説明

パラジウム含有担持触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するための触媒、その触媒の製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】パラジウム、ビスマスおよびモリブデンを含有するパラジウム含有担持触媒を製造し、α,β−不飽和カルボン酸の製造に用いる。このパラジウム含有担持触媒は、ビスマスおよび/またはモリブデンを担体に担持した後に、残りの触媒構成成分を担持する方法で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β−不飽和カルボン酸は工業上有用な物質が多い。例えば、アクリル酸やメタクリル酸は合成樹脂原料などの用途に極めて大量に使用されている。
【0003】
α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化して製造する方法について研究がされている。オレフィンを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒として、パラジウム含有担持触媒が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、パラジウムと、ビスマス等の金属元素との金属間化合物を含有するパラジウム含有担持触媒が提案されている。また、この文献ではモリブデン化合物の水溶液と前記触媒の存在下でオレフィンを酸化することを特徴としている。
【0005】
特許文献2では、モリブデン等の金属元素の酸化物を含むシリカ担体にパラジウムを担持させたパラジウム含有担持触媒が提案されている。また、この文献には触媒にビスマスやテルル等が含まれてもよいことが記載されている。
【0006】
特許文献3では、触媒にモリブデン等の金属化合物を担持させる方法や担持型触媒の担体にモリブデン等の金属化合物を担持させる方法等で、反応系中にモリブデン化合物を存在させながらパラジウムおよびテルルを含有する触媒の存在下で液相酸化を行うことが記載されている。また、この文献には触媒にビスマス等が含まれてもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−59722号公報
【特許文献2】特開2009−29729号公報
【特許文献3】特開2007−203284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に触媒の開発に際して考慮される事項としては、触媒反応に使用した場合の目的化合物の生産性が挙げられるが、必ずしも生産性だけで触媒が選定される訳ではない。それ以外に考慮されることとしては、触媒構成元素の原料の価格、供給安定性、および取扱い性などが挙げられる。
【0009】
そして、オレフィン等を分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒として、このような事項を考慮して開発されたものが、従来から知られているパラジウム触媒であり、上記の特許文献1〜3に記載された組成のパラジウム含有触媒である。しかしながら、工業的にはそのようにして開発された各触媒について生産性をさらに高めることが望まれている。
【0010】
従って本発明の目的は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するための触媒、その触媒の製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒であって、パラジウム、ビスマスおよびモリブデンを含有するパラジウム含有担持触媒である。さらに、触媒構成元素としてテルルを含有することが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記のパラジウム含有担持触媒を製造する方法であって、ビスマスおよび/またはモリブデンを担体に担持した後に、残りの触媒構成成分を担持するパラジウム含有担持触媒の製造方法である。
【0013】
さらに本発明は、前記のパラジウム含有担持触媒を用いて、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するためのパラジウム含有担持触媒、その触媒の製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のパラジウム含有担持触媒(以後、略して「触媒」ともいう。)は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する(以後、略して「液相酸化」ともいう。)ための触媒であって、パラジウム、ビスマスおよびモリブデンを含有する。触媒中にビスマス、モリブデンを含有することで、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造することが可能な触媒が得られる。
【0016】
触媒中のパラジウム元素1モルに対するビスマス元素のモル数、すなわちビスマス元素とパラジウム元素のモル比(「Bi/Pd」と略すこともある。)は0.001〜1が好ましく、0.002〜0.5がより好ましく、0.01〜0.3がさらに好ましい。
【0017】
また、触媒中のパラジウム元素1モルに対するモリブデン元素のモル数、すなわちモリブデン元素とパラジウム元素のモル比(「Mo/Pd」と略すこともある。)は0.001〜10が好ましく、0.002〜2.0がより好ましく、0.01〜1.0がさらに好ましい。
