説明

パラジウム、金、及び一定の第3金属を含んでなる触媒を利用して酢酸ビニルを調製する方法

【課題】エチレン、酸素及び酢酸を反応物とする反応による酢酸ビニル製造法の提供。
【解決手段】触媒有効量の金属パラジウム及び金、及び、第3金属であって、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ジルコニウム及びセリウムからなる群から選択される第3金属をその酸化物又はその酸化物とその金属の混合物としてその多孔性表面上に堆積させた多孔性支持体を含んでなり、二つの特定の方法のいずれかによって調製された触媒の使用。
【効果】上記触媒の使用により、比較的高い活性及び/又は低い重質生成物選択率の反応をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、エチレン、酸素及び酢酸の反応による酢酸ビニル製造のための新規で向上した触媒に関する。
【関連技術の説明を含む背景情報】
【0002】
キャリヤーに担持されたパラジウム及び金からなる触媒を用いて、エチレン、酸素及び酢酸の反応により酢酸ビニルを製造することは知られている。そのような触媒を利用する方法によって、比較的高水準の生産性で酢酸ビニルを製造することが可能であるが、更に高い生産性をもたらす何らかの手段は極めて望ましいであろう。
次の諸参考文献は、本願の請求項に係る発明に関連すると考えられる。
【0003】
どちらもKronigらへ1973年11月27日に発行された米国特許第3,775,342号及び1974年7月2日に発行された第3,822,308は、酢酸ビニルの触媒を作る方法であって、それぞれ支持体を、パラジウム及び金のような貴金属の溶解塩を含有する溶液A及びその支持体上でそれら貴金属塩と反応して非水溶性化合物を形成し得る化合物を含有する溶液Bで同時に又は逐次的に処理し、そのような非水溶性化合物を還元剤と処理してその非水溶性貴金属化合物をそれらのフリーの金属に転化し、その触媒を洗浄して水溶性化合物を除き、そして、その還元剤での処理の前又は後にアルカリ金属化合物、例えばカルボン酸アルカリ金属塩を適用することを含んでなる方法を開示している。溶液Aは、任意に、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び希土類元素などの他の金属の塩も含有することができる。
【0004】
1994年7月26日に発行されたNicolauらへの米国特許第5,332,710号は、エチレン、酸素及び酢酸の反応による酢酸ビニルの製造に有用な触媒を調製する方法であって、多孔性支持体をパラジウム及び金の水溶性塩で含浸し、その含浸した支持体を反応性溶液中に少なくとも1/2時間浸しかつ混転してそのような化合物を析出させることによってそのパラジウム及び金を不溶性化合物としてその支持体上に固定し、そして、続いてそれら化合物をそれらの金属状態に還元することを含んでなる方法を開示している。
【0005】
1996年10月22日に発行されたGulliverらへの米国特許第5,567,839号は、水酸化バリウムのようなバリウム“塩”を用いて非水溶性のパラジウム及び金の化合物を支持体上に析出させてから還元剤で還元する工程を含む酢酸ビニルの触媒を製造する方法を開示している。水酸化バリウムを沈殿剤として使用する場合、残余のバリウムは仕上がり触媒中に残存する。
【発明の要旨】
【0006】
本発明によれば、エチレン、酸素及び酢酸の反応による酢酸ビニルの製造に有用な触媒であって、触媒有効量の金属パラジウム及び金、及び第3金属であって、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ジルコニウム及びセリウムからなる群から選択される第3金属をその酸化物又はその酸化物とそのフリーの金属の混合物としてその多孔性表面上に堆積させた多孔性支持体を含んでなる触媒が提供され、前記触媒は、多孔性支持体をパラジウム及び前記第3金属の水溶性塩の水溶液で含浸する工程;前記パラジウム及び第3金属を適するアルカリ性化合物との反応により非水溶性化合物として固定する工程;続いて、その触媒を水溶性金塩の溶液で含浸する工程;後者の含浸において存在する溶液中の金を適するアルカリ性化合物との反応により非水溶性化合物として固定する工程;及び固定したパラジウム及び金をそれらの金属状態に、かつその固定した第3金属をその酸化物又はその酸化物とその金属の混合物に還元する工程を含んでなる方法(A);又はその支持体をパラジウム、金及び前記第3金属の水溶性塩の溶液で含浸する工程;その含浸した支持体を適するアルカリ性化合物の溶液に浸しながら回転及び/又は混転する(回転浸漬(roto-immersion))工程を含む手段によって、後者の溶液中のパラジウム、金及び第3金属を非水溶性化合物として固定する工程;及び、それら固定したパラジウム及び金をそれらの金属状態に、かつその第3金属をその酸化物又はその酸化物とその金属の混合物に還元する工程を含んでなる方法(B)のいずれかによって調製されたものである。
