説明

パターン縫いミシン

【課題】 布保持枠を移動させるX,Yステッピングモータの励磁コイルへの通電が遮断された場合でも、縫製再開時に、原点位置設定を行なうことなく、刺繍枠を現在位置から縫製再開位置へ直接移動でき、縫製再開の迅速化を図るようにすることである。
【解決手段】 縫製途中で通電遮断指令が入力されると(S11)、X,Y軸駆動モータの励磁コイルへの通電が遮断される(S12)。この通電遮断状態において、現在縫製中のパターン模様を縫い直す場合には(S15:Yes)、縫製再開位置として、現在縫製中のパターン模様の縫製開始位置が縫製再開位置として記憶される(S16)。起動停止スイッチの起動操作により縫製が再開されると(S17:Yes)、X,Y方向カウンタのカウント値である現在位置から縫製再開位置までの移動量が演算され(S19)、この移動量に基づいて布押え板が縫製再開位置まで一気に移動する(S22)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択されたパターン模様の模様データに基づいてX,Yステッピングモータをフィードバック制御により駆動して、加工布を保持した布保持枠をX方向とY方向とに夫々移動させてパターン模様を縫製するようにしたパターン縫いミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子サイクルミシン等のパターン縫いミシンは、縫製に供するパターン模様の模様データに基づいてX,Y駆動モータを駆動して、布保持枠で保持した加工布をX方向とY方向とに独立に移動させながらパターン模様を形成するものである。この種のパターン縫いミシンでは、X,Y駆動モータは夫々ステッピングモータで構成され、オープンループ制御により駆動されるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の刺繍枠の位置制御装置は、刺繍枠をX方向に移動させるX軸サーボモータと、刺繍枠をY方向に移動させるY軸サーボモータと、刺繍枠のX軸方向とY軸方向の移動変位に相応する電気信号(パルス信号)を出力するX,Y軸方向移動変位感知部と、制御部とを有し、制御部は刺繍枠の移動の際に、X,Y軸サーボモータを駆動するとともに、X,Y軸方向移動変位感知部からフィードバックにより入力されるパルス数を計数し、刺繍枠の位置を精度良く位置制御できるようにしてある。
【特許文献1】特開2004−255042号公報(第6〜8頁、図2,図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1に記載の刺繍枠の位置制御装置に採用されているX,Y軸サーボモータは、常には、励磁コイルへ通電されており、刺繍枠が不用意に移動しないようになっている。しかし、最近では、縫製途中であって、糸切れが発生した場合、或いは縫製するパターン模様を間違えた場合に、作業者が停止スイッチや非常停止スイッチを操作すると、これらX,Y軸サーボモータへの通電が遮断されるようになっている。
【0005】
このように通電遮断状態では、X,Y軸サーボモータが自由に回転できる状態なので、刺繍枠が移動していないとは限らない。そこで、起動スイッチが操作されて縫製を開始する場合、X,Y軸サーボモータを駆動させて原点位置設定処理が必ず実行されてから、刺繍枠は縫製を再開する縫製再開位置に移動するようになっているので、この原点位置設定処理に費やす時間だけ、再開する縫製処理が遅くなるという問題がある。最近では、刺繍枠が大型化しているので、刺繍枠が大きい程、この原点位置設定処理に要する時間が長くなるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、布保持枠を移動させるX,Yステッピングモータの励磁コイルへの通電が遮断された場合でも、縫製再開時に原点位置設定を行なうことなく、刺繍枠を現在の停止位置から縫製再開位置へ直接移動でき、縫製再開の迅速化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のパターン縫いミシンは、加工布を保持する布保持枠を模様データに基づいて水平面内で直交するX方向へとY方向へ独立に移動駆動する為のX, Yステッピングモータと、布保持枠の位置を検出する位置検出手段とを備え、X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電の遮断を指令する通電遮断指令手段と、通電遮断指令手段から通電遮断指令を受けて前記X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断する通電遮断制御手段と、通電遮断状態で縫製再開指令を受けたときに、模様データに基づいて縫製再開位置を求め、前記位置検出手段によって検出された布保持枠の位置から縫製再開位置へ布保持枠を移動させるようにX, Yステッピングモータを駆動させる駆動制御手段とを備えたものである。