【0018】
高い触媒活性を発現させる観点から、触媒に含まれる触媒構成元素のうち、パラジウム元素、ビスマス元素およびモリブデン元素の合計が25モル%以上であることが好ましく、35モル%以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明の触媒は、さらにテルル元素を含有することが好ましい。触媒中のパラジウム元素1モルに対するテルル元素のモル数、すなわちテルル元素とパラジウム元素のモル比(「Te/Pd」と略すこともある。)としては、0.001〜1が好ましく、0.005〜0.5がより好ましく、0.01〜0.3がさらに好ましい。高い触媒活性を発現させる観点から、触媒に含まれる触媒構成元素のうち、パラジウム元素、ビスマス元素、モリブデン元素およびテルル元素の合計が25モル%以上であることが好ましく、35モル%以上であることがより好ましい。
【0020】
Bi/Pd、Mo/PdおよびTe/Pdは、触媒の製造に使用するパラジウム元素を含む化合物、ビスマス元素を含む化合物、モリブデン元素を含む化合物、およびテルル元素を含む化合物の配合比等により調整可能である。なお、本明細書において、パラジウム含有触媒の製造に使用するパラジウム元素を含む化合物を「Pd原料」、ビスマス元素を含む化合物を「Bi原料」、モリブデン元素を含む化合物を「Mo原料」、テルル元素を含む化合物を「Te原料」ともいう。
【0021】
Bi/Pd、Mo/PdおよびTe/Pdは、触媒に含まれるビスマスとパラジウムの質量および原子量、モリブデンとパラジウムの質量および原子量、テルルとパラジウムの質量および原子量からそれぞれ算出できる。触媒に含まれるパラジウム、ビスマス、モリブデンおよびテルルの質量は元素分析により定量できる。また、ポアフィリング法や浸漬担持法のようにPd原料、Bi原料、Mo原料およびTe原料に含まれるパラジウム、ビスマス、モリブデンおよびテルルの実質的に全量が触媒に含まれる方法で触媒を製造した場合には、使用するPd原料のパラジウム含有率と配合量、使用するBi原料のビスマス含有率と配合量、使用するMo原料のモリブデン含有率と配合量、使用するTe原料のテルル含有率と配合量から各元素の質量を算出してもよい。触媒の担持率は、前記の方法等で求められる各元素の質量と使用する担体の質量から算出できる。
【0022】
元素分析法による触媒中のパラジウム元素、ビスマス元素およびモリブデン元素の質量の定量方法としては次のA処理液とB処理液を調製して分析する方法が例示できる。テルル等のそれ以外の元素も同様に測定できる。
【0023】
A処理液の調製:触媒0.2gおよび濃硝酸、濃硫酸、過酸化水素水をテフロン(登録商標)製分解管にとり、マイクロ波加熱分解装置(CEM社製、MARS5(商品名))で溶解処理を行った。試料をろ過し、ろ液および洗浄水を合わせてメスフラスコにメスアップし、A処理液とする。
【0024】
B処理液の調製:A処理での不溶解部を集めたろ紙を白金製ルツボに移し加熱・灰化した後、メタホウ酸リチウムを加えてガスバーナーで溶融した。冷却後に塩酸と少量の水をルツボに入れて溶解後、メスフラスコにメスアップし、B処理液とする。
【0025】
得られたA処理液およびB処理液に含まれるパラジウム、ビスマスおよびモリブデンの各質量を、ICP発光分析装置(サーモエレメンタル社製、IRIS−Advantage(商品名))で定量し、両処理液中の元素毎の質量合計から触媒中の各元素の質量を求めることができる。
【0026】
また、本発明の触媒の担体としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等を挙げることができる。中でもシリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニアがより好ましく、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが特に好ましい。担体は1種でもよいが、2種以上を用いることもできる。2種以上を用いる場合は、例えば、シリカとアルミナを混合して得られる混合酸化物等の混合物、複合酸化物であるシリカ−アルミナ等の複合物等が挙げられる。
【0027】
担体の好ましい比表面積は担体の種類等により異なるので一概に言えないが、シリカの場合、50m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましい。また1500m/g以下が好ましく、1000m/g以下がより好ましい。担体の比表面積は、小さいほど有用成分(パラジウム元素、ビスマス元素およびモリブデン元素)がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
【0028】
担体の細孔容積は特に限定されないが、0.1cc/g以上が好ましく、0.2cc/g以上がより好ましい。また2cc/g以下が好ましく、1.5cc/g以下がより好ましい。
【0029】
担体の形状やサイズは、α,β−不飽和カルボン酸の製造に用いる反応装置の形状、サイズ等によって好ましい形態が異なり、特に制限されないが、例えば、粉末状、粒状、球状、ペレット状など種々の形状が挙げられる。中でもろ別等の操作性が容易な粒状、球状が好ましい。担体が粉末状や粒状の場合の粒径(メディアン径)は、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。担体の粒径は大きいほど触媒と反応液の分離が容易になり、小さいほど反応液中における触媒の分散性がよくなる。
