パワーリード及び該パワーリードを備えた送電システム
【課題】超電導饋電線及びトロリー線(架線)間を接続するパワーリードにおいて、超電導饋電線への熱侵入の軽減と、通電時に発生するジュール熱の抑制との両立を図る。
【解決手段】パワーリード(20)は、寒剤(26)で冷却された超電導饋電線(50)及びトロリー線(架線)(80)間を接続する。内空部(21)を有する導体部(22)と、先端にスリット部(25)が設けられた棒状部材(23)と、内空部を超電導饋電線側から塞ぎ、且つ、棒状部材を長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材(24)とを備える。棒状部材は、導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されている。
【解決手段】パワーリード(20)は、寒剤(26)で冷却された超電導饋電線(50)及びトロリー線(架線)(80)間を接続する。内空部(21)を有する導体部(22)と、先端にスリット部(25)が設けられた棒状部材(23)と、内空部を超電導饋電線側から塞ぎ、且つ、棒状部材を長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材(24)とを備える。棒状部材は、導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリード、並びに該パワーリードを備えた送電システムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車のように大容量電力を動力源として用いる移動体に電力を供給する送電システムとして、大容量電力が印加されている饋電線からトロリー線(架線)に電力を給電するものが知られている。このような送電システムでは、近年、送電効率を向上させるために、電気抵抗値が略ゼロである超電導体からなる超電導饋電線を採用する試みがなされている。超電導饋電線の材料としては例えば酸化物高温超電導線を用いることができ、液体窒素等の寒剤によって冷却することによって、電気抵抗値が略ゼロである超電導状態を実現し、高効率な送電が実現される。
【0003】
超電導饋電線からトロリー線(架線)への給電は、超電導饋電線及びトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリードを介して行われる。パワーリードは、低温状態にある超電導饋電線と高温(典型的には常温)状態にあるトロリー線(架線)とを連結するため、トロリー線(架線)側からパワーリードを介して超電導饋電線に対して熱侵入が生じることが問題となる。また、パワーリードは主として電気抵抗値の低い金属(典型的には、高純度の銅)からなる導体部から形成されているが、導体部の有する有限の電気抵抗値によって、通電時に流れる電流値に応じてジュール熱が発生する。ここで、ジュール熱を軽減すべく導体部の断面積を増加させると、トロリー線(架線)側から超電導饋電線への熱侵入が増加してしまう。一方、熱侵入を軽減すべく導体部の断面積を減少させると、逆に通電時に生じるジュール熱が増加してしまう。このようにパワーリードの導体部は、超電導饋電線への熱侵入の抑制と、通電時に生じるジュール熱の抑制とを両立可能なように、バランスよく設計する必要がある。典型的には、導体部は次式
を満足するように設計するとよいことが知られている。尚、(1)式において、κは導体部の熱伝導度、σは導体部の電気抵抗率、Iは導体部を流れる電流値、L及びAは導体部の長さ及び断面積、ΔTは導体部の両端における温度差である。
【0004】
パワーリードの導体部に印加される電流値が比較的小さい場合、導体部を上記(1)式に従って設計することによって、超電導饋電線への熱侵入の抑制と通電時に発生するジュール熱の抑制とをある程度両立できる可能性はある。しかしながら、電気車の送電システムなどの大容量な送電システムにおいては、大電流を印加できるように導体部の断面積を大きく設定することが前提となるため、このような場合にも熱侵入を効果的に抑制できるよう、更なる改善が要請されているのが現状である。このような要請に対し、例えば非特許文献1では、パワーリードにおける熱侵入経路である導体部に熱電素子の一種であるペルチェ素子を組み込むことによって、通電時に熱電素子の両端に温度差を発生させ、熱侵入を軽減する技術が開示されている。また非特許文献2には、導体部の内部に空洞を設け、当該空洞に寒剤を導入することにより、導体部を内側から冷却することによって、超電導饋電線への熱侵入及び通電時に発生するジュール熱を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第79回 2008年度秋季低温工学・超電導学会 予稿98頁「直流超伝導送電ケーブル試験装置におけるペルチェ電流リードの特性と動作試験」藤井友宏等
【非特許文献2】低温工学 Vol.8 No.2(1973)「極低温装置の電流リード(パワーリード)」尾形久直
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に係るパワーリードでは、熱電素子の両端に十分な温度差を生じさせるために、ペルチェ素子内の電圧降下を補償するために電源電圧を上昇するか、もしくは別途電源系を設けて熱電素子に電圧を供給する必要があるので、当該によって消費される電力量を鑑みると、送電システムの全体的な送電効率が低下してしまうという技術的問題点がある。
【0007】
また、非特許文献2に係る技術では、導体部の内部に恒常的に寒剤を導入する必要があるため、寒剤が大量に消費され、運用コストが増大しまうという技術的問題点がある。特に、上述の超電導饋電線からトロリー線(架線)に電力を給電する送電システムの例では、給電先の電気車が時々刻々と移動するため、超電導饋電線とトロリー線(架線)との間には一定間隔毎にパワーリードを設ける必要がある(即ち、送電システム全体で見ると多数のパワーリードが配置されている)が、個々のパワーリードに着目すると、近傍を電気車が通過するタイミングに間欠的に電流が流れるにすぎないため、このようにパワーリードに対して恒常的に寒剤を導入することは大変不効率である。
【0008】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリードにおいて、トロリー線(架線)側からの超電導饋電線への熱侵入を軽減すると共に、大容量の電流が間欠的に印加された際に発生するジュール熱を効果的に抑制することが可能なパワーリード、及び該パワーリードを備えた送電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパワーリードは上記課題を解決するために、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリードにおいて、内部に長さ方向に沿って延在する内空部が形成された円筒形状を有し、一端が前記超電導饋電線に電気的に接続され、且つ、他端が前記トロリー線(架線)に電気的に接続された導体部と、前記内空部に前記長さ方向に沿って延在するように棒状に形成され、前記超電導饋電線側の先端にスリット部が設けられた棒状部材と、前記内空部を前記超電導饋電線側から塞ぎ、且つ、前記棒状部材を前記長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材とを備え、前記棒状部材は、前記導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るパワーリードによれば、棒状部材は、導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されているので、温度変化に従って導体部に対する棒状部材の位置が相対的に変化することによって、内空部にスリット部を介して寒剤を導入し、導体部を内側から冷却することができる。
【0011】
このような寒剤の導入は、上述した熱電素子を組み込む場合のように熱電素子による電圧降下を補償するために電源電圧を上昇させる、あるいは別途外部電源等を設けることなく、専ら導体部及び棒状部材の熱変形によって自動的に行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、導体部に間欠的に流れる電流による発熱に基づいて寒剤が内空部に導入されるため、常に寒剤を導入する場合に比べて、寒剤の消費量を効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明のパワーリードの一の態様では、前記棒状部材は、前記導体部の温度が所定の閾値以下である場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記超電導饋電線側に露出することによって前記内空部を前記寒剤から隔離し、前記導体部の温度が前記所定の閾値より大きい場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記トロリー線(架線)側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記内空部に前記寒剤を導入するように、熱変形することを特徴とする。
【0013】
