説明

パラジウム含有担持触媒、その触媒の製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造するためのパラジウム含有担持触媒を提供する。
【解決手段】パラジウム原料を担体に担持させる工程と、前記パラジウム原料が担持された前記担体を100℃以上の温度で熱処理する工程と、前記熱処理された前記担体を塩基性溶液と接触させて、触媒前駆体を得る工程とを有する方法により、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒、およびその触媒の製造方法に関する。また、本発明は、α,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有触媒の製造方法として、特許文献1には、パラジウム塩を還元剤により還元する方法が提案されている。特許文献2には、担体上に担持された状態で触媒前駆体中に存在する酸化パラジウムを還元する方法が提案されている。
【0003】
一方、特許文献3には、触媒原料中に含まれる無機塩素によってα,β−不飽和カルボン酸の生産性が低下するため、パラジウムに対する無機塩素の質量比が0.001〜0.005である触媒原料により調製された懸濁液中で、パラジウムを還元剤により還元する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第02/083299号パンフレット
【特許文献2】特開2006−167709号公報
【特許文献3】特開2005−177588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1または2に記載の方法で製造した触媒のα,β−不飽和カルボン酸の生産性は未だ十分ではなく、より高い生産性を実現できるパラジウム含有触媒が望まれている。特許文献3に記載の方法のように無機塩素の含有量が低い触媒原料を用いれば、高い生産性を実現できるが、比較的安価で入手できる無機塩素含有量の多いパラジウム原料や他の金属原料等が利用できないという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造するためのパラジウム含有担持触媒、およびその触媒の製造方法、ならびにα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、パラジウム原料を担体に担持させる工程と、前記パラジウム原料が担持された前記担体を100℃以上の温度で熱処理する工程と、前記熱処理された前記担体を塩基性溶液と接触させて、触媒前駆体を得る工程とを有するパラジウム含有担持触媒の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、前記の方法により製造されたパラジウム含有担持触媒である。
【0009】
さらに、本発明は、前記のパラジウム含有担持触媒を用いて、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、α,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造できるパラジウム含有担持触媒を得ることができる。また、本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドから高い生産性でα,β−不飽和カルボン酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るパラジウム含有担持触媒の製造方法は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、パラジウム原料を担体に担持させる工程と、前記パラジウム原料が担持された前記担体を100℃以上の温度で熱処理する工程と、前記熱処理された前記担体を塩基性溶液と接触させて、触媒前駆体を得る工程とを有する。
【0012】
本発明では、まず、パラジウム原料を担体に担持させる。なお、ここで言う「パラジウム原料」には、担体に担持された担体以外の成分を意味し、少なくともパラジウム塩が含まれるが、パラジウム塩を溶解液や担体中に吸着した状態で存在する塩酸や分子状塩素なども含まれ、パラジウム以外の金属成分を含むものとする場合には、その金属成分の塩や、その金属成分の塩を担持させる際に用いる溶解液中に含まれる塩化物イオンや分子状塩素なども含まれる。
【0013】
パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム(II)(熱分解温度:650℃)、酢酸パラジウム(II)(熱分解温度:230℃)、硝酸パラジウム(II)(熱分解温度:120℃)、テトラアンミンパラジウム硝酸塩(II)(熱分解温度:220℃)、テトラアンミンパラジウム塩酸塩およびビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(熱分解温度:210℃)等が挙げられる。パラジウム塩は、1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0014】
なお、パラジウム塩の熱分解温度は、熱重量測定により測定できる。ここでは、熱重量測定装置(島津製作所社製、商品名:TGA−50)を用いて、パラジウム塩を空気気流中で室温から5.0℃/分で昇温させたときに10%重量が減少した温度をパラジウム塩の熱分解温度としている。
【0015】
本発明は、パラジウムに対する質量比で0.01以上の無機塩素を含有するパラジウム原料、担体、および懸濁液を使用する場合にも適用可能である。パラジウムに対する無機塩素の質量比は、例えば、0.1以上でもよく、1以上でもよい。ただし、後の工程で無機塩素を除去する際の効率を考慮すると、パラジウムに対する無機塩素の質量比は、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましく、0.4以下が特に好ましい。ここで言う無機塩素には、パラジウム塩として塩化パラジウムやテトラアンミンパラジウム塩酸塩を用いた場合のようにパラジウムの塩の状態で含まれるもの、パラジウム塩を担体に担持させる際に用いる溶解液や担体中に吸着した状態で存在する塩酸や分子状塩素などが含まれ、パラジウム以外の金属成分を含むものとする場合には、その金属成分の塩の状態で含まれる無機塩素や、その金属成分の塩を担持させる際に用いる溶解液中に含まれる塩化物イオンや分子状塩素なども含まれる。
