説明

パルスレーダ装置

【課題】本発明は、パルスレーダ装置に関し、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで、高い検出精度と遠方における速やかな検出とを両立させることにある。
【解決手段】パルス状の電波を送信する送信手段と、送信手段による送信電波の反射波を受信する受信手段と、を備え、送信手段による電波送信と受信手段による電波受信との関係に基づいて対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置において、対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を所定の数に区切ったレンジビンのうち、対象物が存在する存在レンジビンを検出すると共に、その存在レンジビンが検出された場合に、以後、該存在レンジビンについて送信手段の送信する電波のパルス幅を短くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーダ装置に係り、特に、パルス状の電波を送信し、その送信した電波が対象物に反射して得られる反射波を受信することにより、その対象物との相対距離や相対速度を検出するうえで好適なパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス状の電波を送信し、その送信した電波が対象物に反射して得られる反射波を受信することにより、その電波送信と電波受信との関係に基づいて、対象物の有無を判定して、対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−329764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、送信電波のパルス幅が短いほど、対象物との距離の検出精度を向上させることはできるが、距離検出を中/長距離に即時対応したものとすることが困難になり、中/長距離に対応しようとすれば多くの時間が必要となる。一方、送信電波のパルス幅が長ければ、中/長距離にも即時対応した距離検出を行うことは容易になるが、距離検出精度が低下してしまう。
【0005】
しかし、上記した特許文献1記載のパルスレーダ装置において、送信電波のパルス幅は、固定されており、対象物の検出が要求される検出範囲の位置に応じて可変されるものではない。この点、上記のパルスレーダ装置では、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで、速やかな検出と高い検出精度とを両立させることは困難である。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで、速やかな検出と高い検出精度とを両立させることが可能なパルスレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、パルス状の電波を送信する送信手段と、前記送信手段による送信電波の反射波を受信する受信手段と、を備え、前記送信手段による電波送信と前記受信手段による電波受信との関係に基づいて対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置であって、対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を所定の数に区切ったレンジビンのうち、対象物が存在する存在レンジビンを検出する存在レンジビン検出手段と、前記存在レンジビン検出手段により前記存在レンジビンが検出された場合に、以後、該存在レンジビンについて前記送信手段の送信する電波のパルス幅を短くするパルス幅短縮手段と、を備えるパルスレーダ装置により達成される。
【0008】
この態様の発明において、対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を所定の数に区切ったレンジビンのうちから対象物が存在する存在レンジビンが検出されると、その存在レンジビンについて送信電波のパルス幅が短くされる。送信電波のパルス幅が短くなれば、対象物を検出するうえでの分解能が高まるので、それ以前のパルス幅が長いときに比べて、対象物が存在することが検出された存在レンジビンでのその対象物の検出精度を向上させることが可能になると共に、一方、パルス幅が短くなる前はパルス幅が比較的長いので、遠方を含む全検出範囲内での対象物の検出を速やかに行うことが可能となる。従って、本発明によれば、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで、高い検出精度と遠方における速やかな検出とを両立させることができる。
【0009】
また、上記の目的は、パルス状の電波を送信する送信手段と、前記送信手段による送信電波の反射波を受信する受信手段と、を備え、前記送信手段による電波送信と前記受信手段による電波受信との関係に基づいて対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置であって、対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を複数に区切ったレンジビンのうち、対象物が存在する存在レンジビンを検出する存在レンジビン検出手段と、前記存在レンジビン検出手段により前記存在レンジビンが検出された場合に、以後、前記検出範囲内の全レンジビンのうち対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき要演算レンジビンを、前記存在レンジビンを含む周辺の一以上のレンジビン並びに前記検出範囲の端に存在する一以上のレンジビンのみに限定する要演算レンジビン限定手段と、を備えるパルスレーダ装置により達成される。
【0010】
この態様の発明において、対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を複数に区切ったレンジビンのうちから対象物が存在する存在レンジビンが検出されると、以後、検出範囲内の全レンジビンのうち対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき要演算レンジビンが、存在レンジビンを含む周辺の一以上のレンジビン並びに検出範囲の端に存在する一以上のレンジビンのみに限定される。要演算レンジビンが限定されれば、その限定がなされないものに比べて、検出範囲内における対象物の検出を速やかに行うことが可能になり、送信電波の比較的短いパルス幅に対応することが可能になる。従って、本発明によれば、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで、高い検出精度と遠方における速やかな検出とを両立させることができる。
【0011】
尚、上記したパルスレーダ装置において、前記要演算レンジビンは、当初、前記検出範囲の端に存在するレンジビンのみであることとすればよい。
【0012】
更に、パルス状の電波を送信する送信手段と、前記送信手段による送信電波の反射波を受信する受信手段と、を備え、前記送信手段による電波送信と前記受信手段による電波受信との関係に基づいて対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置であって、対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を複数に区切ったレンジビンのうち、対象物が存在する存在レンジビンを検出する存在レンジビン検出手段と、前記存在レンジビン検出手段により前記存在レンジビンが検出された場合に、該存在レンジビンについての対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで必要な受信電波の積分処理の回数を増大させる積分回数増大手段と、を備えるパルスレーダ装置は、SN比の改善を図り、検出感度を上げるうえで有効である。
【0013】
この態様の発明において、対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を複数に区切ったレンジビンのうちから対象物が存在する存在レンジビンが検出されると、その存在レンジビンにおける受信電波の積分処理の回数が増大される。受信電波の積分処理回数が増大すれば、SN比が改善され、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえでの感度が上がる。従って、本発明によれば、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえでSN比の改善を図り、検出感度を上げることができる。
【0014】
尚、上記したパルスレーダ装置において、対象物との相対距離又は相対速度の演算が要求される要求検出範囲の位置に応じて、前記送信手段の送信する電波のパルス幅を可変するパルス幅可変手段を備えることとしてもよい。