この態様によれば、導体部の温度が所定の閾値以下である場合、導体部の内側に形成された内空部は寒剤から隔離されている。一方、導体部の温度が所定の閾値より大きくなると、棒状部材はスリット部がシール部材より内空部側に露出するように熱変形することにより、露出したスリット部を介して、内空部に寒剤が導入される。
【0014】
この場合、前記導体部には、前記導入された寒剤の気化ガスを排出するための排出口が設けられているとよい。このように排出口を設けることにより、内空部に導入された寒剤が蒸発することによって発生した気化ガスを外部に排出することができる。その結果、スリット部から導入された寒剤を気化させることによって導体部を内側から冷却し、冷却に使用された気化ガスを内空部に滞留させることなく外部に排出するという一連の冷却プロセスを構築することができる。
【0015】
本発明のパワーリードの他の態様では、前記導体部及び前記棒状部材は、前記トロリー線(架線)側の先端が前記トロリー線(架線)に電気的に接続された固定部材に固定されていることを特徴とする。この場合、前記固定部材は前記導体部の熱変形に伴う機械的歪みを吸収可能な弾性材料からなるとよい。
【0016】
パワーリードの導体部は典型的にはソリッドな導電性材料から形成されるが、当該導体部は温度変化に伴って熱変形するため、当該導体部と連結された周囲の部材との間で大きな機械的歪みが生じる場合がある。特に、超電導饋電線は低温状態を保持するために周囲に真空層が形成されている場合が多く、このような場合に真空層を形成する部材との間に大きな機械的歪みが加えられると、真空層の真空度が低下し、超電導饋電線の冷却に悪影響を与えるなど重大な不具合につながるおそれがある。この態様では、導体部及び棒状部材が固定される固定部材を弾性的に形成することによって、熱変形の際に生じる機械的歪みを吸収軽減することができ、このようなおそれを効果的に排除することができる。
【0017】
本発明のパワーリードの他の態様では、前記導体部は銅からなり、前記棒状部材はステンレス、タンタル、鉄或いは炭素等からなる前記導体部に比べて線熱膨張率の小さい棒材であることを特徴とする。特に以下の実施例で詳述するように、導体部の材料として例えば、純度が99.999%以上で熱膨張係数が16.8×10−6/℃の銅を選択し、棒状部材の材料として例えば、SUS410、タンタル、鉄或いは炭素などを選択するとよい。尚、SUS410を選択した場合、熱膨張係数は10.4×10−6/℃である。
【0018】
本発明の送電システムは上記課題を解決するために、前記超電導饋電線から前記トロリー線(架線)に電力を供給するための送電システムであって、前記超電導饋電線及び前記トロリー線(架線)間は、上述のパワーリード(各態様を含む)を介して電気的に接続されていることを特徴とする。これにより、トロリー線(架線)側からの超電導饋電線への熱侵入を軽減すると共に、大容量の電流が断続的に印加された際に発生するジュール熱を効果的に抑制可能な送電システムを実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るパワーリードによれば、棒状部材は、導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されているので、パワーリードが発熱した際に導体部に対する棒状部材の位置が相対的に変化することによって、内空部にスリット部を介して寒剤を導入し、導体部を内側から冷却することができる。このような寒剤の導入は、熱電素子を組み込む場合のように外部電源等を設けることなく、専ら導体部及び棒状部材の熱変形によって自動的に行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、導体部に間欠的に流れる電流による発熱に基づいて寒剤が内空部に導入されるため、常に寒剤を導入する場合に比べて、寒剤の消費量を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施例に係る送電システムの全体構成を模式的に示す模式図である。
【図2】本実施例に係る送電システムに用いられているパワーリードの断面構造を示す断面図である。
【図3】本実施例に係る送電システムに用いられるパワーリードの断面構造の他の例を示す拡大断面図である。
【図4】本実施例に係るパワーリードの非発熱時におけるスリット部付近の構造を拡大して示す断面図である。
【図5】本実施例に係るパワーリードの発熱時におけるスリット部付近の構造を拡大して示す断面図である。
【図6】比較例に係るパワーリードの断面構造を示す断面図である。
【図7】比較例に係るパワーリードにおいて、非通電時における超電導饋電線への熱侵入量の導線の半径依存性を示すグラフ図である。
【図8】比較例に係るパワーリードにI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、超電導饋電線への熱侵入量の導線の半径依存性を示すグラフ図である。
【図9】比較例に係るパワーリードにI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、導線における長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。
【図10】本実施例に係るパワーリードにおいて、I=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の導体部の長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。
【図11】本実施例に係るパワーリードにおいて、一時的に通電を行った場合の導体への熱侵入量及び内空部への寒剤導入量の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0022】
図1は、本実施例に係る送電システム1の全体構成を模式的に示す模式図である。送電システム1は、寒剤で冷却された超電導饋電線50、該超電導饋電線50の給電先であるトロリー線(架線)80、並びに超電導饋電線50及びトロリー線(架線)80間を電気的に接続するパワーリード20を備えてなる。パワーリード20は、一定間隔毎に超電導饋電線50とトロリー線(架線)80との間を電気的に接続するように設けられており、超電導饋電線50からパワーリード20を介してトロリー線(架線)80に給電された電力は、電気車10上部に設置されたパンダグラフ11を介して電気車10に供給される。
【0023】
超電導饋電線50は、例えば超電導体の一種である酸化物高温超電導線からなり、寒剤である液体窒素(典型的には77〜65K)に浸されることにより冷却され、超電導状態が維持されている。超電導饋電線50にはDC1500Aの電流が印加されており、大容量電力を送電している。
【0024】
トロリー線(架線)80は、パワーリード20を介して超電導饋電線50に電気的に接続されている。トロリー線(架線)80には、走行中の電気車10上部に取り付けられたパンダグラフ11が接触している。トロリー線(架線)80のうちパンダグラフ11が接触する箇所は、電気車10の走行位置に応じて時々刻々と変化し、当該接触する箇所の近傍に位置するパワーリード20を介して、超電導饋電線50からトロリー線(架線)80そして電気車10のルートで電力が供給される。電気車10が特定の位置にある場合、複数存在するパワーリード20のうち、電気車10上部に取り付けられたパンダグラフ11が接触する箇所の近傍に位置する特定のパワーリード20についてのみ大容量の電流が流れ、当該近傍に位置するパワーリード20以外のパワーリード20には電流はトロリー線(架線)の電気抵抗のため殆ど流れない。つまり、個々のパワーリード20に着目すると、それぞれ近傍を電気車10が通過するタイミングで間欠的に電流が流れる。
【0025】
次に図2を参照して、本実施例に係る送電システム1に用いられているパワーリード20の内部構造について詳細に説明する。図2は、本実施例に係る送電システム1に用いられているパワーリード20の断面構造を示す断面図である。
【0026】
パワーリード20は、内部に長さ方向に沿って延在する内空部21が形成された円筒形状を有し、一端が超電導饋電線50に電気的に接続され、且つ、他端がトロリー線(架線)80に電気的に接続された導体部22と、内空部21に長さ方向に沿って延在するように棒状に形成され、超電導饋電線50側の先端にスリット部が設けられた棒状部材23と、内空部21を超電導饋電線50側から塞ぎ、且つ、棒状部材23を長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材24とを備える。
【0027】
導体部22が連結されている外装壁40の内側空間41は、図不示の真空ポンプによって減圧されることによって真空状態になっており、外装壁40の内側に配置された超電導饋電線50への外部からの熱侵入を断熱により抑制している。また、超電導饋電線50の内側もまた空洞状になっており(即ち、超電導饋電線50は内部に空洞を有するように円筒形状を有しており)、当該空洞に圧入された寒剤26によって、超電導饋電線50が冷却されている。超電導饋電線50は、このような冷却断熱構造によって低温状態に置かれることで超電導状態が維持されている。
【0028】
