説明

パワーステアリング装置

【課題】低温時における油圧パワーステアリング装置の負担を軽減するパワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】パワーステアリング装置Aは油圧パワーステアリング装置20と電動パワーステアリング装置30とを備えている。装置20の油圧ポンプ23にはECU47によって作動制御される流量制御装置28が組み付けられている。そして、エンジン始動後、外気温度センサ41によって検出された外気温度TAが基準外気温度よりも小さい場合には、ECU47は、流量制御装置28を作動制御してポンプ23から吐出される作動油の流量を「0」とし、装置30を作動させて操舵補助力を発生させる。これにより、低温時における低圧配管25a内の圧力上昇を確実に防止でき、装置30の負担を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置に関し、特に、電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置とを備えたパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置とを備えたパワーステアリング装置は知られている。例えば、下記特許文献1には、作動油の温度が高温であるときに、電動パワーステアリング装置による操舵補助力と油圧パワーステアリング装置による操舵補助力の出力比率を変更する、具体的には、油圧パワーステアリング装置の出力を下げるようにしたパワーステアリング装置が示されている。このように、作動油が高温であるときに、油圧パワーステアリング装置の出力を下げることにより、油圧ポンプの焼きつきや油圧配管の劣化を防止することができるようになっている。
【0003】
また、例えば、下記特許文献2には、油圧操舵補助装置における油圧ポンプの吐出圧を所定圧以下に制限するようにしたパワーステアリング装置が示されている。このように、油圧ポンプの吐出圧を制限することにより、作動油の温度上昇を抑え、油圧ポンプの焼き付けを防止することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−174194号公報
【特許文献2】特開2008−114762号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記従来のパワーステアリング装置のように、油圧により操舵補助力を発生させる場合には、作動に伴って作動油の温度上昇や油圧ポンプの焼きつき等が生じることが懸念される。一方で、例えば、低温時にエンジンを始動させ、油圧により操舵補助力を発生させる場合には、作動油の温度も低いため、サージ圧の発生や急激な流量増加に伴い、特に、低圧配管に対する負荷が高くなることが懸念される。この点に関し、上記従来のパワーステアリング装置においては、考慮されていない。
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置とを備えたパワーステアリング装置において、特に、低温時における油圧パワーステアリング装置の負担を軽減するパワーステアリング装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置とを備えたパワーステアリング装置において、少なくとも、車両のエンジンルーム周辺の外気温度を検出する外気温度検出手段と、前記外気温度検出手段によって検出された外気温度と予め設定された所定の基準外気温度とを比較する外気温度比較手段と、前記外気温度比較手段による比較によって前記外気温度が前記基準外気温度よりも低いときに、前記油圧パワーステアリング装置の油圧ポンプから吐出される作動油の流量を「0」に制御する流量制御手段と、前記外気温度比較手段による比較によって前記外気温度が前記基準外気温度よりも低いときに、前記電動パワーステアリング装置を作動させて所定の操舵補助力を発生させる作動制御手段とを備えたことにある。
【0008】
この場合、さらに、前記油圧パワーステアリング装置のパワーシリンダ近傍にて、リザーバタンクに戻る作動油の温度を検出する第1作動油温度検出手段と、前記油圧パワーステアリング装置のパワーシリンダの作動に伴って上昇した作動油を冷却するオイルクーラを通過してリザーバタンクに戻る作動油の温度を検出する第2作動油温度検出手段とを備え、前記流量制御手段が、前記外気温度比較手段による比較によって前記外気温度が前記基準外気温度以上のときに、前記第1作動油温度検出手段によって検出された作動油の温度と前記第2作動油温度検出手段によって検出された作動油の温度との差温の減少に伴って、前記油圧ポンプから吐出される作動油の流量が増加するように制御するとよい。
