説明

パック式バルブ

【課題】バルブ本体とケレップとを螺合させるねじ部のかじりを防止することによってハンドル操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができるパック式バルブを提供する。
【解決手段】中空状のバルブ本体10と、バルブ本体10の一端開口に螺合して中空を密閉するグランドナット40と、バルブ本体10内の中空内壁に螺合して閉鎖弁室16を形成するとともに、一端にガスの流入路14を開閉させる弁体51を有するケレップ51と、一端がバルブ本体10の中空内に収納され、他端がグランドナット40を貫通する回動自在なスピンドル20と、スピンドル20の他端に取り付けられたハンドル30とを備え、スピンドル20とケレップ50との間に、両者の回転軸Sの変位を吸収しつつ、スピンドル20の回転をケレップ50に伝達することが可能な回転伝達手段21,60(61,62),52を設けた構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスボンベに直接接続されてガスの供給又は充填に用いられるパック式バルブに関し、特に、バルブ本体とケレップとを螺合させるねじ部のかじりを防止することによってハンドル操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができるパック式バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から圧縮ガスや液化ガスを充填したガスボンベに用いられるバルブとして、パック式バルブとダイヤフラム式バルブとがある。パック式バルブは、パッキング式のジョイント又はボルトを用いてバルブ内の気密性を確保しており、一方、ダイヤフラム式バルブは、弁体の移動とともに撓む金属薄板製のダイヤフラムによってバルブ内の気密性を確保している。
【0003】
そして、ダイヤフラム式バルブとの比較において、パック式バルブは、弁体を開閉させるケレップの移動量が大きく、大量のガスを効率よく流入出させることが可能である。また、消耗品であるダイヤフラムを用いないので寿命が長く、分解してメンテナンスすることにより、繰り返し使用することができるという利点もある。
【0004】
従来の一般的なパック式バルブの構成を図8及び図9に示す。図8は従来のパック式バルブを示す断面図である。図9は従来のパック式バルブのスピンドル及びケレップを示す斜視図である。
【0005】
これら図面において、従来のパック式バルブ100は、中空状のバルブ本体110を備え、バルブ本体110の中空部111内に、ガスの流入出路114,115を接続させるケレップ150を螺合させた構成となっている。ケレップ150の下端にはガスの流入口114aを閉鎖する弁体151が取り付けてあり、上端には角穴152が穿設してある。このケレップ150の角穴152には、スピンドル120の下端に設けた角棒121が挿入される。スピンドル120の上端に取り付けたハンドル130を回転させると、スピンドル130の回転が角棒121及び角穴152を介してケレップ150に伝達され、バルブ本体110の中空部111内で互いに螺合するねじ部113,153に沿って、ケレップ150が上下方向に移動し、ガスの流入口114aが開閉される。
【0006】
このような従来のパック式バルブとして、例えば、特許文献1及び2に提案されているものがある。
【特許文献1】特開2006−336819号公報(図1参照)
【特許文献2】特開平7−280134号公報(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来のパック式バルブ110では、いずれも角棒121と角穴152との連結を介して、スピンドル120の回転をケレップ150に伝達させる構成となっていた。このため、ハンドル130を操作するときの力の偏り、角穴152の芯だしの困難性、構成部品どうしのクリアランスないし寸法誤差などに起因して、スピンドル120とケレップ150との回転軸Sが微小変位してしまい、バルブ本体110とケレップ150とを螺合させるねじ部113,153にかじり(以下、単に「ねじ部113,153のかじり」という)が生じてしまうという問題があった。
【0008】