導体部22は、超電導饋電線50からトロリー線(架線)80に給電される際に電流が流れる部分であり、純度が99.999%、熱膨張係数が16.8×10−6/℃であるOFCu(Oxygen Free Copper)から形成されている。棒状部材23は、導体部22に比べて線熱膨張率の小さい材料である、SUS410、タンタル、鉄或いは炭素などから形成されている。尚、SUS410から形成した場合、熱膨張係数は10.4×10−6/℃である。シール部材24は、安定性、耐熱性及び耐薬品性に優れたフッ素樹脂(商品名:テフロン(登録商標))から形成されている。
【0029】
導体部22及び棒状部材23のトロリー線(架線)80側の端部は、固定部材27に固定されている。固定部材27は導電性材料から形成されており、超電導饋電線50から導体部22を介して供給される電力をトロリー線(架線)80側に伝達する。本実施例では特に、固定部材27は通電時に生じる発熱による導体部22の熱変形に起因する機械的歪みを吸収可能な弾性材料からなる。導体部22はソリッドな導電性材料から形成されているため、温度変化に伴い導体部22全体が熱変形により周囲の連結された部材(例えば外装壁40)との間で大きな機械的歪みが生じる。外装壁40は、上述したように超電導饋電線50の低温状態を保持するための真空層(即ち内部空間41)を形成しているので、導体部22と外装壁40との間に大きな機械的歪みが加えられると、内部空間41の真空度が低下し、超電導饋電線50の冷却状態が悪化してしまうおそれがある。そこで、本実施例では、固定部材27を弾性を有する高純度の銅からなるより線で形成することによって、熱変形の際に生じる機械的歪みを吸収軽減している。尚、固定部材27は導電部材28に連結されており、導電部材28は図2において不示のトロリー線(架線)に電気的に連結されている。
【0030】
尚、導体部22及び棒状部材23等が熱変形した際に生じる歪みを軽減する他の構成例として、図3に示すように、導体部22及び棒状部材23のトロリー線(架線)80側の端部を導電部材28に直接連結し、その周囲にベローズ状の外壁29を設けてもよい。この場合、導体部22及び棒状部材23等が熱変形した際に生じる歪みは、ベローズ状の外壁29が有する弾性によって吸収される。尚、図3に示す例では、図2に示す例と共通する箇所には、同一の符号を付すこととし、詳細な説明は省略するものとする。
【0031】
次に、図4及び図5を参照して、非発熱時及び発熱時におけるパワーリードの構造の変化について説明する。図4及び図5は、それぞれ非発熱時及び発熱時におけるスリット部25付近の構造を拡大して示す断面図である。
【0032】
棒状部材23の先端には、スリット部25が設けられており、図4に示す非発熱時(即ち、導体部22の温度が所定の閾値以下である場合)には、スリット部25は寒剤26に浸されている。このとき、スリット部25は、シール部材24から内空部21側に露出しておらず、シール材24は内空部21を寒剤26から隔離しており、内空部21に寒剤26は導入されない。
【0033】
上述のように、導体部22は電気抵抗値の小さいOFCuから形成されているが、有限の電気抵抗値を有するため、導体部22に電流が流れるとジュール熱が発生し、発熱が起こる。棒状部材23は、導体部22に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されているため、発熱時には図5に示すように、棒状部材23は導体部22に対して相対的に押し下げられるように熱変形する。そして、パワーリード20の温度が所定の閾値より大きくなるタイミングで、棒状部材23の超電導饋電線50側の先端に設けられたスリット部25がシール部材24から内空部21側に露出する。
【0034】
上述したように、超電導饋電線50の内側にある寒剤26は圧入されているため、スリット部25が内空部21側に露出すると、寒剤26と内空部21との間の差圧に基づいて、寒剤26が内空部21内に導入される。その結果、寒剤が内空部21に導入され、内空部21に面した部材(例えば、導体部22の内壁)が寒剤によって冷却される。尚、図5では、内空部21に導入された寒剤を符号26´で示してある。
【0035】
尚、図2に示すように、導体部22には排出口45が設けられており、内空部21に導入された寒剤26が気化して発生したガス(以下、適宜「気化ガス」と称する)は、当該排出口45から外部に排出されるように構成されている。本実施例では特に、排出口45には、気化ガスを排出するためのバルブ46を設けている。
【0036】
このように寒剤26が内空部21に導入されると、やがて導体部22の温度は低下に転じる。すると、棒状部材23は導体部22に対して相対的に押し上げられるように変形する。その結果、内空部21に露出していたスリット部25は無くなり、内空部21への寒剤26の導入もまた停止する。
【0037】
このように、温度変化に伴い、導体部22に対する棒状部材21の位置が相対的に変化することによって、寒剤26の内空部21への導入が制御される。このような寒剤26の導入は、別途電源や制御装置等を設けることなく、専ら導体部22の温度変化に伴う熱変形によって自動的に行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、このような寒剤26の導入は導体部22の温度変化に応じて間欠的に行われるため、無駄に寒剤26を消費することがなく、寒剤26の消費量を効果的に抑制することができる。
【0038】
尚、導体部22及び棒状部材23の長さは、上述のような寒剤26の内空部21への導入動作が実現可能なように、例えば、導体部22の温度が所定の閾値より大きくなるタイミングで、スリット部25がシール部材24から内空部21側に露出するように設定するとよい。本実施例では特に、導体部22の長さをL=200(cm)に設定し、発熱によって導体部22の温度が100(℃)に達した場合に、棒状部材23が導体部22に対して相対的に1.28(mm)だけ移動するように構成している。
【0039】
続いて上述したパワーリード20の特性について、比較例と比較しつつ説明する。ここで、比較例として導体部22の代わりに、所定の半径を有する導線22´(即ち、導体部22の内部に設けられた内空部21を有さない単純な導線)を有するパワーリード20´を想定することとする。尚、比較例の詳細な構造は図6に示すこととし、本実施例に係るパワーリード20と共通する部分については同一の符号を付すことにより、詳細な説明は省略することとする。尚、比較例に係るパワーリード20´の導線22´の長さは、本実施例に係るパワーリード20の導体部22と同様に200(cm)である。
【0040】
図7は比較例に係るパワーリード20´において、非通電時(即ち、非発熱時)における超電導饋電線50への熱侵入量Qinの導線22´の半径R依存性を示すグラフ図である。横軸は導線22´の半径R(cm)であり、縦軸は熱侵入量Qin(W)である。図7に示すように、非通電時における熱侵入量Qinは導線22´の半径Rに比例して増加する。例えば、導線22´の半径がR=1.0(cm)の場合は熱侵入量がQin=42(W)であり、導線22´の半径がR=1.3(cm)の場合は熱侵入量がQin=73(W)である。
【0041】
次に図8は比較例に係るパワーリード20´にI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、超電導饋電線50への熱侵入量Qinの導線22´の半径R依存性を示すグラフ図である。横軸は導線22´の半径R(cm)であり、縦軸は熱侵入量Qin(W)である。この結果によると、導線22´の半径をR=1.0(cm)とした場合、熱侵入量はQin=約1100(W)と非常に大きな値になることが示されている。
【0042】
続いて図9は、比較例に係るパワーリード20´にI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、導線22´における長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。横軸は導導線22´の超電導饋電線50との連結部を基準とするパワーリード20´の長さz(cm)であり、縦軸は横軸に対応する長さzにおける導線22´の温度(K)である。図9によれば、導線22´の半径Rが小さくなると、例えば半径R=1.0(cm)の導線22´を採用したパワーリード20´では、最高温度が1700(K)以上に達することが示されている。ここで導線22´の材料である銅の融点が1358(K)であることを考慮すると、比較例に係るパワーリード20´では実用化は困難である。
【0043】
上述の結果によれば、仮に、比較例に係るパワーリード20´において定格電流をI=2500(A)に設定するためには、導体部22の半径をR=1.30(cm)に大きく設定し、導線22´の最高温度が550(K)以下になるように冷却する必要がある。
【0044】
ここで、導線22´の半径をR=1.30(cm)にした場合の非通電時の熱侵入量Qinは図7より73(W)であり、I=2500Aの電流の通電時の熱侵入量Qinは図8よりQin=350(W)であることがわかる。比較例に係るパワーリード20´を、本実施例のように超電導饋電線50とトロリー線(架線)80間の電気的接続に用いる場合、仮に超電導饋電線50の長さが10kmであり、200m毎にパワーリード20´を設置すると仮定すると、パワーリード20´は計50本必要になる。このように超電導饋電線50及びパワーリード20´が設置されている区間を、5つの列車が走行すると想定すると、超電導饋電線50への熱侵入量Qinは次式
