説明

パンタグラフの接触力調整方法及びパンタグラフ

【課題】舟体(摺り板を含む)とトロリ線との間の接触力を適正な範囲内に収めることができるパンタグラフを提供する。
【解決手段】パンタグラフの舟体5は、一例として鈍頭型であり、前縁部の上下にそれぞれ設けられた可動式の凹凸手段(ラフネス)7A、7Bを備えている。トロリ線と摺り板6との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、下側のラフネス7Bを突出させて前記舟体の下面側の気圧を低下させる。一方、接触力が所定の下限値を下回った場合には、上側のラフネス7Aを突出させて前記舟体の上面側の気圧を低下させる。これにより揚力を調整することができ、舟体の接触力の調整が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中に架設されたトロリ線から鉄道車両に電気を供給するパンタグラフに関する。特には、舟体(摺り板を含む)とトロリ線との間の接触力を適正な範囲内に収めることができる、パンタグラフの接触力調整方法及びパンタグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
現状の電気鉄道においては、トロリ線から、車体屋根に搭載されたパンタグラフを介して車両に給電する方法が一般的である。このようなパンタグラフは、摺り板を介してトロリ線に押し当てられる舟体と、その舟体を昇降可能に支える支持機構等を備えている。
【0003】
トロリ線と舟体との間の接触力は、トロリ線の高さ変動や車両・パンタグラフの振動によって変動する。接触力が小さい場合、舟体がトロリ線から離れる「離線」が生じるおそれがある。離線が頻発すると、舟体とトロリ線との間にスパークが生じて摺り板の摩耗が進む。一方、接触力が大きい場合、トロリ線に過大な応力が生じ、トロリ線及びパンタグラフの損傷が生じやすくなる。こうしたことから、トロリ線と舟体との間の接触力は常に適正な範囲内に収まり、かつ、極力変動の小さい方がよい。
本出願人らは、舟体とトロリ線との間の接触力を適正な範囲内に収めるために特許文献1において、舟体に噴流噴出しを設けて舟体周りの流れ場を変化させる技術を提案している。
【特許文献1】特開2000−270403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、簡単な構成で舟体(摺り板を含む)とトロリ線との間の接触力を適正な範囲内に収めることができるように改良を加えた、パンタグラフの接触力調整方法及びパンタグラフを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のパンタグラフの接触力調整方法は、
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる鈍頭型の舟体を備えたパンタグラフの接触力調整方法であって、
前記舟体の前縁部の上下に、可動式の凹凸手段を設け、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の下面側の気圧を低下させ、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の気圧を低下させることを特徴とする。
【0006】
舟体が流線型の場合、これとは逆に、前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の流速を低下させ、前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の流速を低下させる。
【0007】
また、本発明のパンタグラフ(鈍頭型)は、
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる鈍頭型の舟体と、
前記舟体の前縁部の上下にそれぞれ設けられた可動式の凹凸手段と、を備え、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の下面側の気圧を低下させ、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の気圧を低下させることを特徴とする。
【0008】
本発明の他のパンタグラフ(流線型)は、
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる流線型の舟体と、
前記舟体の前縁部の上下にそれぞれ設けられた可動式の凹凸手段と、を備え、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の流速を低下させ、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の流速を低下させることを特徴とする。
【0009】
本発明のパンタグラフ及びその駆動方法によれば、トロリ線と舟体との接触力に応じ、凹凸手段を適宜駆動して舟体の上下で気圧差を生じさせることで、舟体に作用する揚力を増減させることができるので、接触力を適正な範囲内に収めることが可能となる。
【0010】
本発明のパンタグラフは、また、前記接触力を検出する検出手段をさらに備え、該検出手段の検出結果に応じて前記凹凸手段が動作されるものとすることができる。
【0011】