従来のパック式バルブ110におけるねじ部113,153のかじりは、使用開始から比較的短期間のうちにほぼ例外なく発生しており、このようなねじ部113,153のかじりが原因となって、パック式バルブ110は、ハンドル130の回転操作が重く、操作性や操作感が悪いものと一般ユーザーに認識されている。この結果、パック式バルブ110は、ダイヤフラム式バルブと比較して多くの利点を有するにもかかわらず、一般ユーザーの需要はダイヤフラム式バルブに傾きつつある。
【0009】
なお、上述したねじ部113,153のかじりを解消するために、バルブ本体110とケレップ150とを螺合させる雌ねじ113及び雄ねじ153の間に大きな遊びを意図的にもたせ、この大きな遊びによって回転軸Sの微小変位を吸収することが試みられたが、遊びに起因するがたつきがねじ部113,153に負担を与え、また、ケレップ150の開閉動作を不安定にし、結局、パック式バルブ110の寿命が短くなってしまうという問題があった。
【0010】
以上述べたように、パック式バルブには、ねじ部のかじりによってハンドルの操作性が悪いという問題があるが、大量のガスを効率よく流入出させることができる点は、ダイヤフラム式バルブよりも優れている。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、バルブ本体とケレップとを螺合させるねじ部のかじりを防止することによってハンドル操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができるパック式バルブの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のパック式バルブは、ガスボンベに直接接続され、前記ガスボンベから外部へのガスの供給又は外部から前記ガスボンベへのガスの充填に用いられるパック式バルブであって、前記ガスの流入路と流出路とを接続する閉鎖弁室を設けた中空状のバルブ本体と、前記バルブ本体の一端開口に螺合して前記中空を密閉するグランドナットと、前記バルブ本体内の中空内壁に螺合して前記閉鎖弁室を形成するとともに、一端に前記ガスの流入路を開閉させる弁体を有するケレップと、一端が前記バルブ本体の中空内に収納され、他端が前記グランドナットを貫通する回動自在なスピンドルと、前記スピンドルの他端に取り付けられたハンドルとを備え、前記スピンドルと前記ケレップとの間に、両者の回転軸の変位を吸収しつつ、前記スピンドルの回転を前記ケレップに伝達することが可能な回転伝達手段を設けた構成としてある。
【0012】
このような構成によれば、ハンドルを操作するときの力の偏りや、構成部品どうしのクリアランスないし寸法誤差などに起因して、スピンドルとケレップとの間に回転軸の微小変位(芯ずれ)が生じた場合でも、これらスピンドルとケレップとの間に設けた回転伝達手段によって、両者の回転軸の微小変位が吸収され、スピンドルの回転だけがケレップに伝達されることになる。これにより、バルブ本体とケレップとを螺合させるねじ部のかじりを防止することが可能となり、パック式バルブのハンドル操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができる。
【0013】
ここで、本発明の「回転伝達手段」としては、例えば、車輌、工作機械等において、駆動軸と被駆動軸とを繋ぐ軸継手における軸方向変位の吸収原理を適用する。本発明者が鋭意検討した結果、本発明の回転伝達手段として、パック式バルブのバルブ本体内に収まる大きさであること、部品点数が少ないこと、構造が簡単であること、及び腐食性ガスに対する耐食性などが必要であり、例えば、オルダム継手、ディスクカップリング、ゴムカップリング、ばねカップリング、精密補正継手、精密ばね軸継手、ユニバーサルジョイント等の軸方向変位の吸収原理を適用することが可能である。特に、オルダム継手、ゴムカップリング、ばねカップリングの軸方向変位の吸収原理を利用した回転伝達手段は、簡単な構造で小型かつ少ない部品点数で実現することができ、構成部品の全てを耐食性を有する金属材料又は樹脂材料で構成することが可能である。このような「回転伝達手段」の具体的な構成については、本発明の実施形態で詳述する。
【0014】
