そのエラーが帰って来る時間を計るものとしたが、時間計測用パケットを用いることなしに、往復経路検出部111による探索用パケットの発信から計時を開始して、そのエラーが帰って来る時間を計るようにしてもよい。
【0057】次に、本発明の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0058】図4を参照すると、本発明の第2の実施の形態に係るパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置は、キーボード,マウス等の入力装置41と、コンピュータでなるデータ処理装置42と、磁気ディスク装置等でなる記憶装置43と、画像表示装置,印刷装置等でなる出力装置44と、トラフィック解析プログラムを記録する記録媒体45とから構成されている。記録媒体45は、磁気ディスク,半導体メモリ,その他の記録媒体であってよい。
【0059】このように構成された第2の実施の形態に係るパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置では、トラフィック解析プログラムは記録媒体45からデータ処理装置42に読み込まれ、データ処理装置42の動作を往復経路検出部111,往復時間計測部112,入力ベクトル・教師信号作成部114,単位ベクトル作成部115,およびニューラルネット116として制御するとともに、記憶装置43上にデータベース113を形成する。トラフィック解析プログラムの制御によるデータ処理装置42の動作は、図1ないし図3に示した第1の実施の形態に係るパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置の場合と全く同様になるので、その詳しい説明を割愛する。
【0060】
【発明の効果】本発明の効果は、体系的なトラフィックデータの収集が難しい多くの組織から構成されるインターネットなどの大規模開放型のパケット交換ネットワーク内のボトルネックを検出でき、経路制御に応用することができることである。
【0061】その第1の理由は、知識処理(ニューラルネット等) を用いた非線形解析を行うことで、パケット交換ネットワーク内の全ルータからトラフィックデータを収集せずとも、解析を行う範囲に限って収集すれば済むようになったからである。
【0062】また、第2の理由は、解析に必要なトラフィックデータとして、解析対象ホストへ至る往復経路とその往復時間という、1個所の観測ホストから効率的に収集できるデータを用いたからである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】本実施の形態に係るトラフィック解析装置によりトラフィックが解析されるパケット交換ネットワークの一例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置の構成を示すブロック図である。
【図5】従来のトラフィック解析技術を説明する図である。
【符号の説明】
1 観測ホスト
2〜4 ホスト
5〜8 ルータ
9〜13 リンク
41 入力装置
42 データ処理装置
43 記憶装置
44 出力装置
45 記録媒体
110 トラフィック解析装置
111 往復経路検出部
112 往復時間計測部
113 データベース
114 入力ベクトル・教師信号作成部(目標データ作成部)
115 単位ベクトル作成部(入力データ作成部)
116 ニューラルネット(知識処理部)
S101 往復経路検出ステップ
S102 往復時間計測ステップ
S103 データセット必要数判定ステップ
S104 入力ベクトルおよび教師信号作成ステップ
S105 ニューラルネット学習ステップ
S106 各リンク所用時間関係出力ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 通信を行うホスト間の往復経路を検出できる機能を備えるとともに、その往復時間を測定できる機能を備えたパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法において、特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信する工程と、前記探索用パケットにより検出された往復経路とその往復時間とを併せたデータセットを収集する工程と、収集されたデータセットに対して知識処理を用いた非線形解析を行うことによりパケット交換ネットワークの包括的なトラフィック解析を行う工程とを含むことを特徴とするパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法。
【請求項2】 特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信して往復経路を検出する工程と、検出された往復経路の往復時間を計測する工程と、前記往復経路と前記往復時間とを併せたデータセットが必要数得られたかどうかを判定する工程と、得られたデータセットから前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を作成し入力ベクトルおよび教師信号を作成する工程と、作成された入力ベクトルおよび教師信号を用いてニューラルネットを学習させる工程と、学習されたニューラルネットに単位ベクトルを入力して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する工程とを含むことを特徴とするパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法。
【請求項3】 前記往復時間の計測が、前記往復経路の検出後に該往復経路の往復時間を計るための時間計測用パケットを1つ発信して、そのエラーが帰って来る時間を計ることにより行われる請求項1または2記載のパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法。
【請求項4】 前記往復時間の計測が、前記探索用パケットの発信から計時を開始して、そのエラーが帰って来る時間を計ることにより行われる請求項1または2記載のパケット交換ネットワークのトラフィック解析方法。