【0007】
本発明の下での触媒有効量のパラジウム、金及びいずれかの特定の第3金属を含有し方法(A)又は(B)によって調製される酢酸ビニル触媒は、そのような第3金属が含有されない触媒と比較した場合、種々の他の方法によって調製されたために本発明にしたがわない触媒に比べ、より一貫して高い活性を有し及び/又は重質生成物(heavy ends)に対するより低い選択率を有すると考えられる。というのは、本発明にしたがった触媒は、他の方法によって調製された触媒よりばらつきがなくかつ予測可能な組成を有すると共に、より高度な均質性を有するからと考えられる。そのようなより高い活性及び/又はより低い重質生成物選択率は、第3金属を使用しない場合より高い酢酸ビニル生産性をしばしばもたらす。
【発明の具体的な説明】
【0008】
方法(A)又は(B)を用いて本発明にしたがった触媒を調製するにあたって、その触媒支持体の材料は、球状、タブレット状、円柱状、環状、星形のもの、又は他の形状などのあらゆる種々の規則的又は不規則な形状を有する粒子で構成されてもよく、約1〜約10mm、好ましくは約3〜9mmの直径、長さ、又は幅などの寸法を有してもよい。約4〜約8mmの直径を有する球が好ましい。その支持体材料は、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、チタン酸塩、スピネル、炭化ケイ素又は炭素などのあらゆる適当な多孔性物質で構成されてもよい。
【0009】
その支持体材料は、例えば、約10〜約350、好ましくは約100〜約200m2/gの範囲内の表面積、例えば、約50〜約2000オングストロームの範囲の平均孔寸法、及び例えば、約0.1〜2、好ましくは約0.4〜約1.2mL/gの範囲で孔体積を有してもよい。
【0010】
触媒活性があると考えられる金属の水溶性塩でその支持体材料の含浸を行なうにあたって、塩化パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)カリウム、硝酸パラジウム(II)又は硫酸パラジウム(II)が適する水溶性パラジウム化合物の例であり、一方、塩化金(III)又はテトラクロロ金(II)酸のアルカリ金属、例えば、ナトリウム又はカリウム塩が使用され得る水溶性金化合物の例である。その触媒にいずれの第3金属が望まれるかに依存するが、次の水溶性塩がそのような第3金属の含浸に使用され得る化合物の例である:硫酸マグネシウム(無水物又は水和物)、酢酸マグネシウム(無水物又は水和物)、塩化マグネシウム(無水物又は水和物)、又は硝酸マグネシウム(水和物);塩化カルシウム(無水物又は水和物)、酢酸カルシウム(無水物又は一水和物)、又は硝酸カルシウム(無水物又は水和物);酢酸バリウム(無水物又は水和物)、又は硝酸バリウム(無水物);硫酸ジルコニウム四水和物、塩化ジルコニウム、又は硝酸ジルコニウム(無水物又は五水和物);又は硝酸セリウム(水和物);塩化セリウム(無水物)、硫酸セリウム(無水物又は水和物)、又は酢酸セリウム(無水物又は水和物)。
【0011】
方法(A)又は(B)によりその触媒を調製するにあたって、その支持体材料の触媒活性のある金属の水溶性塩の溶液での含浸は、当業者に知られたあらゆる方法によって行なわれ得る。しかし、好ましくは、そのような含浸は、その含浸に使用される水溶性塩溶液の量が支持体材料の吸収能の約95〜約100%である“初期湿潤”(incipient wetness)法によって達成される。方法(A)又は(B)で行なわれる最初の含浸において、仕上がり触媒中のこれら金属の全量に等しい量のパラジウム及び第3金属の水溶性塩が存在してよいが、方法(B)で行なわれる最初の含浸又は方法(A)におけるパラジウムと第3金属の以下で説明する固定後の金塩を含有する最初の含浸における水溶性金塩の量が仕上がり触媒中に望まれる元素状態の金の一部だけを含有することがしばしば有利である。