説明

パラジウム含有担持触媒の製造方法、パラジウム含有担持触媒、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するための触媒を提供する。
【解決手段】パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記パラジウム元素および前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る。または、パラジウム元素が金属状態にあるパラジウム金属が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用するパラジウム含有担持触媒の製造方法、パラジウム含有担持触媒、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β−不飽和カルボン酸は、工業上有用な物質が多い。例えば、アクリル酸やメタクリル酸は、合成樹脂原料などの用途に極めて大量に使用されている。
【0003】
α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化して製造する方法について研究がされている。オレフィンを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒としては、パラジウム触媒が知られている。例えば、特許文献1では、パラジウム1.0モルに対してテルル金属0.001〜0.40モルを含有するパラジウム含有触媒が提案されている。特許文献1の実施例7には、あらかじめ調製しておいたパラジウム金属をシリカ担体に担持させたものを水に分散させ、これにテルル原料の溶液を滴下した後、還元剤を投入してパラジウムとテルルが担持された触媒を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2005/118134号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1の実施例7に記載された方法に準じて製造したパラジウム含有担持触媒を使用した液相酸化においては、目的生成物であるα,β−不飽和カルボン酸の生産性が十分といえず、より生産性が高いα,β−不飽和カルボン酸製造用触媒が望まれている。
【0006】
従って本発明の目的は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するための触媒、その製造方法、およびその触媒を用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用するパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記パラジウム元素および前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る工程を含む方法である。
【0008】
また、本発明は、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用するパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、パラジウム元素が金属状態にあるパラジウム金属が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る方法である。
【0009】
また、本発明は、前記の方法で製造されるパラジウム含有担持触媒である。
【0010】
さらに、本発明は、前記のパラジウム含有担持触媒の存在下で、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造するためのパラジウム含有担持触媒の製造方法、パラジウム含有担持触媒、およびその触媒を用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<パラジウム含有担持触媒およびその製造方法>
本発明に係るパラジウム含有担持触媒(以後、略して「触媒」ともいう。)の製造方法は、パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記パラジウム元素および前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る工程を含む方法であり、または、パラジウム元素が金属状態にあるパラジウム金属が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る工程を含む方法である。このような製造方法により得られたパラジウム含有担持触媒を用いることで、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高生産性で製造することが可能となる。
【0013】
本発明に係るパラジウム含有触媒は、上記の方法で製造される触媒である。触媒中のパラジウム元素1モルに対するテルル元素のモル数、すなわちテルル元素とパラジウム元素のモル比(Te/Pdと略すこともある。)は、0.001〜0.4が好ましく、0.005〜0.35がより好ましく、0.01〜0.3がさらに好ましい。
【0014】
本発明では、まず、パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物が担持された担体、またはパラジウム元素が金属状態にあるパラジウム金属が担持された担体を調製する。
【0015】
パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物としては、例えば、パラジウム塩、酸化パラジウム、酸化パラジウム合金等が挙げられるが、中でも、パラジウム塩が好ましい。パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物およびビス(アセチルアセトナト)パラジウム等が挙げられるが、中でも、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウムおよびテトラアンミンパラジウム塩化物が好ましい。パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記のようなパラジウム化合物またはパラジウム金属を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。なお、本明細書では、パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物、およびパラジウム元素が金属状態にあるパラジウム金属を、まとめて「パラジウム原料」という。パラジウム原料の配合量は、パラジウムの担持率が目的とする値となるように適宜選択する。
【0017】