【0009】
これらによれば、例えば、エンジン始動後、少なくともエンジンルーム周辺の外気温度が基準外気温度よりも低い場合には、油圧パワーステアリング装置の油圧ポンプから吐出される低温の作動油の流量を「0」とすることができる。これにより、エンジン始動に伴って、特に、作動油が低温で粘度が高いときに発生する油圧系のサージ圧の発生を効果的に防止することができる。また、このようにサージ圧の発生を防止することにより、例えば、油圧パワーステアリング装置を構成する低圧配管内における作動油の圧力上昇を確実に防止することができ、例えば、低圧配管に用いられるゴムホースなどに与える負荷を大幅に軽減することができる。したがって、パワーステアリング装置、特に、油圧パワーステアリング装置の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0010】
また、油圧ポンプから吐出される作動油の流量を、例えば、通常使用時における流量まで増加させる場合には、パワーシリンダの近傍で検出されたリザーバタンクに戻る作動油の温度とオイルクーラを通過して検出された作動油の温度との差温の減少に応じて、作動油の流量を徐々に増加させることができる。そして、このように作動油の流量を徐々に(ゆっくり)増加させて循環させることにより、作動油の温度を適正な温度まで確実に上昇させて適切な粘度とすることができるとともに、急激な流量の増加を確実に防止することができ、特に、低圧配管内の作動油のスムーズな流通を確保することができる。その結果、低圧配管内における作動油の圧力上昇を確実に防止することができ、例えば、低圧配管に用いられるゴムホースに与える負荷を大幅に軽減することができる。したがって、パワーステアリング装置、特に、油圧パワーステアリング装置の耐久性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るパワーステアリング装置の概略を示す構成図である。
【図2】図1のECUによって実行される流量制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】図1の流量制御装置によって制御される流量を説明するためのグラフである。
【図4】図1の流量制御装置によって流量が制御される場合において、図1の電動パワーステアリング装置が付与する操舵補助力を説明するためのグラフである。
【図5】本発明の変形例に係るパワーステアリング装置の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るパワーステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るパワーステアリング装置Aの構成を概略的に示している。
【0013】
パワーステアリング装置Aは、ステアリングコラム10と、油圧パワーステアリング装置20と、電動パワーステアリング装置30と、電気制御装置40とを備えている。
【0014】
ステアリングコラム10は、ステアリングホイール11と、コラムメインシャフト12と、ステアリングギアボックス13とを備えている。ステアリングホイール11は、運転者によって回動操作されて図示しない転舵輪を転舵させるものである。そして、ステアリングホイール11はコラムメインシャフト12の上端側に組み付けられ、コラムメインシャフト12の下端側はトーションバ12aを介してステアリングギアボックス13に連結されている。ステアリングギアボックス13は、コラムメインシャフト12の下端に一体的に組み付けられたピニオンギア13aと、車幅方向に延びてピニオンギア13aと噛み合うラックバー13bとを備えており、ステアリングホイール11からコラムメインシャフト12を介してピニオンギア13aに伝達される回転をラックバー13bによって左右方向の動きに変換し、ラックバー13bの両端に連結されたタイロッド13cを介して図示しない転舵輪を転舵させるものである。
【0015】
油圧パワーステアリング装置20は、油圧によりステアリングホイール11に操舵補助力を発生させるものである。油圧パワーステアリング装置20は、パワーシリンダ21、パワーピストン22、油圧ポンプ23、リザーバタンク24、油圧配管25(高圧配管25a,ターンチューブ25b,低圧配管25c,サクションホース25d)、油圧バルブ26およびオイルクーラ27を備えている。また、油圧パワーステアリング装置20には、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量を調整する流量制御装置28が設けられている。流量制御装置28は、その構成および作動が、例えば、実開平2−66370号公報に詳細に開示されているように、油圧ポンプ23に組み付けられて同ポンプ23から吐出される作動油の一部または全部を、サクションホース25dを介してリザーバタンク24にバイパスさせるためのフローコントロールバルブと、このバルブの作動を制御するアクチュエータ(例えば、ソレノイド)とを備えている。