前記凹凸手段の一形態としては、前記舟体表面に取り付けられた、棒状、線状、帯状又はメッシュ状のラフネスとすることができる。
あるいは、前記舟体の表面に取り付けられた、厚み方向に屈曲可能な薄板と、該薄板を屈曲させる駆動源と、を有するものとしてもよい。この形態の場合、駆動源は、空圧式もしくは油圧式のアクチュエータ、又は、圧電素子を利用することができる。
【0012】
本発明の他のパンタグラフは、
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる舟体と、
前記舟体の前縁部の上下にそれぞれ設けられた可動式の凹凸手段と、
該凹凸手段を動作させる駆動機構と、
を備えるパンタグラフであって、
前記摺り板が、
前記舟体に弾性的に保持された、前記トロリ線との間の接触力に応じて前記舟体に対して上下移動するものであり、
前記駆動機構が、
前記摺り板と前記凹凸手段とを機械的に連結し、前記舟体に対する前記摺り板の上下移動に応じて前記凹凸手段を動作させるリンク機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上述したように、舟体(摺り板を含む)とトロリ線との間の接触力を適正な範囲内に収めることができる、パンタグラフの接触力調整方法及びパンタグラフを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
まず、図1を参照して、鈍頭型の舟体が流体中を移動する際の流れについて説明する。図1は、パンタグラフの舟体を模式的に示す縦断面図である。なお、図1の舟体は上下対称のものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、この舟体5の断面形状は鈍頭型である。「鈍頭型」には、断面が矩形をはじめとして円形又はそれに近い形状も含まれる。舟体5は、その下部側が図示しない支持機構によって支えられ、上部側がトロリ線(不図示)に向けて押し付けられる(「摺り板」については後述する)。
なお、舟体5の支持方式は特に限定されるものではなく、シングルアーム形、菱形、下枠交差形等のいずれであってもよい。
【0016】
図1のような鈍頭型の舟体5を流れの中に置いた場合、図1(A)に示すように、上面側及び下面側の流れ(物体表面の境界層)は、いずれも、舟体表面に沿うことなく舟体の前縁部付近(剥離点5a)で剥離する。剥離点5aよりも下流では、流れが剥離した領域Bが舟体5の上下及び後側をとり囲むように広がっている。この領域Bでは圧力低下が生じているが、その圧力低下量は、後述する、流れが舟体5に沿って増速した場合に比べれば小さい。
【0017】
図1(B)は、舟体5の上面前縁部にラフネス7を配置した例を示している。ラフネス(凹凸手段)7とは、物体表面の境界層を乱流境界層(物体の表面に沿って流れる性質を有する)に遷移させる働きをする部材の総称であり、例えば棒状、線状、帯状又はメッシュ状の部材を利用することができる。一例として、トリッピングワイヤと呼ばれる細いワイヤや、長尺帯状のテープなどであってもよい。
なお、ラフネス7は、流れが剥離する位置(剥離点5a)よりも上流に設けられている。
【0018】
ラフネス7によって揚力が変化する原理は次の通りである。
図1(B)に示す例では、舟体5の下面にはラフネス7が配置されていないので、下面側の流れは、図1(A)の場合と同様、前縁部付近の剥離点5aで剥離する。剥離点5aよりも下流では、流れが剥離した領域Bが広がる。
【0019】
一方、舟体5の上面にはラフネス7が配置されているので、上面側の流れはラフネス7により乱流化され、境界層は乱流境界層へと遷移する。これにより、流れは、物体表面から剥離することなく舟体表面に沿って流れる。流れが物体に沿った場合、剥離した場合と比較して、一般に圧力低下量が大きくなる。したがってこの例では、ラフネス7の配置により舟体5の上面側が相対的に低圧となり、その結果、舟体5に作用する揚力が増加している。
なお、図1では示していないが、ラフネス7を舟体5の下面に配置すれば、上記とは逆に揚力を減少させることができる。ラフネス7の位置を舟体の形状等に応じて適宜変更し、舟体の上下の圧力バランスを調整することで、舟体に作用する揚力を適正な範囲内に収めることが可能となる。
【0020】
図2は、本発明の一例に係るパンタグラフの舟体を模式的に示す縦断面図である。
図2に示すように、この舟体5は全体として鈍頭型であり、上部にはトロリ線(不図示)と接触する摺り板6が取り付けられている。摺り板6は、車体の幅方向に長く延びる(長さ例500〜600mm)鉄製の焼結合金などであり、トロリ線と接触して電気供給を受ける。
【0021】
図示は省略するが、舟体5は、バネシリンダやリンク等を有し、舟体5を押し上げることができる支持機構によって支えられている。
【0022】
舟体5の前縁部の上下には可動式(舟体に対して出入り可能)のラフネス7A、7B(上側が7A、下側が7B)が設けられている。ラフネス7A、7Bとしては、上記の通り、棒状、線状、帯状又はメッシュ状の部材を利用できる。ラフネス7A、7Bは、舟体5の表面から突出した位置と、舟体5の表面とほぼ同一面となる位置との間で移動する。
なお、前縁部とは、図2に示すように、摺り板6の前端部6aの上流であり、かつ、流れが物体から剥離する剥離点5a(図1も参照)よりも上流の領域をいう。