【0008】
縫製作業中に、作業者が一時停止スイッチを操作する等して、通電遮断指令が入力された場合、X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電が遮断される。この通電遮断状態において、作業者が起動停止スイッチを操作する等して、縫製再開指令を受けたとき、模様データに基づいて縫製再開位置が演算される。その結果、布保持枠の原点位置設定を行なうことなく、布保持枠を、位置検出手段で検出された位置から縫製再開位置へ一気に移動させるように、X, Yステッピングモータが駆動される。
【0009】
請求項2のパターン縫いミシンは、請求項1において、前記駆動制御手段により布保持枠が縫製再開位置に移動する際の移動時間を計時し、この移動時間が設定時間以上になったときに警告を出力する警告報知手段を設けたものである。
【0010】
請求項3のパターン縫いミシンは、請求項1又は2において、前記縫製再開位置は、X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様の縫製開始位置に構成されたものである。
【0011】
請求項4のパターン縫いミシンは、請求項1又は2において、前記縫製再開位置は、前記X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様とは異なるパターン模様の縫製開始位置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、X, Yステッピングモータと布保持枠の位置を検出する位置検出手段とを備え、更に、通電遮断指令手段と、通電遮断制御手段と、駆動制御手段とを備えたので、通電遮断指令によりX, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電が縫製途中で遮断された通電遮断状態で縫製再開指令を受けたとき、模様データに基づいて縫製再開位置が演算され、布保持枠の原点位置設定を行なうことなく、位置検出手段により検出された布保持枠の位置から縫製再開位置までの移動量に基づいてX, Yステッピングモータが駆動され、布保持枠が検出位置から次の縫製再開位置へ一気に移動されるので、縫製作業を再開させる縫製再開の迅速化を図ることができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、前記駆動制御手段により布保持枠が縫製再開位置に移動する際の移動時間を計時し、この移動時間が設定時間以上になったときに警告を出力する警告報知手段を設けたので、布保持枠が何らかの理由により縫製再開位置へ移動できない状態を警告により作業者に報知することができる。その他請求項1と同様の効果を奏する。
【0014】
請求項3の発明によれば、前記縫製再開位置は、X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様の縫製開始位置であるので、縫製途中のパターン模様を迅速に縫い直すことができる。その他請求項1又は2と同様の効果を奏する。
【0015】
請求項4の発明によれば、前記縫製再開位置は、前記X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様とは異なるパターン模様の縫製開始位置であるので、縫製中のパターン模様の縫製を中止し、別のパターン模様を縫製する縫製作業の迅速化を図ることができる。その他請求項1又は2同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施例のパターン縫いミシンは、布保持枠の最新の移動位置をX,Y方向カウンタで常に検知するようにし、通電遮断指令の入力によりX,Y軸駆動モータへの通電が遮断された通電遮断状態で布保持枠が不用意に移動した場合でも、布保持枠をこの不用意に移動した位置から縫製を再開する際の縫製開始位置に直接に移動できるようにしてある。
【実施例】
【0017】
図1に示すように、パターン縫いミシン1は、ミシンテーブル3の上面側に配置されたベッド部5、およびアーム部6を備えている。ベッド部5の上面前部には、針板7が固定され、その針板7の上側には、布押え装置8が設けられている。
