説明

パルスレーダ装置、パルスレーダ装置の目標物検出方法及び検出処理プログラム

【課題】1方向のビーム走査に要する時間を短くすると共に、2次トリップエコーとの判別を誤ることなく確実に1次エコーを検出することができるパルスレーダ装置を提供する。
【解決手段】パルス位相設定器11によって基準変化量φ1でNパルス分の初期位相を発生させ、送信パルス発生器12によってN個の送信パルス列を発生・送信する。目標で反射したNパルス分の受信信号を1組として目標信号を検出する。同様にして基準変化量φ2ついても目標信号を検出する。初期位相と逆の位相で受信信号を補正し、補正後の受信信号の位相回転量を比較して2次トリップエコーを除去すると共に1次エコーを検出しその目標データを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次トリップエコーにより偽目標が発生するパルスレーダ装置、パルスレーダ装置の目標物検出方法及び検出処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、空間に電波を照射して目標物からの反射信号を受信することにより目標物の存在を探知し、その位置、速度等を観測するものが一般的である。電波はレーダ装置に備えられた空中線から照射される。空中線から照射された電波は、所定の形状を有する電波ビームを空間に形成し、その電波ビームの方向を順次変えながら空間を走査していく。パルスレーダ装置はパルスを空間に照射するレーダ装置であり、送信パルスが空中線から照射された時刻と、目標物に反射した受信パルスが空中線によって受信された時刻との差に基づいて目標物までの距離を測定している。
【0003】
パルスレーダ装置では、より小さい目標を探知可能とするために、変調を施した長パルスを送信しその受信時に送信パルス波形と相関処理を行うパルス圧縮や、同一方向に複数のパルスを一組のパルス列として送信し同一距離の信号同士を加算する積分処理が一般的に行われている。これらの処理を行うことによって小さい目標からの反射信号であってもS/Nが改善され所定の距離範囲でその探知が可能となる。
【0004】
送信パルスを出力する間隔をパルス繰り返し周期というが、探知距離を正確に測定できる範囲というのは一般にこのパルス繰返し周期に依存している。例えば、ある送信パルスに対応する受信パルスが、次の送信パルスの送信タイミングよりも先に受信されるような場合には、その探知距離は正確に測定することができる。これを1次エコー(1次反射波)という。これに対して、送信パルスに対応する受信パルスが次の送信パルスの送信タイミングよりも後で受信される場合には、その受信パルスが次の送信パルスに対応するものか否かの区別がつかないため実際の距離よりも近距離として測定されることになる。これが2次トリップエコーといわれる現象である。また、受信パルスはさらに後の送信パルスのタイミングで受信される場合もあり、この場合にはさらに遠距離の目標が近距離として測定されることになる。測定した目標の距離がこのように不確定になる現象をレンジアンビギュイティという。
【0005】
この現象を回避するために一般的に知られている手段として、例えば、複数の異なるパルス繰返し周期を採用するものがある(非特許文献1)。これは、1次エコーの場合、パルス繰返し周期が異なっていても目標までの距離が同一の距離に測定されるが、2次トリップエコーの場合には、パルス繰り返し周期が異なっていると目標までの距離が相違した距離として測定されるという現象を利用するものである。すなわち、それぞれのパルス繰返し周期毎に測定された目標までの距離の比較をすれば、1次エコーと2次トリップエコーとを分離でき、1次エコーを正しく検出することができるというものである。
【0006】
また、上記現象を回避する別の手段として、送信パルス毎に位相変調を施して2次トリップエコーを抑圧するものがある(特許文献1)。図7は、特許文献1に記載されたレーダ装置の技術を示すブロック図である。パルス位相制御器(2)71は送信パルスの初期位相をランダムに発生する。送信パルス発生器72は、パルス位相制御器(2)71が発生する初期位相によって設定された送信パルスを発生すると共にその送信パルスを送信器73へ出力する。送信器73は送信パルスをRFに周波数変換し電力増幅した後に送受切替器74を経由して空中線75へ出力する。
【0007】
続いて、空中線75は、送信時には送信パルスを空間へ電波として発射し、受信時には空間から入力される電波を受信して送受切替器74を経由して受信器76へ出力する。送受切替器74は、送信と受信のタイミングで送信信号と受信信号の入出力方向の切替を行う。受信器76は、RFの受信信号を周波数変換した後にA/D変換及び位相検波してパルス圧縮器77へ出力する。パルス圧縮器77は、受信信号と送信パルス波形との相関処理を行う。パルス位相補正器(1)78は、2次トリップエコーの積分時にS/Nが改善されるように位相補正を行うと共にそれを積分処理器79へ出力する。
【0008】
そして、積分処理器79で積分してS/Nが改善された受信信号は、2次トリップエコー検出器80で予め定められた閾値と比較され、その結果、振幅の大きい信号が2次トリップエコーと判定され検出される。2次トリップエコー除去器81は、この検出された2次トリップエコーの信号成分を受信信号から減算することによって2次トリップエコーを除去する。パルス位相補正器(2)82は、2次トリップエコーを除去した後の受信信号に対して、パルス位相補正器(1)78で行った補正と逆の補正を行ったのち、1次エコーが積分時にS/Nが改善されるように位相補正を行う。続いて積分処理器83で積分処理が行われた後に、目標検出器84において予め定められた閾値と比較され、その結果、振幅の大きい信号が1次エコーの目標と判定され目標データとして出力される。
【0009】
即ち、このレーダ装置の技術では、送信パルスの初期位相をランダムに変調して送信し、受信信号に対して最初に2次トリップエコーが積分されるように位相補正を行い、2次トリップエコーを検出する。そして検出された2次トリップエコーの信号成分を受信信号から差し引いた後に、その受信信号に対して今度は1次エコーが積分されるように位相補正を行い積分する。これにより2次トリップエコーは除去されて1次エコーのみが出力される。
【0010】