好ましくは、前記回転伝達手段が、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸と略直交する方向に延びる凸条及び凹溝を備え、これら凸条及び凹溝が互いに遊嵌することによって、前記スピンドルの回転を前記ケレップに伝達するとともに、これら凸条及び凹溝が相対的に摺動することによって、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸の変位を吸収する構成とする。
【0015】
この構成は、オルダム継手の軸方向変位の吸収原理を回転伝達手段に適用したものである。このような構成によれば、スピンドルとケレップとの間に回転軸の微小変位が生じた場合でも、この微小変位が、回転伝達手段である凸条及び凹溝の相対的な摺動やクリアランスによって吸収され、スピンドルの回転だけがケレップに伝達されることになる。
【0016】
これにより、ねじ部のかじりを防止して、パック式バルブのハンドル操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができる。また、回転伝達手段としての凸条及び凹溝は、従来の角棒及び角穴よりも容易かつ高精度に芯だしすることが可能であり、パック式バルブの製造効率の向上を図ることもできる。
【0017】
特に、従来の角穴には、その内部に溜まったリキッドガスを排出するために、斜め下方向に傾斜する逃げ穴(図8及び図9の符号154を参照)を穿設する必要があったが、本回転伝達手段を構成する凹溝には、リキッドガスの逃げ穴を設ける必要がなく、リキッドガスは凹溝の両端から自然に、又は凸条に押されて積極的に排出されることになる。これにより、本回転伝達手段は、従来の角穴のようなリキッドガスによる汚染が少なく、必要最低限の工数で容易に加工することが可能である。
【0018】
より好ましくは、前記回転伝達手段として、前記スピンドルの一端に第1の凸条又は凹溝、前記ケレップの他端に第2の凸条又は凹溝をそれぞれ設けるとともに、前記スピンドルの一端と前記ケレップの他端との間に介在され、他端に前記第1の凸条又は凹溝と遊嵌する第3の凹溝又は凸条と、一端に前記第2の凸条又は凹溝と遊嵌する第4の凹溝又は凸条とを、互いに略直交する方向に設けた摺動継手を備え、前記摺動継手の外径を前記バルブ本体の中空内径より小さくし、前記外径と中空内径との寸法差の範囲内で前記摺動継手が摺動することによって、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸の変位を吸収する構成とする。
【0019】
上記構成において、凸条と凹溝とは種々の組合せが可能であるが、説明の便宜上、例えば、スピンドルの一端に第1の凹溝、ケレップの他端に第2の凹溝を形成し、これら第1及び第2の凹溝に遊嵌する第3及び第4の凸条を摺動継手に設けたとする。そして、第1の凹溝と第3の凸条との摺動方向をX方向、第2の凹溝と第4の凸条の摺動方向をY方向とする。
【0020】
このような構成によれば、例えば、ハンドルを操作するときの力に偏りが生じて、スピンドルとケレップとの間に回転軸の微小変位が生じた場合でも、この微小変位が、第1及び第2の凹溝と、第3及び第4の凸条との間におけるX方向及びY方向の摺動によって吸収され、スピンドルの回転だけがケレップに伝達されることになる。
【0021】
この結果、ねじ部のかじりを防止して、パック式バルブのハンドル操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができる。また、回転軸の変位吸収と回転伝達とを、簡単な構造で小型かつ少ない部品点数で実現することができ、パック式バルブの製造効率を向上させることが可能であるとともに、メンテナンス性を向上させることができる。
【0022】
より好ましくは、前記スピンドルの第1の凸条又は凹溝と、前記摺動継手の第3の凹溝又は凸条との間に、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸方向の間隙を形成し、この間隙の範囲内で前記ケレップが進退動作する構成とする。
【0023】