【0030】
担体に対するパラジウム元素の担持率は、担持前の担体質量に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1.0〜20質量%がさらに好ましい。
【0031】
担持率は、前記の方法等で求められる各元素の質量と使用する担体の質量から算出できる。また、担体の質量は、次のような方法で定量することもできる。すなわち、触媒を白金るつぼに取り、炭酸ナトリウムを加えて融解する。その後、蒸留水を加えて均一溶液として、ICP発光分析で試料溶液中の特定元素の定量をする。例えばシリカ担体の場合、ケイ素元素を定量する。
【0032】
本発明の触媒は、パラジウム元素、ビスマス元素、モリブデン元素およびテルル元素以外の、その他の金属元素を触媒構成元素として含んでいてもよい。その他の金属元素としては、例えば、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、オスミウム、バナジウム、タングステン、銅、鉛、タリウム、水銀、アンチモン等が挙げられる。他の金属元素は1種または2種以上含有することができる。
【0033】
本発明の触媒の製造方法について説明する。
【0034】
触媒を製造する方法としては、例えば、(1)酸化状態の金属元素を含む原料を担体上に担持してから還元剤を接触させて金属元素を還元する方法、(2)酸化状態の金属元素を含む原料の溶液またはスラリーと担体が接触している状態で還元剤を接触させて溶液またはスラリー中の金属元素を還元すると同時に担持する方法、(3)(2)の方法を実施した後、さらに他の原料を添加する方法等が挙げられる。中でも金属の分散度が高い触媒が得られ易い(1)の触媒の製造方法が好ましい。
【0035】
(1)の触媒の製造方法としては、Pd原料、Bi原料、Mo原料、Te原料およびその他の原料(以後、「金属原料」ともいう。)の1種または2種以上を溶媒に溶解または分散した溶液またはスラリーを担体に含浸した後、還元剤を接触させて酸化物を還元する方法が挙げられる。また、その還元に先立って加熱処理して金属酸化物として担体に担持し、次いで還元剤を接触させて酸化物を還元する方法が好ましい。特に、Bi原料および/またはMo原料を担体に担持してから加熱処理を行うことによってビスマスおよび/またはモリブデンの酸化物を担持した後に、Pd原料を含む残りの触媒構成元素の原料を担持してから加熱処理を行うことによってパラジウム等の酸化物を更に担持し、得られた触媒前駆体に還元剤を接触させて担持されているパラジウム等の酸化物を還元する方法が好ましい。
【0036】
溶液またはスラリーを担体に含浸する操作は、金属原料を含む溶液またはスラリーを用いて1度だけ行うこともできるが、複数の溶液またはスラリーを用いて複数回行うこともできる。複数回行う場合は、2回目以降の含浸操作は前回の加熱処理後または還元処理後のいずれに行ってもよい。
【0037】
加熱処理の温度は原料が酸化物に変化する分解温度以上とすることが好ましく、また800℃以下が好ましい。加熱処理の時間は金属原料の少なくとも一部が金属酸化物に変化する時間であればよく、1〜12時間が好ましい。
【0038】
(2)の触媒の製造方法としては、例えば、金属原料の1種または2種以上を前述したように溶媒に溶解または分散した溶液またはスラリーを担体に含浸させた状態で還元剤を接触させて金属原料を還元する方法、溶液またはスラリー中に担体を分散させた状態で還元剤を接触させて金属原料を還元する方法等が挙げられる。
【0039】
還元剤を接触させる操作は、全ての金属原料を含む溶液またはスラリーを用いて1度だけ行うこともできるが、一部の金属原料を含む複数の溶液またはスラリーを用いて複数回行うこともできる。複数回行う場合は、2回目以降の還元処理では前回の還元処理した担体を使用する。金属元素を担持する順序は特に限定されない。
【0040】
(3)の触媒の製造方法としては、例えば、担体の存在下で金属原料を還元剤で還元した後の溶液またはスラリーに、別途、他の金属原料を水などの溶媒に溶解または分散させた溶液またはスラリーを添加する手法が好ましい。添加する溶液またはスラリーの溶媒としては、水が一般的であるが、前途したような種々の有機溶媒等を用いてもよい。他の金属原料を添加した後に、再度還元剤を添加して還元してもよい。
【0041】
還元処理を複数回行う場合、還元剤の種類、還元温度および時間、液相で行う際の溶媒の種類等は、各回毎に独立して適宜設定できる。
【0042】
還元の際に用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタクリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。中でもヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。また、これらを2種以上併用することもできる。
【0043】
液相中で還元する際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水の混合溶媒を用いることもできる。
【0044】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を上げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが望ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧することが好ましい。その圧力は0.1〜1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)が好ましい。