【0015】
この態様の発明において、送信手段の送信する電波のパルス幅は、対象物との相対距離又は相対速度の演算が要求される要求検出範囲の位置に応じて可変される。かかる構成において、比較的近方の対象物との演算が要求されるときにパルス幅を短くすれば、対象物を検出するうえでの分解能が高まるので、比較的近方の対象物の検出精度を向上させることが可能となり、また、比較的遠方の対象物との演算が要求されるときにパルス幅を長くすれば、比較的遠方の対象物の検出を速やかに行うことが可能となる。従って、本発明によれば、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで、近方における高い検出精度と遠方における速やかな検出とを両立させることができる。
【0016】
この場合、前記パルス幅可変手段は、前記要求検出範囲の位置が近方であるほど前記パルス幅を短くし、一方、前記要求検出範囲の位置が遠方であるほど前記パルス幅を長くすることとすればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで、高い検出精度と遠方における速やかな検出とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施例であるパルスレーダ装置の構成図である。
【図2】本実施例のパルスレーダ装置の備えるレーダセンサとしての送受信アンテナの搭載箇所、検出範囲、及び送信電波のパルス幅をそれぞれ表した図である。
【図3】本実施例において自移動体からターゲットまでの距離を検出する手法を説明するための図である。
【図4】本実施例において自移動体に対するターゲットの相対速度を検出する手法を説明するための図である。
【図5】本実施例において自移動体に対するターゲットの角度位置を検出する手法を説明するための図である。
【図6】本実施例のパルスレーダ装置の動作シーケンスを表した図である。
【図7】本実施例のパルスレーダ装置において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図8】本実施例のパルスレーダ装置における特徴的な動作を説明するための図である。
【図9】本実施例のパルスレーダ装置における特徴的な動作を説明するための図である。
【図10】本発明の第2実施例であるパルスレーダ装置において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図11】本実施例のパルスレーダ装置における特徴的な動作を説明するための図である。
【図12】本発明の第3実施例であるパルスレーダ装置において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図13】本実施例のパルスレーダ装置における特徴的な動作を説明するための図である。
【図14】本発明の第4実施例であるパルスレーダ装置において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図15】本実施例のパルスレーダ装置における特徴的な動作を説明するための図である。
【図16】本発明の変形例であるパルスレーダ装置の構成図である。
【図17】本発明の変形例であるパルスレーダ装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の一実施例であるパルスレーダ装置20の構成図を示す。また、図2は、本実施例のパルスレーダ装置20の備えるレーダセンサとしての送受信アンテナの搭載箇所(同図(A))、検出範囲(同図(B))、及び送信電波のパルス幅(同図(C))をそれぞれ表した図を示す。
【0021】
本実施例のパルスレーダ装置20は、車両などの移動体に搭載されており、自移動体に対して前方や後方などの予め定められた所定の検出範囲に向けてパルス状の電波を送受信して自移動体の周囲に存在する対象物(ターゲット)を検出する装置である。尚、このパルスレーダ装置20の搭載される移動体は、車両等の陸上を移動するものに限らず、空中を移動する飛行体であってもよい。
【0022】
図1に示す如く、パルスレーダ装置20は、送信回路22を備えている。送信回路22は、連続波源24と、パルス形成部26と、アンプ28と、送信アンテナ30と、を有している。
【0023】
連続波源24は、高周波信号を途切れることなく連続して発生する。パルス形成部26は、連続波源24の発生する信号の通過・遮断を切り替えるスイッチを有しており、そのスイッチのオン/オフにより所定の周期で所定のパルス幅を有するパルス変調されたパルス信号を繰り返し生成する。アンプ28は、パルス形成部26で生成されるパルス信号を増幅する。また、送信アンテナ30(Tx)は、アンプ28で増幅されたパルス信号を送信電波として外部空間に放射する。
【0024】
送信アンテナ30からのパルス信号の放射は、主に自移動体の移動方向に向けて行われ、かかる方向に所定の検出範囲が形成されるように行われる(図2(B))。また、この放射は、比較的狭い放射ビームを検出範囲全体にスキャンするように行うこととしてもよく、また、放射方向の異なる複数の送信アンテナ30を設けて検出範囲を広げるようにしてもよい。
【0025】
尚、送信回路22からのパルス信号の送信周期(パルス繰り返し周波数)Tは、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離をDmaxとしかつ光速をcとすると、T>2・Dmax/cになるように設定される。また、送信回路22からのパルス信号のパルス幅(図2(C)に示す。)Wは、ターゲットまでの距離として分離可能な最小距離(距離分解能;レンジビン)に対応したものであり、その最小距離をAとしかつ光速をcとすると、W=2・A/cの関係が成立する。
【0026】
パルスレーダ装置20は、また、略同等の特性を有する2つの受信回路32,34を備えている。受信回路32は、受信アンテナ36(Rx1)と、アンプ38と、2つのミキサ40,42と、2つの積分回路44,46と、2つのスイッチ48,50と、2つのAD変換部52,54と、を有している。また、受信回路34も、受信アンテナ56(Rx2)と、アンプ58と、2つのミキサ60,62と、2つの積分回路64,66と、2つのスイッチ68,70と、2つのAD変換部72,74と、を有している。2つの受信アンテナ36,56は、自移動体の水平方向(例えば車両のときは車幅方向)に互いに所定距離dだけ離れて配置されている。
【0027】
尚、送信アンテナ30及び2つの受信アンテナ36,56は、図2(A)に示す如く、移動体が車両であれば、その前部や後部,側部或いは上部,下部に配設されており、バンパやフロントライト,リアランプ,ピラー,ミラー,ドアなどに設置されている。
【0028】
受信アンテナ36,56はそれぞれ、送信アンテナ30から送信されたパルス状の送信電波がターゲットで反射された場合のそのパルス状の反射波を受信する。受信アンテナ36で受信された受信パルスは、アンプ38で増幅された後、ミキサ40,42の双方に供給される。また、受信アンテナ56で受信された受信パルスは、アンプ58で増幅された後、ミキサ60,62の双方に供給される。
【0029】
ミキサ40,42の入力には、アンプ38だけでなく、スイッチ76を介して上記した連続波源24も接続されている。また、ミキサ60,62の入力にも、アンプ58だけでなく、スイッチ76を介して上記した連続波源24も接続されている。スイッチ76は、パルス形成部26でのスイッチオンから、すなわち、送信回路22の送信アンテナ30からの送信パルスの送信から、所定時間遅れてオンされるスイッチである。
【0030】
ミキサ40,42には共に、アンプ38の出力(=受信パルス)が入力されると共に、送信パルスから所定時間遅れたローカルパルスが入力される。ミキサ42に入力されるローカルパルスは、ミキサ40に入力されるローカルパルスよりも位相が+90°ずれている(遅れる)。また、ミキサ60,62には共に、アンプ58の出力(=受信パルス)が入力されると共に、送信パルスから所定時間遅れたローカルパルスが入力される。ミキサ62に入力されるローカルパルスは、ミキサ60に入力されるローカルパルスよりも位相が+90°ずれている(遅れる)。
【0031】
尚、上記したローカルパルスは、送信パルスの送信からの遅延時間を適宜変更しながら繰り返し生成される。また、この遅延時間は、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmax(検出範囲)を複数(例えば100個)に区切ったレンジビンそれぞれに対応して変更される。ミキサ40,42,60,62はそれぞれ、受信パルスとローカルパルスとをミキシングして出力する。
【0032】