45本(非通電状態にあるパワーリード)×73(W)+5本(通電状態にあるパワーリード)×350(W)≒5.0(kW) ・・・(2)
により、算出される。この仮定では、(2)に示すように、熱侵入量Qinが5.0(kW)もの値に達するため、比較例に係るパワーリード20´では冷却を十分することができず実用化することは困難である。
【0045】
図10は、本実施例に係るパワーリード20において、I=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の導体部22の長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。横軸は導体部22の超電導饋電線50との連結部を基準とするパワーリード20の長さz(cm)であり、縦軸は横軸に対応する長さzにおける導体部22の温度(K)である。上述の比較例では、導線22´の半径をR=1.15(cm)とした場合、図9に示すように最高温度が900(K)まで上昇しているのに対し、本実施例に係るパワーリード20では、図10に示すように、導体部22の半径をR=1.15(cm)とすると、最高温度を700(K)程度に抑制することができる。
【0046】
続いて図11は、本実施例に係るパワーリード20において、所定の期間において一時的に通電を行った場合の(a)導体部22への熱侵入量Qin及び(b)スリット部25を介して内空部21に導入された寒剤26の量(以下、適宜「寒剤導入量」と称する)の経時変化を示すグラフ図である。図11の例においてパワーリード20に電流が印加されている所定の期間は、時刻t1=600秒からt2=1200秒までの間であり、印加されている電流値は2500Aである。尚、図11において導体部22の半径はR=1.15(cm)である。
【0047】
まず非通電時(t<t1)では、棒状部材23の先端に設けられたスリット部25はシール部材24から内空部21側に露出していないため、内空部21に寒剤26は導入されない(即ち、寒剤導入量はゼロである)。時刻t1に達すると、2500Aの電流がパワーリード20に流れ、導体部22の温度が上昇する。導体部22の温度上昇に伴い、スリット部25が内空部21に露出し始め、寒剤26の内空部21への導入が開始する。そして、内空部21に導入された寒剤導入量の総量が十分大きくなると、通電による発熱量に比べて内空部21に導入された寒剤26による冷却量が勝り、熱侵入量Qinは減少に転じる。
【0048】
熱侵入量Qinが減少に転じると、やがて導体部22の温度も減少に転じる。これに伴い、シール部材24から内空部21側へのスリット部25の露出度もまた減少し、寒剤導入量は次第に減少していく。そして、時刻t2に達すると通電が終了する。t2<tでは、熱侵入量Qinは当初(即ち時刻t1以前)の熱侵入量Qinに向かって収束するように振る舞う。尚、時刻t2以降においても、スリット部25の露出した部分が残っているため、寒剤導入量はすぐにはゼロに戻らず、導体部22の温度が十分に冷却されて、スリット部25が図4に示す位置に完全に戻るまでの間(つまり、時刻txまでの間)、寒剤26は内空部21に導入され続ける。そして、時刻txに達するタイミングで、スリット25の露出した部分は消滅し、寒剤導入量はゼロに達する。図11の例では、寒剤26の内空部21への最大流量はm=720(mg/sec)=0.72(g/sec)であり、熱侵入量Qinは最大で100(W)程度であった。これは、比較例(350(W))に比べて熱侵入量が1/3以下に抑制されており、極めて良好な冷却効果が得られていることを示している。
【0049】
この結果を前述の例(超電導饋電線50の長さが10kmであり、200m毎に計50本のパワーリード20が設置され、当該区間を5つの列車が走行すると仮定した場合)に当てはめて考える。まず、5本のパワーリード20が通電状態にあるので、パワーリードの冷却に用いられる寒剤導入量は最大で
0.72×5=3.6(g/sec) ・・・(3)
と、算出される。
【0050】
通常、10km級の超電導饋電線に冷却として用いられる液体窒素の流量は、超電導饋電線へのパワーリード以外の要素による熱侵入量を約1(W/m)、液体窒素の比熱をCp=2(J/g−K)、超電導饋電線の上流側端末温度を65(K)、超電導饋電線の下流側端末温度を75(K)と仮定して計算する。このモデリングに基づいて超電導饋電線50に接続された50本のパワーリード20のうち、非通電状態にある45本のパワーリード20から超電導饋電線50への熱侵入量は次式
53×45=2385(W) ・・・(4)
により算出される。一方、通電状態にある残り5本のパワーリード20から超電導饋電線50への熱侵入量は
100×5=500(W) ・・・(5)
により算出される。更に、パワーリード20以外の要素による超電導饋電線50への熱侵入量は
10(km)×1(W/m)=10000(W) ・・・(6)
により算出される。従って、本システムを冷却するために必要な寒剤26の総流量は(3)から(6)の計算結果を合計して、649(g/sec)と算出される。
【0051】
同様の条件下で、比較例に係るパワーリード20´を用いた場合、超電導饋電線50へのパワーリード20´以外の要素による熱侵入量が10(kW)、非通電状態にあるパワーリード20´からの熱侵入量が53×45=2385(W)、通電状態にあるパワーリード20´からの熱侵入量が5×350=1750(W)であることから、システム全体で必要な寒剤26の総流量は706(g/sec)となる。従って、比較例と比べると、システム全体で必要とされる寒剤量を約10%低減することができる。言い換えれば、寒剤26の量を一定に固定した場合、超電導饋電線50の冷却長を10%延ばすことができる。
【0052】
以上説明したように、本実施例に係るパワーリード20によれば、導体部22の温度に応じて、内空部21に寒剤26が導入され、パワーリード20の冷却が自動的に行われる。パワーリード20のこのような動作は、専ら導体部22及び棒状部材23の熱変形によって行われるため、エネルギー消費量を増加させることなく済む。また、導体部22に電流が流れた際に生じる発熱量に応じて寒剤26が導入されるため、寒剤26の消費量を効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリード、並びに当該パワーリードを備えた送電システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 超電導発電システム
20 パワーリード
21 内空部
22 導体部
23 棒状部材
24 シール部材
25 スリット部
26 寒剤
50 超電導饋電線
80 トロリー線(架線)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリード、並びに該パワーリードを備えた送電システムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車のように大容量電力を動力源として用いる移動体に電力を供給する送電システムとして、大容量電力が印加されている饋電線からトロリー線(架線)に電力を給電するものが知られている。このような送電システムでは、近年、送電効率を向上させるために、電気抵抗値が略ゼロである超電導体からなる超電導饋電線を採用する試みがなされている。超電導饋電線の材料としては例えば酸化物高温超電導線を用いることができ、液体窒素等の寒剤によって冷却することによって、電気抵抗値が略ゼロである超電導状態を実現し、高効率な送電が実現される。
【0003】
超電導饋電線からトロリー線(架線)への給電は、超電導饋電線及びトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリードを介して行われる。パワーリードは、低温状態にある超電導饋電線と高温(典型的には常温)状態にあるトロリー線(架線)とを連結するため、トロリー線(架線)側からパワーリードを介して超電導饋電線に対して熱侵入が生じることが問題となる。また、パワーリードは主として電気抵抗値の低い金属(典型的には、高純度の銅)からなる導体部から形成されているが、導体部の有する有限の電気抵抗値によって、通電時に流れる電流値に応じてジュール熱が発生する。ここで、ジュール熱を軽減すべく導体部の断面積を増加させると、トロリー線(架線)側から超電導饋電線への熱侵入が増加してしまう。一方、熱侵入を軽減すべく導体部の断面積を減少させると、逆に通電時に生じるジュール熱が増加してしまう。このようにパワーリードの導体部は、超電導饋電線への熱侵入の抑制と、通電時に生じるジュール熱の抑制とを両立可能なように、バランスよく設計する必要がある。典型的には、導体部は次式
を満足するように設計するとよいことが知られている。尚、(1)式において、κは導体部の熱伝導度、σは導体部の電気抵抗率、Iは導体部を流れる電流値、L及びAは導体部の長さ及び断面積、ΔTは導体部の両端における温度差である。
【0004】