どちらの場合も、水溶性金塩の溶液での最初の含浸におけるその一部の金の以下で説明する固定の後に、仕上がり触媒中で望まれる残りの金に等しい金塩の溶液での更なる含浸が行なわれる。それら含浸は、仕上がり触媒のリットル当たり、例えば、約1〜約10グラムの元素状態のパラジウム;及び例えば、約0.5〜約10グラムの元素状態の金にパラジウムの重量基準で約10〜約125重量%である量の金を提供するようなものである。その触媒にいずれの第3金属が望まれるかに依存するが、そのような第3金属はただ一つ存在すると仮定すると、その含浸によって提供される元素状態の第3金属の触媒のリットル当たりのグラム数は、例えば、次の範囲内であってよい。
マグネシウム:約0.1〜約2.0、好ましくは約0.3〜約1.0;
カルシウム:約0.2〜約4.0、好ましくは約0.5〜約1.5;
バリウム:約0.2〜約5.0、好ましくは約0.6〜約3.0;
ジルコニウム:約0.4〜約7.0、好ましくは約1.0〜約3.0;
セリウム:約0.5〜約10.0、好ましくは約1.8〜約5.0。
【0012】
触媒活性のある金属の水溶性塩の水溶液での支持体の各含浸の後、その金属は“固定”される。すなわち、水溶液中の適するアルカリ性化合物、例えば、アルカリ金属水酸化物、ケイ酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩又は重炭酸塩との反応により水酸化物のような非水溶性化合物として析出される。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムは好ましいアルカリ性固定用化合物である。そのアルカリ性化合物は、触媒活性のある金属の存在する陽イオンを完全に析出させるのに必要な量の、例えば、約1〜約2、好ましくは約1.1〜約1.8倍量で存在するべきである。
【0013】
触媒調製の方法(A)において、金属の各固定は、含浸した支持体を、例えば、約150℃の温度で1時間乾燥させ、その支持体の気孔体積の約95〜100%に等しい量のアルカリ性物質の溶液に接触させ、そして約1/2時間〜約16時間放置しておく初期湿潤法;又は、含浸した支持体を乾燥させずにアルカリ性物質の溶液に浸し、そして、析出した水溶性化合物の薄い帯がそれら支持体粒子の表面又は表面近傍に形成されるような析出の少なくとも初期の間、回転及び/又は混転する回転浸漬法によってなされてもよい。方法(B)において、最初の含浸によって添加されたパラジウム及び第3金属の塩中のそれら金属の固定は、回転浸漬法によってなされなければならない。しかし、次に続くいずれかの含浸において添加される水溶性金塩中のその金の固定は、初期湿潤法又は回転浸漬法によって達成されてもよい。回転浸漬法により金属の固定を行なうにあたって、その回転及び混転は、例えば、約1〜約10rpmで、例えば、少なくとも約0.5時間、好ましくは約0.5〜約4時間行なわれてもよい。考えられる回転浸漬法は先に引用した米国特許第5,332,710号に開示されており、その全体の開示は参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0014】
固定した、すなわち析出したパラジウム、金及び第3金属の化合物は、それら固定した金属化合物を含有する触媒をハロゲン化物のような陰イオンがなくなるまで最初に洗浄し、そして、例えば、150℃で約1時間乾燥した後、例えば、エチレンを有する気相中で、例えば、窒素中5%で150℃において5時間還元されてもよく、又は、そのような還元は、洗浄及び乾燥の前に、その支持体上に存在する全ての金属化合物を還元するために必要とされるよりも過剰のヒドラジン、例えば、約8:1〜約15:1の範囲である抱水ヒドラジンの水溶液で液相中室温において達成され、その後に洗浄及び乾燥を行なうことができる。その支持体上に存在するそれら固定された金属化合物を還元するための当技術分野において慣例的なものとしての他の還元剤及び手段を使用してもよい。それら固定したパラジウム及び金の化合物の還元は主に、そのフリーの金属の形態をもたらし、少量の金属酸化物も存在してよいが、一方、その固定した第3金属の還元は、一般に還元条件といずれの第3金属が存在するかに依存して、その酸化物又はその酸化物とそのフリーの金属の混合物の形成をもたらす。一より多い含浸及び固定工程を用いて調製するにあたって、還元は各固定工程の後又はそれら金属元素の全てがその支持体上に固定された後に行なわれてもよい。