このような構成によれば、上記の例示において、スピンドルの第1の凹溝と、摺動継手の第3の凸条との間に間隙が形成された状態で、スピンドルの回転が摺動継手に伝達される。摺動継手の回転は、その第4の凸条及び第2の凹溝を介してケレップに伝達される。このとき、ケレップが、第1の凹溝と第3の凸条との間隙の範囲内で進退動作するので、この進退動作がスピンドルに伝わることがなく、ハンドルの回転操作に伴う移動(例えば、上下動)をなくすことが可能となる。これにより、ハンドルの操作性を良好にすることができ、また、ハンドルの移動による他部材との緩衝を防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のパック式バルブによれば、バルブ本体とケレップとを螺合させるねじ部のかじりを防止することによってハンドル操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができる。また、本発明のパック式バルブは、簡単な構造で小型かつ少ない部品点数で実現することが可能であり、製造効率及びメンテナンス性の向上を図ることができる。この結果、大量のガスを効率よく流入出させることができるというパック式バルブの利点が見直され、パック式バルブの需要増大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係るパック式バルブについて、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、ステンレス鋼等の種類を例示するにあたってJISコードを省略して記載してある。
【0026】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係るパック式バルブについて、図1〜5を参照しつつ説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るパック式バルブを示す断面図である。図2(a)は上記パック式バルブのスピンドル、摺動継手及びケレップを示す斜視図であり、同図(b)は上記摺動継手の平面図及び側面図である。図3(a),(b)は上記パック式バルブのスピンドル、摺動継手及びケレップの相対的な摺動動作を示す説明図である。図4は上記パック式バルブのスピンドル及びケレップに対する摺動継手の摺動動作を示す説明図である。図5(a),(b)は上記摺動継手の変更例を示すものである。
【0027】
図1において、本実施形態に係るパック式バルブ1は、主として、バルブ本体10と、スピンドル20と、ハンドル30と、グランドナット40と、ケレップ50と、摺動継手60と、安全ナット70と、キャップ80とで構成してある。
【0028】
[バルブ本体]
バルブ本体10は、その内部に断面略円形の中空部11を設けたハウジングであり、耐腐食性を有する金属材料、例えば、SUS316のステンレス鋼により形成してある。中空部11の下方にはガスの流入路14が連通しており、また、中空部11の一側方にはガスの流出路15が連通している。さらに、これら流入路14及び流出路15が共に開口する中空部11の下端側は、後述するケレップ50によって閉鎖された閉鎖弁室16となっている。この閉鎖弁室16内には、ガスの流入口14aが開口しており、この流入口14aは、後述する弁体51によって開閉される。
【0029】
また、ガスの流入路14の他側方には吹出し路17が分岐しており、この吹出し路17は、パッキンP2を介して安全ナット70により密閉されている。安全ナット70の中心部分には可溶合金71が充填してある。このような安全ナット70は、火災などの事故が発生した場合に、ガスボンベ等の高圧ガス容器が爆発することを防止する役割を果たす。すなわち、本パック式バルブ1を取り付けた図示しない高圧ガス容器が、火災などの高温環境下に曝されたときに、安全ナット70内に充填された可溶合金71が溶け出して、ガスの流入口14aを外部に連通させる通路を形成する。この通路から前記高圧ガス容器内のガスが噴出されることで、前記高圧ガス容器内の圧力が低下して爆発が防止される。
【0030】
さらに、上述したガスの流出路15の開口部は、パッキンP3を介してキャップ80により閉鎖してある。パッキンP2,P3の材料として、例えば、PTFE等のフッ素樹脂を用いることができる。また、キャップ80の材料として、例えば、ニッケルメッキを施したC3604BDを用いることができる。
【0031】