さらに、関連するレーダ装置の技術として、一定時間前に送信された送信波の位相を打ち消すように第1の位相補正を施した受信信号に対して、卓越周波数成分を除去した後に前記第1の位相補正と逆位相の補正を施し、さらに送信波の初期位相を打ち消すように第2の位相補正を施して計測用の受信信号を得るように信号処理を行なうというものがある(引用文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Merrill Skolnik , “Radar Handbook Third Edition” , McGraw-Hill , p.4.31-4.34
【特許文献1】特開平08−146124号公報
【特許文献2】特開2009−36540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1に開示された技術では、複数の異なるパルス繰り返し周期で送信パルスを出力しているため、1方向のビーム走査に要する時間が、単一のパルス繰返し周期で出力する場合に比べて2倍よりも長くなってしまうという欠点があった。これは、少なくとも値の異なる2種類以上のパルス繰返し周期で送信し、且つ、その繰返し周期がレーダ装置の最大処理の距離によって決まるパルス繰り返し周期以上となる必要があるため無駄な時間が発生してしまうからである。
【0013】
また、特許文献1に開示された技術では、位相補正量がランダムに発生するため、目標信号の変動等により1次エコーと2次トリップエコーの積分後の振幅の差が小さい場合もあり、その場合には1次エコーを2次トリップエコーとして除去したり、2次トリップエコーを1次エコーとして検出するという欠点があった。また、特許文献2に開示された技術でも積分後の1次エコーと2次トリップエコーの振幅の差が小さい場合には確実に検出できないという欠点があった。
【0014】
[発明の目的]
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、1方向のビーム走査に要する時間を短くすると共に、2次トリップエコーとの判別を誤ることなく確実に1次エコーを検出することができるパルスレーダ装置、パルスレーダ装置の目標物検出方法及び検出処理プログラムの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係るパルスレーダ装置は、レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、
当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、
前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置において、
前記送信パルス発生器に、基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように当該パルス発生器を付勢するパルス位相設定部を設け、
前記受信器に、前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正するパルス位相補正器を併設し、
前記パルス位相補正器に、前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去すると共に一次エコーを検出する2次トリップエコー除去器を併設したことを特徴とするものである。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るパルスレーダ装置の目標物検出方法は、レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置の目標物検出方法であって、
前記送信パルス発生器に設けられたパルス位相設定部が、基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように前記送信パルス発生器を付勢し、
前記受信器に併設されたパルス位相補正器が、前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正し、
前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去し、一次エコーを検出し、前記除去及び検出する各ステップを前記パルス位相補正器に併設された2次トリップエコー除去器が実行することを特徴とするものである。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るパルスレーダ装置の目標物検出処理プログラムは、レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置の目標物検出処理プログラムであって、
基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように前記送信パルス発生器を付勢するパルス位相設定機能、
前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正するパルス位相補正機能、
前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去すると共に一次エコーを検出する2次トリップエコー除去機能、
をコンピュータに実現させるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、初期位相は異なるがパルス繰返し周期の同じ2種類の送信パルス列を使用することにより、1方向のビーム走査に要する時間を単一のパルス繰返し周期で送信する場合の所要時間の2倍に抑えることができる。また、送信パルスに設定した初期位相と逆の位相で受信信号を補正することにより1次エコー以外の次数(2次、3次、・・・)エコーで位相回転量が打ち消されないように処理したので、1次エコーを2次トリップエコーとして除去したり、2次トリップエコーを1次エコーとして検出したりすることなく1次エコーを確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るパルスレーダ装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】1次エコーと2次トリップエコーとの位相の対応を示した模式図である。
【図3】送信パルス列のタイミングと位相との関係を示すタイミングチャートである。
【図4】受信信号のドップラ周波数を説明する模式図である。
【図5】本発明に係るパルスレーダ装置の第2の実施形態を示すブロック図である。