【0016】
担体は、パラジウム原料を担持できるものであれば、特に限定されない。本発明では、担体にパラジウム原料を担持させた後にその担体を熱処理することから、その熱処理条件で燃焼または変質等の生じにくい無機酸化物の担体が好ましい。担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等が挙げられるが、中でも、シリカ、チタニアまたはジルコニアが好ましい。担体は、1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0017】
担体の比表面積は、担体の種類等により異なるので一概に言えないが、シリカの場合、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、1500m2/g以下が好ましく、1000m2/g以下がより好ましい。担体の比表面積は、小さいほど有用成分がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
【0018】
パラジウム原料を担体に担持させる方法としては、パラジウム塩の溶解液に担体を浸漬した後に溶媒を蒸発させる方法でもよく、担体の細孔容積分のパラジウム塩の溶解液を担体に吸収させた後に溶媒を蒸発させる、いわゆるポアフィリング法による方法でもよい。パラジウム塩を溶解させる溶媒は、パラジウム塩を溶解するものであれば、特に限定されない。
【0019】
次いで、本発明では、パラジウム原料が担持された担体を100℃以上の温度で熱処理する。この熱処理によって、次の工程で担体を塩基性溶液と接触させる際にパラジウム塩が溶出するのを防ぐことができる。
【0020】
熱処理温度は、パラジウム塩が担体と相互作用して固定化される温度が好ましいことから、100℃以上とするが、200℃以上とすることがより好ましい。熱処理の温度は、塩化パラジウムの熱分解温度である650℃以下の温度から選択することが好ましく、600℃以下の温度から選択することがより好ましく、550℃以下の温度から選択することがさらに好ましい。
【0021】
熱処理時に、パラジウム原料、担体、および懸濁液中に含まれる無機塩素がパラジウム塩と反応して、パラジウム原料の少なくとも一部が塩化パラジウムとなるが、塩化パラジウムの熱分解温度以下で熱処理を行うことにより、塩化パラジウムの熱分解に伴う発熱によるパラジウム粒子の凝集および成長を抑制することができる。そのため、無機塩素を多く含むパラジウム原料、担体、および懸濁液を用いる場合も、α,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造することが可能となる。工業化スケールでの触媒調製では触媒量と焼成装置のスケール等の問題から、熱処理時のパラジウム原料が担持された担体の層高が厚くなることは通常は避けられないので、塩化パラジウムの熱分解による発熱をおさえて、高活性なパラジウム含有触媒を調製できることには大きなメリットがある。
【0022】
所定の熱処理温度までの昇温方法は特に限定されないが、パラジウム含有担持触媒における良好な分散状態を得るため、昇温速度は1〜10℃/分が好ましい。所定の熱処理温度に達した後の保持時間は、パラジウム塩と担体が相互作用するのに十分な時間であれば特に限定されないが、1〜12時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。
【0023】
次いで、本発明では、熱処理された担体を塩基性溶液と接触させて、触媒前駆体を得る。これにより、熱処理後の担体中に含まれる無機塩素の少なくとも一部を取り除くことができるので、無機塩素の少ない触媒前駆体、ひいては無機塩素の少ない生産性の高い触媒を製造することができる。
【0024】
塩基性溶液としては、例えば、塩基性物質を水に溶解させた塩基性水溶液を用いることができ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等の強塩基性水溶液や、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸セシウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等の弱塩基性水溶液などが挙げられる。塩基性溶液は、1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0025】
熱処理された担体と接触させる前の塩基性溶液のpHは、8〜14の範囲であることが好ましく、8〜13の範囲であることがより好ましい。特に、シリカのような、塩基性溶液に溶解する担体と接触させる場合、強い塩基性により担体が溶解し、最適な細孔構造を保つことができなくなる可能性がある。
【0026】
熱処理された担体と接触させる塩基性溶液の量は、塩基性溶液に含まれる塩基性物質の種類によって異なるが、熱処理された担体に対する質量比で5〜100の範囲が好ましい。また、塩基性溶液に含まれる塩基性物質の物質量(モル数)は、担体に含まれるパラジウムに対する物質量比(モル比)で0.5〜10の範囲が好ましい。
【0027】
熱処理された担体を塩基性溶液と接触させる方法は特に限定されないが、例えば、熱処理された担体を量りとり、そこに塩基性溶液を加える方法が挙げられる。熱処理された担体中に含まれる無機塩素の除去を促進するため、接触時の塩基性溶液の温度は40〜100℃が好ましい。また、接触時間は1〜4時間が好ましい。
【0028】