【0023】
ラフネス7A、7Bは、舟体5に内蔵された駆動源12によって動かされる。駆動源12としては、圧電アクチュエータ、電磁式アクチュエータ、空圧式又は油圧式アクチュエータ等を利用することができる。又は、ボールねじなどを利用してもよい。
【0024】
駆動源12は接触力センサ11に接続されている。接触力センサ11は、一例として歪みゲージやロードセルであり、摺り板6に加わる力、すなわち摺り板6とトロリ線との間の接触力を検出する。
【0025】
駆動源12は、接触力センサ11によって検出された接触力が所定の上限値を超えた場合に下側のラフネス7Bのみを突出させる。また、接触力が所定の下限値を下回った場合には、上側のラフネス7Aのみを突出させる。
【0026】
次に、以上のように構成された本実施形態のパンタグラフにおける舟体5の動作について図3を参照して説明する。
図3(A)は、トロリ線との接触力が所定の上限値を上回ったときの舟体の動作を示す模式図である。
【0027】
接触力センサ11(図2参照)によって検出された接触力の値が所定の上限値を超えた場合、駆動源12が作動して下側のラフネス7Bを突出させる。このように下側のラフネス7Bが突出した場合、舟体5の下面側の流れがラフネスにより乱流化され、境界層は乱流境界層へと遷移し、舟体表面に沿って流れることとなる。一方、舟体5の上面ではラフネス7Aは突出していないため、流れは舟体5の前縁部付近の剥離点5aで剥離する。
【0028】
このように、舟体5の上面側で流れが剥離する一方、下面側ではラフネス7Bの作用により流れが舟体5に沿うことにより、舟体5の下面側の圧力低下量が大きくなり、下面側の圧力が相対的に低下し、舟体5に作用する揚力が減少する。その結果、トロリ線と舟体5との間の接触力を小さくすることができる。
【0029】
図3(B)は、トロリ線との接触力が所定の下限値を下回ったときの舟体の動作を示す模式図である。
接触力センサ11(図2参照)によって検出された接触力の値が所定の下限値を下回った場合、駆動源12が作動して上側のラフネス7Aを突出させる。このように上側のラフネス7Aが突出した場合、図1を参照して説明したように、舟体5の上面側ではラフネス7Aの作用により流れが舟体5に沿う一方、下面側では流れが剥離するため、上面側の圧力低下量が大きくなり、上面側の圧力が相対的に低下し、舟体5に作用する揚力が増す。その結果、トロリ線と舟体5との間の接触力を大きくすることができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態のパンタグラフによれば、舟体5(鈍頭型)の前縁部上下に可動式のラフネス7A、7Bが設けられており、トロリ線との接触力が大きくなった場合には下面のラフネス7Bを突出させることで、揚力を減少させることができ、逆に、接触力が小さくなった場合には上面のラフネス7Aを突出させることで、揚力を増加させることができる。そのため、トロリ線と舟体5との間の接触力を適正な範囲内に収めることができる。
【0031】
(第2の実施形態)
本発明は、パンタグラフの舟体が流線型である場合にも適用することができる。図4は、パンタグラフの舟体(流線型)を模式的に示す図である。なお、図4の舟体は上下対称のものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
図4の舟体15は、流線型の断面形状を有している。この舟体15を流れの中に置いた場合、図4(A)に示すように、流れは剥離することなく舟体15の表面に沿って流れる。流れが物体に沿う場合、流速が大きいほど圧力低量が大きく、流速が小さいほど圧力低下は小さい(ベルヌーイの定理)。
【0033】
図4(A)の場合、舟体15の上面側の流れと下面側の流れが同じであるので、舟体の上下に圧力差が生じることはない(図4(A)は上下対称の舟体を一例として示したものにすぎず、本発明がこうした舟体を有するパンタグラフに限定されるものでないことは言うまでもない)。
一方、図4(B)のように、舟体15の上面前縁部(一例)にラフネス7を配置すると、このラフネス7が、流速を減速させる障害物として働き、舟体15の上面側の流速が小さくなる。その結果、上面側の圧力低下量が小さくなり、下面側が相対的に低圧となって、舟体15に作用する揚力が減少する。
なお、図4では図示していないが、ラフネス7を下面前縁部に配置すれば、上記とは逆に、舟体15に作用する揚力を増加させることができる。
【0034】
次に、上記の原理に基づいた、本実施形態における流線型の舟体15の動作について図5を参照して説明する。
図5(A)は、トロリ線との接触力が所定の上限値を上回ったときの舟体の動作を示す模式図である。なお、図5の舟体15は、断面形状が流線型である点を除き、第1の実施形態と同様に構成されている。つまり、舟体15は、第1の実施形態同様、上部には摺り板16が取り付けられ、前縁部の上下には可動式のラフネス7A、7Bが設けられている。舟体15の内部には、摺り板16とトロリ線との間の接触力を検出する接触力センサと、該センサの検出結果に基づいてラフネス7A、7Bを動かす駆動源が収容されている。
【0035】
図5(A)に示すように、接触力センサによって検出された摺り板16とトロリ線との間の接触力が所定の上限値を超えた場合、内蔵された駆動源が作動し、上側のラフネス7Aを突出させる。下側のラフネス7Bは舟体15の表面とほぼ同一面となる位置のままである。