パワーリードの導体部に印加される電流値が比較的小さい場合、導体部を上記(1)式に従って設計することによって、超電導饋電線への熱侵入の抑制と通電時に発生するジュール熱の抑制とをある程度両立できる可能性はある。しかしながら、電気車の送電システムなどの大容量な送電システムにおいては、大電流を印加できるように導体部の断面積を大きく設定することが前提となるため、このような場合にも熱侵入を効果的に抑制できるよう、更なる改善が要請されているのが現状である。このような要請に対し、例えば非特許文献1では、パワーリードにおける熱侵入経路である導体部に熱電素子の一種であるペルチェ素子を組み込むことによって、通電時に熱電素子の両端に温度差を発生させ、熱侵入を軽減する技術が開示されている。また非特許文献2には、導体部の内部に空洞を設け、当該空洞に寒剤を導入することにより、導体部を内側から冷却することによって、超電導饋電線への熱侵入及び通電時に発生するジュール熱を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第79回 2008年度秋季低温工学・超電導学会 予稿98頁「直流超伝導送電ケーブル試験装置におけるペルチェ電流リードの特性と動作試験」藤井友宏等
【非特許文献2】低温工学 Vol.8 No.2(1973)「極低温装置の電流リード(パワーリード)」尾形久直
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に係るパワーリードでは、熱電素子の両端に十分な温度差を生じさせるために、ペルチェ素子内の電圧降下を補償するために電源電圧を上昇するか、もしくは別途電源系を設けて熱電素子に電圧を供給する必要があるので、当該によって消費される電力量を鑑みると、送電システムの全体的な送電効率が低下してしまうという技術的問題点がある。
【0007】
また、非特許文献2に係る技術では、導体部の内部に恒常的に寒剤を導入する必要があるため、寒剤が大量に消費され、運用コストが増大しまうという技術的問題点がある。特に、上述の超電導饋電線からトロリー線(架線)に電力を給電する送電システムの例では、給電先の電気車が時々刻々と移動するため、超電導饋電線とトロリー線(架線)との間には一定間隔毎にパワーリードを設ける必要がある(即ち、送電システム全体で見ると多数のパワーリードが配置されている)が、個々のパワーリードに着目すると、近傍を電気車が通過するタイミングに間欠的に電流が流れるにすぎないため、このようにパワーリードに対して恒常的に寒剤を導入することは大変不効率である。
【0008】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリードにおいて、トロリー線(架線)側からの超電導饋電線への熱侵入を軽減すると共に、大容量の電流が間欠的に印加された際に発生するジュール熱を効果的に抑制することが可能なパワーリード、及び該パワーリードを備えた送電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパワーリードは上記課題を解決するために、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリードにおいて、内部に長さ方向に沿って延在する内空部が形成された円筒形状を有し、一端が前記超電導饋電線に電気的に接続され、且つ、他端が前記トロリー線(架線)に電気的に接続された導体部と、前記内空部に前記長さ方向に沿って延在するように棒状に形成され、前記超電導饋電線側の先端にスリット部が設けられた棒状部材と、前記内空部を前記超電導饋電線側から塞ぎ、且つ、前記棒状部材を前記長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材とを備え、前記棒状部材は、前記導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るパワーリードによれば、棒状部材は、導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されているので、温度変化に従って導体部に対する棒状部材の位置が相対的に変化することによって、内空部にスリット部を介して寒剤を導入し、導体部を内側から冷却することができる。
【0011】
このような寒剤の導入は、上述した熱電素子を組み込む場合のように熱電素子による電圧降下を補償するために電源電圧を上昇させる、あるいは別途外部電源等を設けることなく、専ら導体部及び棒状部材の熱変形によって自動的に行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、導体部に間欠的に流れる電流による発熱に基づいて寒剤が内空部に導入されるため、常に寒剤を導入する場合に比べて、寒剤の消費量を効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明のパワーリードの一の態様では、前記棒状部材は、前記導体部の温度が所定の閾値以下である場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記超電導饋電線側に露出することによって前記内空部を前記寒剤から隔離し、前記導体部の温度が前記所定の閾値より大きい場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記トロリー線(架線)側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記内空部に前記寒剤を導入するように、熱変形することを特徴とする。
【0013】
この態様によれば、導体部の温度が所定の閾値以下である場合、導体部の内側に形成された内空部は寒剤から隔離されている。一方、導体部の温度が所定の閾値より大きくなると、棒状部材はスリット部がシール部材より内空部側に露出するように熱変形することにより、露出したスリット部を介して、内空部に寒剤が導入される。
【0014】
この場合、前記導体部には、前記導入された寒剤の気化ガスを排出するための排出口が設けられているとよい。このように排出口を設けることにより、内空部に導入された寒剤が蒸発することによって発生した気化ガスを外部に排出することができる。その結果、スリット部から導入された寒剤を気化させることによって導体部を内側から冷却し、冷却に使用された気化ガスを内空部に滞留させることなく外部に排出するという一連の冷却プロセスを構築することができる。
【0015】
本発明のパワーリードの他の態様では、前記導体部及び前記棒状部材は、前記トロリー線(架線)側の先端が前記トロリー線(架線)に電気的に接続された固定部材に固定されていることを特徴とする。この場合、前記固定部材は前記導体部の熱変形に伴う機械的歪みを吸収可能な弾性材料からなるとよい。
【0016】
パワーリードの導体部は典型的にはソリッドな導電性材料から形成されるが、当該導体部は温度変化に伴って熱変形するため、当該導体部と連結された周囲の部材との間で大きな機械的歪みが生じる場合がある。特に、超電導饋電線は低温状態を保持するために周囲に真空層が形成されている場合が多く、このような場合に真空層を形成する部材との間に大きな機械的歪みが加えられると、真空層の真空度が低下し、超電導饋電線の冷却に悪影響を与えるなど重大な不具合につながるおそれがある。この態様では、導体部及び棒状部材が固定される固定部材を弾性的に形成することによって、熱変形の際に生じる機械的歪みを吸収軽減することができ、このようなおそれを効果的に排除することができる。
【0017】
本発明のパワーリードの他の態様では、前記導体部は銅からなり、前記棒状部材はステンレス、タンタル、鉄或いは炭素等からなる前記導体部に比べて線熱膨張率の小さい棒材であることを特徴とする。特に以下の実施例で詳述するように、導体部の材料として例えば、純度が99.999%以上で熱膨張係数が16.8×10−6/℃の銅を選択し、棒状部材の材料として例えば、SUS410、タンタル、鉄或いは炭素などを選択するとよい。尚、SUS410を選択した場合、熱膨張係数は10.4×10−6/℃である。
【0018】
本発明の送電システムは上記課題を解決するために、前記超電導饋電線から前記トロリー線(架線)に電力を供給するための送電システムであって、前記超電導饋電線及び前記トロリー線(架線)間は、上述のパワーリード(各態様を含む)を介して電気的に接続されていることを特徴とする。これにより、トロリー線(架線)側からの超電導饋電線への熱侵入を軽減すると共に、大容量の電流が断続的に印加された際に発生するジュール熱を効果的に抑制可能な送電システムを実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るパワーリードによれば、棒状部材は、導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されているので、パワーリードが発熱した際に導体部に対する棒状部材の位置が相対的に変化することによって、内空部にスリット部を介して寒剤を導入し、導体部を内側から冷却することができる。このような寒剤の導入は、熱電素子を組み込む場合のように外部電源等を設けることなく、専ら導体部及び棒状部材の熱変形によって自動的に行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、導体部に間欠的に流れる電流による発熱に基づいて寒剤が内空部に導入されるため、常に寒剤を導入する場合に比べて、寒剤の消費量を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施例に係る送電システムの全体構成を模式的に示す模式図である。