【0016】
ここで、油圧パワーステアリング装置20の作動については既に周知であるが、後述する説明の理解を容易とするために以下に簡単に説明しておく。油圧パワーステアリング装置20は、油圧ポンプ23によりリザーバタンク24に蓄えられた作動油を汲み上げ、流量制御装置28によって制御された流量で、高圧配管25aから油圧バルブ26およびターンチューブ25bを介してパワーシリンダ21に作動油を供給するようになっている。パワーシリンダ21に供給された作動油は、ステアリングホイールの回動操作によるトーションバ12aの捩じれに基づく油圧バルブ26の開閉動作により、パワーピストン22の左右に圧力差を生じさせ、この圧力差によりパワーピストン22を移動させる。また、パワーピストン22の移動に伴ってパワーシリンダ21から戻る作動油は、ターンチューブ25bおよび油圧バルブ26を介して、低圧配管25cを通ってリザーバタンク24に戻る。なお、低圧配管25cを通ってリザーバタンク24に戻る作動油はオイルクーラ27によって冷却される。そして、パワーピストン22の左右移動に伴い、タイロッド13cに連結されたラックバー13bがピニオンギア13aを介して回転トルクを発生させ、この回転トルクがコラムメインシャフト12すなわちステアリングホイール11に操舵補助力として伝達される。
【0017】
電動パワーステアリング装置30は、電動モータを利用した電気動力によりステアリングホイール11に操舵補助力を発生させるものである。電動パワーステアリング装置30は、電動モータ31を備えており、この電動モータ31の回転は図示しない減速機構を介してピニオンギア13aに伝達されるようになっている。そして、伝達された回転(回転トルク)は、コラムメインシャフト12すなわちステアリングホイール11に操舵補助力として伝達される。なお、本実施形態における電動パワーステアリング装置30は、電動モータ31がステアリングギアボックス13のピニオンギア13aに回転トルクを伝達するピニオンアシストタイプとして実施するが、その他の電動パワーステアリング装置30として、電動モータ31がステアリングギアボックス13のラックバー13bに所定の減速機構を介して回転トルクを伝達するラックアシストタイプや、電動モータ31が所定の減速機構を介してコラムメインシャフト12に回転トルクを伝達するコラムアシストタイプを採用して実施可能であることはいうまでもない。また、電動パワーステアリング装置30の詳細な作動については、後述する。
【0018】
次に、油圧パワーステアリング装置20の流量制御装置28および電動パワーステアリング装置30の電動モータ31の作動を制御する電気制御装置40を説明する。電気制御装置40は、外気温度センサ41、第1温度センサ42、第2温度センサ43、操舵角センサ44、操舵トルクセンサ45および車速センサ46を備えている。
【0019】
外気温度センサ41は、エンジンルーム周辺の温度を検出し、この温度を外気温度TAとして出力する。第1温度センサ42は、油圧パワーステアリング装置20のパワーシリンダ21の出口から戻される作動油の温度(またはこの作動油の流れる油圧配管の表面温度)を検出するものであり、例えば、ターンチューブ25bに組み付けられる。そして、第1温度センサ42は、パワーシリンダ21から戻される作動油の温度(またはこの作動油の流れるターンチューブ25bの表面温度)を出口温度TGとして出力する。第2温度センサ43は、油圧パワーステアリング装置20のオイルクーラ27近傍(より具体的には、オイルクーラ27よりも下流側)の作動油の温度(またはこの作動油の流れる油圧配管の表面温度)を検出するものであり、例えば、低圧配管25cに組み付けられる。そして、第2温度センサ43は、オイルクーラ27近傍の作動油の温度(またはこの作動油の流れる低圧配管25cの表面温度)をクーラ部温度TCとして出力する。
【0020】
操舵角センサ44は、コラムメインシャフト12に組み付けられて、ステアリングホイール11(すなわちコラムメインシャフト12)の回転量を検出し、この回転量を操舵角θとして出力する。操舵トルクセンサ45は、トーションバ12aに組み付けられたレゾルバセンサを主要構成部品とし、トーションバ12aの捩じれの大きさ(角度)に基づいてステアリングホイール11を介して入力された操作力(トルク)を検出し、この操作力を操舵トルクTとして出力する。車速センサ46は、車両の車速を検出し、車速Vとして出力する。
【0021】