この場合、舟体の下面側の流れはラフネスBの影響を受けることなく比較的高速で流れる一方、上面側の流れはラフネス7Aの影響を受けて低速となる。これにより、舟体15の下面が相対的に低圧となり、舟体に作用する揚力が減少する。
【0036】
一方、図5(B)に示すように、接触力が所定の下限値を下回った場合には、内蔵された駆動源が作動し、下側のラフネス7Bを突出させる。上側のラフネス7Aは舟体15の表面とほぼ同一面となる位置のままである。
この場合、上面側の流れはラフネスAの影響を受けることなく比較的高速で流れる一方、下面側の流れはラフネス7Bの影響を受けて低速となる。これにより、舟体15の上面側が相対的に低圧となり、舟体に作用する揚力が増加する。
【0037】
以上説明したように、流線型の舟体15の場合であっても、センサの検出結果に基づいて舟体前縁部のラフネス7A、7Bのいずれかを突出させることにより、舟体に作用する揚力を調整することができ、トロリ線と舟体との間の接触力を適正な範囲内に収めることができる。但し、舟体が鈍頭型の場合と流線型の場合とでは、舟体の周りの流れ場の性質が異なっているため、ラフネス7A、7Bを突出させたときの作用が逆となる。
【0038】
(第3の実施形態)
本発明は、舟体上部の摺り板が可動式であるパンタグラフにも適用することができる。図6は、その一例を示す縦断面図である。
図6に示す舟体25は、一例として鈍頭型である。舟体25の上部には、摺り板26がコイルバネ27を介して弾性的に保持されており、摺り板26はトロリ線との接触力に応じて上下移動する。つまり、トロリ線との接触力が大きい場合には、トロリ線によって下向きに押されてバネ27を押し縮めながら下方に移動し、接触力が小さい場合には、バネ27により上向きに押されて上方に移動する。
【0039】
摺り板26の下面には、リンク機構22が機械的に連結されている。このリンク機構22は、舟体25の前縁部の上下に設けられた可動式のラフネス7A、7Bに連結されている。リンク機構22は、摺り板26が下方に移動した際には下側のラフネス7Bを突出させ、摺り板26が上方に移動した際には上側のラフネス7Aを突出させる。
【0040】
このように構成された本実施形態のパンタグラフによれば、摺り板26とトロリ線との間の接触力が大きくなったとき、摺り板26がトロリ線によって下向きに押されて下方に移動し、それに応じて、リンク機構22によって下側のラフネス7Bが突出させられる。したがって、第1の実施形態同様、下側のラフネス7Bの突出により、舟体25の下面側の流れはラフネスにより乱流化され、境界層は乱流境界層へと遷移して舟体表面に沿って流れ、一方、舟体25の上面側の流れは舟体前縁部で剥離する。その結果、舟体25の下面側の圧力が相対的に低下し、舟体25に作用する揚力が減少するので、トロリ線との接触力を小さくすることができる。
【0041】
一方、摺り板26とトロリ線との接触力が小さくなったときには、摺り板26がバネ27の作用により上方に移動し、それに応じて、リンク機構22によって上側のラフネス7Aが突出させられる。これにより、上記とは逆に、舟体25の上面側の流れはラフネスによって乱流化され、境界層は乱流境界層へと遷移して舟体表面に沿って流れ、一方、舟体25の下面側の流れは舟体前縁部で剥離する。その結果、舟体25の上面側の圧力が相対的に低下し、舟体25に作用する揚力が増加するので、トロリ線との接触力を大きくすることができる。
【0042】
以上、本発明の例を幾つか説明したが、ラフネス及びその駆動源は図7に示すようなものとすることもできる。
図7(A)は舟体5の上面の一部を拡大して示す断面図であり、舟体の表面に、厚み方向に屈曲可能な薄板からなるラフネス8を設けた例を示している。
ラフネス8は、舟体5内に設けられた、一端が舟体表面に開口する空気流路9の開口部を覆っている。空気流路9の基端側は図示しない空気溜に接続されている。空気流路9の途中には同流路を開閉するバルブBが設けられている。
【0043】
この構成においては、例えば、第1の実施形態(図2参照)で述べたようなセンサ11を利用し、そのセンサ11の検出結果に基づいてバルブBが開閉される。バルブBの開時には、空気流路9のバルブBよりも下流側に空気が供給され、流路内が加圧され、この圧力がラフネス8に作用し、ラフネス8が舟体表面から突出する(破線で示す)。一方、閉時には加圧が解除され、ラフネス8はフラットな状態(実線で示す)に戻る。
【0044】
図7(B)は、空気流路9等を利用するのではなく、ラフネス8′自体を圧電アクチュエータで構成した例を示す。この圧電アクチュエータは、一例として、舟体の表面に取り付けられた、厚み方向に屈曲可能な薄板8a′と、その両面又は片面に貼り付けられた圧電素子8b′とで構成されている。図7(A)の場合と同様、例えば、第1の実施形態(図2参照)で述べたようなセンサ11を利用し、そのセンサ11の検出結果に基づいて圧電素子が駆動される。圧電素子が駆動されるとラフネス8′が舟体表面から突出した状態(破線で示す)となる。一方、駆動されない状態ではラフネス8′はフラットな状態(実線で示す)に戻る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】パンタグラフの舟体を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の一例に係るパンタグラフ(鈍頭型)の舟体を模式的に示す縦断面図である。
