説明

パワーユニットの支持装置

【課題】パワーユニットの支持装置において、マウントメンバの剛性を向上して、マウントメンバを介してパワーユニットから車体へ伝わる振動を低減し、且つ支持装置を保護することにある。
【解決手段】ロアメンバ部材(13)は底面部(47)から上方へ湾曲して上端がアッパメンバ部材(12)に接合される縦壁部(48)をクッションゴム(25)の外周側に備え、縦壁部(48)の上方へ湾曲する湾曲部(49)をワッシャ(38)の径方向外周部(40)に近接して配置し、開口部(45)を該開口部(45)の周辺に車両下向きに突出する周壁(50)を備えたバーリング孔(51)とし、このバーリング孔(51)の周壁(50)を湾曲部(49)と重なる位置に形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワーユニットの支持装置に係り、特にパワーユニットから車体に伝わる振動を低減するパワーユニットの支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、縦置きエンジンとトランスミッションとからなるパワーユニットのレイアウトの場合に、マウント形式としては、一般的に、縦置きエンジンの左前部・右前部とトランスミッションの後端部とにマウント部を夫々配置した、いわゆる3点式のピッチマウント方式を採用している。
このようなピッチマウント方式において、トランスミッションの後端部にマウント部をレイアウトする場合には、トランスミッションの後端部をマウント支持するために、車体に取り付けたマウントメンバ(リアマウントメンバ)が必要になる。このマウントメンバとしては、強度・剛性が求められながらも、軽量・コンパクトな形状が望ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3−110236号公報
【特許文献2】特開平8−192772号公報 特許文献1に係るエンジンの支持装置は、マウントメンバの取付孔を挟んで互いに嵌合して連通孔を形成するクッションゴムの端面に凹所を形成し、この凹所にワッシャを嵌合させて、マウントメンバにクッションゴムとワッシャとを予め嵌め込んで位置決めして取り付け、ボルトをクッションゴム及びワッシャに挿通させるものである。 特許文献2に係る車両用フレーム構造は、センタメンバの前側及び後側に弾性支持構造を夫々設け、センタメンバの後側をサスペンションサブフレームの下方に配設して、振動や音が車体に伝達するのを防止するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、パワーユニットの支持装置において、図7に示すように、マウントメンバ(リアマウントメンバ)101は、車体102としての右サイドフレーム103及び左サイドフレーム104に各ボルト105で取り付けられている。このマウントメンバ101には、車体102への取付部位に、ボルト105を装着するための開口部が形成されている。それにより、この箇所では、他の部分と比べて剛性が低くなり、振動が発生し易い。
そして、このマウントメンバ101の取付部位の剛性を上げるために、マウントメンバ101の板厚を大きくしたり、板を二枚合わせる等の各種手段があったが、マウントメンバ101の重量増加、コストの増加等の不都合を招いた。
また、図8に示すように、エンジン振動を直接車体102に伝達させないために、マウントメンバ101と車体102との間に下側クッションゴム106・上側クッションゴム107を介して締結するフローティング構造がある。この際、車両が悪路を走行する車両である場合に、ボルト105を下方から覆うようにプロテクタ108を別体に追加して、走行時の飛び石からボルト105・下側クッションゴム106を保護する必要があった。 しかしながら、別体のプロテクタ108でボルト105・下側クッションゴム106の全周を覆うことは、構造上難しく、略全周にわたって隙間が開いているため、この隙間から飛び石・水・砂・挨等の浸入を許すことがあり、ボルト105・下側クッションゴム106の劣化を早めてしまうという問題があったり、別体のプロテクタ108を設けたのでは、部品点数・組立工程が多くなるため、コストが増加するという不都合があった。
【0005】