【0018】
布押え装置8は、縫製対象となる加工布Wを布押え板12と送り板10とで保持しつつ、送り板10をX軸駆動モータ40により駆動されるX方向駆動機構(図示略)を介して左右方向(X方向)と、Y軸駆動モータ42により駆動されるY方向駆動機構(図示略)を介して前後方向(Y方向)とに移動させるものである。この布押え装置8は図2に示すように、針板7上を前後左右に移動可能な送り板10と、送り板10上に設けられた押え腕11と、その押え腕11の前端部に昇降可能に取り付けられた矩形枠状の布押え板12等から構成されている。
【0019】
矩形枠状の布押え板(布保持枠)12は、常にバネにより上方に付勢され、送り板10から離れた位置にあるが、アーム部6に取り付けられた押えソレノイド14により下方に押圧されたときには、送り板10に接触する位置まで下降して、送り板10との間に布Wを狭持し、この挟持状態で送り板10と同期して、X方向とY方向とに移動可能になっている。
【0020】
アーム部6には、上下に往復移動する針棒16と天秤(図示略)が設けられ、針棒16の下端には縫針18が装着されている。ベッド部5には、縫針18と協働して縫目を形成する回転釜(図示略)が設けられている。図1に示すように、ミシンテーブル3の上面右側には、作業者により操作される操作パネル20が立設されている。操作パネル20は、主にパターン縫いミシン1に対する各種指令を入力する際に操作される。
【0021】
図1に示すように、ミシンテーブル3の下側に、制御ボックス22が設けられている。この制御ボックス22には、後述する制御装置30が内蔵されている。ミシンテーブル3の下側には、縫製動作の開始/終了と、布押え板12の上昇動作と下降動作の切換え操作を行うためにペダル型の起動停止スイッチ24が配置されている。
【0022】
次に、このパターン縫いミシン1の制御系について説明する。
図3に示すように、制御装置30は、CPU31とROM32とRAM33等を含むコンピュータから構成されている。この制御装置30には、起動停止スイッチ24と、X,Y軸駆動モータ40,42の励磁コイルへの通電を一時的に遮断して一時停止する一時停止スイッチ34(通電遮断指令手段)と、押え腕11を押え位置と押え解除位置とに切換える為の押えスイッチ35と、ミシン主軸の回転角度を検出する主軸回転角度検出センサ36と、操作パネル20と、ミシンモータ37用の駆動回路38と、押え腕11を押え位置に切換え可能な押えソレノイド14用の駆動回路39と、X軸駆動モータ40用の駆動回路41と、Y軸駆動モータ42用の駆動回路43と、X方向カウンタ46と、Y方向カウンタ47とが夫々接続されている。
【0023】
X軸駆動モータ40の出力軸にXエンコーダ44(図3参照)が付設されている。このXエンコーダ(位置検出手段)44は、X軸駆動モータ40の実際の回転角を検出するためのものである。図示しないが、Xエンコーダ44は、出力軸と共に回転可能に固定され、周方向微少間隔に複数本の細線が放射状に描かれたディスクと、発光部と受光部とを有する検出器とを備えている。
【0024】
このXエンコーダ44は、発光部で発光された光をディスクの細線で遮るのを受光部により検出され、その検出されたエンコーダ信号を制御装置30に出力する。それ故、Xエンコーダ44により布押え板12のX方向位置が検出可能になっている。Y軸駆動モータ42の出力軸にも、Xエンコーダ44と同様に構成されたYエンコーダ(位置検出手段)45が付設されている。それ故、Yエンコーダ45により布押え板12のY方向位置が検出可能になっている。
【0025】
X方向カウンタ46は、布押え板12がX方向の原点位置O(図5参照)に移動したときにリセットされてカウント値を零に設定し、布押え板12がX軸の+X方向に微小単位距離移動してXエンコーダ44から1つのパルス状のエンコーダ信号を受ける毎にカウント値を1つずつインクリメントし、布押え板12がX軸の−X方向に微小単位距離移動してXエンコーダ44から1つのパルス状のエンコーダ信号を受ける毎にカウント値を1つずつデクリメントする。
【0026】
Y方向カウンタ47は、布押え板12がY方向の原点位置O(図5参照)に移動したときにリセットされてカウント値を零に設定し、布押え板12がY軸の+Y方向に微小単位距離移動してYエンコーダ47から1つのパルス状のエンコーダ信号を受ける毎にカウント値を1つずつインクリメントし、布押え板12がY軸の−Y方向に微小単位距離移動してYエンコーダ47から1つのパルス状のエンコーダ信号を受ける毎にカウント値を1つずつデクリメントする。これらX方向カウンタ46とY方向カウンタ47の値を読み取ることで、布押え板12の現在位置が検出できる。