担体としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等が挙げられるが、中でも、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニアが好ましく、シリカ、アルミナ、チタニアおよびジルコニアがより好ましい。担体は1種でもよいが、2種以上を用いることもできる。2種以上の担体を用いる場合は、例えば、シリカとアルミナを混合して得られる混合酸化物等の混合物、複合酸化物であるシリカ−アルミナ等の複合物等が挙げられる。
【0018】
担体の比表面積は、担体の種類等により異なるので一概にいえないが、シリカの場合、50〜1500m2/gが好ましく、100〜1000m2/gがより好ましい。担体の比表面積が小さいほど有用成分(パラジウム元素)がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、担体の比表面積が大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
【0019】
担体の細孔容積は、特に限定されないが、0.1〜2.0cc/gが好ましく、0.2〜1.5cc/gがより好ましい。
【0020】
担体の形状やサイズは、α,β−不飽和カルボン酸の製造に用いる反応装置の形状、サイズ等によって好ましい形態が異なり、特に制限されないが、例えば、粉末状、粒状、球状、ペレット状など種々の形状が挙げられる。中でも、ろ別等の操作性が容易な粒状または球状が好ましい。担体が粉末状または粒状の場合の粒径(メディアン径)は、0.5〜200μmが好ましく、1.0〜100μmがより好ましい。担体の粒径が大きいほど触媒と反応液の分離が容易になり、担体の粒径が小さいほど反応液中における触媒の分散性がよくなる。
【0021】
担体に対するパラジウム元素の担持率は、担持前の担体質量に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1.0〜20質量%がさらに好ましい。
【0022】
パラジウム原料を担体に担持する方法としては、パラジウム原料を溶媒に溶解または分散させた状態で担体に吸収させることが好ましい。その担持方法としては、ポアフィリング法や浸漬法が好ましい。溶媒は、パラジウム原料を溶解または分散するものであれば特に限定されない。パラジウム原料を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、水;酢酸、吉草酸等の有機カルボン酸類;硝酸、塩酸等の無機酸;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。パラジウム原料および還元剤の溶解性もしくは分散性、または担体の分散性の観点から、水、有機カルボン酸類が好ましい。
【0023】
パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物としてパラジウム塩が担持された担体は、その後に加熱処理することもできる。加熱処理により、担体に担持されたパラジウム塩の少なくとも一部がパラジウム酸化物に変化する。
【0024】
加熱処理の温度は、パラジウム原料がパラジウム酸化物に変化する分解温度以上とすることが好ましく、150〜600℃がより好ましい。加熱処理の時間は、パラジウム原料の少なくとも一部がパラジウム酸化物に変化する時間であればよく、1〜12時間が好ましい。
【0025】
パラジウム元素が金属状態にあるパラジウム金属が担持された担体は、上記の方法により担体にパラジウム金属を担持させることによって製造することもできるが、パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物が担持された担体を適宜加熱処理した上で、還元処理することによって製造することもできる。
【0026】
還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタクリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられるが、中でも、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素、蟻酸および蟻酸の塩が好ましい。また、これらを2種以上併用することもできる。
【0027】
液相中で還元する際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水の混合溶媒を用いることもできる。
【0028】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を上げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧することが好ましい。その圧力は、0.1〜1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)が好ましい。また、還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく、溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は、特に限定されないが、還元するパラジウム原料1モルに対して1〜100モルとすることが好ましい。
【0029】
還元温度および還元時間は、還元するパラジウム原料や還元剤等により適宜設定できる。還元温度は、−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は、0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0030】
本発明では、上記のようにして得られた担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記酸化状態にあるパラジウム元素および前記テルル元素の還元を開始する、または前記パラジウムが金属状態にある場合は前記テルル元素の還元を開始する。すなわち、本発明では、担体にパラジウム原料をあらかじめ担持させた状態とし、その担体にテルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液を添加し、還元剤を10分以内に添加して還元を開始することで、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持された触媒を得る。還元剤の添加は5分以内であることが好ましく、3分以内であることがより好ましく、1分以内であることがさらに好ましく、テルル化合物溶液と同時に添加することが特に好ましい。
【0031】
テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物としては、例えば、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩等が挙げられるが、中でも、テルル酸およびその塩が好ましい。テルル塩としては、例えば、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等が挙げられる。テルル酸塩としては、例えば、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等が挙げられる。亜テルル酸塩としては、例えば、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等が挙げられる。テルル原料は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記のようなテルル化合物を適宜選択して、触媒を製造するための原料として用いる。なお、本明細書では、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物を「テルル原料」ともいう。テルル原料の配合量は、Te/Pdが目的とする値となるように適宜選択する。
【0033】
テルル化合物溶液の溶媒としては、テルル原料が溶解できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水;酢酸、吉草酸等の有機カルボン酸類;硝酸、塩酸等の無機酸;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。中でも、水、有機カルボン酸類が好ましい。
【0034】
還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタクリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられるが、中でも、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素、蟻酸および蟻酸の塩が好ましい。また、これらを2種以上併用することもできる。
【0035】
液相中で還元する際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水の混合溶媒を用いることもできる。
【0036】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を上げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧することが好ましい。その圧力は、0.1〜1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)が好ましい。また、還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく、溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は、特に限定されないが、還元する原料1モルに対して1〜100モルとすることが好ましい。
【0037】
還元温度および還元時間は、還元する原料や還元剤等により適宜設定できる。還元温度は、−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は、0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0038】
パラジウム元素およびテルル元素以外に、その他の金属元素を触媒構成元素として含む触媒を製造する場合、原料として、その他の金属元素を含む化合物を併用すればよい。その他原料としては、例えば、その他の金属元素を含む、金属、金属酸化物、金属塩、金属酸素酸、金属酸素酸塩等が挙げられる。なお、その他原料の酸化数および添加時期は任意である。
【0039】
上記のような方法で製造された触媒は、パラジウム金属粒子表面に選択的にテルル金属が担持されるため、パラジウム金属粒子表面の性質が変化して高生産性になるものと考えられる。
【0040】
なお、触媒中のパラジウム元素とテルル元素の質量および担持率の定量方法としては、次のA処理液とB処理液を調製して分析する方法が例示できる。それ以外の元素も同様に測定できる。
A処理液の調製:触媒0.2g、および濃硝酸、濃硫酸、過酸化水素水をテフロン(登録商標)製分解管にとり、マイクロ波加熱分解装置(CEM社製、MARS5(商品名))で溶解処理を行った。試料をろ過し、ろ液および洗浄水を合わせてメスフラスコにメスアップし、A処理液とする。
B処理液の調製:A処理での不溶解部を集めたろ紙を白金製ルツボに移し加熱・灰化した後、メタホウ酸リチウムを加えてガスバーナーで溶融した。冷却後に塩酸と少量の水をルツボに入れて溶解後、メスフラスコにメスアップし、B処理液とする。
【0041】
得られたA処理液およびB処理液に含まれるテルル元素とパラジウム元素の質量を、ICP発光分析装置(サーモエレメンタル社製、IRIS−Advantage(商品名))で定量し、両処理液中の元素毎の質量合計から触媒中の各元素の質量を求めることができる。
【0042】
上記の方法により得られた触媒は、水、有機溶媒等で洗浄することが好ましい。水、有機溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の金属原料等に由来する不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によっては液相酸化反応を阻害する恐れがあるため不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収する。
【0043】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で乾燥することが好ましい。
【0044】
触媒の物性は、BET表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM測定等により確認できる。
【0045】
<α,β−不飽和カルボン酸の製造方法>
本発明では、上記のパラジウム含有担持触媒の存在下で、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化することで、α,β−不飽和カルボン酸を製造する。
【0046】
液相酸化反応の原料であるアルコールとしては、例えば、2−プロパノール、t−ブチルアルコール、2−ブタノール等が挙げられるが、中でも2−プロパノールおよびt−ブチルアルコールが好適である。原料のアルコールは、2種以上併用することもできる。原料のアルコールには、不純物として水や飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒドを少量含んでも良い。アルコールからは脱水反応を経由してα,β−不飽和カルボン酸が得られる。例えば、原料が2−プロパノールの場合にはプロピレンを経由するので、プロピレンと同一骨格を有するアクリル酸が得られ、原料がt−ブチルアルコールの場合にはイソブチレンを経由するので、イソブチレンと同一骨格を有するメタクリル酸が得られる。
【0047】