これら各センサ41〜46は、電子制御ユニット47(以下、単にECU47という)に接続されている。ECU47は、CPU、ROM、RAM、タイマなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行することにより、油圧パワーステアリング装置20の流量制御装置28および電動パワーステアリング装置30の電動モータ31の作動を制御する。このため、ECU47の出力側には、流量制御装置28のアクチュエータおよび電動モータ31を駆動するための駆動回路48,49がそれぞれ接続されている。
【0022】
次に、上記のように構成した実施形態に係るパワーステアリング装置Aの動作について、具体的に説明する。運転者によって、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると、ECU47は、図2に示す流量制御プログラムの実行をステップS10にて開始する。
【0023】
続く、ステップS11においては、ECU47は、エンジン始動直後であるため、エンジンルーム周辺の温度(外気温度)が低温であることを表すフラグFRGを、未だ低温であることを表す「1」に設定する。そして、ECU47は、フラグFRGを「1」に設定すると、ステップS12に進む。
【0024】
ステップS12においては、ECU47は、センサ41〜46からそれぞれの検出値を入力する。すなわち、ECU47は、外気温度TA、出口温度TG、クーラ部温度TC、操舵角θ、操舵トルクTおよび車速Vを入力し、ステップS13に進む。
【0025】
ステップS13においては、ECU47は、現在、フラグFRGに設定されている値が「1」であるか否かを判定する。すなわち、ECU47は、フラグFRGが「1」に設定されていれば、「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、後述するように、フラグFRGの値が「0」に設定されていれば、ECU47は「No」と判定してステップS18に進む。
【0026】
ステップS14においては、ECU47は、前記ステップS12にて入力した外気温度TAが予め低温であることを判定するために設定された基準外気温度TAaよりも小さい(低い)か否かを判定する。すなわち、ECU47は、入力した外気温度TAが基準外気温度TAaよりも小さければ、エンジンルーム周辺の温度(外気温度)が低温であるため、「Yes」と判定してステップS15に進む。そして、ステップS15にて、フラグFRGの値を「1」に維持し、ステップS16に進む。一方、ECU47は、入力した外気温度TAが基準外気温度TAa以上であれば、エンジンルーム周辺の温度(外気温度)が上昇しているため「No」と判定してステップS18に進む。
【0027】
ステップS16においては、ECU47は、駆動回路48を介して油圧パワーステアリング装置20の流量制御装置28のアクチュエータを作動させてフローコントロールバルブを制御し、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを「0」にする。具体的に説明すると、ECU47は、駆動回路48を介して流量制御装置28のアクチュエータに駆動電流を供給し、フローコントロールバルブが、油圧ポンプ23から高圧配管25aに作動油を供給するための作動油供給通路とリザーバタンク24に作動油をバイパスするバイパス通路とを連通するように制御する。これにより、作動油がバイパス通路を通ってリザーバタンク24に戻されるため、油圧ポンプ23から高圧配管25aに吐出される作動油の流量Qを「0」とすることができる。このように、流量制御装置28の作動を制御して、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを「0」にすると、ECU47はステップS17に進む。
【0028】
ステップS17においては、ECU47は、運転者によるステアリングホイール11の回動操作に対して、電動パワーステアリング装置30を作動させて適切な操舵補助力を付与する。なお、電動パワーステアリング装置30による操舵補助力の付与に関しては、周知であるため、以下に簡単に説明する。
【0029】
ECU47は、運転者によるステアリングホイール11の回動操作量(操舵角θ)、操作力(操舵トルクT)および車速Vの大きさに応じて、回動操作に必要な操舵トルクを軽減すべく電動モータ31を駆動させて、ピニオンギア13aに操舵補助力(アシストトルク)を伝達する。すなわち、ECU47は、前記ステップS12にて入力した操舵角θ、操舵トルクTおよび車速Vの大きさに応じて電動モータ31を駆動させるための制御量を設定する。そして、ECU47は、設定した制御量に基づいて、オーバーシュートさせることなく、駆動回路49を制御して、電動モータ31を駆動させる。これにより、運転者によるステアリングホイール11の回動操作すなわち転舵輪を転舵させるために必要な操舵トルクTが軽減され、運転者の肉体的な負担を軽減することができる。