【0027】
操作パネル20には、小型の液晶ディスプレイ20aと、数値を入力するテンキー20bと、縫製パラメータを設定するための各種のスイッチからなるスイッチ類20c等が設けられている。
【0028】
ROM32には、パターン縫いミシン1を制御する各種の制御プログラム、後述する本願特有の通電遮断及び枠移動制御プログラムに加え、縫製対象の複数のパターン模様を縫製する為の複数の模様データ等が予め格納されている。RAM33には、縫製を再開する縫製再開位置を記憶する縫製再開位置メモリ33a、CPU31で演算した演算結果を一時的に格納するメモリ、ワークメモリ等、パターン模様を縫製処理したり、各種の制御を実行するに際して必要なカウンタやメモリやバッファ等が適宜設けられる。
【0029】
次に、制御装置30により実行される通電遮断及び枠移動制御について、図4のフローチャートに基づいて説明する。この通電遮断及び枠移動制御は、X軸駆動モータ40とY軸駆動モータ42とに夫々専用に設けられ、同じ制御内容である。そこで、X軸駆動モータ40専用の通電遮断及び枠移動制御について説明する。但し、図中の符号Si(i=11、12、13・・・)は各ステップである。
【0030】
予め選択されたパターン模様を縫製中に、作業者により、操作パネル20に設けられたスイッチ類20cのスイッチや一時停止スイッチ34等の各種スイッチが操作されるとこの制御が実行される。この制御が開始されたとき、つまり縫製途中において、作業者により一時停止スイッチ34が操作された場合であって、通電遮断指令が入力された場合には(S11:Yes)、この時点でX軸駆動モータ40の励磁コイルへの通電が遮断される(S12)。
【0031】
このとき、操作パネル20の液晶ディスプレイ20aに、縫製を再開する際に縫製するパターン模様の選択画面が表示されるので、作業者がこの選択画面において、現在縫製中のパターン模様とは異なるパターン模様を選択したとき、つまり模様データを変更する場合には(S13:Yes)、選択された別のパターン模様の模様データに基づいて、縫製開始位置が縫製再開位置としてRAM33の縫製再開位置メモリ33aに記憶される(S14)。
【0032】
しかし、作業者がこの選択画面において、現在縫製中のパターン模様を選択したとき、つまり縫い直しの場合には(S13:No、S15:Yes)、現在縫製中のパターン模様の模様データに基づいて、縫製開始位置が縫製再開位置としてRAM33の縫製再開位置メモリ33aに記憶される(S16)。即ち、この通電遮断状態において、作業者がこのように、次に縫製するパターン模様を選択しているときに、作業者が布押え板12を不用意に移動させているかも分からない。
【0033】
そこで、作業者により起動停止スイッチ24が起動操作されて、起動指令が入力された場合には(S17:Yes)、X方向カウンタ46のカウント値である現在位置が読み込まれ(S18)、この現在位置から縫製再開位置メモリ33aに記憶されている縫製再開位置に至る移動量が演算される(S19)。次に、この時点でX軸駆動モータ40の励磁コイルへ通電され(S20)、移動時間タイマの計時作動が開始され(S21)、布押え板12を縫製再開位置に移動させる移動処理が実行される(S22)。
【0034】
この場合、X軸駆動モータ40が縫製再開位置方向に移動するように1パルスだけ駆動されたときに、布押え板12が縫製再開位置に移動していない場合で(S23:No)、移動時間タイマにより計時された移動時間が設定時間未満のときには(S24:No)、S22〜S24が繰返して実行され、布押え板12が縫製再開位置に徐々に移動される。布押え板12の縫製再開位置への移動処理が設定時間に達するまでに完了した場合には(S23:Yes)、この制御を終了してメインルーチンにリターンする。
【0035】
しかし、布押え板12が縫製再開位置へ移動するまでに、設定時間が経過してしまった場合には(S24:Yes)、警告報知処理が実行され(S25)、この制御を終了してメインルーチンにリターンする。この警告報知処理においては、操作パネル20の液晶ディスプレイ20aに警告メッセージを表示したり、警告ブザーを有する場合には、この警告ブザーを鳴動させる等、各種の警告報知処理が実行される。
【0036】
ここで、通電遮断及び枠移動制御のS12を実行する制御装置30が通電遮断制御手段に相当し、通電遮断及び枠移動制御のS18〜S23を実行する制御装置30が駆動制御手段に相当し、通電遮断及び枠移動制御のS24,S25を実行する制御装置30が警告報知手段に相当する。