【0015】
方法(A)の好ましい態様においては、先に説明した具体的手順を用いて、その支持体はパラジウム及び第3金属の水溶性化合物の水溶液で初期湿潤法により最初に含浸され、それから、それらパラジウム及び第3金属は初期湿潤法又は回転浸漬法、好ましくは回転浸漬法によるアルカリ性固定用溶液での処理により固定される。次いで、その触媒は乾燥され、そしてその触媒に望まれる元素状態の金の量を有する溶解性金化合物の溶液で別に含浸され、その金は初期湿潤法又は回転浸漬法、好ましくは初期湿潤法によるアルカリ性固定用溶液での処理により固定される。その金を初期湿潤法により固定しようとする場合は、溶解性金化合物と、その溶液中の全ての金を固定された不溶性金化合物、例えば、水酸化金に転化するために必要な量より過剰な量のアルカリ性固定用化合物との単一の水溶液を用いることにより、そのような固定を含浸工程と組み合わされてもよい。エチレンのような炭化水素又は水素を気相において還元剤として用いようとする場合は、それら固定した金属化合物を含有する触媒は溶解した陰イオンがなくなるまで洗浄され、乾燥され、そして、先に説明したように、エチレン又は他の炭化水素で還元される。ヒドラジンを液相において還元剤として用いようとする場合は、それら固定した金属化合物を含有する触媒は洗浄と乾燥の前に過剰の抱水ヒドラジンの水溶液で処理されてそれら金属化合物はそれらのフリーの金属に還元され、次いでその触媒は説明したように洗浄され乾燥される。
【0016】
一部の金だけが最初の含浸においてパラジウム及び第3金属で含浸される方法(B)の好ましい態様においては、それら金属はアルカリ性固定用化合物との反応により回転浸漬法によって固定され、それら固定された金属化合物は、例えば、エチレン又は抱水ヒドラジンでそれらのフリーの金属に還元され、エチレン還元の前又はヒドラジン還元の後に洗浄と乾燥が行われる。次いで、その触媒はその触媒上に固定された金の残余の金で先に説明したいずれかの手順を用いて含浸される。好ましくは、その含浸及び固定は、水溶性金化合物及び適するアルカリ性化合物の単一溶液を用いて初期湿潤法により単一工程で達成される。次いで、添加され固定された金は、先に説明したように、洗浄及び乾燥の前又は後に、例えば、エチレン又はヒドラジンで還元される。
【0017】
金属形態のパラジウム及び金、及び、酸化物又は酸化物と金属の混合物として支持体材料上に堆積された第3金属を含有する触媒がいずれかの先の方法によって調製された後、その触媒はアルカリ金属の酢酸塩、好ましくは酢酸カリウム又はナトリウム、及び最も好ましくは酢酸カリウムの溶液で更に含浸されるのが有利である。次いで、その触媒を乾燥すると、その仕上がり触媒が、例えば、仕上がり触媒のリットル当たり約10〜約70、好ましくは約20〜約60グラムのアルカリ金属酢酸塩を含有するようになる。
【0018】
本発明による触媒を、1種類のみの“第3”金属を含有するものとして説明してきたが、1種類より多いそのような金属が実際に存在し得る。少なくとも2のそのような説明した“第3”金属がその触媒に望まれる場合、仕上がり触媒中にそのような金属を提供できるように、最初の含浸溶液はこれら金属の溶解塩を含有するであろう。それら各々の金属の上限及び下限は、1種類のみの“第3”金属が存在すると仮定して先に定義した上限及び下限の範囲内でそれらの構成画分となる。そのような構成画分は、その触媒中の第3金属全量を構成する画分と同じであり、個々の“第3”金属のことである。
【0019】
本発明による触媒を用いて酢酸ビニルを調製する場合、エチレン、酸素又は空気、酢酸、及び望ましくはアルカリ金属酢酸塩を含有するガスの流れがその触媒上を通過する。ガス流の組成は爆発限界を考慮して広い範囲で変動してもよい。例えば、エチレンの酸素に対するモル比は約80:20〜約98:2、酢酸のエチレンに対するモル比は約100:1〜約1:100、好ましくは約10:1〜約1:8であることができ、そしてガス状アルカリ金属酢酸塩の含有量は使用される酢酸の重量基準で約1〜約100ppmであり得る。アルカリ金属酢酸塩は、都合のよいことにはそのような酢酸塩の水溶液のスプレーとしてその供給流れに添加されることができる。ガス流は、窒素、二酸化炭素、及び/又は飽和炭化水素などの他の不活性ガスも含有し得る。用いることができる反応温度は、高温、好ましくは約150〜220℃の範囲の温度である。使用される圧力は、やや減圧、常圧又は高圧、好ましくは約20気圧ゲージまでの圧力であり得る。