[スピンドル]
スピンドル20は、ケレップ50を進退させて弁体51を開閉動作させるための軸部材であり、例えば、耐腐食性を有するSUS304等のステンレス鋼又はニッケルメッキを施したC3604BDにより形成してある。
【0032】
スピンドル20の上端部には、ハンドル30を取り付けるための雄ねじ部22が設けてあり、この雄ねじ部22に止めナット32を締結させることによりハンドル30を固定している。スピンドル20とハンドル30との間にはスプリング31が介設してあり、このスプリング31によって、ハンドル30は、下記のグランドナット40側に付勢されている。スピンドル20の下端面に形成した第1の凹溝21(回転伝達手段)については、後述する[回転伝達手段]の項目で詳細に説明する。
【0033】
[グランドナット]
グランドナット40は、上述したバルブ本体10の中空部11の蓋となり、かつスピンドル20と螺合してこれを回動自在に支持するものである。このグランドナット40の材料としては、SUS303、SUS304等のステンレス鋼、又はニッケルメッキを施して耐食性をもたせたC3604BD等の黄銅(真鍮)などを例示することができる。例えば、ニッケルメッキを施して耐食性をもたせたC3604BD等の黄銅(真鍮)が好適である。
【0034】
グランドナット40の中心部には、スピンドル20の軸部が貫通される軸受孔41が設けてある。この軸受孔41の内壁面には、スピンドル20の軸部との密閉性を保つための二つのOリング(符号「O(オー)」参照)が介設してある。Oリングの材料として、例えば、FPM等のフッ素ゴム又はNBR等のニトリルゴムなどを用いることができ、好ましくは、FPM等のフッ素ゴムを用いるとよい。
【0035】
また、グランドナット40の下端部外周には雌ねじ部42が設けてあり、この雌ねじ部42は、バルブ本体10の上端外周に形成した雄ねじ部12と螺合している。さらに、グランドナット40の雌ねじ部42に囲まれた下端面(当接面)には、スピンドル20の軸部及びバルブ本体10の上端縁に圧接する環状のパッキンP1が介設してある。このパッキンP1により、バルブ本体10の中空部11内の気密性が保たれている。パッキンP1の材料として、例えば、PTFE等のフッ素樹脂を用いることができる。
【0036】
[ケレップ]
ケレップ50は、上述したバルブ本体10の中空部11の下端側に適合した形状をしており、その側部には雄ねじ部53(図2(a)参照)が設けてある。この雄ねじ部53を、バルブ本体10の中空部11内壁に設けた雌ねじ部13に螺合させることで、中空部11の下端側に閉鎖弁室16が形成される。また、ケレップ50の下端側には、ガスの流入口14aを塞ぐ弁体51が取り付けてある。
【0037】
ケレップ50の材料としては、例えば、SUS304、SUS306等のステンレス鋼を用いることができる。ここで、使用するガスによってはバルブ本体10、スピンドル20及びケレップ50に高い耐食性が要求される場合がある。このような場合には、バルブ本体10、スピンドル20及びケレップ50の材料をいずれもSUS306とすることが好ましい。このようにバルブ本体10及びケレップ50を同一硬度の材料とすると、一般には、互いのねじ部13,53にかじりが生じやすいことになるが、本実施形態では、後述する回転伝達手段によって、スピンドル20とケレップ50との間に生じた回転軸Sの微小変位を吸収することができるので、互いのねじ部13,53にかじりが生じにくい。
【0038】
弁体51は、上述したように、バルブ本体10のガスの流入口14aを開閉させて、ガスの流通を制御するためのものである。この弁体51は、気密性に優れ、長年使用しても容易に変形しない樹脂材料により形成してある。この材料として、例えば、PCTFE、PVDF又はポリアミドを用いることができ、特に、PCTFEが好適である。
【0039】
上述したハンドル30ないしスピンドル20の回転がケレップ50に伝達されると、雄ねじ部53及び雌ねじ部13の螺合に従って、ケレップ50が上下方向に進退動作し、弁体51によってガスの流入口14aが開閉される。ケレップ50の上端面に形成した第2の凹溝52(回転伝達手段)については、下記の[回転伝達手段]の項目で詳細に説明する。
【0040】
[回転伝達手段]