【図3】図2の舟体の動作を示す模式図である。
【図4】本発明の一例に係るパンタグラフ(流線型)の舟体を模式的に示す縦断面図である。
【図5】図4のタイプの舟体の動作を示す模式図である。
【図6】可動式の摺り板を有する舟体に本発明を適用した例を示す縦断面図である。
【図7】ラフネスの他の構成例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
5、15、25・・・舟体、5a・・・剥離点、6、16、26・・・摺り板、6a・・・前縁部
7、8、8′・・・ラフネス
9・・・空気流路、11・・・接触力センサ、12・・・駆動原、22・・・リンク機構、27・・・コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる鈍頭型の舟体を備えたパンタグラフの接触力調整方法であって、
前記舟体の前縁部の上下に、可動式の凹凸手段を設け、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の下面側の気圧を低下させ、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の気圧を低下させることを特徴とするパンタグラフの接触力調整方法。
【請求項2】
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる流線型の舟体を備えたパンタグラフの接触力調整方法であって、
前記舟体の前縁部の上下に、可動式の凹凸手段を設け、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の流速を低下させ、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の下面側の流速を低下させることを特徴とするパンタグラフの接触力調整方法。
【請求項3】
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる鈍頭型の舟体と、
前記舟体の前縁部の上下にそれぞれ設けられた可動式の凹凸手段と、を備え、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の下面側の気圧を低下させ、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の気圧を低下させることを特徴とするパンタグラフ。
【請求項4】
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる流線型の舟体と、
前記舟体の前縁部の上下にそれぞれ設けられた可動式の凹凸手段と、を備え、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の上限値を超えた場合には、上側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の上面側の流速を低下させ、
前記トロリ線と前記摺り板との間の接触力が所定の下限値を下回った場合には、下側の前記凹凸手段を動作させて前記舟体の下面側の流速を低下させることを特徴とするパンタグラフ。
【請求項5】
前記接触力を検出する検出手段をさらに備え、該検出手段の検出結果に応じて前記凹凸手段が動作されることを特徴とする、請求項3又は4に記載のパンタグラフ。
【請求項6】
前記凹凸手段が、
前記舟体表面に取り付けられた、棒状、線状、帯状又はメッシュ状のラフネスであることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載のパンタグラフ。
【請求項7】
前記凹凸手段が、
前記舟体の表面に取り付けられた、厚み方向に屈曲可能な薄板と、
該薄板を屈曲させる駆動源と、を有することを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載のパンタグラフ。
【請求項8】
前記駆動源が、空圧式もしくは油圧式のアクチュエータ、又は、圧電素子であることを特徴とする請求項7に記載のパンタグラフ。
【請求項9】
摺り板を介してトロリ線に押し付けられる舟体と、
前記舟体の前縁部の上下にそれぞれ設けられた可動式の凹凸手段と、
該凹凸手段を動作させる駆動機構と、
を備えるパンタグラフであって、
前記摺り板が、
前記舟体に弾性的に保持された、前記トロリ線との間の接触力に応じて前記舟体に対して上下移動するものであり、
前記駆動機構が、
前記摺り板と前記凹凸手段とを機械的に連結し、前記舟体に対する前記摺り板の上下移動に応じて前記凹凸手段を動作させるものであることを特徴とするパンタグラフ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−245490(P2008−245490A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86526(P2007−86526)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】