【0030】
このように、電動パワーステアリング装置30を作動させると、ECU47は、ふたたび、ステップS12に以降の各ステップ処理を繰り返し実行する。
【0031】
一方、ECU47は、前記ステップS13または前記ステップS14において、「No」と判定すると、ステップS18に進む。ステップS18においては、ECU47は、フラグFRGの値を、エンジンルーム周辺の温度(外気温度)が低温ではない、具体的には外気温度TAが基準外気温度TAa以上である(高い)ことを表す「0」に設定または維持する。そして、ECU47は、ステップS19に進む。
【0032】
ステップS19においては、ECU47は、前記ステップS12にて入力した出口温度TGとクーラ部温度TC(または外気温度TA)との差温(TG−TC)が、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを制御するために予め設定された上限側の基準差温TOaよりも小さいか否かを判定する。なお、差温(TG−TC)は絶対値を表す。すなわち、ECU47は、差温(TG−TC)が基準差温TOaよりも小さければ、「Yes」と判定してステップS20に進む。一方、差温(TG−TC)が基準差温TOa以上であれば、未だ作動油の温度が低い状態であるため、ECU47は、「No」と判定して前記ステップS16に進み、上述したように、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを「0」とし、電動パワーステアリング装置30による操舵補助力のみを付与する。
【0033】
ステップS20においては、ECU47は、差温(TG−TC)が、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを制御するために予め設定された下限側の基準差温TObよりも小さいか否かを判定する。なお、この場合も差温(TG−TC)は絶対値を表す。すなわち、ECU47は、差温(TG−TC)が基準差温TObよりも小さければ、既に作動油の温度が適正温度まで上昇しているため、「Yes」と判定してステップS21に進む。一方、差温(TG−TC)が基準差温TOb以上であれば、ECU47は、「No」と判定してステップS23に進む。
【0034】
ステップS21においては、ECU47は、後述するように、油圧ポンプ23から吐出される低温の作動油の流量Qを差温(TG−TC)に応じて増加させ、作動油を循環させることによって既に作動油の温度が適正温度まで上昇しているため、図3に示すように、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを予め設定された通常使用時における流量Qaとする。すなわち、この場合には、油圧パワーステアリング装置20は、通常の作動態様により作動して、油圧ポンプ23によりリザーバタンク24に蓄えられた作動油を汲み上げ、流量制御装置28によって制御された流量Qaで、高圧配管25aから油圧バルブ26およびターンチューブ25bを介してパワーシリンダ21に作動油を供給する。
【0035】
これにより、パワーシリンダ21に供給された作動油は、ステアリングホイールの回動操作によるトーションバ12aの捩じれに基づく油圧バルブ26の開閉動作により、パワーピストン22の左右に圧力差を生じさせ、この圧力差によりパワーピストン22を移動させるとともに、パワーピストン22の移動に伴ってパワーシリンダ21から戻る作動油は、ターンチューブ25bおよび油圧バルブ26を介して、低圧配管25cを通ってリザーバタンク24に戻る。したがって、パワーピストン22の左右移動に伴い、タイロッド13cに連結されたラックバー13bがピニオンギア13aを介して回転トルクを発生させ、この回転トルクがコラムメインシャフト12すなわちステアリングホイール11に操舵補助力として伝達される。このように、ECU47は、油圧パワーステアリング装置20を通常の態様により作動させると、ステップS22に進む。
【0036】
ステップS22においては、ECU47は、前記ステップS21にて油圧パワーステアリング装置20を通常の態様により作動させることに伴い、図4にて実線で示すように、電動パワーステアリング装置30の作動を停止制御または同装置30の作動による操舵補助力が小さくなるように制御する。そして、ECU47は、ふたたび、ステップS12に戻り、同ステップS12以降の各ステップ処理を繰り返し実行する。
【0037】