【図6】本発明に係るパルスレーダ装置の第3の実施形態を示すブロック図である。
【図7】従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
以下、本発明に係るパルスレーダ装置の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1はレーダ装置におけるパルスレーダ装置の第1の実施形態を示す。パルスレーダ装置1は、2種類の基準位相量を発生させると共にそれぞれに対応した送信パルス列の初期位相を制御するパルス位相設定器11と、初期位相を制御した送信パルスを発生しそれを送信器へ出力する送信パルス発生器12と、送信パルスをRFに周波数変換した後に送受切換器14を経由して空中線15へ出力する送信器13と、送信信号と受信信号の入出力方向の切り換えを行う送受切替器14と、送信パルスを発射しまた入力される電波を受信する空中線15と、空中線15から送受切替器14を経由して入力されるRFの受信信号を周波数変換する受信器16と、受信信号と送信パルス波形の相関処理を行うパルス圧縮器17と、受信信号の位相を補正するパルス位相補正器18と、受信信号をその波形構造が変化しないようにコヒーレントに積分する積分処理器19と、積分処理器19から出力される受信信号から目標信号を検出する目標検出器20と、目標信号の積分処理時のドップラフィルタ番号を記憶するメモリ21と、目標信号のドップラフィルタ番号を比較して2次トリップエコーを除去する2次トリップエコー除去器22とを含んで構成されている。
【0021】
パルス位相設定器11は、2種類の基準位相量(基準変化量)を発生させると共にそれぞれの基準位相量に対応した2組の送信パルス列(Nパルス分)の初期位相を設定する制御を行っている。この初期位相の制御は、反射波として受信する2次トリップエコーに対して見かけ上の周波数差であるドップラ周波数、つまり見かけの速度が付加されるように行なわれている。また、初期位相は異なるが、パルス繰り返し周期の等しい2種類の送信パルス列が使用されている。尚、パルス位相設定器は送信パルス発生器12に対して基準位相量の異なる一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように当該パルス発生器を付勢するものであり、パルス位相設定部としてパルス発生器に設けるようにしてもよい。
【0022】
送信パルス発生器12は、初期位相を制御した送信パルスを発生すると共にその送信パルスを送信器13へ出力している。
送信器13は、入力された送信パルスを周波数変換回路によってRFに周波数変換し、さらに電力増幅器によって電力増幅した後に送受切替器14を経由して空中線15へ出力している。
【0023】
送受切替器14は、送信と受信のタイミングで送信信号と受信信号の入出力方向の切替を行なっている。
空中線15は、送信時には空間へ送信パルスを電波として発射し、受信時には空間から入力される電波を受信している。
【0024】
受信器16は、空中線15から送受切替器14を経由して入力されるRFの受信信号を周波数変換回路で周波数変換し、さらにA/D変換回路でA/D変換をした後に、位相検波回路によって位相検波を行なっている。
パルス圧縮器17は、受信器16から出力された受信信号(N個の受信信号を1組とする)と送信器13から出力した送信パルス波形の相関処理であるパルス圧縮処理を行なっている。
【0025】
パルス位相補正器18は、パルス位相設定器11において送信パルスに設定した初期位相を、この送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号において打ち消すために受信信号の位相を補正する処理を行っている。
【0026】
積分処理器19は、パルス位相補正器18から出力された送信パルス列毎の受信信号を位相を考慮し且つ信号波形の構造が変化しないようコヒーレント積分を行なっている。コヒーレント積分は同一の繰り返し周期の送信パルスに対応して受信される受信パルスの振幅(複素数)を加算してS/Nを向上させる処理である。受信パルスの振幅は複素数であり、目標速度に対応する速度で回転する。コヒーレント積分はディジタルフィルタとして以下の複素積和演算の式(1)で表すことができる。
【0027】
[数1]
Yk=Σ(Wk,i・Xi)・・・(1)
i:1≦i≦n、nは同一のパルス繰り返し周期で送信するパルス数=積分数
k:ドップラフィルタ番号
Wk,i:ドップラフィルタ番号kに対応する係数
Xi:iパルス目の受信パルスの複素振幅値
【0028】
目標検出器20は、積分処理器19から出力される積分処理後の受信信号を予め定められた閾値と比較し、この閾値よりも大きいか否かを判定して目標信号を検出している。以上の処理は上記2組の送信パルス列のそれぞれについて行なわれる。
【0029】
メモリ21は、送信パルス列毎に検出した目標信号の積分処理時におけるドップラフィルタバンクのドップラフィルタ番号を記憶している。
【0030】
2次トリップエコー除去器22は、目標検出器20によって送信パルス列毎に検出した目標信号のうち、同一距離であるとして検出された目標信号のドップラフィルタ番号を比較し、そのドップラフィルタ番号が異なっている場合にはその信号を2次トリップエコーであると判定して除去している。これに対してそのドップラフィルタ番号が同一の場合にはその信号を1次エコーであると判定しそのデータを目標物のデータとして出力している。
【0031】
次に、パルスレーダ装置1を構成する主な部分の機能について図2から図4に基づきさらに詳述する。
パルス位相設定器11は、一方向のビーム走査に対して2種類の基準変化量φ1とφ2を発生させる。また、それぞれの基準変化量φ1、φ2に対応した2組の送信パルス列(Nパルス分の送信)61、62の初期位相を2次トリップエコーに対して見かけ上の周波数差であるドップラ周波数が付加されるように制御している(図3参照)。初期位相は異なるがパルス繰り返し周期の等しい2種類の送信パルス列が使用される。
【0032】
パルス位相設定器11は基準変化量をφとしたとき、送信パルス列の各送信パルスに設定する初期位相an(n:パルス番号)を以下の式(2)のようにしている。送信パルス発生器12は、このように設定された初期位相の送信パルス列を送信器13へ出力する。
【0033】
[数2]
an=−{n(n−1)/2}φ・・・(2)
【0034】