液相酸化反応の原料であるオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられるが、中でもプロピレンおよびイソブチレンが好適である。原料のオレフィンは、2種以上併用することもできる。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。オレフィンから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がプロピレンの場合アクリル酸が得られ、原料がイソブチレンの場合メタクリル酸が得られる。また、オレフィンからは、通常、α,β−不飽和アルデヒドが同時に得られる。このα,β−不飽和アルデヒドは、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和アルデヒドである。例えば、原料がプロピレンの場合にはアクロレインが得られ、原料がイソブチレンの場合にはメタクロレインが得られる。
【0048】
液相酸化反応の原料であるα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられるが、中でもアクロレインおよびメタクロレインが好適である。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、2種以上併用することもできる。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。α,β−不飽和アルデヒドから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。例えば、原料がアクロレインの場合にはアクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合にはメタクリル酸が得られる。
【0049】
アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドから選択される2種以上の原料を組み合わせることもできる。原料の組み合わせは、オレフィンとアルコールの組み合わせが好ましい。また、原料としてアルコールを用いる場合は、液相酸化反応の溶媒と兼用することが好ましい。
【0050】
液相酸化反応は、連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0051】
液相酸化反応に用いる分子状酸素源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。分子状酸素は、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
【0052】
液相酸化反応に用いる溶媒としては、例えば、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸、酢酸エチルおよびプロピオン酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒を用いることが好ましい。中でも、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸およびiso−吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒がより好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸をより選択率よく製造するために、これら有機溶媒に水を共存させることが好ましい。共存させる水の量は特に限定されないが、有機溶媒と水の合計質量に対して2〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。有機溶媒と水の混合物は均一な状態であることが好ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0053】
液相酸化反応の反応系中に存在する原料(アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒド)の合計濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。ただし、原料を液相酸化反応の溶媒と兼用する場合はこの限りではなく、原料の合計濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して50質量%を超えていてもよい。
【0054】
液相酸化反応の反応系中に、酸性物質が共存していても差し支えない。酸性物質としては、無機酸、ヘテロポリ酸およびその塩、ならびに固体酸等が挙げられる。酸性物質は、2種以上を併用することもできる。
【0055】
分子状酸素の使用量は、液相酸化反応の反応系中に存在する原料(アルコール、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒド)の合計1モルに対して0.1〜20モルが好ましく、0.2〜15モルがより好ましく、0.3〜10モルが特に好ましい。ただし、原料を液相酸化反応の溶媒と兼用する場合はこの限りではなく、分子状酸素の使用量は、原料の合計1モルに対して0.1モル未満であってもよい。
【0056】
触媒は、液相酸化反応を行う反応液に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜35質量%がより好ましく、1〜30質量%が特に好ましい。
【0057】
液相酸化反応を行う温度および圧力は、用いる溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は、30〜300℃が好ましく、50〜200℃がより好ましい。反応圧力は、大気圧(0MPa)〜10MPaが好ましく、2〜7MPaがより好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例中の「部」は、質量部である。
【0059】
(Te/Pdおよびパラジウムの担持率)
Te/Pdは、触媒中のパラジウムおよびテルルの質量と、パラジウムおよびテルルの原子量から算出した。また、「パラジウムの担持率」は、触媒中の担体質量に対するパラジウムの質量比である。なお、触媒中のパラジウムおよびテルルの質量は、使用したパラジウム原料のパラジウム含有率と配合量、および使用したテルル化合物のテルル含有率と配合量から算出した。
【0060】
(α,β−不飽和カルボン酸の製造における生成物の分析)
α,β−不飽和カルボン酸の製造における生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、生成するα,β−不飽和カルボン酸の生産性は、以下のように定義される。
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/(gPd×h))=A/(B×C)
ここで、Aは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(単位:g)であり、Bは触媒に含まれるパラジウム金属の質量(単位:g)であり、Cは反応時間(単位:時間)である。
【0061】
[実施例1]
(触媒調製)