また、ECU47は、前記ステップS20にて「No」と判定すると、ステップS23に進む。ステップS23においては、ECU47は、差温(TG−TC)に応じて流量制御装置28を作動させることによって油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを調整し、作動油を循環させることによって作動油の温度を上昇させて粘度を低下させるとともに油圧ポンプ23の作動に伴うサージ圧を低下させる。具体的に説明すると、ECU47は、図3に示すように、差温(TG−TC)が上限側の基準差温TOaよりも小さく、かつ、下限側の基準差温TOb以上であるときには、差温(TG−TC)の減少、言い換えれば、作動油の温度上昇に伴って、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを通常使用時における流量Qaまで徐々に増加させる。
【0038】
すなわち、ECU47は、駆動回路48を介して油圧パワーステアリング装置20の流量制御装置28のアクチュエータを作動させてフローコントロールバルブを制御し、図3に示すように差温(TG−TC)に応じて予め設定された図3に示した流量となるように、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを調整する。具体的に説明すると、ECU47は、駆動回路48を介して流量制御装置28のアクチュエータに駆動電流を供給してフローコントロールバルブを作動させて、差温(TG−TC)の減少に伴って作動油供給通路からバイパス通路に流す作動油の量が少なくなるように調整する。これにより、油圧ポンプ23から供給される作動油は、差温(TG−TC)の減少に伴って増加し、最終的に油圧ポンプ23から高圧配管25aに吐出される作動油の流量Qを流量Qaまで増加させることができる。
【0039】
このように、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを徐々に増加させることにより、パワーピストン22の左右移動が起こり、油圧パワーステアリング装置20はステアリングホイールの回動操作に対して操舵補助力の付与を開始する。また、このパワーピストン22の左右移動に伴う作動油の圧縮により、作動油の温度が上昇する。そして、作動油の温度の上昇に伴って差温(TG−TC)が減少することにより、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qが増加する。したがって、このようなサイクルを繰り返すことにより、作動油の温度が適正温度まで上昇させることができて作動油の粘度を適正な粘度とすることができる。また、作動油を徐々の吐出させることによってサージ圧を減少させることができ、例えば、油圧ポンプ23から作動油の吐出を開始した直後における急激な流量増加による高圧状態を回避することができて特に低圧配管25cへの負担を大幅に軽減することができる。そして、流量制御装置28の作動を制御して、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを調整すると、ECU47はステップS24に進む。
【0040】
ステップS24においては、ECU47は、前記ステップS23にて差温(TG−TC)に応じた作動油の流量Qの調整、言い換えれば、油圧パワーステアリング装置20による操舵補助力の増加に伴って、電動パワーステアリング装置30による操舵補助力の大きさを変更する。具体的に説明すると、ECU47は、図4にて実線で示すように、差温(TG−TC)が上限側の基準差温TOaよりも小さく、かつ、下限側の基準差温TOb以上であるときには、差温(TG−TC)が減少して破線で示す作動油の流量Qの増加(すなわち、油圧パワーステアリング装置20による操舵補助力の増加)に伴って、電動パワーステアリング装置30による操舵補助力の大きさを「0」近傍まで徐々に減少させる。そして、ECU47は、ふたたび、ステップS12に戻り、同ステップS12以降の各ステップ処理を繰り返し実行する。