図3に示されるように、各送信パルスに設定される初期位相は、基準変化量φ1のとき0、−φ1、−3φ1、−6φ1(送信パルス列61)、基準変化量φ2のとき0、−φ2、−3φ2、−6φ2(送信パルス列62)に設定される。初期位相は異なるがパルス繰り返し周期の等しい2種類の送信パルス列が使用される。
【0035】
これに対し、目標物からの反射信号として受信された1次エコー51と2次トリップエコー52の位相関係は図2に示されるようになる。1次エコー51は送信パルスに対応する受信パルスが次の送信パルスの送信タイミングよりも先に受信されているが、2次エコー52は送信パルスに対応する受信パルスが次の送信パルスの送信タイミングよりも後で受信されている。
【0036】
パルス位相補正器18は、上記のように設定した初期位相と正負を逆にした位相(補正量53)で受信信号を補正する。
補正の結果、1次エコーは送信時と正負が逆の位相(補正量53)による補正によって打ち消されるために、受信パルス間の位相回転量は実際に移動する目標の速度にのみ依存することとなる(図2、図3の1次エコー補正後54、64)。
【0037】
これに対して、2次トリップエコーは、パルス位相補正器18による補正量53が、受信した2次トリップエコーの位相(2次エコー52)と相違しているため、受信パルス間の位相回転量は打ち消されない。すなわち、パルス番号nの送信パルスに対応する2次トリップエコーは、パルス番号n+1の送信パルスに対応する受信信号が受信されるタイミングで受信されるため、パルス位相補正器18による補正後の位相(図2、図3の2次エコー補正後55、65)は以下の式(3)のように表される。
【0038】
[数3]
bn+1=an−an+1=nφ・・・(3)
【0039】
(3)式に表されるように、2次トリップエコーはパルス毎に位相回転量φずつ回転する。このため、目標物は実際に移動する速度に加えて位相回転量φだけ見かけ上の速度が変化したドップラ(送・受信電波の周波数差)を有するものとして測定される。このように受信信号の位相が補正されると、1次エコーと2次トリップエコーとで受信パルス間の位相回転量が相違するため、この補正後の受信信号の位相に基づいて1次エコーと2次トリップエコーとを判別することができ、1次エコーの検出を行なうことができる。
【0040】
実際には、積分処理器19が位相を考慮したコヒーレント積分を行うときに所定の速度間隔のフィルタバンク毎に積分結果を計算する。ドップラフィルタは検出したい速度毎に計数が相違している。広範な速度の目標であっても探知可能なように複数のドップラフィルタを並べて(係数の組を複数パターン使用したドップラフィルタバンク)、各ドップラフィルタの出力の計算を並列処理で行う。その結果、目標物の速度すなわちドップラ周波数に対応するフィルタ番号のフィルタ出力が最大となって検出されるため、目標の速度を知ることができる。このとき、1次エコーには目標物の実際の速度に対応したドップラフィルタ番号が選択されるが、2次トリップエコーの場合には位相回転量φに相当する速度分だけずれたドップラフィルタ番号が選択されることになる。
【0041】
本発明では、この特長を利用して2次トリップエコーを除去すると共に1次エコーの検出を行っている。
図3に示されるように、パルスレーダ装置1では基準変化量φ1とφ2に対応した送信パルスの初期位相を設定している。先ず、パルス位相設定器11は基準変化量φ1でNパルス分の初期位相を発生させている。送信パルス発生器12はN個の送信パルス61を発生させると共にそれを出力する。その後、目標物からの反射信号として空中線15に入力された受信信号はN個の受信信号を1組として補正、積分等された後に、目標検出器20によって受信信号のうちの目標信号が検出される。
【0042】
次に、基準変化量がφ2に変更され、上記φ1の場合と同様にNパルス分の初期位相の発生、N個の送信パルス62の出力、受信信号の補正、積分等の後に目標検出器20によって目標信号が検出される。
【0043】
上記先に処理されて、基準変化量φ1に対応する受信信号から検出された目標信号は、次の処理により基準変化量φ2に対応する受信信号から目標信号が検出されるまでの間、一旦、メモリ21に記憶される。そして、基準変化量φ2に対応する受信信号から目標信号が検出されると、当該目標信号とともに前記メモリ21に記憶された目標信号が2次トリップエコー除去器22に入力される。
【0044】
このとき、基準変化量φ1に対応する目標信号と基準変化量φ2に対応する目標信号とが同一距離の目標信号又は一定の距離差内の目標信号として検出された場合、1次エコーと2次トリップエコーのドップラフィルタ番号fbは、図4に示される関係となる。尚、一定の距離差内の目標信号としたのは、レーダ装置の精度による距離誤差や、1回目の送信パルス列と2回目の送信パルス列に時間差が存在しその間に目標が移動してしまうことにより、探知した目標の距離に差が生じる場合があるからである。
【0045】
1次エコーの場合には、基準変化量φ1、φ2に対応する目標信号のドップラフィルタ番号は両者とも実際の(真の)目標速度fdT 66Aに対応するドップラフィルタ番号fbT 66Bにおいて検出される。これに対して、2次トリップエコーの場合には、基準変化量φ1に対応する目標信号のドップラフィルタ番号はドップラ周波数fd1 67Aに対応するドップラフィルタ番号fb1(Δfd1)67Bにおいて検出され、基準変化量φ2に対応する目標信号のドップラフィルタ番号はドップラ周波数fd2 68Aに対応するドップラフィルタ番号fb2(Δfd2)68Bにおいて検出される。すなわち、2次トリップエコーの場合には実際の目標速度(ドップラ周波数)に対応するドップラフィルタ番号と異なるドップラフィルタ番号において検出される。
【0046】
これにより基準変化量φ1に対応する目標信号のドップラフィルタ番号と基準変化量φ2に対応する目標信号のドップラフィルタ番号とを比較してその番号の差が一定の範囲内である場合には1次エコーであると判定して検出する。これに対して、番号の差が一定の範囲以上である場合には2次トリップエコーであると判定して除去する。
【0047】
次に、上述した第1の実施形態に係るパルスレーダ装置1の動作を図1から図4に基づいて説明する。
パルスレーダ装置1から送信される信号の基準位相量(2種類)と、その送信パルス列の初期位相がパルス位相設定器11によって発生及び設定される。初期位相は異なるがパルス繰り返し周期の等しい2種類の送信パルス列が使用される。送信パルスの生成間隔は目標物までの距離の曖昧さを考慮して決定される。パルス位相設定器11で設定される初期位相の送信パルス列が送信パルス発生器12によって発生され、その発生された送信パルス列が送信器13へ出力される。