【請求項5】 探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部と、この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部と、前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベースと、このデータベースから出力された連立一次方程式から目標データを作成する目標データ作成部と、前記データベースから出力された連立一次方程式から入力データを作成する入力データ作成部と、前記入力データ作成部により作成された入力データを入力し前記目標データ作成部により作成された目標データを参照して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する知識処理部とを有することを特徴とするパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置。
【請求項6】 探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部と、この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部と、前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベースと、このデータベースから出力された連立一次方程式から入力ベクトルおよび教師信号を作成する入力ベクトル・教師信号作成部と、前記データベースから出力された連立一次方程式から単位ベクトルを作成する単位ベクトル作成部と、前記入力ベクトル・教師信号作成部により作成された入力ベクトルを入力し前記教師信号に応じて学習し前記単位ベクトル作成部により作成された単位ベクトルに基づいて前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力するニューラルネットとを有することを特徴とするパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置。
【請求項7】 前記往復時間計測部が、前記往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計るための時間計測用パケットを1つ発信して、そのエラーが帰って来る時間を計る請求項5または6記載のパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置。
【請求項8】 前記往復時間計測部が、前記往復経路検出部による探索用パケットの発信から計時を開始して、そのエラーが帰って来る時間を計る請求項5または6記載のパケット交換ネットワークのトラフィック解析装置。
【請求項9】 コンピュータを、特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信する手順,前記探索用パケットにより検出された往復経路とその往復時間とを併せたデータセットを収集する手順,および収集されたデータセットに対して知識処理を用いた非線形解析を行うことによりパケット交換ネットワークの包括的なトラフィック解析を行う手順を実行させるためのプログラムを記録した記録媒体。
【請求項10】 コンピュータを、特定の観測ホストよりパケット交換ネットワーク内の様々なホストへ探索用パケットを発信して往復経路を検出する手順,検出された往復経路の往復時間を計測する手順,前記往復経路と前記往復時間とを併せたデータセットが必要数得られたかどうかを判定する手順,得られたデータセットから前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を作成し入力ベクトルおよび教師信号を作成する手順,作成された入力ベクトルおよび教師信号を用いてニューラルネットを学習させる手順,および学習されたニューラルネットに単位ベクトルを入力して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する手順を実行させるためのプログラムを記録した記録媒体。
【請求項11】 コンピュータを、探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部,この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部,前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベース,このデータベースから出力された連立一次方程式から目標データを作成する目標データ作成部,前記データベースから出力された連立一次方程式から入力データを作成する入力データ作成部,および前記入力データ作成部により作成された入力データを入力し前記目標データ作成部により作成された目標データを参照して前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力する知識処理部として機能させるためのプログラムを記録した記録媒体。
【請求項12】 コンピュータを、探索用パケットを発信することにより往復経路を検出する往復経路検出部,この往復経路検出部による往復経路の取得後に該往復経路の往復時間を計る往復時間計測部,前記往復経路検出部で検出された往復経路と前記往復時間計測部で計測された往復時間とを併せたデータセットを蓄積し前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクに所用時間を表す変数を割り当てた連立一次方程式を出力するデータベース,このデータベースから出力された連立一次方程式から入力ベクトルおよび教師信号を作成する入力ベクトル・教師信号作成部,前記データベースから出力された連立一次方程式から単位ベクトルを作成する単位ベクトル作成部,および前記入力ベクトル・教師信号作成部により作成された入力ベクトルを入力し前記教師信号に応じて学習し前記単位ベクトル作成部により作成された単位ベクトルに基づいて前記パケット交換ネットワークを構成する各リンクの所用時間を出力するニューラルネットとして機能させるためのプログラムを記録した記録媒体。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−32038(P2000−32038A)
【公開日】平成12年1月28日(2000.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−197888
【出願日】平成10年7月14日(1998.7.14)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】