【図2】本実施例に係る送電システムに用いられているパワーリードの断面構造を示す断面図である。
【図3】本実施例に係る送電システムに用いられるパワーリードの断面構造の他の例を示す拡大断面図である。
【図4】本実施例に係るパワーリードの非発熱時におけるスリット部付近の構造を拡大して示す断面図である。
【図5】本実施例に係るパワーリードの発熱時におけるスリット部付近の構造を拡大して示す断面図である。
【図6】比較例に係るパワーリードの断面構造を示す断面図である。
【図7】比較例に係るパワーリードにおいて、非通電時における超電導饋電線への熱侵入量の導線の半径依存性を示すグラフ図である。
【図8】比較例に係るパワーリードにI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、超電導饋電線への熱侵入量の導線の半径依存性を示すグラフ図である。
【図9】比較例に係るパワーリードにI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、導線における長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。
【図10】本実施例に係るパワーリードにおいて、I=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の導体部の長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。
【図11】本実施例に係るパワーリードにおいて、一時的に通電を行った場合の導体への熱侵入量及び内空部への寒剤導入量の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0022】
図1は、本実施例に係る送電システム1の全体構成を模式的に示す模式図である。送電システム1は、寒剤で冷却された超電導饋電線50、該超電導饋電線50の給電先であるトロリー線(架線)80、並びに超電導饋電線50及びトロリー線(架線)80間を電気的に接続するパワーリード20を備えてなる。パワーリード20は、一定間隔毎に超電導饋電線50とトロリー線(架線)80との間を電気的に接続するように設けられており、超電導饋電線50からパワーリード20を介してトロリー線(架線)80に給電された電力は、電気車10上部に設置されたパンダグラフ11を介して電気車10に供給される。
【0023】
超電導饋電線50は、例えば超電導体の一種である酸化物高温超電導線からなり、寒剤である液体窒素(典型的には77〜65K)に浸されることにより冷却され、超電導状態が維持されている。超電導饋電線50にはDC1500Aの電流が印加されており、大容量電力を送電している。
【0024】
トロリー線(架線)80は、パワーリード20を介して超電導饋電線50に電気的に接続されている。トロリー線(架線)80には、走行中の電気車10上部に取り付けられたパンダグラフ11が接触している。トロリー線(架線)80のうちパンダグラフ11が接触する箇所は、電気車10の走行位置に応じて時々刻々と変化し、当該接触する箇所の近傍に位置するパワーリード20を介して、超電導饋電線50からトロリー線(架線)80そして電気車10のルートで電力が供給される。電気車10が特定の位置にある場合、複数存在するパワーリード20のうち、電気車10上部に取り付けられたパンダグラフ11が接触する箇所の近傍に位置する特定のパワーリード20についてのみ大容量の電流が流れ、当該近傍に位置するパワーリード20以外のパワーリード20には電流はトロリー線(架線)の電気抵抗のため殆ど流れない。つまり、個々のパワーリード20に着目すると、それぞれ近傍を電気車10が通過するタイミングで間欠的に電流が流れる。
【0025】
次に図2を参照して、本実施例に係る送電システム1に用いられているパワーリード20の内部構造について詳細に説明する。図2は、本実施例に係る送電システム1に用いられているパワーリード20の断面構造を示す断面図である。
【0026】
パワーリード20は、内部に長さ方向に沿って延在する内空部21が形成された円筒形状を有し、一端が超電導饋電線50に電気的に接続され、且つ、他端がトロリー線(架線)80に電気的に接続された導体部22と、内空部21に長さ方向に沿って延在するように棒状に形成され、超電導饋電線50側の先端にスリット部が設けられた棒状部材23と、内空部21を超電導饋電線50側から塞ぎ、且つ、棒状部材23を長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材24とを備える。
【0027】
導体部22が連結されている外装壁40の内側空間41は、図不示の真空ポンプによって減圧されることによって真空状態になっており、外装壁40の内側に配置された超電導饋電線50への外部からの熱侵入を断熱により抑制している。また、超電導饋電線50の内側もまた空洞状になっており(即ち、超電導饋電線50は内部に空洞を有するように円筒形状を有しており)、当該空洞に圧入された寒剤26によって、超電導饋電線50が冷却されている。超電導饋電線50は、このような冷却断熱構造によって低温状態に置かれることで超電導状態が維持されている。
【0028】
導体部22は、超電導饋電線50からトロリー線(架線)80に給電される際に電流が流れる部分であり、純度が99.999%、熱膨張係数が16.8×10−6/℃であるOFCu(Oxygen Free Copper)から形成されている。棒状部材23は、導体部22に比べて線熱膨張率の小さい材料である、SUS410、タンタル、鉄或いは炭素などから形成されている。尚、SUS410から形成した場合、熱膨張係数は10.4×10−6/℃である。シール部材24は、安定性、耐熱性及び耐薬品性に優れたフッ素樹脂(商品名:テフロン(登録商標))から形成されている。
【0029】
導体部22及び棒状部材23のトロリー線(架線)80側の端部は、固定部材27に固定されている。固定部材27は導電性材料から形成されており、超電導饋電線50から導体部22を介して供給される電力をトロリー線(架線)80側に伝達する。本実施例では特に、固定部材27は通電時に生じる発熱による導体部22の熱変形に起因する機械的歪みを吸収可能な弾性材料からなる。導体部22はソリッドな導電性材料から形成されているため、温度変化に伴い導体部22全体が熱変形により周囲の連結された部材(例えば外装壁40)との間で大きな機械的歪みが生じる。外装壁40は、上述したように超電導饋電線50の低温状態を保持するための真空層(即ち内部空間41)を形成しているので、導体部22と外装壁40との間に大きな機械的歪みが加えられると、内部空間41の真空度が低下し、超電導饋電線50の冷却状態が悪化してしまうおそれがある。そこで、本実施例では、固定部材27を弾性を有する高純度の銅からなるより線で形成することによって、熱変形の際に生じる機械的歪みを吸収軽減している。尚、固定部材27は導電部材28に連結されており、導電部材28は図2において不示のトロリー線(架線)に電気的に連結されている。
【0030】
尚、導体部22及び棒状部材23等が熱変形した際に生じる歪みを軽減する他の構成例として、図3に示すように、導体部22及び棒状部材23のトロリー線(架線)80側の端部を導電部材28に直接連結し、その周囲にベローズ状の外壁29を設けてもよい。この場合、導体部22及び棒状部材23等が熱変形した際に生じる歪みは、ベローズ状の外壁29が有する弾性によって吸収される。尚、図3に示す例では、図2に示す例と共通する箇所には、同一の符号を付すこととし、詳細な説明は省略するものとする。
【0031】
次に、図4及び図5を参照して、非発熱時及び発熱時におけるパワーリードの構造の変化について説明する。図4及び図5は、それぞれ非発熱時及び発熱時におけるスリット部25付近の構造を拡大して示す断面図である。
【0032】
棒状部材23の先端には、スリット部25が設けられており、図4に示す非発熱時(即ち、導体部22の温度が所定の閾値以下である場合)には、スリット部25は寒剤26に浸されている。このとき、スリット部25は、シール部材24から内空部21側に露出しておらず、シール材24は内空部21を寒剤26から隔離しており、内空部21に寒剤26は導入されない。
【0033】
上述のように、導体部22は電気抵抗値の小さいOFCuから形成されているが、有限の電気抵抗値を有するため、導体部22に電流が流れるとジュール熱が発生し、発熱が起こる。棒状部材23は、導体部22に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されているため、発熱時には図5に示すように、棒状部材23は導体部22に対して相対的に押し下げられるように熱変形する。そして、パワーリード20の温度が所定の閾値より大きくなるタイミングで、棒状部材23の超電導饋電線50側の先端に設けられたスリット部25がシール部材24から内空部21側に露出する。
【0034】
上述したように、超電導饋電線50の内側にある寒剤26は圧入されているため、スリット部25が内空部21側に露出すると、寒剤26と内空部21との間の差圧に基づいて、寒剤26が内空部21内に導入される。その結果、寒剤が内空部21に導入され、内空部21に面した部材(例えば、導体部22の内壁)が寒剤によって冷却される。尚、図5では、内空部21に導入された寒剤を符号26´で示してある。