ミキサ40には積分回路44が、ミキサ42には積分回路46が、ミキサ60には積分回路64が、また、ミキサ62には積分回路66が、それぞれ接続されている。積分回路44,46,64,66はそれぞれ、ミキサ40,42,60,62の出力を積分処理し、具体的には、パルス繰り返し周波数Tごとの所定複数回(例えば10回)の送信パルスの送信に対するミキサ出力を積算する。
【0033】
積分回路44にはスイッチ48を介してAD変換部52が、積分回路46にはスイッチ50を介してAD変換部54が、積分回路64にはスイッチ68を介してAD変換部72が、また、積分回路66にはスイッチ70を介してAD変換部74が、それぞれ接続されている。AD変換部52,54,72,74はそれぞれ、スイッチ48,50,68,70がオンである際に積分回路44,46,64,66の出力をデジタル信号に変換する。
【0034】
パルスレーダ装置20は、また、制御回路80を備えている。制御回路80は、制御線を介して、上記したパルス形成部26並びにスイッチ48,50,68,70,76に接続されている。制御回路80は、所定のパルス幅Wを有する送信パルスが所定のパルス繰り返し周波数Tで送信アンテナ30から外部に放射されるようにパルス形成部26のスイッチを制御すると共に、送信アンテナ30からの送信パルスの放射から所定時間遅れてローカルパルスが生成されてミキサ40,42,60,62に入力されるようにスイッチ76を制御する。
【0035】
制御回路80は、また、AD変換部52,54,72,74に接続されている。制御回路80には、AD変換部52,54,72,74の各デジタル出力が供給される。制御回路80は、スイッチ48,50,68,70がオンされた際におけるAD変換部52,54,72,74の各デジタル出力値に基づいて、後に詳述する如く、自移動体からターゲットまでの距離、自移動体に対するターゲットの相対速度、及び自移動体に対するターゲットの角度位置を検出する。そして、そのターゲットの検出結果を外部出力する。
【0036】
次に、図3乃至図6を参照して、本実施例のパルスレーダ装置20の基本的な動作について説明する。図3は、本実施例において自移動体からターゲットまでの距離を検出する手法を説明するための図を示す。図4は、本実施例において自移動体に対するターゲットの相対速度を検出する手法を説明するための図を示す。図5は、本実施例において自移動体に対するターゲットの角度位置を検出する手法を説明するための図を示す。また、図6は、本実施例のパルスレーダ装置20の動作シーケンスを表した図を示す。尚、図6には、検出範囲内のレンジビン数を“4”としかつ同じレンジビンにおいて連続して受信すべき受信回数を“3”としたときのものを示している。
【0037】
本実施例において、パルスレーダ装置20を搭載する移動体が起動されると、以後その起動中に、そのパルスレーダ装置20の有する連続波源24が連続波を発生する。制御回路80は、連続波源24による連続波の発生中、送信アンテナ30から所定のパルス繰り返し周波数Tで送信パルスが外部放射されるようにパルス形成部26のスイッチを制御する。この場合、送信アンテナ30から所定のパルス繰り返し周波数Tで送信パルスが外部に放射される。
【0038】
送信アンテナ30から放射された送信パルスは、検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxの検出範囲内にターゲットが存在しないときは、反射しない。この場合は、その送信パルスの反射波が受信アンテナ36,56に受信されることはない。一方、送信アンテナ30から放射された送信パルスは、検出範囲内にターゲットが存在するときは、そのターゲットに反射する。この場合は、その送信パルスの反射波が受信アンテナ36,56に受信される。受信アンテナ36,56に送信パルスの反射波が受信されると、その受信パルスは、アンプ38,58で増幅された後、ミキサ40,42,60,62に供給される。
【0039】
制御回路80は、送信アンテナ30から送信パルスを放射させるごとに、その後所定の遅延時間だけ遅れてミキサ40,42,60,62に供給すべきローカルパルスが生成されるようにスイッチ76を制御する。この場合、送信アンテナ30からの送信パルスの放射から所定の遅延時間だけ遅れてローカルパルスがミキサ40,42,60,62に供給される。
【0040】
尚、制御回路80は、送信アンテナ30からの送信パルスの放射からローカルパルスを生成するまでの所定の遅延時間を、検出範囲を複数(例えば100個)に区切ったレンジビンそれぞれに対応させて所定の順序(例えば、自移動体に位置が近いレンジビンから遠いレンジビンへの順)で変更させる。具体的には、その所定の遅延時間を、検出範囲内で自移動体に位置が近いレンジビンほど短くし、自移動体に位置が遠いレンジビンほど長くする。従って、ミキサ40,42,60,62に供給されるローカルパルスは、検出範囲内における各時点で検出対象となるレンジビン(の位置)に応じて、送信パルスの放射からの遅延時間が変化するものとなる。
【0041】
尚、送信パルスの放射が所定回数(例えば10回)連続して行われる間は検出範囲内で検出対象となるレンジビンが一つに限定されるものとし、上記の遅延時間をその間は一定値とする。そして、送信パルスの放射がその所定回数連続して行われるごとに、上記の遅延時間をそれまでとは異なる値に変更させて、検出対象となるレンジビンを次のレンジビンに切り替える。
【0042】
ミキサ40,42,60,62はそれぞれ、受信アンテナ36,56からの受信パルスと送信回路22側からのローカルパルスとをミキシングする。ミキサ出力は、検出対象のレンジビンにターゲットが存在しないときは、その時点では受信パルスとローカルパルスとの相関がとれないので、略ゼロである。一方、検出対象のレンジビンにターゲットが存在するときは、その時点で受信パルスとローカルパルスとの相関がとれるので、ハイ値となる。
【0043】
ミキサ出力は、積分回路44,46,64,66において、同一レンジビンを所定複数回連続して検出対象としたときのものを纏めて積算される。そして、その積算値は、AD変換部52,54,72,74においてデジタル信号に変換されて、制御回路80に供給される。
【0044】
制御回路80は、検出範囲内の各レンジビンについてローカルパルスを生成させるごとに、その後、AD変換部52,54,72,74から供給されるデジタル出力が予め定めた所定の閾値に達するか否かを判別する。その結果、AD変換部52,54,72,74からのデジタル出力が所定の閾値に達しないと判別したときは、受信パルスとローカルパルスとの相関がとれないとして、そのローカルパルスの遅延時間に相当する検出対象のレンジビンにはターゲットが存在しないと判定する。一方、そのデジタル出力が所定の閾値に達すると判別したときは、受信パルスとローカルパルスとの相関がとれるとして、その相関がとれるローカルパルスの遅延時間を特定して、その遅延時間に相当する検出対象のレンジビンにターゲットが存在すると判定する。
【0045】
このように本実施例のパルスレーダ装置20においては、受信パルスとローカルパルスとの相関関係に基づいて検出範囲内の各レンジビンごとにターゲットが存在するか否かを判定することができ、送信パルスの送信から受信パルスの受信までの時間(反射時間)に基づいてターゲットが存在するレンジビンの位置を特定することで自移動体からターゲットまでの相対距離を検出することができる。
【0046】
また、本実施例において、制御回路80は、時間を空けて送信された2つの送信パルスが同一距離から反射して受信された信号(=受信パルス)間の位相差を検出するパルスペア方式を利用して、自移動体と検出範囲内に存在するターゲットとの相対速度を検出する。そして、この相対速度の検出を検出範囲内のレンジビンごとに行う。
【0047】
具体的には、図4に示す如く、一の送信パルスSがターゲットに反射して受信パルスRとして受信アンテナ36(又は56)に受信されると、IQ検波器を構成するミキサ40,42(又は60,62)からIチャンネル信号IとQチャンネル信号Qとが出力される。この際、受信パルスRをa・sin(2πf・t+θ)(尚、fは送信周波数)とし、ローカルパルスをsin(2πf・t)とすると、ミキサ40の出力Iはa・cosθとなり、ミキサ42の出力Qはa・sinθとなる。制御回路80は、ミキサ40の出力Iとミキサ42の出力Qとに基づいて(又はミキサ60の出力Iとミキサ62の出力Qとに基づいて)、位相信号Z(=I+Q)を演算する。
【0048】
仮にターゲットが相対速度Vrで移動しているとすると、時間Δtをおいて送信された2つの送信パルスS(t11),S(t21)がそれぞれターゲットに反射して受信パルスR11,R21として受信アンテナ36,56に受信された場合、それぞれの受信に対する位相信号Z11,Z21は、2つの送信パルスS(t11),S(t21)が送信される時間間隔Δtの間にそのターゲットが移動した距離の2倍分の位相差Δθだけ変化する。
【0049】
