説明

パネルの成形方法

【課題】パネル成形の効率化を図るようにしたパネルの成形方法を提供する。
【解決手段】補強材26のフランジ28を外板24の裏面24a側の予め定めた位置に、レーザビーム32をフランジ28に連続して照射し、補強材26と外板24とをレーザ溶接する。レーザ溶接による入熱は外板24の裏面24a側に偏るため、4本の補強材26が外板24に溶接されると、入熱による歪エネルギーによって、外板24の両端が反り上がるような熱応力が生じる。溶接による熱応力によって、補強材26を溶接した側に外板24は湾曲する。この場合、外板24はレーザ溶接によって与えられた入熱量によって定まる一定の曲率で湾曲する。これによって、補強材26を溶接する前に外板24を湾曲させる工程を別途行う必要がなく、パネル成形効率をアップさせることができ、結果的にコスト低下を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鉄道車両構体に適用されるパネルの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来このような分野の技術として特開平5−42337号公報がある。平板の一面側に骨組み等となる補強材が溶接されたパネルを、特開平5−42337号公報に記載されているように所望の曲面に湾曲させる場合には、平板に補強材を溶接する前に、ベンディングロール等の曲げ工具を用いて平板に外力を加えることによって、所望の曲率に湾曲させたパネルを成形することが行われている。
【特許文献1】特開平5−42337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のように、平板に補強材を溶接する前に、平板に外力を与えて湾曲させる手法では、平板に補強材を溶接する他に、平板を湾曲させる工程が別途必要となり、パネルを成形する効率が悪いという問題点がある。また、平板を湾曲させた後に補強材を溶接すると、必要以上に曲がりが強くなってしまう。
【0004】
本発明は、斯かる実情に鑑み、パネル成形の効率化を図るようにしたパネルの成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、平板の一面側に補強材を溶接しつつ、溶接による入熱によって平板に熱応力を生じさせて平板を湾曲させるにあたって、平板の曲率を入熱量により決定するパネルの成形方法である。
【0006】
この構成によれば、補強材を溶接する入熱によって平板に熱応力を生じさせ、当該熱応力によって平板を予め定めた曲率に湾曲させることができるため、補強材を溶接する前に平板を湾曲させる工程を別途行う必要がなく、パネル成形効率をアップさせることができ、結果的にコスト低下を可能にする。
【0007】
この場合、溶接はレーザ溶接によって行うことが好適である。レーザ溶接は、急速加熱および急速冷却を生じ、レーザ溶接による入熱量は外乱が入りにくく安定しているため、より高精度で平板を予め定めた曲率に湾曲させることができる。
【0008】
一方、平板の一面上に配置される複数の補強材の間隔を変えることにより、曲率を変えることが可能である。例えば、補強材の間隔を狭くすると、溶接の際に大きな入熱量を平板に与えることができ、補強材の間隔を広くすると、溶接の際により小さな入熱量を平板に与えることができる。このため、補強材を予め定めた間隔をもって溶接することにより、常に一定の入熱量を平板に与えることができ、平板を常に一定の曲率に湾曲させることができる。
【0009】
また、入熱量は溶接速度により変化させることが可能である。例えば、溶接速度を遅くすると、溶接の際により大きい熱量を平板に与えることができ、溶接速度を速くすると、溶接の際により小さい熱量を平板に与えることができる。このため、補強材を予め定めた溶接速度で溶接することによって、平板に予め定めた熱量を与え、平板を予め定めた曲率に湾曲させることができる。
【0010】
あるいは、入熱量は溶接出力により変化させることが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパネルの成形方法によれば、パネル成形の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
以下、本発明に係る成形方法を鉄道車両構体に適用した場合を例として説明する。図1に示すように、ステンレス鋼製の鉄道車両構体10は、内部に乗客を収容する空間を有する略箱型の形状をなしており、底部に位置する台枠12と、その両側に位置して鉄道車両構体10の側面を形成する側構体14と、車両の前後に位置する妻構体16と、上部に位置する屋根構体18とから構成されている。側構体14は、車窓が取り付けられる窓枠パネル20と、下部が車両の内側に向かって湾曲している腰パネル21a(21b)とから構成されている。また、屋根構体18は、車両の内側に向かって湾曲する2枚の屋根パネル22a,22bから構成されている。
【0014】
図2に示すように、屋根パネル22aは、外板(平板)24の裏面24a側に、4本の長尺状の補強材26が、それぞれ所定の間隔をなすように平行にレーザ溶接されている。外板24は、予め定められた曲率をもって、補強材26が溶接された面が凹状になるように湾曲している。補強材26は、一対のフランジ28を有する断面ハット形状の部材であり、一対のフランジ28がそれぞれ外板24に当接され、フランジ28と外板24とは直線的な溶接部30により重ね溶接がなされている。また、この溶接部30は、レーザによる連続溶接により達成されている。なお、補強材26は、断面ハット形状の部材の他、断面がZ形状の部材も用いることができる。
【0015】
以下、パネルの成形方法について説明する。図3は、パネルの成形の手順を示す図である。図3(a)に示すように、平坦なステンレス鋼製の外板24を用意し、外板24の端部は冶具によって仮固定される。
【0016】
次に、図3(b)に示すように、各々の補強材26のフランジ28を外板24の裏面24a側の予め定めた位置に、冶具で押さえながら当接させ、レーザビーム32をフランジ28に連続して照射し、補強材26と外板24とをレーザ溶接する。レーザ溶接による入熱は外板24の裏面24a側に偏るため、4本の補強材26が外板24に溶接されると、入熱による歪エネルギーによって、外板24の両端が反り上がるような熱応力が生じる。なお、外板24は端部を冶具により仮固定されているため、外板24は平坦な状態に保たれている。
【0017】
次に、固定した外板24の端部を冶具から解放すると、図3(c)に示すように、溶接による熱応力によって、補強材26を溶接した側に外板24は湾曲する。この場合、外板24はレーザ溶接によって与えられた入熱量によって定まる一定の曲率で湾曲する。