【0045】
また、還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、還元する原料1モルに対して1モル〜100モルとすることが好ましい。
【0046】
還元温度および還元時間は、還元する原料や還元剤等により異なるが、還元温度は−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0047】
還元を必要としない金属原料を用いて担持型触媒を製造する場合は、上記の還元を終えた担体に、その金属原料を担持させればよい。
【0048】
上記Pd原料、Bi原料、Mo原料およびTe原料の担持、加熱、混合および還元処理の全ての工程は同時、または任意の順序で行うことができる。また、その場合にはPd原料の加熱工程の後に還元工程を行うことが好ましい。
【0049】
得られた触媒は、水、有機溶媒等で洗浄することが好ましい。水、有機溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の金属原料等に由来する不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によっては液相酸化反応を阻害する恐れがあるため不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。また、パラジウム化合物の還元、ビスマス化合物の還元、モリブデン化合物の還元およびテルル化合物の混合若しくは還元を別工程で行う場合、その工程間で洗浄を行うことも好ましい。
【0050】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で乾燥することが好ましい。乾燥された触媒は、必要に応じて反応に使用する前に活性化することもできる。活性化の方法は特に限定されないが、例えば、水素気流中の還元雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば触媒構成元素の表面の酸化被膜および洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。調製した触媒の物性は、BET表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM測定等により確認できる。調製した触媒の物性は、BET表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM測定等により確認できる。
【0051】
触媒の製造に使用するPd原料としては、酸化状態のパラジウム元素を含むパラジウム化合物が好ましく、例えば、パラジウム塩、酸化パラジウム、酸化パラジウム合金等を挙げることができるが、中でもパラジウム塩がより好ましい。パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物およびビス(アセチルアセトナト)パラジウム等を挙げることができるが、中でも塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が特に好ましい。Pd原料は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
触媒の製造に使用するBi原料としては、酸化状態のビスマス元素を含むビスマス化合物が好ましく、例えば、ビスマス塩、酸化ビスマス、酸化ビスマス合金等を挙げることができるが、中でもビスマス塩がより好ましい。ビスマス塩としては、例えば、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマス、炭酸ビスマス等が挙げられる。Bi原料は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
触媒の製造に使用するMo原料としては、酸化状態のモリブデン元素を含むモリブデン化合物が好ましく、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸塩、ヘテロポリ酸等を挙げることができるが、中でも三酸化モリブデン、モリブデン酸塩がより好ましい。モリブデン酸塩としては例えばパラモリブデン酸アンモニウム、ジモリブデン酸アンモニウム、テトラモリブデン酸アンモニウム等がある。Mo原料は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
テルルを含有する触媒を製造する場合のTe原料としては、例えば、テルル金属、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルル等が挙げられる。中でも、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルルが好ましい。テルル塩としては、例えば、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等が挙げられる。テルル酸塩としては、例えば、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等が挙げられる。亜テルル酸塩としては、例えば、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等が挙げられる。Te原料は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