制御回路80は、検出範囲内のレンジビンごとに、時間Δtをおいて送信させた2つの送信パルスの送信に対してそれぞれ得られる位相信号Z間の位相差Δθを検出する。そして、ターゲットが存在するレンジビンについて、その検出したΔθに基づいて、下記(1)に示す関係式に従って、そのターゲットの相対速度Vrを検出する。
【0050】
Vr=Δθ・λ/(4πΔt)(尚、λは送信波長) ・・・(1)
このように本実施例のパルスレーダ装置20においては、検出範囲内におけるターゲットが存在するレンジビンについて、時間Δtを空けた2つの送信パルスの送信に対する受信パルス(=IQ検波器からの位相信号Z)間の位相差Δθを検出することで、自移動体に対するターゲットの相対速度Vrを検出することができる。
【0051】
更に、本実施例において、制御回路80は、一の送信パルスに対して異なる位置に配置された2つの受信アンテナに受信された信号(=受信パルス)間の位相差を検出する位相比較モノパルス方式を利用して、自移動体に対するターゲットの角度位置を検出する。そして、この角度位置の検出を検出範囲内のレンジビンごとに行う。
【0052】
具体的には、図5に示す如く、一の送信パルスSがターゲットに反射して受信パルスRA1が受信アンテナ36に受信されかつ受信パルスRA2が受信アンテナ36に受信されると、IQ検波器を構成するミキサ40,42から受信パルスRA1に基づくIチャンネル信号IA1とQチャンネル信号QA1とが出力されると共に、IQ検波器を構成するミキサ60,62から受信パルスRA2に基づくIチャンネル信号IA2とQチャンネル信号QA2とが出力される。制御回路80は、ミキサ40の出力IA1とミキサ42の出力QA1とに基づいて位相信号ZA1(=IA1+QA1)を演算すると共に、ミキサ60の出力IA2とミキサ42の出力QA2とに基づいて位相信号ZA2(=IA2+QA2)を演算する。
【0053】
仮に自移動体に対するターゲットがパルスレーダ装置20の正面方向(すなわち、2つの受信アンテナ36,56を結ぶ直線に対して直交する方向)に対して角度φだけずれた方向に位置するものとすると、所定距離dだけ離れて配置された2つの受信アンテナ36,56に受信される受信パルスRA1,RA2に基づく位相信号ZA1,ZA2は、アンテナ間距離dに対応した位相差Δθだけ変化する。
【0054】
制御回路80は、検出範囲内のレンジビンごとに、一の送信パルスの送信に対して2つの受信アンテナ36,56それぞれに受信される受信パルスに基づく位相信号Z間の位相差Δθを検出する。そして、ターゲットが存在するレンジビンについて、その検出したΔθに基づいて、下記(2)に示す関係式に従って、そのターゲットの角度位置φを検出する。
【0055】
φ=sin−1(Δθ・λ/(2πd)) ・・・(2)
このように本実施例のパルスレーダ装置20においては、検出範囲内のターゲットが存在するレンジビンについて、一の送信パルスの送信に対して距離dだけ離れた2つの受信アンテナ36,56それぞれが受信した受信パルス(=IQ検波器からの位相信号Z)間の位相差Δθを検出することで、自移動体に対するターゲットの角度位置φを検出することができる。
【0056】
本実施例のパルスレーダ装置20において、制御回路80は、上記した手法により、ターゲットまでの距離、ターゲットの相対速度Vr、及びターゲットの角度位置φをそれぞれ検出する。
【0057】
具体的には、図6に示す如く、検出範囲内の位置が近いレンジビンから順にターゲットが存在するか否かを判定して、ターゲットまでの距離を検出する。また、その検出対象のレンジビンごとに、2つの受信アンテナ36,56の受信パルス間の位相差を検出して、ターゲットの角度位置を検出する。この場合、ターゲットが存在したレンジビンについては、そのターゲットの相対距離だけでなく相対角度位置をも検出することができる。
【0058】
そして、検出範囲内の最も遠い位置にあるレンジビンまで距離検出及び角度位置検出を行うと、次に再度検出範囲内の位置が近いレンジビンから順に距離検出及び角度位置検出を行う。この際、同一のレンジビンごとに、時間を空けて送信された前回と今回との2つの送信パルスの送信に対する受信パルス間の位相差Δθを検出して、ターゲットの相対速度を検出する。この場合、ターゲットが存在したレンジビンについては、そのターゲットの相対距離及び相対角度位置だけでなく相対速度をも検出することができる。
【0059】
ところで、本実施例において、送信回路22から外部へ放射される送信電波である送信パルスのパルス幅Wは、上記の如く、ターゲットまでの距離として分離可能な最小距離(距離分解能)Aに対応したものである(W=2・A/cが成立する。)ので、距離分解能Aを高めよう(分離可能な最小距離を短くしよう)とすればそのパルス幅Wを短くすることが有効である。しかし、このパルス幅Wが全検出範囲で一律の値で短いままであると、ターゲットの検出精度を向上させることは可能となるが、処理負荷が増大することで中/長距離にも即時対応した検出を行うことが困難となり、全検出範囲内でターゲット検出を行うのに多くの時間を要することとなってしまう。
【0060】
そこで、本実施例のパルスレーダ装置20は、送信回路22からの送信パルスのパルス幅Wを適宜可変することで、中/長距離に対応した速やかな検出と近距離に対応した高い検出精度とを両立させることとしている。以下、図7乃至図9を参照して、本実施例の特徴部について説明する。
【0061】
図7は、本実施例のパルスレーダ装置20において制御回路80が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。また、図8及び図9はそれぞれ、本実施例のパルスレーダ装置20における特徴的な動作を説明するための図を示す。尚、図8には、車両側方から見た際の近距離対応のレンジビンと中/長距離対応のレンジビンとを比較した図を、また、図9には、車両上方から見た際及び車両上方から見た際の車両からの距離ごとのレンジビンの長さを表した図を、それぞれ示す。
【0062】
本実施例のパルスレーダ装置20において、制御回路80は、上記の如く、連続波源24による連続波の発生中、送信アンテナ30から所定のパルス繰り返し周波数Tで送信パルスが外部放射されるようにパルス形成部26のスイッチを制御するが、一つの送信パルスが外部放射されるごとにそのパルス幅Wが所定の値となるようにパルス形成部26のスイッチを制御する。
【0063】
具体的には、まず、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲内のうち、今から現に送信パルスを外部放射してその反射波を受信しようとしている(すなわち、ターゲットを検出しようとしている)検出対象の位置が何れの位置であるか否かを特定する(ステップ100)。
【0064】
例えば、全検出範囲が3つの検出対象の位置(例えば自移動体から10mまでの短距離と、10mから50mまでの中距離と、50mから150mまでの長距離との3つ)に分けられているときは、上記した検出対象の位置が短距離であるのか中距離であるのか長距離であるのかを特定する。尚、検出範囲内におけるターゲット検出が時間の経過に伴って自移動体に近い位置から遠い位置への順に行われるときは、その予め定められた順で検出対象の位置が変化することとなる。
【0065】
そして、上記ステップ100において今から現に送信パルスを外部放射してその反射波を受信しようとしている検出対象の位置を特定すると、次に、その検出対象の位置に応じて、今から現に外部放射すべき送信パルスのパルス幅Wを可変する(ステップ102)。具体的には、その検出対象の位置が自移動体に近いものである場合にはパルス幅Wを比較的短くし、その検出対象の位置が自移動体に遠いものである場合にはパルス幅Wを比較的長くする。
【0066】
例えば、検出対象の位置が近距離であるときは、送信パルスのパルス幅Wを比較的短いW1に設定し、検出対象の位置が中距離であるときは、送信パルスのパルス幅Wを上記のW1よりも長いW2に設定し、また、検出対象の位置が長距離であるときは、送信パルスのパルス幅Wを上記のW2よりも長いW3に設定する。
【0067】
尚、制御回路80は、検出対象の位置とパルス幅Wとの関係を予めメモリに記憶させておき、適宜読み出して検出対象の位置に応じたパルス幅Wの設定を行うこととすればよい。制御回路80は、上記の如く送信パルスのパルス幅Wを設定すると、そのパルス幅Wが実現されるようにパルス形成部26のスイッチを制御する。
【0068】
かかる制御回路80の処理によれば、送信回路22からの送信パルスのパルス幅Wを、全検出範囲のうちターゲットを検出すべき検出対象の位置が自移動体に近い位置であるときは比較的短くし、全検出範囲のうちターゲットを検出すべき検出対象の位置が自移動体に遠い位置であるときは比較的長くすることができる。
【0069】
送信パルスのパルス幅Wが短いほど、全検出範囲内における検出対象となる一レンジビン当たりの長さが短くなり、ターゲットを検出するうえでの距離分解能が高まる。このため、上記した本実施例の構成によれば、全検出範囲のうちターゲットを検出すべき検出対象の位置が自移動体に比較的近い位置であるほど、ターゲットを木目細かな分解能で検出することができ、その位置に存在するターゲットの検出精度を向上させることが可能となる(図8及び図9参照)。