そこで、この発明の目的は、マウントメンバの剛性を向上させ、マウントメンバを介してパワーユニットから車体へ伝わる振動を低減し、且つクッションゴム等の支持装置を保護できるパワーユニットの支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、アッパメンバ部材とロアメンバ部材とを接合してなる中空状であってパワーユニットを支持するマウントメンバを車体に取り付け、前記アッパメンバ部材の長手方向両側部に前記車体への取付孔を形成し、この取付孔と連通する連通孔を有するとともに前記取付孔を貫通して互いに連結される一対のクッションゴムを前記アッパメンバ部材の上下両側に配置し、前記クッションゴムの内部に前記取付孔を貫通して上下方向に延びるスペーサを挿入し、このスペーサの上端部を前記車体に当接させるとともに前記クッションゴムの下端に当接するワッシャを前記スペーサの下端に当接させ、前記スペーサの内部を貫通するボルトによって前記ワッシャを前記車体の下部に固定し、前記ロアメンバ部材には前記ボルト及び前記ワッシャを組み付けるための開口部を形成したパワーユニットの支持装置において、前記ロアメンバ部材は底面部から上方へ湾曲して上端が前記アッパメンバ部材に接合される縦壁部を前記クッションゴムの外周側に備え、前記縦壁部の上方へ湾曲する湾曲部を前記ワッシャの径方向外周部に近接した位置に配置し、前記開口部を該開口部の周辺に車両下向きに突出する周壁を備えたバーリング孔とし、このバーリング孔の周壁を前記湾曲部と重なる位置に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明のパワーユニットの支持装置は、マウントメンバの剛性を向上し、マウントメンバを介してパワーユニットから車体へ伝わる振動を低減し、且つクッションゴム等の支持装置を保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1はパワーユニットの支持装置の拡大断面図である。(実施例)
【図2】図2はマウントメンバの平面図である。(実施例)
【図3】図3はマウントメンバの背面図である。(実施例)
【図4】図4はマウントメンバの底面図である。(実施例)
【図5】図5はマウントメンバの右側面図である。(実施例)
【図6】図6はマウントメンバに支持されたパワーユニットの斜視図である。(実施例)
【図7】図7は車体に取り付けられたマウントメンバの底面図である。(従来例)
【図8】図8は図7のVIII−VIII線によるマウントメンバの取付部位の断面図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明は、マウントメンバの剛性を向上することにより、マウントメンバを介してパワーユニットから車体へ伝わる振動を低減し、且つクッションゴム等の支持装置を保護するという目的を実現するものである。
【実施例】
【0010】
図1〜図6は、この発明の実施例を示すものである。
図2〜図6において、1は車両の車体である。この車体1は、車両前後方向Xに延びる左サイドフレーム2と右サイドフレーム3とを有している。
この左サイドフレーム2と右サイドフレーム3とには、車両左右方向(車両幅方向)Yに延びるマウントメンバ(リアマウントメンバ)4が取り付けられる。
車体1には、図6に示すように、パワーユニット5が設置される。
このパワーユニット5は、車両前後方向Xにクランク軸の延出方向を沿わせた縦置エンジン6と、この縦置エンジン6よりも車両後方に設けたトランスミッション7とからなり、マウント部8によって車体1ヘマウント支持(弾性支持)される。
【0011】
マウント部8は、図6に示すように、前側に位置する縦置エンジン6の左右位置夫々を車体1へマウントする左前側マウント部9・右前側マウント部10と、後側に位置するトランスミッション7の後端部をマウントする後側マウント部11とから構成され、パワーユニット5を、これら左前側マウント部9と右前側マウント部10と後側マウント部11との3点で、つまり、ピッチマウント方式で車体1へマウント支持する。左前側マウント部9は、左サイドフレーム2に支持される。右前側マウント部10は、右サイドフレーム3に支持される。後側マウント部11は、マウントメンバ4に支持される。
【0012】
図1〜図4に示すように、マウントメンバ4は、アッパメンバ部材12とロアメンバ部材13とを接合部14で接合した箱型で、且つ、全周を溶接で接合したモナカ構造であり、中空部15を有する中空状に形成された前側メンバ部16及び後側メンバ部17を車両前後方向Xに並列に備え、車両幅方向Yの両端部が車体1に取り付けられてパワーユニット5の後端部を支持するものである。
このように、マウントメンバ4をモナカ構造とすることにより、また、マウントメンバ4を車両前後方向Xに並列な前側メンバ部16と後側メンバ部17とで構成することにより、従来の構造よりも剛性・強度を確保することが可能となるとともに、従来では板厚が大きかったのに対して、板厚の大きさを抑制しつつ、軽量化を図ることが可能となる。