スピンドル20の回転をケレップ50に伝達するために、本実施形態では、これらスピンドル20とケレップ50との間に、図2(a),(b)に示すような回転伝達手段を介設してある。本実施形態の回転伝達手段は、オルダム継手の軸方向変位の吸収原理を利用した構成としてある。
【0041】
これら図面において、本実施形態に係る回転伝達手段は、スピンドル20の下端面に第1の凹溝21、ケレップ50の上端面に第2の凹溝52をそれぞれ設けるとともに、これらスピンドル20とケレップ50との間に摺動継手60を介在させた構成となっている。この摺動継手60の上面には、第1の凹溝21と遊嵌する第3の凸条61が設けてあり、下面には、第2の凹溝52と遊嵌する第4の凸条62が設けてある。同図(b)に示すように、第3の凸条61は平面視X方向、第4の凸条62は平面視Y方向に延びており、これら第3及び第4の凸条61,62は、摺動継手60の上面と下面とにおいて、互いに略十文字に直交している。
【0042】
さらに詳述すると、スピンドル20の下端部は、バルブ本体10の中空部11の内径L1とほぼ等しい大径円形となっており、この大径円形の直径に沿って第1の凹溝21が設けてある。一方、摺動継手60の外径L2は、中空部11の内径L1よりも小さくしてある。これにより、摺動継手60を中空部11内に配設したときに、摺動継手60と中空部11内壁との間に、寸法差L1−L2の間隙が形成される(図1及び図4参照)。
【0043】
上述したような第1の凹溝21と第3の凸条61、及び第4の凸条62と第2の凹溝52を互いに遊嵌させた本回転伝達手段の動作について説明する。まず、図3(a),(b)に示すように、本回転伝達手段をバルブ本体10の中空部11外において構成すると、スピンドル20と摺動継手60とがX方向に、また、摺動継手60とケレップ50とがY方向に、それぞれ相対的に摺動可能となる。そして、図4に示すように、このような本回転伝達手段をバルブ本体10の中空部11内において構成すると、寸法差L1−L2の範囲内で、摺動継手60がX−Y方向に摺動可能となる。
【0044】
図4において、摺動継手60は、スピンドル20とケレップ50との回転軸Sに微小変位が生じた場合に摺動する。例えば、ハンドル30を操作するときの力に偏りが生じて、スピンドル20とケレップ50との間に回転軸Sの微小変位が生じた場合は、この力の偏りを受けた摺動継手60が、寸法差L1−L2の範囲内でX−Y方向に摺動する。これにより、回転軸Sの微小変位が吸収され、第1の凹溝21と第3の凸条61、及び第4の凸条62と第2の凹溝52の遊嵌を通じて、スピンドル20の回転だけがケレップ50に伝達される。
【0045】
ここで、本実施形態では、図4に示すように、ケレップ50、摺動継手60及びスピンドル20を、この順番でバルブ本体10の中空部11内に組み付けるときに、第1の凹溝21と第3の凸条61との間に、所定の間隙L3を形成するようにしてある。すなわち、ケレップ50の組み付け時において、弁体51がガスの流入口14aを閉鎖するまで螺合させ、この状態で、第2の凹溝52に第4の凸条62が遊嵌するように、摺動継手60を組み付ける。そして、第3の凸条61に第1の凹溝21が遊嵌するように、スピンドル20を組み付ける。このスピンドル20の組み付け時において、第1の凹溝21と第3の凸条61との間に、所定の間隙L3を形成する。
【0046】
このような構成によれば、摺動継手60を介してスピンドル20の回転を受けたケレップ50が、所定の間隙L3の範囲内で進退動作して、ガスの流入口14aを開閉させるようになり、このときのケレップ50の進退動作がスピンドル20に伝達されなくなる。これにより、ハンドル30の回転操作に伴う上下動(図4中の「Z方向」参照)をなくすことが可能となる。この結果、ハンドル30の操作性を良好にすることができ、また、ハンドル30の上下動による他部材との緩衝を防止することができる。
【0047】
[回転伝達手段の変更例]
本回転伝達手段は、上記のような第1の凹溝21と第3の凸条61、及び第4の凸条62と第2の凹溝52の組合せに限定されるものではない。本回転伝達手段を構成する凸条と凹溝とは、図5(a),(b)に示すような種々の組合せに変更することが可能である。
【0048】