【0070】
一方、送信パルスのパルス幅Wが長いほど、検出範囲内における検出対象となる一レンジビン当たりの長さが長くなり、全検出範囲内のレンジビンの数が少なくなるので、検出範囲全体でのターゲット検出を行うのに要する時間が短縮する。このため、本実施例の構成によれば、全検出範囲のうちターゲットを検出すべき検出対象の位置が自移動体に比較的遠い位置であるほど、ターゲットをより広いレンジビンで検出することができ、その位置に存在するターゲットの検出を速やかに行うことが可能となる(図8及び図9参照)。
【0071】
従って、本実施例のパルスレーダ装置20によれば、全検出範囲内におけるターゲットとの相対距離や相対速度,相対角度を検出するうえで、近方における高い検出精度と、遠方における速やかな検出とを両立させることが可能となっている。また、かかる両立を、近方に対応した送受信アンテナと遠方に対応した送受信アンテナとを別個独立に設けることなく、共通した送受信アンテナを用いて実現することが可能となっている。
【0072】
尚、上記の第1実施例においては、送信回路22が特許請求の範囲に記載した「送信手段」に、受信回路32,34が特許請求の範囲に記載した「受信手段」に、検出しようとするターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲内のうち、今から現に送信パルスを外部放射してその反射波を受信しようとしている検出対象の位置が特許請求の範囲に記載した「要求検出範囲の位置」に、それぞれ相当していると共に、制御回路80が、全検出範囲内のうちこれからターゲットを検出すべき検出対象の位置に応じて、今から現に外部放射すべき送信パルスのパルス幅Wを可変することにより特許請求の範囲に記載した「パルス幅可変手段」が実現されている。
【0073】
ところで、上記の第1実施例においては、検出しようとするターゲットまでの最大距離Dmaxの全検出範囲を段階的に例えば3つの検出対象の位置に分けるだけでなく、リニアに検出対象の位置に分けることとしてもよい。
【0074】
また、上記の第1実施例においては、全検出範囲内でターゲット検出を行う検出対象の位置が予め定められた順に変化する過程で、その検出対象の位置に応じて送信パルスのパルス幅を可変することとしているが、パルス幅を可変するタイミングはこれに限定されるものではなく、例えば、自移動体が低速(例えば10km/h以下)で走行する時は、自移動体に周辺の近距離に存在するターゲットを検出すべき状態が要求されているとして、すなわち、検出対象の位置が自移動体に比較的近い位置にあるとして、送信パルスのパルス幅を比較的短くし、また、自移動体が高速(例えば40km/h以上)で走行する時は、自移動体に比較的遠距離に存在するターゲットを検出すべき状態が要求されているとして、すなわち、検出対象の位置が自移動体に比較的遠い位置にあるとして、送信パルスのパルス幅を比較的長くすることとしてもよい。
【0075】
尚、かかるパルス幅の可変は、移動体の乗員によるスイッチ操作などによりターゲット検出が要求された際にのみ行うこととすればよく、また、低速走行時でのターゲット検出の要求と高速走行時でのターゲット検出の要求とをそれぞれ別個独立させた上で分けて行うこととしてもよい。
【0076】
このような変形例においては、低速走行時に自移動体の近方に存在するターゲットをきめ細かな分解能で検出することができ、そのターゲットの検出精度を向上させることが可能になると共に、高速走行時に自移動体の遠方に存在するターゲットをより広いレンジビンで検出することができ、そのターゲットの検出を速やかに行うことが可能になる。
【0077】
また、上記の如く低速走行時にパルス幅を短くしたときは、検出しようとするターゲットの最大距離Dmax自体を比較的短くして全検出範囲を比較的狭くし、一方、高速走行時にパルス幅を長くしたときは、その最大距離Dmax自体を比較的長くして全検出範囲を比較的広くすることとしてもよい。更に、自移動体の走行速度に応じたパルス幅の可変を、上記の如く低速走行時に対応するものと高速走行時に対応するものとの2つの間で行うだけに限らず、自移動体の速度に応じてリニアに行うこととしてもよい。
【実施例2】
【0078】
上記した第1実施例では、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲内でのターゲットの有無に関係なく、その全検出範囲のうち各時点でターゲットを検出すべき検出対象の位置に応じて送信パルスのパルス幅を可変することとしている。
【0079】
これに対して、本発明の第2実施例においては、全検出範囲のうち一旦設定されたレンジビンの何れかにターゲットが存在するときに、その後、そのターゲットが存在したレンジビンについて送信パルスのパルス幅を短くすることとし、一レンジビン当たりの長さ(距離分解能)を短くしてターゲットの検出精度を上げることとしている。
【0080】
本実施例のパルスレーダ装置200は、上記図1に示すパルスレーダ装置20の構成において、制御回路80に図10に示すルーチンを実行させることにより実現される。以下、図10及び図11を参照して、本実施例の特徴部について説明する。図10は、本実施例のパルスレーダ装置200において制御回路80が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。また、図11は、本実施例のパルスレーダ装置200における特徴的な動作を説明するための図を示す。
【0081】
本実施例のパルスレーダ装置200において、制御回路80は、まず制御開始当初は、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲を予め定めた所定の数(“1”以上の数であればよい。図11に示す例では2つ)のレンジビン(以下、このレンジビンを最長レンジビンと称す)に区切る。そのうえで、その最長レンジビンの長さに対応したパルス幅W1(=初期値)を有する送信パルスが外部放射されるようにパルス形成部26のスイッチ制御を行いつつ、その各最長レンジビンの位置に対応してローカルパルスを生成することにより、全検出範囲内の最長レンジビンごとにAD変換部52,54,72,74からのデジタル出力に基づいてターゲットが存在するか否かを判別する(ターゲット検出;図11においてスキャン1)。そして、全検出範囲を所定の数に区切った最長レンジビンからターゲットが存在するレンジビン(以下、第1存在レンジビンと称す)を検出する(ステップ250)。
【0082】
制御回路80は、全検出範囲内での最長レンジビンごとのターゲット存在判別の結果として何れの最長レンジビンにもターゲットが存在せず、第1存在レンジビンの有ることが検出されないときは、以後も送信パルスのパルス幅Wを上記の初期値W1に保ったうえで上記の如きターゲット検出を行う(ステップ252)。この場合には、全検出範囲が最長レンジビンでの検出対象であるとしてターゲット検出が継続されることとなる。
【0083】
一方、全検出範囲内での最長レンジビンごとのターゲット存在判別の結果として何れかの最長レンジビンにターゲットが存在し、第1存在レンジビンの有ることが検出されたときは、次に、全検出範囲の中でその検出された第1存在レンジビンについての範囲のみを検出対象としつつ、送信パルスのパルス幅Wを上記の初期値W1の半分(=W1/2)にしてターゲット検出を行う(ステップ254;図11においてスキャン2)。具体的には、ターゲットが存在した第1存在レンジビンについての範囲のみその第1存在レンジビンを半分に区切ったレンジビン(以下、第2長レンジビンと称す)の長さに対応したパルス幅W1/2を有する送信パルスが外部放射されるようにパルス形成部26のスイッチ制御を行いつつ、その各第2長レンジビンの位置に対応してローカルパルスを生成することにより、第1存在レンジビンの範囲について第2長レンジビンごとにAD変換部52,54,72,74からのデジタル出力に基づいてターゲットが存在するか否かを判別する。そして、第1存在レンジビンを半分に区切った何れかの第2長レンジビンからターゲットが存在するレンジビン(以下、第2存在レンジビンと称す)を検出する。この場合には、第1存在レンジビンが第2長レンジビンでの検出対象であるとしてターゲット検出が継続されることとなる。
【0084】
制御回路80は、第1存在レンジビンの範囲内での第2長レンジビンごとのターゲット存在判別の結果としてターゲットが存在する第2存在レンジビンが検出されると、次に、第1存在レンジビンの範囲の中でその検出された第2存在レンジビンについての範囲のみを検出対象としつつ、送信パルスのパルス幅WをW1/4にしてターゲット検出を行う(ステップ256;図11においてスキャン3)。そして、第2存在レンジビンを半分に区切った何れかのレンジビン(以下、第3長レンジビンと称す)からターゲットが存在するレンジビン(以下、第3存在レンジビンと称す)を検出する。この場合には、第2存在レンジビンが第3長レンジビンでの検出対象であるとしてターゲット検出が継続されることとなる。