【0037】
次に、このように構成された通電遮断及び枠駆動制御の作動について説明する。但し、このパターン縫いミシン1に電源が投入された直後に、図示しない初期設定処理により、縫針18が布押え板12の中央の原点位置O(x0,y0)に移動するように、布押え板12(X,Y軸駆動モータ40,42)が原点位置設定(図5参照)され、X,Y方向カウンタ46,47のカウント値が夫々リセットされる。
【0038】
図5に示すように、予め選択されたパターン模様50について、この模様データに基づいて縫製開始位置A(x1,y1)から順々に縫目を形成し、縫製途中の縫目位置Bで作業者により一時停止スイッチ34が操作された場合、X,Y軸駆動モータ40,42の励磁コイルへの通電が遮断され、X,Y方向カウンタ46,47にはこの縫目位置B(x2,y2)が現在位置として記憶される。
【0039】
この通電遮断状態において、液晶ディスプレイ20aに、縫製を再開する際に縫製するパターン模様の選択画面が表示されるので、作業者がこの選択画面において、現在縫製中のパターン模様50と同じパターン模様50を選択したときには、現在縫製中のパターン模様50の模様データに基づいて、縫製開始位置A(x1,y1)が縫製再開位置として記憶される。この通電遮断状態において、作業者がこのように、同じパターン模様50を選択しているときに布押え板12を縫製中断位置B(x2,y2)から位置C(x3,y3)へ不用意に移動させているものとする。
【0040】
このとき、作業者により起動停止スイッチ24が起動操作されると、布押え板12が不用意に移動された現在位置CにおけるX,Y方向カウンタ46,47のカウント値「x3,y3」が読み込まれ、この現在位置Cから縫製再開位置Aまでの移動量が演算される。そこで、この移動量に基づいてX,Y軸駆動モータ40,42が駆動されることにより、原点位置設定処理を行なうことなく、布押え板12が縫製再開位置Aまで一気に移動することになる。
【0041】
ところで、前述したのと同様に、パターン模様50についてこの途中の縫目位置Bで作業者により一時停止スイッチ34が操作された場合に、液晶ディスプレイ20aに表示された選択画面において、作業者により現在縫製中のパターン模様50とは異なるパターン模様51を選択したときには、選択された別のパターン模様51の模様データに基づいて、縫製開始位置D(x4,y4)が縫製再開位置として記憶される。この通電遮断状態において、作業者がこのように、別のパターン模様51を選択しているときに布押え板12を縫製中断位置B(x2,y2)から位置C(x3,y3)へ不用意に移動させているものとする。
【0042】
このとき、作業者により起動停止スイッチ24が起動操作されると、布押え板12が不用意に移動された現在位置CにおけるX,Y方向カウンタ46,47のカウント値「x3,y3」が読み込まれ、この現在位置Cから縫製再開位置Dまでの移動量が演算される。そこで、この移動量に基づいてX,Y軸駆動モータ40,42が駆動されることにより、原点位置設定処理を行なうことなく、布押え板12が縫製再開位置Dまで一気に移動することになる。
【0043】
このように、X, Y軸駆動モータ40,42の励磁コイルへの通電が縫製途中で遮断された通電遮断状態において、布押え板12が不用意に移動した場合でも、縫製再開指令を受けたとき、模様データに基づいて縫製再開位置が演算され、布押え板12の原点位置設定を行なうことなく、現在位置から縫製再開位置までの移動量に基づいてX, Y軸駆動モータ40,42が駆動され、布押え板12が現在位置から次の縫製再開位置へ一気に移動されるので、縫製作業を再開させる縫製再開の迅速化を図ることができる。
【0044】
縫製再開に際して、布押え板12が縫製再開位置に移動する際の移動時間が計時され、この移動時間が設定時間以上になったときに警告メッセージを表示する等の警告を報知するので、布押え板12が何らかの理由により縫製再開位置へ移動できない状態を警告により作業者に報知することができる。
【0045】
縫製再開に際して、縫製再開位置は、X, Y軸駆動モータ40,42の励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様の縫製開始位置である場合には、縫製途中のパターン模様を迅速に縫い直すことができる。縫製再開に際して、縫製再開位置は、X, Y軸駆動モータ40,42の励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様とは異なるパターン模様の縫製開始位置である場合には、縫製中のパターン模様の縫製を中止し、別のパターン模様を縫製する縫製作業の迅速化を図ることができる。