例えば、図5(a)に示すように、摺動継手60の上面に第3の凸条61、下面に第4の凹溝64を設けた構成としてもよい。この場合は、スピンドル20の下端面に第1の凹溝21を設けるとともに、ケレップ50の上端面に第2の凸条(図示せず)を設ける。
【0049】
また例えば、摺動継手60の上面及び下面にそれぞれ第3及び第4の凹溝63,64を設けた構成としてもよい。この場合は、スピンドル20の下端面に第1の凸条(図示せず)を設けるとともに、ケレップ50の上端面に第2の凸条(図示せず)を設ける。
【0050】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るパック式バルブについて、図6を参照しつつ説明する。図6は本発明の第2実施形態に係るパック式バルブの主要部を示すものであり、同図(a)は断面図、同図(b)は分解斜視図である。
【0051】
本実施形態のパック式バルブ2における回転伝達手段は、ゴムカップリングの軸方向変位の吸収原理を利用した構成としてある。すなわち、同図(a),(b)に示すように、スピンドル20の下端、及びケレップ50の上端には、それぞれ中空部11の内径L1とほぼ等しい外径のカップリング22,53が設けてある。これらカップリング22,53には、隙間L4を開けて噛み合う凹凸壁22a,53aが突設してある。そして、これらカップリング22,53の間には、略歯車状のゴムスペーサ91を介在させてある。このゴムスペーサ91の外周には、各間隙L4の形状に一致する複数のゴム小片91a,91a,91a…が放射状に突設してある。
【0052】
このような構成によれば、例えば、ハンドル30を操作するときの力に偏りが生じて、スピンドル20とケレップ50との間に回転軸Sの微小変位が生じた場合は、この微小変位がゴムスペーサ91の各ゴム小片91aの弾性変形によって吸収され、各ゴム小片91aを介したカップリング22,53の噛み合いを通じて、スピンドル20の回転だけがケレップ50に伝達される。
【0053】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るパック式バルブについて、図7を参照しつつ説明する。図7は本発明の第3実施形態に係るパック式バルブの主要部を示す断面図である。
【0054】
本実施形態のパック式バルブ3における回転伝達手段は、ばねカップリングの軸方向変位の吸収原理を利用した構成としてある。すなわち、同図に示すように、スピンドル20の下端、及びケレップ50の上端には、それぞれ中空部11の内径L1とほぼ等しい外径のカップリング23,54が設けてあり、これらカップリング23,54をスプリング92によって連結した構成となっている。
【0055】
このような構成によれば、例えば、ハンドル30を操作するときの力に偏りが生じて、スピンドル20とケレップ50との間に回転軸Sの微小変位が生じた場合は、この微小変位がスプリング92の弾性変形によって吸収され、このスプリング92を通じて、スピンドル20の回転だけがケレップ50に伝達される。
【0056】
<パック式バルブの作用効果>
以上のように、上述した各実施形態に係るパック式バルブ1〜3によれば、ハンドル30を操作するときの力の偏りや、構成部品どうしのクリアランスないし寸法誤差などに起因して、スピンドル20とケレップ50との間に回転軸Sの微小変位が生じた場合でも、これらスピンドル20とケレップ50との間に設けた回転伝達手段によって、回転軸Sの微小変位が吸収され、スピンドル20の回転だけがケレップ50に伝達される。これにより、バルブ本体10とケレップ50とを螺合させるねじ部13,53のかじりを防止することが可能となり、ハンドル30の操作を滑らかにし、操作性の向上及び部品の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施形態に係るパック式バルブを示す断面図である。
【図2】同図(a)は上記パック式バルブのスピンドル、摺動継手及びケレップを示す斜視図であり、同図(b)は上記摺動継手の平面図及び側面図である。
【図3】同図(a),(b)は上記パック式バルブのスピンドル、摺動継手及びケレップの相対的な摺動動作を示す説明図である。
【図4】上記パック式バルブのスピンドル及びケレップに対する摺動継手の摺動動作を示す説明図である。