次の非制限的な例は本発明を更に説明するものである。
【実施例】
【0020】
実施例1〜5及び比較例A
これらの実施例は、本発明の下での方法(A)による触媒の調製及び酢酸ビニルの製造におけるより高い活性及び/又はより低い重質生成物選択率に関するそのような触媒の利点を示すものである。
【0021】
対照として役立つ比較例Aにおいて、5mmの表示値径、約160〜175m2/gの表面積、及び約0.68mL/gの気孔体積を有するSud Chemie KA-160シリカ球からなる支持体材料を、まず、触媒のリットル当たり約7gの元素状態のパラジウムを提供するのに十分な塩化パラジウム(II)ナトリウムの水溶液で初期湿潤法により含浸した。次いで、その触媒をNa/Clモル比が約1.2:1であるような水酸化ナトリウム水溶液で回転浸漬法により処理することにより、そのパラジウムを水酸化パラジウム(II)としてその支持体に固定した。次いで、その触媒を100℃で1時間流動乾燥機で乾燥し、続いてその触媒に4g/Lの元素状態の金を提供するのに十分な量のテトラクロロ金酸ナトリウム、及び、Na/Clモル比が約1.8:1であるような水酸化ナトリウムの水溶液で初期湿潤法により含浸し、その金を水酸化金としてその支持体上に固定した。次いで、その触媒を塩化物がなくなるまで(約5時間)水洗し、150℃で約1時間窒素流中において乾燥した。次いで、その触媒を気相において150℃で5時間エチレン(窒素中5%)と接触させることにより、それらパラジウム及び金の水酸化物をそれらのフリーの金属に還元した。最後に、その触媒を触媒リットル当たり40グラムの酢酸カリウムを提供するのに十分な量の酢酸カリウムの水溶液で初期湿潤法により含浸し、そして流動乾燥機で100〜150℃で1時間乾燥した。
【0022】
実施例1〜5においては、塩化パラジウム(II)ナトリウムの溶液が、後で水酸化(II)パラジウムと共に水酸化物としてその支持体上に固定され、そして金属のパラジウム及び金と共にその酸化物又はその酸化物とその金属の混合物にエチレンで還元される第3金属の溶解塩を変動量で更に含有したことを除いては、比較例Aの手順にしたがった。第3金属は、それぞれ、硫酸マグネシウム(実施例1)、塩化カルシウム(実施例2)、塩化バリウム(実施例3)、硫酸ジルコニウム(実施例4)、及び硝酸セリウム(実施例5)であった。
【0023】
実施例1〜5に記載した通りに調製した触媒を、エチレン、酸素及び酢酸の反応による酢酸ビニルの製造におけるそれらの活性について試験した。この試験を行なうために、諸実施例において調製した約60mLの各タイプの触媒を別々のステンレス鋼製ワイヤーバスケットに配置した。各バスケットの温度を、各バスケットの頂部と底部の両方で熱電対により測定した。各反応バスケットを再循環タイプのBerty連続攪拌槽反応器の中に配置し、電気加熱マントルで約45%酸素転化率を提供する温度に維持した。約130L/hr(標準状態で測定)のエチレン、約26L/hrの酸素、約128L/hrの窒素、約131g/hrの酢酸、及び約2mg/hrの酢酸カリウムのガス混合物を、約12気圧の圧力下で各バスケットを通して通過させた。その反応は約18時間後に終了した。それら生成物の分析は、その生成物の流れを約10℃で凝縮することによりオフライン液体生成物分析を併用して、オンラインガスクロマトグラフィー分析により行ない、それら最終生成物の最適な分析値を得た。
【0024】
表1は、7g/Lのパラジウム及び4g/Lの金に加えてそれら触媒中の元素状態の第3金属の種類及び触媒1リットル当たりの量(3rd Met.,g/L)、及び、CO2(CO2,%Sel.)及び重質生成物(HE,%Sel.)のパーセント選択率及び活性因子として表現したその反応の比活性(Act.)に関する反応生成物の分析結果を各実施例について示しており、活性因子は次の方法でコンピュータ計算した:コンピュータプログラムは、活性因子を触媒温度(反応の間)、酸素転化率、及び酢酸ビニル合成の間に起こる諸反応についての一連の動力学的パラメータに相関させる一連の等式を使用する。より一般的には、その活性因子は一定の酸素転化率を達成するのに必要とされる温度に逆比例している。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、方法(A)によって各々調製され、かつ一定量のパラジウム及び金に加え特定の1種類の第3金属を含有する実施例1〜5の触媒は、同量のパラジウム及び金を含有するが第3金属を全く含有しない比較例Aの触媒より高い活性因子を有する反応をもたらした。そのうえ、マグネシウム、バリウム、及びセリウムをそれぞれの第3金属として含有する実施例1、3及び5の触媒は、その触媒が第3金属を全く有さない比較例Aの反応よりも、有意に低い重質生成物選択率をも有する反応をもたらした。