また、上記の化合物の他に、パラジウム元素、ビスマス元素、モリブデン元素およびテルル元素のうち2種以上の元素を含有する化合物を、その2種以上の元素の原料として用いることも可能である。具体的には、例えば酸化モリブデンビスマスをMo原料かつBi原料として用いること、パラジウム−テルル錯体等〔PdX(TeRR’)4−n〕(式中、Pdはパラジウムを表し、Xはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表し、TeRR’は有機テルル化合物)をPd原料かつTe原料として用いることが挙げられる。また、パラジウム元素とビスマス元素を含有する化合物をPd原料かつBi原料、パラジウム元素とモリブデン元素を含有する化合物をPd原料かつMo原料、パラジウム元素とビスマス元素とモリブデン元素を含有する化合物をPd原料かつBi原料かつMo原料として用いること等も可能である。
【0056】
上記のようなPd原料、Bi原料、Mo原料を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。これらの化合物の配合量は、Bi/Pd、Mo/Pdやパラジウムの担持率が目的とする値となるように適宜選択する。テルルを含有する触媒を製造する場合には、上記のようなTe原料を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。これらの化合物の配合量は、Te/Pdが目的とする値となるように適宜選択する。
【0057】
また、パラジウム元素、ビスマス元素、モリブデン元素およびテルル元素以外に、その他の金属元素を触媒構成元素として含む触媒を製造する場合、原料として、その他の金属元素を含む化合物(以後、「その他原料」ともいう。)を併用すればよい。その他原料としては、例えば、その他の金属元素を含む、金属、金属酸化物、金属塩、金属酸素酸、金属酸素酸塩等が挙げられる。なお、その他原料の酸化数は任意である。
【0058】
金属原料の溶液またはスラリーを担体に含浸する方法としては、溶液またはスラリーを担体に吸収させる、ポアフィリング法や浸漬法が好ましい。溶媒は金属原料を溶解または分散するものであれば特に限定されない。金属原料の溶媒としては、例えば、水;酢酸、吉草酸等の有機カルボン酸類;硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。金属原料並びに還元剤の溶解性または分散性または担体の分散性の観点から、水、有機カルボン酸、無機酸類が好ましい。
【0059】
次に、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。
【0060】
液相酸化に用いる原料のアルコールとしては、例えば2−プロパノール、t−ブチルアルコール、2−ブタノール等が挙げられるが、中でも2−プロパノールおよびt−ブチルアルコールが好適である。原料のアルコールは2種以上併用することもできる。原料のアルコールには、不純物として水や飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒドを少量含んでも良い。アルコールからは脱水反応を経由してα,β−不飽和カルボン酸が得られる。例えば、原料が2−プロパノールの場合はプロピレンを経由するので、プロピレンと同一骨格を有するアクリル酸が得られ、原料がt−ブチルアルコールの場合はイソブチレンを経由するのでイソブチレンと同一骨格を有するメタクリル酸が得られる。
【0061】
液相酸化に用いる原料のオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられるが、中でもプロピレンおよびイソブチレンが好適である。オレフィンは2種以上併用することもできる。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。オレフィンから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がプロピレンの場合アクリル酸が得られ、原料がイソブチレンの場合メタクリル酸が得られる。また、通常はオレフィンからはα,β−不飽和アルデヒドが同時に得られる。このα,β−不飽和アルデヒドは、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和アルデヒドである。例えば、原料がプロピレンの場合アクロレインが得られ、原料がイソブチレンの場合メタクロレインが得られる。
【0062】
液相酸化に用いる原料のα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。中でもアクロレインおよびメタクロレインが好適である。α,β−不飽和アルデヒドは2種以上併用することもできる。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。α,β−不飽和アルデヒドから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がアクロレインの場合アクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合メタクリル酸が得られる。
【0063】
アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドから選択される2種以上の原料を組み合わせることもできる。原料の組み合わせは、オレフィンとアルコールの組み合わせが好ましく、原料としてアルコールを用いる場合は、液相酸化反応の溶媒と兼用することが好ましい。
【0064】
液相酸化反応は連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0065】
液相酸化反応に用いる分子状酸素源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。分子状酸素は、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
【0066】
液相酸化反応に用いる溶媒としては、例えば、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸、酢酸エチルおよびプロピオン酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒を用いることが好ましい。中でも、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸およびiso−吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒がより好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸をより選択率よく製造するために、これら有機溶媒に水を共存させることが好ましい。共存させる水の量は特に限定されないが、有機溶媒と水の合計質量に対して好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。有機溶媒と水の混合物は均一な状態であることが望ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0067】
液相酸化の反応系中に存在する原料(アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒド)の合計濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。ただし、原料を溶媒と兼用する場合はこの限りではなく、原料の合計濃度は50質量%を超える濃度であってもよい。
【0068】
また、反応系中に酸性物質が共存していても差し支えない。酸性物質としては無機酸、ヘテロポリ酸およびその塩、並びに固体酸等が挙げられる。酸性物質は2種以上を併用することもできる。固体酸の例としては、三酸化モリブデン、五酸化バナジウム、ゼオライト、アルミノシリケートなどが挙げられる。反応液中にこれら酸性物質が存在することでα,β−不飽和カルボン酸の生産性を高めることができる。尚、モリブデン化合物を固体酸として用いる場合は担体に担持された成分とは独立に作用するものとする。
【0069】
分子状酸素の使用量は、反応系中に存在する原料(アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒド)の合計1モルに対して0.1モル以上が好ましく、0.2モル以上がより好ましく、0.3モル以上が特に好ましい。また、20モル以下が好ましく、15モル以下がより好ましく、10モル以下が特に好ましい。ただし、原料を液相酸化反応の溶媒と兼用する場合はこの限りではなく、分子状酸素の使用量は、原料の合計1モルに対して0.1モル未満であってもよい。
【0070】
触媒は、本発明のパラジウム、ビスマスおよびモリブデンを含有するパラジウム含有担持触媒を使用する。触媒は液相酸化を行う反応液に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が特に好ましい。また、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0071】
反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。反応圧力は大気圧(0MPa)以上が好ましく、2MPa以上がより好ましい。また、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0073】
Bi/Pd、Mo/Pd、Te/Pdとパラジウムの担持率の算出に用いるパラジウム、ビスマス、モリブデンおよびテルルの質量は、使用するPd原料のパラジウム含有率と配合量、使用するビスマス原料のビスマス含有率と配合量、使用するモリブデン原料のモリブデン含有率と配合量、使用するテルル化合物のテルル含有率と配合量から算出した。また、担体質量に対するパラジウムの質量の比を「パラジウムの担持率」とした。
【0074】
(α,β−不飽和カルボン酸の製造における生成物の分析)
α,β−不飽和カルボン酸の製造における生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。
【0075】
なお、生成するα,β−不飽和カルボン酸の生産性は以下のように定義される。
【0076】
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/(gPd×h))=A/(B×C)
ここで、Aは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(単位:g)、Bは触媒に含まれるパラジウム金属の質量(単位:g)、Cは反応時間(単位:時間)である。