純水10部に硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム23.33質量%)2.14部を加え、均一なパラジウム原料溶液を調製した。このパラジウム原料溶液に粒状のシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)5.0部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でパラジウム原料を担持させた担体を空気中200℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム酸化物がシリカに担持された触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体に、テルル酸0.108部を純水25部に溶解させた水溶液と、還元剤である37質量%ホルムアルデヒド水溶液15部を同時に加えた。これを70℃に加熱し、2時間攪拌保持する還元処理を行うとともにテルルを還元析出させた。次いで、吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、パラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
【0062】
(反応評価)
オートクレーブに上記の方法で得た触媒のうち5.5g(パラジウムとしては0.5g)を内容積330mlのオートクレーブ(東洋高圧製、型式:LC−3)に仕込み、反応溶媒としての75質量%t−ブタノール水溶液100gと、ラジカルトラップ剤としてp−メトキシフェノールを反応溶液に対して200ppmを入れ、オートクレーブを密閉した。オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、次いで、イソブチレンを6.5部導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、110℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、圧縮空気を内圧4.8MPaまで導入した。反応中に内圧が0.2MPa低下した時点(内圧4.6MPa)で、純酸素を0.2MPa導入する操作を繰り返し、純酸素の追加量が合計1.8MPaに達した時点で反応終了した。
【0063】
反応終了後、氷水浴にてオートクレーブ内を冷却した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0064】
[実施例2]
(触媒調製)
テルル酸を0.216部用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、パラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
【0065】
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0066】
[比較例1]
(触媒調製)
純水10部に、硝酸パラジウム硝酸溶液(パラジウム23.33質量%)2.14部、およびテルル酸0.108部を加え、均一なパラジウム/テルル原料溶液を調製した。このパラジウム/テルル原料溶液に粒状のシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)5.0部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去した。このような浸漬担持法でパラジウム原料およびテルル原料を担持させた担体を空気中200℃で3時間焼成(昇温速度=1℃/分)を行い、パラジウム酸化物およびテルル酸化物がシリカに担持された触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体に、還元剤である37質量%ホルムアルデヒド水溶液20部を加えた。これを70℃に加熱し、2時間攪拌保持する還元処理を行った。次いで、吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、パラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
【0067】
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0068】
[比較例2]
(触媒調製)
テルル酸を0.216部用いた以外は、比較例1と同様の操作を行い、パラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒を得た。
【0069】
(反応評価)
上記の方法で得た触媒を用いた以外は、実施例1と同様の操作で反応評価を行った。
【0070】
各実施例および比較例で使用した触媒のTe/Pdおよびパラジウムの担持率、ならびに反応評価の結果であるメタクリル酸生産性を、表1にまとめて示した。
【0071】
【表1】

【0072】
以上、実施例1〜2および比較例1〜2の結果から、本発明の方法により製造した触媒を用いることによって、メタクリル酸の生産性が向上することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用するパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、パラジウム元素が酸化状態にあるパラジウム化合物が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記パラジウム元素および前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る工程を含む方法。
【請求項2】
アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用するパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、パラジウム元素が金属状態にあるパラジウム金属が担持された担体を、テルル元素が酸化状態にあるテルル化合物溶液に浸漬させてから10分以内に、前記テルル元素の還元を開始することにより、パラジウム金属およびテルル金属が担体に担持されたパラジウム含有担持触媒を得る工程を含む方法。
【請求項3】
前記パラジウム含有担持触媒中のパラジウム元素とテルル元素の組成比が、パラジウム元素1モルに対してテルル元素0.001〜0.4モルである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で製造されるパラジウム含有担持触媒。
【請求項5】
請求項4に記載のパラジウム含有担持触媒の存在下で、アルコール、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−30140(P2012−30140A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169167(P2010−169167)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】