熱処理された担体を塩基性溶液と接触させた時点での溶液のpHは、3〜12の範囲であることが好ましく、3〜10の範囲であることがより好ましい。特に、シリカのような、塩基性溶液に溶解する担体を用いている場合、接触する塩基性溶液の塩基性が強いと担体が溶解してしまい、最適な細孔構造を保つことができない場合がある。
【0029】
熱処理された担体を塩基性溶液と接触させた時点での溶液のpHが高すぎる場合は、塩基性溶液の量を減らす、担体の量を増やす等して、再度、接触処理をやり直すことが好ましい。逆に、接触させた時点での溶液のpHが低すぎる場合は、塩基性溶液の量を増やす、担体の量を減らす等して、再度、接触処理をやり直すことが好ましい。
【0030】
得られる触媒前駆体において、パラジウムに対する無機塩素の質量比が0.4以下であることが好ましい。
【0031】
本発明によって、α,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造できるパラジウム含有担持触媒を製造することができる。これは、本発明によって無機塩素を含む触媒原料を用いた場合であっても、パラジウムが担体上に良好に分散した触媒を得ることができることによる。熱処理された担体を塩基性溶液と接触させることによる効果は特定できないが、塩基性溶液と接触させることによって担体に担持されたパラジウム塩の少なくとも一部が水酸化パラジウムなどに変化し、担体とパラジウム塩または水酸化パラジウムとの相互作用が大きくなることによって、次に続く還元操作の際にパラジウム粒子の凝集を抑制することができるものと考えられる。
【0032】
触媒前駆体中に含まれる無機塩素は、XRD測定、XRF測定により確認できる。ここでは、蛍光X線回折装置(リガク社製、商品名:ZSX−100C)を用いて無機塩素量の測定を行っている。具体的には、減圧下50℃で乾燥させた触媒前駆体0.2質量部に、バインダー0.15質量部および酸化銅0.01質量部を混合し、10tで加圧成形することにより円盤状に成形し、得られたサンプルのXRF測定により算出されるピークエリア面積から塩素と銅の存在比(質量百分率)を求めることで、触媒前駆体中に含まれる無機塩素の質量を求めることができる。
【0033】
次いで、本発明では、触媒前駆体を還元することが好ましい。これにより、担体に担持された状態で存在するパラジウム塩を還元することができ、金属パラジウムが存在する触媒となる。なお、触媒前駆体を還元せずに、そのまま触媒とすることもできる。
【0034】
還元剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。還元剤は、1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0035】
還元は、気相中で行っても液相中で行ってもよい。気相中で還元を行う場合は、還元剤として水素を用いることが好ましい。また、液相中で還元を行う場合は、還元剤としてヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、または蟻酸の塩を用いることが好ましい。
【0036】
液相中で還元を行う際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノールおよびt−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸およびイソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサンおよびシクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0037】
液相中で還元を行う場合であって還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく、溶媒中に還元剤を添加することで行うことができる。このときの還元剤の使用量は、特に限定されないが、触媒前駆体中のパラジウム1モルに対して1〜100モルとすることが好ましい。
【0038】
還元温度および還元時間は、還元剤の種類等により適宜設定することができる。還元温度は、−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は、0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0039】
還元後、パラジウム金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を分離する。この触媒を分離する方法は特に限定されないが、例えば、ろ過、遠心分離等の方法が挙げられる。分離されたパラジウム含有担持触媒は、適宜乾燥される。乾燥方法は特に限定されず、種々の方法を用いることができる。
【0040】
担体に担持されたパラジウム粒子の大きさは、XRD測定により確認できる。XRD観察対象の結晶子径は、一般にScherrerの式により見積もることができる。
【0041】
D=(Kλ)/(βcosθ)
Dは結晶子径、Kは定数、λは測定X線波長、βはピークの半値幅、θは回折線のブラッグ角度を表す。ここでは、K=0.9、λ=1.54Åとし、θはXRD測定により観測されるパラジウムの(111)面に対応する回折ピークの値(約20°)を用いて、結晶子径を見積もっている。
【0042】
パラジウム含有担持触媒におけるパラジウム粒子の結晶子径は、パラジウム質量に対して反応活性点の数を多くするとの観点から、6nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。また、パラジウム含有担持触媒におけるパラジウム粒子の結晶子径は、初期活性が高すぎて局所的に発生する反応熱によってパラジウム粒子の凝集が促進されることを防ぐとの観点から、0.5nm以上が好ましく、1nm以上がより好ましい。
【0043】
本発明のパラジウム含有担持触媒は、パラジウム以外の金属成分を含んでいてもよい。パラジウム以外の金属成分としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金、銅、アンチモン、テルル、鉛およびビスマス等が挙げられる。高い触媒活性を発現させる観点から、パラジウム含有担持触媒に含まれる金属成分のうち、50質量%以上がパラジウム金属であることが好ましい。