【0048】
基準位相量の異なる2種類の送信パルス列は送信器13内に装備された周波数変換器によってRFに周波数変換され、同じく送信器13内に装備された電力増幅器によって電力増幅される。電力増幅された送信パルスは送信器13から出力され、送受切換器14を介して空中線15から空間へと放射される。送信パルスが放射されるビーム方向を変化させることで観測方向を変化させる。
【0049】
次に、空間へ放射された送信パルス(送信波)は目標物に反射すると反射波となって空中線15に到達し空中線15はこの反射波を受信する。受信された反射波(受信信号)は送受切換器14を介して受信器16へ入力する。受信信号は受信器16に装備された周波数変換器によってRFに周波数変換され、同じく受信器16に装備されたA/D変換器によってA/D変換された後に、受信信号に関する位相情報を抽出するため受信器16に設けられた位相検波回路によって位相検波される。
【0050】
受信器16から出力された受信信号はパルス圧縮器17に入力される。パルス圧縮器17では当該入力された受信信号とこの受信信号に対応する送信パルス波形との相関処理であるパルス圧縮の処理が行われる。パルス圧縮された受信信号はパルス位相補正器18に入力され位相の補正処理が行われる。この補正処理は、パルス位相設定器11で送信パルスに設定した初期位相を、この送信パルスに対応する受信タイミングで受信した受信信号において打ち消すように行われる。
【0051】
補正処理された受信信号は積分処理器19に入力され、受信信号に含まれる送信パルス列毎に位相を考慮してコヒーレントに積分される。積分された受信信号は目標検出器20に入力され目標信号の検出処理が行われる。この検出処理は、予め定められた閾値と積分処理器19から出力された積分処理後の受信信号との比較を行い、この閾値を超える振幅の信号を目標信号と判定して検出する。
【0052】
上述した目標信号を検出するまでの一連の処理は設定した2種類の基準位相量の送信パルス列についてそれぞれ行われる。そして、一方の基準位相量の送信パルス列について目標信号が検出されたとき、その目標信号のドップラフィルタ番号(上記コヒーレント積分処理時の番号)は、他方の基準位相量の送信パルス列についての目標信号が検出されるまでの間、メモリ21に記憶される。
【0053】
続いて、他方の基準位相量の送信パルス列について目標信号が検出されると、当該目標信号及びメモリ21に記憶しておいた目標信号が2次トリップエコー除去器22に入力される。これら送信パルス列毎に検出した目標信号のうち同一距離又は一定の距離差内の目標信号として検出された目標信号のドップラフィルタ番号が比較され、そのドップラフィルタ番号が異なる場合には、その目標信号は2次トリップエコーであると判定され除去される。これに対して、ドラップフィルタ番号が同一の場合には1次エコーであると判定されその情報は目標データとして出力される。
【0054】
このようなパルスレーダ装置1の構成及びその動作により、1方向のビーム走査に要する時間を、単一のパルス繰返し周期で送信パルスを送信する場合の時間の2倍に抑えることができ、目標物の位置及びその速度等を迅速に把握することができる。これは、初期位相は相違しているがパルス繰返し周期が同一である2種類の送信パルス列を使用することにより、パルス繰返し周期が異なる送信パルス列を使用する場合に比べて無駄な時間(必要以上の長い繰返し周期)を発生させないようにすることができるためである。
【0055】
また、1次エコーを2次トリップエコーとして除去したり、2次トリップエコーを1次エコーとして検出したりすることなく1次エコーを確実に検出することができ、目標物までの距離及びその移動速度等を正確に計測することができる。これは、送信パルス列の初期位相を所定の計算式で算出した値に設定すると共に2次トリップエコーの見かけ上の速度が相違している2種類の基準位相によって初期位相を設定して、それぞれの基準位相に対応する受信信号から検出された目標信号の積分時のドップラフィルタ番号が異なることを利用しているので、積分後の振幅値判定ではなくドップラフィルタ番号の違いにより1次エコーと2次トリップエコーを分離しているためである。
【0056】
[第2の実施形態]
次に、パルスレーダ装置の第2の実施形態を図5に基づいて説明する。尚、図1に示す第1の実施形態と同一符号部分については同一の機能及び動作を有するものとする。
パルスレーダ装置2では、図1の第1の実施形態における2次トリップエコー除去器22に換えて、速度差分検出器31と距離補正器32を含む構成となっている。
【0057】
パルスレーダ装置2においても図2に示されるように、2次トリップエコー(2次エコー補正後55)はパルス番号が増加する度に位相φだけ回転する。この位相回転量φに対応した速度が見かけの速度として付加されて観測される。これに対して、送信パルスに対して2つ後の受信タイミングで受信される受信パルスが3次エコー56となる。3次エコーの場合にはパルス番号が増加する毎に位相2φだけ回転する(3次エコー補正後57)。したがって、この回転量2φに対応する速度が見かけの速度として観測される。
【0058】
よって、2次トリップエコーと3次トリップエコーとでは付加される速度が異なっており、この点において両者を区別することが可能である。尚、4次以降も同様であり、例えば、4次の場合にはパルス番号毎に位相回転量は3φとなり、この回転量3φに対応した速度が付加される。
【0059】
速度差検出器31は、受信された前記受信信号における前記基準位相量の異なる二組の送信パルス列に対応した各受信信号を、二組の送信パルス列(初期位相は異なるがパルス繰り返し周囲及び含まれるパルス数が等しい2種類の送信パルス列)の送信タイミングに合わせて重ね処理する信号重合処理部を備えている。また、送度差検出器31は、信号重合処理部が機能することによって得られる複数の各次エコーの速度差を、1次エコーを基準として何次のエコーかを特定するエコー次数特定部を備えている。また、速度差検出器31は、その出力段に1次エコー及び他の次数のエコーにかかる目標物までの実際に測定された距離を送信パルスの送信時から受信パルスの受信時までの時間に基づいて算定し、他の次数のエコーにかかる距離に対して他の次数分の距離を補正して1次エコーにかかる目標物までの真の距離を算出する距離補正器を備えている。
【0060】