つまり、従来の構造では、マウントメンバ4の車体1への取付部位の剛性が低いため、マウントメンバ4の取付部を含むアッパメンバ部材12全体の高さ、幅を大きくして剛性の確保をしていたが、この実施例では、アッパメンバ部材12にロアメンバ部材13をその全体に亘って接合したため、マウントメンバ4の車体1への取付部位の剛性を高くできる。このため、アッパメンバ部材12の高さ、幅を低くでき、これにより、軽量化が可能で且つ絞り深さを抑えて、生産性を向上でき、更に、マウントメンバ4の地上高を高く設定でき、車両の悪路走破性を向上できる。
図2に示すように、アッパメンバ部材12の中央部位の上面には、パワーユニット5の後端部を支持するための後側マウント部11を取り付ける平坦状の後側マウント取付部18が設けられている。
【0013】
マウントメンバ4は、長手方向両側部が車体1である左サイドフレーム2と右サイドフレーム3とに取り付けられる。
このため、アッパメンバ部材12の長手方向両側部には、左サイドフレーム2への左前側取付孔19・左後側取付孔20が並列に形成されているとともに、右サイドフレーム3への右前側取付孔21・右後側取付孔22が並列に形成されている。
これら取付孔19〜22の夫々部位には、マウントメンバ4の長手方向両側部を車体1である左サイドフレーム2及び右サイドフレーム3に取り付けるための支持装置23が設けられる。
【0014】
この支持装置23にあっては、前記各取付孔19〜22の部位に設けられるものが同一構造なので、ここでは、図1に例示する右前側取付孔21(以下、単に「取付孔21」という)の部位の構造についてのみ説明し、他の部位での説明を省略する。
即ち、図1に示すように、車体1である右サイドフレーム3の下部には、取付孔21に対応した箇所で、所要内径の車体側孔部24が形成されている。アッパメンバ部材12の上下両側には、一対のクッションゴムとして、下側クッションゴム25と上側クッションゴム26とが配置される。
下側クッションゴム25は、取付孔21と連通する下側連通孔27と、上方に突出した中央突出部28と、この中央突出部28よりも低位置のアッパメンバ取付部29と、下側切欠溝30とを有する。
上側クッションゴム26は、取付孔21と連通する上側連通孔31と、車体1の車体側孔部24の内面に当接する当接部32と、アッパメンバ部材12の取付孔21の周縁を上方から押さえる押え部33と、下側クッションゴム25の中央突出部28に係合する係合溝部34と、上側切欠溝35とを有する。
下側クッションゴム25と上側クッションゴム26とは、取付孔21を貫通して上下方向で互いに連結される。
【0015】
下側クッションゴム25と上側クッションゴム26との内部には、取付孔21を貫通して上下方向に延びる軸空間36を有するスペーサ37が挿入される。このスペーサ37の上端部は、右サイドフレーム3の底面に当接される。
下側クッションゴム25の下端には、ワッシャ38が当接して設けられる。このワッシャ38は、下側連通孔27・上側連通孔31よりも小さな内径のワッシャ孔39を有し、スペーサ37の下端にも当接される。このワッシャ38の径方向外周部40は、下側クッションゴム25の外周面部41と略同径に形成される。このワッシャ38は、スペーサ37の内部の軸空間36を貫通するボルト42によって右サイドフレーム3の下部に固定される。このボルト42は、ワッシャ38のワッシャ孔39よりも大きな外径の頭部43と、下側連通孔27・上側連通孔31に挿入されてその先端が右サイドフレーム3内に配置されるナット(図示せず)に締結される軸部44とからなる。
【0016】
ロアメンバ部材13には、ボルト42及びワッシャ38等の支持装置を組み付けるための開口部45が、アッパメンバ部材12の取付孔21に対応した箇所で形成されている。開口部45は、図1に示すように、下側クッションゴム25・ボルト42等の支持装置を挿入するために必要な内径Dの挿入孔46を有している。
つまり、オフロードの走行を想定した車両においては、支持装置を走行時の飛び石から保護する対策は必要である。そこで、この実施例においては、マウントメンバ4をモナカ構造にすることで、下側クッションゴム25の全周を覆って飛び石からボルト42・下側クッションゴム25を保護する。また、水、砂、挨等との接触を減らし、ボルト42・下側クッションゴム25の耐食性を向上させる。また、従来は、飛び石への対策のために別体のプロテクタを追加していたが、マウントメンバ4をモナカ構造にすることで、このような部品を不要としてコストを低減できる。
【0017】
ロアメンバ部材13は、底面部47から上方へ湾曲してその上端がアッパメンバ部材12に接合される縦壁部48を、下側クッションゴム25の外周側に備えている。縦壁部48の上方へ湾曲する湾曲部49は、中心をOとする半径Rの円弧であり、中心Oがワッシャ38の径方向外周部40に近接した位置に配置される。