【0085】
制御回路80は、第3存在レンジビンが検出されると、以後同様に、全検出範囲のうちで検出対象となる範囲を縮めつつ送信パルスのパルス幅Wを短くして(すなわち一レンジビン当たりの長さを短くして)ターゲット検出を行い、最終的に、送信パルスのパルス幅Wが所望の長さW1/2n(nは“1”以上の自然数)となるまで(すなわち、一レンジビン当たりの長さを所望の長さにして、その所望の長さの第(n+1)長レンジビンからターゲットが存在する第(n+1)存在レンジビンを検出するまで)ターゲット検出を行う。
【0086】
かかる制御回路80の処理によれば、制御開始当初は、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲が検出対象となる一方で、送信パルスのパルス幅Wが比較的長いので、全検出範囲内で演算対象となるレンジビンの数を少なくすることができ、その全検出範囲内でのターゲット検出を短時間で速やかに行うことができる。
【0087】
一方、全検出範囲を複数に区切った最長レンジビンのうちからターゲットが存在する第1存在レンジビンが検出されると、その後のターゲット検出では、全検出範囲のうちでその第1存在レンジビンの範囲のみが検出対象になると共に、送信パルスのパルス幅Wが短くなり半分になる。そして、その後のターゲット検出も同様の手法で、全検出範囲のうちで検出対象となる範囲が縮められつつ送信パルスのパルス幅Wが所望の長さとなるまで短くなる。
【0088】
送信パルスのパルス幅Wが短くなると、ターゲットを検出するうえでの距離分解能が高まる。このため、本実施例においては、ターゲットが存在することが検出された存在レンジビンでのそのターゲットの検出精度を向上させることが可能となる。尚、このように送信パルスのパルス幅Wが短くなっても、同時に、全検出範囲のうちで検出対象となる範囲が縮められるので、全検出範囲内で演算対象となるレンジビンの数が増えるのを防止することができ、ターゲットを検出するうえで要する時間が多大となるのを抑止することが可能である。
【0089】
従って、本実施例のパルスレーダ装置200によれば、全検出範囲内におけるターゲットとの相対距離や相対速度,相対角度を検出するうえで高い検出精度と遠方における速やかな検出とを両立させることが可能となっている。特に、検出したいターゲットの最大距離Dmaxが長くて全検出範囲が広範囲にわたり或いは高い距離分解能が要求されるときにも、ターゲットを検出する検出時間を短縮するのに有効である。
【0090】
尚、上記の第2実施例においては、制御回路80が、第1存在レンジビン〜第n存在レンジビンを検出することにより特許請求の範囲に記載した「存在レンジビン検出手段」が、第k(k=1〜n)存在レンジビンが検出された場合に、その第k存在レンジビンについて送信パルスのパルス幅Wを直前のものの半分(=W1/2k)にすることにより特許請求の範囲に記載した「パルス幅短縮手段」が、それぞれ実現されている。
【0091】
ところで、上記の第2実施例においては、ターゲットが存在する存在レンジビンの有ることが検出されると、その後、全検出範囲の中でその検出された存在レンジビンについての範囲のみを検出対象としつつ送信パルスのパルス幅Wをそれまでの半分にして、ターゲット検出を行うこととしているが、全検出範囲のすべてを検出対象としつつ、送信パルスのパルス幅Wをレンジビンに応じて異ならせて、具体的には、その検出された存在レンジビン以外のレンジビンの範囲については送信パルスのパルス幅Wをそれまでと同じに維持する一方、その存在レンジビンの範囲のみ送信パルスのパルス幅Wをそれまでの半分にして、ターゲット検出を行うこととしてもよい。
【0092】
また、ターゲットが存在する存在レンジビンの有ることが検出されると、送信パルスのパルス幅Wをそれまでの半分にすること(すなわち、存在レンジビンを2分割すること)としているが、それまでの1/3や1/4にすること(すなわち存在レンジビンを3分割や4分割すること)としてもよい。
【0093】
更に、上記の第2実施例においては、ターゲットが存在する存在レンジビンのあることが検出されると、その後、全検出範囲の中でその検出された存在レンジビンについての範囲のみを検出対象としつつ送信パルスのパルス幅Wをそれまでの半分にするターゲット検出を行うが、所望の長さのパルス幅Wによるターゲット検出が終了したときは、次に、パルス幅Wを初期値W1に戻してターゲット検出を繰り返し行うこととすればよい。
【実施例3】
【0094】
上記した第2実施例では、高い検出精度と短時間での検出とを両立させるべく、制御開始当初は全検出範囲を検出対象として設定しかつ送信パルスのパルス幅Wを予め長い値に設定したうえで、ターゲットが存在する存在レンジビンの有ることが検出された場合に、その後段階的に、検出対象の範囲を狭めつつ送信パルスのパルス幅Wを所望の長さまで短くしてターゲット検出を行うこととしている。
【0095】
これに対して、本発明の第3実施例においては、制御開始当初から送信パルスのパルス幅Wを所望の長さに設定したうえで、検出対象となる範囲を全検出範囲の中でその一部に限定することとしている。
【0096】
本実施例のパルスレーダ装置300は、上記図1に示すパルスレーダ装置20の構成において、制御回路80に図12に示すルーチンを実行させることにより実現される。以下、図12及び図13を参照して、本実施例の特徴部について説明する。図12は、本実施例のパルスレーダ装置300において制御回路80が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。また、図13は、本実施例のパルスレーダ装置300における特徴的な動作を説明するための図を示す。
【0097】
本実施例のパルスレーダ装置300において、制御回路80は、まず制御開始当初は、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲を、所望の長さを有する予め定めた数のレンジビンに区切る。そのうえで、その所望の長さのレンジビンに対応したパルス幅Wを有する送信パルスが外部放射されるようにパルス形成部26のスイッチ制御を行いつつ、その全検出範囲の各レンジビンのうち前後端一つずつのレンジビンのみに対応してローカルパルスを生成することにより、その前後端のレンジビンごとにAD変換部52,54,72,74からのデジタル出力に基づいてターゲットが存在するか否かを判別するターゲット検出を行う(ステップ350;図13においてスキャン1)。そして、前端(自移動体から最も遠い)の一つのレンジビンと後端(自移動体から最も近い)の一つレンジビンとを、ターゲット検出を行うべき要演算レンジビンに設定して、その要演算レンジビンからターゲットが存在するものを検出する。
【0098】
その結果、設定された要演算レンジビンの何れにもターゲットが存在することを検出しない場合(ステップ352での否定判定時)は、以後、継続して前端と後端のレンジビン一つずつを要演算レンジビンに設定してターゲット検出を行う。
【0099】
一方、設定された要演算レンジビンの何れかにターゲットが存在することを検出した場合(ステップ352での肯定判定時)は、以後、全検出範囲の各レンジビンのうち、前後端一つずつのレンジビン、並びに、そのターゲットが存在することが検出された存在レンジビン、及び、その存在レンジビンの前後に隣接する一つずつ或いは所定複数ずつのレンジビンに対応してローカルパルスを生成することにより、それらの各レンジビンごとにターゲット検出を行う(ステップ354;図13においてスキャン2〜スキャンk)。そして、前後端一つずつのレンジビン、存在レンジビン、及びその存在レンジビンの前後のレンジビンを、ターゲット検出を行うべき要演算レンジビンに設定して、その要演算レンジビンからターゲットが存在するものを検出し、要演算レンジビンの設定をその検出結果に応じて適宜変更してターゲット検出を継続する。
【0100】
かかる制御回路80の処理によれば、制御開始当初から、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲を区切るレンジビンの数を多くしてその長さを短くすること、すなわち、送信パルスのパルス幅Wを所望の距離分解能を得る程度に比較的短く設定することができる。このため、ターゲットを検出するうえでの距離分解能を高めることができ、ターゲットの検出精度を向上させることが可能となる。
【0101】