【0041】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、例えば、エンジン始動後、エンジンルーム周辺の外気温度TAが基準外気温度TAaよりも小さい場合には、油圧パワーステアリング装置20の油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを「0」とすることができる。これにより、エンジン始動に伴って、特に、作動油が低温で粘度が高いときに発生する油圧系のサージ圧の発生を効果的に防止することができる。また、油圧ポンプ23から吐出される作動油の流量Qを通常使用時における流量Qaまで増加させる場合には、差温(TG−TC)の減少に応じて、流量Qを徐々に増加させることができる。そして、このように流量Qを徐々に増加させて作動油を循環させることにより、作動油の温度を適正な温度まで確実に上昇させて適切な粘度とすることができ、特に、低圧配管25cに設けられたオイルクーラ27周辺における作動油のスムーズな流通を確保することができる。その結果、低圧配管25c内における作動油の圧力上昇を確実に防止することができ、例えば、低圧配管25cで用いられるゴムホースに与える負荷を大幅に軽減することができる。したがって、パワーステアリング装置A、特に、油圧パワーステアリング装置20の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0042】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態においては、流量制御装置28を油圧ポンプ23に一体的に組み付けておき、フローコントロールバルブが作動油を油圧ポンプ23内のバイパス通路を介してリザーバタンク24に戻すように実施した。この場合、油圧ポンプ23をより簡素な構成とするために、図5に示すように、流量制御装置28を高圧配管25aに組み付けるとともに、流量制御装置28とリザーバタンク24とを連通するバイパス配管28aを設けて実施することも可能である。そして、この場合は、エンジン始動後において、サージ圧を発生させないように作動油の流量Qを「0」とする際には、フローコントロールバルブによって、作動油をバイパス配管28aを介してリザーバタンク24に戻すことができる。したがって、このように構成した場合であっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
10…ステアリングコラム、11…ステアリングホイール、12…コラムメインシャフト、12a…トーションバ、13…ステアリングギアボックス、13a…ピニオンギア、13b…ラックバー、13c…タイロッド、20…油圧パワーステアリング装置、21…パワーシリンダ、22…パワーピストン、23…油圧ポンプ、24…リザーバタンク、25…油圧配管、26…油圧バルブ、27…オイルクーラ、28…流量制御装置、30…電動パワーステアリング装置、31…電動モータ、40…電気制御装置、41…外気温度センサ、42…第1温度センサ、43…第2温度センサ、44…操舵角センサ、45…操舵トルクセンサ、46…車速センサ、47…電子制御ユニット(ECU)、48,49…駆動回路、A…パワーステアリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置とを備えたパワーステアリング装置において、
少なくとも、車両のエンジンルーム周辺の外気温度を検出する外気温度検出手段と、
前記外気温度検出手段によって検出された外気温度と予め設定された所定の基準外気温度とを比較する外気温度比較手段と、
前記外気温度比較手段による比較によって前記外気温度が前記基準外気温度よりも低いときに、前記油圧パワーステアリング装置の油圧ポンプから吐出される作動油の流量を「0」に制御する流量制御手段と、
前記外気温度比較手段による比較によって前記外気温度が前記基準外気温度よりも低いときに、前記電動パワーステアリング装置を作動させて所定の操舵補助力を発生させる作動制御手段とを備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載したパワーステアリング装置において、さらに、
前記油圧パワーステアリング装置のパワーシリンダ近傍にて、リザーバタンクに戻る作動油の温度を検出する第1作動油温度検出手段と、
前記油圧パワーステアリング装置のパワーシリンダの作動に伴って上昇した作動油を冷却するオイルクーラを通過してリザーバタンクに戻る作動油の温度を検出する第2作動油温度検出手段とを備え、
前記流量制御手段が、
前記外気温度比較手段による比較によって前記外気温度が前記基準外気温度以上のときに、前記第1作動油温度検出手段によって検出された作動油の温度と前記第2作動油温度検出手段によって検出された作動油の温度との差温の減少に伴って、前記油圧ポンプから吐出される作動油の流量が増加するように制御することを特徴とするパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−264932(P2010−264932A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119461(P2009−119461)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】