このように、ロアメンバ部材13の底面部47から上方に湾曲する湾曲部49をワッシャ38の径方向外周部40に近接した位置に配置したため、ロアメンバ部材13の下部に形成される開口部45の外周部位とのアッパメンバ部材12に接合されるロアメンバ部材13の上端部との間を、比較的直線的な縦壁部48によって連絡することができる。そのため、ロアメンバ部材13の底面部47から上方に延びる縦壁部48がパワーユニット5の振動によって口開き変形し難い構造にできる。
【0018】
また、開口部45は、該開口部45の周辺に車両下向きに突出する周壁50を備えたバーリング孔51である。つまり、このバーリング孔51の周壁50は、湾曲部49と重なる位置に形成されている。
このように、開口部45を該開口部45の周辺に車両下向きに突出する周壁50を備えたバーリング孔51とし、このバーリング孔51の周壁50を湾曲部49と重なる位置に形成したため、バーリング孔51の周壁50で剛性を向上させ、さらに、ロアメンバ部材13の底面部47から上方に延びる縦壁部48がパワーユニット5の振動によって口開き変形し難い構造にできる。
【0019】
また、従来は、下側クッションゴム25の挿入用の開口部45が単なる切欠孔であったため、製造上、図1に一点鎖線で示すように、開口部45を湾曲部49と重なる位置には形成できない。このため、直線部109が必要なため、必然的にマウントメンバ4の幅が長くなっていた。つまり、マウントメンバ4の幅が車両前後方向X(一点鎖線の矢印で示す)に長くなるという不具合があった。
しかしながら、この実施例においては、湾曲部49と重なる位置にバーリング加工を行うことで、直線部109が不要となり、マウントメンバ4の幅が抑えられるため、マウントメンバ4のコンパクト化且つ軽量化が可能である。更に、開口部45におけるバーリング加工は、周壁50を形成していることにより、マウントメンバ4の剛性の向上にも寄与する。
この結果、ロアメンバ部材13によってアッパメンバ部材12の振動を抑制でき、マウントメンバ4を介してパワーユニット5から車体1に伝わる振動を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
この発明に係る支持装置を、各種の支持構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 車体
2 左サイドフレーム
3 右サイドフレーム
4 マウントメンバ
5 パワーユニット
6 縦置エンジン
7 トランスミッション
8 マウント部
11 後側マウント部
12 アッパメンバ部材
13 ロアメンバ部材
19〜22 取付孔
23 支持装置
25 下側クッションゴム
26 上側クッションゴム
37 スペーサ
38 ワッシャ
40 径方向外周部
42 ボルト
45 開口部
46 挿入口
47 底面部
48 縦壁部
49 湾曲部
50 周壁
51 バーリング孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパメンバ部材とロアメンバ部材とを接合してなる中空状であってパワーユニットを支持するマウントメンバを車体に取り付け、前記アッパメンバ部材の長手方向両側部に前記車体への取付孔を形成し、この取付孔と連通する連通孔を有するとともに前記取付孔を貫通して互いに連結される一対のクッションゴムを前記アッパメンバ部材の上下両側に配置し、前記クッションゴムの内部に前記取付孔を貫通して上下方向に延びるスペーサを挿入し、このスペーサの上端部を前記車体に当接させるとともに前記クッションゴムの下端に当接するワッシャを前記スペーサの下端に当接させ、前記スペーサの内部を貫通するボルトによって前記ワッシャを前記車体の下部に固定し、前記ロアメンバ部材には前記ボルト及び前記ワッシャを組み付けるための開口部を形成したパワーユニットの支持装置において、前記ロアメンバ部材は底面部から上方へ湾曲して上端が前記アッパメンバ部材に接合される縦壁部を前記クッションゴムの外周側に備え、前記縦壁部の上方へ湾曲する湾曲部を前記ワッシャの径方向外周部に近接した位置に配置し、前記開口部を該開口部の周辺に車両下向きに突出する周壁を備えたバーリング孔とし、このバーリング孔の周壁を前記湾曲部と重なる位置に形成したことを特徴とするパワーユニットの支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−269645(P2010−269645A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121665(P2009−121665)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】