目標検出器20は第1の実施形態の場合と同様に、2種類の基準位相量の送信パルス列についてそれぞれ目標信号を検出する。また、一方の基準位相量の送信パルス列について目標信号が検出されたとき、その目標信号の情報は他方の基準位相量の送信パルス列についての目標信号が検出されるまでの間、メモリ21に記憶される。
【0061】
そして、他方の基準位相量の送信パルス列について目標信号が検出されると、当該目標信号及びメモリ21に記憶しておいた目標信号が速度差分検出器31に入力される。速度差分検出器31は検出した目標信号の速度の差分によってそれぞれの目標信号が何次のエコーであるか判定する。
【0062】
目標信号及びその判定次は距離補正器32に入力される。距離補正器32はそれぞれの目標信号から得られる実際に測定された目標物までの距離に対して、判定された次数分の距離の補正を行う。そして、これにより得られる目標物までの真の距離を算出すると共にこれを目標データとして出力する。このような処理を行うことにより、第1の実施形態では2次トリップエコーを除去して1次エコーを検出するだけであったが、第2の実施形態の場合には2次以上のエコーの距離(例えば、3次、4次エコーの距離)も正しく測定しその目標データを出力することができる。
【0063】
[第3の実施形態]
また次に、パルスレーダ装置の第3の実施形態を図6に基づいて説明する。尚、図1に示す第1の実施形態と同一符号部分については同一の機能及び動作を有するものとする。
パルスレーダ装置3では、図1の第1の実施形態における積分処理器19の次段にノンコヒーレント積分処理器42を追加すると共に、メモリ21に換えてメモリ(2)41を追加した構成となっている。
【0064】
積分処理器19と目標検出器20との間には、積分処理器19から出力される一方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データと他方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データとを振幅加算するノンコヒーレント積分処理部42が設けられている。また、ノンコヒーレント積分処理器42には、処理データ記憶器(メモリ(2))41が受信信号記憶器(メモリ(1)21(図1))に代えて装備されている。この処理データ記憶器41には、積分処理器19から出力される一方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データ(前後して送信される二組の送信パルス列のうちの先に送信される送信パルス列の受信信号処理データ)が記憶されており、他方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データ(二組の送信パルス列のうちの先に送信される送信パルス列の受信信号処理データ)が出力されたときノンコヒーレント積分処理部42に読み出されノンコヒーレント積分される。
【0065】
積分処理器19は第1の実施形態の場合と同様に送信パルス列毎の受信信号をコヒーレント積分する。そして、メモリ(2)41には、積分処理器19における受信信号(基準位相量の異なる二組の送信パルス列に対応する受信信号)の積分処理結果のうちの1回目(先に受信された受信信号)のデータが、積分処理器19による受信信号の2回目(後に受信された受信信号)の積分処理結果が出るまで記憶される。記憶されるデータには積分処理時のドップラフィルタ番号も含まれる。
【0066】
ノンコヒーレント積分処理器42には、2回目の積分処理結果のデータと、メモリ(2)41に記憶しておいた1回目の積分処理結果のデータが入力される。ノンコヒーレント積分処理器42は入力された両データを振幅加算するノンコヒーレント積分処理を行う。
ノンコヒーレント積分された受信信号は目標検出器20に入力される。目標検出器20は第1の実施形態の場合と同様に、閾値判定によって目標信号を検出する。
【0067】
検出された目標信号は2次トリップエコー除去器22に入力され、(メモリ(2))41に記憶された処理データにかかる情報に基づいて2次トリップエコーを除去する。上記ノンコヒーレント積分処理時のドップラフィルタ番号と前記メモリ(2)41に記憶されている1回目の積分処理結果のドップラフィルタ番号とが比較され、そのドップラフィルタ番号が異なる場合には、その目標信号は2次トリップエコーであると判定され除去される。これに対して、ドラップフィルタ番号が同一の場合には1次エコーであると判定されその情報は目標データとして出力される。
【0068】
このように、第1の実施形態ではNパルスの積分処理結果で目標検出処理を行うだけであったが、第3の実施形態の場合にはそれぞれのNパルスの積分処理結果をさらにノンコヒーレント積分処理した後に目標検出処理を行っている。したがって、第3の実施形態では、2次トリップエコーの除去による探知性能の確保に加えて、ノンコヒーレント積分処理の利得分による探知性能をさらに確保することができる。
【0069】
また、本発明に係るパルスレーダ装置の実施形態の各部分が実行する機能の全部又は一部をプログラムとして構築し、そのプログラムをコンピュータに実行させるようにしてもよい。その場合にも上記実施形態で記載した効果と同様の効果を得ることができる。
【0070】
上述した各実施形態については、その新規な技術的内容の要点をまとめると、以下のようになる。尚、上記実施形態の一部又は全部は、新規な技術として以下のようになるが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0071】
(付記1)レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、
当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、
前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置において、
前記送信パルス発生器に、基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように当該パルス発生器を付勢するパルス位相設定部を設け、
前記受信器に、前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正するパルス位相補正器を併設し、