【0077】
各実施例および比較例で使用した触媒のBi/Pd、Mo/Pd、Te/Pdおよびパラジウムの担持率、並びに反応評価の結果であるメタクリル酸生産性は表1および表2にまとめて示した。
【0078】
[実施例1]
(触媒調製)
硝酸ビスマス(Bi(NO・5HO)0.11gに硝酸1mlを加えて均一に溶解したビスマス溶解液を調製し、一方、モリブデン酸アンモニウム((NH)6Mo24・4HO)0.16gに純水20mlを加え均一に溶解させたモリブデン溶解液を調製した。粒状のシリカ担体(比表面積760m/g、細孔容積1.05cc/g、メディアン径53.58μm)10gに硝酸ビスマス溶液を加えて純水5gで希釈した後に調製したモリブデン溶解液を加え完全に浸漬した。その後、エバポレーションにて60℃で浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でビスマス原料およびモリブデン原料を担持させた担体を空気中450℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、ビスマス酸化物およびモリブデン酸化物が担持された触媒前駆体(A)を得た。
【0079】
次に、硝酸パラジウム硝酸溶液(25.0wt%Pd、13%HNO)3.99gに純水を20g加え、希釈した硝酸パラジウム水溶液を調製した。この水溶液に上記の方法で得られた触媒前駆体(A)を加え完全に浸漬した後、エバポレーションにて60℃で浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でPd原料をさらに担持させた担体を空気中200℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム酸化物、ビスマス酸化物およびモリブデン酸化物がシリカに担持された触媒前駆体(B)を得た。
【0080】
得られた触媒前駆体(B)に37質量%ホルムアルデヒド水溶液20.0gを加え、このスラリーを70℃に加熱、2時間攪拌保持することで触媒の還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、純水500gでろ過洗浄して、パラジウム、ビスマスおよびモリブデンがシリカ担体に担持された触媒を得た。
(反応評価)
オートクレーブに上記の方法で得た触媒のうち1.2g(パラジウムとしては0.1g)を内容積200mlのオートクレーブ(東洋高圧製)に仕込み、反応溶媒としての86質量%t−ブタノール水溶液100gと、ラジカルトラップ剤としてp−メトキシフェノールを反応溶液に対して200ppmを入れ、オートクレーブを密閉した。オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、次いで、イソブチレンを2.0g導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、110℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、圧縮空気を内圧4.8MPaまで導入した。反応中に内圧が0.1MPa低下した時点(内圧4.7MPa)で、純酸素を0.1MPa導入する操作を繰り返し、反応時間が30分に到達した時点で反応を終了した。
【0081】
反応終了後、氷水浴にてオートクレーブ内を冷却した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0082】
[比較例1]
(触媒調製)
モリブデン酸アンモニウムの配合量を0.32gに変更し、硝酸ビスマスを加えなかったこと以外は実施例1と同様の操作で触媒を得た。
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0083】
[比較例2]
(触媒調製)
硝酸ビスマスの配合量を0.22gに変更し、モリブデン酸アンモニウムを加えなかったこと以外は実施例1と同様の操作で触媒を得た。
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0084】
[比較例3]
(触媒調製)
硝酸パラジウム硝酸溶液(25.0wt%Pd、13%HNO)3.99gに純水20gを加え、均一な水溶液を調製した。この水溶液に粒状のシリカ担体(比表面積760m/g、細孔容積1.05cc/g、メディアン径53.58μm)10gを完全に浸漬した後、エバポレーションにて60℃で浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でPd原料を担持させた担体を空気中200℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム酸化物がシリカに担持された触媒前駆体(C)を得た。
【0085】
得られた触媒前駆体(C)を実施例1と同様の操作で還元処理、ろ過洗浄を実施し、パラジウムがシリカ担体に担持された触媒を得た。
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0086】
[実施例2]
(触媒調製)