また、全検出範囲内の全レンジビンのうちでターゲット検出を行うべき要演算レンジビンを、制御開始当初はその全検出範囲のうち前後端一つずつのレンジビンのみに限定し、ターゲットが存在することが検出された後は、その前後端一つずつのレンジビンとそのターゲットが存在する存在レンジビン及びその存在レンジビンの前後のレンジビンとに限定することができる。このため、全検出範囲の各レンジビンをすべて要演算レンジビンとする構成に比べて、全検出範囲内で演算対象となるレンジビンの数を少なくすることができ、その全検出範囲内でのターゲット検出を短時間で速やかに行うことができる。
【0102】
尚、ターゲットは、全検出範囲のうち前後端の飛び越えて突然に中心部付近に現れることはないので、上記の如く制御開始当初に要演算レンジビンを前後端のレンジビンのみに限定しても、検出範囲内に現に存在するターゲットがターゲット検出に際しロストされるのは確実に防止される。また、ターゲットが存在する存在レンジビンが検出された後も、上記の如く要演算レンジビンを前後端のレンジビン、その存在レンジビン、及びその存在レンジビンの周辺にあるレンジビンに限定しても、検出範囲内に現に存在するターゲットや新たに全検出範囲内に進入したターゲットがターゲット検出に際しロストされるのは確実に防止される。
【0103】
従って、本実施例のパルスレーダ装置300によれば、全検出範囲内におけるターゲットとの相対距離や相対速度,相対角度を検出するうえで高い検出精度と近方から遠方まで速やかな検出とを両立させることが可能となっている。特に、検出したいターゲットの最大距離Dmaxが長くて全検出範囲が広範囲にわたり或いは高い距離分解能が要求されるときにも、ターゲットを検出する検出時間を短縮するのに有効である。
【0104】
尚、上記の第3実施例においては、制御回路80が、全検出範囲内の各レンジビンのうちターゲットが存在する存在レンジビンを検出することにより特許請求の範囲に記載した「存在レンジビン検出手段」が、ターゲットが存在する存在レンジビンが検出された後は、全検出範囲内の全レンジビンのうちでターゲット検出を行うべき要演算レンジビンを検出範囲の前後端一つずつのレンジビンとそのターゲットが存在する存在レンジビン及びその存在レンジビンの前後にあるレンジビンとに限定することにより特許請求の範囲に記載した「要演算レンジビン限定手段」が、それぞれ実現されている。
【0105】
ところで、上記の第3実施例においては、制御開始当初、全検出範囲内の全レンジビンのうちでターゲット検出を行うべき要演算レンジビンをその全検出範囲のうち前後端一つずつのレンジビンのみに限定することとしているが、その制御開始当初は要演算レンジビンを限定することなく全レンジビンをターゲット検出を行うべきものとしてもよい。
【0106】
また、上記の第3実施例においては、ターゲットが存在する存在レンジビンが検出された後は、要演算レンジビンを、全検出範囲の前後端一つずつのレンジビンに加えて、その存在レンジビン及びその存在レンジビンの前後に隣接する一つ又は所定複数ずつのレンジビンに限定することとしているが、その要演算レンジビンとして加えるレンジビンの位置を、存在レンジビンが検出された際のそのターゲットの相対速度に応じて変更することとしてもよい。例えば、ターゲットが自移動体に近づくときは、検出された存在レンジビン及びその存在レンジビンの後ろ(自移動体に近い側)に隣接するその相対速度に応じた数(その相対速度が高いほど多くの数)のレンジビンを要演算レンジビンに設定し、また、ターゲットが自移動体から遠ざかるときは、検出された存在レンジビン及びその存在レンジビンの前(自移動体に遠い側)に隣接するその相対速度に応じた数(その相対速度が高いほど多くの数)のレンジビンを要演算レンジビンに設定する。かかる変形例によれば、検出範囲内に現に存在するターゲットがターゲット検出に際しロストされるのをその相対速度に関係なく確実に防止することが可能となる。
【実施例4】
【0107】
上記した第1乃至第3実施例では、送信パルスのパルス幅を可変し或いは全検出範囲内でターゲット検出を行うべき要演算レンジビンを一部に限定することとしている。これに対して、本発明の第4実施例においては、ターゲットを検出するうえでのSN比を改善すべく、全検出範囲を区切った何れかのレンジビンにターゲットが存在することが検出されたときに、その後、その存在レンジビンにおけるパルスの積分回数を増やすこととしている。
【0108】
本実施例のパルスレーダ装置400は、上記図1に示すパルスレーダ装置20の構成において、制御回路80に図14に示すルーチンを実行させることにより実現される。以下、図14及び図15を参照して、本実施例の特徴部について説明する。図14は、本実施例のパルスレーダ装置400において制御回路80が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。また、図15は、本実施例のパルスレーダ装置400における特徴的な動作を説明するための図を示す。
【0109】
本実施例のパルスレーダ装置400において、制御回路80は、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの全検出範囲を予め定めた所定複数のレンジビンに区切ったうえで、そのレンジビンの長さに対応したパルス幅Wを有する送信パルスが外部放射されるようにパルス形成部26のスイッチ制御を行いつつ、その各レンジビンの位置に対応してローカルパルスを生成することにより、全検出範囲内のレンジビンごとにターゲット検出を行う(ステップ450)。尚、同一レンジビンでのターゲット検出は、通常は、送信パルスの放射及び受信パルスの受信が所定複数回c(例えば10回)連続して行われた際に得られる各ミキサ出力を積算した結果(パルスの積分結果)に基づいて行われる。そして、全検出範囲内の各レンジビンのうちからターゲットが存在する存在レンジビンを検出する。
【0110】
制御回路80は、何れのレンジビンにもターゲットが存在せず、存在レンジビンの有ることが検出されないとき(ステップ452における否定判定時)は、以後も、各レンジビンごとに、送信パルスの放射及び受信パルスの受信が所定複数回c(例えば10回)連続して行われた際に得られる各ミキサ出力を積算したパルスの積分結果に基づいてターゲット検出を行う。
【0111】
一方、何れかのレンジビンにターゲットが存在し、存在レンジビンの有ることが検出されたとき(ステップ452における肯定判定時)は、以後、その存在レンジビンについてはターゲット検出を行う際に必要となるパルスの積分回数を上記の所定複数回cよりも多い回数d(例えば100回)に増大させる(ステップ454)。そして、その存在レンジビンについては送信パルスの放射及び受信パルスの受信がその回数d連続して行われた際に得られる各ミキサ出力を積算したパルスの積分結果に基づいてターゲット検出を継続する。
【0112】
かかる制御回路80の処理によれば、ターゲット検出を行う際に必要となるパルスの積分回数を、制御開始当初は予めターゲットを検出できる程度の回数cに設定しておいたうえで、その後ターゲットが存在する存在レンジビンが検出された場合にその存在レンジビンについてのみその回数cよりも多い回数dに増大させることができる。
【0113】
パルスの積分回数が増大すれば、SN比が改善され、検出感度が上がる。従って、本実施例のパルスレーダ装置400によれば、全検出範囲内におけるターゲットとの相対距離や相対速度,相対角度を検出するうえでSN比の改善を図り、その検出感度を上げることが可能となっている。
【0114】
尚、本実施例の構成においては、ターゲットが存在する存在レンジビンが検出される前は、パルスの積分回数を予め少ない回数に設定することが可能であるので、パルスの積分回数が予め多い回数に設定されている構成に比べて、全検出範囲内でのターゲット検出を短時間で速やかに行うことが可能となっている。
【0115】
尚、上記の第4実施例においては、制御回路80が、全検出範囲内の各レンジビンのうちターゲットが存在する存在レンジビンを検出することにより特許請求の範囲に記載した「存在レンジビン検出手段」が、ターゲットが存在する存在レンジビンが検出された場合に、その存在レンジビンについてターゲット検出を行う際に必要となるパルスの積分回数を増大させることにより特許請求の範囲に記載した「積分回数増大手段」が、それぞれ実現されている。
【0116】
ところで、上記の第4実施例においては、全検出範囲のうちからターゲットが存在する存在レンジビンが検出された場合に、その存在レンジビンについてターゲット検出を行う際に必要となるパルスの積分回数を増大させることとしているが、その存在レンジビンについてのパルスの積分回数の増大中はその存在レンジビン以外のレンジビンについては、ターゲット検出自体を行わないこととしてもよく、また、ターゲット検出を行うがパルスの積分回数を通常どおりの回数cに設定することとしてもよい。
【0117】