【図5】同図(a),(b)は上記摺動継手の変更例を示すものである。
【図6】本発明の第2実施形態に係るパック式バルブの主要部を示すものであり、同図(a)は断面図、同図(b)は分解斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るパック式バルブの主要部を示す断面図である。
【図8】従来のパック式バルブを示す断面図である。
【図9】従来のパック式バルブのスピンドル及びケレップを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
1 パック式バルブ
10 バルブ本体
11 中空部
12 雄ねじ部
13 雌ねじ部
14 流入路
14a 流入口
15 流出路
16 閉鎖弁室
20 スピンドル
21 第1の凹溝(回転伝達手段)
22 雄ねじ部
30 ハンドル
40 グランドナット
41 軸受孔
42 雌ねじ部
50 ケレップ
51 弁体
52 第2の凹溝(回転伝達手段)
53 雄ねじ部
60 摺動継手(回転伝達手段)
61 第3の凸条(回転伝達手段)
62 第4の凸条(回転伝達手段)
70 安全ナット
80 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスボンベに直接接続され、前記ガスボンベから外部へのガスの供給又は外部から前記ガスボンベへのガスの充填に用いられるパック式バルブであって、
前記ガスの流入路と流出路とを接続する閉鎖弁室を設けた中空状のバルブ本体と、
前記バルブ本体の一端開口に螺合して前記中空を密閉するグランドナットと、
前記バルブ本体内の中空内壁に螺合して前記閉鎖弁室を形成するとともに、一端に前記ガスの流入路を開閉させる弁体を有するケレップと、
一端が前記バルブ本体の中空内に収納され、他端が前記グランドナットを貫通する回動自在なスピンドルと、
前記スピンドルの他端に取り付けられたハンドルとを備え、
前記スピンドルと前記ケレップとの間に、両者の回転軸の変位を吸収しつつ、前記スピンドルの回転を前記ケレップに伝達することが可能な回転伝達手段を設けたことを特徴とするパック式バルブ。
【請求項2】
前記回転伝達手段が、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸と略直交する方向に延びる凸条及び凹溝を備え、これら凸条及び凹溝が互いに遊嵌することによって、前記スピンドルの回転を前記ケレップに伝達するとともに、これら凸条及び凹溝が相対的に摺動することによって、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸の変位を吸収することを特徴とする請求項1記載のパック式バルブ。
【請求項3】
前記回転伝達手段として、
前記スピンドルの一端に第1の凸条又は凹溝、前記ケレップの他端に第2の凸条又は凹溝をそれぞれ設けるとともに、
前記スピンドルの一端と前記ケレップの他端との間に介在され、他端に前記第1の凸条又は凹溝と遊嵌する第3の凹溝又は凸条と、一端に前記第2の凸条又は凹溝と遊嵌する第4の凹溝又は凸条とを、互いに略直交する方向に設けた摺動継手を備え、
前記摺動継手の外径を前記バルブ本体の中空内径より小さくし、前記外径と中空内径との寸法差の範囲内で前記摺動継手が摺動することによって、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸の変位を吸収することを特徴とする請求項2記載のパック式バルブ。
【請求項4】
前記スピンドルの第1の凸条又は凹溝と、前記摺動継手の第3の凹溝又は凸条との間に、前記スピンドル及び前記ケレップの回転軸方向の間隙を形成し、この間隙の範囲内で前記ケレップが進退動作することを特徴とする請求項3記載のパック式バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−19274(P2010−19274A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177808(P2008−177808)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(501343178)株式会社 幸田 (4)
【Fターム(参考)】