前記パルス位相補正器に、前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去すると共に一次エコーを検出する2次トリップエコー除去器を併設したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【0072】
(付記2)付記1に記載のパルスレーダ装置において、
前記2次トリップエコー除去器の信号入力部に前記受信信号から目標信号を検出する目標検出器を装備すると共に当該2次トリップエコー除去器に前記一方の送信パルス列に対応する前記受信信号についてのエコーデータを一時的に記憶する受信信号記憶器を併設し、
当該2次トリップエコー除去器が、前記他方の送信パルス列に対応して受信される前記受信信号についてのエコーデータの当該2次トリップエコー除去部への入力タイミングで前記受信信号記憶器に記憶された前記一方の反射受信信号についてのエコーデータを受信する機能を備えていることを特徴とする
【0073】
(付記3)付記2に記載のパルスレーダ装置において、
前記受信器と前記パルス位相補正器との間に、前記受信信号と前記送信パルス波形の相関処理である圧縮処理を実行するパルス圧縮器を配設したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【0074】
(付記4)付記3に記載のパルスレーダ装置において、
前記パルス位相補正器と前記目標検出器との間に、当該パルス位相補正器によって補正された前記一方と他方の各送信パルス列毎の受信信号をコヒーレントに積分して単一の受信信号に変換する積分処理器を配設したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【0075】
(付記5)付記4に記載のパルスレーダ装置において、
前記2次トリップエコー除去器に代えて速度差検出器を装備し、
当該速度差検出器が、受信された前記受信信号における前記基準位相量の異なる二組の送信パルス列に対応した各受信信号を、前記二組の送信パルス列の送信タイミングに合わせて重ね処理する信号重合処理部と、当該信号重合処理部が機能して得られる複数の各エコーの速度差を1次エコーを基準として何次のエコーかを特定するエコー次数特定部とを備えていることを特徴としたパルスレーダ装置。
【0076】
(付記6)付記5に記載のパルスレーダ装置において、
前記速度差検出器の出力段に、1次エコー及び他の次数のエコーにかかる目標物の距離を受信時間に基づいて算定すると共に当該他の次数のエコーにかかる距離に対して当該他の次数分の距離を補正し前記1次エコーにかかる目標物の距離を算出する距離補正器を装備したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【0077】
(付記7)付記4に記載のパルスレーダ装置において、
前記積分処理器に、当該積分処理器から出力される前記一方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データを記憶する処理データ記憶器を前記受信信号記憶器に代えて装備し、
前記積分処理器と目標検出器との間に、前記処理データ記憶部に記憶しておいた前記一方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データと前記積分処理器から出力される他方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データとを振幅加算するノンコヒーレント積分処理部を装備し、
前記2次トリップエコー除去器が、前記処理データ記憶器に記憶された処理データにかかる情報に基づいて2次トリップエコーを除去する構成としたことを特徴とするパルスレーダ装置。
【0078】
(付記8)レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置の目標物検出方法であって、
前記送信パルス発生器に設けられたパルス位相設定部が、基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように前記送信パルス発生器を付勢し、
前記受信器に併設されたパルス位相補正器が、前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正し、
前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去し、一次エコーを検出し、前記除去及び検出する各ステップを前記パルス位相補正器に併設された2次トリップエコー除去器が実行することを特徴とするパルスレーダ装置の目標物検出方法。
【0079】
(付記9)レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置の目標物検出処理プログラムであって、
基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように前記送信パルス発生器を付勢するパルス位相設定機能、
前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正するパルス位相補正機能、
前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去すると共に一次エコーを検出する2次トリップエコー除去機能、
をコンピュータに実現させるようにしたことを特徴とするパルスレーダ装置の目標物検出処理プログラム。
【符号の説明】
【0080】
1,2,3 パルスレーダ装置
11 パルス位相設定器(パルス位相設定部)
12 送信パルス発生器
13 送信器
14 送受切換器
15 空中線
16 受信器
17 パルス圧縮器
18 パルス位相補正器
19 積分処理器
20 目標検出器
21 メモリ(受信信号記憶部)
22 2次トリップエコー除去器
31 速度差分検出器
32 距離補正器
41 メモリ(2)
42 ノンコヒーレント積分処理器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、
当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、
前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置において、
前記送信パルス発生器に、基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように当該パルス発生器を付勢するパルス位相設定部を設け、