【0044】
パラジウム以外の金属成分を含むパラジウム含有担持触媒は、対応する金属の塩や酸化物等の金属化合物を担体に担持させ、必要に応じて前記の還元を行うことで得ることができる。その際の金属化合物の担持方法は、特に限定されないが、パラジウム原料を担持させる方法と同様の方法とすることができる。また、金属化合物は、パラジウム原料を担持させる前の担体に担持させることもでき、パラジウム原料を担持させた後の担体に担持させることもでき、パラジウム原料と同時に担体に担持させることもできる。無機塩素を含む金属化合物も使用することができる。
【0045】
パラジウムの担持率は、担持前の担体に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1〜20質量%がさらに好ましい。
【0046】
最終的に得られるパラジウム含有担持触媒の物性等は、XRD測定、XPS測定、XRF測定、TEM観察等により確認できる。
【0047】
次に、本発明のパラジウム含有担持触媒を用いて、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。
【0048】
原料のオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレンおよび2−ブテン等が挙げられる。また、原料のα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)およびシンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。原料のオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドには、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等が少々含まれていてもよい。
【0049】
製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、原料がオレフィンの場合、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸であり、原料がα,β−不飽和アルデヒドの場合、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。
【0050】
本発明の製造方法は、プロピレンまたはアクロレインからアクリル酸、イソブチレンまたはメタクロレインからメタクリル酸を製造する液相酸化に好適である。
【0051】
液相酸化に用いる分子状酸素源には、空気が経済的であるが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。
【0052】
液相酸化に用いる溶媒は特に限定されないが、例えば、水;ターシャリーブタノールおよびシクロヘキサノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸およびiso−吉草酸等の有機酸類;酢酸エチルおよびプロピオン酸メチル等の有機酸エステル類;ヘキサン、シクロヘキサンおよびトルエン等の炭化水素類を用いることができる。中でも、炭素数2〜6の有機酸類、炭素数3〜6のケトン類、またはターシャリーブタノールが好ましい。溶媒は、1種でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。また、アルコール類、ケトン類、有機酸類および有機酸エステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用する場合は、水との混合溶媒とすることが好ましい。その際の水の量は特に限定されないが、混合溶媒の質量に対して2〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。溶媒は均一であることが望ましいが、不均一な状態で用いても差し支えない。
【0053】
液相酸化は、連続式、バッチ式の何れの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0054】
液相酸化の原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの使用量は、溶媒100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。
【0055】
分子状酸素の使用量は、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して、0.1〜30モルが好ましく、0.3〜25モルがより好ましく、0.5〜20モルが特に好ましい。
【0056】
触媒は、液相酸化を行う反応液に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液100質量部に対して、反応器内に存在する触媒として0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜15質量部が特に好ましい。
【0057】
液相酸化の反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および反応原料によって適宜選択される。反応温度は30〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。反応圧力は大気圧(0MPa:ゲージ圧、以下圧力は全てゲージ圧で表記する)〜10MPaが好ましく、2〜7MPaがより好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明について実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0059】
(原料および生成物の分析)