【0027】
実施例6,7及び8
これらの実施例は、本発明の下での方法(B)による触媒の調製及び酢酸ビニル製造におけるそのような触媒の使用の結果を実施例1〜5の触媒について示したものと同様の観点から示すものである。
比較例A及び実施例1〜5において使用したものと同様の支持体を、まず、7グラムの元素状態のパラジウム、4グラムの元素状態の金、及び変動量の元素状態の第3金属を提供するのに十分なパラジウム、金及び第3金属の塩の溶液で初期湿潤法により含浸した。使用したパラジウム及び金の塩は先の実施例におけるものと同様で、それら第3金属の塩は実施例6では硫酸マグネシウム、実施例7では塩化カルシウム、及び実施例8では塩化バリウムであった。次いで、それら金属を、パラジウム、金、及び第3金属を析出させるのに必要な量の水酸化ナトリウムの約120%の水溶液中で回転浸漬法により固定し、それらの金属を、12:1というヒドラジンの金属に対する過剰重量比の抱水ヒドラジンの水溶液を用いて液相において還元した。還元の後、その触媒を塩化物がなくなるまで洗浄し(約5時間)、100℃で1時間流動乾燥機で乾燥してから、追加の3g/Lの元素状態の金(合計7)をそれら触媒に供給するのに十分な金塩、及びNa/Clのモル比が約1.8:1であるような水酸化ナトリウムの水溶液で初期湿潤法により含浸し、追加の金を固定した。次いで、その追加の金を先に記載したように液相において抱水ヒドラジンで還元し、その触媒を比較例Aにおいて説明したように、洗浄し、乾燥し、そして酢酸カリウムで含浸した。次いで、それら触媒を、先の実施例で説明したように、酢酸ビニル製造におけるそれらの機能について試験した。
【0028】
表2は、各々7g/Lのパラジウム及び金に加えて触媒中の第3金属の種類及び量を示し、及びエチレンの二酸化炭素及び重質生成物に対するパーセント選択率、及び活性因子の観点からの反応の結果も示すものである。
【0029】
【表2】

【0030】
表2の結果は、実施例6,7及び8の第3金属含有触媒が、エチレン、酢酸、及び酸素からの酢酸ビニル製造において比較的高い活性因子及び/又は低い重質生成物選択率で機能したことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン、酸素及び酢酸を反応物とする反応により酢酸ビニルを製造する方法であって、前記反応物を触媒と接触させることを含んでなり、前記触媒が、多孔性支持体の多孔性表面上に金属パラジウムと金及び第3金属が堆積されたその多孔性支持体を含んでなり、前記触媒が、多孔性支持体を、パラジウムの水溶性塩、金の水溶性塩、及び前記第3金属であってマグネシウム、カルシウム、バリウム、及びセリウムからなる群から選択されるものの水溶性塩の溶液で含浸する工程;該含浸した支持体をアルカリ性化合物の溶液に浸しながら回転及び/又は混転する工程を含む手段によって、後者の溶液中のパラジウム、金及び第3金属を非水溶性化合物として固定する工程;及び、該固定したパラジウム及び金をそれらの金属状態に、かつ該第3金属をその酸化物又はその酸化物とその金属との混合物に還元する工程を含んでなる方法によって調製されたものである方法。
【請求項2】
前記第3金属がマグネシウムである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第3金属がカルシウムである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記第3金属がバリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第3金属がセリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記第3金属がジルコニウムである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