前記受信器に、前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正するパルス位相補正器を併設し、
前記パルス位相補正器に、前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去すると共に一次エコーを検出する2次トリップエコー除去器を併設したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパルスレーダ装置において、
前記2次トリップエコー除去器の信号入力部に前記受信信号から目標信号を検出する目標検出器を装備すると共に当該2次トリップエコー除去器に前記一方の送信パルス列に対応する前記受信信号についてのエコーデータを一時的に記憶する受信信号記憶器を併設し、
当該2次トリップエコー除去器が、前記他方の送信パルス列に対応して受信される前記受信信号についてのエコーデータの当該2次トリップエコー除去部への入力タイミングで前記受信信号記憶器に記憶された前記一方の反射受信信号についてのエコーデータを受信する機能を備えていることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のパルスレーダ装置において、
前記受信器と前記パルス位相補正器との間に、前記受信信号と前記送信パルス波形の相関処理である圧縮処理を実行するパルス圧縮器を配設したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のパルスレーダ装置において、
前記パルス位相補正器と前記目標検出器との間に、当該パルス位相補正器によって補正された前記一方と他方の各送信パルス列毎の受信信号をコヒーレントに積分して単一の受信信号に変換する積分処理器を配設したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のパルスレーダ装置において、
前記2次トリップエコー除去器に代えて速度差検出器を装備し、
当該速度差検出器が、受信された前記受信信号における前記基準位相量の異なる二組の送信パルス列に対応した各受信信号を、前記二組の送信パルス列の送信タイミングに合わせて重ね処理する信号重合処理部と、当該信号重合処理部が機能して得られる複数の各エコーの速度差を1次エコーを基準として何次のエコーかを特定するエコー次数特定部とを備えていることを特徴としたパルスレーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のパルスレーダ装置において、
前記速度差検出器の出力段に、1次エコー及び他の次数のエコーにかかる目標物の距離を受信時間に基づいて算定すると共に当該他の次数のエコーにかかる距離に対して当該他の次数分の距離を補正し前記1次エコーにかかる目標物の距離を算出する距離補正器を装備したことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項7】
請求項4に記載のパルスレーダ装置において、
前記積分処理器に、当該積分処理器から出力される前記一方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データを記憶する処理データ記憶器を前記受信信号記憶器に代えて装備し、
前記積分処理器と目標検出器との間に、前記処理データ記憶部に記憶しておいた前記一方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データと前記積分処理器から出力される他方の各送信パルス列毎の受信信号の処理データとを振幅加算するノンコヒーレント積分処理部を装備し、
前記2次トリップエコー除去器が、前記処理データ記憶器に記憶された処理データにかかる情報に基づいて2次トリップエコーを除去する構成としたことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項8】
レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置の目標物検出方法であって、
前記送信パルス発生器に設けられたパルス位相設定部が、基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように前記送信パルス発生器を付勢し、
前記受信器に併設されたパルス位相補正器が、前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正し、
前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去し、一次エコーを検出し、前記除去及び検出する各ステップを前記パルス位相補正器に併設された2次トリップエコー除去器が実行することを特徴とするパルスレーダ装置の目標物検出方法。
【請求項9】
レーダ波用の送信パルスを生成する送信パルス発生器と、当該送信パルス発生器によって生成された送信パルスを増幅し空中線を介してレーダ波として送信する送信器と、前記空中線を介して受信された目標物からの反射レーダ波を受信信号として取り込む受信器とを備え、前記取り込まれた受信信号から1次エコーを特定してこれを目標物データとして出力するパルスレーダ装置の目標物検出処理プログラムであって、
基準位相量が異なると共にパルス繰り返し周期及びパルス数が等しい一方と他方の二組の送信パルス列を前記レーダ波用のパルスとして順次生成するように前記送信パルス発生器を付勢するパルス位相設定機能、
前記パルス位相設定部で前記送信パルスに設定した初期位相と逆の位相でその送信パルスに対応する受信タイミングの受信信号の位相を補正するパルス位相補正機能、
前記位相の補正がなされた後の受信信号の位相に基づいて当該受信信号から2次トリップエコーを除去すると共に一次エコーを検出する2次トリップエコー除去機能、
をコンピュータに実現させるようにしたことを特徴とするパルスレーダ装置の目標物検出処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−196856(P2011−196856A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64757(P2010−64757)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】