【0035】
尚、図2に示すように、導体部22には排出口45が設けられており、内空部21に導入された寒剤26が気化して発生したガス(以下、適宜「気化ガス」と称する)は、当該排出口45から外部に排出されるように構成されている。本実施例では特に、排出口45には、気化ガスを排出するためのバルブ46を設けている。
【0036】
このように寒剤26が内空部21に導入されると、やがて導体部22の温度は低下に転じる。すると、棒状部材23は導体部22に対して相対的に押し上げられるように変形する。その結果、内空部21に露出していたスリット部25は無くなり、内空部21への寒剤26の導入もまた停止する。
【0037】
このように、温度変化に伴い、導体部22に対する棒状部材21の位置が相対的に変化することによって、寒剤26の内空部21への導入が制御される。このような寒剤26の導入は、別途電源や制御装置等を設けることなく、専ら導体部22の温度変化に伴う熱変形によって自動的に行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、このような寒剤26の導入は導体部22の温度変化に応じて間欠的に行われるため、無駄に寒剤26を消費することがなく、寒剤26の消費量を効果的に抑制することができる。
【0038】
尚、導体部22及び棒状部材23の長さは、上述のような寒剤26の内空部21への導入動作が実現可能なように、例えば、導体部22の温度が所定の閾値より大きくなるタイミングで、スリット部25がシール部材24から内空部21側に露出するように設定するとよい。本実施例では特に、導体部22の長さをL=200(cm)に設定し、発熱によって導体部22の温度が100(℃)に達した場合に、棒状部材23が導体部22に対して相対的に1.28(mm)だけ移動するように構成している。
【0039】
続いて上述したパワーリード20の特性について、比較例と比較しつつ説明する。ここで、比較例として導体部22の代わりに、所定の半径を有する導線22´(即ち、導体部22の内部に設けられた内空部21を有さない単純な導線)を有するパワーリード20´を想定することとする。尚、比較例の詳細な構造は図6に示すこととし、本実施例に係るパワーリード20と共通する部分については同一の符号を付すことにより、詳細な説明は省略することとする。尚、比較例に係るパワーリード20´の導線22´の長さは、本実施例に係るパワーリード20の導体部22と同様に200(cm)である。
【0040】
図7は比較例に係るパワーリード20´において、非通電時(即ち、非発熱時)における超電導饋電線50への熱侵入量Qinの導線22´の半径R依存性を示すグラフ図である。横軸は導線22´の半径R(cm)であり、縦軸は熱侵入量Qin(W)である。図7に示すように、非通電時における熱侵入量Qinは導線22´の半径Rに比例して増加する。例えば、導線22´の半径がR=1.0(cm)の場合は熱侵入量がQin=42(W)であり、導線22´の半径がR=1.3(cm)の場合は熱侵入量がQin=73(W)である。
【0041】
次に図8は比較例に係るパワーリード20´にI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、超電導饋電線50への熱侵入量Qinの導線22´の半径R依存性を示すグラフ図である。横軸は導線22´の半径R(cm)であり、縦軸は熱侵入量Qin(W)である。この結果によると、導線22´の半径をR=1.0(cm)とした場合、熱侵入量はQin=約1100(W)と非常に大きな値になることが示されている。
【0042】
続いて図9は、比較例に係るパワーリード20´にI=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の、導線22´における長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。横軸は導導線22´の超電導饋電線50との連結部を基準とするパワーリード20´の長さz(cm)であり、縦軸は横軸に対応する長さzにおける導線22´の温度(K)である。図9によれば、導線22´の半径Rが小さくなると、例えば半径R=1.0(cm)の導線22´を採用したパワーリード20´では、最高温度が1700(K)以上に達することが示されている。ここで導線22´の材料である銅の融点が1358(K)であることを考慮すると、比較例に係るパワーリード20´では実用化は困難である。
【0043】
上述の結果によれば、仮に、比較例に係るパワーリード20´において定格電流をI=2500(A)に設定するためには、導体部22の半径をR=1.30(cm)に大きく設定し、導線22´の最高温度が550(K)以下になるように冷却する必要がある。
【0044】
ここで、導線22´の半径をR=1.30(cm)にした場合の非通電時の熱侵入量Qinは図7より73(W)であり、I=2500Aの電流の通電時の熱侵入量Qinは図8よりQin=350(W)であることがわかる。比較例に係るパワーリード20´を、本実施例のように超電導饋電線50とトロリー線(架線)80間の電気的接続に用いる場合、仮に超電導饋電線50の長さが10kmであり、200m毎にパワーリード20´を設置すると仮定すると、パワーリード20´は計50本必要になる。このように超電導饋電線50及びパワーリード20´が設置されている区間を、5つの列車が走行すると想定すると、超電導饋電線50への熱侵入量Qinは次式
45本(非通電状態にあるパワーリード)×73(W)+5本(通電状態にあるパワーリード)×350(W)≒5.0(kW) ・・・(2)
により、算出される。この仮定では、(2)に示すように、熱侵入量Qinが5.0(kW)もの値に達するため、比較例に係るパワーリード20´では冷却を十分することができず実用化することは困難である。
【0045】
図10は、本実施例に係るパワーリード20において、I=2500(A)の電流を600秒間通電した場合の導体部22の長さ方向の温度分布を示すグラフ図である。横軸は導体部22の超電導饋電線50との連結部を基準とするパワーリード20の長さz(cm)であり、縦軸は横軸に対応する長さzにおける導体部22の温度(K)である。上述の比較例では、導線22´の半径をR=1.15(cm)とした場合、図9に示すように最高温度が900(K)まで上昇しているのに対し、本実施例に係るパワーリード20では、図10に示すように、導体部22の半径をR=1.15(cm)とすると、最高温度を700(K)程度に抑制することができる。
【0046】
続いて図11は、本実施例に係るパワーリード20において、所定の期間において一時的に通電を行った場合の(a)導体部22への熱侵入量Qin及び(b)スリット部25を介して内空部21に導入された寒剤26の量(以下、適宜「寒剤導入量」と称する)の経時変化を示すグラフ図である。図11の例においてパワーリード20に電流が印加されている所定の期間は、時刻t1=600秒からt2=1200秒までの間であり、印加されている電流値は2500Aである。尚、図11において導体部22の半径はR=1.15(cm)である。
【0047】
まず非通電時(t<t1)では、棒状部材23の先端に設けられたスリット部25はシール部材24から内空部21側に露出していないため、内空部21に寒剤26は導入されない(即ち、寒剤導入量はゼロである)。時刻t1に達すると、2500Aの電流がパワーリード20に流れ、導体部22の温度が上昇する。導体部22の温度上昇に伴い、スリット部25が内空部21に露出し始め、寒剤26の内空部21への導入が開始する。そして、内空部21に導入された寒剤導入量の総量が十分大きくなると、通電による発熱量に比べて内空部21に導入された寒剤26による冷却量が勝り、熱侵入量Qinは減少に転じる。
【0048】
熱侵入量Qinが減少に転じると、やがて導体部22の温度も減少に転じる。これに伴い、シール部材24から内空部21側へのスリット部25の露出度もまた減少し、寒剤導入量は次第に減少していく。そして、時刻t2に達すると通電が終了する。t2<tでは、熱侵入量Qinは当初(即ち時刻t1以前)の熱侵入量Qinに向かって収束するように振る舞う。尚、時刻t2以降においても、スリット部25の露出した部分が残っているため、寒剤導入量はすぐにはゼロに戻らず、導体部22の温度が十分に冷却されて、スリット部25が図4に示す位置に完全に戻るまでの間(つまり、時刻txまでの間)、寒剤26は内空部21に導入され続ける。そして、時刻txに達するタイミングで、スリット25の露出した部分は消滅し、寒剤導入量はゼロに達する。図11の例では、寒剤26の内空部21への最大流量はm=720(mg/sec)=0.72(g/sec)であり、熱侵入量Qinは最大で100(W)程度であった。これは、比較例(350(W))に比べて熱侵入量が1/3以下に抑制されており、極めて良好な冷却効果が得られていることを示している。
【0049】
この結果を前述の例(超電導饋電線50の長さが10kmであり、200m毎に計50本のパワーリード20が設置され、当該区間を5つの列車が走行すると仮定した場合)に当てはめて考える。まず、5本のパワーリード20が通電状態にあるので、パワーリードの冷却に用いられる寒剤導入量は最大で
0.72×5=3.6(g/sec) ・・・(3)