【0018】
このようなパネル成形方法によれば、外板24の裏面24a上に配置される複数の補強材26の間隔を変えることにより、外板24への入熱量を変えることができ、外板24の曲率を変えることが可能である。例えば、補強材26の間隔を狭くすると、溶接の際に大きな入熱量を外板24に与えることができ、補強材26の間隔を広くすると、溶接の際により小さな入熱量を外板24に与えることができる。従って、溶接速度やレーザ出力を一定にした条件下で、補強材26の間隔を曲率に応じて決定しておくことにより、一定の入熱量を外板24に与えることができ、外板24を常に一定の曲率に湾曲させることができる。
【0019】
また、レーザ溶接による外板24への入熱量は、溶接速度により変化させることが可能である。例えば、溶接速度を遅くすると、溶接の際により大きい熱量を外板24に与えることができ、溶接速度を速くすると、溶接の際により小さい熱量を外板24に与えることができる。従って、レーザ出力や補強材26の間隔を一定にした条件下で、溶接速度を曲率に応じて決定しておくことにより、外板24に一定の入熱量を与え、外板24を常に一定の曲率に湾曲させることができる。あるいは、レーザビーム32の出力を変更することによって外板24への入熱量を変化させることもでき、出力を曲率に応じて決定しておくことにより外板24を所望の曲率に湾曲させることができる。
【0020】
図1および図4に示すような屋根構体18を成形する場合には、図5に示すように、上記のようにして成形した屋根パネル22aの外板24の端部と、別の平坦な外板24Aの端部とを突き合わせ、一方の外板24と他方の外板24Aとをレーザビーム32によって接合する。なお、符号34は溶接部である。この場合の接合方法は、図5に示すようなレーザ溶接の他、MIG(Metal Inert Gas welding)溶接、MAG(Metal Active Gas welding)溶接、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)を適用することができる。
【0021】
次に、図3(a)〜(c)に示したように、屋根パネル22aに新たに接合した外板24Aの裏面24a上には、補強材26がレーザ溶接され、外板24を所望の曲率に湾曲させる。このようにして図4に示すような屋根構体18が成形される。なお、図3および図5に示す手順を繰り返すことにより、大きな面積の構造物を成形することができる。
【0022】
このようにして成形された屋根パネル22aおよび屋根構体18は、外板24の曲率に合わせて湾曲した骨材を、補強部材26間を架け渡すように溶接することによって、湾曲形状が安定し、パネル剛性を高めることができる。なお、本実施形態に係る成形方法は、同様にして腰パネル21a,21bの成形にも適用することができる。
【0023】
本実施形態に係る成形方法は、従来とは異なり、補強材26を溶接する際の入熱によって外板24に熱応力を生じさせ、当該熱応力によって外板24を予め定めた曲率に湾曲させることができるため、補強材26を溶接する前に外板24を湾曲させる工程を別途行う必要がなく、パネル成形効率をアップさせることができ、結果的にコスト低下を可能にする。
【0024】
また、補強材26を溶接する際の入熱による熱応力により外板24を湾曲させるため、外板24の補強材26を溶接した側とは反対側の面が伸張されることになり、溶接による筋状の突起と歪みが目立ちにくくなる。
【0025】
加えてレーザ溶接は、急速加熱および急速冷却を生じ、レーザ溶接による入熱量は外乱が入りにくく安定しているため、平板を予め定めた一定の曲率に高精度で湾曲させることができる。
【0026】
尚、本発明の金属材の接合方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0027】
例えば、上記実施形態においては、本発明の成形方法によって成形されたパネルを鉄道車両構体に適用する例を示したが、本発明の成形方法を適用するパネルは、バスや、タンク車等の特装車両や、車両以外の工業的用途にも適用することができる。また、鉄道車両構体およびパネルの材質をステンレス鋼としたが、軟鋼及び高張力鋼等の鉄系金属、アルミニウム合金等の非鉄金属、あるいはこれらの組み合わせを用いても良い。ただし、車両構体の剛性および軽量化の向上を考慮した場合、ステンレス鋼を用いることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るパネル成形方法が適用される鉄道車両構体の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るパネル成形方法が適用されたパネルの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】パネルの成形の手順を示す側面図である。
【図4】屋根構体を示す斜視図である。
【図5】屋根構体の成形途中の状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0029】
10…鉄道車両構体、12…台枠、14…側構体、16…妻構体、18…屋根構体、20…窓枠パネル、21a,21b…窓枠パネル、22a,22b…屋根パネル、24…外板(平板)、24A…外板(平板)の裏面(一面)、26…補強材、28…フランジ、30…溶接部、32…レーザビーム、34…溶接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板の一面側に補強材を溶接しつつ、前記溶接による入熱によって前記平板に熱応力を生じさせて前記平板を湾曲させるにあたって、前記平板の曲率を前記入熱量により決定するパネルの成形方法。
【請求項2】
前記溶接はレーザ溶接によって行う、請求項1に記載のパネルの成形方法。
【請求項3】
前記平板の一面上に配置される複数の前記補強材の間隔を変えることにより、前記曲率を変える、請求項1または2に記載のパネルの成形方法。
【請求項4】
前記入熱量は溶接速度により変化させる、請求項1または2に記載のパネルの成形方法。
【請求項5】
前記入熱量は溶接出力により変化させる、請求項1または2に記載のパネルの成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−260691(P2007−260691A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85529(P2006−85529)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】