尚、上記の第1乃至第4実施例においては、自移動体とターゲットとの相対距離の検出を、受信パルスとローカルパルスとの相関を求めることにより実現することとしている。かかる検出手法によれば、演算速度がパルス繰り返し周波数程度の比較的低速であるAD変換器52,54,72,74にも対応することができ、簡易な構成でターゲット検出を行うことが可能となる。しかし、相対距離検出を行う手法はこれに限定されるものではなく、その距離検出を、高速演算可能なAD変換器を用いて、送信パルスの送信エッジから受信パルスの受信エッジまでの時間を直接的に求めることにより実現することとしてもよい。
【0118】
また、上記の第1乃至第4実施例においては、自車両とターゲットとの相対速度の検出を、時間を空けて送信された2つの送信パルスが同一距離から反射して受信された信号(=受信パルス)間の位相差を検出するパルスペア方式を利用して行うこととしているが、デジタル化された受信パルスをFFT処理により周波数成分に変換する方式を利用して行うこととしてもよい。かかる構成によれば、同一レンジビン内の複数のターゲットの速度成分をそれぞれ分離して検出することが可能となる。
【0119】
また、上記の第1乃至第4実施例においては、自車両に対するターゲットの角度位置の検出を、一の送信パルスに対して異なる位置に配置された2つの受信アンテナに受信された信号(=受信パルス)間の位相差を検出する位相比較モノパルス方式を利用して行うこととしているが、複数の受信アンテナの受信強度(例えばその和や差)を比較する方式を利用して行うこととしてもよく、また、フェイズドアレーやデジタルビームフォーミング(DBF)を利用して行うこととしてもよい。
【0120】
また、上記の第1乃至第4実施例においては、図1に示す如く送信アンテナ30を一つ設けかつ受信アンテナ36,56を二つ設けることとしているが、送信アンテナを複数設けることとしてもよい。また、受信アンテナが複数個ある場合は、図1に示す如く、受信アンテナ36,56それぞれに対応して受信回路32と受信回路34とを別個独立に設けることとしてもよいが、図16に示す如く、受信アンテナ36,56に共通した一つの受信回路500(受信回路32と同様の構成)と、その受信回路500の有する各部品と接続する受信アンテナを受信アンテナ36,56間で適宜切り替えるスイッチ502と、を設けることとしてもよい。かかる変形例によれば、2つの受信アンテナ36,56で受信回路の共用化を図ることができ、これにより、パルスレーダ装置としての構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0121】
また、受信アンテナが複数個設けられる場合は、図16に示す如く、それらの受信アンテナを受信専用のアンテナ36,56で構成することとしてもよいが、図17に示す如く、それらの受信アンテナの少なくとも一つを送信アンテナ600と兼用することとし、そのアンテナ600の接続を送信回路22側と受信回路500(受信回路32と同様の構成)側との間で適宜切り替えるスイッチ602を設けることとしてもよい。かかる変形例によれば、送信アンテナと受信アンテナとの共用化を図ることができ、これにより、更にパルスレーダ装置としての構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0122】
尚、図16及び図17に示す変形例では、スイッチ502,602をアンプ38よりも上流に配置して接続させているが、SN比の改善のためアンプ38よりも下流に配置して接続させることとしてもよい。
【0123】
また、上記の第1乃至第4実施例や上記の図16や図17に示す変形例では、送受信される信号の処理に関しダイレクトコンバージョン方式が採用されているが、ダブルコンバージョン方式などダウンコンバートの方式は何れであってもよい。
【0124】
更に、上記の第1乃至第4実施例においては、特にその実施例中の図8、図9、図11、図13、及び図15において、自移動体から検出したいターゲットまでの最大距離Dmaxまでの検出範囲を一次元とし、ターゲット検出に際し一次元スキャンのみを行うものとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、検出範囲を前後左右の二次元とし、ターゲット検出に際し二次元スキャンを行うものとしてもよいし、また、検出範囲を前後左右上下の三次元とし、ターゲット検出に際し三次元スキャンを行うものとしてもよい。特に、二次元や三次元の検出範囲では、一次元の検出範囲に比べて、レンジビン数が飛躍的に多くなるので、上記した第2実施例や第3実施例の手法はターゲットを検出する検出時間を短縮するのに有効である。
【符号の説明】
【0125】
20,200,300,400 パルスレーダ装置
22 送信回路
30 送信アンテナ
32,34 受信回路
36,56 受信アンテナ
80 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の電波を送信する送信手段と、前記送信手段による送信電波の反射波を受信する受信手段と、を備え、前記送信手段による電波送信と前記受信手段による電波受信との関係に基づいて対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置であって、
対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を所定の数に区切ったレンジビンのうち、対象物が存在する存在レンジビンを検出する存在レンジビン検出手段と、
前記存在レンジビン検出手段により前記存在レンジビンが検出された場合に、以後、該存在レンジビンについて前記送信手段の送信する電波のパルス幅を短くするパルス幅短縮手段と、
を備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
パルス状の電波を送信する送信手段と、前記送信手段による送信電波の反射波を受信する受信手段と、を備え、前記送信手段による電波送信と前記受信手段による電波受信との関係に基づいて対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置であって、
対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を複数に区切ったレンジビンのうち、対象物が存在する存在レンジビンを検出する存在レンジビン検出手段と、
前記存在レンジビン検出手段により前記存在レンジビンが検出された場合に、以後、前記検出範囲内の全レンジビンのうち対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき要演算レンジビンを、前記存在レンジビンを含む周辺の一以上のレンジビン並びに前記検出範囲の端に存在する一以上のレンジビンのみに限定する要演算レンジビン限定手段と、
を備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項3】
前記要演算レンジビンは、当初、前記検出範囲の端に存在するレンジビンのみであることを特徴とする請求項2記載のパルスレーダ装置。
【請求項4】
パルス状の電波を送信する送信手段と、前記送信手段による送信電波の反射波を受信する受信手段と、を備え、前記送信手段による電波送信と前記受信手段による電波受信との関係に基づいて対象物との相対距離又は相対速度を演算するパルスレーダ装置であって、
対象物との相対距離又は相対速度を演算すべき検出範囲を複数に区切ったレンジビンのうち、対象物が存在する存在レンジビンを検出する存在レンジビン検出手段と、
前記存在レンジビン検出手段により前記存在レンジビンが検出された場合に、該存在レンジビンについての対象物との相対距離又は相対速度を演算するうえで必要な受信電波の積分処理の回数を増大させる積分回数増大手段と、
を備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項5】
対象物との相対距離又は相対速度の演算が要求される要求検出範囲の位置に応じて、前記送信手段の送信する電波のパルス幅を可変するパルス幅可変手段を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載のパルスレーダ装置。
【請求項6】
前記パルス幅可変手段は、前記要求検出範囲の位置が近方であるほど前記パルス幅を短くし、一方、前記要求検出範囲の位置が遠方であるほど前記パルス幅を長くすることを特徴とする請求項5記載のパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−258133(P2009−258133A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185588(P2009−185588)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【分割の表示】特願2007−196683(P2007−196683)の分割
【原出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】