該パラジウム、金、及び第3金属を固定するためにアルカリ性化合物の溶液に浸された該含浸した支持体を回転及び/又は混転する工程が、少なくとも約0.5時間継続される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記含浸液が、元素状態のパラジウム及び第3金属の全てと仕上がり触媒に望まれる元素状態の金の一部のみを含有し;前記含浸液中の前記触媒活性のある金属の前記固定及び還元の後、金塩の形態で溶解した該触媒中に望まれる残りの元素状態の金及び該添加した金を非水溶性化合物として固定するのに十分な量のアルカリ性化合物を含有する別の溶液で該触媒を含浸し;そして前記添加され固定された金をその金属状態に還元するように前記触媒調製方法が行なわれる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
該触媒中の全てのパラジウム、金及び第3金属を還元した後に、該触媒上に堆積させたアルカリ金属酢酸塩を含有させた、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属酢酸塩が酢酸カリウムである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
酢酸カリウムが前記反応物と一緒に該反応に送給される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
エチレン、酸素及び酢酸を反応物とする反応により酢酸ビニルを製造するための、多孔性支持体の多孔性表面上に金属パラジウムと金及び第3金属が堆積されたその多孔性支持体を含んでなる触媒であって、多孔性支持体を、パラジウムの水溶性塩、金の水溶性塩、及び前記第3金属であってマグネシウム、カルシウム、バリウム、及びセリウムからなる群から選択されるものの水溶性塩の溶液で含浸する工程;該含浸した支持体をアルカリ性化合物の溶液に浸しながら回転及び/又は混転する工程を含む手段によって、後者の溶液中のパラジウム、金及び第3金属を非水溶性化合物として固定する工程;及び、該固定したパラジウム及び金をそれらの金属状態に、かつ該第3金属をその酸化物又はその酸化物とその金属との混合物に還元する工程を含んでなる方法によって調製される触媒。
【請求項13】
前記第3金属がマグネシウムである、請求項12記載の触媒。
【請求項14】
前記第3金属がカルシウムである、請求項12記載の触媒。
【請求項15】
前記第3金属がバリウムである、請求項12記載の触媒。
【請求項16】
前記第3金属がセリウムである、請求項12記載の触媒。
【請求項17】
前記第3金属がジルコニウムである、請求項12記載の触媒。
【請求項18】
該パラジウム、金、及び第3金属を固定するためにアルカリ性化合物の溶液に浸された該含浸した支持体を回転及び/又は混転する工程が、少なくとも約0.5時間継続される、請求項12記載の触媒。
【請求項19】
前記含浸液が、元素状態のパラジウム及び第3金属の全てと仕上がり触媒に望まれる元素状態の金の一部のみを含有し;前記含浸液中の前記触媒活性のある金属の前記固定及び還元の後、金塩の形態で溶解した該触媒中に望まれる残りの元素状態の金及び該添加した金を非水溶性化合物として固定するのに十分な量のアルカリ性化合物を含有する別の溶液で該触媒を含浸し;そして前記添加され固定された金をその金属状態に還元するように前記触媒調製方法が行なわれる、請求項16記載の触媒。
【請求項20】
該触媒中の全てのパラジウム及び金をそれらの金属状態に還元し、かつ第3金属をその酸化物又はその酸化物とその金属の混合物に還元した後に、該触媒上に堆積させたアルカリ金属酢酸塩を含有させた、請求項12記載の触媒。
【請求項21】
前記アルカリ金属酢酸塩が酢酸カリウムである、請求項20記載の触媒。

【公開番号】特開2009−108094(P2009−108094A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322989(P2008−322989)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【分割の表示】特願2000−518784(P2000−518784)の分割
【原出願日】平成10年10月12日(1998.10.12)
【出願人】(500175107)セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション (77)
【Fターム(参考)】