と、算出される。
【0050】
通常、10km級の超電導饋電線に冷却として用いられる液体窒素の流量は、超電導饋電線へのパワーリード以外の要素による熱侵入量を約1(W/m)、液体窒素の比熱をCp=2(J/g−K)、超電導饋電線の上流側端末温度を65(K)、超電導饋電線の下流側端末温度を75(K)と仮定して計算する。このモデリングに基づいて超電導饋電線50に接続された50本のパワーリード20のうち、非通電状態にある45本のパワーリード20から超電導饋電線50への熱侵入量は次式
53×45=2385(W) ・・・(4)
により算出される。一方、通電状態にある残り5本のパワーリード20から超電導饋電線50への熱侵入量は
100×5=500(W) ・・・(5)
により算出される。更に、パワーリード20以外の要素による超電導饋電線50への熱侵入量は
10(km)×1(W/m)=10000(W) ・・・(6)
により算出される。従って、本システムを冷却するために必要な寒剤26の総流量は(3)から(6)の計算結果を合計して、649(g/sec)と算出される。
【0051】
同様の条件下で、比較例に係るパワーリード20´を用いた場合、超電導饋電線50へのパワーリード20´以外の要素による熱侵入量が10(kW)、非通電状態にあるパワーリード20´からの熱侵入量が53×45=2385(W)、通電状態にあるパワーリード20´からの熱侵入量が5×350=1750(W)であることから、システム全体で必要な寒剤26の総流量は706(g/sec)となる。従って、比較例と比べると、システム全体で必要とされる寒剤量を約10%低減することができる。言い換えれば、寒剤26の量を一定に固定した場合、超電導饋電線50の冷却長を10%延ばすことができる。
【0052】
以上説明したように、本実施例に係るパワーリード20によれば、導体部22の温度に応じて、内空部21に寒剤26が導入され、パワーリード20の冷却が自動的に行われる。パワーリード20のこのような動作は、専ら導体部22及び棒状部材23の熱変形によって行われるため、エネルギー消費量を増加させることなく済む。また、導体部22に電流が流れた際に生じる発熱量に応じて寒剤26が導入されるため、寒剤26の消費量を効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば、寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線(架線)間を電気的に接続するパワーリード、並びに当該パワーリードを備えた送電システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 超電導発電システム
20 パワーリード
21 内空部
22 導体部
23 棒状部材
24 シール部材
25 スリット部
26 寒剤
50 超電導饋電線
80 トロリー線(架線)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線間を電気的に接続するパワーリードにおいて、
内部に長さ方向に沿って延在する内空部が形成された円筒形状を有し、一端が前記超電導饋電線に電気的に接続され、且つ、他端が前記トロリー線に電気的に接続された導体部と、
前記内空部に前記長さ方向に沿って延在するように棒状に形成され、前記超電導饋電線側の先端にスリット部が設けられた棒状部材と、
前記内空部を前記超電導饋電線側から塞ぎ、且つ、前記棒状部材を前記長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材と
を備え、
前記棒状部材は、前記導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されていることを特徴とするパワーリード。
【請求項2】
前記棒状部材は、前記導体部の温度が所定の閾値以下である場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記超電導饋電線側に露出することによって前記内空部を前記寒剤から隔離し、前記導体部の温度が前記所定の閾値より大きい場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記トロリー線側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記内空部に前記寒剤を導入するように、熱変形することを特徴とする請求項1に記載のパワーリード。
【請求項3】
前記導体部には、前記導入された寒剤の気化ガスを排出するための排出口が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパワーリード。
【請求項4】
前記導体部及び前記棒状部材は、前記トロリー線側の端部が前記トロリー線に電気的に接続された固定部材に固定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のパワーリード。
【請求項5】
前記固定部材は前記導体部の熱変形に伴う機械的歪みを吸収可能な弾性材料からなることを特徴とする請求項4に記載のパワーリード。
【請求項6】
前記導体部は銅からなり、前記棒状部材はステンレス、タンタル、鉄或いは炭素等からなる前記導体部に比べて線熱膨張率の小さい棒材であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項のパワーリード。
【請求項7】
前記超電導饋電線から前記トロリー線に電力を供給するための送電システムであって、
前記超電導饋電線及び前記トロリー線間は、前記請求項1から6のいずれか一項に記載のパワーリードを介して電気的に接続されていることを特徴とする送電システム。
【請求項1】
寒剤で冷却された超電導饋電線及び該超電導饋電線の給電先であるトロリー線間を電気的に接続するパワーリードにおいて、
内部に長さ方向に沿って延在する内空部が形成された円筒形状を有し、一端が前記超電導饋電線に電気的に接続され、且つ、他端が前記トロリー線に電気的に接続された導体部と、
前記内空部に前記長さ方向に沿って延在するように棒状に形成され、前記超電導饋電線側の先端にスリット部が設けられた棒状部材と、
前記内空部を前記超電導饋電線側から塞ぎ、且つ、前記棒状部材を前記長さ方向に沿って移動可能に周囲から保持するシール部材と
を備え、
前記棒状部材は、前記導体部に比べて線熱膨張率が小さい材料から形成されていることを特徴とするパワーリード。
【請求項2】
前記棒状部材は、前記導体部の温度が所定の閾値以下である場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記超電導饋電線側に露出することによって前記内空部を前記寒剤から隔離し、前記導体部の温度が前記所定の閾値より大きい場合に、前記スリット部が前記シール部材より前記トロリー線側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記内空部に前記寒剤を導入するように、熱変形することを特徴とする請求項1に記載のパワーリード。
【請求項3】
前記導体部には、前記導入された寒剤の気化ガスを排出するための排出口が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパワーリード。
【請求項4】
前記導体部及び前記棒状部材は、前記トロリー線側の端部が前記トロリー線に電気的に接続された固定部材に固定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のパワーリード。
【請求項5】
前記固定部材は前記導体部の熱変形に伴う機械的歪みを吸収可能な弾性材料からなることを特徴とする請求項4に記載のパワーリード。
【請求項6】
前記導体部は銅からなり、前記棒状部材はステンレス、タンタル、鉄或いは炭素等からなる前記導体部に比べて線熱膨張率の小さい棒材であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項のパワーリード。
【請求項7】
前記超電導饋電線から前記トロリー線に電力を供給するための送電システムであって、
前記超電導饋電線及び前記トロリー線間は、前記請求項1から6のいずれか一項に記載のパワーリードを介して電気的に接続されていることを特徴とする送電システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−76692(P2012−76692A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225869(P2010−225869)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 独立行政法人科学技術振興機構「次世代鉄道システムを創る超伝導技術イノベーション」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 独立行政法人科学技術振興機構「次世代鉄道システムを創る超伝導技術イノベーション」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】
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