【0046】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更形態について説明する。
1)X, Y軸駆動モータ40,42の励磁コイルへ通電を遮断する状態は、通電電流或いは通電電圧を遮断に近い状態、つまり完全に遮断するのではなく、微弱電流又は微小電圧を印加した状態であってもよい。
【0047】
2)縫製中の糸切れ等、縫製作業を中断せざるを得ないような各種のエラーが発生した場合にも、通電遮断指令を発生するようにし、図4に示す通電遮断及び枠移動制御を実行するようにしてもよい。
3)また、本実施例では、前記位置検出手段として前記X, Yステッピングモータの回転角を検出するX, Yエンコーダで構成しているが、布保持枠の位置が検出できるものであれば、何れでもよく、例えば、布保持枠にエンコーダを取り付けても良い。この場合、布保持枠にスリットまたは、発光センサの光の反射率が異なる部材を交互に貼り付けて、反射した光をカウントする所謂リニアエンコーダを用いると、センサの配置に苦慮することがない。また、発光センサではなく、磁気センサを用いると埃等の影響を受けることがない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例に係るパターン縫いミシンの斜視図である。
【図2】パターン縫いミシンの要部拡大部分斜視図である。
【図3】パターン縫いミシンの制御系のブロック図である。
【図4】通電遮断及び枠移動制御のフローチャートである。
【図5】縫製中のパターン模様を縫い直す場合の布押え板の移動経路図である。
【図6】別のパターン模様を縫製する場合の布押え板の移動経路図である。
【符号の説明】
【0049】
1 パターン縫いミシン
12 布押え板
30 制御装置
33 RAM
33a 縫製再開位置メモリ
40 X軸駆動モータ
42 Y軸駆動モータ
44 Xエンコーダ
45 Yエンコーダ
46 X方向カウンタ
47 Y方向カウンタ
W 加工布


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工布を保持する布保持枠を模様データに基づいて水平面内で直交するX方向へとY方向へ独立に移動駆動する為のX, Yステッピングモータと、前記布保持枠の位置を検出する位置検出手段とを備えたパターン縫いミシンにおいて、
前記X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電の遮断を指令する通電遮断指令手段と、
前記通電遮断指令手段から通電遮断指令を受けて前記X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断する通電遮断制御手段と、
通電遮断状態で縫製再開指令を受けたときに、前記模様データに基づいて縫製再開位置を求め、前記位置検出手段によって検出された布保持枠の位置から縫製再開位置へ布保持枠を移動させるように前記X, Yステッピングモータを駆動させる駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とするパターン縫いミシン。
【請求項2】
前記駆動制御手段により布保持枠が前記縫製再開位置に移動する際の移動時間を計時し、この移動時間が設定時間以上になったときに警告を出力する警告報知手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のパターン縫いミシン。
【請求項3】
前記縫製再開位置は、前記X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様の縫製開始位置であることを特徴とする請求項1又は2に記載のパターン縫いミシン。
【請求項4】
前記縫製再開位置は、前記X, Yステッピングモータの励磁コイルへの通電を遮断したときに縫製中のパターン模様とは異なるパターン模様の縫製開始位置であることを特徴とする請求項1又は2に記載のパターン縫いミシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−79974(P2008−79974A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265466(P2006−265466)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】