硝酸ビスマス(Bi(NO・5HO)0.11gに硝酸1mlを加えて均一に溶解したビスマス溶解液を調製し、一方、モリブデン酸アンモニウム((NH)6Mo24・4HO)0.16gに純水20mlを加え均一に溶解させたモリブデン溶解液を調製した。粒状のシリカ担体(比表面積760m/g、細孔容積1.05cc/g、メディアン径53.58μm)10gに硝酸ビスマス溶液を加えて純水5gで希釈した後に調製したモリブデン溶解液を加え完全に浸漬した。その後、エバポレーションにて60℃で浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でビスマス原料およびモリブデン原料を担持させた担体を空気中450℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、ビスマス酸化物およびモリブデン酸化物が担持された触媒前駆体(D)を得た。
【0087】
次に、テルル酸0.11gを純水10gに均一に溶解させた水溶液に硝酸パラジウム硝酸溶液(25.0wt%Pd、13%HNO)3.99gを加え、均一溶液を調製した。この溶液に上記の方法で得られた触媒前駆体(D)を加え完全に浸漬した後、エバポレーションにて60℃で浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でPd原料およびTe原料をさらに担持させた担体を空気中200℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム酸化物、ビスマス酸化物、モリブデン酸化物およびテルル酸化物がシリカに担持された触媒前駆体(E)を得た。
【0088】
得られた触媒前駆体(E)に37質量%ホルムアルデヒド水溶液20.0gを加え、このスラリーを70℃に加熱、2時間攪拌保持することで触媒の還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、純水500gでろ過洗浄して、パラジウム、ビスマス、モリブデンおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0089】
[実施例3]
(触媒調製)
硝酸ビスマス(Bi(NO・5HO)0.11gに硝酸1mlを加えて均一に溶解したビスマス溶解液を調製し、一方、モリブデン酸アンモニウム((NH)6Mo24・4HO)0.16gに純水20mlを加え均一に溶解させたモリブデン溶解液およびテルル酸0.11gを純水10gに溶解させたテルル酸溶解液を調製した。硝酸パラジウム硝酸溶液(25.0wt%Pd、13%HNO)3.99gにビスマス溶解液、テルル酸溶解液およびモリブデン酸溶解液を加え、均一溶液を調製した。この溶液に粒状のシリカ担体(比表面積760m/g、細孔容積1.05cc/g、メディアン径53.58μm)10gを完全に浸漬した後、エバポレーションにて60℃で浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でPd原料、Bi原料、Mo原料およびTe原料を担持させた担体を空気中200℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム酸化物、ビスマス酸化物、モリブデン酸化物、テルル酸化物がシリカに担持された触媒前駆体(F)を得た。
【0090】
得られた触媒前駆体(F)を実施例1と同様の操作で還元処理、ろ過洗浄を実施し、パラジウム、ビスマス、モリブデンおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0091】
[比較例4]
(触媒調製)
モリブデン酸アンモニウムを加えなかったこと以外は実施例2と同様の操作でパラジウム、ビスマスおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0092】
[比較例5]
(触媒調製)
硝酸ビスマスおよびモリブデン酸アンモニウムを加えなかったこと以外は実施例3と同様の操作でパラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0093】
以上、実施例1、比較例1と2の結果から、テルルを含まないパラジウム系触媒のグループ内において、ビスマスおよびモリブデンを含有させることによってメタクリル酸の生産性が向上することが分った。また、実施例2と3、比較例3と4の結果から、テルルを含むパラジウム系触媒のグループ内においても、前グループ同様にビスマスおよびモリブデンを含有させることによってメタクリル酸の生産性が向上することが分った。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒であって、パラジウム、ビスマスおよびモリブデンを含有するパラジウム含有担持触媒。
【請求項2】
前記触媒中にテルルを含有する請求項1のパラジウム含有触媒。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパラジウム含有担持触媒を製造する方法であって、ビスマスおよび/またはモリブデンを担体に担持した後に、残りの触媒構成成分を担持するパラジウム含有担持触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のパラジウム含有担持触媒を用いて、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−104457(P2011−104457A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259132(P2009−259132)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】