原料および生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの反応率、およびα,β−不飽和カルボン酸の生産性は、以下のように定義される。
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの反応率(%)=(B/A)×100
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/gPd/h) =(C/D/E)
ここで、Aは供給したオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの物質量(モル数)、Bは反応したオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの物質量(モル数)、Cは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(g)、Dは触媒中のパラジウム金属の質量(g)、Eは反応時間(h)である。
【0060】
なお、以下の実施例および比較例では、イソブチレンからメタクリル酸を製造する反応を行っているので、Aは供給したイソブチレンの物質量(モル数)、Bは反応したイソブチレンの物質量(モル数)、Cは生成したメタクリル酸の質量(g)である。
【0061】
[実施例1]
(触媒調製)
塩化パラジウム(II)(N.E.ケムキャット社製)1.67gを水20.0gに懸濁させ、さらに塩酸(35質量パーセント)を1.3g少量ずつ添加し、50℃で加熱攪拌することにより、塩化パラジウムを溶解させて、パラジウム原料の溶液を得た。このとき、パラジウム原料の溶液に含まれる無機塩素量の含有量の計算値は、パラジウムに対する無機塩素の質量比で1.12であった。シリカ担体(比表面積480m2/g、BJH法による全細孔容積0.68cc/g、メディアン径56μm)10.0gに上記の溶液を加えた。その後、エバポレーションを行うことにより、塩化パラジウム(II)が担持されたシリカ担体を得た。これをステンレスバット(15cm×20cm)に薄く均一に広げ、熱処理を行った。熱処理としては、空気中で、300℃まで1℃/分で昇温して3時間保持した。その後、室温まで降温した。
【0062】
塩基性溶液として、炭酸ナトリウム0.10gを純水20.0gに溶解させた炭酸ナトリウム水溶液を調製した。この炭酸ナトリウム水溶液のpHは11.5であった。上記熱処理後のシリカ担体をパラジウム質量に換算して0.1g量りとり、そこに炭酸ナトリウム水溶液を加えて、熱処理後のシリカ担体を炭酸ナトリウム水溶液に接触させた。この接触を行った時点での溶液のpHは6.9であった。これを70℃に加熱して2時間攪拌保持し、吸引ろ過した後、純水500gでろ過洗浄することにより、触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は0.32であった。
【0063】
この触媒前駆体にホルムアルデヒド水溶液(37質量パーセント)20.0gを滴下した。これを70℃に加熱して2時間攪拌保持し、吸引ろ過した後、純水500gでろ過洗浄することで、触媒を得た。得られた触媒を減圧下50℃で2時間乾燥させた後、XRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。
【0064】
(反応評価)
上記方法で得られた触媒(パラジウム質量に換算して0.1g量りとった)と、反応溶媒としての75質量%t−ブタノール水溶液75gをオートクレーブ(容積200mL)に入れ、オートクレーブを密封した。次いで、イソブチレンを2.0g導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、110℃まで昇温した。昇温完了後、圧縮空気を内圧4.8MPaまで導入した。反応中に内圧が0.1MPa低下した時点(内圧が4.7MPaになった時点)で、酸素を0.1MPa導入する操作を繰り返した。反応開始から30分後に反応を終了した。
【0065】
反応終了後、氷浴でオートクレーブ内を冷却した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブレンフィルターで触媒と反応液を分離した。得られた反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析し、イソブチレンの反応率およびメタクリル酸の生産性を算出した。
【0066】
[実施例2]
塩基性溶液として、炭酸セシウム0.31gを純水20.0gに溶解させた炭酸セシウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、触媒調製を行った。この炭酸セシウム水溶液のpHは11.5であった。熱処理後のシリカ担体と炭酸セシウム水溶液を接触させた時点での溶液のpHは7.3であった。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は0.13であった。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0067】
[実施例3]
熱処理後のシリカ担体をパラジウム質量に換算して0.2g量りとり、そこに、塩基性溶液として、水酸化ナトリウム0.15gを純水20.0gに溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を加えた以外は、実施例1と同様の方法で、触媒調製を行った。この水酸化ナトリウム水溶液のpHは13.3であった。熱処理後のシリカ担体と水酸化ナトリウム水溶液を接触させた時点での溶液のpHは9.8であった。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は0.15であった。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、上記方法で得られた触媒をパラジウム質量に換算して0.1g量りとった以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0068】
[実施例4]
熱処理の温度を500℃とし、その保持時間を12時間とした以外は、実施例2と同様の方法で、触媒調製を行った。熱処理後のシリカ担体と炭酸セシウム水溶液を接触させた時点での溶液のpHは9.5であった。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は0.14であった。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0069】
[比較例1]
熱処理後のシリカ担体を塩基性溶液としての炭酸ナトリウム水溶液と接触させる工程を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で、触媒調製を行った。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は1.48であった。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0070】
[比較例2]
塩基性溶液の代わりに、純水20.0gを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、触媒調製を行った。この純水のpHは7.0であった。熱処理後のシリカ担体と純水を接触させた時点での溶液のpHは2.3であった。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は0.43であった。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0071】
[比較例3]
塩化パラジウム(II)が担持されたシリカ担体を熱処理しなかった以外は、実施例1と同様の方法で、触媒調製を行った。熱処理していないシリカ担体と炭酸ナトリウム水溶液を接触させた時点での溶液のpHは3.4であった。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に固定化されているパラジウムは、実施例1の触媒前駆体中に含まれるパラジウムに対する質量比で0.024まで減少していた。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0072】
[比較例4]
熱処理後のシリカ担体を塩基性溶液としての炭酸セシウム水溶液と接触させる工程を行わなかった以外は、実施例4と同様の方法で、触媒調製を行った。熱処理後のシリカ担体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は0.33であった。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0073】
[比較例5]
塩基性溶液の代わりに、塩化ナトリウム0.15gを純水20.0gに溶解させた塩化ナトリウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、触媒調製を行った。この塩化ナトリウム水溶液のpHは7.0であった。熱処理後のシリカ担体と塩化ナトリウム水溶液を接触させた時点での溶液のpHは4.6であった。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に固定化されているパラジウムは、実施例1の触媒前駆体中に含まれるパラジウムに対する質量比で0.050まで減少していた。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムほとんど残存していないことが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0074】
[比較例6]
塩基性溶液の代わりに、硝酸ナトリウム0.16gを純水20.0gに溶解させた硝酸ナトリウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、触媒調製を行った。この硝酸ナトリウム水溶液のpHは7.0であった。熱処理後のシリカ担体と硝酸ナトリウム水溶液を接触させた時点での溶液のpHは2.2であった。得られた触媒前駆体のXRF測定を行ったところ、触媒前駆体に含まれるパラジウムに対する無機塩素の質量比は0.49であった。得られた触媒のXRD測定を行ったところ、触媒中に金属パラジウムが生成していることが確認された。反応評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0075】
以上の実施例および比較例における触媒調製条件および反応評価結果を、表1にまとめて示す。これより、本発明によれば、より高い生産性でα,β−不飽和カルボン酸を製造できることが分かった。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、
パラジウム原料を担体に担持させる工程と、
前記パラジウム原料が担持された前記担体を100℃以上の温度で熱処理する工程と、
前記熱処理された前記担体を塩基性溶液と接触させて、触媒前駆体を得る工程と
を有するパラジウム含有担持触媒の製造方法。
【請求項2】
前記パラジウム原料が、パラジウムに対する質量比で0.01以上の無機塩素を含有する請求項1に記載のパラジウム含有担持触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により製造されたパラジウム含有担持触媒。
【請求項4】
請求項1または2記載の方法により製造されたパラジウム含有担持触媒を用いて、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−121044(P2011−121044A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173461(P2010−173461)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】